(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、前記行列記憶部に記憶されている第1の係数行列と、ある時点nにおける内部状態を表すベクトルとを乗算して第1の乗算結果を算出し、前記行列記憶部に記憶されている第2の係数行列と、ある時点nにおいて制御装置が取得した(1)前記制御目標値と前記蓄電池の前記出力値との差分、及び(2)前記蓄電池の前記出力値の積分値を要素とするベクトルとを乗算して第2の乗算結果を算出し、前記第1及び第2の乗算結果を加算することにより、n+1の時点における内部状態を表すベクトルを算出し、前記n+1の時点における内部状態を表すベクトルと、前記行列記憶部に記憶されている第3の係数行列とを乗算することにより、前記出力指令値を算出する
請求項3に記載の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の基礎となった知見)
本発明者は、「背景技術」の欄において記載した制御装置に関し、以下の問題が生じることを見出した。
【0013】
エネルギーマネジメントシステムにおける蓄電池は、停電などの非常時のバックアップ用電源として用いられる。また、当該蓄電池は、日中に太陽電池の余剰電力を貯めることで夜間に電力を供給する電源として用いられる。
【0014】
近年、蓄電池と、ガスエンジンあるいは燃料電池等の発電装置とを組み合わせるシステムが提案されている。このシステムでは、発電装置だけでは賄えない急激に変動する負荷の電力需要に対して、比較的応答速度の速い蓄電池が補助的に電力を供給することで、系全体の電力需給のバランスを安定化できる。
【0015】
しかし、蓄電池には、充電または放電ができる電力量に限りがある。そこで、蓄電量の計画値と実際の蓄電量の値との偏差をフィードバックすることにより、蓄電池の動作を制御するための制御装置を備えた蓄電装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0016】
図14は、特許文献2に記載された、本発明の関連技術に係る蓄電装置が備える制御装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
図14において、制御装置900は蓄電量偏差推定部901と補正量算出部902と蓄電値出力指令部903とで構成される。制御装置900は蓄電値出力計画値と計画蓄電量と実蓄電量の3つのパラメータを入力とし、蓄電値が出力すべき指令値を出力とする。制御装置900は、計画蓄電量と実蓄電量との偏差を蓄電量偏差推定部901で算出する。次に、その偏差を単位時間で割った補正量を補正量算出部902で算出する。次に、この補正量を蓄電値出力指令部903において蓄電装置出力計画値と加算することで蓄電値の出力値を算出する。
【0018】
このように、制御装置900は蓄電量の計画値と実際値の偏差をフィードバックして蓄電池の動作を制御するPI制御と呼ばれる制御手法で構成される。ここで、PI制御とは古典制御手法のうち、比例動作(Proportional Action)と積分動作(Integral Action)とを用いた制御方式のことである。以後、蓄電量の計画値と実際値との偏差がより短時間により小さくなるように蓄電池の充電及び放電を制御する性能を、目標値追従性と呼ぶ。
【0019】
しかしながら、PI制御を用いた関連技術に係る制御装置では、目標値追従性と、蓄電池の長寿命化とを両立することが難しいという課題がある。
【0020】
蓄電池の容量の大きな変動は蓄電池の劣化を進めることが知られており、蓄電池の容量の変動を抑制する性能(以後、残容量変動抑制性と呼ぶ)は蓄電池の長寿命化の観点から重要である。すなわち、制御装置の残容量変動抑制性が高いほど、蓄電装置が備える蓄電池の寿命は延びるという関係がある。
【0021】
また、電力需給バランスの性能は30分同時同量により評価される。30分同時同量は、30分ごとの受電点の電力目標値と実際の受電点の電力値との差分と、契約電力量との比で表わされる。各需要家は、例えば、その値が常に±3%以内になることが電気事業者との間の取り決めにより求められる。したがって、30分同時同量を0に近づけるために、受電点の電力目標値に対する目標値追従性をより向上させることが、制御装置にとって重要となる。
【0022】
そのため、蓄電池の容量の変動を抑制しつつ同時同量を悪化させないようにするには、残容量変動抑制性と目標値追従性との2つの性能を同時に適切なバランスで達成させる必要がある。
【0023】
しかしながら、この2つの性能はトレードオフの関係にある。一般に、目標値追従性を向上させるためには、頻繁に蓄電池の充放電を繰り返すことが必要となるためである。したがって、PI制御により残容量変動抑制性と目標値追従性との2つの特性を同時に達成させるためには、PI制御の複数の制御パラメータの値を試行錯誤的な作業によって決定する必要がある。こうした試行錯誤的な作業により制御装置を設計するためには、制御装置の設計時に膨大な量のシミュレーションを必要とするために、その設計は容易ではない。
【0024】
また上記課題に加え、シミュレーション上での制御系の想定モデル(ノミナルモデルと呼ぶ)と実機における物理特性との間には、線形近似や経年劣化などの理由で必ず何らかの誤差がある。したがって、制御装置には、この誤差(モデル化誤差と呼ぶ)に対しても制御の安定性を失わない性能も求められる。以後、この性能をロバスト性と呼ぶ。
【0025】
一般に、目標値追従性を向上させようとすると、モデルと実機との誤差が制御結果に与える影響も大きくなる。その結果、ロバスト性が低下してしまう。したがって、PI制御方式では先に述べた残容量変動抑制性と目標値追従性とを両立させるという課題と同様の理由により、ロバスト性と目標値追従性との2つの性能を同時に適切なバランスで達成させる設計は容易ではない。
【0026】
本発明は、従来の課題を解決するもので、残容量変動抑制性、目標値追従性、及び、ロバスト性の3つの性能をすべて適切なバランスで実現するように蓄電池を制御する制御装置を設計可能な、制御装置の設計方法を提供することを目的とする。
【0027】
このような問題を解決するため、本発明の一態様に係る制御装置の設計方法は、蓄電池の蓄電量が制御目標値に適合するように、前記蓄電池が充電または放電すべき電力である出力値を制御するインバータへ充電または放電を指示するための出力指令値を出力する制御装置の設計方法であって、第1の制御量の判断に用いられる第1の閾値、第2の制御量の判断に用いられる第2の閾値、及び第3の制御量の判断に用いられる第3の閾値を決定する閾値決定ステップと、前記第1の制御量を算出するための第1の重み関数と、前記第2の制御量を算出するための第2の重み関数と、前記第3の制御量を算出するための第3の重み関数とを設定する重み関数設定ステップと、前記制御目標値と前記出力値との差分、及び前記出力値の積分値を入力とし、前記出力指令値を出力とする前記制御装置の伝達関数を決定する伝達関数決定ステップとを含み、前記伝達関数決定ステップにおいては、前記制御目標値と前記出力値との差分に前記第1の重み関数を乗じて得られる前記第1の制御量が前記第1の閾値よりも小さくなり、前記出力値に前記第2の重み関数を乗じて得られる前記第2の制御量が前記第2の閾値よりも小さくなり、かつ、前記出力値の積分値に前記第3の重み関数を乗じて得られる前記第3の制御量が前記第3の閾値よりも小さくなるように、H∞制御理論によって前記伝達関数を決定する。
【0028】
この構成によると、制御装置の設計段階において、第1の重み関数を設定することにより目標値追従性を調整できる。また、第2の重み関数を設定することによりロバスト性を調整できる。また、第3の重み関数を設定することにより残容量変動抑制性を調整できる。すなわち、設計時において、適切なバランスを実現させたい3つの性能にそれぞれ対応する重み関数を個別に設定することが可能となる。また、例えばシミュレーションにより、設定した重み関数のもとで算出されたH∞制御理論に基づく制御装置が有する残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性のバランスを簡単に確認することができる。したがって、残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能をすべて適切なバランスで実現するように蓄電池を制御する制御装置を設計することができる。
【0029】
また、前記閾値決定ステップにおいて、さらに、第4の閾値を決定し、前記重み関数設定ステップにおいて、さらに、前記出力指令値に乗じることにより第4の制御量を算出するための第4の重み関数を設定し、前記伝達関数決定ステップにおいて、さらに、前記第4の制御量が前記第4の閾値よりも小さくなるように前記伝達関数をH∞制御理論によって決定するとしてもよい。
【0030】
これによると、第4の重み関数を設定することにより、より精度よくロバスト性を調整することができる。したがって、より詳細に残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性のバランスを調整することができる。
【0031】
本発明の一態様に係る制御装置は、先に述べた制御装置の設計方法によって決定された前記伝達関数を状態空間として表現するための係数行列を記憶している行列記憶部と、前記状態空間における内部状態を表すベクトルを記憶するための状態記憶部と、前記制御目標値と前記蓄電池の前記出力値との差分、前記蓄電池の前記出力値の積分値、前記状態記憶部に記憶された内部状態、及び前記係数行列に基づいて前記出力指令値を算出する演算部とを備える。
【0032】
この構成によると、制御装置は、蓄電池の残容量変動抑制性を向上させる重み関数を考慮したH∞制御を行うことにより、残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能をすべて適切なバランスで実現することができる。
【0033】
具体的には、前記演算部は、前記行列記憶部に記憶されている第1の係数行列と、ある時点nにおける内部状態を表すベクトルとを乗算して第1の乗算結果を算出し、前記行列記憶部に記憶されている第2の係数行列と、ある時点nにおいて制御装置が取得した(1)前記制御目標値と前記蓄電池の前記出力値との差分、及び(2)前記蓄電池の前記出力値の積分値を要素とするベクトルとを乗算して第2の乗算結果を算出し、前記第1及び第2の乗算結果を加算することにより、n+1の時点における内部状態を表すベクトルを算出し、前記n+1の時点における内部状態を表すベクトルと、前記行列記憶部に記憶されている第3の係数行列とを乗算することにより、前記出力指令値を算出するとしてもよい。
【0034】
これによると、演算部は、制御装置の行列記憶部に記憶されている係数行列に基づいて、ある時点における内部状態から、次の時点における出力指令値を具体的に算出することができる。この出力指令値に従ってインバータに蓄電池の充放電をさせることにより、残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能をすべて適切なバランスで実現することができる。
【0035】
本発明の一態様に係る電力制御装置は、先に述べた制御装置と、前記蓄電池の前記出力値が、前記制御装置から出力される前記出力指令値に対応する電力と一致するように前記蓄電池に充放電させるインバータと、前記蓄電池の前記出力値を積分する積分器とを備え、前記制御装置は、前記制御目標値と前記蓄電池の前記出力値との差分、及び前記積分器によって積分された前記蓄電池の前記出力値の積分値が入力されると、前記出力指令値を前記インバータへ出力する。
【0036】
この構成によると、電力制御装置は、蓄電池の残容量変動抑制性を向上させる重み関数を含んだH∞制御に従い、インバータの充放電を制御することができる。したがって、残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能がすべて適切なバランスで実現された電力制御装置を実現することができる。
【0037】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0039】
まず、
図1を用いて本発明の実施の形態における蓄電装置の構成の一例を説明する。
【0040】
図1は、本発明の実施の形態における蓄電装置のシステム構成を示す図である。
図1に示されるように、本発明の実施の形態における蓄電装置200は、受電点電力目標値と、発電装置202により発電される電力と、負荷装置204により消費される電力とを取得し、分電盤/配電盤206へ電力を出力する。
【0041】
ここで、受電点電力目標値とは、需要家側から系統側へ向かう電力(いわゆる逆潮電力)と、系統側から需要家側へ向かう電力とが、受電点208においてバランスすべき目標値である。受電点電力目標値は、需要家と電力事業者との間で事前に定められている。また、発電装置202とは、例えば太陽光発電装置、風力発電装置、燃料電池コージェネレーションシステム等の発電装置である。また、負荷装置204とは、テレビジョン、エアコンディショナー、電気自動車の充電装置等の電力を消費する装置全般である。
【0042】
蓄電装置200は、電力制御装置190と、蓄電池199とを備える。
【0043】
電力制御装置190は、制御装置100と、インバータ191とを有する。
【0044】
蓄電池199は、例えばリチウムイオン電池、鉛蓄電池、ナトリウム−硫黄電池、ニッカド電池等、任意の種類の蓄電池である。
【0045】
以下、蓄電装置200について、より詳細に述べる。
【0046】
図1において、蓄電装置200は蓄電池199と、蓄電池199の直流電流を交流に変換したうえで蓄電装置200が出力する電力を所望の値に制御するための電力制御装置190で構成される。また、蓄電装置200は、負荷装置204及び発電装置202と共に、単一の分電盤又は配電盤である分電盤/配電盤206に接続されている。すなわち、蓄電装置200は、蓄電装置200の充放電電力、発電装置202の発電電力、及び負荷装置204の消費電力を収集する。
【0047】
蓄電装置200には、蓄電装置200の外部より、例えばユーザによる操作によって受電点電力目標値が設定される。受電点とは電気事業者と需要家の境界のことで、上記分電盤又は配電盤が配電網と接続される箇所を指す。また受電点電力目標値とは受電点208における電力がとるべき値のことである。例えば受電点電力目標値が0の時は、受電点208での電気の流れが0になるようにすることである。また、受電点電力目標値が正の時は需要家が電気事業者から買電すること意味する。一方、受電点電力目標値が負の時は需要家が電気事業者へ売電する状態になるようにすることを意味する。
【0048】
蓄電装置200は、実際の受電点電力が受電点電力目標値と同じ値になるよう蓄電装置200が充放電すべき電力を算出し制御する。具体的には、蓄電装置200は、発電装置202、負荷装置204、及び蓄電装置200それぞれの電力値を収集し、収集した電力値を合算することで受電点電力を算出する。電力制御装置190は蓄電池199から充放電する電力をインバータ191によって調整することで、算出した値が受電点電力目標値と同じ値になるようにフィードバック制御する。
【0049】
なお、上記蓄電池199はリチウムイオン電池や鉛蓄電池・レドックスフロー電池など二次電池であればその形態を限定しない。上記発電装置202は太陽電池・コージェネレーションシステム・燃料電池・ガスタービンなど、発電できる機器であればその形態を限定しない。上記負荷装置204は各種家電機器や動力機器など電力を消費する機器であればその形態を限定しない。
【0050】
また、負荷装置204の消費電力を収集する手段の代わりに、例えば受電点に電力計を設置することにより、受電点電力を直接収集する手段を用いることもできる。また、上記の説明は主に有効電力を想定したものであり、以降の説明でも有効電力のみを対象に説明を行うが、有効電力と無効電力との2つをそれぞれ制御対象とすることもできる。
【0051】
次に、蓄電装置が備える電力制御装置190の構成を
図2に示す。
【0052】
図2は、電力制御装置190の機能ブロックを示す図である。
図2に示されるように、電力制御装置190は、制御装置100と、蓄電池199に接続されたインバータ191と、積分器192と、フィルタ193とを有する。
【0053】
インバータ191は、蓄電池199の出力値が、制御装置100から出力される出力指令値と一致するように蓄電池199に充放電させる。ここで、蓄電池199の出力値とは、蓄電池199により出力される電力であり、正負の値をとりうる。すなわち、出力値が正の場合、蓄電池199は放電している。一方、出力値が負の場合、蓄電池199は充電している。また、出力指令値とは、制御装置100が決定した蓄電池199の充放電電力である出力値を実際に蓄電池199へ充放電させるために、蓄電池199の充電及び放電動作を制御するインバータ191へ出力される指令値である。
【0054】
積分器192は、インバータ191が蓄電池199に充放電させた出力値を時間積分する。
【0055】
制御装置100は、制御目標値と蓄電池199の出力値との差分、及び積分器192によって積分された出力値の積分値が入力されると、出力指令値をインバータ191へ出力する。すなわち、制御装置100は、インバータ191の出力を取得するフィードバックループを有する。
【0057】
制御装置100は2つの入力信号と、1つの出力信号をもつ。制御装置100の入力信号の1つは、以下の式(1)により求められる。
【0058】
(負荷装置204の消費電力値−発電装置202の出力値−受電点電力目標値)×フィルタ193の伝達関数−蓄電装置200の出力値 ・・・式(1)
【0059】
制御装置100は、式(1)により求められる入力信号の値が正の時は、インバータ191の出力を正の方向に調整する。逆に、式(1)により求められる入力信号の値が負の時は、出力を負の方向に調整する。ここで、インバータ191は蓄電池199に接続されており、蓄電池199の充放電を所望の値に制御するためのデバイスである。
【0060】
上記フィードバックループにより、蓄電装置の出力値は、以下の式(2)による算出値へ近似するように制御される。
【0061】
(負荷装置204の消費電力値−発電装置202の出力値−受電点電力目標値)×フィルタ193の伝達関数 ・・・式(2)
【0062】
ここで、フィルタ193とは入力された信号の特定の周波数成分を取り出す信号処理のことである。フィルタ193の特性は伝達関数により表わされる。例えばハイパスフィルタ(高域通過濾波器;HPF)は低い周波数成分を抑制する伝達関数を用いることで入力信号の高い周波数成分のみを出力することができる。上記の場合では、ハイパスフィルタを用いることで、伝達関数の計算により、以下の式(3)による算出値が、より急激に変化するほどフィルタ193の出力はより大きくなり、より遅く変化するほどフィルタ193の出力はより小さい値になる。
【0063】
(負荷装置の消費電力値−発電装置の出力値−受電点電力目標値) ・・・式(3)
【0064】
すなわち、ハイパスフィルタを用いることで、蓄電装置200は電力の急激な変化を打ち消すノイズ除去を行うことができる。
【0065】
また、逆にローパスフィルタ(低域通過濾波器;LPF)を用いた場合には、上記の式(3)による算出値がより急激に変化するほどフィルタ193の出力はより小さくなり、より遅く変化するほどフィルタ193の出力はより大きな値になる。ローパスフィルタを用いることで、蓄電装置200は系全体の電力需給バランスを実現することができる。
【0066】
なお、ハイパスフィルタの性質とローパスフィルタの性質とを組み合わせたバンドパスフィルタ(帯域通過濾波器;BPF)や振幅特性が一定のオールパスフィルタ(全域通過濾波器;APF)などを用いるフィルタ193の実装も考えられる。
【0067】
なお、電力制御装置190はフィルタ193を備えなくてもよい。ただし、電力制御装置190により制御したい電力に多く含まれる周波数帯に対応する適切なフィルタ193を備えることで、電力制御装置190はより正確な電力の制御が可能となる。
【0068】
また制御装置100の2つ目の入力信号はインバータ191を介して出力される蓄電池199の出力値を積分器192により積分したものである。これは、充放電した電力の積分をとることによって、充放電した電力の総量を算出することに該当する。すなわち、蓄電池199の出力値の積分値は、蓄電池199の容量の変化量を意味する。
【0069】
制御装置100は蓄電池199の容量の変化量を0に近づける方向へ充放電電力を制御することで、蓄電池の容量変化を少なくすることができる。
【0070】
次に、
図3を参照して、制御装置100の詳細な構成について説明する。
【0071】
図3に示されるように、制御装置100は、演算部102と、行列記憶部104と、状態記憶部106とを備える。
【0072】
行列記憶部104は、本発明に係る制御装置の設計方法によって決定された伝達関数を状態空間として表現するための係数行列を記憶している。具体的には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等である。なお、係数行列の決定方法については、後述する。
【0073】
状態記憶部106は、状態空間における内部状態を表すベクトルを記憶するための記憶部である。具体的には、行列記憶部104と同様に、RAM、ROM、SRAM等である。なお、内部状態の具体例については後述する。
【0074】
演算部102は、制御装置100に入力された制御目標値と蓄電池199の出力値との差分であるe
1、蓄電池199の出力値の積分値であるe
2、状態記憶部106に記憶された内部状態、及び行列記憶部104に記憶されている係数行列に基づいて、出力指令値であるuを算出する。
【0075】
より具体的には、演算部102は、行列記憶部104に記憶されている第1の係数行列A
kとある時点nにおける内部状態を表すベクトルとを乗算する。次に、行列記憶部104に記憶されている第2の係数行列B
kと、ある時点nにおいて制御装置100が取得したe
1及びe
2を要素とするベクトルとを乗算する。次に、この2つの乗算結果を加算することにより、nの次の時点(すなわちn+1の時点)における内部状態を表すベクトルを算出する。次に演算部102は、行列記憶部104に記憶されている第3の係数行列C
kと、n+1の時点における内部状態を表すベクトルとを乗算することにより、n+1の時点における出力u[n+1]を算出する。なお、各係数行列の算出方法については、後述する。
【0076】
次に、負荷装置204が消費する電力である負荷装置電力、発電装置202が発電する電力である発電装置電力、及び受電点電力目標値の変化の一例を
図4に示す。
【0077】
負荷装置電力は、需要家の需要の変動により、時々刻々と変化する。また発電装置電力は、太陽電池、コージェネレーションシステム、燃料電池、及びガスタービンなどの出力の変動により、時々刻々と変化する。
【0078】
また受電点電力目標値は30分単位での固定値、あるいは単調変化で構成される。ここで受電点電力目標値とは、前述の通り、受電点208における電力がとるべき値のことである。より具体的には、エネルギーマネジメントシステムをもつ需要家が電気事業者に対して例えば24時間後の30分スロットでどれだけの電力を購入又は販売するかを事前に通告する電力値のことである。
【0079】
電力需給バランスを達成させるためには、受電点電力目標値と実際の受電点電力との間の誤差をなるべく小さくする必要がある。この電力需給バランスの性能は、先述した30分同時同量で表される。同時同量が例えば±3%を超えた場合は、電力会社から購入した補助電力に対して、通常より高い単価の料金が適応されるというペナルティが発生する。そのため、30分±3%同時同量を可能な限り満たすように、蓄電装置200は充放電電力を制御する必要がある。そのためには、制御装置100の目標値追従性がより高い方が好ましい。また、制御装置100はロバスト性がより高いことが好ましい。さらに、前述の通り、蓄電池199の劣化を抑制するため制御装置100は残容量変動抑制性がより高い方が好ましい。
【0080】
そこで、目標値追従性、残容量変動抑制性、及びロバスト性のいずれも従来技術よりも高い次元でバランスさせることが可能な制御装置100を設計するための設計方法について、以下に述べる。より具体的には、制御装置100に使用する制御器のモデルとしてH∞制御器を使用する。H∞制御器は、目標値追従性とロバスト性とを両立させることが可能な本発明に係る関連技術である。このH∞制御器に、残容量変動抑制性を向上させるための新たな重み関数及び制御量を追加したH∞制御器を、本実施の形態に係る制御装置100として使用する。以下の記載では、制御装置100の設計方法として、H∞制御器を実装する際に必要な各種パラメータの決定方法を説明する。
【0081】
図5は、本発明の実施の形態における設計方法によりH∞制御器としてモデル化された制御装置100を設計する場合に使用される蓄電装置のモデルの構成例を示すブロック図である。
図5に示される、フィルタ130、制御装置131、制御対象132、積分器133、及び重み関数の各モデルが有するパラメータを適切に決定することにより、制御装置100を設計することができる。以下、より詳細に説明する。
【0082】
K(s)は制御装置131であるH∞制御器の伝達関数である。具体的には、
図2に示す電力制御装置190が備える制御装置100に相当する。
【0083】
P(s)は制御対象132の伝達関数である。具体的には、
図2に示す電力制御装置190が備えるインバータ191に相当する。
【0084】
指令値wは、制御目標値である。具体的には、前述の式(3)により算出される値である。より具体的には、指令値wは、
図2に示す、負荷装置204の消費電力値−発電装置202の出力値−受電点電力目標値に相当する。
【0085】
y
1は制御対象132の出力である。具体的には、
図2に示す蓄電池の出力値に相当する。
【0086】
F(s)はフィルタ130の伝達関数である。具体的には、例えばハイパス特性の伝達関数をもつことで指令値の高周波成分のみをH∞制御器の目標値入力とする。
【0087】
積分器133は、制御対象の出力y
1を時間積分する積分器である。
【0089】
H∞制御器としてモデル化されている制御装置131の入力にはe
1とe
2とがある。e
1として、フィルタ130の出力と制御対象132の出力y
1との差分値が制御装置131へ入力されることによって、目標値入力に対するフィードバック構造を実現している。また積分器133の出力y
2はそのまま入力e
2としてH∞制御器である制御装置131へ入力される。
【0090】
また、H∞制御器に対する入力e
1、制御対象の出力y
1、時間積分の出力y
2、制御対象に対する入力uのそれぞれに、重み関数W
1、W
2、W
3、W
4をそれぞれ掛け合わせた値を、それぞれ制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4と定義する。
【0091】
重み関数W
1、W
2、W
3、W
4はそれぞれ伝達関数としてあらわされる。それぞれの伝達関数に含まれるゲインを周波数領域で大きくしたり小さくしたりすることで、制御装置131の特性を変化させることができる。なお、上記伝達関数に含まれるsはLaplace変換の変数を表わす。なお、制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、及び、重み関数W
1、W
2、W
3、W
4の詳細については、後述する。
【0092】
次に、H∞制御器の設計方法を
図6及び
図7を参照して示す。
【0093】
図6は、本発明の実施の形態における制御装置の設計方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0094】
前述の通り、制御装置100はH∞制御器としてモデル化される。ここで、H∞制御理論は、外乱信号やモデル化誤差の影響を抑制する制御系を構築するための制御理論である。具体的には、H∞ノルムと呼ばれるノルムによって伝達関数を評価し、それが所望の値より小さくなるように伝達関数を決定することにより、目的の性能を達成させる。より具体的には、一般化プラントと呼ばれる汎用的な制御モデルを対象に、外乱信号が入力されてから評価が出力されるまでの伝達関数のH∞ノルムを小さくするという設計手順をとる。制御対象の不確定な部分を外乱信号として扱うことで、モデルの不確かさの影響を抑制する制御系となる。
【0095】
ここで、想定していたノミナルモデルからの誤差に対しても有効な、安定性を失わない性質をロバスト性(堅牢性)と呼ぶ。制御系設計を行う場合には制御対象のモデルが必要となる。しかしながら、制御対象の厳密なモデルを得ることは困難な場合が多く、得られるモデルと現実の制御対象との間に誤差は避けられない。ロバスト制御は、そのような誤差に対しても安定性を維持するなどの意味で頑健な制御系を設計するための制御系設計手法であり、H∞制御はそのロバスト性により厳密なモデル化が不要になったことが長所である。
【0096】
以上述べたH∞制御器設計においては、まず、
図5で示した制御モデルをもとに、制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4の仕様を決定する(S102)。制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4の仕様とは、例えば、制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4それぞれの上限に対応する閾値である。また、上限及び下限に対応する閾値を仕様として決定してもよい。
【0097】
一般に、制御量Z
1、Z
2、Z
3、Z
4はいずれもより0に近い方が好ましい。しかし、実際にH∞制御器のゲインを決定する場合に、いずれの制御量も完全に0にすることは困難である。したがって、対象システムである蓄電装置200の特性から定まる制御装置100に要求される仕様に応じて、重点的に小さくすべき制御量の閾値をより小さく決定する必要がある。例えば、想定するノイズが高周波数帯域の成分を多く含むとすると、該当する制御量Zの閾値は高周波数帯域で重点的に小さくなるものと決めることが考えられる。逆に、想定するノイズが低周波数帯域の成分を多く含むとすると、該当する制御量Zの閾値は低周波数帯域で重点的に小さくなるものと決めてもよい。
【0098】
次いで、重み関数W
1、W
2、W
3、W
4それぞれの値をその仕様に基づいて設定する(S103)。例えば、Zを高周波数帯域で重点的に小さくなるように設定したとすると、Wの値は、式(4)として示されるように、高周波数帯域で大きいハイパス特性を有する伝達関数として設定される。
【0100】
なお、式(4)において、aとTwとはハイパス特性を決める定数である。
【0101】
より具体的には、各重み関数が制御装置131の特性に与える影響は、それぞれ以下の通りである。
【0102】
重み関数W
1は、追従誤差を抑える効果を有する。そのため、重み関数W
1を適切に設定することにより、制御装置100の目標値追従性を向上させることができる。例えば、W
1を、1/(0.1s+1)のように定義した場合、伝達関数に積分要素が含まれるため、特に低周波数領域での目標追従特性を調整できる。また、微分要素として分子にsを含む項を加えることにより、W
1を、高周波数領域での目標追従特性を調整できるように設計することも可能である。すなわち、対象とするシステムに要求される目標値追従性の仕様に応じて、W
1を定める。
【0103】
重み関数W
2は、モデル化誤差の影響を抑える効果を有する。そのため、重み関数W
2を適切に設定することにより、制御装置100のロバスト性を向上させることができる。例えば、W
2を、0.0001s/(0.1s+1)のように定義できる。具体的には、W
1と同様に、対象とするシステムに要求されるロバスト性の仕様に応じて、W
2を定める。
【0104】
重み関数W
3は、蓄電池の残容量の変動を抑える効果を有する。そのため、重み関数W
3を適切に設定することにより、制御装置100の残容量変動抑制性を向上させることができる。例えば、W
3を、0.001のように定義できる。この場合、すべての周波数領域において制御装置100の残容量変動抑制性を向上させるためにW
3を定数としている。ここで、W
3の大きさは、例えば、W
2の分子の係数である0.0001よりも大きく、W
3の分子の係数である0.02よりも小さく設定することが好ましい。
【0105】
重み関数W
4は、コントローラの出力を抑え飽和を防ぐ効果を有する。そのため、重み関数W
4を適切に設定することにより、制御装置100の残容量変動抑制性を向上させることができる。例えば、W
4を、0.02s/(0.1s+1)のように定義できる。
【0106】
最後に、一般化プラントに基づき、H∞制御問題の解法を適用して、制御装置131の伝達関数K(s)を算出する(S104)。
【0107】
例えば、
図5に示すモデルを、制御器の伝達関数K(s)と一般化制御対象Tzwとを含むH∞標準問題の形式に変換した場合における一般化制御対象TzwのH∞ノルムが、||Tzw||∞ < 0.005となるようなK(s)を決定することにより、準最適解の制御装置100を設計することができる。ここで||Tzw||∞は、式(5)で表されるように、伝達関数
Tzwの全周波数域における最大特異値と定義される。
【0109】
なお、式(5)において、σ(・)は最大特異値を示す。
【0110】
H∞制御問題の、より詳細な解法は、非特許文献1に詳しいため省略する。
【0111】
なお、本発明に係る制御装置の設計方法において、
図5に示される重み関数W
4及び制御量Z
4は、必ずしも決定しなくてもよい。制御装置100によって実現されるロバスト性のうち、モデル化誤差に対するロバスト性は、重み関数W
2及び制御量Z
2を決定することにより実現されるためである。ただし、重み関数W
4及び制御量Z
4を決定することにより、制御装置100はコントローラの出力を抑え飽和を防ぐことができる。その結果、よりロバストな制御を行うことができる。
【0112】
図7は、制御量Z
4、及び、重み関数W
4を使用しない場合における、制御装置の設計方法の処理の手順を示すフローチャートである。
【0113】
図7に示されるステップS102a、ステップS103a、及びステップS104aの各ステップにおける処理は、制御量Z
4及び重み関数W
4に関する処理が含まれていないこと以外は、
図6に示される処理と同じである。
【0114】
図7を参照して、以上述べたように、本実施の形態に係る制御装置の設計方法は、蓄電池が充放電すべき電力である出力値を制御するインバータへ充放電を指示するための出力指令値を出力する制御装置の設計方法である。具体的には、第1の制御量の判断に用いられる第1の閾値、第2の制御量の判断に用いられる第2の閾値、及び第3の制御量の判断に用いられる第3の閾値を決定する閾値決定ステップ(S102a)と、制御目標値と出力値との差分に乗じることにより第1の制御量を算出するための第1の重み関数と、出力値に乗じることにより第2の制御量を算出するための第2の重み関数と、出力値の積分値に乗じることにより第3の制御量を算出するための第3の重み関数とを設定する重み関数設定ステップ(S103a)と、制御目標値と出力値との差分、及び出力値の積分値を入力とし、出力指令値を出力とする制御装置の伝達関数を決定する伝達関数決定ステップ(S104a)とを含む。
【0115】
ここで、伝達関数決定ステップ(S104a)においては、制御目標値と出力値との差分に第1の重み関数を乗じて得られる第1の制御量が第1の閾値よりも小さくなり、出力値に第2の重み関数を乗じて得られる第2の制御量が第2の閾値よりも小さくなり、かつ、出力値の積分値に第3の重み関数を乗じて得られる第3の制御量が第3の閾値よりも小さくなるように、H∞制御理論によって伝達関数を決定する。
【0116】
また、再度
図6を参照して、閾値決定ステップ(S102)において、さらに、第4の閾値を決定し、重み関数設定ステップ(S103)において、さらに、出力指令値に乗じることにより第4の制御量を算出するための第4の重み関数を設定し、伝達関数決定ステップ(S104)において、さらに、第4の制御量が第4の閾値よりも小さくなるように伝達関数をH∞制御理論によって決定してもよい。
【0117】
図5に示したH∞制御設計のブロック図におけるパラメータを、以上述べた設計方法によって決定した例を
図8に示す。
【0118】
F(s)はフィルタの伝達関数である。ここでは、電力制御装置190が電力の細かな変動を制御するために適したフィルタとして、時定数が5.05秒のハイパス特性の伝達関数を有するフィルタを例示している。例えば、発電装置202が太陽光発電システムのように出力される電力の変動が激しい発電装置である場合には、こうした特性のフィルタが適している。ここで時定数とは線形時不変系における1次の周波数応答の遮断周波数を決定するパラメータであり、物理的にはシステムのステップ応答が最終値の約63.2%に達するまでの時間を示す。
【0119】
P(s)はプラントであり、制御対象のモデルを伝達関数で表現する。ここでは、制御対象である蓄電装置200が備える電力制御装置190の出力特性を考慮して、時定数が0.1秒のローパス特性の伝達関数を有するモデルを例示している。このモデルは、立ち上がり時間があるモデルである。
【0120】
W
1、W
2、W
3、W
4は重み関数であり、前述の通り、それぞれ各性能を調整するための役割がある。具体的には、例えばW
1を大きくすると目標値追従性を向上させることができる。また、W
2を大きくすると蓄電池出力の抑制とモデル化誤差に対するロバスト性とを向上させることができる。また、W
3を大きくすると残容量変動抑制性を向上させることができる。また、W
4を大きくすると制御入力の抑制とモデル化誤差に対するロバスト性とを向上させることができる。なお、重み関数も伝達関数で表現されるため、周波数領域での調整が可能である。
【0121】
このように、これらの4つの重み関数を上述した役割に従って仕様を満たすよう設定することで、設計時の見通しがよくなる。したがって、制御装置100が有する残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能を同時に適切なバランスで達成させることが容易になる。
【0122】
図8の例では、W
1は高周波での追従性能が向上するように他の重み関数より大きな値でローパス特性を有する伝達関数として表わされる。また、W
2は低周波でのモデル化誤差に対するロバスト性を向上させるためにハイパス特性を有する伝達関数で表わされる。また、W
3はあらゆる周波数に対して一律に蓄電池の残容量の変動を適度に抑制するため定数で表わされる。また、W
4は高周波での制御入力を抑制するためにハイパス特性を有する伝達関数で表わされる。
【0123】
以上述べたように制御対象となるシステムの特性に応じて重み関数を定めた後、先述したH∞制御器である制御装置100は連続時間での伝達関数として求められる。こうして求められた伝達関数を、サンプリング周期Ts=0.01[s]で離散時間の伝達関数に変換したのち、状態空間表現に変換したものが
図9に示した状態空間方程式である。
【0124】
図9を参照して、ここでx[n]はステップnにおける5次元の列ベクトルで表わされる内部状態である。また、e[n]はステップnにおいてH∞制御器に入力されるフィードバック入力であり、具体的には、
【数3】
である。
【0125】
また、u[n]はステップnにおける制御装置の出力である。より詳細には、e
1は制御目標値と蓄電池199による出力値との偏差を表わす入力である。また、e
2は蓄電池199による出力値の積分値を表わす入力である。また、A
k、B
k、C
kは状態空間方程式における係数行列である。具体的には、A
k、B
k、C
kは、先述した非特許文献1等に示される計算により算出される値である。
【0126】
なお、本実施の形態に係る制御装置の設計方法によって設計されたH∞制御器である制御装置100についてのゲイン線図を
図10に示す。ゲイン線図は、横軸に対数で周波数をとり、縦軸に入力と出力の振幅比(ゲイン)の対数量[dB]をとった図である。
【0127】
より詳細には、
図10(A)は、入力e
1から制御装置100の出力uの間までのゲインを表すゲイン線図である。また、
図10(B)は、入力e
2から制御装置100の出力uの間までのゲインを表すゲイン線図である。なお、
図10(A)と
図10(B)とで、縦軸のスケールは共通である。
【0128】
図10(A)に示されるように、目標値と出力値との偏差を表わす入力e
1から制御装置100の出力uの間までのゲインは、1rad/secから10
6rad/secの範囲において高い値を示している。一方、
図10(B)に示されるように、出力の積分値を表わす入力e
2から制御装置100の出力uの間までのゲインは、
図10(A)に示される前者のゲインに比べ、全周波数において比較的低い値を示している。このことから、定性的には出力uは入力e
2よりも入力e
1を重視して制御されると言い換えてもよい。
【0129】
次に、本実施の形態に係る制御装置の設計方法により設計した制御装置100を備える電力制御装置190(
図2の制御構成を参照)において、
図4で示した負荷電力、発電装置電力、及び受電点電力目標値が入力された場合における、重み関数W
3の効果をシミュレーションした結果を
図11に示す。
【0130】
図11は、蓄電池199の残容量の変化量のシミュレーション結果を示す。
図11において、横軸は時間[秒]を、縦軸は蓄電池の蓄電容量の初期値からの差分[kWs]を示す。また、重み関数W
3を0にした時の、残容量の変化量を破線で示し、重み関数W
3を0.001にした場合の残容量の変化量を実線で示す。
【0131】
実線と破線とを比較することにより、重み関数W
3を有するH∞制御器により制御された蓄電池の残容量の方が、初期値からの差分が小さい(すなわち、残容量の変化量が小さい)ことが分かる。これは、先述したように、W
3を大きくすることで蓄電池の残容量の変動が小さくなったためである。このことにより、蓄電池の容量の過大な変化が少なくなることによって、蓄電池の劣化を抑える効果があることが分かる。
【0132】
一方で、重み関数W
3を導入することによって蓄電池の劣化を抑える効果の副作用として、目標値追従性能は悪化する方向に動くことが考えられる。前述したように、残容量変動抑制性と目標値追従性とはトレードオフの関係にあるためである。そこで、W
3の副作用を評価するため、目標値がはじめは0kWであり、2秒目以降は5kWであるという条件のもとで有効電力の買い入れ量のシミュレーションを行った。
【0133】
図12は、電力制御装置による制御の結果として、電気事業者から需要家が買い入れた有効電力の買い入れ量のシミュレーション結果を示す。
図12において、横軸は時間[秒]を、縦軸は有効電力の買い入れ量[kW]を示す。また、重み関数W
3を0にした場合の有効電力の買い入れ量を破線で示し、重み関数W
3を0.001にした場合の有効電力の買い入れ量を実線で示す。
【0134】
W
3=0の場合は、制御装置100は蓄電池199の残容量を考慮せず、制御目標値と出力値との偏差e
1だけに対して出力値の最適化を行う。その結果、有効電力の買い入れ量はほぼ一定している。したがって、制御目標値にあわせて出力値の制御が追従できていることが分かる。一方、W3=0.001の場合は、制御装置100は蓄電池199の残容量を考慮する。そのため、有効電力の買い入れ量は多少上下に振れている。
【0135】
ここで、30分よりも小さい50秒間で同時同量の値(出力の目標値からのかい離平均)を算出すると、W
3=0の場合には0.5149[%]となり、W
3=0.001の場合には2.6072[%]となる。すなわち、W
3=0.001の場合の方が、同時同量値が高い。したがって、制御装置100の設計に重み関数W
3を導入することにより、制御装置100の目標値追従性が悪化していることが分かる。しかし、W
3=0.001の場合でも50秒間同時同量が3%以下を達成していることから、30分同時同量も統計的に3%以下を達成することができると予測される。
【0136】
以上のシミュレーション結果から、重み関数W
3を導入した本実施の形態に係る制御装置の設計方法において、目標値追従性は多少下がるが、問題のないレベルで収まることが分かる。
【0137】
また、モデル化誤差に対するロバスト性を確認するシミュレーションを行うことにより、重み関数W
4の効果を確認した。シミュレーションの結果を
図13に示す。
【0138】
図13はプラントのモデルP(s)=1/(T
bs+1)へ意図的に変動を加えた場合の追従誤差のシミュレーション結果をプロットした図である。横軸は時間[秒]を、縦軸は追従誤差[W]を示す。
【0139】
シミュレーションにおいては、モデルP(s)へ、(s−1)/(s+1)で表される変動を加えた。この変動は全域通過関数と呼ばれる。変動を加えた結果、モデル化誤差のゲインは全周波数域で一定であり、位相だけが変化する。その結果、
図13に示される通り、W
4=0.001の場合と比較して、W
4=0の場合は追従誤差が非常に大きい。したがって、制御装置100の設計方法において重み関数W
4を使用することにより、ロバスト性が向上したことがわかる。
【0140】
以上のシミュレーション結果から、本発明の実施の形態に係る制御装置の設計方法により、残容量変動抑制性、目標値追従性、及びロバスト性の3つの性能を同時に適切なバランスで達成させる制御装置を設計可能であることが示された。
【0141】
なお、本実施の形態に係る制御装置の設計方法を使用する利点は、他にもある。従来の
PI制御器による制御装置では、ゲインを試行錯誤的に決定するしかない。しかし、H∞制御器を使用することにより、制御装置の性能と制御量との関連性が明確となる。したがって、制御装置の設計時の見通しがよくなる。設計時の見通しがよくなったことから、制御装置の設計を変更することも容易に実現できる。例えば、30分同時同量3%の条件を例えば0.3%以下などのより厳しい条件に変更する際には、W
1をより小さく、またW
3をより大きくするような調整で実現できることが容易にわかる。
【0142】
なお、本発明の実施の形態で説明した制御装置の設計方法に含まれる各ステップはコンピュータにより実行することも可能である。また、本発明の実施の形態で説明した制御装置の設計方法により設計された制御装置等は、コンピュータにより実現することも可能である。
【0143】
制御装置の設計方法に含まれる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム、及び、その設計方法により設計された制御装置100等が行う処理であるプログラムは、コンピュータで読取可能な媒体に記憶されたものが、コンピュータによって読み取られる。すなわち、このプログラムは、コンピュータに、蓄電池の蓄電量が制御目標値に適合するように、前記蓄電池が充電または放電すべき電力である出力値を制御するインバータへ充電または放電を指示するための出力指令値を出力する制御装置の設計方法であって、第1の制御量の判断に用いられる第1の閾値、第2の制御量の判断に用いられる第2の閾値、及び第3の制御量の判断に用いられる第3の閾値を決定する閾値決定ステップと、前記第1の制御量を算出するための第1の重み関数と、前記第2の制御量を算出するための第2の重み関数と、前記第3の制御量を算出するための第3の重み関数とを設定する重み関数設定ステップと、前記制御目標値と前記出力値との差分、及び前記出力値の積分値を入力とし、前記出力指令値を出力とする前記制御装置の伝達関数を決定する伝達関数決定ステップとを含み、前記伝達関数決定ステップにおいては、前記制御目標値と前記出力値との差分に前記第1の重み関数を乗じて得られる前記第1の制御量が前記第1の閾値よりも小さくなり、前記出力値に前記第2の重み関数を乗じて得られる前記第2の制御量が前記第2の閾値よりも小さくなり、かつ、前記出力値の積分値に前記第3の重み関数を乗じて得られる前記第3の制御量が前記第3の閾値よりも小さくなるように、H∞制御理論によって前記伝達関数を決定する制御装置の設計方法を実行させる。
【0144】
コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及びハードディスク等を含む。
【0145】
CPUは、読み取られたプログラムを実行する。ROMは、コンピュータの動作に必要なプログラムやデータを記憶する。RAMは、プログラム実行時のパラメータなどのデータを記憶する。ハードディスクは、プログラムやデータなどを記憶する。
【0146】
さらに、上記の制御装置の設計方法により設計された制御装置100等を構成する構成要素の一部又は全部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integrated Circuit:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0147】
さらにまた、上記の制御装置の設計方法により設計された制御装置100等を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしてもよい。ICカード又はモジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。ICカード又はモジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、ICカード又はモジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0148】
また、本発明は、上記に示す制御装置の設計方法により決定された伝達関数を記憶しているRAM、CPU、ROM等を備えた制御装置であるとしてもよい。
【0149】
さらに、本発明は、上記コンピュータプログラム又は上記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc(登録商標))、USBメモリ、SDカードなどのメモリカード、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている上記デジタル信号であるとしてもよい。
【0150】
また、本発明は、上記コンピュータプログラム又は上記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0151】
また、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムに従って動作するとしてもよい。
【0152】
また、上記プログラム又は上記デジタル信号を上記記録媒体に記録して移送することにより、又は上記プログラム又は上記デジタル信号を、上記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0153】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。