(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937405
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】軌陸車両搭載用クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/44 20060101AFI20160609BHJP
B66C 23/02 20060101ALI20160609BHJP
B66C 23/88 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B66C23/44 A
B66C23/02 B
B66C23/88 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-87892(P2012-87892)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-216438(P2013-216438A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】506002823
【氏名又は名称】古河ユニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(72)【発明者】
【氏名】小野 正人
【審査官】
筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−168552(JP,A)
【文献】
特開平05−097391(JP,A)
【文献】
実開平02−049736(JP,U)
【文献】
特開昭49−032340(JP,A)
【文献】
米国特許第03011652(US,A)
【文献】
実開平01−065292(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00 − 23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の線路上に載置可能な鉄車輪を有する軌陸車に搭載されて油圧により駆動される軌陸車両搭載用クレーンであって、
アウトリガを有するベースと、該ベース上の旋回機台に設置されたコラムポストと、該コラムポストの先端部に水平方向に限って伸縮自在に設置された伸縮ブームと、該伸縮ブームに沿って移動可能に設けられてフックを垂下してなるトロリー装置とを備え、
前記伸縮ブームは、複数のブームから構成されて基端側ブームが最も細く先端ブームになるにつれて順に太いブームになるとともに、縮小時に先端ブームが最も外枠とされる入れ子式であり、
前記トロリー装置は、前記先端ブームの下部にブーム長手方向に沿って移動可能とされ、
前記コラムポストは、前記旋回機台上で上下方向に伸縮自在に設置されるとともに、当該コラムポストの最大伸長時の前記伸縮ブームの上面高さが、前記軌陸車を前記鉄道の線路上に載置した状態において、架線の制限高さまでしか上げられないように設定されることで、ブーム起伏機構、ブーム旋回機構およびブーム伸縮機構のうちブーム起伏機構が不装備とされていることを特徴とする軌陸車両搭載用クレーン。
【請求項2】
前記コラムポストは、筒状の2つの筐体が上下方向で入れ子とされ、それら2つの筐体のうち、下筐体は、前記ベース上の旋回機台に下端が固定され、上筐体は、前記下筐体の外側を覆うように前記下筐体の上端側から前記下筐体の長手方向に沿ってスライド移動可能に嵌合されるとともに自身上部にウインチ装置が設けられており、これら2つの筐体相互がコラムポストの背面に設けた伸縮シリンダで上下方向に沿ってスライド移動可能に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の軌陸車両搭載用クレーン。
【請求項3】
前記軌陸車が鉄道のカーブ区間で作業を行う際に、前記鉄車輪を線路上に設置させたままクレーン本体を水平にすることができるカント補正装置を更に備え、
前記カント補正装置は、前記軌陸車の運転室と荷台との間のシャーシフレーム上に固定される支持ブラケットと、該支持ブラケットに、前後方向の支軸で左右傾動可能に軸支されるクレーン搭載台と、該クレーン搭載台上に搭載固定されて前記アウトリガを有する前記ベースと、前記クレーン搭載台と前記支持ブラケットとの間に前記軌陸車に対する前記クレーン搭載台の傾斜角度を調整するための傾動手段として取り付けられた一つの傾動シリンダとを有することを特徴とする請求項1または2に記載の軌陸車両搭載用クレーン。
【請求項4】
前記コラムポストの伸縮動作又は前記伸縮ブームの伸縮動作のためのアクチュエータに必要な圧油を給排するコントロールバルブを操作するための操作レバーがクレーンの両側に設けられており、
前記両側の操作レバーともに、前記ベースの側面に設けられるとともに、前記操作レバーと前記コントロールバルブを接続する連結ロッドを介して、前記操作レバーの操作が前記コントロールバルブに伝えられるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軌陸車両搭載用クレーン。
【請求項5】
前記伸縮ブームおよび前記トロリー装置を駆動する油圧回路は、前記伸縮ブームを伸縮させるテレシリンダと、前記トロリー装置をブーム長手方向に沿って移動させるトロリーモータとが二つの電磁切換弁に対して並列に設けられており、
各電磁切換弁は、前記伸縮ブームの先端部と基端部にそれぞれ設けられた切換器具で油路の切換が行なわれ、
ブーム先端部の切換器具は前記トロリー装置との当接によって対応する電磁切換弁の油路が切換えられ、ブーム基端部の切換器具は前記伸縮ブームが縮小したときの当該伸縮ブームとの当接によって対応する電磁切換弁の油路が切換えられるようになっており、
ブーム先端の切換器具が未作動のときには、前記二つの電磁切換弁が前記トロリーモータのみを駆動するよう油路をなし、ブーム基端の切換器具が未作動のときには、前記二つの電磁切換弁が前記テレシリンダのみを駆動するよう油路をなすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の軌陸車両搭載用クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌陸車に搭載される軌陸車両搭載用クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
軌陸車とは、路上走行可能な車両に対し、車体の下に鉄車輪と転車台を追加することで鉄道の線路上を走行可能とした特殊車両である。ところで、線路上でのクレーン作業は、線路上から架線までの高さが4.5mなので、作業時の制限高さは4.0mに規制されている。そのため、軌陸車両搭載用クレーンでのクレーン作業も、この制限高さ(4.0m)を遵守する必要がある。よって、この制限高さ以上のクレーン揚程は不要である。
【0003】
ところで、一般的なクレーンは、旋回機台上に設置されたコラムポストと、このコラムポストの先端部に起伏および伸縮自在に設置された伸縮ブームとを備え、伸縮ブームの先端に設けたフックにより吊り荷を可及的に高く持ち上げることが性能のひとつであって特長とされる(例えば特許文献1ないし2参照)。しかし、その特長や性能は、上記の架線内で必要とされるクレーン揚程内での作業とは相反する上、伸縮ブームが制限高さを越えて架線に接触すれば感電事故が発生することになる。
そこで、従来は、一般的な車両搭載型クレーンに、電気的な制御による高さ制限装置を装着することによって、伸縮ブームの高さが制限高さを超えないように、ブーム先端の高さ(ブームの起伏角度)を制限高さ以内に制御していた(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−7294号公報
【特許文献2】特開平11−171474号公報
【特許文献3】特開2000−335889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3記載の高さ制限装置は、伸縮ブームの高さを電気的に制御するものなので、実際の線路上での作業において、現場の作業者が、作業効率が落ちることを嫌って高さ制限装置を解除して使用することもできる。この場合、伸縮ブームが誤って制限高さを超え、架線と伸縮ブームが接触すれば停電(感電事故)を起こしてしまう。また、万一架線を切断してしまえば、翌日の列車のダイヤに重大な遅れを発生させてしまうことにもなりかねない。このように、従来のクレーンでの高さ制限装置は、電気的な制御によるものなので、現場の作業者の判断で制限を解除してしまうおそれがある。また、高さ制限を設定し忘れたまま作業を開始してしまうおそれもある。
そこで、本発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであって、クレーンの基本構造自体による高さ制限機構により、伸縮ブームの高さが制限高さを超えないように規制し得る軌陸車両搭載用クレーンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンは、鉄道の線路上に載置可能な鉄車輪を有する軌陸車に搭載され
て油圧により駆動される軌陸車両搭載用クレーンであって、アウトリガを有するベースと、該ベース上の旋回機台に設置されたコラムポストと、該コラムポストの先端部に水平方向に限って伸縮自在に設置された伸縮ブームと、該伸縮ブームに沿って移動可能に設けられてフックを垂下してなるトロリー装置とを備え、前記伸縮ブームは、複数のブームから構成されて基端側ブームが
最も細く先端ブームになるにつれて
順に太いブームになるとともに、縮小時に先端ブームが最も外枠とされる入れ子式であり、前記トロリー装置は、前記先端ブームの下部にブーム長手方向に沿って移動可能とされ、前記コラムポストは、前記旋回機台上で上下方向に伸縮自在に設置され
るとともに、当該コラムポストの最大伸長時の前記伸縮ブームの上面高さが、前記軌陸車を前記鉄道の線路上に載置した状態において、架線の制限高さまでしか上げられないように設定されることで、ブーム起伏機構、ブーム旋回機構およびブーム伸縮機構のうちブーム起伏機構が不装備とされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンによれば、伸縮ブームは、コラムポストの先端部に水平方向に限って伸縮自在に設置されるとともに、コラムポストは、旋回機台上で上下方向に伸縮自在に設置され、
当該コラムポストの最大伸長時の前記伸縮ブームの上面高さが、前記軌陸車を前記鉄道の線路上に載置した状態において、架線の制限高さまでしか上げられないように設定されることで、ブーム起伏機構、ブーム旋回機構およびブーム伸縮機構のうちブーム起伏機構が不装備とされているので、伸縮ブームの起伏機能自体を装備しないという車両搭載用クレーン特有の基本構造自体の見直しによって、伸縮ブームの高さが制限高さを超えないように規制することができる。
【0008】
ここで、本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンにおいて、前記コラムポストは、筒状の
2つの筐体が上下方向で入れ子とされ、
それら2つの筐体のうち、下筐体は、前記ベース上の旋回機台に下端が固定され、上筐体は、前記下筐体の外側を覆うように前記下筐体の上端側から前記下筐体の長手方向に沿ってスライド移動可能に嵌合されるとともに自身上部にウインチ装置が設けられており、これら2つの筐体相互がコラムポストの背面に設けた伸縮シリンダで上下方向に沿ってスライド移動可能に接続されていることは好ましい。このような構成であれば、コラムポストを、旋回機台上で上下方向に伸縮自在に設置する上で好適である。
【0009】
また、本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンにおいて、前記軌陸車が鉄道のカーブ区間で作業を行う際に、前記鉄車輪を線路上に設置させたままクレーン本体を水平にすることができるカント補正装置を更に備え、前記カント補正装置は、前記軌陸車の運転室と荷台との間のシャーシフレーム上に固定される支持ブラケットと、該支持ブラケットに、前後方向の支軸で左右傾動可能に軸支されるクレーン搭載台と、該クレーン搭載台上に搭載固定されて前記アウトリガを有する前記ベースと、前記クレーン搭載台と前記支持ブラケットとの間に前記軌陸車に対する前記クレーン搭載台の傾斜角度を調整するための傾動手段として取り付けられた一つの傾動シリンダとを有することは好ましい。このような構成であれば、線路のカーブには内側に向けて傾斜(カント)がつけられているが、軌陸車がカーブ区間で作業を行う際に、鉄車輪を線路に設置させたまま、傾斜角度(カント角)を補正して、クレーン本体を水平にすることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンにおいて、前記コラムポストの伸縮動作又は前記伸縮ブームの伸縮動作のためのアクチュエータに必要な圧油を給排するコントロールバルブを操作するための操作レバーが
クレーンの両側に設けられており、
前記両側の操作レバーともに、前記ベースの側面に設けられ
るとともに、前記操作レバーと前記コントロールバルブを接続する連結ロッドを介して、前記操作レバーの操作が前記コントロールバルブに伝えられるように構成されていることは好ましい。このような構成であれば、線路脇の低い位置から作業者がクレーン操作をする上で好適である。
【0011】
また、本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンにおいて、前記伸縮ブームおよび前記トロリー装置を駆動する油圧回路は、前記伸縮ブームを伸縮させるテレシリンダと、前記トロリー装置をブーム長手方向に沿って移動させるトロリーモータとが二つの電磁切換弁に対して並列に設けられており、各電磁切換弁は、前記伸縮ブームの先端部と基端部にそれぞれ設けられた切換器具で油路の切換が行なわれ、ブーム先端部の切換器具は前記トロリー装置との当接によって対応する電磁切換弁の油路が切換えられ、ブーム基端部の切換器具は前記伸縮ブームが縮小したときの当該伸縮ブームとの当接によって対応する電磁切換弁の油路が切換えられるようになっており、ブーム先端の切換器具が未作動のときには、前記二つの電磁切換弁が前記トロリーモータのみを駆動するよう油路をなし、ブーム基端の切換器具が未作動のときには、前記二つの電磁切換弁が前記テレシリンダのみを駆動するよう油路をなすことは好ましい。このような構成であれば、ひとつの操作によってトロリー装置のブーム長手方向への全長に亘る移動が可能なので、例えば操作レバー1本のみの操作により、クレーン中心軸そばの、いわゆるふところ位置から伸長時のブーム先端までに渡って、吊荷を運搬させることができる。
【発明の効果】
【0012】
上述したように、本発明によれば、クレーンの基本構造自体による高さ制限機構により、伸縮ブームの高さが制限高さを超えないように、ブーム先端の高さを規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンの一実施形態の左側面図である。
【
図2】
図1の正面図であり、同図では、カント補正装置によるカント角の補正状態を合わせて図示している。
【
図3】本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンの油圧回路の一実施形態を説明するブロック図である。
【
図4】本発明の一態様に係る軌陸車両搭載用クレーンを軌陸車に搭載した状態の一実施形態の左側面図(路上走行状態を示す図)である。
【
図5】
図4の軌陸車を鉄道の線路上に載置した状態を示す図である。
【
図6】
図5の軌陸車において、トロリー装置を伸縮ブームの基端側からブーム長手方向に沿って先端側まで移動した状態を示す図である。
【
図7】
図6に示す状態から、更に伸縮ブームを伸長した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1および
図2に示すように、この軌陸車両搭載用クレーン1は、アウトリガ2を備えたベース3がクレーン搭載台6上に搭載固定されている。ベース3上には旋回機台19が設けられ、旋回機台19上には伸縮可能なコラムポスト4が旋回自在に立設されている。コラムポスト4の上端部には伸縮ブーム5が水平姿勢に固定されている。伸縮ブーム5には、フック21を垂下してなるトロリー装置20が伸縮ブーム5に沿って移動可能に設けられている。なお、
図2に示すように、アウトリガ2の接地位置GKは、鉄道の線路Rよりも線路脇の低い位置にあり、クレーン1自体は軌陸装置によって下方に張り出された鉄車輪14により路上走行状態よりも地面から高い位置まで上昇する(
図5参照)。そのため、アウトリガ2には、例えばローダー作業兼用クレーンで使用される、通常よりもストローク量の長いアウトリガが採用されている。
【0015】
また、作業者も線路脇の低い位置からクレーン1を操作することとなるため、この軌陸車両搭載用クレーン1では、クレーン1の操作レバーの位置を、通常よりも低位置に装備することによって容易に手が届くようにされている。つまり、一般的なクレーンは、操作レバーがアウトリガを有するベース上に配置されているところ、ベース上に操作レバーが配置されていると、線路脇からの操作では、上方に手を伸ばさなければ操作レバーに手が届かない可能性がある。そこで、この軌陸車両搭載用クレーン1では、
図8に示すように、複数の操作レバー31をベース3の側面(この例ではコラムポスト4の背面(伸縮ブーム5側とは反対側の面))に設けており、その操作レバー31とアクチュエータに必要な圧油を給排するコントロールバルブ33とを連結ロッド32によって接続している。これにより、ベース3上に操作レバーを配置した場合に比べて、操作レバー31が低い位置に設けられているので、線路脇からの操作性が向上している。
【0016】
また、この軌陸車両搭載用クレーン1は、
図2に示すように、軌陸車10がカーブ区間で作業を行う際に、鉄車輪14を線路Rに設置させたまま、傾斜角度(カント角)αを補正して、クレーン本体を水平にすることができる、カント補正装置を備えている。
すなわち、クレーン搭載台6は、同図に示すように、前後方向を向く支軸であるクレーン回動軸8で左右傾動可能に支持ブラケット7に軸支されている。また、クレーン搭載台6と支持ブラケット7との間には、クレーン搭載台6の軌陸車10(
図4参照)に対する傾斜角度(カント角)α(
図2参照)を調整するための傾動手段として、一つの傾動シリンダ(カント補正シリンダ)9が取付けられている。そして、クレーン搭載台6を支持する支持ブラケット7は、
図4に示すように、軌陸車10の運転室11と荷台12との間のシャーシフレーム13上に固定される。鉄道車両が遠心力に対抗するために、線路のカーブには内側に向けて傾斜(カント)がつけられているが、傾動シリンダ9を伸縮することで、
図2に示すように、クレーン1が地面と水平になるようにクレーン搭載台6の姿勢を調整可能になっている。これにより、この軌陸車両搭載用クレーン1は、軌陸車10がカーブ区間で作業を行う際に、鉄車輪14を線路Rに設置させたまま、傾斜角度(カント角)αを補正して、クレーン本体を水平にすることができる。
【0017】
また、この軌陸車両搭載用クレーン1は、コラムポスト4の伸縮によって伸縮ブーム5の高さを調整するように構成されている。
詳しくは、
図1および
図5にも示すように、コラムポスト4は、筒状の複数の筐体が上下方向に入れ子とされている。この例では上下2つの筐体41,42から構成され、下筐体42の下端がベース3上の旋回機台19に固定され、下筐体42の外側を覆うように上筐体41が下筐体42の上端側から下筐体42の軸方向に沿ってスライド移動可能に嵌合されている。2つの筐体41,42相互は、コラムポスト4の伸長時の中折れを防止するために、上下の筐体41,42の重複部分を可及的に多く確保する必要がある。そのため、下筐体42は、コラムポスト4の縮小時に、上筐体41の天板の極近傍まで貫通する嵌合構造とされている。上下2つの筐体41,42相互は、コラムポスト4の背面(伸縮ブーム5側とは反対側の面)に設けた伸縮シリンダ(コラムシリンダ)43で接続されており、伸縮シリンダ43の伸縮に応じて、上筐体41が下筐体42に沿って上下にスライド移動するようになっている。そして、
図5に示すように、コラムポスト4の最大伸長時の伸縮ブーム5の上面高さHは、軌陸車を鉄道の線路R上に載置した状態において、架線Lの制限高さ(例えば4m)まで上げることが可能なように設定されている。
【0018】
ここで、この軌陸車両搭載用クレーン1は、伸縮ブーム5が起伏しない構成であり、
図1および
図7に示すように、テレシリンダ54による水平方向の伸縮作動のみ可能とされている。なお、伸縮ブーム5の側面には、油圧ホース群および伸縮ブーム5の伸縮作動とトロリー装置20の移動作動とを切り替える電磁切換弁(後述する)が搭載されている。
【0019】
より詳しくは、伸縮ブーム5は、複数のブーム(この例では3段)から構成されている。本実施形態では、コラムポスト4の上部に水平に取り付けられた基端側の基端ブーム51と、基端ブーム51を入れ込むように設置され、基端ブーム51に対してその軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられた中間ブーム52と、中間ブーム52を入れ込むように設置され、中間ブーム52に対してその軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられた先端側の先端ブーム53とを備えている。これらブーム51,52,53は、先端になるにつれ太いブームになる三段式の入れ子状に形成される。つまり、ブーム相互は、基端ブーム51が細く、中間ブーム52は基端ブーム51よりも太く、先端ブーム53は中間ブーム52よりも太くなっている。ブーム51,52,53相互は、テレシリンダ54による水平方向の伸縮作動のみ可能とされ、縮小時に先端ブーム53が最も外枠とされている。
【0020】
トロリー装置20は、
図1に示すように、先端ブーム53の下面に沿って走行レール24が直接取付けられ、ブーム先端の内部に駆動用の油圧モータ(不図示)が設置されている。そして、その油圧モータの駆動軸に連結された駆動スプロケット25が先端ブーム側面の先端側に設けられるとともに、基端側に設けられた従動スプロケット26と駆動スプロケット25に駆動チェーン27が架け渡されている。そして、駆動チェーン27の途中部分にトロリー装置20の本体が連結されており、油圧モータが駆動されると駆動チェーン27によってトロリー装置20が牽引され、先端ブーム53の下面の走行レール24に沿ってブーム長手方向にトロリー装置20が走行する。これにより、荷台前方にまで、荷物をフック21に吊下させて移動させることが可能とされている。
【0021】
なお、このトロリー装置20は、自身にはワイヤロープをフックに掛け回すためのシーブ(不図示)のみが内蔵され、ウインチ装置を搭載していない。ウインチ装置22は、伸縮するコラムポスト4の可動側となる上筐体41の上部に設けられている。よって、ウインチ装置を自身に搭載するもの(例えば特開平5−97391号公報に記載のトロリー付伸縮ブーム)と比べ、装置自体の質量がウインチ装置分だけ軽量とされている。そのため、この軌陸車両搭載用クレーン1は、作業時は、ウインチ装置22の質量が吊荷とともに加算されないので、転倒モーメントがその質量分有利となり、吊荷量を増大させることができる。特に質量当たりのモーメントは作業半径の増加に比例して増大するため、遠方作業ほど、その効果の高さが顕著に表れる。
【0022】
ここで、伸縮ブーム5の伸縮作動とトロリー装置20の移動作動とは、一つのブーム伸縮レバー(上記複数の操作レバー31のうちのひとつ)の操作によってトロリー装置20のブーム長手方向への全長に亘る移動が可能とされている。これにより、ブーム伸縮レバー1本のみの操作により、クレーン1のふところ位置から伸長時のブーム先端までに渡って、吊荷を運搬させることができる。
【0023】
詳しくは、
図3に油圧回路のブロック図を示すように、トロリー装置20の移動作動用のトロリーモータ64と伸縮ブーム5の伸縮作動用のテレシリンダ54とは、1つのコントロールバルブ60を使用し、2つの電磁切換弁61、62を介して油路を並列に接続している。なお、PTOから動力を得た油圧ポンプ70が上下のコントロールバルブ60、72へ圧油を供給し、上下のコントロールバルブ60、72から各アクチュエータに駆動に必要な圧油が分配される。この例では、コントロールバルブ(下)72からはカントを補正する傾動シリンダ9、および鉄車輪14の出し入れ等を行なう軌道走行装置に圧油が供給される。また、コントロールバルブ(上)60からは、クレーン1本体の各アクチュエータ(54、64、66〜69)に必要な圧油が供給されるようになっている。
【0024】
トロリー装置20と伸縮ブーム5のための2つのアクチュエータ54,64への圧油の切換は、同図に示すように、2つの電磁切換弁61、62を用いている。2つの電磁切換弁61、62の油路の切換は、切換器具であるリミットスイッチ81,82からの入力信号に基づいて行う(
図1参照)。
【0025】
つまり、電磁切換弁61を通電させるリミットスイッチ81は、トロリー装置20が伸縮ブーム5のブーム先端に移動した位置であるストップ位置に、トロリー装置20と直接当接するように設けられる。また、電磁切換弁62を通電するリミットスイッチ82は、伸縮ブーム5のブーム基端部のブーム縮小格納位置に、伸縮ブーム5が縮小したときの当該伸縮ブーム5(中間ブーム52の基端部)と直接当接するように設けられている。ここでは便宜上、リミットスイッチ81が動作すると電磁切換弁61は通電されるノーマルオープン、リミットスイッチ82が動作すると電磁切換弁62の通電が遮断されるノーマルクローズになっている。よって、たとえばクレーン作業開始前状態のような、伸縮ブーム5が完全に縮小格納し、かつトロリー装置20がブーム先端まで移動していない状態では、ブーム先端のリミットスイッチ81は未動作なので電磁切換弁61は通電を遮断しており、ブーム基端部のリミットスイッチ82は作動中なので電磁切換弁62も通電を遮断している状態である。電磁切換弁61が通電状態とされると、テレシリンダ54と油路を形成し、非通電状態では、トロリーモータ64と油路を形成する。電磁切換弁62も通電状態とされると、テレシリンダ54と油路を形成し、非通電状態でトロリーモータ64と油路を形成する。トロリー装置20が作動中は、両電磁切換弁61、62とも非通電状態であり、逆にブーム伸長時は両電磁切換弁61、62とも通電される。
【0026】
ブーム伸縮用の操作レバー31を伸長側に操作すると、コントロールバルブ60から吐出した圧油は電磁切換弁61に流入する。電磁切換弁61が非通電中(即ちトロリー装置20がブーム先端まで移動していないとき)は常にトロリー装置20のみ駆動するようになっている。一方、トロリー装置20の作動中における電磁切換弁62も、伸縮ブーム5が縮小格納状態で、リミットスイッチ82を叩いたままなので、通電しておらず、圧油はコントロールバルブ60を介してタンクに戻る油路を形成する。
ブーム先端まで移動したトロリー装置20は、ブーム先端のリミットスイッチ81をたたき、電磁切換弁61が通電を開始する。これにより、圧油はテレシリンダ54側に流れる。テレシリンダ54の伸長により伸縮ブーム5が伸長を始めると、リミットスイッチ82から中間ブーム52の基端部も外れるので、電磁切換弁62も通電する。
【0027】
次に伸縮ブーム5が伸長した状態であって、ブーム伸縮用の操作レバー31を縮小側に操作すると、テレシリンダ54は縮小を開始する。電磁切換弁62は通電状態のままなので、このときのコントロールバルブ60から吐出した圧油はテレシリンダ54側にのみ流入する。伸縮ブーム5が完全に縮小すると同時に、伸縮ブーム5の基端位置に設けたリミットスイッチ82を中間ブーム52の基端部が叩く。これにより、電磁切換弁62の通電が遮断されると、トロリーモータ64側に油路が切り換えられ、トロリー装置20がブーム基端側に走行するようになっている。
【0028】
次に、この軌陸車両搭載用クレーン1の動作、および作用・効果について説明する。
この軌陸車両搭載用クレーン1は、車両の走行時には、
図4に示すように、アウトリガ2をクレーン底面よりも上方に格納し、鉄車輪14も収容状態とされている。一方、作業時には、
図5に示すように、鉄車輪14を鉄道の線路R上に載置するとともに、アウトリガ2を下方に張り出し、コラムポスト4を伸縮、トロリー装置20を先端ブーム53に沿って移動、伸縮ブーム5を伸縮させて使用する。
【0029】
トロリー装置20は、ブーム伸縮用の操作レバー31を操作することで、上述の油圧回路により、
図6に示すように、ふところ作業性確保のために先端ブーム53の下部に、伸縮ブーム5の長手方向に沿って可動する。伸縮ブーム5の作動は、伸長時は、まずトロリー装置20が伸縮ブーム5の基端位置から先端へ向かって走行し(
図6参照)、トロリー装置20が完全に先端へ移動し切ると、次いで、
図7に示すように、各ブーム51,52,53が基端ブーム51から先端ブーム53の順で伸長作動を開始する。反対に縮小時は、伸縮ブーム5が縮小し切るとトロリー装置20が伸縮ブームの基端位置への走行を開始する。
この軌陸車両搭載用クレーン1によれば、伸縮ブーム5が複数のブーム51,52,53から構成されて基端側ブーム51が細く先端ブーム53になるにつれて太いブームになる逆順組立とするとともに、伸縮ブーム5の下面にトロリー装置20を設けたので、良好な荷台内作業性を確保することができる。
【0030】
特に、この軌陸車両搭載用クレーン1によれば、一般的な車両搭載用クレーンがコラムポスト上部のブーム取付ピンを回転中心として伸縮ブームを起伏シリンダ(デリックシリンダ)で起伏させるのに対し、この伸縮ブーム5は、起伏シリンダを廃して、コラムポスト4の先端部に水平方向に限って伸縮自在に設置されるとともに、コラムポスト4は、旋回機台19上で上下方向に伸縮自在に設置されることで、ブーム起伏機構、ブーム旋回機構およびブーム伸縮機構のうちブーム起伏機構が不装備とされているので、伸縮ブーム5の起伏機能自体を装備しないという車両搭載用クレーン特有の基本構造自体の見直しによって、
図5に示すように、伸縮式のコラムポスト4の伸縮により、伸縮ブーム5の姿勢を水平に維持しつつ、伸縮ブーム5の高さのみを変化させることができる。そのため、物理的に架線の制限高さH(例えば4m)を超えることがないので、確実に制限高さ内でのクレーン作業が可能となる。
なお、本発明に係る軌陸車両搭載用クレーンは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 軌陸車両搭載用クレーン(クレーン本体)
2 アウトリガ
3 ベース
4 コラムポスト
5 伸縮ブーム
6 クレーン搭載台(カント補正装置)
7 支持ブラケット(カント補正装置)
8 クレーン回動軸(カント補正装置)
9 傾動シリンダ(カント補正装置)
10 軌陸車
13 シャーシフレーム
14 鉄車輪
19 旋回機台
20 トロリー装置
21 フック
41 上筐体
42 下筐体
43 伸縮シリンダ(コラムシリンダ)
51 基端ブーム
52 中間ブーム
53 先端ブーム
54 テレシリンダ