特許第5937573号(P5937573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937573
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】満腹を誘導する方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/717 20060101AFI20160609BHJP
   A23L 33/20 20160101ALI20160609BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A61K31/717
   A23L1/307
   A61P1/04
   A61P1/00
   A61P3/04
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-508207(P2013-508207)
(86)(22)【出願日】2011年4月27日
(65)【公表番号】特表2013-525447(P2013-525447A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011034129
(87)【国際公開番号】WO2011139763
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2014年4月25日
(31)【優先権主張番号】61/329,396
(32)【優先日】2010年4月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】ローラント アッデン
(72)【発明者】
【氏名】ダブリュ.アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】ブリッタ ヒューブナー
(72)【発明者】
【氏名】マチアス クナール
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−541270(JP,A)
【文献】 特開昭61−281182(JP,A)
【文献】 特開平04−164025(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/053451(WO,A1)
【文献】 特表2007−503823(JP,A)
【文献】 METHYLCELLULOSE FOR OBESITY,THE LANCET,1953年,vol. 262, no. 6799,page 1316
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A23L 1/27− 1/308
A23L 1/04− 1/09
A23L 2/00− 2/40
A61P 1/00
A61P 1/04
A61P 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体に摂食された際に該個体の胃内でゲル塊を形成する、液体の薬剤または食品サプリメントであって、
該ゲル塊がメチルセルロースおよび水からなり、
該液体の薬剤または食品サプリメントが、1.5〜2.1質量%のメチルセルロースを含み、
該メチルセルロースが、無水グルコース単位あたりの平均メトキシル置換度1.47〜2.2および該個体の体温よりも低いゲル化点を有し、かつ、該液体の薬剤または食品サプリメントに対して、該液体の39.5℃および1時間での状態調整後のインビトロのゲル破砕力少なくとも1.5Nを与える、薬剤または食品サプリメント。
【請求項2】
メチルセルロースが、胃に入った時点から少なくとも45分間でゲル化する、請求項1に記載の薬剤または食品サプリメント。
【請求項3】
該メチルセルロースが、該液体の薬剤または食品サプリメントに対してインビトロのゲル破砕力少なくとも4Nを与える、請求項1に記載の薬剤または食品サプリメント。
【請求項4】
該メチルセルロースが、該液体の薬剤または食品サプリメントに対してインビトロのゲル破砕力少なくとも6Nを与える、請求項1に記載の薬剤または食品サプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に栄養物、および詳細には満腹を誘導するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
栄養学的観点において、満腹は複雑な応答であり、十分に摂食したか否かの個体の感情的および物理的の両者の知覚の両者を含む。満腹は摂取の直後に続く食欲低下として、または次の食事での食物取込の低下として観測できる。本開示の目的で、「満腹」は個体によるカロリー取込の正味の低下を意味する。
【0003】
理解できるように、満腹の制御は、個体が必要よりも多くのカロリーを摂取する場合に最も関係する。満腹を誘導することは、カロリー取込の低減をもたらすのに、すなわち審美的な目的で(すなわち、減量または体重管理のための痩身補助剤として)、または医学的治療(例えば肥満の治療のために)有用であることができる。
【0004】
満腹を誘導するための種々の方策が開発されてきた。1つの方法は、高タンパク食(例えばホエイタンパクを含む)を食べることによる栄養学的応答を誘導することを含む。この方策を用いることの不都合は、満腹を実現するために摂取される追加のカロリーである。別の方策は、共投与されたカルシウムイオンと架橋して、満腹を感じることを誘導する小球を形成できるアルギネート物質を与えることを含む。しかし、これは幾つかの理由で不都合である。第1に、ゲル化を実現するために、アルギネートの摂食の特定の時間内にカルシウムイオンを投与しなければならない。これにより、個体の摂食が遅れまたは乱れると効果が完全になくなる恐れがある。従って、2段階プロセスは、活性物質の自己投与のための深刻な欠点となると従来考えられている。第2に、アルギネート物質は特定pH条件下のみでゲル化する。よって、共に摂食される食物または既存の胃内容物によって効率が低下し、または更には壊れる可能性がある。
【0005】
従って、別途の架橋剤を必要とせず、pH依存性ではないゲル化メカニズムで満腹を誘導する組成物が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要約
一態様において、本発明は、個体によって摂食(ingest)された際に、個体の胃(Stomach)内でゲル塊(gel mass)を形成し、該ゲル塊がメチルセルロースから本質的になる、カロリー取込(intake)を低減するための薬剤または食品サプリメントを提供する。
【0007】
別の態様において、本発明は、個体における満腹を誘導するための方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む方法を提供する。
【0008】
更に別の態様において、本発明は、個体における胃の空洞容積を可逆的に低減する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む方法を提供する。
【0009】
更に別の態様において、本発明は、個体の胃を膨張させる方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む方法を提供する。
【0010】
更に別の態様において、本発明は、個体におけるカロリー取込を低減する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを含む液体を投与することを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
セルロースは、1,4−結合で繋がった無水グルコース単位のポリマー骨格繰り返し構造を有する。各無水グルコース単位は、2,3および6位にヒドロキシル基を含有する。これらのヒドロキシルの置換はセルロース誘導体を形成する。例えば、苛性溶液、続いてメチル化剤でのセルロース繊維の処理は、1つ以上のメトキシ基で置換されたセルロースエーテルを与える。他のアルキルで更に置換されていない場合、このセルロース誘導体はメチルセルロースとして知られる。
【0012】
メチルセルロースは、典型的には、重量平均分子量少なくとも12kDa、好ましくは少なくとも15kDaを有する。特定のメチルセルロースの大まかな説明はその「DS」(セルロース誘導体の無水グルコース単位当たりの平均メトキシ置換度を意味する用語)で与えることができる。理論的に、メチルセルロースはDS約1〜約3を有することができるが、実際には、メチルセルロースは典型的にはDS約1.47〜約2.2を有する。
【0013】
従来、メチルセルロースは、増粘、凍結/融解安定性、潤滑性、水分保持および放出、フィルム形成、テクスチャー、稠度、形状保持、乳化、バインディング、ゲル化、および懸濁の特性を与える、種々の用途で極めて有用であることが見出されてきた。しかし、従来のメチルセルロースは、付随の実施例で示すようなエネルギー取込の低減(満腹の誘導)を与えない。
【0014】
メチルセルロースの1つの特異な特性は、これが逆熱ゲル化を示すこと、言い換えると、メチルセルロースが、より温かい温度でゲル化し、より冷たい温度で液体を形成することが知られていることである。殆どのグレードのメチルセルロースは50℃〜60℃近辺でゲル化する。比較的低温、38℃〜44℃でゲル化するグレードのメチルセルロースは、一般的に、商品名METHOCEL SGまたはSGA(The Dow Chemical Company)で入手可能である。個体の平熱という低温でゲル化する市販で入手可能なメチルセルロースはない。しかし、米国特許第6,235,893号(参照によりその全部を本明細書に組入れる)は、31℃の低温でゲル化するメチルセルロースを教示する。
【0015】
一態様において、本発明は、カロリー取込を低減するための薬剤または食品サプリメントを提供する。これは個体に摂食された際に、ゲル塊を個体の胃内に形成し、該ゲル塊はメチルセルロースおよび水から本質的になる。「個体」は動物、好ましくは哺乳類、より好ましくは人間を意味する。「ゲル塊」は、柔らかい固体の特性を有する、固体および実質量の液体からなるコロイド状の系を意味する。ゲル化は、溶液または配合物からのゲル塊の形成のプロセスを意味する。一態様において、固体部分はメチルセルロースから本質的になる。前に摂食された食物の粒子がゲル化中にトラップされるようになる場合があるという事実は本発明の精神から逸脱しない。
【0016】
好ましい態様において、ゲル化は、個体の体温によって温度−活性化される。すなわち、架橋剤は必要ない。好ましい態様において、本発明のメチルセルロースは、米国特許第6,235,893号、米国特許第6,235,893号(望ましく好ましいものとして、より低いゲル化温度が記載されるが、必須の特徴ではない(第3欄、第32〜33行))に記載される方法に従って形成される。しかし逆に、理解できるように、個体の体温またはこれより低温でのゲル化温度は、個体の体温によってゲル化が温度−活性化される態様において、本件では重要な特徴である。
【0017】
一態様において、薬剤または食品サプリメントは、胃潰瘍、胃食道逆流症、または肥満を治療するのに有用であることが意図される。好ましい態様において、薬剤または食品サプリメントは肥満の治療に有用である。別の態様において、薬剤は、胃の空間を少なくとも60分間、好ましくは少なくとも120分間、より好ましくは少なくとも180分間、および最も好ましくは少なくとも240分間満たすことを必要とする適応に有用である。
【0018】
代替として、別の態様において、食品サプリメントは、痩身、または減量の補助剤として、例えば体重管理等の審美的な理由で非肥満個体において、有用である。
【0019】
代替として、別の態様において、食品サプリメントは、毎日の総カロリー取込を低減するのに有用である。
【0020】
別の態様において、本発明は、個体における満腹を誘導する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む方法を提供する。付随の実施例に示されるように、本発明は、満腹の誘導(エネルギー取込の低減によって測定される)を示し、人間およびげっ歯動物における胃内でゲル化することが示されている。
【0021】
一態様において、メチルセルロースは、タンパク(例えば乳製品中に存在するもの,例えばホエイタンパク、ラクトアルブミン、またはカゼイン等)(これはゲル破砕力を少なくとも好ましくは10%、より好ましくは20%、および最も好ましくは50%増大させる)と組み合わされる。好ましい態様において、ゲル化は、個体の体温によって温度−活性化される。すなわち、架橋剤は必要ない。
【0022】
好ましくは、メチルセルロースは胃内に液体の形状で入る。本開示の目的で、「液体」は、室温でその容器の形状をとる任意の物質を意味する。非限定例としては、ヨーグルト、スムージー、ドリンク、シェイク、フルーツ飲料、飲料ショット、スポーツドリンク、および他の溶液、更にエマルション,例えばアイスクリーム、クリームチーズ、ケチャップ、スプレッド、ディップ、ピカンテ、サラダドレッシング、均質化乳、マヨネーズ、グレービー、プディング、スープおよびソースが挙げられる。液体の温度はメチルセルロースのゲル化温度より高くないのがよいことが理解される。
【0023】
実際、液体は、十分なメチルセルロースを含有して適切な程度のゲル化およびゲル強度を誘導し、更に初期粘度(吸収前)少なくとも600mPa・s、好ましくは少なくとも1000mPa・s(剪断速度10秒-1で測定したとき)を実現するのがよい。従って、液体中のメチルセルロースの濃度は当然変動する。一般に、例えば、液体中、少なくとも0.2質量%のメチルセルロースから2.1質量%の範囲のメチルセルロースが意図される。同様に、人間について、個体は3グラム超、好ましくは4グラム超のメチルセルロースを摂取(consume)するのがよい。しかし、何らの理論にも拘束されないが、インビボでの破砕力およびゲル塊の体積は主要な考慮事項であると考えられる。2%溶液、1.5%溶液、および更に1.0%溶液の300mL体積の液体の投与が意図される。代替として、2%溶液の200mL体積での投与が可能である。
【0024】
一態様において、個体は、メチルセルロースがゲル化する機会を有するまで、更なる液体を吸収することを控えるのがよい。
【0025】
一態様において、メチルセルロースは、胃内に入った時点から、少なくとも45分間、好ましくは少なくとも20分間、およびより好ましくは少なくとも15分間で実質的にゲル化する。
【0026】
インビトロでの、ゲル化した液体のゲル破砕力(39.5℃で1時間の試料の状態調整後に測定される)は、インビボでのゲル化の代用である。ゲル破砕力少なくとも1.5Nは好ましく、より好ましくは少なくとも4N、および最も好ましくは少なくとも6Nである。
【0027】
更に別の態様において、本発明は、個体における胃の空洞容積を可逆的に低減する方法であって、該個体に、個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む方法を提供する。何らの理論にも拘束されないが、ゲル塊の形成は、腹壁の膨張が生じる原因となって、満腹の生体信号をもたらし、食物に対して対応可能な個体の胃の容積をより小さい状態にする。好ましい態様において、メチルセルロースは、個体の体温よりも低いゲル化点を有する。
【0028】
更に別の態様において、本発明は、個体におけるカロリー取込を低減する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを含む液体を投与することを含む方法を提供する。この態様において、メチルセルロースは、好ましくは該個体の食事の少なくとも45分前、好ましくは少なくとも20分前、およびより好ましくは少なくとも15分前に投与する。好ましくは、個体は人間であり、個体は、少なくとも3グラム超、好ましくは少なくとも4グラムのメチルセルロースを含有する溶液を摂取する。
【0029】
個体の胃は、最終的にゲル塊を解体し、これを胃から上部消化管内に通過させることができることが理解される。ゲル塊を解体する自然発生的なメカニズムとしては、胃運動による物理的破壊および胃液による希釈(および結果的に液体形状へ戻ること)が挙げられる。動物実験は、ゲル塊の分解が好ましくは2時間以内、より好ましくは4時間以内、および最も好ましくは6時間以内に生じることを示す。
【0030】
メチルセルロースを製造する方法は、米国特許第6,235,893号に詳細に記載されている。一般的に、セルロースパルプを苛性物,例えばアルカリ金属水酸化物で処理する。好ましくは、約1〜約3.5モルのNaOH(セルロース中の無水グルコース単位1モル当たり)を用いる。パルプ中の均一な膨潤およびアルカリ分布は、混合および撹拌によって任意選択的に制御する。水性水酸化アルカリの添加の程度は発熱アルカリ化反応中の反応器を冷却する能力に支配される。一態様において、有機溶媒,例えばジメチルエーテルを反応器に希釈剤および冷却剤として添加する。同様に、反応器の上部スペースに任意に不活性ガス(例えば窒素)をパージしてセルロースエーテル生成物の酸素触媒解重合を制御する。一態様において、温度を約45℃またはそれ未満に維持する。
【0031】
メチル化剤,例えば塩化メチルまたは硫酸ジメチルもまた従来の手段によってセルロースパルプに苛性物の前、後または同時のいずれかで、一般には約1.5〜約4モルのメチル化剤(セルロース中の無水グルコース単位1モル当たり)の量で添加する。好ましくは、メチル化剤を苛性物の後に添加する。セルロースを苛性物およびメチル化剤と接触させたならば、反応温度を約75℃に増大させ、この温度で約半時間反応させる。
【0032】
好ましい態様において、段階的な添加を用いる。すなわち第2の量の苛性物を混合物に少なくとも60分間、好ましくは少なくとも90分間かけて添加し、その間温度を少なくとも約55℃、好ましくは少なくとも65℃、より好ましくは少なくとも80℃に維持する。好ましくは、約2〜約4モルの苛性物(セルロース中の無水グルコース単位1モル当たり)を用いる。段階的な第2の量のメチル化剤を混合物に、苛性物の前、後、または同時に、一般には約2〜約4.5モルのメチル化剤(セルロース中の無水グルコース単位1モル当たり)の量で添加する。
【0033】
セルロースエーテルを洗浄して塩および他の反応副生成物を除去する。任意の溶媒(この中で塩は可溶性である)を採用できるが、水が好ましい。セルロースエーテルを反応器中で洗浄できるが、好ましくは、反応器の下流に位置する別途の洗浄器中で洗浄する。洗浄の前または後に、セルロースエーテルは、蒸気に曝露して揮散させて残存有機物量を低減できる。
【0034】
セルロースエーテルを乾燥させて、低減された水分および揮発分の量、好ましくは約0.5〜約10.0質量%の水およびより好ましくは約0.8〜約5.0質量%の水および揮発分(セルロースエーテルの質量基準)にする。低減された水分および揮発分の量は、セルロースエーテルが粒状物形状にミル粉砕されるのを可能にする。セルロースエーテルは、所望のサイズの粒状物にミル粉砕する。所望であれば、乾燥およびミル粉砕を同時に実施できる。
【0035】

以下の例は例示の目的のみであり、本発明の範囲の限定を意図しない。特記がない限り、全てのパーセントは質量基準である。
【0036】
例1
本発明に従って使用すべき例示の低温ゲル化メチルセルロースを、米国特許第6,235,893号に記載される方法に従って、得られる生成物が、ゲル塊の形成を約37℃未満(例えば多くの哺乳類,例えばマウス、ハムスターおよび人間のほぼ平熱)で開始するような条件で形成した。このメチルセルロースを以後バッチAという。
【0037】
バッチAの2%水性溶液を得るために、3gのミル粉砕、グラインド、および乾燥させたバッチAを、147gの水道水(温度20〜25℃)に、室温で、オーバーヘッドラボ撹拌器で500rpmにて3ウイング(ウイング=2cm)ブレード撹拌器で撹拌しながら、添加する。次いで溶液を約1.5℃まで冷却し、撹拌器の速度を段階的に:500rpmで15分間、次いで400rpmで10分間、次いで200rpmで10分間、次いで100rpmで5時間で低減させる。次いで溶液を1晩、約0.5〜約1℃で保管する。使用または分析の前に、溶液を15分間100rpmにて氷浴中で撹拌する。
【0038】
例2
バッチAの溶液を、溶液を氷浴中で撹拌しなかったこと、および溶液を使用前に15分間撹拌しなかったことを除いて、実質的に例1で上記したように調製した。試料濃度0.70、0.90、1.10、1.30、1.50および1.70質量−体積%を調製した。各濃度の1.2mLの液体溶液(体重の約7.5mL/kg)を、試験前に16時間絶食(水は不断給餌)させたラットに3重強制飼養で与えた。45分後、ラットを犠牲にして解剖し、胃内容物を観察した。説明を表1に報告する。
【0039】
【表1】
【0040】
「ゲルなし」は胃から液体が流れたことを示す。「小さく柔らかいゲル」は、比較的小さく、比較的柔らかい、流動しないゲル塊が液体に囲まれて観察されたことを示す。「大きく堅いゲル」は、比較的大きく、比較的堅い、流動しないゲル塊が観察されたことを示す。興味深いことに、1.7%濃度は、ゲル塊を成長させ、これはラットの胃を実質的に満たした。ゲル塊は、胃組織から取り出された後、ラットの胃の形状を維持した。
【0041】
例3
バッチAの溶液を、溶液を氷浴中で撹拌しなかったことを除いて、実質的に例1で上記したように調製した。試料濃度0.70、0.90、1.10、1.30、1.50および1.70質量−体積%を調製した。
【0042】
粘度を試験するために、溶液をフローカーブ実験で剪断速度領域0.1〜1000s-1で5℃にて、Anton Paar Physica MCR 501またはHaake RS600レオメーター(ペルチェ方式ならびに円錐平板型を有する)(CP50−1/TG)を用い、各10(対数目盛り)当たり5測定点で測定した。
【0043】
ゲル破砕力を試験するために、ゲル塊をTexture Analyzer(Stable Micro Systems,Surrey,UK)で、5kgのフォースセルで特性化した。
【0044】
6.5gの試験溶液を620mLシリンジ(NORM−JECT Luer)(これはニードルポートに端部切り欠きを有する)の各々に入れた。6つのシリンジをラック内で保管し、ここでシリンジの解放端はガラス板でカバーする。次いでこのラックを39.5℃の水浴に1時間入れる。この時間の間、ゲルがシリンジ内に形成される。
【0045】
ラックを水浴から取り出し、ピストンを押すことによってゲルをシリンジから注意深く取り出した。次いでこれらのゲル塊(高さ=20mm、径=20mm)をテクスチャーアナライザーのプローブの下に入れた(径50mmを有するTeflon(登録商標) Plate)。次いでこのプローブをゲル本体の表面近くまで下げ、圧縮試験を開始した(試験速度=10mm/秒;トリガー力=0.5g;距離=18mm)。ゲル破砕力を[N] 対 距離[mm]での力のプロットから、力の値の最大値として得る。測定を室温で、水浴からのラックの取り出し後2〜3分間で行った。結果を表2に報告する。
【0046】
【表2】
【0047】
例4
バッチAが、満腹について、従来のメチルセルロースと比べて統計的に有意な効果を有したか否かを評価するために、人間の臨床試験を依頼した。試験設計は、認定されたInstitutional Review Boardによってレビューされ、International Conference on Harmonization/Good Clinical Practice基準に基づいて実施された。
【0048】
人間の満腹試験結果は味覚によって左右されることが知られている。試料を口当たりの良いものにするために、ミントチョコレートフレーバーの配合物を調製した。比較バッチZ、従来の非ゲル化メチルセルロースは、発明バッチAと厳密に適合する初期粘度を有するように選択した。配合物を質量%単位で表3に報告する。
【0049】
【表3】
【0050】
METHOCEL A4M メチルセルロースについてのTgelは55℃である。
バッチA メチルセルロースについてのTgelは28℃である。
【0051】
ゲル化温度を試験するために、溶液を、振動剪断流でペルチェ温度制御システムを有するAnton Paar Physica MCR 501またはHaake RS600レオメーターを用いた温度掃引実験で測定した。測定ギャップ1mmを有する平行板(PP−50)を用いた。配置を更なる金属リング(内径65mm、幅5mm、高さ15mm)で該配置を囲んで覆い、溶液の外側表面をパラフィン油で覆った。測定を一定周波数1Hzおよび一定歪み(変形)0.5%、5℃〜85℃で、加熱速度1°K/分で行った。貯蔵弾性率G’(これは振動測定から得られる)は、溶液の弾性特性を表す(メチルセルロースのゲル化プロセス中、G’は増大する)。損失弾性率G”(これは振動測定から得られる)は、溶液の粘性特性を表す。ゲル化温度はG’およびG”のカーブが交差する温度として評価される。
【0052】
これらの水性フレーバー付溶液を、フレーバー物質および甘味料のカロリー寄与により、300mL用量当たりカロリー量5kcal未満を有するものと見積もった。
【0053】
300mLのバッチX、300mLのバッチZ、300mLのバッチ1、および150mLのバッチ1を摂取する4グループを作った。対照バッチについて、調製中、25kgバッチサイズを用い、バッチを、冷却後直接450mLサイズポット(300g/ポット)に満たし、1晩3℃で保管した。次いで試料をポット内で凍結させ、−20℃で保管した。摂取に必要な試料を冷凍庫から取り出し、摂取前に24時間かけて7℃で解凍した。
【0054】
試験バッチについて、30kgバッチサイズを用いた。バッチを4Lプラスチック容器(容器当たり2.4kg)に満たし、容器をゆっくり1晩3℃でコンベヤーベルト上で回転させて試料の脱気を助け、メチルセルロースを確実に完全に水和させた。次いで試料を凍結させて−20℃で保管した。摂取前に、4L容器内の2.4kgの試料を解凍し、割り付けられたバッチ試料の300mLまたは150mLのそれぞれを被験者に与えるのに用いた。試料を2晩かけて、7℃で回転させて28時間、続いて3℃で回転させて約16時間で解凍した。
【0055】
32人の被験者集団を以下の基準で採用した。実験開始時年齢 20歳から60歳の間またはこれら、体格指数(BMI) 18.5から25kg/m2の間またはこれら、健康であると思われること(質問で評価し、現在または過去の代謝性疾患または慢性消化器疾患がないこと)、良好な報告される食習慣(医療上規定食でなく、痩身食でなく、1日に3食食べる習慣であること)、実験中献血しないこと、週に10時間またはそれ未満の運動/スポーツ活動、週に21(女性)もしくは28(男性)またはそれら未満のアルコール飲料。可能性ある被験者から喫煙、アレルギーまたはラクトース不耐症、実験の製品に対する嫌悪、アレルギーまたは不耐症、食疾患の可能性(SCOFFの質問で評価される)、報告された授乳(または<6週前の授乳)、妊娠(または<3ヶ月前の妊娠)または実験中の妊娠の意思、食習慣/満腹に影響する場合がある報告された医学的治療、または実験開始前1ヶ月以内の他の生物医学実験の報告された被験者、の者を除外した。
【0056】
4つの試料を、ウイリアムのスクエア無作為化二重盲検クロスオーバー法を用いて試験した。4週間に亘り、各被験者は試験施設を4度訪れ(各々「実験日」)、各実験日の間にウォッシュアウト期間1週間を有して実験を完了させた。
【0057】
被験者に通常のように実験日前夜に食事してもらったが、20.00時に食事を止めてもらい、彼らが18.00時から20.00時の間に摂取したもの全てを記録してもらった。20.00時の後、飲み物は許されたが、水または紅茶/コーヒー(砂糖なし、ミルクなし)に限られた。被験者にはまた、アルコールおよび激しい運動を各実験日の前24時間控えてもらい、全ての液体を飲むのを実験日の開始前1時間控えてもらった。
【0058】
実験日に、被験者に08.45時に到着するように指示した。朝食の摂取10分前に、被験者は満腹感のベースライン評定を完了させた。09.00時に、各被験者の体重に規格化した朝食(コーンフレーク(0.67g/kg)、および半脱脂乳(2.5g/kg)からなる)を与えた。被験者をブース内に座らせて彼らを隔離し、互いに話をしないように指示した。被験者には朝食を食べるのに15分間与えた。摂取直後、満腹に対する質問を完了させ、その後被験者は自由にブースを出た。
【0059】
満腹に対する質問で、割り付けられたバッチ試料の摂取直前まで30分間毎に質問した。その後、彼らに割り付けられたバッチ試料を受けさせ、これを摂取するのに15分与えた。摂取直後、満腹および好みに対する質問を完了させた。
【0060】
ノンカロリー飲料(水、茶/コーヒー、ミルク/砂糖なし)を実験日の間許可した(しかし、被験者には割り付けられたバッチ試料の摂取前後45分間は飲むのを控えてもらった)。各試験日中に存在する同様の条件を確保するために、1回目試験前および1回目試験中の飲料(水、コーヒー/茶、ミルク/砂糖なし)の輸送および摂取を記録し、各後続試験で繰り返した。
【0061】
次いで満腹に対する質問で、トマトおよびモッツァレラパスタベークの自由食の摂取直前まで、摂取後に定期的に質問した。被験者は30分間与えられて昼食を摂取し、単に快適に満腹になるまで食べるよう指示した。昼食の摂取直後、満腹および好みに対する質問を完了させた。食事で摂取されたエネルギーを、食べた食物の重さの評価により測定した。
【0062】
満腹に関する複数の質問を被験者にし、応答を、少なくとも30分毎で、朝食の摂取前後、割り付けられたバッチ試料の摂取前後、および自由食の前後で、採点および入力した。統計分析を点数に適用し、p値0.05未満を有意であると考えた。
【0063】
4つのバッチ試料(300mLのバッチX、300mLのバッチZ、300mLのバッチ1、および150mLのバッチ1)は同等のにおい、味、テクスチャー、および全体での応答を受けた。よって空腹または満腹の被験者の違い(以下で議論する)は試料自体の被験者の意見により影響されたものではなかった。
【0064】
比較バッチZおよび発明の300mLバッチ1は、「あなたはどのくらい空腹に感じるか?」および「あなたはどのくらい満腹に感じるか?」(割り付けられたバッチ試料の摂食後、自由食120分後まで)への応答において、統計的に有意な採点を受けた。言い換えると、比較バッチZおよび発明の300mLバッチ1を受けた被験者は、120分間に亘って感じた空腹がより少なく、より長時間、より満腹に感じた。
【0065】
しかし、驚くべきことに、同様の応答を見ると、300mL用量での発明バッチ1のみが統計的に有意な、自由食でのエネルギー取込低減を示した。約115kcalの低減が、発明バッチ1を300mL用量で摂取することによって実現された。これは割り付けられたバッチ試料の摂取に続く食事でのエネルギー取込の13%低減と等価である。
【0066】
例5
人間のボランティアの胃内のバッチAのゲル化および除去を示すために、磁気共鳴イメージング(MRI)を用いた臨床試験を行う。試験設計は、認定されたInstitutional Review Boardによってレビューされ、International Conference on Harmonization/Good Clinical Practice基準に基づいて実施される。
【0067】
比較バッチMおよびNは、従来のメチルセルロース(METHOCEL A4M メチルセルロース)および従来のメチルセルロースのブレンド物(55%METHOCEL SGA16M メチルセルロースおよび45%METHOCEL SGA7C メチルセルロース)(それぞれ発明バッチAと厳密に適合する初期溶液粘度を有するように選択される)である。配合物を表4に質量%単位で報告する。
【0068】
【表4】
【0069】
METHOCEL A4M メチルセルロースについてのTgelは55℃である。
METHOCEL SGA16M メチルセルロースおよびMETHOCEL SGA7C メチルセルロースについてのTgelは各々38−44℃である。
バッチA メチルセルロースについてのTgelは28℃である。
【0070】
バッチ2について、メチルセルロースを500rpm(IKA−オーバーヘッドスターラー−プロペラ)で撹拌している水に室温で添加し、次いで、約2.5℃まで6時間冷却(スターラーの速度は段階的に:500rpmで15分間、次いで400rpmで10分間、次いで200rpmで10分間、および次いで100rpmで5時間にて低減した)して、650mLの溶液を形成する。フレーバーをラボスターラーシステム(IKA Eurostar 6000、プロペラを有する)で約700rpmで氷水浴中で撹拌しながら添加し、冷蔵庫内で約0〜2℃で1晩保管して脱気する。
【0071】
比較バッチMおよびNについて、40〜50℃で800rpm(IKA−オーバーヘッドスターラー−プロペラ)にて撹拌している水にメチルセルロースを添加し、次いで500rpmで15分間撹拌し、約2.5℃まで90分間冷却することによって、650mLの溶液を形成する。フレーバーは、氷水浴中、ラボスターラーシステム(IKA Eurostar 6000 プロペラを有する)で約700rpmで撹拌しながら添加し、冷蔵庫内で約0〜2℃で1晩保管して脱気する。
【0072】
試料を300mLアリコートに計量し、融解および使用するまで凍結させる。
【0073】
3ウエイ無作為化二重盲検クロスオーバー実験で、約1週間あけた3つの異なる場で6人の被験者が参加する。3T Philips Achieva MRIスキャナーでMRIを行う。MRIシークエンスの範囲(T1およびT2の両者を計量し、T2をマッピング)を用いる。各ボランティアは、腹部の周囲にSENSEボディコイルを巻き上げてスキャナー内に仰向けに入れる。マルチスライス、胃内容物のT2計量軸画像を所定間隔で、更にシングルスライス、胃内容物の定量T2マッピングを取る。各画像の組は短く息を保って得る。市販ソフトウエア(Analyze 6,Biomedical Imaging Resources,Mayo Clinic,Rochester,MN)を用いて、各スライス上の目的の領域の周囲を手でトレースする。体積およびT2値を算出し、胃からのゲルの形成および除去を追跡するのに用いる。
【0074】
参加者を初めに空腹でスキャンし、胃が空であることを確かめる。次いで彼らに3つの異なるバッチのうち1つ300mLを与える。次いで参加者を所定間隔で最大4時間撮像して、ゲル形成のダイナミクスを調べる。胃が空であると思われた時点で、500mLの水再充填飲料を与え、最終スキャンを取ってゲルの保持を調べる。バッチ2はインビボでゲル化することが観察される。比較バッチMおよびNはゲル化しないことが観察される。
【0075】
本発明は具体的に開示および例示される態様に限定されないことが理解される。発明の種々の改変は当業者に明らかであろう。そのような変更および改変は特許請求の範囲の範囲から逸脱することなくなすことができる。
【0076】
更に、各々の列挙される範囲は、範囲の全ての組合せおよび下位組合せ、更にその中に含まれる具体的な数値を包含する。更に、本開示で引用または記載される各特許、特許出願、および公開公報の開示は、その全部を参照により本明細書に組入れる。
以下もまた開示される。
[1] 個体に摂食された際に該個体の胃内でゲル塊を形成する、薬剤または食品サプリメントであって、該ゲル塊がメチルセルロースおよび水から本質的になる、薬剤または食品サプリメント。
[2] 該薬剤が、胃潰瘍、胃食道逆流症、または肥満を治療するのに有用である、上記[1]に記載の薬剤。
[3] 該薬剤または食品サプリメントが、減量補助剤として有用である、上記[1]に記載の薬剤または食品サプリメント。
[4] 該薬剤が、胃容積を少なくとも60分間、好ましくは少なくとも120分間、より好ましくは少なくとも180分間、およびより好ましくは少なくとも240分間満たすことを必要とする適応に有用である、上記[1]に記載の薬剤。
[5] 個体における満腹を誘導する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与すること、を含む、方法。
[6] メチルセルロースが液体の形状で胃に入る、上記[5]に記載の方法。
[7] 該液体が少なくとも0.2質量%のメチルセルロースを含有する、上記[6]に記載の方法。
[8] 該個体が人間であり、該個体が、少なくとも3グラム超、好ましくは4グラム超のメチルセルロースを摂取する、上記[5]に記載の方法。
[9] 該個体が肥満体である、上記[8]に記載の方法。
[10] 該個体が肥満体でない、上記[8]に記載の方法。
[11] メチルセルロースが、胃に入った時点から少なくとも45分間でゲル化する、上記[5]または[6]に記載の方法。
[12] 個体における胃の空洞容積を可逆的に低減する方法であって、該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを投与することを含む、方法。
[13] 該個体の胃のより少ない容積が食物に対して対応可能である、上記[12]に記載の方法。
[14] 該メチルセルロースが該個体の体温よりも低いゲル化点を有する、上記[13]に記載の方法。
[15] 個体におけるカロリー取込を低減する方法であって、
該個体に、該個体の胃内でゲル化するメチルセルロースを含む液体を投与することを含む、方法。
[16] 該個体の食事の少なくとも45分前にメチルセルロースを投与する、上記[15]に記載の方法。
[17] 該個体が人間であり、該個体が少なくとも6グラムのメチルセルロースを摂取する、上記[15]に記載の方法。