(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937819
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】電流センサ用ループコア及び電流センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 15/20 20060101AFI20160609BHJP
H01F 38/28 20060101ALI20160609BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
G01R15/20 C
H01F38/28
H01F41/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-280022(P2011-280022)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-130470(P2013-130470A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】余 孔恵
(72)【発明者】
【氏名】中村 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲田 憲弘
【審査官】
菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−526782(JP,A)
【文献】
特開2008−294435(JP,A)
【文献】
実開平03−127271(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20 ,
G01R 19/00 ,
H01F 38/28 ,
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に成形された板状のコア材によって上下一対の脚部と左右一対のヨーク部が形成され、
左右のヨーク部の中央を対向するヨーク側に向かって前記脚部と平行にそれぞれU字形に突出させ、これらU字形の先端の間に所定のギャップを形成することにより、上下の脚部の間に中間脚部が形成され、
この中間脚部と上下の脚部、及び左右のヨーク部によって、測定対象の電線を挿通する第1の環状部と、この電線に流れる電流により誘導される磁界を検出するための磁気プローブを収容する第2の環状部が形成された電流センサ用ループコアであって、
前記電流センサ用ループコアは、左右に分割された複数の分割コアを接合して構成され、 前記複数の分割コアの上下の脚部のうち少なくとも一方の脚部のそれぞれが、脚部とヨーク部の接続辺である一端から他端側になるにしたがって幅が細い台形状に形成されており、各分割コアの斜辺同士が接合されていることを特徴とする電流センサ用ループコア。
【請求項2】
前記斜辺が、第2の環状部を構成する上方の脚部に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の電流センサ用ループコア。
【請求項3】
前記斜辺が、第1の環状部を構成する下方の脚部に形成され、第2の環状部を形成する上方の脚部の分割線にはギャップが存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流センサ用ループコア。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電流センサ用ループコアと、
前記第2の環状部によって囲われるスペースに配置される磁気プローブと、
前記電流センサ用ループコアの脚部にボビンを介して巻回されたコイルと、
を有することを特徴とする電流センサ。
【請求項5】
前記ボビンの内部に、左右の分割コアに形成された前記斜辺を有する脚部が挿通され、前記ボビンの内壁が左右の分割コアの脚部によって楔状に押圧されていることを特徴とする請求項4に記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループコア及びそのループコアを使用した電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の電線に流れる電流を測定するための電流センサが従来から知られている。この種の電流センサは、測定対象の電線を挿入するループコアと、ループコアの脚部に巻回されたコイル、及びこの電線に流れる電流により誘導される磁界を検出するためのホール素子またはフラックスゲートセンサにおける磁気プローブから構成される。
【0003】
この電流センサに使用されるループコアとしては各種のものが提案されている。その1つに、例えば特許文献1に記載されている様な2つの環状部を有するものがある。
【0004】
この従来技術のループコアの構成を
図5に示す。このループコアでは、無端状に成形された板状のコア材1によって上下一対の脚部21,22と左右一対のヨーク部31,32が形成されている。左右のヨーク部31,32の中央を対向するヨーク側に向かって前記脚部21,22と平行にU字形に突出させ、これらU字形の先端の間に所定のギャップ4を形成することにより、上下の脚部の間に中間脚部5が形成されている。
【0005】
この中間脚部5と上下の脚部21,22、及び左右のヨーク部31,32によって、測定対象の電線を挿通する第1の環状部6と、この電線に流れる電流により誘導される磁界を検出するための磁気プローブPを収容する第2の環状部7が形成されている。
【0006】
図6は、
図5のようなループコアを使用した電流センサの斜視図である。
図6に示すように、ループコアの下方の脚部22の周囲には、ボビン8を介して第1の巻線9が巻回されている。上方の脚部21、第2の環状部内のプローブP及び中間脚部5の周囲には、ボビン10を介して第2の巻線11が巻回されている。
【0007】
このような第1と第2の環状部6,7を有するループコアでは、第1の環状部内に挿入された電線に流れる電流によってループコア内に磁界が発生する。この発生した磁界により発生する磁束を、第2の環状部内に配置したプローブPによって検出することにより、電線に流れる電流の大きさを測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4733244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、この種のループコアで主に使用されるフラックスゲートセンサは、電流の検出精度に優れている特徴がある。しかし、そのことは、測定時における外乱の一つである外部磁界の影響、特に、外部磁界の磁束がプローブPに侵入することによる影響が無視できない。
【0010】
このような外部磁界の影響を排除するためには、種々の方法が考えられるが、その1つにループコアの脚部に継ぎ目をなくすことで、外部磁界の磁束が脚部を通過しやすくし、プローブ側を経由する割合を抑制する方法がある。しかし、通常、ループコアは、その中心部で2分割された複数の分割コアを組み合わせて作製されることから、脚部に継ぎ目をなくすことは難しい。
【0011】
特に、この種のループコアは、ギャップを有する中間脚部5を有することから、特許文献1に示すように上下の脚部21,22の部分で分割コア同士を接合することが多い。その結果、
図7に示すように、上下の脚部に設けられた接合部21gの磁気抵抗が大きくなることにより外部磁界の磁束がプローブPを経由する割合が増加し、測定誤差の原因となる。
【0012】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。すなわち、本発明は、脚部に設けられた分割コアの接合部に改良を施すことにより、ギャップ部の磁気抵抗に比べ接合部の磁気抵抗を小さくし、外部磁界の磁束がプローブ側を経由する割合を低減したループコイルと、このループコイルの使用により検出精度の向上を可能とした電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のループコイルは、次のような特徴を有する。
(1)無端状に成形された板状のコア材によって上下一対の脚部と左右一対のヨーク部が形成されている。
(2)左右のヨーク部の中央を対向するヨーク側に向かって前記脚部と平行にU字形に突出させ、これらU字形の先端の間に所定のギャップを形成することにより、上下の脚部の間に中間脚部が形成されている。
(3)中間脚部と上下の脚部、及び左右のヨーク部によって、測定対象の電線を挿通する第1の環状部と、この電線に流れる電流により誘導される磁界を検出するための磁気プローブを収容する第2の環状部が形成されている。
(4)無端状のループコアが、上下の脚部に形成された分割線において、左右に分割された複数の分割コアを接合して構成されている。
(5)
前記複数の分割コアの上下の脚部のうち少なくとも一方の脚部のそれぞれが、脚部とヨーク部の接続辺である一端から他端側になるにしたがって幅が細い台形状に形成されており、各分割コアの斜辺同士が接合されている。
【0014】
また、前記の様なループコイルと、前記第2の環状部によって囲われるスペースに配置される磁気プローブと、前記電流センサ用ループコアの脚部にボビンを介して巻回されたコイルを有することを特徴とする電流センサも本件発明の一態様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような効果が発揮される。脚部に形成する接合部が脚部の長さ方向に沿って斜めに形成されているので、外部磁界の磁束が接合部分に大きく遮られることなく、脚部の長さ方向に通過することになる。その結果、脚部からプローブを経由する外部磁界の磁束量が低減され、電流測定に当たって外部磁界の影響を低減することが可能となり、測定精度の高い電流センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のループコアの一実施形態を示す分解斜視図。
【
図2】
図1の実施形態における外部磁界の磁束の流れを示す斜視図。
【
図3】
図1のループコアを使用した電流センサの組立方法を示す斜視図。
【
図4】
図1の実施形態における分割コアの組み立て方法と、地磁気の流れを示す平面図。
【
図6】従来のループコアを使用した電流センサの斜視図。
【
図7】従来のループコアにおける外部磁界の影響を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本件発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、
図5〜
図7に示した従来技術と同一の部分については、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0018】
1.ループコアの構成
図1は、本実施形態のループコアの斜視図であって、
図1の中央部分が組み立て状態のループコアの構成を、
図1の外周部分がその部品を分解して示すものである。
【0019】
本実施形態のループコアは、
図1の組み立て状態に示すように、無端状のループコアが、上下の脚部に形成された分割線Cにおいて、左右に(ヨーク部31,32と平行な方向に)分割された2つの分割コア1a,1bを接合して構成されている。この場合、上下の脚部に形成される分割線Cが、脚部を構成する板状のコア材の長さ方向に対して斜めに形成されている。
【0020】
そのため、
図1の各部品の形状に示すように、一方の分割コア1aは、三角形状をした上下の脚部21a,22aを備え、他方の分割コア1bは、同じく三角形状をした上下の脚部21b,22bを備えている。2つの分割コア1a,1bの三角形状の脚部は、両者を組み合わせることで、四角形の帯状をした上下の脚部を構成する形状になっている。
【0021】
2つの分割コア1a,1bの接合部分、すなわち脚部の分割線Cの部分は、圧接、接着、溶接などの手段で接合されている。この場合、本実施形態では、上方の脚部21a,21bの接合部と、下方の脚部22a,22bの接合部は、両者共に密着しており、ギャップが存在しない構成である。
【0022】
すなわち、本実施形態では、上下の脚部に形成する接合部(分割線C)を脚部の長さ方向に沿って設けることで、
図2に示すように、外部磁界の磁束の流れ方向(
図2の一点鎖線で示す)と、接合部とがほぼ同様な方向となり、接合部を横切る外部磁界の磁束量が少なくなる。その結果、脚部全体としてみると、外部磁界の磁束に対する磁気抵抗が減少し、プローブを経由する外部磁界の磁束量を抑制することができる。
【0023】
本実施形態では、前記のようにして構成された上下の脚部21a,21bと、下方の脚部22a,22bの外側に、シールド板S1,S2が設けられている。このシールド板S1,S2は、上下の脚部の表面に密着して配置され、脚部と一体になっている。
【0024】
2.電流センサの組立
前記のような構成を有する本実施形態のループコアを使用して、電流センサを組み立てる方法の一例を
図3によって説明する。
【0025】
まず、上下の脚部に装着する2つのコイルを予め製造する。すなわち、下方の脚部に装着するコイルを、ボビン8の周囲に巻線9を巻回する。上方の脚部に装着するコイルは、ボビン10の周囲に巻線11を巻回すると共に、ボビン10内部にプローブPを組み込む。この場合、プローブPは、その上下に、上部の脚部21a,21bを挿入する空隙と、中間脚部5を挿入する空隙が存在するように、ボビン10に対して取り付ける。
【0026】
このようにして、製造された2つのコイルの両側から、左右の分割コア1a,1bを組み込む。その場合、上方の脚部21a,21bを、上方のボビン10のプローブPの上側の空隙部に、中間脚部5をボビン10のプローブPの下側の空隙部に挿入する。下方の脚部22a,22bを下方のコイルボビン8の内側に挿入する。
【0027】
各ボビン8,10の内部では、各分割コア1a,1bの先端が細くなった三角形状の脚部21aと21b、及び脚部22aと22bが斜めになった分割線Cに沿って滑りながらボビンの奥まで入り込み、最終的には、
図4の(b)に示すように、三角形の脚部が組み合わされて四角形の帯状の脚部が形成される。この場合、三角形状の脚部21a,21bと22a,22bを、ボビン8,10内部に楔状に押し込むことになるので、脚部に対するボビン8,10の固定を強固に行うことができ、脚部21a,21bと22a,22bの接合部を確実に密着させることができる。
【0028】
図1のように、脚部の外側にシールド板S1,S2を設ける場合には、予め一方の分割コアの脚部の外側にシールド板を固定してから、左右の分割コアをボビン内部に挿入する。また、ボビンの内面にシールド板S1,S2を接合しておいてから、左右の分割コアをボビン内に挿入することもできる。
【0029】
3.実施形態の効果
以上の通り、本実施形態では、分割線を脚部の長さ方向に対して斜めに形成することにより、分割コアの接合部を外部磁界の磁束の流れる方向に沿った形状とすることができる。その結果、脚部の外部磁界に対する磁気抵抗が低減するので、プローブ側を経由する外部磁界の磁束量が減り、外部磁界による測定精度の低下を抑制できる。
【0030】
本実施形態では、三角形状の脚部をスライドさせながら楔のようにコイルボビン内部で組み合わせているので、左右の分割コアの結合強度が高く、また接合部の密着性も優れている。
【0031】
脚部の外側にシールド板S1,S2を設けた場合には、脚部の長さ方向に流れる外部磁界の磁束はシールド板S1,S2を通過しやすくなる為、脚部内に侵入する外部磁界の磁束量を低減することが可能になる。
【0032】
4.他の実施形態
本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、以下のような他の実施形態も包含する。
【0033】
(1)下方の脚部22a,22bの接合部は密着させ、上方の脚部21a,21bの接合部に若干のギャップを形成することができる。その場合、脚部の長さ方向に沿って走る外部磁界の磁束は、ギャップの存在しない、下方の脚部22a,22bの接合部側を通過し、ギャップのある上方の脚部21a,21b側に回り込むことがないので、プローブPを経由する外部磁界の磁束の量を抑制できる。
【0034】
(2)上方の脚部21a,21bの接合部、あるいは下方の脚部22a,22bの接合部のみを斜めの分割線によって形成することもできる。その場合、斜めの接合部を密着させて磁気抵抗を低減させ、他方の分割線については、従来技術に示したような脚部の長さ方向と直交する形状とし、その部分を密着あるいはギャップを持たせてもよい。
【0035】
(3)シールド板S1,S2を設けることなく、脚部のみによってループコアを構成することもできる。
【0036】
(4)本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…コア材
1a,1b…分割コア
21,22,21a,22a,21b,22b…脚部
31,32…ヨーク部
4…ギャップ
5…中間脚部
6…第1の環状部
7…第2の環状部
8,10…ボビン
9,11…巻線
S1,S2…シールド板
P…プローブ