(54)【発明の名称】量子ドット蛍光体を含む組成物、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体、量子ドット蛍光体を含む構造物、発光装置、電子機器、機械装置及び量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形物が、フィルム、または少なくとも一部に凸状部を有するフィルム、あるいはレンズであることを特徴とする請求項3に記載の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を説明する。
【0028】
実施形態1
実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物は、所定の分散用樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させた構成となっている。上記分散用樹脂としては、シクロオレフィン(共)重合体を使用することができる。
【0029】
一般に、量子ドット蛍光体粒子の表面には、主に(A)凝集防止等を目的として有機不動態層がコア表面に配位されている。さらに、有機不動態層(シェルとも呼ばれる。)は、凝集防止以外に、(B)コア粒子を周囲の化学的環境から保護すること、(C)表面に電気的安定性を付与すること、(D)特定溶媒系への溶解性を制御することの役割を担う。
【0030】
また、上記有機不動態は、目的に応じて化学構造を選択できるが、例えば直鎖状または分枝鎖状の炭素数6〜18程度の脂肪族炭化水素を有する有機分子であってもよい。
【0031】
量子ドット蛍光体を分散用樹脂に分散させた場合、使用する樹脂によっては、量子ドット蛍光体の上記有機不動態層の機能を低下させ、具体的には凝集防止以外の上記(B)、(C)の機能も達成できない場合がある。例えば、分散用樹脂としてエポキシ樹脂を使用すると、含有するグリシジル基または酸無水物が有機不動態に含まれるアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基等と反応して、量子ドット蛍光体粒子の表面から有機不動態層を大きく乱す(例えば、当該層を引きはがす)可能性がある。また、分散用樹脂としてシリコーン樹脂を使用すると、シリコーン樹脂中に含有するSi−H基が上記アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基等と反応して、量子ドット蛍光体粒子の表面から有機不動態層を引きはがす可能性がある。また、分散用樹脂としてラジカル重合により製造される樹脂を使用すると、残留ラジカルが量子ドット蛍光体粒子の表面の有機不動態層の分子鎖と結合してコア・シェル構造を乱し、極端な場合には有機不動態層を引きはがしたり、あるいは有機不動態を分解する可能性がある。これらのことが、量子ドット蛍光体粒子の凝集、あるいは消光の原因となる。
【0032】
そこで、本発明者は、実施形態1において、分散用樹脂として上記有機不動態との反応性がない(低い)シクロオレフィン(共)重合体を使用し、これらの中に量子ドット蛍光体粒子を濃度0.01質量%〜20質量%の範囲で分散することにより、量子ドット蛍光体粒子における有機不動態の機能が格段と維持できることを見出した。なお、本明細書において「シクロオレフィン(共)重合体」とは、主鎖に脂環構造を有するモノマー単位を含む単独重合体または共重合体を意味する。
【0033】
実施形態1で使用されるシクロオレフィン(共)重合体は、シクロオレフィン類をモノマーとして重合させることにより得られ、工業的にはシクロオレフィン類として反応性の高いノルボルネン類が使用できる。そして、シクロオレフィン(共)重合体には、最近では石油分解油のC5留分中に豊富に含まれるジシクロペンタジエン(DCP)も原料として使われる(参考文献;『非晶質シクロオレフィンポリマー』小原著、次世代高分子設計(編集;遠藤剛、増田俊夫、西久保忠臣)、p221、アイ・ピー・シー出版、)。
【0034】
実施形態1において使用される樹脂として、好ましくは、例えば下記構造式(1)、(2)で表されるものが挙げられる。
【0036】
ここで、構造式(1)中のR
3は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基(アルキル基)、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。R
3としては、例えばメチル基、エチル基、nプロピル基、イソプロピル基、nブチル基、2―メチルプロピル基、nへプチル基、nヘキシル基が挙げられる。中でも、R
3は、メチル基または2メチルプロピル基が好ましい。
【0037】
構造式(1)中のR
4,R
5は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和の炭化水素基、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
4又はR
5の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよく、例えば、シクロアルカンまたはノルボルナンの環状構造を少なくとも1つ以上形成したものが挙げられる。ここで、x、yは0より大きく1より小さい実数であり、x+y=1の範囲から選ばれる。
【0038】
構造式(1)で示されるシクロオレフィンコポリマー(以後、COCタイプという。)は、例えばノルボルネン類を原料とし、メタロセン触媒等を利用してエチレン等との共重合により得られる。このCOCタイプポリマーとしては、例えば三井化学株式会社製APL5014DP(化学構造;―(C
2H
4)
x(C
12H
16)
y―;添字x、yは0より大きく1より小さい実数であり、共重合比を表す)等を使用することができる。
【0039】
また、構造式(2)中のR
1,R
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または塩素もしくはフッ素のハロゲン原子、ハロゲン原子が塩素原子もしくはフッ素原子であるトリハロメチル基からなる群から選ばれる一価基を表わす。また、R
1,R
2の炭化水素基は、隣り合う置換部位で互いに結合して5〜7員環の飽和炭化水素の環状構造を少なくとも1つ以上形成してもよく、例えば、シクロアルカンまたはノルボルナンの環状構造を少なくとも1つ以上形成したものが挙げられる。ここで、rは、正の整数である。
【0040】
また、構造式(2)で示されるシクロオレフィン(共)重合体(以後、COPタイプという。)は、例えばノルボルネン類を原料とし、グラブス触媒などを利用した開環メタセシス重合をした後、水素化することにより得られる。また、上記式中のrは、シクロオレフィンモノマー単位の繰り返し数を示す。このCOPタイプポリマーとしては、例えば日本ゼオン株式会社製ZEONEX480R等を使用することができる。
【0041】
このような非晶質シクロオレフィンポリマーは、種々のシクロオレフィンモノマー単位から1種選ばれた構造単位を有するホモポリマー又は少なくとも2種のシクロオレフィンモノマー単位を有するコポリマー(樹脂)として製造される。例えば、COPタイプポリマーの代表的な構造式として、以下の構造単位A〜構造単位Eが挙げられる。これらを組み合わせて、例えば、構造単位Cを40質量%と構造単位Eを60質量%を含むコポリマーを得ることもできる。
【0043】
以上に述べた樹脂(シクロオレフィン(共)重合体)は、分子中に上記有機不動態と反応する官能基や残留ラジカルが存在しないので、量子ドット蛍光体粒子の表面から有機不動態層の撹乱又は引きはがしがなく、有機不動態を分解することもない。また、これらの樹脂中での量子ドット蛍光体の分散性が高く、量子ドット蛍光体を均一に分散させることができる。
【0044】
樹脂中に量子ドット蛍光体を分散させる方法は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気下で樹脂を溶媒に溶解した溶液に、量子ドット蛍光体を分散媒に分散させた分散液を不活性ガス雰囲気下で加えて混練することが好ましい。その際に用いる分散媒は樹脂を溶解する溶媒であることが好ましく、分散媒と溶媒が同一であることがより好ましい。具体的にはトルエンが好適である。また、以上の工程で使用する不活性ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0045】
なお、実施形態1に適用される量子ドット蛍光体は、その粒径が1nm〜100nmを指し、数十nm以下の場合は、量子効果を発現する蛍光体である。量子ドット蛍光体の粒径は、さらに好ましくは2〜20nmの範囲内がよい。
【0046】
量子ドット蛍光体の構造は、無機蛍光体コア及びこの無機蛍光体の表面に配位したキャッピング層(炭化水素基を有する有機不動態層)から構成され、無機蛍光体のコア部(金属部)は有機不動態層によって被覆されている。
【0047】
(無機蛍光体)
無機蛍光体としては、例えば、II族−VI族化合物半導体のナノ結晶、III族−V族化合物半導体のナノ結晶等が挙げられる。これらのナノ結晶の形態は特に限定されず、例えば、InPナノ結晶のコア部分に、ZnS/ZnO等からなるシェル部分が被覆されたコア・シェル(core−shell)構造を有する結晶、またはコア・シェルの境が明確でなくグラジエント(gradient)に組成が変化する構造を有する結晶、あるいは同一の結晶内に2種以上の化合物結晶が部分的に分けられて存在する混合結晶または2種以上のナノ結晶化合物の合金等が挙げられる。
【0048】
化合物半導体の具体例としては、二元系では、II族−VI族化合物半導体として、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、またはHgTe等が挙げられる。また、III族−V族化合物半導体としては、GaN、GaP、GaAs、AlN、AlP、AlAs、InN、InP、またはInAs等が挙げられる。
【0049】
化合物半導体のより詳細な具体例としては、周期表の2族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の16族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、またはBaTeが挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0050】
また、化合物半導体のより詳細な具体例としては、周期表の12族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の16族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、またはHgTeが挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0051】
また、化合物半導体のより詳細な具体例として、周期表の12族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の15族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、Zn
3P
2、Zn
3As
2、Cd
3P
2、Cd
3As
2、Cd
3N
2、またはZn
3N
2が挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0052】
また、化合物半導体のより詳細な具体例として、周期表の13族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の15族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、BP、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlN、またはBNが挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0053】
また、化合物半導体のより詳細な具体例として、周期表の13族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の14族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、B
4C
3、Al
4C
3、Ga
4C
3が挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0054】
また、化合物半導体のより詳細な具体例として、周期表の13族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の16族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、Al
2S
3、Al
2Se
3、Al
2Te
3、Ga
2S
3、Ga
2Se
3、Ga
2Te
3、GaTe、In
2S
3、In
2Se
3、In
2Te
3、またはInTeが挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0055】
また、化合物半導体のより詳細な具体例として、周期表の14族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表の16族から選ばれる元素(第2元素)とからなり、例えば、PbS、PbSe、PbTe、SnS、SnSe、またはSnTeが挙げられる。また、前記元素からなる三元系もしくは四元系の化合物半導体であってもよく、ドープ元素を含んでもよい。
【0056】
本発明においては、周期表の遷移金属における任意の族から選ばれる元素(第1元素)と、周期表のd−ブロック元素の任意の族から選ばれる元素(第2元素)とからなるナノ粒子材料であってもよく、ナノ粒子材料は、NiS、CrS、またはCuInS
2を含むが、これに制限されない。
【0057】
また、三元系(三元相)の無機蛍光体は、前述したような族から選ばれた3つ元素を含む組成物であり、例えば、(Zn
xCd
x−1S)
mL
nナノ結晶(Lはキャッピング剤である)で表すことができる。また、四元系(四元相)の無機蛍光体は、前述したような族から選ばれた4つ元素を含む組成物であり、例えば、(Zn
xCd
x−1S
ySe
y−1)
mL
nナノ結晶(Lはキャッピング剤である)で表すことができる。
【0058】
これらの三元系や四元系としては、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe、GaNP、GaNAs、GaPAs、AlNP、AlNAs、AlPAs、InNP、InNAs、InPAs、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlPAs、GaInNP、GaInNAs、GaInPAs、InAlNP、InAlNAs、またはInAlPAs等が挙げられる。
【0059】
実施形態1で使用する無機蛍光体の調製方法は特に限定されないが、例えば、金属前駆体を用いる化学的湿式方法による調製方法が挙げられ、具体的には、所定の金属前駆体を、分散剤の存在下または分散剤の非存在下において、有機溶媒に加えて一定の温度で結晶を成長させる方法で製造することができる。
【0060】
(キャッピング剤)
次に、無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成する為の試剤)としては、炭素数2〜炭素数30、好ましくは炭素数4〜炭素数20、更に好ましくは炭素数6〜炭素数18の直鎖構造又は分岐構造を有する脂肪族炭化水素基を有する有機分子が挙げられる。
【0061】
無機蛍光体の表面に配位するキャッピング剤(有機不動態層を形成する為の試剤)は、無機蛍光体に配位するための官能基を有する。このような官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、水酸基、エーテル基、カルボニル基、スルフォニル基、ホスフォニル基またはメルカプト基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基が好ましい。
【0062】
尚、キャッピング剤は、無機蛍光体に配位するための官能基以外に、炭化水素基の中間または末端に、さらに官能基を有する場合がある。このような官能基としては、例えば、ニトリル基、カルボキシル基、ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、または炭素−炭素二重結合等が挙げられる。
【0063】
実施形態1の量子ドット蛍光体を含む組成物には、0.01質量%〜20質量%の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体が均一分散されている。また、実施形態1の量子ドット蛍光体を含む組成物には、好ましくは0.1質量%を超え15質量%未満、さらに好ましくは1質量%を超え10質量%未満の濃度範囲でシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体が均一分散されているのが良い。
【0064】
量子ドット蛍光体の濃度が0.01質量%未満の場合には、発光素子用の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体として十分な発光強度が得られず、好ましくない。一方、量子ドット蛍光体の濃度が20質量%を超える場合には、量子ドット蛍光体の凝集が起こる可能性があり、均一分散された量子ドット蛍光体分散樹脂成形体が得られず、好ましくない。
【0065】
(量子ドット蛍光体の調製方法)
実施形態1で使用する量子ドット蛍光体は、所望の化合物半導体のナノ結晶が得られる金属前駆体を用いてナノ結晶を製造した後、次いで、これをさらに有機溶媒に分散する。
【0066】
そして、ナノ結晶を所定の反応性化合物により処理することにより、無機蛍光体の表面に炭化水素基が配位した構造を有する量子ドット蛍光体を調製することができる。
【0067】
処理方法は、特に制限されず、例えば、ナノ結晶の分散液を反応性化合物の存在下に還流させる方法が挙げられる。
【0068】
本実施の形態で使用する量子ドット蛍光体において、無機蛍光体(コア部)表面を被覆する有機不動態層を構成する炭化水素基の量は特に限定されないが、通常、無機蛍光体1粒子(コア)に対し、炭化水素基の炭化水素鎖が2モル〜500モル、好ましくは10モル〜400モルで、更に好ましくは20モル〜300モルの範囲が良い。炭化水素鎖が2モル未満の場合は、有機不動態層としての機能を付与することができず、例えば蛍光体粒子が凝縮しやすくなる。一方、炭化水素鎖が500モルを超える場合は、コア部からの発光強度を低下させるだけでなく、無機蛍光体に配位できない過剰の炭化水素基が存在するようになり、液状封止樹脂の性能低下を引き起こしやすくなる傾向がある。また、量子ドットのコストアップとなってしまう。
【0069】
また、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を成形物に成形し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体としてもよい。この成形物は、光源から照射された光の少なくとも一部を吸収して、成形物中に含まれる量子ドット蛍光体から2次光を発光する成形物として有効な働きをする。量子ドット蛍光体を含む組成物の成形方法としては、例えば当該組成物を基材に塗布あるいは型に充填した後、上記不活性ガス雰囲気下で加熱乾燥により溶媒を除去し、必要に応じて基材または型から剥離する方法等がある。また、量子ドット蛍光体を含む組成物を、LEDチップを封止する封止材として使用することもできる。
【0070】
即ち、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法としては、シクロオレフィン(共)重合体を溶媒に溶解した溶液を調製する工程と、前記溶液に、前記成形体中の量子ドット蛍光体の濃度が0.01質量%〜20質量%の範囲となるように、量子ドット蛍光体を分散させて、次いで混練することにより量子ドット蛍光体を含む組成物を製造する工程と、前記量子ドット蛍光体を含む組成物を基材に塗布あるいは型に充填して、加熱乾燥する工程と、を備えたことを特徴とする。本発明においては、前記溶媒及び分散媒は制限なく使用できるが、好ましくはトルエン、キシレン(o−、m−又はp−)、エチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素系溶媒が使用できる。また、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン(o−、m−又はp−)、トリクロルベンゼン等の塩素系炭化水素溶媒も使用できる。
【0071】
上記加熱乾燥等により量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を製造、あるいはさらにその後、加圧成形により、樹脂レンズ、樹脂板及び樹脂フィルム等を製造することができる。
【0072】
また、以上に述べた量子ドット蛍光体分散樹脂組成物またはその成形体は、例えば植物育成用照明、有色照明、白色照明、LEDバックライト光源、蛍光体入り液晶フィルタ、蛍光体含有樹脂板、育毛機器用光源、通信用光源等に適用することもできる。
【0073】
図1には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の少なくとも一部に使用した発光装置の例の断面図が示される。
図1において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、封止材16,17を含んで構成されている。必要に応じて、発光装置100の上部に樹脂レンズ20が配置される。
【0074】
上記カップ14は、適宜な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、上記LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、封止材16は、量子ドット蛍光体18が分散された上記量子ドット蛍光体を含む組成物で形成することができる。これらにより、例えばLEDチップ10からの発光を使用して封止材16から白色光を出す白色光源等を形成することができる。また、封止材17は、LED、リード線等を封止しており、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂等の、LEDの封止樹脂として通常使用される樹脂により構成されている。これらの封止材16及び封止材17の製造は、アルゴンガス雰囲気下で、まずカップ14内にエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂等を所定量注入し、公知の方法により固化して封止材17を形成し、その後封止材17上に量子ドット蛍光体を含む組成物を注入し、加熱乾燥することにより封止材16を形成することにより実施することができる。
【0075】
また、カップ14に収容された封止材16の上方に、上記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)、または少なくともその一部に凸状部を有するフィルムまたは均一な膜厚を有するフィルムを配置し、樹脂レンズ20から光を放射する構成としてもよい。この場合には、封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させなくてもよい。なお、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合の、当該封止材16の厚みは、0.01mm以上0.4mm未満であることが好ましい。当該封止材16の厚みが0.4mmを超える場合は、カップ14の凹部内の深さにも依存するものの、当該封止材16をカップ14の凹部内に封止する際にリード電極12に接続しているワイヤーに過大な負荷を与えてしまい、好ましくない。また、量子ドット蛍光体を含む組成物をLEDチップの封止材の少なくとも一部に使用した場合の、当該封止材16の厚みが、0.01mm未満であると、蛍光体を含む封止材として十分ではない。
【0076】
封止材16中に量子ドット蛍光体18を分散させない場合には、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成されたレンズ状の樹脂20(樹脂レンズ20)を配置するのが好ましい。
【0077】
図2には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図2は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材に使用しない発光装置の例である。この場合、レンズ状の樹脂(樹脂レンズ20)は、量子ドット蛍光体18を、濃度0.01質量%〜20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散させた組成物を成形した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体により形成される。
【0078】
図3には、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物及び量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を使用した発光装置の例の断面図が示され、
図1と同一要素には同一符号を付している。
図3は、実施形態1にかかる量子ドット蛍光体を含む組成物を封止材の一部に使用し、その上部に量子ドット蛍光体分散樹脂成形体からなる樹脂レンズ20を配置した発光装置の例である。この場合においても、いずれの樹脂にも、量子ドット蛍光体18が濃度0.01質量%〜20質量%の範囲でシクロオレフィン(共)重合体に分散されて形成される。
【0079】
また、上記
図1、
図2及び
図3に示された発光装置は、量子ドット蛍光体の消光を抑制でき、発光装置として安定した動作が維持できるので、この発光装置を組み込んだ携帯電話、ディスプレイ、パネル類等の電子機器や、その電子機器を組み込んだ自動車、コンピュータ、ゲーム機等の機械装置類は、長時間安定した駆動が可能である。
【0080】
実施形態2
図4には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物の一例の断面図が示される。
図4において、量子ドット蛍光体を含む構造物は、量子ドット蛍光体18が分散用樹脂中に濃度0.01質量%〜20質量%の範囲で分散されている量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22と、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の全面を被覆し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22への酸素等の透過を低減するガスバリア層24とを含んで構成されている。なお、他の実施形態において、ガスバリア層24は、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の表面の一部を被覆する構成であってもよい(
図6、
図7参照)。また、上記ガスバリア層24は、酸素の他、水蒸気の透過を低減できるものであることが好ましい。ここで、ガスバリア層24とは、量子ドット蛍光体を含む構造物の近傍で発光ダイオード(LED)を2000時間連続発光させた場合における量子ドット蛍光体18の分光放射エネルギーが初期値の70%以上を維持できる程度に量子ドット蛍光体18を酸素等から保護できる層をいう。なお、上記分光放射エネルギーは、量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。
【0081】
上記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22を構成する分散用樹脂には、例えば実施形態1で説明したシクロオレフィン(共)重合体を使用することができる。また、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の製造方法としては、実施形態1において説明した量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の製造方法を適用できる。
【0082】
また、上記ガスバリア層24としては、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層により構成され、またはエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂もしくはポリビニリデンクロライドの層の少なくとも一方の面にシリカ膜またはアルミナ膜を形成した層により構成することができる。これらの材料は、いずれもガスバリア性が高いので、これらを使用してガスバリア層24を構成することにより、量子ドット蛍光体18を酸素等から保護することができる。
【0083】
なお、以上の量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22及びガスバリア層24を構成する各樹脂は、いずれも光透過性を有しており、発光ダイオードが発生した光を量子ドット蛍光体18まで、及び量子ドット蛍光体18で波長が変換された光を量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22の外部まで透過することができる。
【0084】
上記ガスバリア層24に使用されるエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、下記構造式で表される。
【0086】
上記エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、公知の方法で製造できるが、例えばエチレンと酢酸ビニル等のビニルエステルとを原料とし、アルコール類等の溶媒中で、アゾニトリル系開始剤または有機過酸化物系開始剤等を利用して共重合し、エチレン・ビニルエステル共重合体を製造し、次いでアルカリ触媒を添加し、上記共重合体中のビニルエステル成分をケン化することにより得られる。また、上記式中のm、nは0より大きく1より小さい実数であり、各繰り返し単位のポリマー中の共重合比率(mがビニルアルコール、nがエチレン)を示す。ここで、m+n=1である。なお、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂のエチレンの共重合比率は、20〜35mol%が、本実施例に必要なガスバリア性を確保する点で好適である。
【0087】
また、上記ガスバリア層24に使用されるポリビニリデンクロライドは、下記構造式で表されるが、少量の塩化ビニル等と共重合したものを使用することもできる。
【0089】
上記ポリビニリデンクロライドは、公知の方法で製造できるが、例えば1,2−ジクロロエタンを、水酸化カルシウムまたは水酸化ナトリウムを使用した脱塩酸反応でモノマーを得、精製後これに乳化剤を加えながら重合し製造することができる。また、上記式中のqは、正の整数であり、モノマー単位の繰り返し数を示す。
【0090】
以上に述べた各樹脂により実施形態2にかかるガスバリア層24を構成することができる。なお、ガスバリア層24には、後述する
図5に示されるように、表面の少なくとも一方の面に、シリカ膜またはアルミナ膜を蒸着により形成してもよい。シリカ膜またはアルミナ膜を形成することにより、酸素等の透過率をより低減できるからである。
【0091】
なお、実施形態2に適用される量子ドット蛍光体は、実施形態1と同じものを使用することができる。
【0092】
図5には、ガスバリア層24の一例の部分断面図が示される。
図5において、ガスバリア層24には、シリカまたはアルミナの蒸着により補助膜26が形成されている。ここで、蒸着方法としては、例えば原子層堆積法等の従来公知の方法を採用できる。なお、
図5においては、ガスバリア層24の一方の面(図では上の面)に補助膜26が形成されているが、両方の面(図の上下の面)に補助膜26を形成してもよい。
【0093】
以上に述べたガスバリア層24の厚さは、0.5nm〜20μmの範囲が好適である。0.5nmより薄いとガスバリア性が十分に得られず、また20μmより厚いとLEDから放出される光の取り出し効率が阻害されるためである。
【0094】
また、補助膜26の厚さは、10nm〜20nmの範囲が好適である。10nmより薄いと十分な機械強度が得られず、20nmより厚いと屈折率の影響が顕著に表れ、光の取り出し効率を低下させるためである。
【0095】
図6には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の一例の断面図が示される。
図6において、発光装置100は、LEDチップ10、リード電極12、カップ14、量子ドット蛍光体18が分散されている封止材16、量子ドット蛍光体18が分散されていない封止材17及びガスバリア層24を含んで構成されている。
図6の例では、カップ14の蓋として上記ガスバリア層24が使用されている。また、封止材16は、実施形態1で説明した量子ドット蛍光体を含む組成物から成形した上記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22により構成されている。上記封止材16及び封止材17は、
図1の場合と同様にして製造できる。これらの構成要素のうち、量子ドット蛍光体18、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体22、ガスバリア層24は上述した通りである。
【0096】
上記LEDチップ10は限定されないが、量子ドット蛍光体と協働して適宜な波長の光源を構成する発光ダイオードを使用することができる。また、カップ14は、適宜な樹脂またはセラミックスにより形成することができる。また、封止材17は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂等により形成され、LEDチップ10、リード電極12等を封止する。
【0097】
図6に示された構成では、カップ14の蓋がガスバリア層24で形成されており、封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。
【0098】
また、ガスバリア層24は上述した光透過性樹脂で構成されているので、LEDチップ10からの光は、封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18で白色光等に変換された後、ガスバリア層24から外部に取り出される。
【0099】
図7には、実施形態2にかかる量子ドット蛍光体を含む構造物を応用した発光装置の他の例の断面図が示され、
図6と同一要素には同一符号を付している。
図7の例では、カップ14の表面(
図6の蓋の部分を含む)と、カップ14の外に露出しているリード電極12の表面がガスバリア層24により被覆されている。なお、リード電極12の表面は、その一部がガスバリア層24により被覆されずに露出している。これは、例えば実装基板上の電源供給経路との間で電気的に導通をとるためである。
【0100】
本例でも、ガスバリア層24が封止材16の図における上面を被覆している。これにより、酸素等が封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18まで浸透することを回避あるいは低減することができる。
【0101】
また、LEDチップ10からの光の一部は、封止材16中に分散された量子ドット蛍光体18で他の波長の光に変換された後、LEDチップ10からの光と混合され、ガスバリア層24を透過して外部に取り出される。
【0102】
上記
図4で説明した量子ドット蛍光体を含む構造物は、例えば植物育成用照明、有色照明、白色照明、LEDバックライト光源、蛍光体入り液晶フィルタ、蛍光体含有樹脂板、育毛機器用光源、通信用光源等に適用することができる。
【0103】
また、上記
図6、
図7に示された発光装置は量子ドットの寿命を長くでき、発光装置として長時間安定した動作が維持できるので、この発光装置を組み込んだ携帯電話、ディスプレイ、パネル類等の電子機器や、その電子機器を組み込んだ自動車、コンピュータ、ゲーム機等の機械装置類は、長時間安定した駆動が可能である。
【実施例】
【0104】
以下、本発明の具体例を実施例として説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0105】
実施例中において、量子効率及び分光放射エネルギーは、大塚電子製量子効率測定装置QE−1000により測定した。なお、上記分光放射エネルギーは、本実施例で使用した量子ドット蛍光体の蛍光波長における放射エネルギーである。
【0106】
実施例1
50mLガラス製スクリューボトルに、アルゴンガス雰囲気下、COPタイプのシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製、ZEONEX480R;構造式(2)を含む非晶質樹脂)5gと、真空凍結脱気した後にアルゴンガス雰囲気下で保存した脱水トルエン(和光純薬工業株式会社製)5gとを仕込み、室温下ローラー式攪拌機上で撹拌することで溶解させ、樹脂溶液ZT50−1を得た。
【0107】
得られた樹脂溶液ZT50−1に、82mg/mlに調製された量子ドット蛍光体のトルエン分散液3.05gをアルゴンガス雰囲気下で加えた。ここで量子ドット蛍光体の分子構造としては、コア・シェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSで、ミリスチン酸をキャッピング剤として用いたナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのものを用いた。その後、株式会社シンキー社製自転・公転式撹拌装置ARV310−LEDを用いて十分に混練し、量子ドット蛍光体をシクロオレフィンポリマーに対して5質量%含有した分散液(量子ドット蛍光体を含む組成物)Q5ZT50−1を得た。その分散液をポリメチルペンテン製シャーレ上に置いたシリコーンリング(外径55mm×内径50mm×厚1mm)の内側に注ぎ込んだ。そのままアルゴンガス雰囲気下で風乾させ板状の成形物を得た後に、窒素ガスを流通させたイナートオーブン中で、40℃の温度で5時間乾燥させることにより溶媒を完全に除去し、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−1を得た。
【0108】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、上記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−1の表面にサランレジンF310(旭化成ケミカル株式会社製、主成分:ポリ塩化ビニリデン)を5質量%含む酢酸エチル溶液を塗布・乾燥させてガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−1を得た。ガスバリア層の厚みは17μmであった。このAZSQ−1の量子効率を大塚電子(株)製量子効率測定装置QE−1000を用いて測定したところ74%であった。この値は、元になった量子ドット蛍光体トルエン分散液で同様の測定をした場合に得られる量子効率80%と遜色のない結果である。結果を表1に示す。
【0109】
また、AZSQ−1を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.42(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.38(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して90%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0110】
実施例2
実施例1で得た量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−1を180℃に加熱したプレス機を用いて、20MPaのプレス圧で加工し、100μmの厚みを持った量子ドット蛍光体を含む樹脂フィルムFZSQ−1を得た。
【0111】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、サランレジンF310(旭化成ケミカル株式会社製)を5質量%含む酢酸エチル溶液を上記量子ドット蛍光体を含むフィルムFZSQ−1の表面に塗布・乾燥させ、ガスバリア層が形成された量子ドット蛍光体を含む構造物AFZSQ−1を得た。ガスバリア層の厚みは10μmであった。
【0112】
上記構造物AFZSQ−1につき、実施例1と同様の測定を実施したところ、量子効率は76%と良好な値を示した。結果を表1に示す。また、構造物AFZSQ−1につき、実施例1と同様にして測定した発光初期における分光放射エネルギーは0.39(mW/nm)であり、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.35(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して90%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0113】
実施例3
アルゴンガス雰囲気下、22mW、450nmの青色LEDが実装されたカップ内に、実施例1で得られたQ5ZT50−1をピペッターを用いて2.0μL注入し、2時間風乾させ、その後40℃に保ったホットプレート上で5時間保ち、LEDパッケージを作製した。次に、実施例2と同様にして、封止材の表面にガスバリア層を形成した。ガスバリア層の厚みは20μmであった。
【0114】
大気下、上記LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.41(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.34(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期値の83%を保っていた。結果を表1に示す。
【0115】
実施例4
実施例1に記載のZEONEX480Rを三井化学社製のアペル樹脂(品番L5014DP、構造式(1)を含む樹脂)に替えた以外は実施例1と同様に実施して、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−2を得た。
【0116】
次に、量子ドット蛍光体を大気から保護するために、実施例1と同様にして、上記量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−2の表面にガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−2を得た。このAZSQ−2の量子効率を公知の方法で測定したところ75%であった。そして、この量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−1を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.43(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.39(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して90%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0117】
実施例5
実施例1に記載のCOP中の量子ドット含有濃度(質量%)を20質量%に替えた以外は、実施例1と同様に実施して、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−3を得た。
【0118】
次に、実施例4と同様にして、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−3の表面にガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−3を得た。このAZSQ−1の量子効率を公知の方法で測定したところ74%であった。そして、この量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−3を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.70(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.63(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して90%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0119】
実施例6
実施例1に記載のCOP中の量子ドット含有濃度(質量%)を0.01質量%に替えた以外は、実施例1と同様に実施して、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−4を得た。
【0120】
次に、実施例4と同様にして、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体ZSQ−4の表面にガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−4を得た。このAZSQ−1の量子効率を公知の方法で測定したところ75%であった。そして、この量子ドット蛍光体を含む構造物AZSQ−4を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.13(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.12(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して90%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0121】
実施例7〜9
ガスバリア層をエバールM100B(株式会社クラレ製、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン共重合比率24mol%)を用いて形成させた以外は実施例1〜3と同様の操作を実施した。ガスバリア層の厚みは20μmであった。
【0122】
実施例7、実施例8では量子効率を測定し、実施例7が75%、実施例8が72%と良好な結果であった。結果を表1に示す。また、実施例8では、形成したAFZSQ−5を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。また、実施例9では、大気下、LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが実施例8で0.43(mW/nm)、実施例9で0.46(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは実施例8で0.37(mW/nm)、実施例9で0.36(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して、実施例8で86%、実施例9で78%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0123】
実施例10〜12
実施例1〜3でそれぞれ得られたAZSQ−1、AFZSQ−1およびLEDパッケージに形成したガスバリア層の表面に、原子層堆積法により20nmのシリカ層を形成させ、同様の測定を実施した。
【0124】
実施例10、実施例11では量子効率を測定し、実施例10が73%、実施例11が76%と良好な結果であった。結果を表1に示す。また、実施例11では、青色LEDを大気下で2000時間連続して発光させた。また、実施例12では、大気下、LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが実施例11で0.39(mW/nm)、実施例12で0.46(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは実施例11で0.36(mW/nm)、実施例12で0.45(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して、実施例11で92%、実施例12で98%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0125】
実施例13〜15
実施例7〜9で得られたそれぞれのガスバリア層の表面に、実施例10〜12と同様にして原子層堆積法により20nmのシリカ層を形成させ、同様の測定を実施した。
【0126】
実施例13、実施例14では量子効率を測定し、実施例13が73%、実施例14が74%と良好な結果であった。結果を表1に示す。また、実施例14では、青色LEDを大気下で2000時間連続して発光させた。また、実施例15では、大気下、LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが実施例14で0.41(mW/nm)、実施例15で0.44(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは実施例14で0.37(mW/nm)、実施例15で0.39(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して、実施例14で90%、実施例15で89%という高い値を保っていた。結果を表1に示す。
【0127】
比較例1
50mLシュレンク管にアルゴンガス雰囲気下、82mg/mlに調製された量子ドット蛍光体のトルエン分散液3.05gを採取した。ここで量子ドット蛍光体の分子構造としては、コアシェル構造を有し、コアがInP、シェルがZnSであるナノ粒子であって、コアの直径2.1nmのものを用いた。真空乾燥させることでトルエンを除去した後に、アルゴンガス雰囲気下でSCR1011A 2.5(g)およびSCR1011B2.5(g)(ともに2液タイプの熱硬化型シリコーン樹脂、信越化学株式会社製)を加えよく混合させ、量子ドット蛍光体を上記熱硬化型シリコーン樹脂に対して5質量%含有した樹脂溶液SiQDを得た。ここで得られた樹脂溶液SiQDをアルゴンガス雰囲気下、22mW、450nmの青色LEDが実装されたカップ内にピペッターを用いて2.0μL注入した。その後70℃に保ったホットプレート上で1時間保ち、さらにホットプレートの温度を120℃として5時間加熱をすることでLEDパッケージを作製した。次に、実施例2と同様にして、封止材の表面にガスバリア層を形成した。ガスバリア層の厚みは20μmであった。
【0128】
大気下、上記LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.37(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.02(mW/nm)であった。従って、2000時間後の蛍光強度は初期値の5%と大幅に低下していた。結果を表2に示す。
【0129】
比較例2
実施例4に記載の量子ドット含有濃度(質量%)を0.008質量%に替えた以外は、実施例4と同様に実施して、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を得た。
【0130】
次に、実施例4と同様にして、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の表面にガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物の量子効率を公知の方法で測定したところ75%であった。そして、この量子ドット蛍光体を含む構造物を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.09(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは測定限界以下であった。結果を表2に示す。
【0131】
比較例3
実施例4に記載の量子ドット含有濃度(質量%)を23質量%に替えた以外は、実施例4と同様に実施して、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体を得た。
【0132】
次に、実施例4と同様にして、量子ドット蛍光体分散樹脂成形体の表面にガスバリア層を形成し、量子ドット蛍光体を含む構造物を得た。この量子ドット蛍光体を含む構造物の量子効率を公知の方法で測定したところ74%であった。そして、この量子ドット蛍光体を含む構造物を22mW、450nmの青色LEDパッケージ上に配置して、大気下で2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.81(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.40(mW/nm)であった。従って、2000時間経過後の分光放射エネルギーは初期の値に対して49%と低い値を示した。また、量子ドットの蛍光体の凝集が観測された。結果を表2に示す。
【0133】
比較例4
封止材の表面に、ガスバリア層の代わりにPETフィルムの層を形成した他は実施例3と同様の操作でLEDパッケージを作製した。なお、PETフィルムには、上記各実施例におけるガスバリア層と同程度のガスバリア性は無い(ガスバリア性が低い)。
【0134】
大気下、上記LEDパッケージに20mAの電流を流し、2000時間連続して発光させた。LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが0.23(mW/nm)であったのに対し、2000時間経過後の分光放射エネルギーは0.02(mW/nm)であった。従って、2000時間後の分光放射エネルギーは初期値の9%まで低下していた。結果を表2に示す。なお、本比較例4では、LEDの発光初期における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーも各実施例より小さかった。これは、各実施例のガスバリア層に対応する層が存在しない(PETフィルムのガスバリア性が不十分)ため、酸素等により短時間で量子ドット蛍光体が劣化したからである。
【0135】
【表1】
【表2】
【0136】
実施例1〜6では、LEDを2000時間連続して発光させた場合における量子ドット蛍光体の分光放射エネルギーが初期の値に対して80%以上となっており、比較例1〜3と較べて高い値となっている。この結果から、熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体を濃度0.01質量%〜20質量%の範囲で分散させることにより、量子ドット蛍光体の消光を抑制できることがわかる。
【0137】
また、実施例1〜15では、2000時間連続して発光させた場合の分光放射エネルギーが初期の値に対して70%以上となっており比較例4と較べて高い値となっている。この結果から、熱可塑性樹脂であるシクロオレフィン(共)重合体中に量子ドット蛍光体を分散させ、ガスバリア層を形成することにより量子ドット蛍光体の寿命を長くすることができることがわかる。