【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 研究集会名:国立大学法人東京工業大学 大学院総合理工学研究科 物質電子化学専攻 平成23年度博士論文発表会、主催者名:国立大学法人東京工業大学、開催日(発明を発表した日):平成24年1月6日
【文献】
Hiroki Saito, Shigeyuki Ukai, Shouji Iwatsuki, Takahito Itoh, Masataka Kubo,Synthesis of Soluble Poly(arylenevinylene)s Carrying Various Heterocycles as Arylene Units,Macromolecules,1995年,28 (24),pp 8363−8367
【文献】
Mieczyslaw Lapkowski et.al.,Photoluminescent Polytellurophene Derivatives of Conjugated Polymers as a New Perspective for Molecular Electronics,Macromolecular Chemistry and Physics,2012年 1月16日,Volume 213, Issue 1,pages 29-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属フタロシアニンに代表される有機金属化合物は、その有機分子−金属間の結合により、特異な電子状態や非常に安定な分子構造を形成するものが多い。これらの特徴により、古くから有機顔料などとして用いられてきた。
【0003】
近年では、熱・光や電場など外部エネルギーに対する応答性から、電子写真方式のプリンターの感光材、CD−Rなどの記録媒体などのエレクトロニクス分野への利用が広まっている。特に、最近では、有機半導体としての機能が注目され、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池への利用が検討されている。有機半導体を用いた電子デバイスは、印刷により作製できるため、無機系デバイスに比べて、より安価に大量生産できると期待されている。
【0004】
しかし、従来の有機金属化合物は溶剤に不溶又は難溶であるものが多く、その成膜は主に真空蒸着法で行っているため、作製した電子デバイスは高価である。
【0005】
このような課題を改善するため、特開2011−162575号公報(特許文献1)には、例えば、4−置換アミドフタロニトリル(4−アセトアミドフタロニトリル、4−ピリジルアミドフタロニトリルなど)と4−アルキルフタロニトリル(4−t−ブチルフタロニトリルなど)とを金属塩(Ni、Zn、Cuなどの金属塩)の存在下で反応させ、金属トリスアルキル−4−置換アミド−フタロシアニンを製造することが記載され、このフタロシアニン化合物を加水分解してアミノ基を有する可溶性の置換フタロシアニンを製造することも記載されている。このようなフタロシアニン誘導体は、フタロシアニンにt−ブチル基などの立体障害の大きな官能基が導入され、フタロシアニン間のスタッキングを防止でき、溶媒に可溶である。
【0006】
しかし、スタッキングを阻害する官能基を導入すると、分子間の電子移動が困難となるため、有機半導体としての機能は低下する。
【0007】
また、ポルフィリン構造を導入した高分子も知られている。J. Polym. Sci. Part A, 43 (2005) 2997(非特許文献1)には、5−[4−(2−メタクリロイルオキシエトキシカルボニル)フェニル]−10,15,20−トリフェニルポルフィナト 白金(II)をイソブチルメタクリレート及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートと共重合し、側鎖にポルフィリン構造を導入した高分子を調製し、この高分子を、酸素透過性高分子中に埋設した発光分子からなる感圧素子用に用いることが記載されている。
【0008】
しかし、このような高分子は、側鎖間距離を十分に離した構造により側鎖の錯体同士のスタッキング形成を防ぐため、やはり有機半導体としての機能は十分でなく、より高い電子移動度を必要とする。そのため、有機トランジスタや有機太陽電池用途には適していない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[有機ヘテロ高分子]
前記式(1)で表される繰り返し単位において、Mは、周期表16族(又は6B族)元素から選択された元素(ヘテロ原子)を示す。これらの元素Mのうち、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)など、特にS、Teが好ましい。これらの元素(ヘテロ原子)の原子価は、通常、元素(ヘテロ原子)の種類に応じて、2〜4価、好ましくは2価又は4価である。
【0032】
R
1及びR
2で表されるハロゲン原子としては、それぞれ独立してF(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、I(ヨウ素)であってもよい。R
1及びR
2としては、O(酸素)、Brが好ましい。
【0033】
m及びnはそれぞれ0又は1を示す。すなわち、元素(ヘテロ原子)Mの価数に応じて、m=0及びn=0、m=1及びn=1、m=0及びn=2であってもよい。なお、m=0及びn=0の場合、Mは、Sではなく、Se又はTeであってもよい。また、m=1及びn=1の場合、MがTeであり、かつR
1及びR
2がBrであってもよい。さらに、m=0及びn=2の場合、MがS、Se、Teであり、かつR
2がOであってもよい。
【0034】
環Arで表される芳香族性環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などのアレーン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環などのヘテロアレーン環、フルオレン環、ビフェニル環、ビナフチル環などのビスアレーン環、ビピリジン環などのビスヘテロアレーン環などが例示できる。代表的な芳香族性環Arは、ベンゼン環、ナフタレン環などのC
6−12アレーン環(特に、C
6−10アレーン環)、チオフェン環、ピリジン環などの5員又は6員ヘテロアレーン環、フルオレン環、ビフェニル環、ビナフチル環などのビスアレーン環である。芳香族性環Arは、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環(特に、ベンゼン環)などである場合が多い。
【0035】
R
3は溶媒可溶性を付与するのに有用である。R
3で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、ドデカニル基などの直鎖状又は分岐鎖状アルキル基などが例示できる。アルキル基は、通常、直鎖状又は分岐鎖状C
4−16アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−12アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−10アルキル基である。
【0036】
R
3で表されるアルコキシ基は、前記アルキル基に対応する直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基、例えば、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C
4−16アルコキシ基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−12アルコキシ基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−10アルコキシ基である。
【0037】
R
3で表されるアルキルチオ基は、前記アルキル基に対応する直鎖状又は分岐鎖状アルキルチオ基、例えば、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基などの直鎖状又は分岐鎖状C
4−16アルキルチオ基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−12アルキルチオ基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
6−10アルキルチオ基である。
【0038】
R
3はアルコキシ基である場合が多い。なお、pは0又は1〜3の整数を示し、通常、1〜3の整数(例えば、2)である。
【0039】
環Arに対するR
3の置換位置は、特に制限されず、環Arの種類及び結合手の位置、R
3の置換数pに応じて選択でき、例えば、環Arがベンゼン環であるとき、R
3の置換位置は、2−,3−,4−,5−位のいずれであってもよく、2,3−、2,5−、2,6−位などの複数位置にR
3が置換していてもよい。チオフェン環では、3−位、3,4−位であってもよい。また、フルオレン環では9,9−位、1,1’−ビナフチル環では、2,2’−位などであってもよく、1,2’−ビナフチル環では、2,1’−位などであってもよい。
【0040】
好ましい環Arは置換ベンゼン環、置換フルオレン環、特に下記式で表される二置換ベンゼン環(1,4−フェニレン基)である。
【0042】
(式中、R
3a及びR
3bは、同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状C
4−12アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C
4−12アルコキシ基、直鎖状又は分岐鎖状C
4−12アルキルチオ基を示す)。
【0043】
好ましいR
3a及びR
3bは、前記置換基R
3のうち好ましいアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基である。R
3a及びR
3bは、通常、炭素数6〜12(例えば、6〜10)程度のアルキル鎖を有している。R
3a及びR
3bの置換位置は、2,3−位、2,5−位、2,6−位のいずれであってもよく、通常、2,5−位である場合が多い。
【0044】
このような繰り返し単位を有する有機ヘテロ高分子の代表的な例は、例えば、下記式(1a)〜(1c)で表すことができる。
【0046】
(式中、M
1はSe又はTeであり、M
2はS、Se又はTeであり、R
1a及びR
2aはハロゲン原子を示し、環Ar、R
3、pは前記に同じ)。
【0047】
式(1a)で表される繰り返し単位において、M
1としてはSe、Teなどが例示できる。好ましい元素M
1は、Se又はTe(例えば、Te)である。
【0048】
式(1b)で表される繰り返し単位において、M
1としてはSe、Teなどが例示できる。好ましい元素M
1はTeである。さらに、R
1a及びR
2aとしてはそれぞれ独立してCl、Br、Iなどが例示できる。好ましいR
1a及びR
2aは、同一のCl、Br(例えば、Br)である。
【0049】
式(1c)でされる繰り返し単位において、M
2としてはS、Se、Teなどが例示できる。好ましい元素M
2はSである。
【0050】
式(1a)〜式(1c)において、環Ar、R
3、pは前記と同様である。
【0051】
本発明の有機ヘテロ高分子は比較的分子量が大きいという特色がある。有機ヘテロ高分子の分子量は特に制限されないが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したとき、ポリスチレン換算で、数平均分子量が1×10
3〜1×10
5、好ましくは1.5×10
3〜5×10
4、さらに好ましくは2×10
3〜1×10
4(例えば、2.2×10
3〜7×10
3)程度であってもよい。分子量分布も小さく、例えば、Mw/Mnが5以下であってもよく、例えば、1.1〜4、好ましくは1.5〜3、さらに好ましくは2〜2.5程度であってもよい。
【0052】
なお、有機ヘテロ高分子は直鎖状である場合が多いものの、必要であれば分岐構造を有していてもよい。
【0053】
本発明の有機へテロ高分子は、ヘテロ元素核を含む5員環構造と芳香族性環(アレーン環)とを主鎖に含み、共役系(π−共役系高分子)を形成している。また、主鎖骨格にヘテロ原子を含む5員環構造を形成しているため、自己凝集性を弱めると共に、芳香族性環を介して5員環構造を形成しているため、主鎖全体に有機−ヘテロ原子結合による特異な電子状態が維持されるためか、優れた半導体特性を有している。また、アルキル基などの側鎖を有する芳香族性環(アレーン環)を導入できるため、溶解性を高めることもでき、溶媒可溶性を併せ持っている。そのため、塗布(コーティング)により容易に成膜できる。
【0054】
なお、成膜後、主鎖間でスタッキングするためか、分子間の電子移動も容易な構造膜が得られる。また、高分子中にアルキル鎖があったとしても、スタッキング方向(縦方向)に対してアルキル鎖が並行に並ぶためか、スタッキングを阻害することがない。そのためか、得られた膜は有機半導体として有効に機能する。
【0055】
[有機ヘテロ高分子の製造方法]
このような有機ヘテロ高分子は、Synthetic Metals, 159 (2009), 949-951又は有機合成化学協会誌Vol66 No5 2008に記載の方法に準じて合成できる。すなわち、有機ヘテロ高分子は、以下の反応工程式により調製できる。
【0057】
(式中、R
4はアルキル基、Xはハロゲン原子、rは1又は2、sは2〜4の整数、qは1以上の整数を示し、M
1、M
2、R
1a、R
1b、環Ar、R
3、pは前記に同じ)。
【0058】
R
4で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルキル基が例示できる。アルキル基R
4としては、分岐アルキル基、例えば、イソプロピル基などである場合が多い。Xで表されるハロゲン原子としては、Cl、Brなどが例示できる。
【0059】
例えば、前記式(3)で表されるジエチニルアレーン化合物と、低原子価チタン錯体(4)とを反応させ、式(5)で表されるチタナシクロペンタジエン骨格を有する高分子を生成できる。なお、低原子価チタン錯体(4)は、テトラアルコキシチタン(テトライソプロポキシチタン(Ti(OPr
i)
4)など)とアルキルマグネシウムハライド(イソプロピルマグネシウムクロリド(
iPrMgCl)など)とを反応させることにより生成できる。そのため、高分子(5)は式(3)で表されるジエチニルアレーン化合物とテトラアルコキシチタンとアルキルマグネシウムハライドとを反応させることにより生成させてもよい。なお、アルキルマグネシウムハライドの使用量は、テトラアルコキシチタンに対して、1.5〜2.5当量程度である。反応は、通常、不活性溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなど)中、不活性雰囲気(アルゴン気流など)下、−100℃〜−20℃(例えば、−80℃〜−40℃)程度の温度で行うことができる。
【0060】
なお、ジエチニルアレーン化合物(3)としては、例えば、1,4−ジエチニル−2,5−ジオクチルオキシベンゼン、1,4−ジエチニル−2,5−ジ(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼンなどのジエチニルジアルコキシベンゼン;2,5−ジエチニル−3−ドデカニルチオフェンなどのジエチニルアルキルチオフェン;2,7−ジエチニル−9,9−ジオクチルフルオレンなどのジエチニルジアルキルフルオレン;6,6’−ジエチニル−2,2’−ジオクチルオキシ−1,1’−ビナフチルなどのジエチニルジオクチルオキシビナフチル、6,6’−ジエチニル−2,2’−ジオクチル−1,1’−ビナフチルなどのジエチニルジアルキルビナフチルなどが例示できる。
【0061】
高分子(5)と式(6)又は(8)で表されるハロゲン化物との反応により、式(1a)又は(1c)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができる。
【0062】
式(6)で表されるハロゲン化物としては、例えば、二塩化セレン(Se
2Cl
2)、四塩化セレン(SeCl
4)、二塩化テルル(TeCl
2)、四塩化テルル(TeCl
4)などが例示できる。これらのうち、二塩化セレン、四塩化テルルが好ましい。式(8)で表されるハロゲン化物としては、例えば、塩化チオニル(塩化スルフィニル)などが例示できる。
【0063】
これらの反応において、式(6)又は(8)で表されるハロゲン化物の使用量は、高分子(5)のチタン原子Tiに対して1〜2当量(例えば、1.1〜1.5当量)程度であってもよい。反応は、通常、不活性溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなど)中、不活性雰囲気(アルゴン気流など)下、−80℃〜30℃(例えば、−60℃〜室温)程度の温度で行うことができる。
【0064】
式(1a)で表される繰り返し単位を有する高分子は、さらにハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)を用いて、式(1b)で表される繰り返し単位を有する高分子を得ることができる。ハロゲンとしては臭素が好ましい。ハロゲンを導入することにより、高分子の導電性を向上できる。
【0065】
反応終了後、慣用の分離精製方法、例えば、濃縮、デカント、再沈殿、クロマトグラフィなどにより所定の有機ヘテロ高分子を得ることができる。
【0066】
[有機ヘテロ高分子の用途]
有機ヘテロ高分子は、芳香族性環と、ヘテロ原子を含む5員環とで共役系(π−共役系)を形成しており、極めて電子移動度が高く、半導体特性を有している。しかも、アルキル鎖を導入した有機へテロ高分子は、有機溶媒に対して可溶であり、かつ高い半導体特性を示すという特色がある。そのため、本発明は有機へテロ高分子と有機溶媒とを含む組成物も包含し、この組成物は、有機半導体、特にコーティング(塗布)などにより有機半導体の薄膜を形成するのに有用である。
【0067】
有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、ピロリドン類(例えば、2−ピロリドン、3−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなど)などが例示できる。これらの有機溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0068】
溶媒の使用量は、塗布性及び成膜性を損なわない範囲から選択でき、例えば、有機へテロ高分子の濃度は、0.01〜30重量%、好ましくは0.05〜20重量%(例えば、0.1〜10重量%)程度であってもよい。
【0069】
本発明の組成物は、慣用の方法、例えば、有機へテロ高分子と有機溶媒とを混合して有機へテロ高分子を溶解し、必要によりろ過して調製してもよい。
【0070】
有機半導体は、基材又は基板(ガラス板、シリコンウエハー、耐熱プラスチックフィルムなど)に前記組成物を塗布する工程と、塗膜を乾燥して溶媒を除去する工程とを経て製造してもよい。なお、塗布方法としては、慣用の塗布方法、例えば、エアーナイフコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ブレードコート法、ディップコート法、スプレー法、スピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが例示できる。
【0071】
有機半導体の厚みは、用途に応じて適宜選択され、例えば、1〜5000nm、好ましくは30〜1000nm、さらに好ましくは50〜500nm程度であってもよい。
【0072】
本発明の有機半導体はn型半導体、p型半導体であってもよく、真性半導体であってもよい。本発明の有機半導体は、光電変換能を有し、例えば、光吸収により発生した電子及びホールの移動度を高め、光電変換率を向上できる。そのため、本発明の有機半導体は、光電変換デバイス又は光電変換素子(太陽電池素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子など)、整流素子(ダイオード)、スイッチング素子又はトランジスタ[トップゲート型、ボトムゲート型(トップコンタクト型、ボトムコンタクト型)など]などの用途に適する。
【0073】
代表的なデバイスとして、太陽電池は、pn接合型半導体に表面電極が積層された構造を有している。例えば、p型シリコン半導体に有機半導体膜を積層して、この有機半導体膜に透明電極(ITO電極など)を積層することにより、太陽電池を形成できる。このような太陽電池では、高い開放電圧及び短絡電流を得ることができる。
【0074】
また、有機ELは、透明電極(ITO電極など)に、有機ヘテロ高分子(発光性高分子)に必要に応じて電子輸送性材料、ホール輸送性材料を分散させた発光層を形成し、この発光層に電極(金属電極など)を積層した構造が例示できる。
【0075】
さらに、有機薄膜トランジスタは、ゲート電極層と、ゲート絶縁層と、ソース/ドレイン電極層と、有機半導体層とで構成されている。これらの層の積層構造によって、有機薄膜トランジスタは、トップゲート型、ボトムゲート型(トップコンタクト型、ボトムコンタクト型)に分類できる。例えば、ゲート電極(酸化膜が形成されたp型シリコンウエハーなど)に有機半導体膜を形成して、この有機半導体膜上にソース・ドレイン電極(金電極)を形成することにより、トップコンタクト型電界効果トランジスタを製造できる。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
なお、実施例において、シクロペンチルメチルエーテル及びテトラヒドロフラン(THF)はナトリウムで乾燥後、窒素雰囲気又は気流下で蒸留して用いた。塩化メチレン、クロロホルムは五酸化ニリンで乾燥後、窒素雰囲気又は気流下で蒸留して用いた。テトライソプロポキシチタン(Ti(OPr
i)
4)は減圧蒸留により精製した。
【0078】
実施例1
【0079】
【化8】
【0080】
(式中、R
5は2−エチルヘキシル基を示す)。
【0081】
上記式(1a-1)で表される繰り返し単位を有する高分子は、前駆体である有機チタン高分子を有機合成化学協会誌Vol66 No5 2008に記載の方法に準じて合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、1,4−ジエチニル−2,5−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼン(0.191g,0.5mmol)及びテトライソプロポキシチタン(Ti(OPr
i)
4)(0.198g,0.7mmol)をシクロペンチルメチルエーテル(20ml)に溶解し、この溶液を−78℃で攪拌しつつ、イソプロピルマグネシウムクロリド(
iPrMgCl)のジエチルエーテル溶液(1.0N,1.40ml,1.40mmol)を添加し、−50℃まで昇温し12時間攪拌した。アルゴン雰囲気下、−50℃で、得られた反応溶液に四塩化テルル(TeCl
4)(0.203g,0.75mmol)を加え、室温までゆっくりと昇温し3時間攪拌した。溶媒を留去後、塩化メチレンに溶解しEDTA水溶液を加え2時間攪拌し、未反応チタンを取り除いた。その後、有機層を回収し硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒留去後、少量の塩化メチレンに溶解し、メタノールへ再沈殿を行い目的の赤色の高分子(1a-1)を収率49%で得た。
【0082】
高分子(1a-1)の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)(溶媒:THF)により測定したところ、数平均分子量及び分子量分布は、ポリスチレン換算で、Mn=2400、Mw/Mn=であった。
【0083】
また、所定濃度(20mg/5ml)のクロロホルム溶液における高分子(1a-1)の紫外−可視吸収スペクトルを測定した結果を
図1に示す。
図1から明らかなように、高分子(1a-1)の最大吸光波長λmaxは463nmであり、下記式で表されるモデル化合物(λmax=373nm)に対して90nmの長波長シフトが確認された。
【0084】
【化9】
【0085】
さらに、高分子(1a-1)の電気化学特性に関して、サイクリックボルタンメトリー法(ビー・エー・エス社製「AL600A」)により酸化還元電位測定を行った結果、HOMOエネルギー準位が−5.2eVと比較的高く、LUMOエネルギー準位が−3.3eVと比較的低かった。
【0086】
(ダイオード素子の作製)
得られた高分子をTHFに溶解させた後、孔径0.2μmのフィルターでろ過し、0.1重量%の塗布液を調製した。この塗布液をp型シリコンウェハにスピンコートし、薄膜を形成した。薄膜上に真空蒸着法により1mmφのアルミニウム電極を形成し、ダイオード素子を調製した。
【0087】
(整流特性及び光電流測定)
作製した素子の整流特性及び光電変換特性を、ソーラーシミュレーター(三永電機製作所(株)製「XES−301S+EL−100」)を用いて評価した。得られた電流−電圧特性を
図2に示す。
【0088】
実施例2
【0089】
【化10】
【0090】
(式中、R
5は2−エチルヘキシル基を示す)。
【0091】
実施例1で得られた高分子(1a-1)を、クロロホルムに溶解し、この溶液に臭素ガスを約5分間通気させて臭素化し、上記式(1b-1)の高分子を収率88%で得た。
【0092】
また、所定濃度(20mg/5ml)のクロロホルム溶液における高分子(1b-1)の紫外−可視吸収スペクトルを測定した結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、高分子(1b-1)の最大吸光波長λmaxは541nmであり、下記式で表されるモデル化合物(λmax=468nm)に対して73nmの長波長シフトが確認された。
【0093】
【化11】
【0094】
さらに、高分子(1b-1)の電気化学特性に関して、サイクリックボルタンメトリー法により酸化還元電位測定を行った結果、HOMOエネルギー準位が−5.6eVと高く、LUMOエネルギー準位が−3.7eVと低く、高分子(1a-1)よりもさらに低いHOMO及びLUMOエネルギー準位を有していた。
【0095】
実施例3
【0096】
【化12】
【0097】
(式中、R
6はオクチル基を示す)。
【0098】
実施例1の1,4−ジエチニル−2,5−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)ベンゼン(0.191g,0.5mmol)に代えて、2,7−ジエチニル−9,9−ジオクチルフルオレン(0.195g,0.5mmol)を用いる以外は実施例1と同様の方法で上記式(1a-2)の高分子を収率63%で得た。
【0099】
高分子(1a-2)の数平均分子量及び分子量分布を実施例1と同様にして測定したところ、Mn=2800、Mw/Mn=2.5あった。また、所定濃度(20mg/5ml)のクロロホルム溶液における高分子(1a-2)の紫外−可視吸収スペクトルにおける最大吸光波長λmaxは447nmであった。
【0100】
実施例4
【0101】
【化13】
【0102】
(式中、R
5は2−エチルヘキシル基を示す)。
【0103】
実施例1の四塩化テルルに代えて、二塩化セレン(Se
2Cl
2)を用いる以外は実施例1と同様の方法で上記式(1a-3)の高分子を収率88%で得た。
【0104】
高分子(1a-3)の数平均分子量及び分子量分布を実施例1と同様にして測定したところ、Mn=5400、Mw/Mn=2.0あった。また、所定濃度(20mg/5ml)のクロロホルム溶液における高分子(1a-3)の紫外−可視吸収スペクトルにおける最大吸光波長λmaxは447nmであった。さらに、HOMOエネルギー準位は−5.0eVであり、LUMOエネルギー準位は−2.7eVであった。
【0105】
実施例5
【0106】
【化14】
【0107】
(式中、R
5は2−エチルヘキシル基を示す)。
【0108】
実施例1の四塩化テルルに代えて、塩化チオニル(SOCl
2)を用いる以外は実施例1と同様の方法で上記式(1c-1)の高分子を収率69%で得た。
【0109】
高分子(1c-1)の数平均分子量及び分子量分布を実施例1と同様にして測定したところ、Mn=5400、Mw/Mn=2.4であった。
【0110】
また、所定濃度(20mg/5ml)のクロロホルム溶液における高分子(1c-1)の紫外−可視吸収スペクトルを測定した結果を
図4に示す。
図4から明らかなように、高分子(1c-1)の最大吸光波長λmaxは500nmであり、下記式で表されるモデル化合物(λmax=396nm)に対して104nmの長波長シフトが確認された。
【0111】
【化15】
【0112】
さらに、高分子(1c-1)の電気化学特性に関して、サイクリックボルタンメトリー法により酸化還元電位測定を行った結果、HOMOエネルギー準位が−5.3eVであり、LUMOエネルギー準位が−3.5eVであった。これに対して、下記式で表される高分子のHOMOエネルギー準位は−5.3eVであり、LUMOエネルギー準位が−2.9eVであり、この高分子に比べて、高分子(1c-1)の方がLUMOエネルギー準位が低く、狭バンドギャップ特性を示した。
【0113】
【化16】