(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937668
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】抗菌性組成物及び固定型カテーテルのための方法
(51)【国際特許分類】
A61L 33/00 20060101AFI20160609BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20160609BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20160609BHJP
A01N 47/44 20060101ALI20160609BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20160609BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20160609BHJP
A61L 101/32 20060101ALN20160609BHJP
【FI】
A61L33/00 T
A61M25/00
A01N31/02
A01N47/44
A01N25/02
A61L2/18
A61L101:32
【請求項の数】19
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-266329(P2014-266329)
(22)【出願日】2014年12月26日
(62)【分割の表示】特願2013-106342(P2013-106342)の分割
【原出願日】2007年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-83601(P2015-83601A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2014年12月26日
(31)【優先権主張番号】60/777,382
(32)【優先日】2006年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミン チュアン ホアン
【審査官】
松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0024372(US,A1)
【文献】
特表2004−518693(JP,A)
【文献】
特表2006−521177(JP,A)
【文献】
特表2006−506192(JP,A)
【文献】
特表2004−516041(JP,A)
【文献】
米国特許第05763412(US,A)
【文献】
特表2006−509532(JP,A)
【文献】
特表2002−539895(JP,A)
【文献】
特表2006−510414(JP,A)
【文献】
特表2005−515838(JP,A)
【文献】
米国特許第06166007(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A61L 2/00− 2/28
A61L 11/00−12/14
A61L 15/00−33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)抗菌性組成物の全重量に対して0.1〜2重量%の少なくとも1つのポロキサマーと、
b)抗菌性組成物の全重量に対して少なくとも10重量%の少なくとも1つのアルコールと、
c)抗菌性組成物の全重量に対して0.5〜10重量%の、前記アルコール以外の少なくとも1つの殺菌剤と、および
d)抗凝血剤、生理食塩水、水、及び、これらの組合せからなる群から選択される添加剤と、
を含む、カテーテルのロック(ロッキング)溶液用抗菌性組成物であって、
前記少なくとも1つの殺菌剤が、グアニドであり、
前記抗凝血剤が、アセチルサリチル酸、抗トロンビンIII、クエン酸二ナトリウム塩、クエン酸モノカリウム塩、クエン酸モノナトリウム塩、クエン酸トリカリウム塩、クエン酸トリナトリウム塩、クエン酸、クマジン、クマリン、クエン酸水素二アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、EDTAのジアンモニウム塩、EDTAのジカリウム塩、EDTAのテトラナトリウム塩、EDTAのトリカリウム塩、EDTAのトリナトリウム塩、エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、ヒルジン、ヒルログ、イブプロフェン、インドメタシン、L−酒石酸ジカリウム塩、L−酒石酸ジナトリウム塩、L−酒石酸モノナトリウム塩、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸トリナトリウム塩、ニクマロン、ニトリロ三酢酸、フェンプロクモン、D−酒石酸水素カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、プロスタグランジン類、硫酸プロタミン、タンパク質C/タンパク質S、ストレプトキナーゼ、スルフィンピラゾン、細胞プラスミノーゲン活性剤(TPA)、ウロキナーゼ、及びワルファリンからなる群から選択される、
ことを特徴とする前記抗菌性組成物。
【請求項2】
前記ポロキサマーが、下式
HO(C2H4O)a(C3H6O)b(C2H4O)aOH
(式中、aは少なくとも12であり、bは(C2H4O)で表される親水性部位が全ポリマー重量の50重量%〜90重量%を構成するような整数である)、
で表される、請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのポロキサマーが、ポロキサマー188、ポロキサマー237、及びポロキサマー407からなる群から選択される、請求項2に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の抗菌性組成物であって、前記グアニドが、クロルヘキシジンアセテート、クロルヘキシジングルコネート、クロルヘキシジン塩酸塩、及びクロルヘキシジンからなる群から選択される抗菌性組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの殺菌剤が、クロルヘキシジンである請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの殺菌剤が、クロルヘキシジングルコネートである請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記アルコールが、C1−C6の低級アルコールである請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
前記C1−C6の低級アルコールが、イソプロピルアルコールとエタノールとの混合物である請求項7に記載の抗菌性組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの低級アルコールが、イソプロピルアルコールとエタノールとの混合物であり、前記抗菌性組成物の重量に対して50〜95重量%の量で存在する請求項8に記載の抗菌性組成物。
【請求項10】
前記抗凝血剤が、エチレンジアミン四酢酸である請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の抗菌性組成物が内腔に導入されたカテーテル。
【請求項12】
請求項1に記載の抗菌性組成物でコーティングされた少なくとも1つの内部表面を有するカテーテル。
【請求項13】
カテーテルの消毒方法であって、
前記カテーテルの内腔に抗菌性組成物を導入することを含み、
前記抗菌性組成物が、
a)抗菌性組成物の全重量に対して0.1〜2重量%の少なくとも1つのポロキサマーと、
b)抗菌性組成物の全重量に対して少なくとも10重量%の少なくとも1つのアルコールと、
c)抗菌性組成物の全重量に対して0.5〜10重量%の、前記アルコール以外の少なくとも1つの殺菌剤と、および
d)抗凝血剤、生理食塩水、水、及び、これらの組合せからなる群から選択される添加剤と、
を含み、
前記少なくとも1つの殺菌剤が、グアニドであり、
前記抗凝血剤が、アセチルサリチル酸、抗トロンビンIII、クエン酸二ナトリウム塩、クエン酸モノカリウム塩、クエン酸モノナトリウム塩、クエン酸トリカリウム塩、クエン酸トリナトリウム塩、クエン酸、クマジン、クマリン、クエン酸水素二アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、EDTAのジアモニウム塩、EDTAのジカリウム塩、EDTAのテトラナトリウム塩、EDTAのトリカリウム塩、EDTAのトリナトリウム塩、エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、ヒルジン、ヒルログ、イブプロフェン、インドメタシン、L−酒石酸ジカリウム塩、L−酒石酸ジナトリウム塩、L−酒石酸モノナトリウム塩、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸トリナトリウム塩、ニクマロン、ニトリロ三酢酸、フェンプロクモン、D−酒石酸水素カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、プロスタグランジン類、硫酸プロタミン、タンパク質C/タンパク質S、ストレプトキナーゼ、スルフィンピラゾン、細胞プラスミノーゲン活性剤(TPA)、ウロキナーゼ、及びワルファリンからなる群から選択される、
ことを特徴とするカテーテルの消毒方法。
【請求項14】
前記アルコールがC1−C6の低級アルコールである請求項13に記載の消毒方法。
【請求項15】
前記C1−C6の低級アルコールがイソプロピルアルコールとエタノールの混合物である請求項14に記載の消毒方法。
【請求項16】
少なくとも1つの前記低級アルコールが、イソプロピルアルコール及びエタノールの組合せで、その全量が前記抗菌性組成物の全重量に対して50〜95重量%の範囲である請求項14に記載の消毒方法。
【請求項17】
前記抗菌性組成物が、カテーテルの内腔で48時間〜1週間の期間、保持されることを特徴とする請求項13に記載の消毒方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの殺菌剤が、前記抗菌性組成物の全重量に対して0.5重量%〜10重量%の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項19】
前記少なくとも1つの殺菌剤が、前記抗菌性組成物の全重量に対して0.5重量%〜10重量%の量で存在することを特徴とする請求項13に記載の消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年2月28日に出願された仮(米国)特許出願番号60/777,382を基礎として優先権を主張する。本発明は、感染を減少するため、又は回避するためのカテーテルロッキング溶液、又はカテーテルコーティング等として有用な組成物、すなわち一般的には抗菌性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、特に静脈内(IV)カテーテルは、液体(例えば、生理食塩水や様々な薬剤及び非経口栄養剤等)を患者に注入したり、患者から血液を抜き出したり、患者の血管系の様々なパラメーターをモニタリングするのに有用である。一般に、カテーテルには、ルーメン、すなわち、患者の体内に注入ないしは投薬されるべき液体又は薬剤を含む貯蔵容器、及び(注入)針に接続するための注入部又は注入用部品を含む。
【0003】
カテーテルを挿入することを含むカテーテルに関連する厄介な問題には、例えば、肺炎/血胸症、動脈穿刺、神経損傷等が含まれ、又、カテーテルを使用することによって生じる第2の問題には、血栓症や感染症等が含まれる。もし、カテーテルが感染を引き起こした場合には、患者には更なる処置、恐らくはそのカテーテルの除去が必要となるであろう。経皮的なカテーテルの場合、皮膚浸透が感染の通常経路である。カテーテル敗血症は、在宅中心静脈栄養法を受けている患者の疾病および死亡の主な原因の1つとして残っている。移植されたカテーテルは、長期間の使用で、しばしば、詰まりや閉塞を引き起こし得る。これは、血管内カテーテルに関する問題であり、カテーテル内腔(ルーメン)の中における(血液の)凝固や血栓の生成が原因になっているはずである。
【0004】
カテーテルに関連する重大な感染症の大部分は、中心静脈カテーテル(CVCs)、特に、集中治療室(ICUs)に入れられて集中治療を受けている患者(の体内)に装備された中心静脈カテーテルに関連する。集中治療室設定では、感染症の発生率は、深刻でない入院患者や外来患者における設定よりも、しばしば高い。特定のカテーテル(例えば、肺動脈カテーテル及び末梢動脈カテーテル)は、血行動態計測のために、又は、汚染およびそれによって引き起こされる臨床感染の可能性を高めるための研究室分析用のサンプルを得るために、1日に複数回、利用(アクセス)され得る。中心静脈カテーテルに関連する血流感染(BSIs)の合計250,000件は、通年の発生件数を評価したものであり、中心静脈カテーテルに関連する血流感染のコストは、「疾病(morbidity)」という語、及び「拡大された財源(financial resources expanded)」という語で事実上表現されることがある。
【0005】
(血液)凝固及び血栓生成に関連する問題を低減するために、継続使用の間に血管内アクセスカテーテルをロック(ロッキング)することが現在、一般的である。ロック(ロッキング)は、カテーテル内腔(ルーメン)から血液および他の物質を取り除くために、最初に生理食塩水でカテーテルを洗い流すことを伴う。カテーテルを洗い流した後に、抗凝固剤溶液(通常は、ヘパリン)が、生理食塩水を置換するために注入され、カテーテルの内腔(ルーメン)に満たされる。ヘパリン−ロッキング溶液は、血液がルーメン内に入るのを妨げ、ルーメン内における(血液の)凝固や血栓生成を効果的に阻止する。いくつかの血栓がまだカテーテルの末端部に形成されることが可能な間は、その生成は通常、わずか(最小量)であり、ほとんど問題にならない。血栓生成を妨げるのと同時に、感染を妨げるために、様々な抗菌性物質をロック溶液と混合することが更に提案されてきている。
【0006】
カテーテルのロック(ロッキング)溶液としてヘパリンを使用することは、一般的には効果的だが、多くの不都合を生じる。カテーテル処理期間の終わる度ごとに、ヘパリン溶液を調製するのは、時間の浪費および介護人の過失の機会となりやすい。IVの患者は、1日に数回、そのようなヘパリンロックを受ける必要があるかもしれないが、人工透析および血液ろ過の患者は、そのようなヘパリンロックを1週間に少なくとも数回受ければよい。ヘパリンロックを受ける不便と出費は、長期間では莫大なものとなり得る。更に、ヘパリンロック溶液中で、別々の抗菌剤を混合する必要性は、方法を複雑なものとし、費用を嵩ませるものとなっている。又、ヘパリンロック溶液への抗菌剤の添加は、ルーメン内およびルーメンの開口部においてのみ、一般に有効であろう。移植されたカテーテルの周辺部での感染の危険性は、感染の危険性が最大の皮膚透過の観点を含めても、いささかも減少しないであろう。ある種のロック(ロッキング)溶液がこの問題点を克服するために、カテーテル(材料)を透過させることによってカテーテルの周辺の組織に抗菌作用をもたらすように設計されてきた。
【0007】
特許文献1は、移植されたカテーテルを殺菌するために低級アルコールを使用することを記載している。そのアルコールは、カテーテル又は他の移植された装置の多孔質材を通過して拡散し、その結果、装置(すなわちカテーテル)の内部の他、その周辺組織にも殺菌作用をもたらす。
【0008】
アルコールは、その殺菌特性がよく知られている。70%エチルアルコール及び30%水を含むラビング(Rubbing)アルコール、並びに70%イソプロピルアルコール及び30%水を含むイソプロピルラビング(rubbing)アルコールは、合衆国薬局方(USP)の公式基準 第XXIV巻 第60ページ及び第927ページに、殺菌剤として、それぞれ掲載されている。最近、出版された研究報告書においては、アルコールは潜在的な殺菌剤であり、外科用消毒薬として使用されるとバクテリアの個数を対数関数的に減少するという顕著な手段になることが示唆されている。特許文献2は、抗凝固剤および非抗生物質である殺菌剤を含む殺菌性のロック(溶液)を含んだカテーテル又はポートのような体内人工補装具を開示している。先行技術において、アルコールをベースとする組成物、例えば、極めて速やかに蒸発され濃縮されるアルコールは、長期に渡る抗菌活性をもたらすものではない。このためカテーテルの使用期間が長い場合においては、カテーテルの繰り返しの洗い流し、並びに抗菌性組成物の更改(入れ替え)が必要となる。カテーテルを使用している期間中の追加的な使用を必要とすることなく、持続性作用を与え得る抗菌性ロッキング溶液の必要性はなお残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,592,564号明細書
【特許文献2】米国特許第6,350,251号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
いくつかの態様において、本発明は、少なくとも1つのポロキサマーと、抗菌性組成物の全重量に対して少なくとも10重量%の少なくとも1つのアルコールと、アルコール以外の少なくとも1つの殺菌剤とを含む抗菌性組成物又はカテーテルコーティングを提供する。他の態様において、本発明は、少なくとも1つのポロキサマーと、抗菌性組成物の全重量に対して少なくとも10重量%の少なくとも1つのアルコールとを含む抗菌性組成物又はカテーテルコーティングを提供する。
【0011】
ある態様において、本発明は、上記の抗菌性組成物を使用するカテーテルの内部表面の少なくとも一部をコーティングするための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ある態様において、本発明は、カテーテルの内腔(ルーメン)に抗菌性組成物を導入すること、又は抗菌性組成物でカテーテルの内部の少なくとも一部をコーティングすることを含むカテーテルの抗菌(殺菌)方法、並びに、少なくとも1つのアルコールと、アルコール以外の少なくとも1つの殺菌剤と、少なくとも1つのポロキサマーとを含む抗菌(殺菌)性溶液を提供する。他の態様において、本発明は、カテーテルの内腔(ルーメン)に抗菌(殺菌)性組成物を導入すること、又は抗菌(殺菌)性組成物でカテーテルの内部の少なくとも一部をコーティングすることを含むカテーテルの抗菌(殺菌)方法、及び少なくとも1つのアルコールと少なくとも1つのポロキサマーとを含む抗菌(殺菌)性組成物を提供する。
【0013】
本発明のこれらの態様ならびにその他の態様は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から、更に容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
カテーテルは、医療従事者が体内の部分に挿入することのできるチューブである。最も多くの使用において、それは、細くて柔軟性のあるチューブ、すなわち、「柔らかい」カテーテルである。カテーテルは、又、場合により、より大きかったり、硬いチューブ、すなわち、「硬い」カテーテルであったりする。カテーテルは、体内の特定の部位に配置することができ、例えば、尿路カテーテル法として膀胱から尿を排出すること、例えば、腹部膿瘍等の液体貯留の排膿、静脈内の輸液や薬物や非経口栄養等の管理、血管形成法、血管造影法、バルーン中隔切開法、動脈又は静脈における血圧の直接測定等を可能とする。
【0015】
又、移植型カテーテルは、多くの医療行為において、幅広く使用される。血液透析と血液ろ過の両方とも、血管の中に別々に移植された動脈カテーテル及び静脈カテーテルに依存しており、血液の体外処理を可能とする。その一方、腹膜透析は、腹膜に移植された単一のカテーテルに依存しており、透析液の導入と回収を可能とし、体内透析(in situ dialysis)を可能とする。
【0016】
流体と薬物の静脈内投与のために使用される、末梢静脈カテーテル(PVC)、末梢動脈カテーテル、正中線カテーテル、非トンネル型中心静脈カテーテル(CVC)、肺動脈カテーテル、経皮的に挿入された中心(静脈)カテーテル(PICC)、トンネル型カテーテル、完全に移植可能なカテーテル、及び臍帯部カテーテル等の多くのタイプのカテーテルが存在する。
【0017】
IVカテーテルの最も一般的な挿入部位は、腕の中の血管(末梢静脈)である。(すなわち、用語「末梢静脈カテーテル」(PVC)。) 末梢静脈は、胸部または腹部以外の静脈である。脚と足の静脈は時折使用されるが、通常は、腕と手の静脈が使用される。小児科医は、時々、幼児の頭皮静脈を使用する。IV療法のこの型は、通常、除去されるか又は異なる位置に移動される前に、適所に2〜3日間、留めておかれる。末梢のIV線は、皮膚を通して末梢静脈に挿入された短いカテーテル(ほんの数センチの長さ)から成る。皮膚の外には、カテーテルの一部が残っていて、シリンジ又は静脈の導入線に接続されることができるハブ、又は、処置の間に栓でキャップされることができるハブを有している。カニューレ(排管)の口径は、一般的に内径で示される。(蘇生設定で使用される)非常に大きいカニューレでは口径14、最も小さいもので口径24〜26を有する。血液は、IVが比較的大きい血管中における場合及びIVが新しく挿入された場合に限り、必要であれば、末梢IVから引き抜かれることができる。蜂巣炎と細菌感染症を導く挿入部位の感染の危険性のために、末梢IVは、血管内に無期限に留めておくことはできない。医療機関の方針は、通常、この危険性を避けるために、3日毎に全ての末梢IVを(別の位置に)置き換えるものとされている。
【0018】
患者がIVを用いる、より長い処置を必要とする状況においては、カテーテルは、より大きな静脈[通常、肩(鎖骨下静脈)か首(頚静脈)の近くの静脈]に挿入される。「中央静脈カテーテル」(CVC)と呼ばれるこれらの型のカテーテルは、薬物および流動食がよりダイレクトに、かつ、より速く血流に達することを可能とするために、心臓(上大静脈)の先端に達するように挿入され、最長7日間、その位置に留め置くことができる。数週間適所に留めおかれることが必要な中央静脈カテーテルは、皮膚下に移植(トンネル化)され、大静脈の中に配置される。理想的なカテーテルは、患者の胸部の皮膚から出しておかれる。中央IV線は、末梢IVに勝るいくつかの利点を有する。中央IV線は、化学療法薬や全非経口栄養剤などの濃度や化学組成のために末梢静脈を過度に刺激するであろうと考えられる流動食や薬物を輸送することができる。薬物は、すぐに心臓に達し、体の他の部位にすばやく配送される。カテーテル内には、複数の平行な区画(小部屋)(lumens)があり、単一の管内では化学的に相性のよくない複数の薬物でさえも、速やかに輸送することができる。介護人は、カテーテルを用いて、中心静脈圧やその他の生理学的な変数を測定することができる。しかし、中央IV線は、又、出血、細菌感染症、及びガス血栓等などの、より高い危険をももたらす。
【0019】
又、より長期間、中心静脈カテーテルを肘の前部の大静脈、肘窩に挿入でき、それは、優れた大静脈として拡張する。このタイプのカテーテルは、末梢部に挿入された中心(静脈)カテーテル、すなわちPICCと呼ばれ、数週間、同じ血管内に留めおくことができる。PICCsは、在宅患者のための最も一般的なIV療法の形態である。PICCカテーテルは、集中治療室や救命救急医療などの医療設定(救急処置)で一般的に使用されるが、又、在宅看護環境でも広く使用でき、長期(数週間から数ヶ月)の治療が必要とされる患者に対する治療においても、通常、適用され得る。
【0020】
最も一般的なIV型カテーテルは、針の上に載った末梢IV型カテーテルである。その名前の通り、針の上に載ったIV型カテーテルは、鋭い遠位端を有する導入針上に載せられている。少なくともそのカテーテルの遠位部は、針の外側表面を硬く拘束しており、それによって、カテーテルの抜け(又は外れ)を防ぎ、血管内へのカテーテルの挿入を容易にする。誘導針の遠位端は、その針が患者の皮膚から遠ざかる傾斜角をもって、カテーテルの遠位端を越えて伸張している。
【0021】
カテーテルと誘導針の組合せは、患者の皮膚を通して血管中へ、浅い(小さい)角度で挿入される。そのようなカテーテルと誘導針の組合せを患者に挿入するための方法は多く存在する。ある挿入方法において、誘導針とカテーテルは、血管中に一緒に完全に挿入される。他の方法においては、誘導針は、血管中に最初に挿入した後に、部分的にカテーテルに引き込まれる。次に、カテーテルは、針の上をつたわらせて、血管中に完全に挿入される。
【0022】
PICCは、それぞれそれ自体の外部コネクター(二重内腔)、又は単一のチューブとコネクター(単一の内腔)としての2つの平行な区画(小部屋)を有していてもよい。外観上、単一内腔のPICCは、チューブがわずかに幅広いことを除いては、末梢IVに類似している。
【0023】
ポート(しばしば、Port−a−cath又はMediPortのようなブランド名で呼ばれている)は、中心静脈ラインであり、それは外部コネクターを有さないが、その代わりに皮膚の下に移植された小さな貯蔵容器を有している。薬物は、皮膚を通過させた小さな針を通して、前記貯蔵容器に入れることによって、断続的に管理される。前記のポートは、不都合を生じるものではなく、PICCsよりも感染の危険性は低い。そのため、前記ポートは、長期の間欠式治療の患者に対して、通常、使用される。
【0024】
いくつかの態様において、上記のいずれのタイプのカテーテルにおいても、本発明の抗菌性組成物は、カテーテルのロッキング溶液として使用することができる。そして、その結果、本発明の組成物は、血管等の(患者の)身体の一部に挿入すなわち移植されたカテーテルを有する患者に対する抗菌保護を提供する。前記ロッキング溶液は、例えば1時間から約1週間まで、典型的には約48時間から約1週間までのような、短期間又は長期間の保護に用いられるカテーテルに導入(to place)することができる。これは、少なくとも1つのアルコール、アルコール以外の少なくとも1つの殺菌剤、及び少なくとも1つのポロキサマー界面活性剤を含む組成物によって、成し遂げられる。別の態様において、前記組成物は、少なくとも1つのポロキサマー界面活性剤と少なくとも1つのアルコールを含むことができる。
【0025】
いくつかの態様においては、カテーテルの内部表面の少なくとも一部(及び、望むのであればその外部表面)は、本発明の組成物でコーティングされることができる。本発明の抗菌性組成物でコーティングされることができるカテーテルの内部表面の非限定例は、ルーメン、チュービング、プランジャー、及び栓等を含む。コーティングには、当業者に知られているいかなる従来技術、例えば、浸し塗り(dipping)や吹きつけ(spraying)等を適用することもできる。コーティングには、以下に説明するように溶液が適用でき、場合により、少なくとも部分的に乾燥させてもよい。コーティングの厚さは、一般的には、約1μmから約1mmの範囲であることが望ましい。
【0026】
いくつかの態様においては、内部コーティングを有するカテーテルは、カテーテル内部に入れられたロッキング溶液を有していてもよい。ロッキング溶液は、いかなる従来からのロッキング溶液であってもよく、又は本明細書で説明する本発明のロッキング溶液であってもよい。
【0027】
本発明の抗菌性組成物は、1つ以上のアルコールを含む。好適なアルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール等が挙げられる。いくつかの態様においては、少なくとも1つのアルコールは、エタノール又はイソプロパノールのようなC
1−C
6の低級アルコールを含む。他の態様においては、C
1−C
6の低級アルコールは、イソプロパノールとエタノールとが、約1:10〜1:1の比の範囲の混合物である。そして、いかなる理論によっても拘束されることを意図していないが、前記アルコールは、カテーテル材料の多孔構造を広げて、抗菌性組成物の浸透を容易にすることができ、又、抗菌性組成物の放出速度を遅延できると信じられている。1つ以上のアルコールが、本発明の抗菌性組成物の全重量に対して、少なくとも10重量%で、好ましくは50〜95重量%の範囲で存在する。
【0028】
本発明の抗菌性組成物は、更に、アルコール以外の少なくとも1つ以上の殺菌剤を含むことができる(上記した通り)。本明細書で使用する用語「抗菌剤(殺菌剤)」又は「抗菌性の(殺菌性の)」は、望まない生物を殺し、その増殖、成長、および繁殖を阻止し妨げる薬剤を意味する。用語「生物(organisms)」は、限定されないが、微生物、バクテリア、揺れているバクテリア(undulating bacteria)、スピロヘータ、胞子、胞子を形成する生物、グラム陰性の生物、グラム陽性の生物、イースト、菌類、カビ、ウイルス、有酸素生物、嫌気性の生物、及びマイコバクテリウム等を含む。
【0029】
そのような生物の特別な例には、Aspergillus niger、Aspergillus flavus、Rhizopus nigricans、Cladosporium herbarium、Epidermophyton floccosum、Trichophyton mentagrophytes、Histoplasma capsulatum等の菌類や、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli、Proteus vulgaris、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermis、Streptococcus faecalis、Klebsiella、Enterobacter aerogenes、Proteus mirabilis、その他のグラム陰性のバクテリア、その他のグラム陽性のバクテリア、マイコバクチン等のバクテリア、及びSaccharomyces cerevisiaeやCandida albicans等の酵母が含まれる。更に、微生物の胞子やウイルス等は、本発明の範囲内の生物である。
【0030】
本発明において好適に使用し得る殺菌剤には、フェノール、第四級アンモニウム塩の殺菌剤、塩素放出性の殺菌剤、キノリン、キナルジン酸塩、チオセミカルバゾン、キノン、サルファ剤、カルバメート、サリチルアミド、カルボアニリド、アミド、グアニド、アミジン、キレート、及びイミダゾリン殺菌剤等の殺菌剤が含まれるが、これらに限定はされない。
【0031】
本発明において使用することができる他の好適な殺菌剤としては、例えば、酢酸、安息香酸、ソルビン酸、プロピオン酸、デヒドロ酢酸、亜硫酸、バニリン酸、パラヒドロキシ安息香酸のエステル、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、ヨウ素(様々な溶媒中)、ポビドン−ヨード、ヘキサメチレンテトラミン、ノキシチオリン、1−(3−クロロアリル)−3,5,7−トリアゾ−1−アゾニアダマンタン クロライド、タウロリジン、タウラムタム、EDTA、N(5―ニトロ―2−フルフリデン)−1―アミノ―ヒダントイン、5―ニトロ―2−フルアルデヒド セミカルバゾン、3,4,4’−トリクロロカルバニリド、3,4’,5−トリブロモサリチルアニリド、サリチルアニリド、3−トリフルオロメチル−4,4’−ジクロロカルバニリド、8−ヒドロキシキノリン、1−シクロプロピル−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4―オキソ−7―(1―ピペリジニル)−3―キノリンカルボン酸、過酸化水素、過酢酸、ソディウム オキシクロロセン、パラクロロメタキシレノール、2,4,4’―トリクロロ―2’−ヒドロキシジフェノール、スルファジアジン銀、硝酸銀等が挙げられる。
【0032】
更に、好適な殺菌剤には、例えば、アクリジン、アクリフラビン、アミナクリン、次亜塩素酸塩、プロフラビン ヘミスルフェート、トリフェニルメタン、マジェンタ、クリスタルバイオレット、スカーレット レッド、パラロサニリン、及びローザニリンのような染料、次亜塩素酸ナトリウム、オキシクロロセン、クロラミン、ジクロロジメチルヒダントイン、ハラゾン、ジクロロアミン、クロラシン、スクシンクロルイミド、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌレート、トリクロロメラミン、ジクロログリコールウラシル、ハロゲン化ジアルキルヒダントイン、及びハランのような塩素放出性の殺菌剤、デクアニリウム、ラウロリニウム、ヒドロキシキノリン、リオキノール、クロロキナルドール、ハルキノール、アミノキヌリド、ベンゾキシキン、ブロキシキノリン、クロロキシン、クロキシキン、エチルヒドロキュプレイン、ユープロシン、ヒドラスチン、8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリンスルフェート、及びヨードクロロヒドロキシキンのようなキナルジウム及びキノリン(系)の殺菌剤、ピリジニウム殺菌剤、ベンザルコニウムクロライド、セトリミド、ベンゼトニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、クロロフェノクチニウムアムソネート、デクアリニウムアセテート、デクアリニウムクロライド、ドミフェンブロマイド、ラウロリニウムアセテート、メチルベンゼトニウムクロライド、ミリスチル−ガンマ−ピコリニウムクロライド、オルタフォニウムクロライド、及びトリクロビソニウムクロライドを含む第四級アンモニウム塩(型)殺菌剤、グリセオフルビン、ニトロフルフラール、ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、フラゾリドン、フラルタドン、2−(メトキシメチル)−5−ニトロフラン、ニドロキシゾン、ニフロキシム及びニフルジンのようなフラン(類)、塩素化されたフェノール、クレゾール、チモール、カルバコル、アセトメロクトール、フェンチクロール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、ヘキサクロロフェン、ビスフェノール、アミルメタクレゾール、バイチオノール、クロロチモール、ジクロロキシレノール、クロロフェン、p−クロロフェノール、p−フェニルフェノール、トリニトロフェノール、ジクロロビスフェノール、ブロモクロロビスフェノール、サリチル酸 1−ナフチル、サリチル酸 2−ナフチル、2,4,6−トリブロモ−m−クレゾール、及び3’,4’,5−トリクロロサリチルアニリド等のフェノール(系)殺菌剤、プロピオラクトンのようなラクトン(系)(殺菌剤)、並びにノキシチオリン、ポリノキシレン、及びトリクロカーボンのような尿素(系)(殺菌剤)が含まれる。
【0033】
本発明において好適に使用される他の殺菌剤の例には、クロルヘキシジン、クロルヘキシジン グルコネート、クロルヘキシジン アセテート、クロルヘキシジン ハイドロクロライド、ジブロモプロパミジン、ハロゲン化ジフェニルアルカン、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン、カルバニリド、サリチルアニリド、テトラクロロサリチルアニリド、トリクロロカルバニリド、プロパミジン イセチオネート、ペンタミジン、ピクロキシジン、メンダルアミン、酸付加体かつ第四級(塩)のメタナミンマンデレート、ポリオキシメチレンジエステル、ポリオキシメチレンジアセテート等のようなポリオキシメチレンエステル(類)、並びにこれらの混合物が含まれる。
【0034】
本発明において使用される殺菌剤として好適に用いることができる防腐剤には、アレキシジン及びアンバゾンのようなグアニジン、ハロゲン及びボルニルクロライド、ヨウ素酸カルシウム、クロフルカルバン、フルオロサラン、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、シムクロセン、チモールアイオダイド、トリクロカルバン、トリクロサン、及びトリクロセンカリウム等のハロゲン化化合物、ハイドラガフェン、マレライン ソディウム、メルブロミン、アンモニア化されたp−フェノールスルフォネートナトリウム水銀、スクシンイミド水銀、スルフィド水銀、レッド、マーキュロフェン、酢酸水銀、塩化水銀、ヨウ化水銀、ニトロメルソール、チメルフォネートナトリウム、及びチメロザルのような水銀化合物、並びに、酢酸アルミニウム溶液、アルミニウム塩基性酢酸塩溶液、硫酸アルミニウム、3―アミノ―4−ヒドロキシ酪酸、ホウ酸、クロロアゾジン、m―クレシルアセテート、硫酸銅、イクタモール、ネガトール、オルニダゾール、β―プロピオラクトン、及びα―テルピネオールのようなその他の化合物が含まれる。
【0035】
有用な殺菌剤には、又、パラホルムアルデヒドポリマーが含まれる。殺菌剤として使用されるパラホルムアルデヒドポリマーは、nが3の一般式(CH
2O)
nの環状三量体、及びmが3から125の一般式HO(CH
2O)
mHの線状ポリマーからなる群から選択される。これらのポリマーは、白色の結晶性固体であり、湿気の存在下で、脱ポリマー化して、水溶性の殺菌剤及び殺菌性のホルムアルデヒドを生成する。John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkから出版のEncyclopedia of Chemical Technology, Kirk−Othmer, Vol.10, 第81ページ,1966年を参照されたい。操作において、パラホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒドへの脱ポリマー化を引き起こすように、周囲の水分によって、水分活性される。ホルムアルデヒドは、殺菌剤、すなわち微生物の存在を制御する殺菌剤として作用する。一般に、湿気の存在下、又は、湿気と酸触媒の存在下、環状及び線状ポリマーは、最大で99%までホルムアルデヒドに変換され、ホルムアルデヒドが長期にわたって放出される。
【0036】
特に好適な殺菌剤には、クロロヘキシジングルコネート、クロロヘキシジンアセテート、クロロヘキシジンジアセテート、トリクロサン、クロロキシレノール、デキアリニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド、及びこれらの混合物が含まれる。いくつかの態様において、1又は複数の殺菌剤が、抗菌性組成物の全量に対して約0.01〜10重量%または約0.01〜5重量%の量で存在する。
【0037】
アルコール及び殺菌剤に加えて、本発明の抗菌性組成物は、1又は複数のポロキサマーを含む。ポロキサマーは、非イオン性のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体である。好適なポロキサマーは、例えば、下式
HO(C
2H
4O)
a(C
3H
6O)
b(C
2H
4O)
aH
のような、ポリオキシプロピレンの疎水性部分とポリオキシエチレンの親水性部分を含むことができる。なお、上式において、aは少なくとも12であり、bは(C
2H
4O)によって表される親水性部分が全共重合体の重量に対して約50〜90重量%を構成するような整数である。おそらく、その平均分子量は、約2000から約18000ダルトンの間である。好適なポロキサマーの非限定例は、表1に記載されたものを含む。
【0039】
USP指定では、非独占名である「ポロキサマー」は、番号をつけて呼称される。すなわち、最初の2つの数字は、100を乗じたときにその共重合体のポリオキシプロピレン部分の概算の平均分子量に対応しており、3番目の数字は、10を乗じたときにポリオキシエチレン部分の重量%に対応している。
【0040】
ポロキサマーは、メチルオキシランポリマー、オキシランとのポリマー、ポリエチレン−ポリプロピレン グリコールポリマー、並びにα―ヒドロ―ω―ヒドロキシポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)ブロック共重合体などの他の名称でも知られている。好適なポロキサマーの非限定例として、BASF社(ニュージャージー州マウントオリーブ)から商業的に入手可能なPluronic(登録商標) L44NF ポロキサマー124、Pluronic(登録商標) F65NF ポロキサマー188、Pluronic(登録商標) F87NF ポロキサマー237、Pluronic(登録商標) F108NF ポロキサマー338、Pluronic(登録商標) F127NF ポロキサマー407等のPluronic(登録商標) NFグレードのブロック共重合体が含まれる。好適なポロキサマーは、ポロキサマー188、ポロキサマー237、及びポロキサマー407である。
【0041】
1又は複数のポロキサマーは、抗菌性組成物の全重量に対して、約0.01重量%〜5重量%、又は、約0.1重量%〜2重量%の量で存在する。
【0042】
如何なる理論によっても拘束されることを意図しないが、ロッキング組成物中におけるポロキサマー界面活性剤の使用は、アルコールと共働して作用でき、前記ロッキング組成物がカテーテル材料それ自体を透過しやすくさせる。更に、ポロキサマーは、カテーテル表面に結合して作用し得る。このようにしてポロキサマーはカテーテル表面から抗菌性組成物を放出する速度を延長するように作用でき、及び/又は、カテーテル材料を透過して抗菌性組成物が到達する速度を遅くするように作用できる。このようにしてカテーテルの内腔(ルーメン)内の抗(殺)菌剤が消費尽くされるにつれて、抗(殺)菌剤はカテーテル材料内に蓄えられ、そのカテーテル材料から浸出、すなわち、ゆっくりと放出されて、それによって、抗(殺)菌剤を補給し、そうして、継続的な又は延長された抗微生物活性を与えると信じられている。
【0043】
ポロキサマーは、血液と相溶し、非毒性である。ロッキング溶液は、通常、カテーテルから凝固した血液を取り除き、(血管の)閉塞を防止するための抗凝固剤を含んでいる。ポロキサマーは非凝固活性を有しているので、組成物中に更に追加の抗凝固活性を有する化合物を加える必要がない。又、ポロキサマーは、カテーテルの内部を洗浄できるので、感染症を誘発し得る赤血球又は生物膜の増加を排除する。
【0044】
抗菌性組成物は、場合により、更に添加剤を含んでいてもよい。好適な添加剤としては、抗凝固剤、生理食塩水、水、及びこれらの組合せが含まれるが、これらに限定はされない。製法において塩が使用される場合には、水が塩のキャリアとして必要であり、抗菌性組成物の全量に対して約5重量%から45重量%の量で使用することができる。水又は生理食塩水は典型的には、他の成分が添加された後に、組成物のバランスを整えるであろう。
【0045】
本明細書において、用語「抗凝固性」とは、血液の凝固を妨げるため、あるいは、凝固した血液又は一度凝固を形成したその他の種を溶解するための、化合物の有する能力を直接的ないしは間接的に意味する。そのような化合物の例としては、クエン酸二アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、クエン酸、クエン酸二ナトリウム塩、クエン酸モノカリウム塩、クエン酸トリカリウム塩、クエン酸トリナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAのジアンモニウム塩、EDTAのジカリウム塩、EDTAのジナトリウム塩、EDTAのテトラナトリウム塩、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、EDTAのトリナトリウム塩、EDTAのトリカリウム塩、エチレングリコール−O,O’−ビス(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸トリナトリウム塩、ニトリロ三酢酸、酒石酸カリウムナトリウム、D−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸ジカリウム塩、L−酒石酸ジナトリウム塩、L−酒石酸モノナトリウム塩、ヘパリン、ワルファリン、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ヨードメタシン、プロスタグランジン類、スルフィンピラゾン、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、細胞プラスミノーゲン活性剤(TPA)、クマリン(coumarin)、硫酸プロタミン、抗トロンビンIII、クマジン(coumadin)、タンパク質C/タンパク質S、ニクマロン(nicoumalone)、フェンプロクウモン(phenprocoumon)、ヒルジン(hirudin)、ヒルログ(hirulog)等を含むが、これらに限定はされない。
前記の混合物が使用され得る。好適な抗凝固剤は、EDTAである。この場合、その抗凝固剤は、抗菌性組成物の全重量に対して、約0.01〜3重量%、好ましくは約0.1〜1重量%の量で使用される。
【0046】
本発明の組成物は、室温での単なる混合によって、調製できる。典型的には、使用されるアルコールと水は最初に混合され、次いで任意の順番で、その他の成分が添加される。
【0047】
いくつかの態様において、本発明は、少なくとも1つのアルコールと少なくとも1つの殺菌剤と少なくとも1つのポロキサマーとを含む抗菌性組成物、又は、同抗菌性組成物をカテーテルの内腔(ルーメン)内に導入することを含む移植されたカテーテルの長期間にわたる抗(殺)菌方法を提供する。他の態様において、本発明の組成物は、少なくとも1つの低級アルコールと少なくとも1つのポロキサマーとを含んでいてもよい。好ましくは、カテーテルの内腔(ルーメン)は、実質的に抗菌性組成物で満たされている。その組成物は、医療的使用の期間中、すなわち、例えば血液や調合薬や栄養物等の導入の間、カテーテル内に導入される。本発明の抗菌性組成物は、約48時間から約1週間の期間中、抗菌活性を発揮することができる。
【0048】
その他の態様において、本発明は、カテーテルの内部表面の少なくとも一部をコーティングすることを含むカテーテルの非感染方法を提供する。そして、カテーテルの外部表面についても所望により、抗菌性組成物でコーティングしてもよく、ここで前記抗菌性組成物は、上記に詳述したように、少なくとも1つの低級アルコール、少なくとも1つの抗(殺)菌剤、及び少なくとも1つのポロキサマー、すなわち、少なくとも1つの低級アルコールと少なくとも1つのポロキサマーを含む抗菌性組成物を含むものである。
【0049】
典型的には、その組成物は、ポリウレタン又はシリコーン材料で作られたカテーテル(カテーテルの種類は問わず、又、前記と同じ材料で作られた他の医療用装置も同様)をロックするために使用され、組成物は組み合わせて使用され得る。
【実施例】
【0050】
実施例
以下の実施例は本発明の理解を助けることを意図したものであって、本発明を限定するものとは、多少なりとも解釈されるべきものではない。
製剤(処方)1〜14は、以下の表2に記載の成分と表3に示す量によって調製される。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
抑制域
製剤(処方)1〜10にしたがって、組成物中に浸された環状のサンプルが、様々な微生物の成長に対する阻害する能力を試験された。特に、管AおよびBによって表される2つの管のセットが用意された。
【0054】
管Aは、Ohio州ClevelandにあるNoveon,Inc社から入手可能なTecoflex(登録商標)ポリウレタン製のチューブであり、中心静脈カテーテルに使用される代表的なタイプのチューブである。管Bは、New Jersey州Franklin LakesにあるBecton Dickinson社から入手可能なポリウレタン製のチューブであり、末梢カテーテルに典型的に使用されている。
【0055】
管サンプルは、事前に洗浄することなく、試験された。それぞれのサンプルに対して、管材料の約5mmが製剤(処方)1〜10の抗菌性組成物のそれぞれに室温下、浸漬され、乾燥器で乾燥された。いかなる製剤(処方)にも浸漬されなかった管の対象サンプルも、又、同様に試験された。次に、管はトリプシン酵素でコーティングされた寒天プレート上に置かれ、大豆で作った成長培地に、Pseudomonas aeruginosa、Canadida albicans、Escherichia coli、又はStapaylococcus aureus等の一般的な微生物が播種された。
【0056】
試験生物(検体)の1/10
8~9mlが、各寒天プレート上に拡げて置かれ、30〜35℃で培養された。そのプレートは、24時間、48時間、及び72時間の経過時に試験され、微生物の成長が部分的に(半径(mm))阻害されているのが、視覚的に測定された。その結果は、表4〜7に示されている。
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
例えば、表4に示すように、本発明による製剤(処方)7に浸した管は、管A及びBの両方のサンプルについても、管の周囲の3mmの領域内で、P.aeruginosa微生物の成長を阻害した。製剤(処方8〜10)は、より少量のクロロヘキシジングルコネートを有しており、微生物の成長を阻害したが、製剤(処方7)ほどの効果は見られなかった。試験された全ての生物(検体)にわたって、より多量にクロロヘキシジングルコネートを有する製剤(処方)[製剤(処方7)]は、試験された微生物の成長阻害力が最も高かった。如何なる理論にも拘束されることを意図していないが、ポロキサマーはカテーテル材料に結合することができ、抗菌性組成物の放出速度を遅延させ得ると考えられる。
【0062】
殺菌効果試験
製剤(処方1〜10)は、対象微生物、すなわち、S.aureus、P.Aeruginosa、C.Albicans、及びE.Coliに対する殺菌効果を評価された。これらの微生物は、グラム陽性又はグラム陰性を示し、真菌に分類される標準的な微生物である。殺菌効果を試験する方法は、以下に記載する通りである。
【0063】
各製剤(処方)の5mlを無菌の管に加えた。適切な数量(1mlあたり、約10
8〜10
9の生物を含む)で対象微生物を含んだ微生物試料の0.1mlが、試験溶液の5mlに加えられた。1分間および5分間の露光時間の時点で、1.0mlのサンプルが9.0mlのDifco Dey Engley neutralizing brothに移動された。更に、1.0mlのサンプルが、Difco Dey Engley neutralizing brothベースに移動された。すべてのサンプルは、30〜33℃で、48時間、培養された。製剤(処方)の効果試験の結果が、表8に示されている。試験された全てのバクテリアは、これらの溶液と1分間、接触させることによって、死滅された。
【0064】
【表8】
【0065】
本発明の特定の態様が、説明の目的で上述されたのに対し、本発明の詳細に関する様々な変形が、本明細書に添付の特許請求の範囲で規定されるような発明から離れることなく構成し得ることを当業者であれば、明らかに理解するであろう。