(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンチスタシン、アルガトロバン、E−76、アンチトロンビンIII、ならびに、6−(4−{1−[(ジメチルアミノ)メチル]シクロプロピル}フェニル)−1−(4−メトキシフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1,4,5,6−テトラヒドロ−7H−ピラゾロ[3,4−c]ピリジン−7−オン;および1−(4−メトキシフェニル)−6−[4−(1−(ピロリジン−1−イルメチル)シクロプロピル]フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロピラゾロ[3,4−c]ピリジン−7−オン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される第Xa因子阻害剤、ならびに、第VII因子阻害剤、第IX因子阻害剤、第XII因子阻害剤および第II因子阻害剤、ならびにそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される抗凝固剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
前記血液安定剤は、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、P2Y12阻害剤、抗血小板抗体、およびそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される血小板アンタゴニストをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,309,468号明細書
【特許文献2】米国特許第5,860,937号明細書
【特許文献3】米国特許第6,516,953号明細書
【特許文献4】米国特許第6,406,671号明細書
【特許文献5】米国特許第6,409,528号明細書
【特許文献6】米国特許第6,497,325号明細書
【特許文献7】米国特許第5,053,134号明細書
【特許文献8】米国特許第5,096,669号明細書
【特許文献9】米国特許第5,112,455号明細書
【特許文献10】米国特許第5,821,399号明細書
【特許文献11】米国特許第5,628,961号明細書
【特許文献12】米国特許第7,419,821号明細書
【特許文献13】米国特許第6,750,053号明細書
【特許文献14】米国特許第D337,164号明細書
【特許文献15】国際公開第29017699号
【特許文献16】国際公開第03091284号
【特許文献17】国際公開第28155658号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Muller et al., Thromb Haemost. 89 (5): 783-7 (2003)
【非特許文献2】Clinical Laboratory Standards Institute Guideline, "Platelet Function Testing by Aggregometry, H58-A (Vol. 28, No. 31 (2008))
【非特許文献3】Cho, et al., J. Biol. Chem. 282 (40): 29101-13 (2007)
【非特許文献4】Wall, et al., Thromb. Res. 103: 325-35 (2001)
【非特許文献5】Sarilla, et al., J. Biol. Chem. 285 (11): 8278-89 (2010)
【非特許文献6】Nieman et al., J. Thrombosis Haemostasis 6: 837-845 (2008)
【非特許文献7】Pintigny et al., Eur. J. Biochem. 207: 89-95 (1992)
【非特許文献8】Lyon et al., Clin. Chem. 41: 1038-1041 (1995)
【非特許文献9】Qiao et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 19: 462-468 (2009)
【非特許文献10】Tamura et al., Circ. J. 73(3): 540-8 (2009)
【非特許文献11】Kalb et al., Platelets 20(1): 7-11 (2009)
【非特許文献12】Ohta et al., Thromb Haemost. 72 (6): 825-30 (1994)
【非特許文献13】Jorgensen et al., Biochem. J. 231 (1): 59-63 (1985)
【非特許文献14】Dennis et al., Nature 404 (6777): 465-70 (2000)
【非特許文献15】Geiger et al.(2005) Clin. Chem. 51 (6): 957-965
【非特許文献16】Tentzeris et al., Thromb Haemost. 105 Suppl l: S60-6 (2011)
【非特許文献17】Srinivasan et al., J. Biol. Chem. 284 (24): 16108-17 (2009)
【非特許文献18】Bracey et al., Am. J. Cardiol. 98 (10A): 25N-32N (2006)
【非特許文献19】Koh et al., J. Biol. Chem. 282 (40): 29101-13 (2007)
【発明を実施するための形態】
【0021】
概して、本発明の採取デバイスは、試験管および遠心管等のチューブ;採取バッグ等の閉鎖系血液採取デバイス;シリンジ、特にプレフィルドシリンジ;カテーテル;マイクロタイターおよび他のマルチウェルプレート;アレイ;チューブ類;フラスコ、スピナーフラスコ、ローラーボトル、バイアル等の実験用容器;顕微鏡スライド、顕微鏡スライドアセンブリー、カバースリップ、フィルムならびに多孔質基板およびアセンブリー;ピペットおよびピペットチップ;組織および他の生物学的試料の採取容器;および生物学的試料を保持するのに適した任意の他の容器、ならびに試料を移送するための容器および要素等の任意の採取デバイスを包含し得る。いくつかのそのようなデバイスの例および説明は、Stevensらに付与された共有の特許文献1に開示されている。デバイスは減圧されており、無菌であってよく、針によって穿刺可能なクロージャーを含み得る。あるいは、デバイスは血液を採取するための部分的減圧系または非減圧系であってよい。減圧系の好適な例は閉鎖チューブである。手動によるシリンジ吸引は部分的減圧系および非減圧系の両方の好適な例である。非減圧系には自動吸引システムも含まれる。
【0022】
特許文献1にも示されている
図1は本発明において有用な典型的な吸引デバイス10を示し、これは内部チャンバーまたは貯留槽14を画定する容器12を含む。示された実施形態において、容器12は側壁16、閉じた底端18および開いた上端20を有する中空チューブである。任意選択で、分離部材13が容器チャンバー14の内部に取り付けられている。分離部材13は血液試料の成分をたとえば遠心分離によって分離することを助けるために作用する。容器12は適切な量の血液を採取するために寸法が決められている。無菌の製品が必要な場合には、開放端20をカバーして容器12を閉じるために閉鎖手段22が必要である。いくつかの実施形態において、チューブはスクリューキャップのために構成されている。好ましくは、クロージャー22は容器12を効果的に閉じ、生物学的試料をチャンバー14の中に保持することができるシールを形成する。クロージャー22は、これだけに限らないが、ゴムクロージャー、HEMOGUARD(登録商標)クロージャー、金属シール、金属バンド付きゴムシールおよび種々のポリマーおよび設計によるシール等の種々の形態の1つであってよい。保護遮蔽材24をクロージャー22の上に被せてもよい。
【0023】
容器12は、たとえばプラスチック(たとえばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ、アクリル樹脂、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリメタクリレート、PEEK、ポリイミドおよびフルオロポリマー)およびシリカガラス等のガラス製品等の実験用容器に適した任意の材料から作ることができる。好ましくは、容器12は透明である。容器12に適した透明な熱可塑性材料の例としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンテレフタレートが挙げられる。プラスチック材料は酸素不透過性材料であってよく、または酸素不透過もしくは半透過層を含んでよい。あるいは、容器12は水および空気透過性のプラスチック材料から作ることができる。
【0024】
チャンバー14の内圧は所定の量の生物学的試料をチャンバー14の中に吸引するために選択される。好ましくは、クロージャー22は、大気圧と大気圧未満の圧力との間の内圧差を維持することができる弾力性のある材料から作られる。クロージャー22は、当技術分野において知られているように、生物学的試料を容器12の中に導入するために針26または他のカニューラによって穿刺できるようなものである。好ましくは、クロージャー22は再シールが可能である。クロージャー22として好適な材料としては、たとえばシリコーンゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンコポリマーおよびポリクロロプレンが挙げられる。
【0025】
容器12の好適な例としては、単壁および多層チューブが挙げられる。好適な容器12のより具体的な例は特許文献2に開示されている。
【0026】
容器12は、ゲル、機械的分離材または他の型の分離部材(たとえば濾紙その他)等の分離材13を含んでもよい。分離材は典型的には血液血漿の調製、具体的にはヒトまたは動物の全血から血漿を分離するために有用である。いくつかの実施形態において、分離材は白血球と血小板の中間の密度を有し、全血試料の他の細胞要素からPRPを単離するために有用と思われる。ゲルは望ましくはチクソトロピー性のあるポリマーゲル製剤である。ゲルはホモポリマーまたはコポリマーであってよく、たとえばポリシロキサン等のシリコーン系ゲル、またはたとえばポリアクリル樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、酸化シスポリブタジエン、ポリブテン、エポキシ化大豆油と塩素化炭化水素とのブレンド、ジ酸とプロパンジオールとのコポリマー、水素化シクロペンタジエンおよびα−オレフィンとジアルキルマレエートとのコポリマー等の有機炭化水素系ゲルが含まれ得る。本発明において有用と思われる機械的分離材の例は、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6に記載されている。
【0027】
容器12は、全血試料の比重の重い相からリンパ球および単球を遠心分離するために適合させてもよい。そのような実施形態において、デバイスは液体密度勾配媒体および遠心分離に先立って液体密度勾配媒体と血液試料との混合を防止するための手段を含んでもよい。リンパ球/単球採取チューブの好適な例は特許文献7に開示されている。
【0028】
図1に示した実施形態に加えて、本発明における使用に適した購入可能な他の採血チューブとしては、以下の、その全てがBecton,Dickinson and Company社(Franklin Lakes,NJ)から販売され、全ての登録および商標がBecton,Dickinson and Company社に属する、VACUTAINER(登録商標)ヘマトロジーチューブ(たとえばカタログ番号367650−1、367661、6405、6385、6564、367653、367665、367658、367669、6450−8、6535−37および367662);VACUTAINER(登録商標)K
2EDTAチューブ(たとえばカタログ番号367841−2、367856および367861);およびBD Microgard(商標)クロージャーを有する非減圧BD Microtainer(登録商標)チューブ(たとえば365987、365965および365974)または従来のBD Microtainer(登録商標)チューブ(たとえば365956、365957、365958、365959、365971および365973)が挙げられる。市販の多くの採血チューブは典型的には250μlから約10.0ml、ある場合には16mlまでの標準容積を有している。典型的な容積としては、250、400、および500μl、ならびに2.0ml、3.5ml、4.0ml、5.0ml、8.0ml、8.5ml、および10.0mlが挙げられる。
【0029】
他の実施形態において、デバイスには試験用カートリッジの内部に集約された貯留槽であって、全血を2から200μl、より好ましくは50〜150μlの範囲の量で保持できる貯留槽が含まれ得る。そのようなカートリッジは、たとえばAbbott Laboratories社(Abbott Park,Illinois)からi−STAT Point of Care Systemという商標で販売されており、カートリッジとインターフェース可能な手持ちアナライザーとともに用いることができる。本発明において使用可能なそのようなカートリッジおよび手持ちアナライザーの例としては、それぞれi−STAT CHEM8+カートリッジおよびi−STAT(登録商標)1手持ちアナライザーが挙げられる。そのようなデバイスは、たとえば特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、および特許文献14に教示されている。
【0030】
いくつかの実施形態において、デバイスはシリンジである。シリンジアセンブリーには、開いた近位端、遠位端および血液を受容するための近位端と遠位端との間の無菌の中空チャンバーを有するバレル;開いた近位端に位置するプランジャー;バレルに固定された針;およびチャンバー内の血小板安定化剤が含まれ得る。
【0031】
本発明のデバイスは、当技術分野で既知の材料、試薬およびプロセスに従って作製または組み立てることができる。たとえばそのような1つの方法には、血小板安定化少なくとも1つの血小板安定化剤(これは本明細書に記載したように乾燥または凍結乾燥状態であってよい)を、血小板を安定化させるために有効な量でデバイス中に加えること;および次いで任意選択により分離部材をデバイスに加えること、およびデバイスを減圧および/または滅菌することが含まれる。
【0032】
代表的な凍結乾燥/減圧プロセスは、デバイスを温度約−40℃、圧力約760mmで約6から8時間凍結するステップ;圧力約0.05mmで約8から10時間、温度を−40℃から約25℃まで上昇させながらデバイスを乾燥するステップ;次いで温度約25℃、圧力約120mmで約0.1時間、デバイスを減圧にするステップ、および次いでたとえばコバルト60の照射でデバイスを滅菌するステップを伴い得る。添加物および抗凝固剤を液体状態でチューブに添加し、次いでこのようにして乾燥してもよい。
【0033】
本明細書において、「血液」および「血液試料」という用語は、全血またはその成分(たとえば血液成分を含む別の体組織または流体等の組成物)、特にたとえば赤血球濃縮物、血小板濃縮物(たとえば多血小板血漿(PRP))、白血球濃縮物等の細胞成分;または血漿および血清を意味する。したがって、他の実施形態において、試料は血液細胞または骨髄等の未成熟な血液細胞を含む体液または組織であり得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、血液安定化剤は吸血性節足動物の唾液腺から、好ましくはダニの唾液腺から、最も好ましくはアムブリオンマ バリエガツム(Amblyomma variegatum)の唾液腺から抽出され、または誘導された天然または合成ペプチドである。そのようなペプチドは特許文献15、特許文献16、および特許文献17に開示されている。そのようなペプチドは非特許文献3にも開示されている。バリエジンおよびその類似体は当技術分野において既知の「直接トロンビン阻害剤」であり、トロンビンの活性部位に結合して、それにより可溶性トロンビンおよびフィブリン結合性トロンビンの両方を不活性化することができる薬剤を意味する。
【0035】
いくつかの実施形態において、血液安定化剤は配列番号1(本明細書においてバリエジンを意味する)と指定される32アミノ酸の配列NH
2−SDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES−COOHを有する。本発明の目的のため、配列番号1の変異体、断片(およびその変異体)および誘導体を含むバリエジンの機能的同等物または類似体も、それらが必要な血小板安定活性を有している限り、本発明において有用であろう。バリエジンの断片は、バリエジンのタンパク質配列のN−末端からの1、2、3、4、5、6、7、8、9または10アミノ酸およびC−末端からの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはさらにそれ以上のアミノ酸の喪失を除けば典型的には配列番号1と同一となる。
【0036】
バリエジンの変異体は、典型的には配列番号1と同等の保存されたアミノ酸置換を含むことになる。そのような典型的な置換はAla、Val、LeuおよびIleの間;SerおよびThrの間;酸性残基AspおよびGluの間;AsnおよびGlnの間;塩基性残基LysおよびArgの間;または芳香族残基Phe、TrpおよびTyrの間に存在する。いくつかの実施形態において、アミノ酸置換は配列番号1の4、5、6、8、10、11、12、13、14、17、18、22、25および31位に存在する。したがって、いくつかの実施形態において、バリエジン変異体は以下の置換の1つまたは複数に関して配列番号1と異なり、4位のGlyはAlaまたはSerで置き換えられ;5位のAspはGlyで置き換えられ;6位のValはArgで置き換えられ;8位のGluはGlnで置き換えられ;10位のLysはArgで置き換えられ;11位のMetはLeuで置き換えられ;12位のHisはProで置き換えられ;13位のLysはArgで置き換えられ;14位のThrはAsnで置き換えられ;17位のProはGlnで置き換えられ;18位のPheはGlyで置き換えられ;22位のAlaはGluで置き換えられ;25位のGluはAspで置き換えられ;31位のGluはHisで置き換えられる。
【0037】
バリエジン断片の代表的な例を表1に示す。
【0039】
本発明において有用と思われる別のバリエジン断片はSDQGDVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(配列番号5)である。
【0040】
バリエジン断片は上述の1つまたは複数の部位にアミノ酸置換を含んでもよい。そのような断片の代表的な例としては、
SDQGDVAEP
AMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(K10A)(配列番号6)、
SDQADRAQPKLHRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号7)、
SDQSGRAQPKLPRNAPQGDFEAIPDEYL(配列番号8)、
SDQGDVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号9)、
SDQADVAEPKMHKTAPPGDFEAIPEEYLD(配列番号10)、
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYLDDES(EP25)(配列番号11)、
EPKMHKTAPPFDFEEIPEEYLDDES(EP25A22E)(配列番号12)、
EPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(EP21)(配列番号13)、
MHKTAPPFDFEAIPEEYL(MH1 8)(配列番号14)、
DVAEPKMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24)(配列番号15)
およびDVAEPRMHKTAPPFDFEAIPEEYL(DV24、K10R)(配列番号16)
を含むアミノ酸配列を有する断片が挙げられる。
【0041】
したがって、変異体、断片および断片の変異体は、典型的には配列番号1に対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または約97%の配列類似性を有する。
【0042】
バリエジンの誘導体、ならびにその変異体および断片も、本発明の実施において有用であろう。そのような誘導体の代表的な例としては、バリエジン配列中のアミノ酸残基に糖基(たとえばグリコシル基)またはポリマー基(たとえばPEG)を付加させることによって修飾されたバリエジンならびにその変異体および断片の修飾形が挙げられる。いくつかの実施形態において、誘導体は配列番号1の14位のThrがヘキソース基で修飾されたバリエジンのグリコシル化形である。他の実施形態としては、セリン、スレオニンまたはチロシン残基が関与することが多いホスホリル化、スモイル化、種々の脂肪酸の付加または脂質鎖等の当業者には公知の他の翻訳後修飾が挙げられ、これら全ては単独または組み合わせで含まれる。さらに、アルギニンの非荷電類似体としてのシトルリン、リジンの非荷電類似体としてのメチルリジン、プロリンの構造的類似体としてのヒドロキシプロリン等、当業者には公知の多くの代替物等、配列中の残基を置き換えることができる天然のまたは組み換えたアミノ酸の変種が存在する。
【0043】
バリエジンおよびその類似体は、たとえば液相および固相化学手法を含むペプチド合成化学等の既知の手順によって合成することができる。たとえば、ペプチド合成は任意の固相ペプチド合成(SPPS)法(たとえばFmocまたはt−Boc化学アプローチ)によって実施することができ、その全ては当業者には公知である。典型的には、これらの合成は自動ペプチド合成装置によって実施される。他の実施形態において、ペプチドはバリエジンまたはその類似体をエンコードする核酸を用いて遺伝子操作(たとえば形質転換により)された微生物または他の非ヒト生命体中で産生することができる。
【0044】
本発明において有用な他の血液安定剤としては、ポリ硫酸化二糖が挙げられる。二糖成分は典型的にはラクトース、トレハロース、スクロース、マルトース、またはセロビオースである。いくつかの実施形態において、二糖成分はスクロースまたはトレハロースである。二糖成分上の硫酸基の数は典型的には4から8の範囲である。したがって、実施形態には四硫酸化、五硫酸化、六硫酸化、七硫酸化、および八硫酸化されたラクトース、スクロース、マルトースおよびセロビオースが含まれる。たとえば非特許文献4、非特許文献5を参照されたい。例示的な実施形態において、ポリ硫酸化二糖は八硫酸スクロース(SOS)または八硫酸トレハロースである。ポリ硫酸化二糖は間接トロンビン阻害剤であり、当技術分野で知られているように、アンチトロンビン複合体の一部として作用する薬剤であり、それ自体トロンビンの活性部位と直接に相互作用せず、したがって可溶性トロンビンを不活性化することができるのみで、フィブリンと結合したトロンビンとは反応できない。SOSはヘパリンコファクターIIを通して作用することが知られており、したがってSOS−HCII複合体はトロンビンに結合してこれを阻害する。
【0045】
血液安定剤には、少なくとも1つの他の直接トロンビン阻害剤および/または少なくとも1つの他の間接トロンビン阻害剤も含まれ得る。本発明において有用と思われる直接トロンビン阻害剤の代表的な例としては、アルガトロバン((2R,4R)−1−[(2S)−5−(ジアミノメチリデンアミノ)−2−[[(3R)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−8−イル]−スルホニルアミノ]ペンタノイル]−4−メチル−ピペリジン−2−カルボン酸)、ヒルジンおよびその類似体であるビバリルジン、D−異性体および/または異常アミノ酸を含むペンタペプチドRPPGFの誘導体、たとえばrOicPaF(p−Me)−NH
2(当技術分野で「FM−19」として既知)、rOicPsF(p−Me)、rOicPaF(p−Br)、rOicPaF(p−I)、rOicPaF(p−NO
2)、F(p−Me)OicrPa、aPrOicF(p−Me)、PaF(p−Me)rOic、PF(p−Me)Oicra、およびPraF(p−Me)Oic(ここでD−異性体は小文字で指定され、「Oic」は合成アミノ酸(2S,3aS,7aS)−オクタヒドロインドール−2−カルボン酸を表わす)(たとえば非特許文献6))、アプロチニン、既知のトロンビン阻害の可能性を有するペプチド(たとえば非特許文献7)、およびヘパリン代替物として知られるD−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)(たとえば非特許文献8)が挙げられる。
【0046】
本発明において有用と思われる間接トロンビン阻害剤の代表的な例としては、特定の製剤の分子量分布によって定義される種々の形態のヘパリン(たとえば未分別、低分子量(典型的には3〜7キロダルトンの画分)、超低分子量(典型的には2〜3キロダルトン)、および同様の寸法特異的サブ画分)が挙げられる。寸法または種々の化学的抽出プロセスのいずれかに基づく種々の分別法によって分離されたヘパリンの治療用サブ画分としては、ダルテパリン、エノキサパリン、アドレパリン、パルナパリン、レビパリン、チンザパリン、ビオパリン、ミニパリン、サンドパリン、セムロパリン、およびナドロパリンならびに他の同様の分子が挙げられる。
【0047】
精製の様式は合成方法による。一般には、血液安定化剤の純度は用いる薬剤およびその源によって変動することになる。一般には、血小板安定化剤の純度は少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%、またはそれより高い。
【0048】
血液安定剤は血液およびその成分の実験的に試験し得る機能を保持するために有効な量で、採取デバイス中に存在する。たとえば、血小板の場合には、その量は、血小板の凝集能等の血小板機能を保持するため、および血小板が保持されず、それによりその自然の顆粒状態を失う場合に起こる血小板の脱顆粒を避け、または阻止するため、および/または血液もしくは血液試料または血液成分を含む組成物の血漿部分に存在する可能性のある1つまたは複数の内因性タンパク質を安定化させるために有効な量である。特定の血液安定剤の選択およびデバイス中に含ませる量または濃度は、試料の性質、各々の薬剤の能力およびその水への溶解性、血液安定化が望まれる時間、採血デバイスの容積、試料への薬剤の添加によって起こる溶血の程度、ならびに非特異的相互作用(たとえば血清アルブミン等の血液中の他のタンパク質の存在による)の性質および程度等のいくつかの要素による。したがって、本発明の目的のため、存在し得る血液安定剤(単数または複数)の量は、濃度範囲の観点でより便利に表現される(薬剤の実際の量はこれから容易に計算することができる)。
【0049】
血小板に関しては、機能の保持は血小板が採取後、分析前に、それらが活性化または再活性化され、それにより血小板凝集(血小板機能の尺度として)がインビトロで測定できるような状態で維持されることを意味する。血小板に関して本明細書で用いる活性化または再活性化は、実験室におけるインビトロ分析のために血小板が血小板結合カスケードを開始して凝集する能力は保持されているが、インビトロの診断手順のための典型的な採血デバイスにおける採取、移送、および保存時の人為的な結果として血小板凝集が誘起されることは阻止されていることを意味する。
【0050】
たとえば、いくつかの血液安定化剤は他のものよりも強力であり、したがってその有用性による試料mlあたりの必要濃度が少ない。濃縮組成物(PRP等)中に存在し得る血小板等の血液成分を安定化させるためには、同量の全血試料(たとえば単位体積あたり血小板等の成分の含有量が少ない)に比べて異なった量の血液安定化剤が必要になるであろう。
【0051】
一般には、分析試験または治療用使用の時まで、採取、および保存および/または移送の経過にわたって、室温で少なくとも約50%の凝集阻止活性、好ましくは少なくとも約60%から約75%の阻止活性、より好ましくは少なくとも約75%の阻止活性を達成するために、少なくとも1つの血液安定化剤が選択され得る。必要性によるが、安定化は少なくとも1時間から約6、12、24、36、48、60、72、84、96時間またはそれ以上にわたって達成され得る。
【0052】
熟練した臨床医は、溶血した試料が血液試料の採取、移送、または保存の間のいずれかに血液細胞への損傷が起こったことの明白な目に見えるヒントであることを認識するであろう。溶血はいずれの臨床分析に対しても必ずしも有害をもたらすものではないが、それはいくつかの試験に対してはよく知られた妨害であり、したがって溶血の原因を避けることが好ましい。溶血は目に見える尺度(たとえば穏やかなまたは僅かなピンク色、中程度もしくは顕著な赤色、または強いもしくは暗い赤色)で測定することができる。溶血はヘモグロビン自体の赤色の分光学的測定によっても測定することができ、血清または血漿中に放出されたヘモグロビンの濃度によって報告することができる(たとえば放出されたヘモグロビン濃度が約20mg/dL未満の場合またはヘモグロビン濃度が目視または分光法によって測定できない程度である場合は「僅かなまたは無視できる」溶血を表わし、約20から約100mg/dLは「軽度の」溶血を表わし、約100から約300は「中程度の」溶血を表わし、または約300mg/dLを超える場合は「強い」溶血を表わす等)。
【0053】
上記を考慮して、血液安定剤の濃度は一般に約100nMから約50mM、いくつかの実施形態においては約1μMから約10mM、いくつかの実施形態においては約5μMから約5mM、いくつかの実施形態においては約20μMから約3mM、いくつかの実施形態においては約50μMから約2mMの範囲である。
【0054】
たとえば、バリエジンまたはその類似体の濃度は一般に約1μMから約10mMの範囲である。他の実施形態において、血液安定化剤の濃度は約1μMから約10mMの範囲である。さらに他の実施形態において、バリエジンまたはその類似体の濃度は約10μMから約1mMの範囲である。さらなる実施形態において、バリエジンまたはその類似体の濃度は約25μMから約500μMの範囲である。他の実施形態において、バリエジンまたはその類似体の濃度は約50μMから約300μMの範囲である。さらなる実施形態において、血液安定化剤の濃度は約150μM、他の実施形態においては約300μMである。
【0055】
ポリ硫酸化二糖の濃度は一般に約50μMから約50mMの範囲である。他の実施形態において、ポリ硫酸化二糖の濃度は約250μMから約25mMの範囲である。さらに他の実施形態において、ポリ硫酸化二糖の濃度は約1mMから約5mMの範囲であり、さらに他の実施形態において、約2mMから約3mMの範囲である。さらなる実施形態において、ポリ硫酸化二糖の濃度は約2mMであり、他の実施形態においては約3mMである。これらの範囲内の全ての部分的範囲も意図される。本明細書に開示した全ての濃度値に関連して用いる「約」という用語は、50%の変動(プラス/マイナス値)を意味する。
【0056】
血液安定化剤は溶液、懸濁液または他の液体、ペレット、錠剤、カプセル、噴霧乾燥された材料、フリーズドライされた材料、粉末、粒子、ゲル、結晶または凍結乾燥された材料等の任意の適切な形態であってよい。血液安定化剤は好ましくは薬剤の保存期間を最適化するような形態、即ち効率を低下させることになる血液安定化剤の劣化を防止するような形態で、容器中の貯留槽に導入される。薬剤を乾燥形態、たとえば凍結乾燥された形態で提供することは、良好な安定性を提供し、引き続く滅菌を可能にする上で有利であり、これらの両方は自動化および標準化の観点から重要である。貯留槽中に配置することに加え、血液安定化剤をデバイスの任意の表面の上に位置させてもよい。安定化剤は内壁の上、そのようなデバイスを閉鎖するための栓およびシールの上、または機構部もしくはそのようなデバイスの内部に置かれた他の挿入物の上に配置してもよい。
【0057】
血液安定化剤に加えて、本発明のデバイスは抗凝固剤を含んでもよい。試料の凝固は血小板凝集の測定を必ずしも不利に妨害するものではないが、あまりに多くの不溶性物質が生成すると、結局は試験すべき液体試料に十分接近することが妨害される。完全に凝固した試料は血小板の研究には役に立たない。したがって、不溶性物質の生成を避けることは、血液機能試験を意図した血液試料の好ましい特性である。抗凝固剤はバリエジンおよび/またはポリ硫酸化二糖によってもたらされる抗凝固、血液安定化および/または抗溶血効果を増大させ得る。本発明において有用と思われる抗凝固剤の代表的な例としては、第Xa凝固因子阻害剤、第VII因子阻害剤、第IX因子阻害剤、第XII因子阻害剤、および他のトロンビン(第II因子)阻害剤が挙げられる。第Xa因子阻害剤のいくつかの代表的な例は、非特許文献9に記載されており、その2つの構造は下記の通りである。
【0060】
I=6−(4−{1−[(ジメチルアミノ)メチル]シクロプロピル}フェニル)−1−(4−メトキシフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1,4,5,6−テトラヒドロ−7H−ピラゾロ[3,4−c]ピリジン−7−オン、II=1−(4−メトキシフェニル)−6−[4−[1−(ピロリジン−1−イルメチル)シクロプロピル]フェニル]−3−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロピラゾロ[3,4−c]ピリジン−7−オン
これらの特定の抗凝固剤の量は、一般に100μg/mlから25mg/ml、いくつかの実施形態においては約1mg/mlから約10mg/mlの範囲である。
【0061】
いくつかの実施形態において、追加的な抗凝固剤はアルガトロバンおよびその誘導体である(たとえば非特許文献10および非特許文献11)。アルガトロバンの濃度は一般に約1μMから約2mM、いくつかの実施形態においては約10μMから約1mM、さらに他の実施形態においては約25μMから約100μMの範囲である。
【0062】
他の実施形態において、追加的な抗凝固剤はアンチスタシンまたはアンチスタシン関連ペプチド(アンチスタシンタンパク質から誘導されたペプチド断片)である(非特許文献12参照)。アンチスタシンの濃度は一般に100nMから約2mM、いくつかの実施形態においては約1μMから約100μMの範囲である。
【0063】
本発明において有用と思われるさらに他の抗凝固剤の例としては、アンチトロンビンIII(非特許文献13)および組織因子VIIaコンプレックスに対するファージライブラリーセレクションから誘導されたペプチドであるE−76である(非特許文献14)。
【0064】
本発明のデバイスは、キャリア媒体(たとえば水またはアルコール)、安定化媒体(ポリビニルピロリドン、トレハロース、マンニトール等)および/または血液もしくは血液試料を処理するための1つまたは複数の他の添加物を含んでもよい。適切な添加物としては、フェノール、フェノール/クロロホルム混合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、有機酸、有機酸の塩、ハライドのアルカリ金属塩、有機キレート剤、蛍光染料、抗体、結合剤(キレート剤ではない)、緩衝剤、および分析のために生物学的試料を処理するために通常用いられる任意の他の薬剤または薬剤の組み合わせが挙げられる。
【0065】
添加物および/または抗凝固剤は、それらの意図された効果を奏するために試料と接触する限り、貯留槽中および/またはデバイス中の他の場所に配置され得る。たとえば、これらの成分は内壁の上、そのようなデバイスを閉鎖するための栓およびシールの上、または機構部もしくはそのようなデバイスの内部に置かれた他の挿入物の上に配置してもよい。
【0066】
本発明の方法には、血液または血液試料を、血液安定化剤を含むデバイスに導入するステップが含まれる。いくつかの実施形態において、血液試料は介在するプロセスステップなしに患者から容器に直接抜き取られる。他の実施形態において、採取された試料はさらに処理され、PRP等の血液成分を含む濃縮組成物等の組成物が調製される。
【0067】
試料は次に血液のパラメーターを測定するために、たとえば診断等の分析試験にかけられる。いくつかの実施形態において、測定されるパラメーターは刺激によって凝集する、試料中に含まれる血小板の能力によって試験され得る血小板機能である。試料(たとえばPRP)が治療用途を意図している場合であっても、そのような試験が実施され得る。
【0068】
吸引された血液試料および血小板を含む組成物中の血小板機能を分析するために適用できるいくつかのインビトロ診断試験がある。光透過アグレゴメトリー(LTA)は広く用いられている手法である。LTAは、多血小板血漿(PRP)の製剤を通して透過できる光の量を測定することによっている。LTAにおいて、PRP中の多数の血小板は光子を散乱するが、血小板アゴニストの添加によって刺激された凝集により、血小板は寄り集まって塊になり、結局は極めて大きくなって試験チャンバーの底に沈殿する。プロセスを通して光散乱は低減し、凝集は試料を通して透過できる光の量の増大として測定される。別の方法は、以下の実施例1に記載する全血インピーダンスアグレゴメトリー(WBIA)である。別の関連する手法はAccumetics社が販売しているVerifyNow Systemに具現化されている。これはフィブリノーゲンでコートされたラテックスビーズの表面上に血小板が凝集することによる凝集測定値の変動を用いており、凝集はシグナルにおける吸光度の変化によって監視される。Siemens社によって市販されているPFA−100と呼ばれる装置は、モデル系中の血栓形成に必要な時間を解析することによって血小板機能を測定する。PFA−100はそれを通して血液を吸引することができる小孔を有するカートリッジを用いており、血小板凝集が誘起されるとこの孔が閉塞し、この孔を通して血液を吸引するために必要な力が凝集の関数として増大する。PFA−100は「物理的」方法を代表しており、ここでは血小板機能の高分子的結果、この例ではデバイスの孔の閉塞が測定される。別の物理的方法はトロンボエラストグラフィーであり、ここでは血栓塊の不可欠の部分としての血小板の凝集を含む血栓形成が、試料中に浸漬された移動ピンに対する物理的抵抗の量によって測定され、血栓塊が増大すると抵抗が増大する。対照的に、フローサイトメトリー測定は、個別の血小板細胞に対して直接行なうことができ、細胞中の特定の分子的変化を測定することができる。フローサイトメトリーを用いて、細胞表面レセプタータンパク質等の表面タンパク質の形状および配向における変化、または血小板のイオン含量における変化(たとえば血小板の活性化に際して細胞内カルシウム濃度が変化することが知られている)等の、時には上記の測定における凝集のより物理的な特徴付けに対する前触れとしてさえも、血小板の活性化に際して起こる多くの特異的変化を測定することができる。さらに、血小板内のリン酸化タンパク質である血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質(VASP)は、血小板表面上のP2Y12レセプターの活性化に際してリン酸化度が低下し、したがってフローサイトメトリーによって監視可能なVASPのリン酸化度の低下は血小板の活性化の指標となる(たとえば非特許文献15参照)。フローサイトメトリーを用いてVASPのリン酸化状態を血小板内部で測定することができるが、同じことをするためにより典型的な免疫化学法を用いる間接法も記述されてきた。
【0069】
実施例で説明するように、血小板の凝集能およびその程度は、血液試料について「アグレゴメトリー」を実施することによって測定することもできる。アグレゴメトリーを実施するいくつかの方法の中で、アグレゴメトリーは「全血インピーダンスアグレゴメトリー」(WBIA)として測定することができる。WBIAの利点は、LTAが試験試料としてPRPの調製を必要とするのに対し、WBIAは全血試料で実施でき、またPRPでも実施できることである。WBIAにおいて、特別の試料カップ中の2本のワイヤが、調製された血液試料中にワイヤ間の間隙を極めて小さくして浸漬され、ワイヤの間に小さな電流が流される(電流は小さな間隙中の血液を通して流される)。オペレーターによって導入された化学的刺激によって、血小板凝集が開始される。血小板が凝集するにつれてそれらはワイヤの表面に選択的に集積し、血小板の集積が増大することによって電流に対する絶縁が始まり、電気的インピーダンスの増大が引き起こされ、これが装置によって記録される。典型的な実験においては化学的刺激剤の導入後6分間の電流データが採取される。
【0070】
これらの測定は血小板凝集(この場合には血小板機能をも意味する)の程度、またある程度には単に試料中の血小板数に感応するように意図されている。いくつかの実施形態において、採取後、特定の時間において血小板凝集を誘起することが有利であろう。したがって、凝集を誘起するために血小板アゴニストが試料に添加され得る。アゴニストは当業者には一般に既知であり、たとえばコラーゲン、アデノシン二リン酸(ADP)、アラキドン酸(AA)、エピネフリン、トロンビンレセプターアクチベーターペプチド(TRAP)、コラーゲン関連ペプチド(CRP)、リストセチン、トロンビン(およびトロンビン類似体)、トロンボキサンレセプターアゴニスト(たとえばU46619)、カチオン性没食子酸プロピル、およびコンブルキシンが挙げられる。多くの場合には、最も興味深いアゴニストは血小板凝集の有害な集積を防止するために設計された薬剤であり、これらについては以下の実施例のいくつかにおいてより詳細に記述する。
【0071】
いくつかのアンタゴニスト、または血小板の反応を阻害し得る化合物もあり、それらの効果も測定することができる。作用の様式によって、当業者には既知のこれらの化合物としては、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(たとえばアセチルサリチル酸(ASA、または「アスピリン」))、トロンボキサンレセプター阻害剤(たとえばテルトバン、スロトロバン、イフェトロバン)、トロンビンレセプターアンタゴニスト(PAR−1、ボラパキサル、アトパキサル)、GpIIbIIIaレセプター阻害剤(たとえばアブシキシマブ、チロフィバン、エプチフィバチド)、P2Y12レセプターアンタゴニスト(たとえばクロピドグレル(商品名Plavix)、[ジクロロ−[[[(2R,3S,4R,5R)−3,4−ジヒドロキシ−5−[6−(2−メチルスルファニルエチルアミノ)−2−(3,3,3−トリフルオロプロピルスルファニル)プリン−9−イル]オキソラン−2−イル]メトキシ−ヒドロキシホスホリル]オキシ−ヒドロキシホスホリル]メチル]ホスホン酸(Cangrelor)、または(1S,2S,3R,5S)−3−[7−[(1R,2S)−2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルアミノ]−5−(プロピルチオ)−3H−[1,2,3]トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル]−5−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロペンタン−1,2−ジオール(Ticagrelor)、ならびに血小板の生化学的機能を妨害することができる他の化合物が挙げられる。
【0072】
吸引した血液試料およびその成分を、多種の診断試験に用いるため、ならびに引き続く治療用の使用のために安定化させることは有利である。以下の開示により、これらの使用の代表的な例を、特に血小板機能の保持に関連して説明する。
【0073】
有害な心臓血管系事象の緊急性に鑑み、理想的には患者を監視して代替治療を選択する必要なしに、患者のために選択される最初の治療アプローチが即時の効果を有することを知ることは重要である。したがって、患者がそのような治療を受ける前に、患者から血液試料が吸引され、血小板機能の試験が行なわれ得る。そのような試験は処方された抗血栓剤の効果の継続中のモニタリング、血小板機能の過阻害または低阻害の試験のためにも推奨される。同様の試験は、手術/回復の間に起こり得る有害な出血の影響を除外するための手術前スクリーニングにも採用されることが多い。重要なことに、吸引された血液試料中で血小板の機能が安定化されていないと、試験前に血小板を凝集させる(たとえば、試験すべき機能が「残っていない」)、または試験前に血小板がおそらく「死ぬ」、もしくは別の点で自然の機能を失わせることによって、試験は不正確になることがあり得る。
【0074】
たとえば、抗血小板薬剤は米国および世界中で極めて多く用いられている。心臓の健康のために「ベビー」アスピリンを毎日服用することは普遍的習慣になっており、5千万人ものアメリカ人が毎日のアスピリン用量を摂っている。Plavix(または化学名クロピドグレル)は広く用いられる抗血小板療法であり、緊急の状況(たとえば介入的心臓処置の直後または心臓発作または卒中発作に関する緊急状況において)および心肺系または循環系の合併症を有していた患者の長期的看護のための両方において用いられている。Plavixおよびアスピリンの作用機序は最終的には血小板凝集を阻害し、それによりたとえば心臓発作または卒中発作を誘発する可能性のある自然発生的に形成された血小板凝集物による動脈の閉塞の可能性を低減することが意図されている。Plavixについては年間2900万を超える処方箋が書かれている。これらの薬剤は血小板の凝集を誘起する化学的経路をブロックすることによって機能し、したがって血小板凝集物(血栓)が動脈または静脈の血流を機械的に閉塞することによって助長され得る危険な心臓血管系事象を軽減することの助けになる。おそらく50%ものヒトがこれらの薬剤によく反応せず、現在の医学および科学文献において関心が高まっている課題である(非特許文献16)。これらの薬剤に「抵抗性のある」患者はこの血小板阻害を受けず、したがって有害事象の危険性が極めて高い。これらの薬剤が意図されたように作用しなかったことの最初のまたは唯一の兆候は、処方箋が予防することを意図していた心臓発作または卒中発作を患者が実際に経験した時に起こり得る。
【0075】
Plavixおよびアスピリンと全く同様に、これらの効果を模倣する血小板阻害剤(アゴニスト)は、患者が(採血に先立って)薬剤を服用することを必ずしも必要とせずに、効率を試験するために吸引された血液試料に添加することができる。上述のように、脈管系の損傷の際に体内で誘起され得る種々の化学シグナルを模倣するアゴニストを添加することができ、アゴニストへの反応を弱める能力に関して血小板アンタゴニストの効果を試験することができる。
【0076】
特に、アスピリンは血小板機能を直ちに阻害するので、血小板凝集を分析する前に血液試料に直接少量のアスピリンを単に添加することにより、アスピリンが有益か否かを決定することが可能になる。カングレロルおよびチカグレロル等のP2Y12阻害剤のいくつかは血小板に直接結合し、これを阻害することができる。したがって血小板阻害剤としてのそれらの効率を試験する前に血液試料に直接添加することができる。
【0077】
一方、Plavixはそれを摂取した後に代謝プロセスによって活性形に変換されなければならない「プロドラッグ」である。プロドラッグは肝臓中の酵素によって処理され、次いで血中を循環できる活性形をもたらすことが多い。したがって、摂取された(プロドラッグ)形態のPlavixを吸引された血液試料に添加しても血小板凝集の阻害はもたらされない。しかし、それでもPlavixの作用を模倣し、患者が最初に実際に薬剤を摂取する必要なしに試験することができる。Plavixおよび他の同様の薬剤は、ADPが血小板を刺激、もしくはアゴナイズすることを可能にする経路を阻害するように作用する。化学物質である2−メチルチオアデノシン5’−一リン酸(2MeSAMP)は、Plavixおよび他のP2Y12阻害剤がインビボで阻害するのと同じターゲットを阻害する(非特許文献17)が、血小板に直接作用することができ、したがって試験の直前に血液試料に添加することができる。したがって、血小板凝集試験に先立って、吸引された血液試料に2MeSAMP等の血小板アンタゴニストを添加することにより、Plavixが患者において治療上有用か否かを決定することが可能になる。アンタゴニスト2MeSAMPは、薬剤CangrelorおよびTicagrelorの効果の適切な模倣物をも提供し得る。
【0078】
したがって血小板機能試験は、たとえば薬剤療法を開始する前およびその後に血液を吸引して血小板機能を試験することにより、これらの薬剤が患者に対して所望の効果を有していたか否かを評価する直接的な方法を提供し得る。患者が薬剤に適正に反応していれば、測定された血小板機能は投与後には低下しているであろう。長期療法における継続的な患者のモニタリングは、血小板機能が心臓発作または卒中発作を防止することの助けとなるのに十分なレベルに阻害されていることを保証する一方、同時に血小板機能が過度に阻害されていないことを保証するためにも実施することができる。この後者の場合において、患者が止められない出血事象(たとえば薬剤誘起性血友病様状態)を経験する極めて高いリスクがあるかも知れない。
【0079】
これらの試験の関連した用途は手術前スクリーニングに関係している。手術前の患者における固有の血小板機能の試験により、有害な出血事象の素地がある患者を特定することができ、それにより手術を延期し、または手術に先立って疾患を処置することができる(たとえば非特許文献18参照)。たとえば、アグレゴメトリー試験によって判定される固有の血小板凝集能が異常に低い場合には、患者は「危険がある」と特定される。
【0080】
血小板機能は、タンパク質または代謝物バイオマーカーの試験の目的でも保持され得る。血小板は診断上対象とするタンパク質および代謝産物を含んでいるが、分析値はこれらのバイオマーカーが遊離して血漿中を循環している形態の濃度を測定している可能性の方が高い。特に血小板の活性化または凝集の際の血小板の脱顆粒は、これらのマーカーのレベルを人為的に上昇させることに繋がる可能性があり、制御されなければ分析前誤差を表わすと考えられる。同様に、血小板顆粒は、これらの循環バイオマーカーに損傷を与え、したがって対象とするバイオマーカーのレベルを人為的に低下させる可能性がある酵素をも含んでいる。ある種の阻害剤を採血チューブに入れて、活性化された血小板から導出される任意の酵素を「妨害する」こともできるであろうが、これらの血漿由来のバイオマーカーの試験のために安定化された血小板を提供することによって最初から単純に血小板の活性化を防止することが望ましい。
【0081】
本発明のさらに別の用途は、ある種の治療応用における使用のための安定化された血小板の使用に関連する。自己血小板ゲル療法は、ある種の創傷および歯科インプラントの治癒から靭帯の損傷を修復するために意図された注射までにわたる他の広範囲の病態を治療するためのプロセスである。その前提には、血漿試料を吸引するステップ、「多血小板血漿」を分離するステップおよび次いで治癒が望まれる部位において患者に製剤を再導入するステップが含まれる。1つの方法には、トロンビンまたは別の凝固剤を添加して血栓形成を誘起し、迅速に生成して治癒を改善すべき位置に適用することができる「糊」をもたらすステップが含まれる。サイトカインおよびある種の増殖因子を放出する血小板の脱顆粒が、この自己治療アプローチにおいて創傷治癒を刺激すると考えられる。血小板機能が失われ、その結果として血小板が時期尚早に活性化されると、血小板はその治療効果を失うことがある。したがって、本発明の血液安定剤の存在下に血小板を採取および/または保存することは、この観点からも有利である。
【0082】
血小板機能の分析に加えて、他の臨床的に関連のある血液パラメーターを測定してもよい。代表的な血液パラメーターとしては、臨床化学、免疫化学、酵素学において一般的に試験されるもの等の血漿由来の被分析物の測定、および細胞の「外」の(血液の血漿部分における)分子の他の測定が挙げられる。他の血液パラメーターとしては、血液学、完全血液計数(CBC)、血液細胞の血液フィルムおよび顕微鏡解析、血小板の顆粒/脱顆粒測定、ならびに細胞の生化学的および代謝的特徴付け(たとえばフローサイトメトリー、分子生物学、プロテオミクスによって測定されることが多い)等の細胞解析が挙げられる。これらの薬剤を含む、本発明の安定化された血液および血液試料は、抗凝固が血液試料の基本要求である任意の標準的な臨床分析に適合し、したがって有用である。たとえば、血液試料中の種々の細胞を区別して計数する完全血液計数(CBC)等の標準的な臨床血液学試験は抗凝固された試料によっており、したがって全ての細胞は懸濁した/溶解した全血状態に留まっている。一般に、通常のCBCの目的には、血液はEDTAを用いて安定化される。血漿について行なわれる試験はどれも明らかに抗凝固を必要とする(あるいは試料を凝固させ、次いで血清として定義する)。従来の臨床化学測定(当業者には公知の数十から数百の典型的な被分析物のメニュー)は、ヘパリンで抗凝固した血漿試料を用いて行なうことが多い。同様に、免疫化学、または検出機構として抗体結合を用いる被分析物の定量化も血漿試料によっている。しかし、EDTAおよび典型的に用いられる濃度(たとえば13U/ml)のヘパリンは、いずれも血小板機能試験を実施するための実際の能力を妨害する。したがって、プラットフォームを超えた試料の適用性に相互交換性がない。本発明は、血小板機能試験ならびにこれらの他の一般的な臨床血液学試験のための血液試料を安定化することにおいて、この制限を克服するものである。
【0083】
本発明の使用を容易にするため、1つまたは複数のデバイスをキットの形態にパッケージしてもよい。いくつかの実施形態において、キットにはたとえば開いたラック中またはシールされたパッケージ中に配置された1つまたは複数のデバイスが含まれ得る。キットには血液を吸引および採取するために有用な1つまたは複数の要素、たとえば針、ターニケット、バンデージ、アルコールおよびワイプ、ならびにランセットが含まれてもよい。キットにはその中に既知の血液安定剤および/または抗凝固剤が配置されたチューブ等の他の種類の採血デバイスが含まれてもよく、その例としてはEDTAチューブ(たとえば日常の血液学計数のため)、ヘパリンチューブ(臨床化学のため)、クエン酸塩チューブ(凝固試験のため)、および他の特別チューブ(プロテオミクス、ゲノミクス等における使用のため)が挙げられる。本発明のキットには使用説明書が含まれてもよい。
【0084】
他のいくつかの実施形態において、キットには一次採取デバイス、たとえばその中に分離要素を有する血漿分離チューブを有する血漿チューブ、および試験のための二次チューブ、たとえば採取した血漿を注ぎ、または分注するためのチューブが含まれてもよい。一次チューブ中の分離要素は、多血小板血漿を血液の他の細胞成分から分離することを可能にするために適切な密度を有するものであり得る。二次試験チューブは所望の試験に応じて一次チューブと同じまたは異なった寸法であってよい。両方のチューブにはその中に血小板安定化剤を配置してよい。キットには注ぎ入れまたは他の安全でない移送の実施の必要性を防止するため、チューブ間移送デバイスがさらに含まれてよく、その場合には二次チューブは血漿を吸引するために減圧されている。
【0085】
本発明の別の態様において、一次採血チューブの中に血液安定剤とともに血小板アンタゴニストが含まれ得る。インビトロ診断分析の一部として適切なアゴニストを用いて刺激することによってそのような試料の血小板機能を試験することは、その患者の血液についてのアンタゴニスト/薬剤の効率を直接に反映するものであり得る。好ましい実施形態において、キットは少なくとも2つのチューブを含み、ここで1つのチューブは血液安定剤を含み、別のチューブは血液安定剤と血小板アンタゴニストとを含み、それによりオペレーターが凝集分析を実施する前に血液試料に他の操作を実施する必要なしに阻害状態および非阻害状態の両方で血小板を測定することが可能になる。
【0086】
ここで本発明を以下の非限定的な実施例に関して説明する。
【実施例1】
【0087】
血小板凝集測定に反映される血小板機能試験のための全血試料の安定性の延長
【0088】
血液試料:クエン酸ナトリウム(3.2%)または150μMのバリエジン(配列番号1)のいずれかを含むチューブに、ヒト対象から静脈血を吸引した。表示した時間に試験を行なうまで、攪乱せずに分割して室温で放置した。時間とともに自然に沈降した血液細胞を再懸濁するため、試験の直前に試料を数回転倒させた。
【0089】
測定:血小板機能(これはこの実験においては凝集活性である)の試験は、マルチプレート装置(Verum Diagnostics、Munich、Germany)を用いて行なった。これは試料として全血を用い、血小板凝集の尺度としてインピーダンスの増加を用いるものである。装置はメーカーの指示に従って用いた。簡単に述べると、各々の反応キュベット中で300μlの等張食塩水を加温し、これに300μlの全血試料を加えた。インビトロでアスピリンまたは他の血小板アンタゴニスト(阻害剤)を加える反応において、20μlのアスピリンストック溶液を試料に加えた。凝集反応はメーカーの指示に従って血小板アゴニスト、この場合にはコラーゲンを濃度3.2μg/ml、20μlの量で添加することによって開始した。コラーゲンの添加によってインピーダンスの測定が自動的に開始され、6分間継続されて、
図2に示すグラフのx軸に沿って全過程を表わした。グラフはy軸上の任意の無単位測定値としてのインピーダンスによって、x軸上の操作時間6分にわたって報告される血小板凝集を示す。示された軌跡は装置から得られた生の血小板凝集データである。いくつかのグラフで明白な二重の軌跡は、データの統計的有意性を補助するために常に同時に行なった2つの二重測定チャネルを表わし、いくつかのグラフにおいては極めて接近して重なっているので、単独の軌跡のみであるかのように見える。代表的なデータは、最初の吸引から1時間、24時間、48時間、および72時間後、室温に置いた血液について示している。データは血液それ自体、および試験の直前に血小板機能を阻害するためにアスピリンで前処理した血液について示している。
【0090】
Clinical Laboratory Standards Institute(CLSI)等の診断規制機関によれば、血小板機能試験における使用にはクエン酸塩加全血が臨床的標準と考えられている。したがって、われわれは本発明の実施形態をクエン酸塩と比較した。
図2に示すように、クエン酸塩および本発明の試料は新しい場合、1時間において、全く同様に機能した。両方ともコラーゲンには強く反応し、アスピリンによって測定し得るアンタゴニズムを示した。しかし、本発明の実施形態のシグナルの強度は「新鮮な」試料においてさえもクエン酸塩対照試料よりも大きく、クエン酸塩加血液を採血後最大2〜4時間以内に試験することを推奨している現行の臨床ガイドラインの中においてさえも試験に対する本発明の利点を実証している。本発明の化学品に血液を直ちに曝すことには重要な利点がある。より長い時間では全て、クエン酸塩血液のシグナルは明白に失われ、シグナルは殆ど測定不能になり、したがってアスピリンアンタゴニズムによるさらなる減少のいかなる観察も実質的に不可能になることが明らかである。対照的に、24時間および48時間において、本発明の実施形態は実質的に血小板機能を1時間経過の試料において測定された機能のレベルに保持しており、アスピリンアンタゴニズムを測定する能力をも保持していた。72時間において、シグナルは僅かに減少したが、アスピリンを添加した際のさらなる減少を観察できる程度にまだ十分に強かった。したがって、この実験の結果は本発明の有利な態様、即ち新鮮な試料についてのより強い血小板機能シグナル、ならびに吸引後数日間までの血小板機能の大きな保持の両方を実証し、かつ血液を単に室温で保存することをも可能にするものである。
【実施例2】
【0091】
血小板機能測定のための吸引された血液試料の可使時間の延長
【0092】
図3に血小板機能測定法の限界、および試料吸引後の機能の喪失が有用な臨床診断データを生成する能力にどのように悪影響を及ぼすかを示す。実験は実施例1に記載したように実施した。この場合には、データは血液試料が体外に存在していた時間(x軸)の関数として、血小板凝集シグナルの1つの表現としての曲線下面積(AUC)として示される血小板機能をプロットしている。AUCは実施例1に示す生データ軌跡から集積されたシグナルであり、これも無単位の測定値として報告されている。装置の実効的なバックグラウンドレベルはグラフの下部にわたって点線として引いてある。このレベル以下のいずれのAUC凝集測定も極めて弱くて報告に値せず、実質的に「無」のデータレベルを表わしていると考えられた。
【0093】
24時間において、クエン酸塩加血液試料中の血小板は十分な機能を失って実効的な無レベルに極めて近くなり、アスピリンの存在下においては既にこの無レベルに到達していた。48時間後までには、アスピリンの添加がない場合においてさえも、クエン酸塩加試料については意味のある凝集は検出されなかった。比較として、本発明の実施形態は血小板機能を安定化させ、採血の72時間後においてさえも意味のある測定が可能であった。
【0094】
データのさらに別の観点を
図4に示す。ここでは各々の種類の試料について測定した血小板凝集を1時間の試料について測定した凝集に対する百分率として報告する。このグラフ中のデータは、3名のヒト対象の平均として、平均からの1標準偏差を表わす誤差バーとともに報告されている。この観点において、クエン酸塩を用いて採取および保存した血小板は24時間以内にその機能の半分超を失い、48時間までに機能の80%超を失ったことがデータによって示されている。比較として、本発明の実施形態によって採取および保存した血小板については、48時間においてシグナルの半分超が維持された。
【実施例3】
【0095】
血小板機能の保持および抗凝固に対する種々の濃度のバリエジンの影響
【0096】
血小板の相対的安定性を、種々の濃度のバリエジン(配列番号1)に関して検討した。実験は上述のように実施し、アゴニストとしてコラーゲンまたはアデノシン二リン酸(ADP)のいずれかを用い、全てメーカーが推奨するプロトコルによった。表2に安定性の定性的評価、即ち血液を最初に吸引してからどれだけ長く、血小板凝集が実効的な装置のベースラインの上で測定可能であったか、全血試料中で凝固した不溶性物質が最初に目視で観察された時間を記載し、またこの不溶性物質の存在の重大性または程度の評価も記録した。
【0097】
【表2】
【0098】
この結果、バリエジン濃度の増大によって、測定可能な血小板凝集シグナルを有することと、全血試料中の不溶性物質の出現が遅くなることの両方に関して、全体としてより長い機能保持(安定化)効果がもたらされることが示される。
【0099】
この結果はまた、本発明の使用は特定の用途の必要性に応じてカスタマイズおよび適合化させることができることを示している。たとえば、病院の救急部門におけるように、試料を迅速に採取し試験する必要がある状況において、比較的低濃度(たとえば2μM)のバリエジン等の血液安定剤を用いることによって、数時間の安定性を達成することが可能である。試験がことによると採取の数日後に行なわれる状況等におけるように、より長い安定時間が必要な場合には、比較的高濃度(たとえば150μM)のバリエジン等の血液安定剤を用いることが有利であることが、この結果から示される。クエン酸塩に対する本発明の利点と併せて、本発明は血液安定剤の適切な濃度を選択することによって、種々の時間枠にわたって血小板凝集シグナルがより強いという利点を提供し得る。
【実施例4】
【0100】
血小板機能の保持および試料品質の他の態様に対するバリエジンおよびバリエジンペプチドの他の変種の影響
【0101】
実験はバリエジン(配列番号1)のいくつかの類似体を試験することで実施した。表3に、その全てが典型的な固相合成によって製造された、試験したペプチドを示す。
【0102】
【表3】
【0103】
命名:略語Ntはアミノ末端アミノ酸を表わし、番号はアミノ末端から数えた残基の数を表わす。Ctは同様にアミノ末端から番号をつけた全てのカルボキシ末端アミノ酸を表わす。K10Aは標準のタンパク質配列命名に対する単一残基変異体である。
【0104】
これらのペプチドを血液安定剤として用い、減圧にした空の採血チューブに採取した直後に血液に添加し、最終濃度150μMとした。血液は全て実施例1に記載したように血小板凝集の可能性について分析するまで、全血状態で室温放置した。アゴニストとしてはメーカーの指示に従い、コラーゲンおよびADPを用いた。表4に安定性の定性的評価、即ち試料を最初に吸引してからどれだけ長く、血小板凝集が実効的な装置のベースラインの上で測定可能であったかを記載している。さらに、全血試料中で凝固した不溶性物質が最初に目視で観察された時間、およびこの不溶性物質の存在の重大性または程度の評価も記録した。いくつかの例において、血小板凝集測定を行なうことなしに、不溶性物質の量の目視による特徴付けのみを報告した。
【0105】
【表4】
【0106】
データから示されるように、バリエジン配列を短くすると、特に目視で検出可能な量の不溶性物質が全血試料中で形成されるまで室温保存した時間によって判断される試料の安定性の期間が短くなった。それにも拘わらず、血小板試験が採血後比較的早く実施される病院内または救急部門の状況におけるように、全体の試料の安定性に対してより短い時間でも十分な状況において血小板機能の保持を達成するためには、短くされたバリエジン配列も使用できる。
【0107】
バリエジンが最終的にトロンビンによって開裂した場合の製品の血小板機能の保持能を検討するため、これらのバリエジン類似体の2つ(配列番号6およびNO:16)を用いた。バリエジンはトロンビンの活性部位の結合について競合し、したがってそれ自体トロンビンによる開裂の対象となる(非特許文献19)。また、開裂可能な残基である10位のリジンのアラニンへの変異は配列番号6と指定されたペプチドを開裂させるトロンビンの能力をブロックし、その結果、試料は採血後4時間以内に固く凝固する。同様に、トロンビンがバリエジンを開裂させた後で生成するカルボキシ末端の22残基のみを表わすCt22を添加すると、1時間以内に固く凝固した殆ど使用できない試料となった。これは本質的に瀉血後に何も血液に加えず、それ自体で凝固させた場合に起こり得ることである。
【0108】
これらの結果は、従来の酵素学的実験によって測定してCt22が特に治療目的に効果的なトロンビン阻害剤であると報告したKohによる発見と一致しない。今回の結果をこの文脈で考慮すると、治療目的のためのトロンビン阻害の程度は、採取した血液試料中のような非生理学的条件下における血液および血小板等の血液成分を安定化させる目的でのトロンビン阻害を必ずしも予測するものではない(または必ずしもこれと相関するものではない)という意味で、当技術分野における予測不能性が強調される。
【0109】
データからはまた、Ct29と1.17U/mlのヘパリンとの組み合わせにより、試料の安定性の時間が延長されることが示される。
【実施例5】
【0110】
他の直接または間接トロンビン阻害剤によって提供される血小板機能の保持の検討
【0111】
いくつかの直接または間接トロンビン阻害剤を、単独でまたは他の阻害剤と組み合わせて、血小板機能を保持することによって血液試料を安定化させる能力について評価した。血小板凝集の測定は、血小板アゴニストとしてコラーゲンおよび/またはADPを用い、メーカーが示唆するプロトコルに従って、上記の実施例に記載したように実施した。
【0112】
バリエジンに加えて検討した直接トロンビン阻害剤はアルガトロバン、FM−19、アプロチニン、およびD−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)であった。
【0113】
検討した間接トロンビン阻害剤はヘパリンおよび八硫酸スクロース(SOS)であった。
【0114】
全ての阻害剤は単独でまたはバリエジン(配列番号1)と組み合わせて、採取した血液試料中の血小板機能を保持する能力について試験した。
【0115】
結果を表5に示す。この表には、新たに吸引した全血試料に単独でまたは組み合わせて添加した添加物を記載している。この表には3つの性能パラメーター、即ち1)採血後、アグレゴメーターのベースラインより上で信頼できる血小板凝集測定が可能であった最長時間;2)不溶性物質の目視検出が認められた最短時間(これには不溶性の程度の定性的な記述、即ち痕跡(注意深い目視観察が必要な低レベルの検出可能物質)または中程度(簡単な評価で容易に見られる)の量、次いで完全に凝固した試料(攪乱しない血清試料のように固化し、一般には決して血小板凝集測定には使用できない)のいずれかが含まれる);および3)臨床実験室において普遍的で許容された業務である、目視で決定される溶血の定性的推定が報告されている。試験した条件のいくつかについては、これらの3つのパラメーターのうちのサブセットのみが記録されている。
【0116】
【表5-1】
【0117】
【表5-2】
【0118】
表5に示すように、150μMのバリエジンおよび2mMのSOSは、いずれも単独および組み合わせで、3つの性能マトリックスの全てに関して有効であることが証明された。本発明のこれらの実施形態は安定性に関して長い時間枠(即ち少なくとも72時間)を達成し、望ましくない属性である不溶性物質の生成および溶血は概してなかった。
【0119】
全く対照的に、直接トロンビン阻害剤のいくつかは、推奨された濃度でまたは治療に有用であると報告された濃度で単独使用すると、安定化のメリットが僅かであるか、なかった。特にFM−19、CTIおよびPPACKは、採血後24時間以内に、完全に固体の凝固でなければ大量の不溶性物質を生じた。同様に、比較的高濃度のアルガトロバンを用いると、凝固の開始が早くなり、血小板凝集測定のための試料の安定性の時間が短くなり、また大量の溶血が生じた。ヘパリンも、典型的なヘパリン血漿試料中の用量の約13分の1(1/13)である1.17U/mlで単独使用すると、比較的劣る性能であった(データは示さない)。
【0120】
これらの結果は、インビトロにおいて血液を安定化させる(たとえば血小板機能を保持する)ための既知のトロンビン阻害剤および抗凝固剤の使用に関する予測不能性をさらに強調するものであり、したがって、血液の安定化、特に血液の凝固が、少なくともインビトロの血液試料に関しては、他の血液成分が存在しない精製トロンビンの阻害の研究等のより単純な系に対するこれらの阻害剤の評価と比べて、異なった、またより複雑な生物学的/生化学的要求の組み合わせを有しているという、本出願人らの作業仮説と一致するものである。さらに、直接トロンビン阻害剤について研究されたことの多くは凝固異常の治療のための治療効果の可能性と関係があるが、重要なことには、そのような研究および究極的には有効な治療用量を作製することに関連する根底にある生化学的因子は、特に長い日時の間にわたって採取された血小板等の血液成分を安定化させる阻害剤の能力に関しては必ずしも関連があるとか予測できるというものではない。別の言い方をすれば、ある薬剤がトロンビン阻害剤として医学的に使用されることが知られているというだけの理由で、同一性および有効性のための適切な濃度の両方において、それがインビトロ試験の目的のための効果的な血液安定剤として機能するであろうということを必ずしも意味しない。
【0121】
一方、これらの他の薬剤は単独で使用した場合にはあまり効果がないか、ほぼ無効であるにしても、本発明の実施形態−バリエジンおよびSOSと組み合わせて用いた場合には付加的な血小板安定効果をもたらすことが結果から示される。たとえば、ヘパリンとバリエジンの場合に、われわれは凝集測定のための安定性の時間の延長および全血試料における不溶性物質の生成の低減または遅れを認めた。同様の観察が、バリエジンと組み合わせたFM−19で得られた。FM−19およびSOSについては、バリエジンとの組み合わせによっても、実験の全時間枠にわたって、測定された全体の血小板凝集シグナルが僅かに増加することが見られた。したがって、観察された結果は、これらの阻害剤(これらは多くの場合にはトロンビンの同じ領域に結合することによってその効果を発揮することが知られていた)によって提供される活性および究極的には追加的な利点は、吸引された血液試料を安定化させるためにインビトロで使用された場合には、治療目的のための実際の阻害可能性を評価するために設計されたモデルの酵素学的系における活性とは異なっていることを示している。
【実施例6】
【0122】
発明の実施形態とヒルジンとの比較
【0123】
150μMのバリエジン(配列番号1)+1.17USP/mlの未分画ヘパリンを含む本発明の採血チューブと、比較としてVerum Diagnostica社から購入可能なヒルジンを含む採血チューブ(カタログ#MP0600「ヒルジン真空採血チューブ」)とを用いて、5名の異なったヒト対象から採取した血液について、血小板の相対的安定性を検討した。実験は全血インピーダンスアグレゴメーターを用い、アゴニストとして低用量のADP(最終濃度1.25μM)を用いて、上記実施例1に記載したように実施した。
【0124】
表6に示すように、直後および24時間後の両方において、本発明の採取チューブにおける血小板機能測定の方が対照の非発明ヒルジン試料よりも強かった。
【0125】
【表6】
【0126】
新鮮な血液を用いて吸引後1時間以内に試験すると、測定し得るADP誘起血小板凝集は、本発明の採血チューブ中の血液の方がヒルジンを含むチューブ中に採取した血液よりも平均56%高かった。これらの同じ試料は24時間で同じ対照に対して平均38%高い活性を示した。ヒルジン試料はまた、時間0において本発明の製剤よりも広い分布を示した。5個のヒルジン試料は62+/−38の凝集を示し、約61%(38/62*100)の標準誤差を表わした。対照的に、本発明のチューブ中の凝集は77+/−28で、標準誤差はちょうど36%であった。これらの結果は、本発明の採血デバイスの使用によって分析の再現性が改善され、ヒト試料の個体数にわたってより均一な応答が達成されたことを実証している。これらの利点により、血小板機能測定の臨床的有用性が改善される。たとえば、健常者母集団に対する「正常」の範囲をより狭くすることにより、疾患または抗血小板薬剤に対する低応答を反映する、凝集が範囲外である試料をより容易に検出できるであろう。
【0127】
本発明の実施形態であるバリエジンは、ヒルジンと同様に、吸血性動物から得られるペプチドである。しかしここでも、そのような天然から誘導された直接トロンビン阻害剤は、1つの種類として、特に血小板機能分析のための血液添加物としては、同じまたはある場合にはほぼ同様の効率を有するのではないこと、およびこれに関するそれらの能力は予測できないことを、データは実証している。
【0128】
表6にあるようなデータを利用するさらなる方法を考慮することも重要である。たとえば、少なくとも薬剤/アンタゴニストに適正に応答する患者の場合に、表6に報告したように、血小板アンタゴニストを導入することによって、アンタゴニスト未添加の場合のシグナルを大幅に低下させることが予想されよう。関連するアンタゴニストとしては、アスピリン、Plavixおよび既に検討した他のもの等の抗血小板薬剤が挙げられる。以前の実験から、2MeSAMPを添加すると50%以上、たとえば67%(約2/3)ものアゴニスト誘起血小板凝集がもたらされ、それによってシグナルが低くなり、凝集装置の検出下限より上で信頼性をもって測定することが難しいことがわかる。この操作下限付近またはそれ以下に入る2MeSAMP存在下のいかなる測定値も意味がないであろう。これらの実験で用いた装置に関しては、信頼できるシグナルの下限は8または9AUCの範囲にある。したがって、少なくともこの実験を実施するために用いる特定の装置の目的には、アンタゴニスト未添加のADP誘起凝集測定値が少なくとも約27AUCあることが、最低の信頼できるシグナルであると考えられる(27AUCからの67%の低下が9AUCとなり、これがこの特定の装置の検出限界である)。したがって、27AUCの閾値が、表6のデータを判断するための基準である。
【0129】
5個のヒルジン試料の1つにおいて、1時間の試料の曲線下面積は18と測定され、この機能性閾値である27未満になったので、2MeSAMPの存在下では臨床的に重要でない測定値がもたらされるであろう。24時間において、5個のヒルジン試料のうち3個が27AUC未満となり、4番目の試料はちょうど27となった。
【0130】
対照的に、本発明の採血チューブに採取した5個の試料全ては1時間で、また5個中4個は24時間で、27の閾値を優に上回る血小板凝集を維持していた。この結果は、本発明によって血小板が採取および引き続く保存の間に安定化され、それにより、特に低レベルの凝集を正確に測定することが重要な場合に、臨床的に関連のある血小板機能データを明確に決定することが可能になり、長時間にわたって有用なデータを測定することの可能性が(新鮮試料中と24時間保存した試料との両方においてヒルジンと比較した場合等に)改善されることを実証している。
【0131】
全ての特許文献および非特許文献は、本発明が関係する技術における当業者のレベルを示すものである。これら全ての文献は、各々の個別の文献が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
本明細書における発明を特定の実施形態と関連させて記述してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および応用を説明するのみであることを理解されたい。したがって、説明用の実施形態には数多くの改変が可能であること、ならびに添付した特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の配置も考案され得ることを理解されたい。