(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用変速機の内圧は温度変化等の影響を受けて変動し易いため、この内圧を一定に保つブリーザ装置が設けられている。そして、内圧と大気圧との差圧により、内圧が高い場合はブリーザ装置から変速機内のブリーザガスを変速機外に噴き出させ、低い場合は外気を内部に取入れることで内圧を一定に保つようにしている。
【0003】
ところで、変速機内はギヤ等の回転体が回転しているため、この回転体によって攪拌されたオイルミストが漂っている。従って、ブリーザ室にはブリーザガスと共にオイルミストが流れ込みやすく、このオイルミストがブリーザガスと一緒に変速機外に噴き出され易い。
【0004】
そのため、ブリーザ室の上流側ラビリンス室を併設し、ラビリンス室を通過する際に気液分離させるようにする場合が多い。例えば特許文献1(特開平10−325456号公報)には、ブリーザ室内に内壁部によりラビリンスを形成し、ブリーザ室を通過するオイルミストを、この内壁部に衝突させることで液滴させて気液分離し、ブリーザガスのみを変速機外へ噴き出させるようした技術が開示されている。
【0005】
しかし、例えばブリーザ室のブリーザ流入口を変速機内の後部に設けた場合、登坂路走行や加速走行では、変速機内に貯留されているオイルが変速機後部側に偏って後部の油面が上昇するため、回転体により跳ね上げられるオイル量が増加し、ブリーザ室にオイルミストが流入し易くなる。一方、ブリーザ室のブリーザ流入口を変速機内の前部に配設した場合、変速機内の前部には、降坂路走行や減速走行時にオイルが偏って油面が上昇するため、回転体により跳ね上げられたオイルがブリーザ室に流入し易くなってしまう。
【0006】
これに対処するに、例えば特許文献2(特開2011−75087号公報)には、車両前後方向へ移動して吸入口の一部を閉鎖する第1可動プレートと、車両幅方向へ移動して吸入口の一部を閉鎖する第2可動プレートとをブリーザ室の流入口に配設し、両可動プレートを移動させることで吸入口のうちオイルの油面に近づく部分を閉鎖し、ブリーザ室へのオイルの流入を防止するようにした技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献2に開示されている技術では、吸入口の一部を可動プレートで閉塞するに過ぎず、ブリーザ室へのオイルの流入を効率的に阻止するには、吸入口を大きく形成し、可動プレートの移動によりオイルの油面から遠く離れた部分のみを開口させるような構造にする必要がある。
【0009】
しかし、変速機内で吸入口を大きく形成するには限界があり、従って、可動プレートを移動させることで、ある程度のオイルの流入を阻止することはできるが、オイルの流入をより効果的に阻止することはできず、ブリーザ室からオイルが大気に放出されてしまう可能性がある。
【0010】
その結果、上述した特許文献2に開示されている技術では、上述したラビリンスの代用としては機能するが、ブリーザ室に流入したオイルをブリーザガスと分離させて、オイルミストが減少されたブリーザガスを変速機外に噴き出させることは困難である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、変速機内のオイルに偏りが生じて油面が上昇した場合であっても、ブリーザ室へのオイルミストの流入を抑制し、オイルミストの変速機外への噴き出しを防止することのできる変速機のブリーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による変速機のブリーザ装置は、車両に搭載される変速機ケースを該変速機ケース内に配設されている駆動軸に直交する平面で分割してなる少なくとも2つの分割ケースと、前記各分割ケース間を仕切る仕切壁と、前記仕切壁のオイル油面よりも低い位置に設けられて隣接する前記分割ケース間を連通するオイル流通用孔部と、前記各分割ケース内のブリーザガスが流入する流入口を有するブリーザ室と、前記ブリーザ室に流入した前記ブリーザガスを前記変速機ケース外へ逃がすブリーザ通路とを有し、前記ブリーザ室が前記各分割ケース内の上部にそれぞれ設けられ、前記仕切壁を介して隣接する前記各分割ケース内に設けられた前記各ブリーザ室がブリーザ連通路を介して連通され、前記ブリーザ連通路が前記ブリーザ通路に連通され、前記ブリーザ連通路に前記各ブリーザ室の一方と前記ブリーザ通路とを前記車両の加減速走行或いは自重に応じて選択的に遮断する切換バルブが介装されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、仕切壁を介して隣接する各分割ケース内にそれぞれ設けたブリーザ室を、ブリーザ連通路を介して連通すると共に、このブリーザ連通路に各ブリーザ室の一方とブリーザ通路とを車両の加減速走行或いは自重に応じて選択的に遮断する切換バルブを介装し、加速走行と減速走行、或いは登坂走行と降坂走行において切換バルブがブリーザ室の一方を遮断し、他方のブリーザ室をブリーザ通路に連通させるようにしたので、加減速走行、或いは登降坂路走行時に変速機内のオイルに偏りが生じて油面が上昇した場合であっても、ブリーザ室へのオイルミストの流入を抑制し、オイルミストの変速機ケース外への噴き出しを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。尚、
図2の⊥は垂直記号である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態による自動変速機1は、図示しない車両のフロントエンジンルーム内に、車体前後方向に沿って延在されると共に後部が下方へやや傾斜された状態で搭載された縦置き型である。この自動変速機1は、前部に図示しないエンジンに連結されるトルクコンバータケース2を有し、その後部に変速機ケース3が連結され、更に、その後部にエクステンションケース4が連結されている。
【0017】
トルクコンバータケース2内にはトルクコンバータが配設されており、このトルクコンバータの入力軸2aがエンジンの出力軸(図示せず)に連結されている。
【0018】
又、
図2に示すように、変速機ケース3内に、トルクコンバータの出力軸2bに連結されて同軸上に延在する駆動軸5が配設されている。この変速機ケース3は、駆動軸5に直交する平面で、2つの分割ケースとしての前ケース6と後ケース7とに分割された胴割り構造を有し、前ケース6と後ケース7との間に仕切壁8が形成されている。この仕切壁8は前ケース6と後ケース7との一方に一体形成されており、この仕切壁8を介して前ケース6内の前室6aと後ケース7内の後室7aとが区画されている。更に、変速機ケース3内に挿通されている駆動軸5の途中が、仕切壁8に軸受9を介して回動自在に支持されている。又、この駆動軸5に、遊星歯車列等の変速機構を含むギヤトレイン10a,10bが、前室6aと後室7aとに分割されて配設されている。
【0019】
又、前室6aと後室7aとの底部にオイル溜り部6b,7bがそれぞれ形成されており、この各オイル溜り部6b,7bが、仕切壁8の下部であってオイルの油面よりも低い位置に設けられたオイル流通用孔部8aを介して連通されている。
【0020】
更に、前室6aのオイル溜り部6bにオイルストレーナ11が臨まされている。このオイルストレーナ11がオイルポンプ(図示せず)に連通されており、このオイルポンプの駆動により、オイル溜り部6bに貯留されているオイルが、オイルストレーナ11を介して吸い上げられる。
【0021】
オイルポンプにより吸い上げられて加圧されたオイルは、図示しない変速制御装置の作動油圧として利用されると共に、各ギヤトレイン10a,10b等の要潤滑部に供給されて、これらを潤滑及び冷却する。そして、変速制御や潤滑に使用されたオイルは、前室6aと後室7aとの底部に形成されたオイル溜り部6b,7bに戻されて循環される。この場合、
図2に示すように、両オイル溜り部6b,7bがオイル流通用孔部8aを介して連通されているため、平坦路での一時停車、或いは巡航走行時の両オイル溜り部6b,7bに貯留されているオイルの油面はほぼ一定の状態が維持される。尚、上述したように、本実施形態による自動変速機1は後部が下方へ傾斜されて搭載されているため、オイルの油面に対して、駆動軸5が前方から後方下方へ傾斜されている。
【0022】
又、仕切壁8の上部にブリーザ装置12が設けられている。このブリーザ装置12は、前後方向において駆動軸5とほぼ平行に配設されており、従って、自動変速機1が後部下方傾斜状態で搭載されている場合、後方下方へ傾斜された状態のレイアウトとなる。
【0023】
図3に示すように、このブリーザ装置12は、仕切壁8を挟んで前室6a側と後室7a側とにブリーザ室13,14が各々形成されている。このブリーザ室13,14は、前室6aと後室7aとから流入するブリーザガスに含まれているオイルミストを分離するものであり、
図4に示すように、後室側ブリーザ室14は変速機ケース3の内壁に沿って駆動軸5に直交する方向へ円弧状に形成されている。又、この後室側ブリーザ室14の一側にブリーザ流入口14aが開口されている。更に、この後室側ブリーザ室14の底部の最も低い位置に、後室7a側に連通するオイルドレーン通路14bが穿設されており、このオイルドレーン通路14bにオリフィス15が設けられている。
【0024】
一方、前室側ブリーザ室13は、上述した後室側ブリーザ室14とほぼ対称の構成であり、上部一側にブリーザ流入口13aが開口され、底部の最も低い位置に、前室6a側に連通するオイルドレーン通路13bが穿設され、このオイルドレーン通路13bにオリフィス15が設けられている。
【0025】
又、
図3に示すように、両ブリーザ室13,14の上部に開口されているブリーザ流入口13a,14aの上流側にラビリンス16,17が連通されている。このラビリンス16,17は、前室6a、後室7aに配設されているギヤトレイン10a,10b、及び、変速機ケース3の内壁から延出されている各種支持部3a等との間の隙間によって形成されている。但し、この各ラビリンス16,17は、変速機ケース内に別途形成されていても良い。
【0026】
又、両ブリーザ室13,14に挟まれた仕切壁8であって変速機ケース3の内周面側のブリーザ流入口13a,14aよりも上方に、両ブリーザ室13,14を連通するブリーザ連通路18が形成され、このブリーザ連通路18の軸方向中央にブリーザ通路19の一端が連通され、他端が変速機ケース3の外周に露呈されてブリーザホース20の一端に接続されている。このブリーザ連通路18は駆動軸5とほぼ平行に配設されている。従って、自動変速機1が後部下方に傾斜されている場合、ブリーザ連通路18は後方にやや傾斜されている。上述したブリーザホース20の他端は、例えばエアクリーナ側に連通されている。
【0027】
このブリーザ連通路18の両ブリーザ室13,14に近接する位置の内周にストッパリング21a,21bが装着されている。更に、このブリーザ連通路18のストッパリング21a,21b間に、流路を切換える切換バルブとしてのボールバルブ22が挿通されている。
図3に示すように、ブリーザ連通路18は、例えば金属パイプを仕切壁8に圧入して形成する。この金属バイブの内部にストッパリング21a,21bを装着すると共に、長手方向の中央に、ブリーザ通路19に連通する複数の孔18aを穿設する。尚、この場合、仕切壁8にブリーザ連通路18を直接形成するようにしても良い。
【0028】
ストッパリング21a,21bはOリングであり、又、ボールバルブ22は、金属球等、ある程度の質量を有していると共にブリーザ連通路18内のストッパリング21a,21bに移動自在に挿通されている。尚、後述するが、このボールバルブ22は、オイルに偏りが生じて油面が上昇する側のストッパリング21a或いは21bに当接して、ブリーザ室13或いは14とブリーザ通路19とを遮断する。
【0029】
次に、このような構成による本実施形態の作用について説明する。エンジンの回転力が自動変速機1に伝達されると、トルクコンバータケース2内のトルクコンバータを介して、変速機ケース3の前ケース6と後ケース7とに設けられている前室6a、後室7aに挿通されている駆動軸5を介してギヤトレイン10a,10bが回転すると共に、オイルポンプが駆動する。
【0030】
オイルポンプが駆動すると、前室6aのオイル溜り部6bに貯留されているオイルが、オイルストレーナ11を介して吸い上げられ、加圧されて図示しない変速制御装置の作動油圧として利用されると共に、各ギヤトレイン10a,10b等の要潤滑部に供給されて、これらを潤滑及び冷却する。そして、変速制御や潤滑に使用されたオイルは、前室6aと後室7aとの底部に形成されたオイル溜り部6b,7bに戻されて循環される。
【0031】
又、前室6a、及び後室7a内には、ギヤトレイン10a,10b等の回転により攪拌されたオイルミストが浮遊・停滞している。前室6a、後室7aの温度が上昇して内圧が高くなると、両室6a,7aに滞留するガス(ブリーザガス)が、ラビリンス16,17を通過してブリーザ装置12側へ流れ、このブリーザ装置12に接続されているブリーザホース20を介して、エアクリーナ(図示せず)側に逃がされて内圧が調整される。その際、ブリーザガスに含まれている大部分のオイルミストは、ラビリンス16,17を通過する際に分離されて、両室6a,7aに滴下される。
【0032】
以下、ブリーザ装置12の動作を走行状況別に説明する。
【0033】
[平坦路での巡航走行]
平坦路での巡航走行では、ブリーザ装置12のブリーザ連通路18が、後部を下方傾斜された状態となっているため、
図5に示すように、ボールバルブ22は自重により後方に転動して、ストッパリング21bに軽く当接されて、後室側ブリーザ室14とブリーザ連通路18との間が遮断される。
【0034】
その結果、このブリーザ連通路18が前室側ブリーザ室13に解放され、前室6aのブリーザガスがブリーザ室13に流入され、ブリーザ連通路18、ブリーザ通路19、ブリーザホース20を通り、エアクリーナ(図示せず)に噴き出される。この場合、後室7aのブリーザガスは、仕切壁8にて駆動軸5を回動自在に支持する軸受9の隙間等を介して前室6a側に流れ込む。従って、前室6aと後室7aとの気圧はほぼ等しい状態に維持される。
【0035】
[加速走行、登坂路走行]
車両が加速走行を行うと、
図6に示すように、ボールバルブ22は後室側ブリーザ室14側へ移動し、ストッパリング21bに当接して、後室側ブリーザ室14とブリーザ連通路18との間を遮断する。その結果、ブリーザ通路19と前室側ブリーザ室13とがブリーザ連通路18を介して連通される。
【0036】
一方、加速走行時、前室6aのオイル溜り部6bに貯留されているオイルは、仕切壁8に設けられているオイル流通用孔部8aを通り、後室7a側へ流れ込む。従って、前室6aのオイル量が減少して油面が低下し、後室7a側にオイルが偏って油面が上昇する。
【0037】
そのため、前室6aでは、ギヤトレイン10aの回転により攪拌されるオイルミスト量が減少する。従って、ブリーザガスと共にラビリンス16を経て前室側ブリーザ室13に流入するブリーザガスに含まれているオイルミストが大幅に抑制され、大部分のオイルミストがブリーザ室13で分離されて液滴されるため、ブリーザ通路19からエアクリーナ(図示せず)側へのオイルミストの噴き出しを防止することができる。
【0038】
尚、登坂路走行では、車体前部が上方傾斜するため、ボールバルブ22、及び変速機ケース3内のオイルは上述した加速走行と同様の動作をするので、加速走行と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
[減速走行、降坂路走行]
車両が減速走行を行うと、
図7に示すように、ボールバルブ22は前室側ブリーザ室13側へ移動し、ストッパリング21aに押し当てられて、前室側ブリーザ室13とブリーザ連通路18との間が遮断される。その結果、ブリーザ通路19と後室側ブリーザ室14とがブリーザ連通路18を介して連通される。
【0040】
一方、減速走行時、後室7aのオイル溜り部7bに貯留されているオイルは、仕切壁8に設けられているオイル流通用孔部8aを通り、前室6a側へ流れ込み、後室7aの油面が低下し、前室6aにオイルが偏って油面が上昇する。そのため、後室7aでは、ギヤトレイン10aの回転により攪拌されるオイルミストが減少する。
【0041】
その結果、ブリーザガスと共にラビリンス17を経て後室側ブリーザ室14に流入するブリーザガスに含まれているオイルミストが減少する。従って、ブリーザガスと共にラビリンス17を経て後室側ブリーザ室14に流入するブリーザガスに含まれているオイルミストが大幅に抑制され、大部分のオイルミストがブリーザ室14で分離されて液滴されるため、ブリーザ通路19からエアクリーナ(図示せず)側へのオイルミストの噴き出しを防止することができる。
【0042】
尚、降坂路走行では、車体前部が下方傾斜するため、ボールバルブ22、及び変速機ケース3内のオイルは上述した減速走行と同様に動作するので、減速走行と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば前室側ブリーザ室13を前室6aの前部に配設し、後室側ブリーザ室14を後室7aの後部に配設させて、オイルミストの流入をより抑制させるようにしても良い。又、ブリーザ連通路18は前部が下方に傾斜されていても良い。ブリーザ連通路18の前部を下方傾斜させることで、平地での巡航走行では前室側ブリーザ室13が常時遮断され、後室7aに滞留するブリーザガスが変速機ケース3外に逃がされる。
【0044】
又、適用する車両はエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車両であっても良く、この場合、後室7aにはギヤトレイン10bに代えてモータジェネレータが配列される。更に、自答変速機1は横置き型であっても良い。又、変速機は自動変速機に限らず手動変速機であっても良い。