(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記培養細胞が、皮膚細胞、毛包細胞、又はATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1を発現するように遺伝子工学的に改変された細胞である、請求項1記載の方法。
前記遺伝子の発現又は前記分子の発現若しくは活性が抑制された場合に、前記試験物質が皮膚又は毛髪色を暗色化する作用があると評価され、皮膚又は毛髪の暗色化剤として選択される、請求項3記載の方法。
前記遺伝子の発現又は前記分子の発現若しくは活性が増強された場合に、前記試験物質が皮膚又は毛髪色を明色化する作用があると評価され、皮膚又は毛髪の明色化剤として選択される、請求項3記載の方法。
前記培養細胞が、皮膚細胞、毛包細胞、又はATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1を発現するように遺伝子工学的に改変された細胞である、請求項3〜5のいずれか1項記載の方法。
メラニン量調節が所望されるケラチノサイトにおけるATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1の発現又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性をインビトロで調節する工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節方法。
非ヒト哺乳動物被験体のケラチノサイトにおけるATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1の発現又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性を調節する工程を含む、非ヒト哺乳動物被験体における皮膚又は毛髪色制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ケラチノサイトにおけるメラニンの局在、蓄積、排出又は分解に関与し、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節、及び皮膚又は毛髪色制御に関わる因子に関する。また本発明は、当該因子を用いてケラチノサイトにおけるメラニン量を調節する方法、皮膚又は毛髪色を制御する方法、及び当該因子を用いてケラチノサイトにおけるメラニンの量調節剤、又は皮膚若しくは毛髪色制御剤を評価及び/又は選択する方法に関する。
【0013】
本発明者らは、皮膚又は毛髪色とケラチノサイト内遺伝子発現との関連性を明らかにするために、ケラチノサイト内のメラニン量調節に関わる遺伝子を探索し、また当該遺伝子発現のケラチノサイト内でのメラニン動態への影響について調べたところ、ケラチノサイトにおけるメラニン局在、蓄積、排出又は分解に関わるいくつかの遺伝子を見出し、またそれらの遺伝子の発現量と皮膚色との間に高い相関性があることを確認した。これらの結果から、本発明者らは、当該遺伝子又はその発現産物を利用すれば、ケラチノサイトのメラニン量や、皮膚又は毛髪色を制御可能であることを見出した。
【0014】
本発明によれば、ケラチノサイト内でのメラニンの局在、蓄積、排出分解に影響を及ぼすことにより皮膚又は毛髪色を制御することができる、皮膚又は毛髪色制御遺伝子が提供される。当該遺伝子やその発現産物の発現又は活性を調節することにより、ケラチノサイト内のメラニンの量や分布を調節して、皮膚又は毛髪色を制御することができる。また当該遺伝子又はその発現産物は、その発現又は活性を指標として、皮膚又は毛髪色を制御することができる素材を評価及び/又は選択することができるため、皮膚又は毛髪色制御剤、例えば、美白剤、タンニング剤、毛髪カラーリング又はブリーチング剤、白髪染め等の開発に有用である。
【0015】
本発明は、ATG7遺伝子、RAB11A遺伝子、CLIP−170遺伝子、Rubicon遺伝子及びRAB7B遺伝子からなる群から選択される皮膚又は毛髪色制御遺伝子を提供する。
上記に列挙した遺伝子は、下記表1のとおり、公知のデータベースに登録されているが、ケラチノサイト内でのメラニン動態、例えば、メラニンの取り込み、輸送、局在、蓄積、排出又は分解等における関与は従来知られていなかった。
【0017】
CLIP−170は、小胞を微小管に繋ぎ止めることで、細胞内輸送を直接的に制御している分子として従来知られていた。より具体的には、CLIP−170はDyneinやDynactinといったモータータンパク質と微小管との相互作用を仲介していることが知られている(Vaughan et al,1999,J Cell Sci 112,1437−1447)。
RAB7Bは、小胞の輸送に深く関与する低分子量Gタンパク質Rab GTPaseファミリーに属し、2004年に初めて同定された分子である(Yang et al,2004,Biochem Biophys Res Commun 318,792−799)。主に単球やマクロファージ、樹状細胞など免疫系細胞で豊富に発現し、免疫制御に関与するTLR4(Toll−like receptor 4)やTLR9(Toll−like receptor 9)のエンドサイトーシスに関与することが報告されている(Wang et al,2007,Blood 110,962−971;Yao et al,2009,J Immunol 183,1751−1758)。また、Hela細胞においては、RAB7Bが小胞の分解酵素であるCathepsin−Dの成熟を調節すること、RAB7Bの発現抑制によって細胞内の分解器官リソソームへの正常な輸送が妨げられることも知られている(Progida et al,2010,J Cell Sci 123,1480−1491)。
Rubiconは、細胞内における自食作用(Autophagy)を抑制する分子として最近報告された(Matsunaga et al,2009,Nat Cell Biol 11,385−396)。
RAB11Aは、RAB7Bと同様に小胞の輸送に深く関与する低分子量Gタンパク質Rab GTPaseファミリーに属し、小胞のリサイクル、細胞極性の形成、エクソサイトーシスなど多彩な小胞輸送に関与していることが知られている(Bryant et al,2010,Nat Cell Biol 12,1035−1045)。また、表皮顆粒層においてRAB11Aは層板顆粒(ラメラボディ)の細胞外分泌に関与することも報告されている(Ishida−Yamamoto et al,2007,J Invest Dermatol 127 ,2166−2170)。
ATG7は、オートファジーを制御する因子の1つである。オートファジーは自食作用とも呼ばれ、細胞内小器官などの大きなタンパク質構造体を膜で包み、タンパク質の分解器官であるリソソームと融合することで内容物を分解する機構である。ATG7は、複数のオートファジー関連因子の中の1つであり、オートファゴソームの形成に関与することが知られている(Komatsu et al,2005,J Cell Biol 169,425−434)。
【0018】
後記実施例に例示するように、ケラチノサイトにおいてATG7遺伝子、RAB11A遺伝子、CLIP−170遺伝子、Rubicon遺伝子及びRAB7B遺伝子の発現をそれぞれ抑制した場合、該ケラチノサイトのメラニン量が増加する。また、ケラチノサイト内メラニン量の増加は上記遺伝子の発現産物の発現抑制を伴う。さらに、ケラチノサイトにおけるこれらの遺伝子の発現抑制により、該ケラチノサイトで通常認められる細胞核近傍へのメラニン局在が阻害され、メラニンが細胞質内に散在するようになる。また、メラニンの排出又は分解が抑制され、細胞内に蓄積するようになる。また後記実施例に示すように、上記遺伝子の発現量と皮膚色との間に高い相関性があることが確認された。すなわち、上記ATG7遺伝子、RAB11A遺伝子、CLIP−170遺伝子、Rubicon遺伝子及びRAB7B遺伝子及びその発現産物は、ケラチノサイト内でのメラニン局在、蓄積、排出又は分解に関与し、細胞のメラニン量調節や皮膚及び毛髪色の制御に寄与している。
【0019】
メラニンのケラチノサイト内での動態、例えば、メラノサイトから転送されるメラニンの取り込み、輸送、局在、蓄積、排出、分解等は、主にケラチノサイトにより構成される皮膚表皮層や、毛包の毛母細胞若しくはシャフトを構成する毛皮質細胞でのメラニンの量及び分布に深く関与し、ひいては、皮膚及び毛髪の色に影響を及ぼす。
したがって、上記ATG7遺伝子、RAB11A遺伝子、CLIP−170遺伝子、Rubicon遺伝子及びRAB7B遺伝子は、その発現を変化させることによって、ケラチノサイトにおけるメラニン蓄積、局在及び/又は分解を調節することができ、それによって皮膚表皮層や毛包の毛母細胞やさらにはシャフトを構成する毛皮質細胞におけるメラニン量及び分布を調節し、結果として皮膚及び毛髪の色を制御することができる皮膚又は毛髪色制御遺伝子である。
【0020】
本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現低下は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、細胞の色を暗色化させる。逆にこれらの遺伝子の発現増加により、ケラチノサイトのメラニン量は低下し、細胞の色は明色化する。
また、本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現低下は、ケラチノサイトにおける細胞核近傍へのメラニン局在を阻害してメラニンを細胞内に散在させ、又は、メラニンの排出や分解を抑制させ、細胞の色を暗色化させる。逆にこれらの遺伝子の発現増加により、ケラチノサイトの細胞核近傍へのメラニン局在化、排出又は分解が促進され、細胞の色は明色化する。
したがって、本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又はこれらの遺伝子にコードされる分子(発現産物)の発現若しくは活性を増加させることにより、皮膚及び毛髪の色は明るくなる。逆に、本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又はこれらの遺伝子にコードされる分子(発現産物)の発現若しくは活性を減少させることにより、皮膚及び毛髪の色は暗くなる。
【0021】
上記皮膚又は毛髪色制御遺伝子及び当該遺伝子にコードされる分子(発現産物)をまとめて、本明細書において、皮膚又は毛髪色制御因子と称する。当該皮膚又は毛髪色制御因子と皮膚又は毛髪色との関連性は本発明者らによって初めて見出された。
【0022】
上記本発明の皮膚又は毛髪色制御因子の発現又は活性を変化させることによって、ケラチノサイトにおけるメラニンの蓄積量、局在、排出若しくは分解等を変化させてそのメラニン量を調節し、皮膚又は毛髪の色を制御することができる。言い換えれば、本発明の皮膚又は毛髪色制御因子は、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節のため、又は皮膚又は毛髪色制御のために使用することができる。あるいは、本発明の皮膚又は毛髪色制御因子は、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節のため、又は皮膚若しくは毛髪色制御のための剤の製造において使用することができる。
【0023】
上記本発明によるメラニン量調節、又は皮膚若しくは毛髪色制御においては、被験体のケラチノサイトにおいて、当該遺伝子のうちの少なくとも1の発現、あるいは当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性を、当該分野で通常使用される任意の手段で変化させればよい。
当該遺伝子の発現、又は当該分子の発現若しくは活性を変化させる手段は特に限定されない。例えば、遺伝子発現を変化させる手段としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はsiRNA等による遺伝子ノックダウン、特異的プロモーターによる標的遺伝子の転写活性化、ベクターを用いた外部からの遺伝子の挿入、その他遺伝子の発現を変化させる作用を有する任意の物質の添加等が挙げられる。このうち、当該遺伝子の発現を変化させる作用を有する任意の物質の添加等がより好ましい。
【0024】
上記遺伝子にコードされる分子としては、上記遺伝子にコードされるmRNA及びポリペプチドが挙げられる。ここで、「分子の発現若しくは活性の変化」とは、分子全体での発現若しくは活性を変化させる任意の状態、例えば、分子の発現量の変化、分子の分解速度の変化、分子の活性化率の変化、分子の不活性化率の変化等を含み得るが、好ましくは分子の発現量の変化を意味する。
分子の発現若しくは活性を変化させる手段としては、上述の遺伝子発現を変化させる手段、タンパク質発現を変化させる手段、分子の酵素活性等を変化させる手段、分子とその標的因子との相互作用を変化させる手段、分子が作用を及ぼすシグナル経路を変化させる手段などが挙げられる。このうち、遺伝子発現を変化させる手段、タンパク質発現を変化させる手段などがより好ましい。
【0025】
上記被験体としては、天然の又は遺伝子工学的に改変された、上記遺伝子のうちの少なくとも1を発現する能力を有し、メラニン量調節が所望されるケラチノサイト、ならびにそれを含む培養物、組織、器官及び動物が挙げられる。
上記ケラチノサイトとしては、皮膚や毛包に存在するケラチノサイトが好ましく、表皮ケラチノサイト、毛母細胞及び毛皮質細胞がより好ましい。上記ケラチノサイトを含む培養物、組織、器官としては、培養ケラチノサイト、ならびに表皮組織、毛包組織、皮膚及びそれらの培養物が好ましい。上記動物としては、ヒト又は非ヒト哺乳動物が好ましい。
【0026】
一態様において、上記本発明によるメラニン量調節、又は皮膚若しくは毛髪色制御は、上記ケラチノサイト、又はそれを含む培養物、組織若しくは器官を被験体として、インビトロで行われ得る。好ましくは、被験体は、培養ケラチノサイト、培養皮膚組織、培養表皮、又は培養毛包である。
別の一態様において、上記本発明によるメラニン量調節、又は皮膚若しくは毛髪色制御においては、メラニン蓄積量、局在、排出若しくは分解の調節、又は皮膚若しくは毛髪色の制御を所望する動物が被験体であり得る。好ましくは、当該調節又は制御は、美容目的、例えば、皮膚の美白若しくはタンニング、毛髪のカラーリング(ライトニング若しくは暗色化)又はブリーチング、ブリーチング後の色戻し、白髪染め等の目的により、非治療的に行われ得る。本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0027】
本発明の例示的態様は、メラニン量増加が所望されるケラチノサイトにおけるATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1の発現又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の増加方法である。
別の実施形態は、メラニン量低減が所望されるケラチノサイトにおける当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させる工程を含む、ケラチノサイトにおけるメラニン量の低減方法である。
【0028】
本発明の別の例示的態様は、皮膚色褐色化又は暗色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおけるATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1の発現又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、あるいは当該ケラチノサイト内のメラニンを散在させる工程を含む、被験体の皮膚色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚タンニングが可能になる。
別の実施形態は、皮膚色明色化を所望する被験体の皮膚ケラチノサイトにおける当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させ、あるいは当該ケラチノサイト内のメラニン局在を限局化させる工程を含む、被験体の皮膚色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、皮膚美白が可能になる。
【0029】
本発明のさらに別の例示的態様は、毛髪色褐色化又は暗色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおけるATG7、RAB11A、CLIP−170、Rubicon及びRAB7Bからなる群から選択される遺伝子のうちの少なくとも1の発現又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性を抑制することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させ、あるいは当該ケラチノサイト内のメラニンを散在させる工程を含む、被験体の毛髪色を褐色化又は暗色化する方法である。この方法によれば、例えば、ブリーチ後の髪の色戻し又は白髪染めが可能になる。
別の実施形態は、毛髪色明色化を所望する被験体の毛包ケラチノサイトにおける当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性を増強することによって、当該ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させ、あるいは当該ケラチノサイト内のメラニン局在を限局化させる工程を含む、被験体の毛髪色を明色化する方法である。この方法によれば、例えば、髪のライトニング又はブリーチングが可能になる。
【0030】
上記本発明の皮膚又は毛髪色制御因子、すなわちATG7遺伝子、RAB11A遺伝子、CLIP−170遺伝子、Rubicon遺伝子及びRAB7B遺伝子、又はそれらの発現産物の発現又は活性を変化させる物質は、ケラチノサイトにおけるメラニンの蓄積量、局在、排出若しくは分解等を変化させることによってそのメラニン量を調節し、皮膚又は毛髪の色を制御することができる物質である。したがって、本発明はまた、本発明の皮膚又は毛髪色制御因子を用いる、ケラチノサイトのメラニン量調節剤、又は皮膚若しくは毛髪色制御剤の評価及び/又は選択方法を提供する。
【0031】
本発明による、ケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤の評価及び/又は選択方法は、細胞に被験物質を投与する工程;当該細胞における上記本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子のうちの少なくとも1の発現、又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性の変化を測定する工程;当該測定の結果に基づいて、当該被験物質のメラニン量調節作用を評価する工程;及び、当該評価の結果に基づいて、当該被験物質をケラチノサイトにおけるメラニン量調節剤として選択する工程、を含む。
【0032】
被験物質を投与する細胞は、上記本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子のうちの少なくとも1を発現する能力を有する限り、天然の細胞でも又は遺伝子工学的に改変された細胞でもよく、特に限定されない。細胞は、培養細胞、又は動物の組織若しくは器官培養物に由来する細胞が好ましく、培養ヒト細胞がより好ましい。また好ましくは、細胞は皮膚細胞であり、より好ましくは表皮細胞又は毛包細胞であり、さらに好ましくはヒト由来培養表皮細胞(例えば、ヒト正常表皮細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte;NHEK)、又はヒト組織培養毛包細胞である。
【0033】
被験物質の種類は特に限定されず、天然物でも合成物でもよく、また単一物質であっても組成物若しくは混合物であってもよい。投与の形態は、被験物質に依存して、任意の形態であり得る。
【0034】
皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性は、当該分野で通常使用される任意の解析方法によって測定することができる。遺伝子発現解析方法としては、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、ルシフェラーゼ等によるリポーターアッセイ、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ、等が挙げられる。
遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性の解析方法としては、ウェスタンブロッティング法、免疫染色法、ELISA、バインディングアッセイ等が挙げられる。
【0035】
測定した当該遺伝子発現又は当該分子の発現又は活性に基づいて、被験物質の投与による当該遺伝子発現又は当該分子の発現若しくは活性の変化を評価することができる。例えば、被験物質の投与前後に本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を測定し、必要に応じて測定値を定量化した後、投与前後の結果を比較することができる。また例えば、被験物質の投与群と、非投与群若しくは対照物質投与群から本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を測定し、必要に応じて測定値を定量化した後、結果を投与群と非投与群、又は投与群と対照物質投与群との間で比較することができる。また例えば、異なる濃度の被験物質を投与して本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又はそれにコードされる分子の発現若しくは活性を測定し、被験物質の濃度による測定結果の差を調べることができる。
当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性に影響を及ぼす被験物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量の調節作用を有する物質として評価することができる。
【0036】
例えば、本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量増加剤として選択される。当該剤は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させて皮膚又は毛髪色を褐色化又は暗色化する、皮膚又は毛髪色の褐色化又は暗色化剤(例えば、皮膚タンニング剤、毛髪暗色化剤、ブリーチ後の髪の色戻し剤、白髪染め剤等)として使用することができる。一方、当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性を増強する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量低下剤として選択される。当該剤は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させて皮膚又は毛髪色を明色化する、皮膚又は毛髪色の明色化剤(例えば、皮膚美白剤、髪のライトニング又はブリーチング剤等)として使用することができる。
【0037】
本発明はまた、皮膚又は毛髪色制御剤の評価及び/又は選択方法を提供する。当該方法は、細胞に被験物質を投与する工程;当該細胞における上記本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子のうちの少なくとも1の発現、又は当該遺伝子にコードされる分子のうちの少なくとも1の発現若しくは活性の変化を測定する工程;当該測定の結果に基づいて、当該被験物質の皮膚又は毛髪色制御作用を評価する工程;及び、当該評価の結果に基づいて、当該被験物質を皮膚又は毛髪色制御剤として選択する工程、を含む。
当該方法で使用される細胞、被験物質、遺伝子又は分子の発現又は活性の測定方法、及び該測定結果の評価方法は、上述と同様である。
当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性に影響を及ぼす被験物質は、皮膚又は毛髪色制御作用を有する物質として評価することができ、皮膚又は毛髪色の制御に使用できる皮膚又は毛髪色制御剤として選択される。
【0038】
例えば、本発明の皮膚又は毛髪色制御遺伝子の発現又は当該遺伝子にコードされる分子の発現若しくは活性を抑制する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を増加させて皮膚又は毛髪色を褐色化又は暗色化する、皮膚又は毛髪色の褐色化又は暗色化剤(例えば、皮膚タンニング剤、毛髪暗色化剤、ブリーチ後の髪の色戻し剤、白髪染め剤等)として選択される。一方、当該遺伝子の発現又は当該分子の発現若しくは活性を増強する物質は、ケラチノサイトにおけるメラニン量を減少させて皮膚又は毛髪色を明色化する、皮膚又は毛髪色の明色化剤(例えば、皮膚美白剤、髪のライトニング又はブリーチング剤等)として選択される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0040】
実施例1
皮膚又は毛髪色制御遺伝子発現がケラチノサイトのメラニン量に与える影響
1.メラニンの単離
メラノーマ細胞株MNT−1細胞は、10%AIM−V培地と10%FBS(仔牛胎児血清)を含むRPMI−1640培地(いずれもLife Technologies社製)を使用して37℃、5%CO
2下にて培養した。MNT−1細胞からメラノソーム画分を単離調製するため、T−175フラスコに培養したMNT−1細胞を0.05%Trypsin/EDTAで回収し、PBSにて洗浄した。続いて、3mLのLysis buffer(0.1M Tris−HCl(pH7.5)、1%Igepal CA−630、0.01%SDS)を加えて緩やかに混合し、4℃にて1時間振盪攪拌した。この細胞抽出液を1.5mLチューブに分注し、1,000gの速度で10分間(4℃)遠心し、上清を回収した。本遠心操作を計2回繰り返し、得られた上清を20,000gで10分間(4℃)遠心した。ペレットをPBSで洗浄し、同条件での遠心操作をさらに操り返し、得られたペレットをメラノソーム画分(Melanin)とした。
【0041】
2.siRNA導入
正常ヒト新生児表皮由来表皮細胞(NHEK)は、増殖用培地として表皮細胞用増殖培地(Epilife(登録商標))及び培地用添加剤(Humedia−KG2)(いずれもクラボウ社より購入)を使用して37℃、5%CO
2下にて培養した。続いて、細胞を0.75×10
5細胞/mL/ウェルの細胞密度で12ウェルプレートに播種した。試験用培地Epilife(登録商標)(培地用添加剤として0.5μg/mL hydrocortisone及び50ng/mL amphotericin Bを添加)100μLに、4μLのトランスフェクション試薬HiPerFect(登録商標)Transfection Reagent(QIAGEN)を添加し、よく攪拌した。
CLIP−170遺伝子、RAB7B遺伝子、Rubicon遺伝子、又はコントロール(標的遺伝子が存在しない非特異的な配列)のsiRNAをAmbion silencer select siRNA(Ambion,Life Technologies)から購入し、上記トランスフェクション試薬の最終濃度が10nMとなるように各々のsiRNAを加えて攪拌後、10分間室温にて静置し、siRNA−トランスフェクション試薬コンプレックスを調製した。その試薬コンプレックスを各ウェルに添加した後プレートを静かに振盪させて均一にした。翌日に培地交換を行った。siRNA導入により標的遺伝子及び/又は当該分子の発現が特異的に抑制されたことを確認した(データ示さず)。
siRNA導入から2日後にMNT−1細胞から単離したメラニンを添加して、さらに24時間後に細胞内のメラニン量を観察するとともに、メラニン定量及びウェスタンブロッティング法によるメラノソームタンパク質(Pmel17)の発現定量を行った。
【0042】
3.細胞内メラニンの定量
メラニン添加から24時間後に細胞培養プレートをPBSで3回洗浄し、各ウェルに2M NaOHを120μL加えてから100℃で溶解させた。プレートを遠心し、得られた上清についての吸光度(405nm)を測定し、メラニン量を算出した。メラニン量は、定法により求めた各ウェル中のタンパク質量により補正して評価に供した。
【0043】
4.メラノソームタンパク質の発現解析
メラニン添加から24時間後に細胞培養プレート(12ウェル)をPBSで洗浄した後、RIPA buffer(Sigma−Aldrich社製)を0.1ml加えて細胞を回収し、超音波処理により細胞を破砕した。その後、15,000rpmで15分間遠心分離し、その上清についてタンパク定量を行った後、定法に従ってSDS−PAGE(12.5%ゲル)に供した。一次抗体はanti−Pmel17 antibody(HMG45、1:500、DAKO社製)を用いた。二次抗体はanti−mouse IgG peroxidase linked F(AB’)2 fragment(GE healthcare bioscience)を5000倍に希釈して用いた。その後、ECL plus Western blotting detection reagents(GE healthcare bioscience)を用いて発色させ、LAS4000(GE healthcare bioscience)を用いて可視化した。内部標準としてのβ−actinの発現を、Sigma−Aldrich社製のmonoclonal antibody specific for β−actinを用いて評価した。
【0044】
結果を
図1〜3に示す。CLIP−170、RAB7B又はRubiconの発現抑制により、メラニンの細胞内蓄積の亢進とともに、そのメラニン局在の変化が観察された(
図1)。コントロールで認められるメラニンの核近傍への局在が阻害され、細胞質内に散在する傾向が観察された(
図1B)。また、メラニン定量(
図2)及びメラノソームの構成タンパク質であるPmel−17タンパク質の発現解析(
図3)の結果から、CLIP−170、RAB7B又はRubiconの発現抑制により、ケラチノサイト内のメラニン量がコントロールと比較して有意に増加することが示された。
【0045】
実施例2
メラニン添加に伴う皮膚又は毛髪色制御因子の発現変化
ケラチノサイトに取り込まれたメラニン(メラノソーム)による本発明の皮膚色制御遺伝子の発現変化を調べた。メラニン添加から24時間後におけるRAB7Bのタンパク質及びmRNAの発現を一例として示す。
タンパク質発現は以下のように評価した。メラニン添加から24時間後に培養プレートをPBSで洗浄した後、RIPA buffer(Sigma−Aldrich社製)を0.1ml用いて細胞を回収し、超音波処理により細胞を破砕した。その後、15,000rpmで15分間遠心分離し、その上清のタンパク定量を行った後、定法に従ってSDS−PAGE(12.5%ゲル)に供した。一次抗体はanti−RAB7B antibody(1:1000、Avnova社製)を用いた。二次抗体はanti−mouse IgG peroxidase linked F(AB’)2 fragment(GE healthcare bioscience)を5000倍に希釈して用いた。その後、ECL plus Western blotting detection reagents(GE healthcare bioscience)を用いて発色させ、LAS4000(GE healthcare bioscience)を用いて可視化した。内部標準としては、β−actinの発現を、Sigma−Aldrich社製のmonoclonal antibody specific for β−actinを用いて評価した。
【0046】
mRNAの発現は以下のように評価した。培養細胞をPBSで洗浄した後、RNeasy(登録商標)Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて定法に従いtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAのうち1μgを用いて、逆転写反応によりcDNAを合成した。逆転写反応には、High Capacity RNA−to cDNA Kit(Life Technologies社製)を用い、MJ Research社製のPeltier Thermal Cyclerにて、定法に従って行った。続いて、合成したcDNA及びTaqMan(登録商標)プローブを用いてReal−time PCR法による遺伝子発現解析を行った。各遺伝子に特異的なプローブ及びプライマーは、Life Technologies社製のTaqMan Gene Expression Assays(P/N4331182)より入手した。各々の発現量は、内部標準遺伝子RPLP0の発現量により補正して評価した。反応条件は定法に従って設定し、アプライドバイオシステムズ社製のシークエンスディテクター(ABI PRISM7500 Real Time PCR System)を用いて行った。
【0047】
結果を
図4に示す。RAB7Bの発現はメラニン添加に伴い、タンパク質及びmRNAレベルで顕著に増加することが確認された(
図4)。
【0048】
実施例3
RAB11A又はATG7遺伝子発現がケラチノサイトのメラニン量に与える影響
1.siRNA導入
正常ヒト新生児表皮由来表皮細胞(NHEK)は、増殖用培地として表皮細胞用増殖培地(Epilife(登録商標))及び培地用添加剤(Humedia−KG2)(いずれもクラボウ社より購入)を使用して37℃、5%CO
2下にて培養した。続いて、細胞を0.75×10
5細胞/mL/ウェルの細胞密度で12ウェルプレートに播種した。試験用培地Epilife(登録商標)(培地用添加剤として0.5μg/mL hydrocortisone及び50ng/mL amphotericin Bを添加)100μLに、4μLのトランスフェクション試薬HiPerFect(登録商標)Transfection Reagent(QIAGEN)を添加し、よく攪拌した。
RAB11A遺伝子、ATG7遺伝子、又はコントロール(標的遺伝子が存在しない非特異的な配列)のsiRNAをAmbion silencer select siRNA (Ambion,Life Technologies)から購入し、上記トランスフェクション試薬の最終濃度が10nMとなるように各々のsiRNAを加えて攪拌後、10分間室温にて静置し、siRNA−トランスフェクション試薬コンプレックスを調製した。その試薬コンプレックスを各ウェルに添加した後プレートを静かに振盪させて均一にした。翌日に培地交換を行った。siRNA導入により標的遺伝子及び/又は当該分子の発現が特異的に抑制されたことを確認した。
siRNA導入から2日後に、実施例1記載の方法に従ってMNT−1細胞から単離したメラニンを添加して、さらに24時間後にウェスタンブロッティング法による細胞内のRAB11A及びATG7遺伝子の発現産物、ならびにメラノソームタンパク質(Pmel17)の発現定量を行った。RAB11AとATG7の発現解析については、一次抗体としてanti−RAB11 antibody(1:2000、Invitrogen社製)又はanti−ATG7 antibody(1:2000、Epitomics社製)をそれぞれ用いて、これらの発現抑制を確認した。内部標準としてのβ−actinの発現を、Sigma−Aldrich社製のmonoclonal antibody specific for β−actinを用いて評価した。
【0049】
結果を
図5に示す。メラノソームの構成タンパク質であるPmel−17タンパク質の発現解析の結果から、RAB11A(
図5A)又はATG7(
図5B)の発現抑制に伴って、ケラチノサイト内のメラニン量がコントロールと比較して顕著に増加することが示された。
【0050】
実施例4
皮膚又は毛髪色制御遺伝子発現と皮膚色との相関
RAB11A遺伝子発現と皮膚色との相関を調べた。皮膚組織は、米国テキサス州ダラス近郊のコントラクトラボラトリー(RCTS)に依頼し、現地皮膚科医によってCaucasian、Asian、Hispanic及びAfrican American(各n=3)の上腕内側部から、皮膚の測色後にパンチバイオプシーによって採取された。本試験は全てIRB(IntegReview)により承認済みであり、適切なインフォームドコンセントを得た上で実施されている。皮膚組織からRNAを抽出後、DNAマイクロアレイ法としてAffymetrix社のGeneChip(Human Genome U133 plus 2.0 array)を用いて遺伝子発現を網羅的に解析するとともに、肌色強度(明度L*値)との相関性を調べた。結果を
図6に示す。
【0051】
肌色の明るさの指標であるL*値は、Caucasian、Asian、Hispanic、そしてAfrican Americanの順に高く、民族差異が確認された(データ示さず)。また、DNAマイクロアレイ解析の結果から、RAB11A遺伝子の発現データを抽出したところ、Caucasianと比べてAsian、HispanicそしてAfrican Americanの順に低く発現していることが明らかになった(
図6A)。さらに、RAB11A遺伝子の発現量とL*値の間に高い相関性が確認され(
図6B)、皮膚色の程度が明るいほど遺伝子の発現量が高いことが示された。