(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マルトースと比較してグルコースに対する改善された特異性を有し、かつグリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有するPQQ依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC1.1.5.2)の変異体であって、前記変異体は、
a) 変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異
b) 変異体のグルコースに対する親和性を改善するための少なくとも1つの変異、および任意に
c) マルトースと比較してグルコースに対する変異体の特異性をさらに改善するための1つ以上の変異
をさらに含み、
安定性を改善するための前記変異は、D87R;N122K;S124K;S146G;V298LおよびL386Fからなる群より選択され、
グルコースに対する親和性を改善するための前記変異は、Q246Nであり、
マルトースと比較してグルコースに対する変異体の特異性を改善するための前記変異は、Q145P;L169F;Y171G;E245D;A294DまたはE;V300A、S、N、YまたはI;T323V;R378I、M、AまたはD;N428Pおよび挿入429Pからなる群より選択され、
これらの位置はA.カルコアセチカスs-GDH野生型配列(配列番号:2)により知られたアミノ酸位置に対応し、記変異体は、配列番号:2に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、変異体。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
血中グルコース濃度の測定は、臨床診断および糖尿病の管理において極めて重要である。WHOによると、世界中でおよそ15000万人が慢性疾患真性糖尿病を患っており、数値は2025年までに倍増する可能性がある。糖尿病は容易に診断および治療されるが、首尾よい長期管理には、血中グルコース濃度を速く正確に報告する低コスト診断ツールを必要とする。PQQ-依存性グルコース脱水素酵素(EC 1.1.5.2)は、グルコースがグルコノラクトンに酸化される反応を触媒する。その結果、この型の酵素は、血糖の測定に使用される。これらのツールの1つは、最初にアシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)に元々由来するピロロキノリンキノン含有酵素である可溶性グルコース脱水素酵素(s-GlucDOR、EC 1.1.5.2)に基づいた診断片である。
【0003】
キノタンパク質は、アルコール、アミンおよびアルドースを、その対応するラクトン、アルデヒドおよびアルドール酸(aldolic acid)に酸化するための補因子としてキノンを使用する(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7。キノタンパク質の中で、非共有結合補因子2,7,9-トリカルボキシ-1H-ピロロ[2,3-f]キノリン-4,5-ジオン(PQQ)を含むものは、最大のサブグループを構成する(Duine 1991、上記)。これまでに知られているすべての細菌キノングルコース脱水素酵素は、補因子としてPQQを有するこのサブグルーブに属する(AnthonyおよびGhosh 1997上記;非特許文献8;非特許文献9)。
【0004】
2つの型のPQQ-依存性グルコース脱水素酵素(EC 1.1.5.2)が細菌において特性付けされている:1つは膜結合(m-GDH)であり、他方は可溶性(s-GDH)である。両方の型は、有意な配列相同性を共有しない (非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12。また、これらは、速度論および免疫学的特性の両方に関して異なる(非特許文献13)。m-GDHはグラム陰性細菌に広く見られるが、s-GDHは、A.カルコアセチカス(Duine, J.A.、1991a;非特許文献14;MatsushitaおよびAdachi、1993)ならびにA.バウマンニ(JP 11243949)などのアシネトバクター菌株のペリプラズム空間にしか見られない。
【0005】
配列データベースの検索により、完全長のA.カルコアセチカスs-GDHに相同な2つの配列が大腸菌K-12およびシアノバクテリア(Synechocystis)種において同定された。さらに、A.カルコアセチカスs-GDHに相同な2つの不完全配列もまた、それぞれ、緑膿菌(P. aeruginosa)および百日咳菌(Oubrie et al. 1999 a、b、c)ならびにエンテロバクター・インターメディウム(Enterobacter intermedium)(非特許文献15)のゲノムに見られた。これらの4つの非特性付けタンパク質の推定アミノ酸配列は、絶対的に保存された推定活性部位に多くの残基を有するA.カルコアセチカスs-GDHと密接に関連している。これらの相同タンパク質は、同様の構造を有し、同様のPQQ-依存性反応を触媒する可能性がある(Oubrie et al.、1999 a、b、c;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18)。
【0006】
細菌のs-GDHおよびm-GDHは、全く異なる配列および異なる基質特異性を有することがわかった。例えば、A.カルコアセチカスは、2つの異なるPQQ-依存性グルコース脱水素酵素を含み、一方はm-GDHと示され、インビボで活性であり、他方はインビトロ活性のみが示され得るためs-GDHと示される。Cleton-Jansen et al., 1988;1989 a, bによって、この2つのGDH酵素をコードする遺伝子がクローニングされ、これらのGDH遺伝子の両方のDNA配列が決定された。m-GDHとs-GDHとの間に明白な相同性はなく、m-GDHおよびs-GDHが2つの完全に異なる分子を表すという事実を確証する(非特許文献19)。
【0007】
A.カルコアセチカス由来のs-GDHの遺伝子は、大腸菌においてクローニングされた。該細胞で産生された後、s-GDHは細胞質膜からペリプラズム空間内に転位される(非特許文献1;非特許文献20)。A.カルコアセチカス由来の天然s-GDHのように、大腸菌において発現された組換えs-GDHはホモ二量体であり、1つのPQQ分子および1つの単量体あたり3つのカルシウムイオンを有する(非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25;非特許文献12;非特許文献26)。s-GDHは、広範な単糖類および二糖類を対応するケトンに酸化し、該ケトンはアルドン酸にさらに加水分解し、また、s-GDHは、PMS (メト硫酸(metosulfate)フェナジン)、DCPIP (2,6-ジクロロフェノールインドフェノール)、WB (ウルスターブルー)ならびにユビキノンQ1およびユビキノンQ2などの短鎖ユビキノン(非特許文献27;非特許文献28)、メチル硫酸N-メチルフェナゾニウムなどのいくつかの人工電子受容体(非特許文献24;非特許文献29)ならびに電気伝導性ポリマー(非特許文献30)に電子を供与し得る。s-GDHのグルコースに対する高い比活性(Olsthoorn、A.J. およびDuine, J.A.、(1996) 上記) ならびにその広範な人工電子受容体特異性を考慮すると、該酵素は、分析的適用、特に、診断的適用におけるグルコース測定のための(バイオ-)センサーまたは試験片に使用されるのに充分適している(非特許文献31;非特許文献32)。
【0008】
グルコース酸化は、少なくとも3種類の全く異なる群の酵素、すなわち、NAD/P-依存性グルコース脱水素酵素、フラボタンパク質グルコースオキシダーゼまたはキノタンパク質GDHによって触媒され得る(非特許文献33)。還元s-GDHのかなり遅い自己酸化が観察され、酸素がs-GDHの非常に不充分な電子受容体であることを示す(OlsthoornおよびDuine、1996)。s-GDHは、還元キノンからの電子を、PMS、DCPIP、WBならびにQ1およびQ2などの短鎖ユビキノンなどのメディエータに効率的に供与し得るが、酸素に直接電子を効率的に供与し得ない。
【0009】
例えば、糖尿病患者由来の血液、血清および尿中のグルコースレベルのモニタリングのための伝統的な試験片およびセンサーは、グルコースオキシダーゼを使用する。該酵素の性能は酸素濃度に依存性である。空気中に異なる酸素濃度を有する異なる高度でのグルコース測定は、誤った結果をもたらし得る。PQQ-依存性グルコース脱水素酵素の主な利点はその酸素非依存性である。この重要な特徴は、例えば、特許文献1に記載されており、膜結合GDHのいくつかの特徴が調査されている。
【0010】
当該分野に対する重要な寄与は、適切なメディエータと合わせてのs-GDHの使用であった。s-GDHに基づくアッセイ方法および試験片デバイスが特許文献2に詳細に開示されている。この特許はまた、グルコースの測定のためのアッセイの設定およびs-GDH系試験片の作製に関する詳細な情報を含む。そこに記載された方法ならびに引用された文献に記載された方法は、参照により本明細書に含まれる。
【0011】
当該分野に関し、グルコース脱水素酵素活性を有する酵素のための適用の種々の様式の具体的な情報を含む他の特許または出願は、特許文献3;特許文献4;特許文献5;および特許文献6である。
【0012】
s-GDHおよび反応が起こると色変化をもたらすインジケータを使用する市販のシステム (Kaufmann, et al.、1997、上記)は、Roche Diagnostics GmbHによって販売されているGlucotrend(登録商標)システムである。
【0013】
PQQ 依存性s-GDHの使用のための上記の利点にもかかわらず、グルコースの測定において、不都合もまた考慮されなければならない。該酵素は、m-GDHと比べると、かなり広い基質範囲を有する。すなわち、s-GDHは、グルコースだけでなく、マルトース、ガラクトース、ラクトース、マンノース、キシロースおよびリボースを含むいくつかの他の糖類も酸化する(Dokter et al. 1986 a;非特許文献16)。グルコース以外の糖類に対する反応性は、ある種の場合では、血中グルコースレベルの測定の精度を損ない得る。イコデキストリン(グルコースポリマー)で治療されている腹膜透析をしている特定の患者では、その体液、例えば血液中に高レベルの他の糖類、特にマルトースが含有され得る (非特許文献34)。
【0014】
したがって、例えば、糖尿病患者から、特に腎合併症を有する患者から、特に透析中の患者から得られるものなどの臨床試料は、有意なレベルの他の糖類、特にマルトースを含有し得る。かかる危篤な患者から得られた試料中のグルコース測定は、マルトースによって損なわれ得る(非特許文献35)。
【0015】
文献において、改変された基質特異性を有する修飾PQQ依存性s-GDHを作製する試みに関するいくつかの報告がある。非特許文献36は、Glu277の位置への点変異の導入は、改変された基質特異性プロフィールを有する変異体をもたらすことを報告する。
【0016】
特許文献7は、s-GDH内のある種のアミノ酸置換が、グルコースに対して改善された親和性を有する変異体s-GDHをもたらすことを報告する。特許文献8では、同じ著者が、改善された安定性を有する変異体s-GDHに関して報告する。さらに、同じ著者が特許文献9において、グルコースに対して改善された親和性を有する他のs-GDH変異体に関して報告する。
【0017】
特許文献10は、他の糖基質、特にマルトースと比較したグルコースに対するs-GDHの特異性が、s-GDHの特定の位置におけるアミノ酸置換によって改善され得ることを報告する。中心的で重要なのは、アミノ酸348位における置換である。例えば、野生型s-GDHに存在するようなトレオニンの代わりに348位にグリシンを含む変異体s-GDHは、例えば基質マルトースと比べて、基質グルコースに対して大いに改善された選択性を有する。これらはまた、348位および428位に置換を有する二重変異体が、グルコースに対してさらにより改善された特異性を有することを開示する。
【0018】
特許文献11において、s-GDHのアミノ酸428と429の間へのアミノ酸挿入は、特に、348位における適切なアミノ酸置換と組合せて、基質特異性に対してかなり好ましい効果を有することが示されている。この挿入を含む変異体は、例えば、基質マルトースと比べ、基質グルコースに対してより特異的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】US 6,103,509
【特許文献2】US 5,484,708
【特許文献3】US 5,997,817
【特許文献4】US 6,057,120
【特許文献5】EP 0 620 283
【特許文献6】JP 11-243949-A
【特許文献7】Sode、EP 1 176 202
【特許文献8】EP 1 167 519
【特許文献9】JP2004173538
【特許文献10】Kratzsch、P. et al.、WO 02/34919
【特許文献11】WO 2006/008132
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Duine, J.A., Energy generation and the glucose dehydrogenase pathway in Acinetobacter, in 「The Biology of Acinetobacter」 New York, Plenum Press (1991), pp. 295-312
【非特許文献2】Duine, J.A., Eur. J. Biochem. 200 (1991) 271-284
【非特許文献3】Davidson, V.L., in 「Principles and applications of quinoproteins」, the whole book, New York, Marcel Dekker (1993)
【非特許文献4】Anthony, C., Biochem. J. 320 (1996) 697-711
【非特許文献5】Anthony, C. and Ghosh, M., Current Science 72 (1997) 716-727
【非特許文献6】Anthony, C., Biochem. Soc. Trans. 26 (1998) 413-417
【非特許文献7】Anthony, C. およびGhosh, M., Prog. Biophys. Mol. Biol. 69 (1998) 1-22
【非特許文献8】Goodwin, P.M. およびAnthony, C., Adv. Microbiol. Physiol. 40 (1998) 1-80
【非特許文献9】Anthony, C., Adv. in Phot. and Resp. 15 (2004) 203-225
【非特許文献10】Cleton-Jansen, A.M., et al., Mol. Gen. Genet. 217 (1989) 430-436
【非特許文献11】Cleton-Jansen, A.M., et al., Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 73-79
【非特許文献12】Oubrie, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.96 (1999) 11787-11791
【非特許文献13】Matsushita, K., et al., Bioscience Biotechnol. & Biochem. 59 (1995) 1548-1555
【非特許文献14】Cleton-Jansen, A.M. et al.、J. Bacteriol. 170 (1988) 2121-2125
【非特許文献15】Kim, C.H. et al.、Current Microbiol. 47 (2003) 457-461
【非特許文献16】Oubrie A.、Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 143-151
【非特許文献17】Reddy, S.およびBruice, T.C.、J. Am. Chem. Soc. 126 (2004) 2431-2438
【非特許文献18】Yamada, M. et al.、Biochim. Biophys. Acta 1647 (2003) 185-192
【非特許文献19】Laurinavicius, V., et al.、Biologija (2003) 31-34
【非特許文献20】Matsushita, K. およびAdachi, O., Bacterial quinoproteins glucose dehydrogenase and alcohol dehydrogenase, in 「Principles and applications of Quinoproteins」, New York, Marcel Dekker (1993) pp. 47-63
【非特許文献21】Dokter, P. et al.、Biochem. J. 239 (1986) 163-167
【非特許文献22】Dokter, P. et al.、FEMS Microbiol. Lett. 43 (1987) 195-200
【非特許文献23】Dokter, P. et al.、Biochem. J. 254 (1988) 131-138
【非特許文献24】Olsthoorn、A.J. およびDuine, J.A.、Arch. Biochem. Biophys. 336 (1996) 42-48
【非特許文献25】Oubrie、A., et al.、J. Mol. Biol. 289 (1999) 319-333
【非特許文献26】Oubrie、A., et al.、Embo J. 18 (1999) 5187-5194
【非特許文献27】Matsushita, K., et al., Biochem. 28 (1989) 6276-6280
【非特許文献28】Matsushita, K., et al., Antonie Van Leeuwenhoek 56 (1989) 63-72
【非特許文献29】Olsthoorn, A.J. およびDuine, J.A., Biochem. 37 (1998) 13854-13861
【非特許文献30】Ye, L., et al., Anal. Chem. 65 (1993) 238-241
【非特許文献31】Kaufmann, N. et al.、Development and evaluation of a new system for determining glucose from fresh capillary blood and heparinized blood in 「Glucotrend」 (1997) 1-16、Boehringer Mannheim GmbH
【非特許文献32】Woosuck, S. et al.、Sensors and Actuators B 100 (2004) 395-402
【非特許文献33】Duine, J.A.、Biosens. Bioelectronics 10 (1995) 17-23
【非特許文献34】Wens、R., et al.、Perit. Dial. Int. 18 (1998) 603-609
【非特許文献35】Frampton、J.E. およびPlosker、G.L.、Drugs 63 (2003) 2079-2105
【非特許文献36】Igarashi, S., et al.、Biochem. Biophys. Res. Commun. 264 (1999) 820-824
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の要旨)
本発明は、s-GDHの変異体に関する。マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有し、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有するPQQ-依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC 1.1.5.2)の変異体であって、さらに、該変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異、グルコースに対する変異体の親和性を改善するための少なくとも1つの変異、および任意に、マルトースと比べてグルコースに対する該変異体の特異性をさらに改善するための1つ以上の変異を含み、示した位置は、A.カルコアセチカスs-GDH野生型配列(配列番号:2)で既知のアミノ酸位置に対応する変異体が開示される。
【0029】
また、s-GDH変異体タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド、宿主細胞内での前記ポリヌクレオチドの発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結された前記単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および前記発現ベクターを含む宿主細胞が開示される。
【0030】
さらに、s-GDH変異体の産生に適した条件下で、適切な発現ベクターでトランスフェクトした宿主細胞を培養する工程を含む、s-GDH変異体の作製方法が記載される。
【0031】
さらに、本発明による改善されたs-GDH変異体を用いて試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法であって、前記改善が、試料を前記変異体と接触させる工程を含む方法が開示される。
【0032】
また、本発明による改善されたs-GDH変異体および前記測定に必要とされる他の試薬を含む、試料中のグルコースの検出または測定のためのデバイスが記載される。
【0033】
(発明の詳細な説明)
第1の態様において、本発明は、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有し、マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有するPQQ-依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC 1.1.5.2)の変異体であって、該変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異を含み、グルコースに対する該変異体の親和性を改善するための少なくとも1つの変異、および任意に、マルトースと比べてグルコースに対する該変異体の特異性をさらに改善するための1つ以上の変異をさらに含み、ここで、示した位置は、A.カルコアセチカスs-GDH野生型配列(配列番号:2)で既知のアミノ酸位置に対応する変異体に関する。
【0034】
WO 02/34919に記載されたように、A.カルコアセチカスから単離された野生型配列に対応するs-GDH配列の348位におけるアミノ酸の置換は、s-GDHのグルコース特異性を有意に改善するために使用され得る。このため、本発明のフレームワークに記載される改善が、すべて348位にアミノ酸置換を含むs-GDH変異体について記載され、これに基づく。好ましくは、348位の残基トレオニンが、アラニン、グリシンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸残基で置換される。さらに好ましい態様において、348位のトレオニンを置換するためにグリシンまたはセリンが使用される。用語T348Gは、当業者に公知であり、348位のトレオニンがグリシンに置き換えられていることを示す。
【0035】
本明細書において上記のように、グルコース脱水素酵素活性を有する2つの完全に異なるキノタンパク質酵素型(膜結合および可溶性)は、ともにEC 1.1.5.2に分類される。これらの2つの型は、互いに関連していないようである。
【0036】
本発明の目的で、GDHの可溶性形態(s-GDH)のみが関連し、その改善された変異体を本明細書において以下に記載する。
【0037】
当該技術分野では、可溶性PQQ-依存性グルコース脱水素酵素の野生型DNA配列は、アシネトバクター菌株から単離され得ることが知られている。アシネトバクター・カルコアセチカス型菌株LMD 79.41由来のs-GDHの単離物が最も好ましい。それぞれ、この野生型s-GDH(成熟タンパク質)のポリペプチド配列を配列番号:2に示し、DNA配列を配列番号:1に示す。野生型s-GDHの供給源として他のLMDアシネトバクター菌株もまた使用され得る。かかる配列は、A.カルコアセチカスから得られた配列にアラインメントされ、配列比較が行なわれ得る。また、例えば、大腸菌K-12について記載されているように、他の細菌株のDNAライブラリーをスクリーニングすること(Oubrie,A., et al.、J. Mol. Biol. 289 (1999) 319-333)、およびかかるゲノムにおいてs-GDHに関連する配列を同定することが実現可能なようである。かかる配列およびまだ同定されていない相同配列を用いて改善された熱安定性を有するs-GDH変異体が作製され得る。
【0038】
本発明の達成は、アシネトバクター・カルコアセチカス-型菌株LMD 79.41から単離されたs-GDHの野生型配列である配列番号:2で既知のアミノ酸位置を参照することにより、より詳細に記載される。配列番号:2の位置に対応する異なるs-GDH単離物におけるアミノ酸位置は、適切な配列比較によって容易に同定される。
【0039】
多数のアラインメントおよび配列番号:2の野生型配列とのs-GDH配列の比較は、好ましくは、GCG Package Version 10.2 (Genetics Computer Group,Inc.)のPileUpプログラムを用いて行なわれる。PileUpにより、Feng,D. F.およびDoolittle,R. F.、J. Mol. Evol. 25 (1987) 351-360の連続的(progressive)アラインメント方法の簡素化を用いて、多数配列アラインメントが得られ、したがって、同一、類似または異なるアミノ酸残基のためのスコアリングマトリックスが規定される。このプロセスは、2つの最も類似する配列の二つ一組のアラインメントで始め、2つのアラインメントされた配列の一群を得る。次いで、この群は、次に最も関連する配列またはアラインメントされた配列の群とアラインメントされ得る。2つの群の配列は、2つの個々の配列の二つ一組のアラインメントの単純な拡張によってアラインメントされ得る。最終のアラインメントは、だんだん類似しなくなる配列および群を含む一連の連続的の二つ一組のアラインメントを、すべての配列が最終の二つ一組のアラインメントに含まれるまで行なうことによって達成される。このようにして、他の相同s-GDH分子内のアミノ酸位置は、配列番号:2のA.カルコアセチカスs-GDHについて示した位置に対応させて容易に同定され得る。このため、本明細書に示したアミノ酸位置は、配列番号:2のアミノ酸位置または別の相同s-GDH分子内の対応する位置として理解されるべきである。
【0040】
本発明の意味における用語「変異体」または「バリアント」は、配列番号:2に示す野生型アミノ酸配列と比較した場合、少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失または挿入を示すs-GDHタンパク質に関する。
【0041】
s-GDH変異体は、他の置換および/または欠失および/または挿入を含み得るが、本発明のs-GDH変異体は、配列番号:2のs-GDHと45 アミノ酸より多くは異ならない、例えば、合計で最大45アミノ酸の置換、挿入または欠失を示すものとする。
【0042】
用語「安定性を改善するための変異」は、短期間の温度ストレスモデルにおいてs-GDH変異体の熱安定性を改善する任意のアミノ置換および/または欠失および/または挿入をいう。
【0043】
上記のように、グルコース特異性における改善は、安定性の低下、グルコースに対する親和性の低下もしくは比活性の低下またはこれらの不利な性質の任意の組合せを犠牲にした場合のみ主として可能なようである。
【0044】
本発明による安定性は、かかる短期間ストレスモデルにおいて評価され、このモデルにおいて決定されたs-GDH安定性を熱安定性という。熱安定性は、試料の非ストレス状態およびストレス状態のs-GDH酵素活性を測定することにより決定される。非ストレス状態の試料活性を100%に設定することにより、ストレス処理後の残留活性がパーセントで計算され得る。改善された基質特異性を有するs-GDHの変異体では、64℃で30分間のストレス条件を選択した。これらの条件を用いると、野生型酵素は、その元の活性の約80%になるが、グルコースに対する改善された特異性を有する変異体のほとんどは、この短期間ストレスモデルに供された後、その初期酵素活性のわずか10%以下になる。
【0045】
好ましくは、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有するs-GDHバリアントの安定性を改善するための変異は置換である。好ましくは、前記置換は、D87R;N122K;S124K;S146AまたはG;L187FまたはM;N267Y;V298L;T313DおよびL386Fからなる群より選択される。
【0046】
また、s-GDHバリアントの安定性を改善するための好ましい前記置換は、D87R;N122K;S124K;S146G;V298LおよびL386Fからなる群より選択される。さらに好ましい態様において、かかる変異体の安定性を改善するために、変異されたs-GDHにおいてこれらの置換の2、3または4つの組合せ、または好ましくは、これらの5つすべての置換の組合せも使用される。
【0047】
好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置87、または相同酵素における前記位置87に対応する位置にアルギニンを含む。
【0048】
さらに好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置122、または相同酵素における前記位置122に対応する位置にリシンを含む。
【0049】
さらに好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置124、または相同酵素における前記位置124に対応する位置にリシンを含む。
【0050】
さらに好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置146、または相同酵素における前記位置146に対応する位置にグリシンを含む。
【0051】
さらに好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置298、または相同酵素における前記位置298に対応する位置にロイシンを含む。
【0052】
さらに好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、A.カルコアセチカス野生型s-GDH(配列番号:2)で既知の位置386、または相同酵素における前記位置386に対応する位置にフェニルアラニンを含む。
【0053】
s-GDH の6つの位置、すなわち、位置87、122、124、146、298および386は、熱安定性の点で有意な改善を達成するのにかなり重要であるようであることがわかった。ここで、非常に重要なことは、これらの置換が、グルコース特異性を改善するために先に作製されたが熱安定性の低下という犠牲を払った変異体の熱安定性に対して顕著な効果を有することがわかったという事実である。好ましい態様において、本発明によるs-GDH変異体は、配列番号:2の位置87にアルギニン、位置122および124にリシン、位置146にグリシン、位置298にロイシンならびに位置386にフェニルアラニン、または相同s-GDHが使用される場合は、前記位置に対応するものを含む。
【0054】
さらに好ましい態様において、本発明は、グリシンまたはアラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有し、マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有するPQQ-依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC 1.1.5.2)の変異体であって、さらに、該変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異およびグルコースに対する該変異体の親和性を改善するため少なくとも1つの変異を含む変異体に関する。
【0055】
基質に対する用語「親和性」は、当該技術分野で周知である。これは、いわゆるKm値としてmMで示される。基質としてグルコースまたは他の糖類を使用するs-GDHの親和性を測定するための種々の方法が当該技術分野で公知であり、Igarashi,S., et al.、Biochem Biophys Res Commun 264 (1999) 820を参照のこと。
【0056】
粗大腸菌抽出物を用いた新たなバリアントのスクリーニングにおいて、生成されたクローンの高速評価のために、Km値のパーセンテージの計算を行なった。候補s-GDH変異体のグルコースに対する親和性を、周知のミカエリス-メンテン速度論に従って計算した。
【0057】
本発明によるs-GDH変異体は、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を含む変異体と比べて改善されたグルコースに対する親和性を有する。好ましくは、基質グルコースに対する親和性は、実施例のセクションに詳細に記載のようにして測定される。
【0058】
好ましくは、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を既に含むs-GDH変異体のグルコースに対する親和性を改善するための1つ以上の変異は、L110HまたはY;N229A、GまたはS;Q246H、MまたはN;Y333A;G339T;M341V;V349AまたはGおよびV436Pからなる群より選択されるアミノ酸置換である。
【0059】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置110に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸ロイシンは、ヒスチジンおよびチロシンからなる群より選択されるアミノ酸で置換されることが好ましい。位置110における置換はヒスチジンによるものであることがより好ましい。
【0060】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置229に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸アスパラギンは、アラニン、グリシンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸で置換されることが好ましい。位置229における置換はアラニンによるものであることがより好ましい。
【0061】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置349に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸バリンは、アラニンおよびグリシンからなる群より選択されるアミノ酸で置換されることが好ましい。位置349における置換はグリシンによるものであることがより好ましい。
【0062】
また、好ましくは、グルコースに対する親和性を改善するための変異は、L110H、Q246H;G339T;M341V、V349GおよびV436Pからなる群より選択される。
【0063】
また、好ましくは、グルコースに対する親和性を改善するための前記置換は、Q246H;G339T;M341VおよびV349Gから選択される。本発明による好ましいs-GDHは、これらの置換の2つもしくは3つまたはこれらの4つのすべての置換を含む。
【0064】
さらに好ましい態様において、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有し、安定性を改善するための少なくとも1つの変異を含む、マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有する上記のs-GDH変異体は、さらに、マルトースと比べてグルコースに対する該変異体の基質特異性を改善するための1つ以上の変異を含む。
【0065】
ある種の適用では、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有し、マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有するs-GDH変異体の基質特異性は、ある種の通常の適用にはまだ充分でない場合がある。
【0066】
特定の態様では、s-GDH変異体を作製するために、上記の348位における変異に加えて、マルトースと比べてグルコースに対する該変異体の特異性をさらに改善するための1つ以上のさらなる変異を含むことが必要とされ得る。
【0067】
用語「基質特異性」または「特異性」は当業者に周知である。
【0068】
基質特異性または交差反応性を計算するために、1つの容易な方法は、基質としてグルコースを用いて測定された活性を100%と設定し、その他の選択された糖を用いて測定された活性をグルコース値と比較することである。ときには、冗長にならないように、特異性という用語は、一方においてグルコースおよび他方において選択された他の糖基質を特別に言及することなく、単純に使用される。
【0069】
当業者には、酵素活性の比較は、充分に規定されたアッセイ条件を用い、調査する基質分子の等モル濃度で最良に行なわれることが認識されよう。その他の場合は、濃度差の補正を行なわなければならない。
【0070】
標準化され充分に規定されたアッセイ条件は、基質特異性(の改善)を評価するため、選択されなければならない。基質としてのグルコースならびに他の選択された糖基質に対するs-GDHの酵素活性は、以下の実施例のセクションに記載のようにして測定される。
【0071】
それぞれグルコースまたはマルトースに対する酵素活性の測定に基づき、交差反応性(およびその改善)が評価される。
【0072】
マルトースに対するs-GDH(交差-)反応性のパーセントは、
交差反応性[%] = (活性マルトース/活性グルコース) × 100%
で計算される。
【0073】
上記の式による野生型s-GDHのマルトースに対する(交差-)反応性は、約105%と決定された(WO 02/34919参照のこと)。
【0074】
特異性は、以下の式:
【数1】
に従って計算される。
【0075】
新規なs-GDH変異体の特異性における改善は、グリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる348位のトレオニンの置換を有し、マルトースと比べてグルコースに対する改善された特異性を有するs-GDH変異体と比較した場合、上記の計算においてより小さい値として認識される。
【0076】
当業者には認識されるように、絶対値は、変異体に既に存在する変異の数および種類に依存する。変異体に既に存在する変異の数および種類は、変異体背景と称され得る。任意の新規な変異は、変異体背景と直接最良に比較される。
【0077】
好ましくは、マルトースと比べたグルコースに対する基質特異性をさらに改善するための変異は、Q145P;D163GまたはN;Q164F;L169F;Y171G;I208LまたはV;T224I;E245D;G276S;A294DまたはE;V300A、S、N、YまたはI;T307G;T323V;A354Y、EまたはL;R378I、M、AまたはD;N428Pおよび挿入429Pからなる群より選択されるアミノ酸置換である。用語「挿入429」は、配列番号:2の位置428と位置429の間にプロリンが挿入されていることを示すために使用される。
【0078】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置169に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸ロイシンは、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンによって置換されることが好ましい。位置169における置換はフェニルアラニンによるものであることがより好ましい。
【0079】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置171に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸チロシンは、アラニン、メチオニン、グリシンからなる群より選択される(selected from the group consisting of from the group consisting of)アミノ酸で置換されることが好ましい。位置171における置換はグリシンによるものであることがより好ましい。
【0080】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置245に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸グルタミン酸はアスパラギン酸、アスパラギンまたはグルタミンによって置換されることが好ましい。位置245における置換はアスパラギン酸によるものであることがより好ましい。
【0081】
A.カルコアセチカスで既知のs-GDH野生型配列(配列番号:2)の位置341に対応するアミノ酸が本発明のバリアントにおいて置換される場合、天然のアミノ酸メチオニンは、バリン、アラニン、ロイシンまたはイソロイシンによって置換されることが好ましい。位置341における置換はバリンによるものであることがより好ましい。
【0082】
また、348位に置換を既に含むs-GDHバリアントの基質特異性は、位置428と429の間へのアミノ酸、好ましくは、プロリンの挿入によって、さらに改善されることが可能であることがわかった。
【0083】
また、マルトースと比べたグルコースに対する基質特異性を改善するためのさらなる変異は、L169F;Y171G;E245D;N428Pおよび挿入429Pからなる群より選択されることが好ましい。
【0084】
好ましくは、マルトースと比べたグルコースに対する基質特異性を改善するためのさらなる変異は、L169F;Y171G;E245D;およびN428Pからなる群より選択される。さらに好ましい態様において、かかる変異体のマルトースと比べたグルコースに対する基質特異性を改善するために、これらの4つの置換の2つ、3つまたはすべての組合せが使用される。また、マルトースと比べたグルコースに対する基質特異性を改善するためのさらなる変異は、L169F;Y171G;E245D;および挿入429Pからなる群より選択されることが好ましい。さらに好ましい態様において、かかる変異体のマルトースと比べたグルコースに対する基質特異性を改善するために、3つの置換の2つまたはすべての組合せが、変異s-GDHにおいて挿入429 Pとともに使用される。
【0085】
それぞれWO02/34919およびWO2006/008132に記載されるように、アスパラギンがプロリンで置換される位置428の置換または位置428と429との間のアミノ酸プロリンの挿入それぞれが、位置348の置換をすでに含むs-GDH変異体の特異性をさらに改善する。従って、さらに好ましい態様において、本発明は、マルトースと比較してグルコースに対する改善された特異性を有し、かつグリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる位置348のトレオニンの置換およびアスパラギンがプロリンで置換される位置428の置換または位置428と429との間のアミノ酸プロリンの挿入のいずれかを有するPQQ依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC1.1.5.2)の変異体であって、前記変異体は、変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異、変異体の比活性を改善するための少なくとも1つの変異、および任意に変異体のグルコースに対する親和性を改善するための1つ以上の変異、および/またはマルトースと比較してグルコースに対する変異体の特異性をさらに改善するための1つ以上の変異をさらに含み、所定の位置はA.カルコアセチカスs-GDH野生型配列(配列番号2)で既知のアミノ酸位置に対応する、変異体に関する。
【0086】
別の態様において、本発明は、マルトースと比較してグルコースに対する改善された特異性を有し、かつグリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる位置348のトレオニンの置換を有するPQQ依存性可溶性グルコース脱水素酵素(s-GDH;EC1.1.5.2)の変異体であって、前記変異体が、変異体の安定性を改善するための少なくとも1つの変異、変異体の比活性を改善するための少なくとも1つの変異をさらに含む、変異体に関する。
【0087】
用語「比活性」は、当該分野で周知である。これはタンパク質の量当りの酵素活性を述べるために使用される。基質としてグルコースまたは他の糖を使用してs-GDHの比活性を決定する種々の方法が、当該分野で知られており、例えばIgarashi, S.,ら, Biochem Biophys Res Commun 264 (1999) 820を参照。本発明によるs-GDH変異体は変異体と比較して基質グルコースに対する改善された比活性を有し、位置348のトレオニンのグリシン、アラニンまたはセリンのいずれかによる置換を含む。
【0088】
好ましくは、グルコースに対する比活性を改善するための変異は、H30FまたはR;A301GまたはS、およびA302SまたはTからなる群より選択されるアミノ酸置換である。
【0089】
当業者が理解するように、アミノ酸置換、例えば、有意な程度までにはs-GDHの特性に影響しないサイレント変異を取ることは可能である。しかし、本発明によるバリアントは、配列番号2と比較して、45以下のアミノ酸交換を有する。好ましくは、バリアントは、20以下のアミノ酸置換を含み、より好ましくは、わずかに15以下のアミノ酸置換が存在する。
【0090】
本発明によるいくつかの特異的なs-GDHバリアントは、実施例の部に与えられる。低いグルコース干渉ならびに熱安定性およびグルコースに対する基質親和性に関して改善された特徴を有する好ましいs-GDHバリアントは、以下の置換:
【化1】
を有する変異体を含む。
【0091】
変異体タンパク質を産生するための多くの可能性が当該分野で公知である。熱安定性、グルコースに対する親和性、および変異体s-GDHの基質特異性を改善する特定残基の重大な重要性を開示する本発明の重要な発見に基づいて、当業者は次に、これらおよび他の好ましい改変を持つs-GDHのさらなる適切なバリアントを容易に製造し得る。かかるバリアントは、例えばランダム突然変異誘発(Leung, D. W.,ら, Technique 1 (1989) 11-15)および/または部位特異的変異誘発(Hill, D. E.,ら, Methods Enzymol. 155 (1987) 558-568)として公知の方法により得ることができる。所望の特性を有するタンパク質を製造する代替的な方法は、少なくとも二つの異なる供給源由来の配列エレメントを含むキメラ(chimaeric)構築物を提供すること、または適切なs-GDH遺伝子を完全に合成することである。当該分野に公知のかかる手順は、本発明に開示された情報と組み合わせて使用され得、例えば配列番号2の位置348の置換という既知の重大な重要性と組み合わせたさらなるアミノ酸置換を含むs-GDHの変異体またはバリアントを提供する。
【0092】
本発明によるs-GDHバリアントは、例えばアシネトバクター・カルコアセチカス型LMD 79.41株から単離されたs-GDH遺伝子から開始することならびに相同配列から開始することにより製造され得る。本願文脈中の用語「相同」は、配列番号2と比較して少なくとも90%の同一性を有するs-GDHアミノ酸配列を含むことを意味する。言い換えれば、PileUpプログラムを用いた適切なアライメントの後に、かかる相同なs-GDHのアミノ酸の少なくとも90%が配列番号2に記載されるアミノ酸と同一である。
【0093】
DNAおよびアミノ酸の配列のバリエーションは、天然に存在するかまたは当該分野に公知の方法を用いて意図的に導入され得ることが理解されよう。これらのバリエーションは、配列番号2と比較した際に前記配列中の一つ以上のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入、逆位または付加によって、全配列中で10%までのアミノ酸相違を生じ得る。かかるアミノ酸置換は、例えば含まれる残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいてもたらされ得る。例えば、負に帯電したアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ;正に帯電したアミノ酸としてはリジンおよびアルギニンが挙げられ;同様の親水性値を有する非荷電極性ヘッドグループまたは非極性ヘッドグループを有するアミノ酸としては以下、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンが挙げられる。他の企図されるバリエーションとしては、前述ポリペプチドの塩およびエステル、ならびに前述ポリペプチドの前駆体、例えばメチオニン、リーダー配列として用いられるN-ホルミルメチオニン等のN末端置換を有する前駆体が挙げられる。かかるバリエーションは、本発明の範囲および精神を必ずしも逸脱することなく作製され得る。
【0094】
当該分野の水準で公知の手順に従って、または実施例の部に与えられる手順に従って、上述の任意のs-GDH変異体をコードするポリヌクレオチド配列を得ることが可能である。従って、本発明は、上述の本発明によるs-GDH変異体タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチド配列も含む。
【0095】
本発明は、宿主細胞で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明による核酸配列を含む発現ベクターをさらに含む。
【0096】
本発明は、宿主細胞で発現を指向し得るプロモーター配列に作動可能に連結された本発明による核酸配列を含む発現ベクターをさらに含む。好ましいベクターは、
図2および3に示されるpACSGDHのようなプラスミドである。
【0097】
本発明に有用な発現ベクターは、典型的には、複製の起点、選択のための抗生物質耐性、発現のためのプロモーターおよびs-GDH遺伝子バリアントの全部または一部を含む。発現ベクターはまた、シグナル配列(よりよい折り畳み、ペリプラズムへの輸送または分泌のための)、発現のよりよい調節のための誘発因子、またはクローニングのための切断部位などの、当該分野に公知の他のDNA配列を含み得る。
【0098】
選択された発現ベクターの特徴は、使用されるべき宿主細胞に適合性でなければならない。例えば、大腸菌細胞系でクローニングする場合、発現ベクターは、大腸菌細胞のゲノムから単離されたプロモーター(例えば、lacまたはtrp)を含むべきである。ColE1プラスミド複製起点のような適切な複製の起点が使用され得る。適切なプロモーターとしては、例えば、lacおよびtrpが挙げられる。発現ベクターが抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーをコードする配列を含むことも好ましい。選択可能なマーカーとして、アンピシリン耐性またはカナマイシン耐性が都合よく使用され得る。これらの物質の全ては、当該分野において公知であり、市販されている。
【0099】
所望されるコード配列および調節配列を含む適切な発現ベクターは、当該分野で公知の標準的な組換えDNA技術を使用して構築され得、これらの多くは、Sambrookら、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(1989) Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0100】
本発明はさらに、変異体s-GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞に関する。好ましくは、宿主細胞は、実施例2〜8に示される1つ以上の変異を有する変異体s-GDHをコードするDNA配列の1つの全てまたは一部を含む発現ベクターを含む。適切な宿主細胞としては、例えば、Promega(2800 Woods Hollow Road, Madison, WI, USA)から入手可能な大腸菌HB101(ATCC33694)、Stratagene(11011 North Torrey Pine Road, La Jolla, CA, USA)から入手可能なXL1-Blue MRF’等が挙げられる。
【0101】
発現ベクターは、当該分野で公知の種々の方法によって宿主細胞に導入され得る。例えば、発現ベクターでの宿主細胞の形質転換は、ポリエチレングリコール媒介プロトプラスト形質転換法によって実施され得る(Sambrookら、1989 上掲)。しかし、宿主細胞に発現ベクターを導入するための他の方法、例えばエレクトロポレーション、微粒子銃注入(bolistic injection)またはプロトプラスト融合がまた使用され得る。
【0102】
一旦s-GDHバリアントを含む発現ベクターが適切な宿主細胞に導入されると、宿主細胞は、所望されるs-GDHバリアントの発現を可能にする条件下で培養され得る。変異体s-GDHの全てまたは一部をコードするDNA配列を有する所望の発現ベクターを含む宿主細胞は、すなわち抗生物質選択によって容易に同定され得る。s-GDHバリアントの発現は、s-GDH mRNA転写物の産生を測定すること、遺伝子産物を免疫学的に検出することまたは遺伝子産物の酵素活性を検出することのような異なる方法によって同定され得る。好ましくは、酵素アッセイが適用される。
【0103】
本発明はまた、s-GDH変異体の作製およびスクリーニングを教示する。ランダム突然変異誘発および飽和突然変異誘発は、当該分野で公知のように実施される。バリアントは、熱安定性についてスクリーニングされる(熱ストレス処理後の残存活性に比べて熱ストレス処理のない活性)。選択されるアッセイ条件は、例えば、単一のアミノ酸置換によって引き起こされる予測される小さな増大が測定され得るということを確実にするように適合される。適切な変異体の選択またはスクリーニングの1つの好ましい様式は、実施例3に示される。開始酵素(変異体または野生型)と比較した場合、任意の変化または改善が明らかに検出され得る。
【0104】
もちろん、全ての発現ベクターおよびDNA調節配列が、本発明のDNA配列を発現するように等しく良好には機能しないことが理解されるべきである。全ての宿主細胞もまた同じ発現系で等しく良好には機能しない。しかしながら、当業者は、過度の実験をせずに本明細書中に提供される手引きを使用して、発現ベクター、DNA調節配列、および宿主細胞の間で適切な選択をする。
【0105】
本発明はまた、本発明の変異体s-GDHの産生に適切な条件下で本発明の宿主細胞を培養する工程を含む、本発明のs-GDHバリアントの作製方法に関する。細菌宿主細胞について、典型的な培養条件は、炭素および窒素源、適切な抗生物質ならびに誘導剤(使用される発現ベクターに依存して)を含む液体培地である。典型的な適切な抗生物質としては、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン等が挙げられる。典型的な誘導剤としては、IPTG、グルコース、ラクトース等が挙げられる。
【0106】
本発明のポリペプチドは、変異体s-GDHをコードするDNA配列を発現する宿主細胞中での産生によって得られることが好ましい。本発明のポリペプチドはまた、変異体s-GDHをコードするDNA配列でコードされるmRNAのインビトロ翻訳で得られ得る。例えば、DNA配列は、上記のように合成され、適切な発現ベクターに挿入され得、次にインビトロ転写/翻訳系において使用され得る。
【0107】
無細胞ペプチド合成系で発現を促進し得るプロモーター配列に作動可能に連結される、定義および上記される単離ポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、本発明の別の好ましい態様を示す。
【0108】
次いで、例えば、上記される手順によって製造されるポリペプチドは、単離され、種々の常套的なタンパク質精製技術を使用して精製され得る。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーおよび親和性クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー手順が使用され得る。
【0109】
本発明の改善されたs-GDHバリアントの主要な応用の1つは、糖尿病患者における血中グルコースレベルをモニターする試験用細片における使用のためである。PQQ依存性グルコース脱水素酵素の酸素に対する無反応性は、上記のように、グルコースオキシダーゼに対する大きな利点である。次に、例えば、分析されるべき試料中に存在し得るマルトース、ガラクトース、および/または他の関連する糖による干渉が、改善された熱安定性およびグルコースに対する改善された特異性の両方を有する新規なs-GDHバリアントを用いて有意に減少され得る。もちろん、多くの種類の試料が調査され得る。血清、血漿、腸液または尿のような体液が、かかる試料のための好ましい供給源である。
【0110】
本発明はまた、本発明によるs-GDH変異体を用いて試料中のグルコースを検出、決定または測定する方法を含む。試料中のグルコースを検出するための改善された方法が、該グルコースの検出、決定または測定がセンサーまたは試験用細片デバイスを用いて行われることを特徴とすることが特に好ましい。
【0111】
本発明によるs-GDH変異体および測定に必要な他の試薬を含む、試料中のグルコースを検出または測定するためのデバイスもまた、本発明の範囲内である。
【0112】
本発明の改善された熱安定性を有するs-GDHバリアントはまた、試料または反応器中のグルコースのオンラインモニターのためのバイオセンサー(D’Costa, E.J.,ら, Biosensors 2 (1986)71-87; Laurinavicius, V.,ら, Analytical Letters 32 (1999) 299-316; Laurinavicius, V.,ら, Monatshefte fuer Chemie 130 (1999) 1269-1281; Woosuck, S.ら, Sensors and Actuators B 100 (2004) 395-402)において非常に有利に用いられ得る。この目的のために、s-GDHバリアントは、例えば、グルコース濃度のより正確な決定のために酸化還元伝導性エポキシネットワークを含むオスミウム複合体を用いて酸素無反応ガラス性電極をコートする(Yeら, 1993上掲)ために使用され得る。
【0113】
以下の実施例において、全ての試薬、制限酵素、および他の物質は、他の市販供給源が特定されていない限り、Roche Diagnostics Germanyから入手し、製造業者によって与えられる指示書に従って使用された。DNAの精製、特徴付けおよびクローニングのために使用される操作および方法は、当該分野で周知であり(Ausubel, F.,ら,「Current protocols in molecular biology」(1994), Wiley Verlag)、当業者によって必要に応じて適合され得る。
【0114】
以下の実施例は、本発明をさらに例示する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを意図しないが、本発明のさらなる理解を提供する。
【0115】
以下の実施例、配列表および図面は本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神を逸脱することなく示される手順において変更がされ得ることが理解されよう。
【実施例】
【0116】
実施例1
野生型A.カルコアセチカス可溶性PQQ依存性グルコース脱水素酵素の大腸菌でのクローニングおよび発現
s-GDH遺伝子を、標準の手順に従ってアシネトバクターカルコアセチカス LMD 79.41株から単離した。野生型s-GDH遺伝子を、調節可能な発現のためのmglプロモーターを含むプラスミドにサブクローニングした(参照、特許出願 WO 88/09373)。新しい構築物をpACSGDHと呼んだ(
図2および3ならびに配列番号3を参照)。組換えプラスミドを大腸菌群から選択した宿主生物体に導入した。次にこれらの生物体を適切な条件下で培養し、s-GDH活性を示すコロニーを選択した。
【0117】
プラスミドpACSGDHを製造業者のプロトコルに従ってQIAGEN Plasmid Maxi Kit(Qiagen)を用いて、上記のクローンの200ml一晩培養物から単離した。プラスミドを1mlの再蒸留水(bi-distilled water)中に再懸濁した。プラスミドの濃度を、Beckman DU 7400 Photometerを使用して測定した。
【0118】
収量は600μgであった。次にプラスミドの質をアガロースゲル電気泳動で決定した。
【0119】
実施例2
変異体T348Gおよび変異体T348Sの作製
さらに改善されたバリアントの作製のための開始鋳型として、変異T348Gおよび変異T348Sのそれぞれを有する変異s-GDHを製造した。これらは基質マルトースと比較してグルコースに対する改善された基質特異性を有することが公知であるためにこれらのs-GDH変異体が選ばれた(WO02/34919参照)。
【0120】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene, Cat.200518)を用いて、位置348のトレオニンをグリシンまたはセリンで置換する。適切なプライマーを設計した。
【0121】
突然変異誘発に使用された5'-および3'-プライマーは、互いに相補的であり、中央位置においてトレオニンからグリシン(ACAからGGG)またはトレオニンからセリン(ACAからTCA)の交換のための改変コドンを含んだ。これらのヌクレオチドには、各末端に12〜16ヌクレオチドが隣接した。ヌクレオチドの配列は、アミノ酸交換のためのコドンに隣接するセンスDNA鎖およびアンチセンスDNA鎖と同一であった。それぞれ、センス鎖でコドンACA=トレオニンおよびアンチセンス鎖でコドンTGTの代わりに、プライマーは、センス鎖でGGG=グリシンまたはTCA=セリンのそれぞれ、およびアンチセンス鎖でCCC=グリシンまたはAGT=セリンのそれぞれを含んだ。交換T348Gのセンス鎖およびアンチセンス鎖が配列番号3および4のそれぞれに示される。
【化2】
【0122】
マニュアルに従って、PCR反応およびDpnI消化を実施した。その後、1μlの試料をXL-MRF'細胞のエレクトロポレーションに使用した。BioRad E. coli Pulser(BioRad)を用いて、0.2cmキュベット中で2.5KVでエレクトロポレーションを達成した。1時間37℃で1ml LB中での増殖後に、細菌を「4×酵母」培地(1l蒸留水(Aqua dest.)に20g 酵母抽出物+5g NaCl, pH7.0)-アンピシリン寒天プレート(100μg/mlアンピシリン)に播種し、37℃で一晩中増殖させた。以下のスクリーニング法を用いて変異s-GDHクローンを調べた。
【0123】
実施例3
スクリーニング
上記の寒天プレート上の変異体コロニーを200μl 「4×酵母」-アンピシリン-培地/ウェルを含むマイクロタイタープレート(MTP)に選び取り、37℃で一晩インキュベートした。これらのプレートをマスタープレートと呼ぶ。
【0124】
各マスタープレートから、5μl試料/ウェルを、細胞破壊のための5μl/ウェルのB(B=細菌タンパク質抽出試薬; Pierce No. 78248)を含むMTPに移し、s-GDHの活性化のために1ウェルあたり240μlの0.0556mMピロロキノリンキノン(PQQ);50 mM Hepes; 15 mM CaCl
2 pH7.0を添加した。ホロ酵素の形成を完了するために、MTPを25℃で2時間および10℃で一晩インキュベートした。このプレートを作業プレートと呼ぶ。
【0125】
作業プレートから、4×10μl試料/ウェルを4つの空のMTPに移した。第一のアリコートを標準濃度(即ち、30mM)のグルコースで試験し、第二のアリコートを低減グルコース濃度(30mMの代わりに1.9mM)で、第三のアリコートを基質としてのマルトースで、第一のアリコートとは異なって試験する前に第四のアリコートに64℃で30分ストレスを与えた。全ての選択された他の糖分子は等量モルの標準濃度、即ち30mMで使用された。全てのアッセイのために、分析される糖をすでに含む90μlのメディエータ溶液(実施例8を参照)を適用した。
【0126】
dE/分を計算し、基質として30mMグルコースを使用した値を100%活性に設定した。他の糖で得られた値を、グルコースの値と比較し、パーセント活性を計算した((例えば、マルトースについて:dE/分マルトース/dEグルコース)×100)。これは(バリアント)酵素の交差反応性と等価である。以下の表において、「M/G」、即ち、基質グルコース(G)と比較した基質マルトース(M)とのs-GDHの交差反応性を与える。
【0127】
1.9mMグルコースで得られた値を、30mMグルコース値と比較して、相対活性パーセントで計算した((dE/分1.9mMグルコース/30mMグルコース)×100)。これは、分析されるバリアントのKm値の直接指標である%値を与える。この計算によって、高い%値は低い(=良好な)Kmを示す。
【表1】
【0128】
実施例4
変異体s-GDHの配列決定
s-GDH T348Gについて方法を例示する。以下に詳細に説明される配列決定はまた、他のs-GDH変異体の配列決定に使用され得る。
【0129】
s-GDH変異体の配列決定に以下のプライマーを使用した。
【化3】
【0130】
変異体が約22%のマルトース/グルコース交差反応性を有する変異体s-GDH T348G、および変異体が50%マルトース/グルコース交差反応性を有するs-GDH T348Sのそれぞれの遺伝子を含むプラスミドを単離し(High Pure Plasmid Isolation Kit, Roche Diagnostics GmbH,No.1754785)、ABI Prism Dye Terminator Sequencing KitならびにABI 3/73および3/77シークエンサー(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて配列決定した。
【0131】
配列決定により、DNAおよびアミノ酸レベルで所望の変異が両方の変異体で達成されたことが確認された。これは、位置348の、TからGまたはSそれぞれの交換をもたらした。2つの遺伝子でさらなる変異は見られなかった。
【0132】
実施例5
T348G(変異体A)およびT348S(変異体A')に基づく飽和突然変異誘発によって得られたさらなるs-GDH変異体
候補アミノ酸位置は、本発明者らによって行われた以前の研究から本発明者らに公知であった。熱安定性、基質特異性またはグルコースに対する親和性などのs-GDHの関連特性に影響を及ぼすことが疑われるまたは既知のこれらの候補アミノ酸位置を、T348G(変異体A)またはT348S(変異体A')に基づいて個々に分析した。
【0133】
単一アミノ酸位置で変異体T348GまたはT348Sそれぞれに対してかかる単一アミノ酸置換がどの効果を有し得るかを評価するために飽和突然変異誘発を実施した。
【0134】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene, Cat. 200518)を使用して、野生型s-GDHタンパク質の87位、110位、122位、124位、145位、146位、169位、171位、187位、246位、294位、298位、300位、313位、323位、333位、339位、341位、349位、378位、428位および436位の野生型アミノ酸のそれぞれを首尾よく置換した。
【0135】
突然変異誘発のために使用された5’-プライマーおよび3’-プライマーは、互いに相補的であるように選ばれ、中心位置にNNN(N=A、C、GまたはT)を含んだ。所望の位置に存在するおよび調査中のアミノ酸位置をコードする3つのランダム合成ヌクレオチドNは、各末端の12〜16ヌクレオチドと隣接され、鋳型のセンスDNA鎖およびアンチセンスDNA鎖と同一であった。従って、野生型コドンの代わりに、プライマーは、全ての可能性のあるコドンをコードするオリゴヌクレオチドであるNNNを含んだ。
【0136】
調査中のそれぞれの位置について、1回のPCR反応を実施した。
【0137】
PCR反応およびDpnI-制限エンドヌクレアーゼ消化を、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, Cat. 200518)に提供された説明書に従って実施した。
【0138】
各PCR反応物から、1μlをXL1F-細胞のエレクトロポレーションのために使用した。細胞を増殖し、クローンのs-GDH活性を上記のように決定した。
【0139】
20全ての可能なアミノ酸置換がこの評価でカバーされるという統計的な見込みを増大させるために、200クローンを各位置について実施例3に記載のようにスクリーニングした。関心のあるクローンを実施例4に示す方法に従って配列決定した。
【0140】
【表2-1】
【表2-2】
【0141】
【表3】
【0142】
変異体Aまたは変異体A’の基質特異性、グルコースに対する親和性および/または熱安定性に対して正の効果を有するアミノ酸交換が、それぞれ、表2および3から導かれ得る。
【0143】
実施例6
改善された熱安定性を有する変異体の同定
実験は、非常に低い熱安定性またはグルコースに対する非常に低い親和性のような不利の犠牲を払うがマルトースと比較してグルコースに対するかなり良好な基質特異性を有する変異体まで拡張した。
【0144】
いわゆる変異体6はグルコースで測定された場合わずか約1.5%の反応性であるマルトースに対するかなり好ましい低い交差性を有する。変異体6は、アミノ酸置換Y171G、E245D、M341V、およびT348Gを特徴とし、位置428と429の間にプロリンの挿入(ins429P)を有する。
【0145】
以下のプライマーを使用して、これらの所望のアミノ酸置換を導入した。
【化4】
【0146】
【表4-1】
【表4-2】
【0147】
上記の結果はアミノ酸交換D87R、N122K、S124K、S146AまたはG、好ましくはG、S146G、L187FまたはM;N267Y、V298L、T313DおよびL386Fが基本変異体6の熱安定性を改善することを示す。
【0148】
置換D87R;N122K;S124K;S146G;V298LおよびL386Fが熱安定性の改善に対してかなり強い効果を有する。
【0149】
実施例7
マルトースと比較してグルコースに対する高い基質特異性およびグルコースに対する親和性の改善を有する変異体の作製
WO 02/34919において、s-GDHの異なる位置でのいくつかのアミノ酸交換が、例えば、マルトースと比較して、グルコースに対する基質特異性を増強することが同定され、示された。他の位置、例えば、169位、171位、245位、341位および/または349位のアミノ酸置換とアミノ酸交換T348Gの組み合わせによって、基質特異性がさらに増強された。基質グルコースに対してかなり低い親和性を有するがマルトースと比較してグルコースに対する改善された特異性を有するいくつかの異なるs-GDH変異体を選択し、グルコースに対するその親和性を改善するように試みた。
【0150】
表2および3にまとめた実験から分かるように、アミノ酸置換L110HまたはY;N229A、G、またはS;Q246H、MまたはN;Y333A;G339T;M341V;V349AまたはGおよびV436Pは、s-GDH変異体のグルコースに対する親和性を高めるために適切であるように思われる。親和性に対する最も強い効果が、変異体L110H;Q246H;G339T;M341V;V349GおよびV436Pで見られた。親和性のさらなる強い改善がアミノ酸交換Q246H、M341V;V349GおよびV436Pで見られた。点変異は、実施例6で既に例示した同じ戦略によって既存の変異体に導入され、従ってここでは置換Q246Hの特異的プライマーだけを記載する。
【化5-1】
【化5-2】
【0151】
実施例3に記載のスクリーニングKm値測定によってグルコースに対する親和性の測定を行った。見かけ上の(apparent)Km値は種々の基質濃度対酵素活性のプロットから計算された。
【0152】
実施例8に記載のように比活性を試験した。
【0153】
基質特異性、親和性、および/または安定性を改善するために適切であると同定された交換の組み合わせがマルトースと比較してグルコースに対する顕著に改善された特異性を有する変異体s-GDHに導入された。
【表5】
【0154】
全ての変異体型について、さらなるアミノ酸交換Q246Hがグルコースに対する親和性の増強および比活性に関する改善を生じたことが明らかである。変異体6は変異体13のように位置T348G、N122K、L169F、Y171G、E245D、M341Vのアミノ酸交換および位置429のプロリンの挿入、およびさらなるQ246Hを有する。変異体Jは変異体Gのように位置T348G、Y171G、E245D、M341V、N428Pのアミノ酸交換、およびさらなるQ246Hを有する。
【0155】
変異体22は、位置T348G、N122K、S124K、L169F、Y171G、E245D、Q246H、M341V、L386Fのアミノ酸交換および位置429のプロリンの挿入を有する。変異体29はT348GをT348Sに交換したことを除いて変異体22の交換を全て有し、速度の改善をもたらした。変異体30および31はさらにG339TおよびV436Pを交換することによってグルコースに対するさらに高いKm値を達成した。
【0156】
実施例8
野生型またはバリアントs-GDHの精製ならびに酵素活性および比活性それぞれの分析
適切なs-GDH発現ベクターを含む大腸菌細胞を増殖し(4×酵母-Amp.37℃)、回収し、pH7.0リン酸カリウムバッファ中に再懸濁した。細胞破砕をフレンチプレス通過(700〜900bar)によって実施した。遠心分離の後、上清を10 mMリン酸カリウムバッファpH7.0で平衡化したS-セファロース(Amersham Pharmacia Biotec)カラムにかけた。洗浄後、s-GDHを塩勾配0〜1MのNaClを使用して溶出した。s-GDH活性を示す画分をプールし、リン酸カリウムバッファpH7.0に対して透析し、再平衡化されたS-セファロースカラム上でリクロマトグラフィーした。活性画分をプールし、Superdex(登録商標)200 カラム(Amersham)を用いてゲル濾過に供した。活性画分をプールし、CaCl
2(3mM 終濃度)の添加後、-20℃で保存した。
【0157】
タンパク質測定をPierceのタンパク質アッセイ試薬番号23225を使用して実施した(BSAを用いた較正曲線、30分、37℃)。
【0158】
酵素活性の測定のために、s-GDH試料を0.0556 mMピロロキノリンキノン(PQQ);50 mM Hepes;15 mM CaCl
2 pH7.0を用いて1mgタンパク質/mlに希釈し、再構成または活性化のために25℃で30分間インキュベートした。
【0159】
活性化の後、試料を50 mM Hepes; 15 mM CaCl
2 pH7.0で約0.02 U/mlに希釈し、50μlの各希釈試料をメディエータとしての0.315 mg/mlの(4-(ジメチルホスフィニルメチル)-2-メチル-ピラゾロ-[1.5a]-イミダゾール-3-イル)-(4-ニトロソフェニル)-アミン(米国特許5,484,708を参照)および30 mM 糖を含む1000μlの0.2 Mクエン酸バッファ溶液(pH5.8;25℃)に添加した。
【0160】
620nmの吸光度を25℃で最初の5分間モニターする。
【0161】
1ユニット酵素活性は、上記のアッセイ条件下で1mMolメディエータ/分の転化に相当する。
【0162】
計算:
体積活性(U/ml)=(全体積×dE/分 [U/ml]):(ε×試料体積×1)
(ε=吸光係数;ε
620nm=30[1×mmol
-1×cm
-1])。
比活性(U/mg)=体積活性U/mlをタンパク質濃度mg/mlで割ってU/mgとなる。
【0163】
アッセイをグルコースおよびマルトース(Merck,Germany)それぞれを用いて実施した。
【0164】
酵素活性および比活性に関する結果が、前記実施例に示される表に含まれている。