(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937635
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】電磁接触器の溶着検出機能を有するモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20160609BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
H02P5/00 T
H02P7/63 302S
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-70068(P2014-70068)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-192569(P2015-192569A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年1月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】黒木 渉
【審査官】
上野 力
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4647684(JP,B2)
【文献】
特開2012−75294(JP,A)
【文献】
特開平4−215216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に変換する交流/直流変換部と、入力電源電圧の検出回路と入力電流の検出回路を具備するモータ駆動装置であり、前記交流/直流変換部は、スイッチング素子とダイオードからなる3相ブリッジ回路を備え、前記入力電源電圧の検出回路と入力電流の検出回路の間に入力電源ラインをオン/オフする電磁接触器が設置されたモータ駆動装置において、
前記交流/直流変換部の直流電圧が充電された状態で、前記電磁接触器をオフする電磁接触器のオフ手段と、
前記電磁接触器のオフ手段が前記電磁接触器をオフした状態で、前記3相ブリッジ回路の1つの相の上側のアームを、入力電圧の最も低い相に対してオンすると共に、前記3相ブリッジ回路の1つの相の下側のアームを入力電圧の最も高い相に対してオンする3相ブリッジ回路の部分制御手段と、
前記3相ブリッジ回路の部分制御手段によって、前記1つの相の上側のアームと前記1つの相の下側のアームとがオンされた状態で、電流が流れるか流れないかを判定する電流判定手段と、
前記3相ブリッジ回路の部分制御手段によって、前記1つの相の上側のアームと前記1つの相の下側のアームとがオンされた状態で、前記電流判定手段が電流を検出しない場合は正常と判定し、前記電流判定手段が電流を検出した場合は前記電磁接触器が溶着したと判定する溶着判定手段とを設けたことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
一定時間毎に、前記電磁接触器のオフ手段が前記電磁接触器をオフし、
前記電磁接触器のオフ毎に、前記3相ブリッジ回路の部分制御手段、前記電流判定手段及び前記溶着判定手段が動作することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記溶着判定手段に表示手段が接続されており、前記溶着判定手段の判定結果を、前記表示手段と通じて視認可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記溶着判定手段にアラーム手段が接続されており、前記溶着判定手段が溶着を判定した時に、前記溶着判定手段は前記アラームを鳴動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に元々装備されている機能を利用することにより、電磁接触器の溶着検出機能を有するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や産業機械、ロボット等を駆動するモータ駆動装置は、入力電源が3相交流であり、これを交流/直流変換部において直流電圧に変換し、変換された直流電圧を直流/交流変換部で所望の周波数の交流電圧に変換してモータを駆動している。このようなモータ駆動装置では、交流/直流変換部への入力電源ラインに電磁接触器が設置されている。
【0003】
電磁接触器は接点を内蔵し、電磁接触器のオン操作で接点を接続させて電磁接触器の入力側と出力側を導通させ、電磁接触器のオフ操作で接点を非接続状態にして、電磁接触器の入力側と出力側の導通を遮断する。入力電源ラインに設置された電磁接触器は、非常停止やアラームの発生時に電磁接触器をオフ操作することにより、接点を非接続状態にしてモータ駆動装置を電源から切り離し、電源からのエネルギー供給を停止することで、モータの動作を止めるものである。
【0004】
しかしながら、モータの負荷が大きくなって電磁接触器に過大な電流が流れる場合や、モータ駆動装置の長年の使用により、電磁接触器の接点が溶着する場合がある。電磁接触器の接点が溶着すると、電磁接触器をオフ操作しても接点が非接続状態にならず、モータへの電流が遮断できなくなって、モータの予期しない回転によって危険が生じる可能性がある。
【0005】
この対策として、モータ駆動装置の入力電源ラインに設置する電磁接触器には、補助接点が設置されたものが使用される。補助接点は電磁接触器の主接点と連動して動作する接点であり、主接点の溶着を検出するのに使用される。そして、電磁接触器の主接点の溶着を検出する場合は、機械を駆動するモータが停止し、モータがエネルギーを消費していない状態で、電磁接触器をオフ/オン操作し、この時の電磁接触器の補助接点を監視する方法が一般的にとられている。このような電磁接触器の補助接点については、例えば、非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】株式会社 日立産機システムのサイトの製品情報、標準型電磁接触器・開閉器[HSシリーズ](http://www.hitachi0ies.co.jp/products/hdn/mgsw/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような電磁接触器の接点の溶着の検出方法では、補助接点付の電磁接触器が必要であり、かつ、モータ駆動装置の内部または外部に、補助接点を監視するための追加回路が必要であるので、コストアップにつながるという課題がある。
【0008】
本発明は、電磁接触器の接点の溶着検出に際して、電磁接触器に補助接点が不要で追加回路の必要がなく、モータ駆動装置に元々備わる機能を利用することにより、コストアップを伴わずに電磁接触器の接点の溶着を検出できるモータ駆動装置の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明では、3相交流電源から供給される交流電圧を直流電圧に変換する交流/直流変換部と、入力電源電圧の検出回路と入力電流の検出回路を具備するモータ駆動装置であり、交流/直流変換部は、スイッチング素子とダイオードからなる3相ブリッジ回路を備え、入力電源電圧の検出回路と入力電流の検出回路の間に入力電源ラインをオン/オフする電磁接触器が設置されたモータ駆動装置において、交流/直流変換部の直流電圧が充電された状態で、電磁接触器をオフする電磁接触器のオフ手段と、電磁接触器のオフ手段が電磁接触器をオフした状態で、3相ブリッジ回路の1つの相の上側のアームを、入力電圧の最も低い相に対してオンすると共に、3相ブリッジ回路の1つの相の下側のアームを入力電圧の最も高い相に対してオンする3相ブリッジ回路の部分制御手段と、3相ブリッジ回路の部分制御手段によって、1つの相の上側のアームと1つの相の下側のアームとがオンされた状態で、電流が流れるか流れないかを判定する電流判定手段と、3相ブリッジ回路の部分制御手段によって、1つの相の上側のアームと1つの相の下側のアームとがオンされた状態で、電流判定手段が電流を検出しない場合は正常と判定し、電流判定手段が電流を検出した場合は電磁接触器が溶着したと判定する溶着判定手段とを設けたことを特徴とするモータ駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の数値制御装置によれば、補助接点付の電磁接触器が不要となり、かつ溶着検出用の追加回路も不要であるので、コストアップを伴わずに電磁接触器の溶着を検出することが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来のモータ駆動装置における電磁接触器の溶着を検出する回路構成を示す回路図である。
【
図2】本発明のモータ駆動装置における電磁接触器の溶着を検出する回路構成を示す回路図である。
【
図3】
図2に示した回路の制御回路が行う溶着検出手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図2に示した回路の制御回路が行う溶着検出のためのスイッチングパターンを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本発明の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の実施例を説明する前に、
図1を用いてこれまでのモータ駆動装置における電磁接触器の接点の溶着の検出方法を説明する。
【0013】
図1に示す従来のモータ駆動装置30は、図示しない工作機械や産業機械、ロボット等に備えられたモータMを駆動するものであり、その入力電源1は通常、3相交流である。入力電源1からの3相交流は、交流/直流変換部2(図にはAC/DC変換部2と記載)において直流に変換され、変換された直流は直流コンデンサ3に蓄えられると共に、直流/交流変換部4(図にはDC/AC変換部4と記載)に入力される。直流/交流変換部4は、入力された直流を所望の周波数の交流に変換してモータMを駆動している。
【0014】
モータ駆動装置30の入力電源1の近傍には、入力電源1の電圧を検出する電圧検出回路5と入力電流を検出する電流検出回路6が設けられており、検出値を制御回路10に入力している。Lはリアクトルである。また、電圧検出回路5と電流検出回路6の間の入力電源ラインには、3相電源の交流/直流変換部2への入力を遮断する電磁接触器7が設けられている。なお、以後の説明では、3相交流の各相をR相、S相及びT相として説明する。
【0015】
制御回路10は、電圧検出回路5と電流検出回路6からの信号に基づいてスイッチング信号を生成して交流/直流変換部2に入力する。交流/直流変換部2は、スイッチング素子8ダイオード9からなる3相ブリッジ回路で構成されており、スイッチング素子8が制御回路10からの信号でオン/オフ制御される。交流/直流変換部2は、ここで、3相ブリッジ回路の各相は上側アームと下側アームとから構成されているものとし、RUをR相の上側アーム、RLをR相の下側アームとする。従って、S相の上側アームはSU,下側アームはSL,T相の上側アームはTU,下側アームはTLである。
【0016】
モータ制御回路30の入力電源ラインに設置する電磁接触器7には補助接点11Aが設けられている。補助接点11Aは電磁接触器7の主接点11Bと連動して動作するものである。従来のモータ制御回路30には、この補助接点11Aの導通を検出する検出回路12と、溶着検出判定回路13が設けられている。
【0017】
電磁接触器7の主接点11Bの溶着を検出する場合は、モータMを停止させた状態で、電磁接触器7をオフ/オン操作し、この時の電磁接触器7の補助接点11Aの導通を検出回路12と溶着検出判定回路13で監視し、電磁接触器の溶着判定結果を出力している。即ち、溶着検出判定回路13は、電磁接触器7のオン操作時に補助接点11Aに導通があり、オフ操作時に補助接点11Aに導通がなければ、電磁接触器7の主接点11Bに溶着が無いという電磁接触器の溶着判定結果を出力する。一方、電磁接触器7のオフ操作時に補助接点11Aに導通があった場合は、溶着検出判定回路13は電磁接触器7の主接点11Bに溶着が有るという電磁接触器の溶着判定結果を出力する。
【0018】
図2は、本発明のモータ制御回路20の一実施例の構成を示すものである。本発明のモータ制御回路20が
図1で説明した従来のモータ制御回路30と異なる点は、電磁接続器7Aの構造と、制御回路10Aの構造、及び検出回路12と溶着検出判定回路13がない点である。よって、本発明のモータ制御回路20における構成部材で、従来のモータ制御回路30と同じ構成部材には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0019】
本発明のモータ制御回路20の入力電源ラインに設置された電磁接触器7Aには、主接点11Bは設けられているが、補助接点11Aが省略されている。一方、制御回路10Aには、電磁接触器7Aをオフ操作する電磁接触器のオフ手段21、電流検出回路6からの信号で電流が流れているかを判定する電流判定手段22、3相ブリッジ回路の部分制御手段及び溶着判定手段23及び溶着判定手段24が設けられている。この溶着判定手段24から電磁接触器7Aの溶着判定結果が出力される。
【0020】
ここで、
図3に示す制御手順のフローチャート及び
図4に示す波形図を用いて、本発明の制御回路10Aによる、電磁接触器7Aの溶着判定について説明する。なお、交流/直流変換部2のブリッジ回路は、R相の上側アームRUと下側アームRL、S相の上側アームSUと下側アームSL及びT相の上側アームはTUと下側アームTLを備えるものとする。
【0021】
制御回路10Aは、まず、DCリンクを充電する、即ち、
図2に示される直流コンデンサ3を充電する(ステップ301)。次に、DCリンクが充電された状態で、電磁接触器のオフ手段21により電磁接触器7Aをオフする(ステップ302)。
【0022】
この状態で、3相ブリッジ回路の部分制御手段23は、電圧検出回路5から入力される信号に基づいて、3相ブリッジ回路の1つの相の上側のアームを、入力電圧の最も低い相に対してオンし、かつ、同ブリッジ回路の1つの相の下側のアームを入力電圧の最も高い相に対してオンする。例えば、
図4に示すように、3相ブリッジ回路のT相の上側のアームTUをオンし、かつ、R相の下側のアームRLをオンする。この状態が、ステップ303に、「
図4のスイッチングパタンを生成」として示される。この時、T相とR相に入力電流が流れているかどうかを、電流判定手段22が判定する。
【0023】
3相ブリッジ回路の部分制御手段23が3相ブリッジ回路のどの相のどちら側のアームオンしたかの情報と、電磁接触器のオフ手段21による電磁接触器7Aのオフ情報及び電流判定手段22による電流の有無の情報とが溶着判定手段24に入力される。溶着判定手段24は、これらの情報に基づき、T相とR相に入力電流が流れているか否かを判定する(ステップ304)。
【0024】
この動作において、電磁接触器7Aが溶着していなければ、3相ブリッジ回路は電源と切り離されているので入力電流は流れない。
図4にはR相の下側アームとT相の上側アームがオンした時に、R相とT相に電流が流れる場合を実線では示し、流れない場合を破線で示してある。一方、電磁接触器7Aが溶着している場合は、3相ブリッジ回路が電源と切り離されていないので、入力電流が流れる。この時の電流の有無によって、電磁接触器の溶着チェックを行うことが可能である。
【0025】
ステップ304の判定において、溶着判定手段24が、T相とR相に入力電流が流れていないと判定した場合(NO)はステップ305に進み、溶着判定手段24は、電磁接触器7Aが正常と判定する。一方、ステップ304の判定において、溶着判定手段24が、T相とR相に入力電流が流れていると判定した場合(YES)はステップ306に進み、溶着判定手段24は、電磁接触器7Aが電磁接触器7Aが溶着していると判定する。そして、溶着判定手段24は、電磁接触器の溶着判定結果を制御回路10Aから出力する。
【0026】
制御回路10Aによる以上の判定は、一定時間毎に行うことが可能である。即ち、制御回路10Aは、一定時間毎に、電磁接触器7Aをオフする操作を行い、前述のスイッチングパタンを生成して電磁接触器7Aの溶着の有無を判定できる。また、モータ制御回路20の制御回路10Aにモニタ(図示省略)を接続すれば、電磁接触器7Aにおける溶着の有無をモニタで確認することができる。そして、モニタにアラームを内蔵させておけば、電磁接触器7Aの主接点11Bが溶着と判定された場合に、アラームを鳴動させて動作を停止させることが可能である。
【0027】
このように、本発明では、モータ駆動装置20に元から備わる機能である入力電圧回路5と入力電流検出回路6を利用して、制御回路10Aが電磁接触器の溶着の有無を判定するので、追加のコストは発生しない。
【符号の説明】
【0028】
1 3相交流電源
2 交流/直流変換部
3 直流コンデンサ
4 直流/交流変換部
7、7A 電磁接触器
8 スイッチング素子
10,10A 制御回路
11A 補助接点
11B 主接点
20、30 モータ駆動装置