(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各床梁は、ウェブと、そのウェブを挟んで上下に対向する一対のフランジとを有する形鋼よりなり、前記ウェブ及び前記各フランジにより形成された溝部をそれら各床梁の間となる梁内側に向けて開放させて配設されており、
前記各床梁取付部はそれぞれ、前記取付対象である前記床梁に対して前記溝部に収容された状態で取り付けられるものであり、
前記押圧面部は、前記床梁において前記溝部上方の前記フランジを下方から押圧するものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の建物のジャッキアップ用取付部材。
前記押圧面部の正面視において前記各床梁取付部の重心位置と、前記押し上げ力付与部の重心位置とがそれぞれ一直線上に並ぶように形成されていることを特徴とする請求項9に記載の建物のジャッキアップ用取付部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したユニット式建物をジャッキ装置を用いてジャッキアップする際には、例えば基礎と床梁との間にジャッキ装置を設置し、床梁をジャッキ装置によりジャッキアップすることが考えられる。しかしながら、上記の建物では基礎と床梁との間に通気可能な程度の大きさの隙間しか形成されていないことが多く、その場合ジャッキ装置を基礎と床梁との間に設置することは困難であると考えられる。
【0006】
また、基礎の上面側をはつる等して基礎内に上方に開口された凹状スペースを形成し、その凹状スペースにジャッキ装置を設置して床梁をジャッキアップすることも考えられるが、その場合作業が著しく大がかりなものとなってしまい現実的でない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、建物をジャッキ装置によりジャッキアップする作業を好適に行うことができる建物のジャッキアップ用取付部材を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、第1の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、基礎上に設けられた建物をジャッキ装置によりジャッキアップする際に当該建物に対して取り付けられて用いられる建物のジャッキアップ用取付部材であって、前記基礎上に設置された同一の柱から互いに直交する方向に延びる2つの床梁にそれぞれ取り付けられ、その取付状態において取付対象である前記床梁を上方に向けて押圧する押圧面部を有する一対の床梁取付部と、前記各床梁取付部の前記取付状態において前記各床梁の角部に位置する前記柱に対して角部内側に配置され、前記押圧面部による前記床梁に対する前記押圧力を生じせるべく前記ジャッキ装置による押し上げ力が付与される押し上げ力付与部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明におけるジャッキアップ用取付部材によれば、建物をジャッキ装置によりジャッキアップする際、各床梁取付部が建物において同一の柱から直交して延びる2つの床梁にそれぞれ取り付けられ、その取付状態において押し上げ力付与部にジャッキ装置により押し上げ力が付与される。これにより、各床梁取付部の押圧面部に床梁を上方に押圧する押圧力が発生し、この押圧力により床梁が上方に持ち上げられ、ひいては建物が上方に持ち上げられる(ジャッキアップされる)。
【0010】
ここで、各床梁取付部の床梁に対する取付状態では、押し上げ力付与部が各床梁の角部に位置する柱に対して角部内側に配置されるため、当該角部内側でジャッキ装置による床梁のジャッキアップを行うことができる。この場合、床梁を下方から直接ジャッキ装置によりジャッキアップする場合とは異なり、ジャッキ装置を基礎と床梁との間に配設する必要がない。そのため、基礎をはつる等して基礎内にジャッキ装置を配設するスペースを形成するといった面倒な作業を行う必要もない。よって、建物をジャッキ装置によりジャッキアップする作業を好適に行うことができる。
【0011】
第2の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1の発明において、前記2つの床梁取付部は互いに直交する方向に延びるように形成され、それぞれ前記取付対象である前記床梁に沿って取り付けられるものであり、前記押圧面部は、前記取付対象の床梁を当該床梁に沿って面接触させた状態で押圧するものであることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、床梁取付部の押圧面部により床梁を上方に押圧する際、押圧面部を床梁に沿って面接触させた状態で押圧することができるため、長尺状の床梁を安定した状態でジャッキアップすることができる。また、この場合、床梁に対して局所的に過大な力(押圧力等)が加わるのを抑制することができるため、床梁の変形や傷付きといった不都合が生じるのを抑制することもできる。
【0013】
第3の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1又は第2の発明において、前記各床梁取付部はそれぞれ前記取付対象の前記床梁において前記柱との連結部から当該床梁に沿って延びるように取り付けられるものであり、前記押し上げ力付与部は、前記各床梁取付部の間の隅角部に配置され、それら各床梁取付部を互いに連結していることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、各床梁取付部がそれぞれ取付対象の床梁に対して柱との連結部から当該床梁に沿って延びるように取り付けられ、かかる各床梁取付部の取付状態において押し上げ力付与部がそれら各床梁取付部の間の隅角部、換言すると柱周辺に配置される。この場合、押し上げ力付与部においてジャッキ装置により押し上げ力が付与されるポイント(ジャッキアップポイント)を各床梁取付部のいずれに対しても近くに設定することができるため、ジャッキ装置により押し上げ力付与部に付与された押し上げ力を各床梁取付部に好適に伝達させることができる。
【0015】
第4の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記各床梁は、ウェブと、そのウェブを挟んで上下に対向する一対のフランジとを有する形鋼よりなり、前記ウェブ及び前記各フランジにより形成された溝部をそれら各床梁の間となる梁内側に向けて開放させて配設されており、前記各床梁取付部はそれぞれ、前記取付対象である前記床梁に対して前記溝部に収容された状態で取り付けられるものであり、前記押圧面部は、前記床梁において前記溝部上方の前記フランジを下方から押圧するものであることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、各床梁取付部がそれぞれ形鋼よりなる床梁の溝部に収容された状態で床梁に取り付けられる。そして、かかる取付状態において、押し上げ力付与部にジャッキ装置により押し上げ力が付与されると、床梁取付部の押圧面部により床梁の上側フランジが押圧され、その押圧力により床梁が持ち上げられる。このように床梁取付部が床梁に取り付けられる構成では、床梁取付部を床梁にボルト等の締結具を用いないで取り付けることが可能となるため、床梁取付部の床梁への取付作業を大いに簡単なものとすることができる。また、締結具が不要となることから、床梁に締結具を挿入する挿入孔等を設ける必要がない。つまり、床梁に欠損部を生じさせないようにすることができるため、ジャッキアップ対象の床梁の強度が低下してしまう不都合を防止することができる。
【0017】
第5の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記各床梁取付部はそれぞれ前記取付対象の前記床梁に取り付けられた状態において、前記柱の側面部に当接する柱当接部を有していることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、各床梁取付部がそれぞれ取付対象の床梁に対して柱当接部を柱の側面部に当接させた状態で取り付けられるため、ジャッキアップ用取付部材を安定した状態で床梁に取り付けることができる。また、床梁取付部を床梁の溝部に収容した状態で床梁に取り付ける第4の発明において、床梁取付部の取り付けをボルト等の締結具を用いないで行う場合には、柱当接部を柱の側面部に当接させることで各床梁取付部が床梁に沿って位置ずれするのを抑制することが可能となる。そのため、床梁のジャッキアップ中に床梁取付部が床梁に対して位置ずれして取付状態が不安定になる等の不都合が生じるのを抑制することができる。
【0019】
第6の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記押圧面部の正面視における重心位置が前記押し上げ力付与部に位置するように形成されていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、ジャッキアップ用取付部材の重心位置に対してジャッキ装置による押し上げ力を付与することができる。例えば、上記第4の発明において、床梁取付部の取り付けをボルト等の締結具を用いないで行う場合、床梁取付部を床梁の溝部において下側フランジ上に載置した状態で、押圧面部と上側フランジとの間に隙間が発生することがあると考えられる。このような場合において、ジャッキ装置により押し上げ力付与部に押し上げ力を付与して床梁をジャッキアップする際、まずジャッキアップ用取付部材を単体状態で床梁取付部の押圧面部が床梁の上側フランジに当接する位置まで上昇させることとなる。この際、ジャッキアップ用取付部材の重心位置に押し上げ力を付与する構成では、当該取付部材をバランスよく上昇させることができるため、上昇途中に当該取付部材が床梁の溝部から脱落してしまうといった不都合を生じにくくすることができる。
【0021】
第7の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第6の発明において、前記押圧面部の正面視において前記各床梁取付部の重心位置と、前記押し上げ力付与部の重心位置とがそれぞれ一直線上に並ぶように形成されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、押圧面部の正面視において各床梁取付部の重心位置と押し上げ力付与部の重心位置とが一直線上に並んでおり、第6の発明の効果を具体的に得ることが可能となる。
【0023】
第8の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第1乃至第7のいずれかの発明において、前記柱に前記各床梁を溶接する際に用いられる裏当て金により構成され、前記各床梁取付部がそれぞれ前記柱及び前記取付対象の前記床梁にそれぞれ溶接固定されていることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、ジャッキアップ用取付部材が裏当て金により構成されている。すなわち、床梁と柱とを溶接する際にそれら両者を位置合わせするために用いられる裏当て金をジャッキアップ用取付部材として兼用している。この場合、本来施工時にしか用いられない裏当て金の有効利用を図ることができる。また、裏当て金(すなわちジャッキアップ用取付部材)は予め製造工場等で柱及び床梁に溶接固定されているため、建物をジャッキアップする作業を行う際、ジャッキアップ用取付部材を床梁に取り付ける取付作業を行わなくて済む。これにより、建物のジャッキアップ作業を行うにあたり作業工数削減を図ることができる。
【0025】
第9の発明の建物のジャッキアップ用取付部材は、第8の発明において、前記各床梁取付部は、前記柱の側面部に当接された状態で溶接固定される柱固定板部を有することを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、柱固定板部が柱の側面部に当接された状態で溶接固定されているため、裏当て金(すなわちジャッキアップ用取付部材)の固定強度を高めることができる。この場合、裏当て金をジャッキアップ用取付部材として兼用する上で好ましい構成といえる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、複数の建物ユニットにより構築されるユニット式の建物をジャッキ装置によりジャッキアップする際に建物ユニットに取り付けられて用いられるジャッキアップ用取付部材として本発明を具体化している。そこでまず、ユニット式建物について
図4及び
図5に基づいて説明する。なお、
図4は建物の概要を示す斜視図であり、
図5は建物ユニットの構成を示す斜視図である。
【0029】
図4に示すように、住宅等の建物10は、基礎11の上に設けられた建物本体12と、建物本体12の上に設けられた屋根13とを備えている。建物10は二階建てとされ、一階部分14と二階部分15とを有している。建物本体12は、複数の建物ユニット20が互いに連結されることにより構成されている。
【0030】
建物ユニット20は、
図5に示すように、その四隅に配設される4本の柱21と、各柱21の上端部及び下端部をそれぞれ連結する各4本の天井大梁22及び床大梁23とを備えている。そして、それら柱21、天井大梁22及び床大梁23により直方体状の骨格(フレーム)が形成されている。柱21は四角筒状の角形鋼よりなり、天井大梁22及び床大梁23は断面コ字状の溝形鋼よりなる。
【0031】
床大梁23(天井大梁22も同様)は、上下方向に延びるウェブ23aと、そのウェブ23aを挟んで上下に対向する一対のフランジ23b,23cとを有している。各フランジ23b,23cはそれぞれウェブ23aの上端部及び下端部からそれぞれ側方に向けて同じ側に延びている。床大梁23には、ウェブ23aと各フランジ23b,23cとにより囲まれてなる溝部24が形成されている。各床大梁23の溝部24はそれぞれ建物ユニット20の内側(ユニット内側)に向けて側方に開放されている。この場合、対向する床大梁23同士は互いの溝部24を向き合わせた状態で配設されている。
【0032】
隣り合う床大梁23同士は互いに直角をなして配置されている。これら隣り合う床大梁23は、その長手方向の端部がそれら両大梁23の間に設けられた柱21の側面部21aに当接された状態で固定されている。具体的には、各床大梁23の端部は当該柱21において隣り合う(換言すると直交する)2つの側面部21aにそれぞれ固定されている。この場合、隣り合う2つの床大梁23が同一の柱21から互いに直交する2方向にそれぞれ延びている。
【0033】
建物ユニット20の長辺部の相対する天井大梁22の間には、所定間隔で複数の天井小梁25が架け渡されている。同じく建物ユニット20の長辺部の相対する床大梁23の間には、所定間隔で複数の床小梁26が架け渡されている。天井小梁25と床小梁26とはそれぞれ同間隔でかつ各々上下に対応する位置に設けられている。例えば、天井小梁25はリップ溝形鋼よりなり、床小梁26は角形鋼よりなる。天井小梁25によって天井面材27が支持され、床小梁26によって床面材28が支持されている。
【0034】
次に、上記構成の建物10をジャッキ装置によりジャッキアップする際に建物ユニット20に取り付けられるジャッキアップ用取付部材について説明する。
図1はジャッキアップ用取付部材の構成を示す斜視図であり、
図2はジャッキアップ用取付部材を建物ユニット20に取り付けた状態を示す斜視図である。
【0035】
図1及び
図2に示すように、ジャッキアップ用取付部材30は、建物ユニット20(詳しくは一階部分14の建物ユニット20)において同一の柱21から直交して延びる2つの床大梁23に跨がって取り付けられるものとなっており、それら2つの床大梁23にそれぞれ取り付けられる一対の床梁取付部31と、ジャッキ装置による押し上げ力が付与される部分である押し上げ力付与部32とを備える。各床梁取付部31A,31Bは互いに直角をなすように略L字状に配置され、それら各床梁取付部31A,31Bの間に押し上げ力付与部32が配設されている。そして、押し上げ力付与部32を介して各床梁取付部31A,31Bが互いに連結されてジャッキアップ用取付部材30が構成されている。なお以下の説明では便宜上、ジャッキアップ用取付部材30(各床梁取付部31)の取付対象となる上記2つの床大梁23の符号にそれぞれA及びBを付す。
【0036】
各床梁取付部31はいずれもH形鋼により長尺状に形成されており、ウェブ31aと、そのウェブ31aを挟んで対向する一対のフランジ31b,31cとを有している。これら各床梁取付部31はいずれも同じ構成を有しており、以下の説明では便宜上各床梁取付部31の符号にそれぞれA及びBを付す。
【0037】
各フランジ31b,31cの外側面(ウェブ31a側とは反対側の面)は互いに平行をなす一対の平面部33a,33bとなっている。各フランジ31b,31cの平面部33a,33b同士の離間距離(換言すると床梁取付部31の上下高さ)は床大梁23の溝部24の上下高さと同じか又はそれよりも若干小さいものとなっている。
【0038】
各床梁取付部31A,31Bはそれぞれ、互いのフランジ31bの平面部33a同士が同一平面上に位置するように、かつ、互いのフランジ31cの平面部33b同士が同一平面上に位置するように配置されている。また、各床梁取付部31A,31Bは、ジャッキアップ用取付部材30において柱21が配置される柱配置スペースSから互いに直交する方向にそれぞれ延びており、これにより略L字状をなしている。詳しくは、床梁取付部31Aは、その長手方向において一端部が床梁取付部31Bの端部と位置合わせされた状態で配置され、床梁取付部31Bは、その長手方向において一端部が床梁取付部31Aの端部と位置合わせされた状態で配置されている。この場合、床梁取付部31Aにおいて長手方向における床梁取付部31B側の端部(端面)(換言すると柱配置スペースS側の端部)と、床梁取付部31Bにおいて長手方向における床梁取付部31A側の端部(端面)(換言すると柱配置スペースS側の端部)とが互いにL字状をなして連続している。
【0039】
押し上げ力付与部32は、全体として四角柱状に形成されており、四角筒状の本体部35と、本体部35の軸線方向両側に設けられ互いに対向する一対の平板部36とを備える。本体部35は角形鋼管よりなり、平板部36は本体部35の大きさに合わせて形成された矩形形状の鋼板よりなる。本体部35と各平板部36とは互いに溶接されて一体化されており、これにより押し上げ力付与部32が構成されている。
【0040】
また、押し上げ力付与部32は、平板部36の正面視においてその形状が正方形状をなしている。この場合、押し上げ力付与部32の(正方形状の)一辺の長さは床梁取付部31の長手方向の長さよりも短くなっており、より詳しくは床梁取付部31の長手方向の長さの半分又はそれよりも短くなっている。
【0041】
各平板部36の外側面は互いに平行をなす一対の平面部38a,38bとなっている。各平面部38a,38b同士の離間距離は、床梁取付部31A,31Bの平面部33a,33b同士の離間距離と同じとなっている。
【0042】
押し上げ力付与部32は、各床梁取付部31A,31Bの間の隅角部に配設されており、その角部を各床梁取付部31A,31Bの隅角部に位置合わせした状態で配置されている。押し上げ力付与部32は、かかる配設状態において、平面部38aが床梁取付部31A,31Bのフランジ31bの平面部33aと同一平面上に位置し、かつ、平面部38bが床梁取付部31A,31Bのフランジ31cの平面部33bと同一平面上に位置している。この場合、押し上げ力付与部32は、隣り合う各側面部39(側面部39は各平面部38a,38bに直交する面)がそれぞれ床梁取付部31A,31Bの各フランジ31b,31cの端部(換言すると床梁取付部31A,31Bの側面部)に当接され、その当接状態において当該端部に溶接固定されている。これにより、各床梁取付部31A,31Bと押し上げ力付与部32とが一体化され、ジャッキアップ用取付部材30が構成されている。
【0043】
上記のように構成されたジャッキアップ用取付部材30において、床梁取付部31Aはその長手方向において床梁取付部31Bとは反対側に向かって押し上げ力付与部32よりも延出している。また、床梁取付部31Bはその長手方向において床梁取付部31Aとは反対側に向かって押し上げ力付与部32よりも延出している。これにより、ジャッキアップ用取付部材30は、平面部33a,33b(38a,38b)の正面視において略W字状をなしている。
【0044】
続いて、ジャッキアップ用取付部材30の重心位置に関して説明する。
図3は、ジャッキアップ用取付部材30の重心位置を説明するための説明図である。なお、
図3は、ジャッキアップ用取付部材30を床梁取付部31の平面部33aを正面視した状態で示している。
【0045】
図3に示すように、ジャッキアップ用取付部材30は、平面部33aの正面視において、その重心位置Gが押し上げ力付与部32に位置している。具体的には、平面部33aの正面視において各床梁取付部31A,31Bの重心位置G1,G2と、押し上げ力付与部32の重心位置G3とは同一直線状に位置しており、より詳しくは各床梁取付部31A,31Bの重心位置G1,G2の中心(中央)に押し上げ力付与部32の重心位置G3が存在している。この場合、押し上げ力付与部32の重心位置G3がジャッキアップ用取付部材30の重心位置Gと一致しており、この重心位置Gが押し上げ力付与部32における略中央に位置している。
【0046】
なお、本ジャッキアップ用取付部材30では、平面部33aの正面視において各床梁取付部31A,31Bの重心位置G1,G2が当該床梁取付部31A,31Bの中心部に位置しており、押し上げ力付与部32の重心位置G3が当該押し上げ力付与部32の中心部に位置している。
【0047】
次に、上記ジャッキアップ用取付部材30を建物ユニット20の床大梁23A,23Bに取り付ける場合の取付構成について
図2を用いて説明する。
【0048】
上述したように、ジャッキアップ用取付部材30は、各床梁取付部31A,31Bがそれぞれ取付対象の床大梁23A,23Bに取り付けられることで建物ユニット20に取り付けられるものとなっている。なおここでは、床梁取付部31Aが床大梁23Aに、床梁取付部31Bが床大梁23Bに取り付けられるものとなっている。
【0049】
図2に示すように、各床梁取付部31A,31Bはそれぞれ床大梁23A,23Bの溝部24に配設された状態で当該床大梁23A,23Bに対して取り付けられている。より具体的には、各床梁取付部31A,31Bは床大梁23A,23Bに対してボルト等の締結具を用いないで取り付けられている。床梁取付部31A,31Bは、溝部24においてフランジ31c(換言するとその平面部33b)を床大梁23A,23Bの下フランジ23c上に載置した状態で、かつ、フランジ31b(換言するとその平面部33a)を床大梁23A,23Bの上フランジ23bに対向(近接又は当接)させた状態で配設されている。また、床梁取付部31A,31Bは、溝部24において床大梁23A,23Bのウェブ23aに当接又は近接した状態で配置されている。
【0050】
かかる各床梁取付部31A,31Bの取付状態では、床梁取付部31Aにおいて長手方向における床梁取付部31B側の端部(床梁取付部31Aの柱当接部に相当)が柱21の側面部21aに当接され、床梁取付部31Bにおいて長手方向における床梁取付部31A側の端部(床梁取付部31Bの柱当接部に相当)が柱21の側面部21aに当接されている。この場合、床梁取付部31Aの上記柱当接部と、床梁取付部31Bの上記柱当接部とが柱21において隣り合う側面部21aに沿ってL字状に配置され、各床梁取付部31A,31Bの柱当接部同士の間の隅角部が柱21の角部に位置合わせされている。
【0051】
これら各床梁取付部31A,31Bが床大梁23A,23Bに取り付けられた状態では、押し上げ力付与部32が柱21に対して建物ユニット20の内側(ユニット内側)に配置されている。すなわち、建物ユニット20を平面視した場合に、押し上げ力付与部32は各床大梁23A,23Bの間に配置されている。押し上げ力付与部32は、上述したように下方からジャッキ装置により押し上げ力が付与される部位となっており、その下面(底面)となる平面部38bがジャッキ装置による押し上げ力を受ける押し上げ力受面部となっている。
【0052】
押し上げ力付与部32に対してジャッキ装置により押し上げ力が付与されると、それに伴い各床梁取付部31A、31B(のフランジ31b)には床大梁23A,23Bの上フランジ23bを上方に向けて押圧する押圧力が発生する(
図6参照)。そして、この押圧力によって床大梁23A,23Bが上方に持ち上げられ、その結果建物ユニット20ひいては建物10が上方に持ち上げられるようになっている。なおこの場合、フランジ31bの平面部33a(上面部)が押圧面部に相当する。
【0053】
また、本ジャッキアップ用取付部材30は、床梁取付部31A,31Bの各フランジ31b,31c(平面部33a,33b)が対向する対向方向において、その中央位置を基準として対称形状をなしているため、床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに取り付けるにあたっては、各平面部33a,33bのうちいずれを上向きとしても取り付けることが可能となっている。すなわち、
図2に示す構成では、平面部33aが上、平面部33bが下となる向きで床梁取付部31A,31Bが床大梁23A,23Bに取り付けられていたが、これを逆にして、平面部33bが上、平面部33aが下となる向きで床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに取り付けてもよい。この場合、平面部33bが押圧面部となる。また、押し上げ力付与部32においては平面部38aが押し上げ力受面部となる。このように、本ジャッキアップ用取付部材30は、各平面部33a,33bを上下いずれの側に向けても床大梁23A,23への取り付けが可能となっており、利便性の向上が図られている。
【0054】
次に、不同沈下等によって建物10が傾斜した場合に、その建物10をジャッキ装置を用いてジャッキアップすることにより水平状態に戻す際における作業手順について説明する。ここでは、ジャッキアップ作業に際して、上述したジャッキアップ用取付部材30を用いる。
図6は、傾斜した建物10を水平状態に戻す際の作業手順について説明する説明図である。
【0055】
図6(a)に示すように、建物10は、基礎11とともに地盤面Xに対して傾斜した状態にある。ここでは、その傾斜状態にある建物10において沈下(下降)している側の出隅部(以下、下降側出隅部という)でジャッキ装置によるジャッキアップを行うことを想定している。
【0056】
ジャッキアップ作業は床面材28に設けられた点検口等を通じて床下空間に入って行う。ジャッキアップ作業に際してはまず、
図6(b)に示すように、ジャッキアップ用取付部材30を建物10において下降側出隅部を構成する建物ユニット20に取り付ける取付作業を行う。この場合、当該建物ユニット20において当該出隅部を挟んだ両側の各床大梁23A,23Bに跨がってジャッキアップ用取付部材30を取り付ける。すなわち、ジャッキアップ用取付部材30の各床梁取付部31A,31Bをそれぞれ各床大梁23A,23Bの溝部24に配設することで各床大梁23A,23Bに取り付ける。また、この取り付けに際して、各床梁取付部31A,31Bの長手方向の端部(柱21側の端部)をそれぞれ柱21の側面部21aに当接させる。これにより、ジャッキアップ用取付部材30の押し上げ力付与部32が柱21に対して建物ユニット20(建物10)の出隅内側に配置される。
【0057】
次に、
図6(c)に示すように、ジャッキ装置45を床下空間(基礎11により囲まれた内側空間)においてジャッキアップ用取付部材30の押し上げ力付与部32の下方位置に配置して、ジャッキ装置45によるジャッキアップ作業を行う。ジャッキ装置45は、油圧式のジャッキ装置として構成され、地盤面X上に設置される本体部46と、油圧により本体部46に対して上昇可能なラム47(上昇部)とを有する。ラム47の上端部には、突き上げ部47aが設けられており、この突き上げ部47aにより押し上げ力付与部32を下方から突き上げるものとなっている。
【0058】
ジャッキ装置45を押し上げ力付与部32の下方に設置後、ジャッキ装置45によるジャッキアップ作業を行う。この作業では、ジャッキ装置45のラム47を上昇させることにより、ラム47(ひいてはジャッキ装置45)により押し上げ力付与部32に対し押し上げ力を付与する(
図6(c)の二点鎖線参照)。これにより、各床梁取付部31A,31Bのフランジ31bには各床大梁23A,23Bの上フランジ23bを上側に向けて押圧する押圧力が発生する。そして、この押圧力により各床大梁23A,23Bが基礎11に対して上方に持ち上げられ、ひいては建物ユニット20(さらには建物10の下降側出隅部)が基礎11に対して上方に持ち上げられる。そして、建物10は水平状態へと徐々に移行し、水平状態となったらジャッキ装置45によるラム47の上昇、すなわちジャッキアップ動作を停止させる。具体的には、ジャッキ装置45の油圧を保持したままラム47の上昇を停止させる。
【0059】
次に、
図6(d)に示すように、ジャッキ装置45により建物10を水平状態に保持したまま、基礎11(詳しくはその天端)と建物ユニット20との間の隙間にスペーサ49を配設する。例えば上述した建物ユニット20のジャッキアップにより生じた同ユニット20の柱21の下端部と基礎11との間の隙間にスペーサ49を配設する。なお、スペーサ49は例えば金属製の平板又はブロック材よりなり、各種厚みのものが予め用意されているものとする。なお、スペーサ49は、必ずしも柱21の下端部と基礎11との間に配設する必要はなく、これに代えて又は加えて、床大梁23A,23Bと基礎11との間に配設してもよい。
【0060】
次に、ジャッキ装置45による油圧を解除してラム47を下降させる。この際、基礎11と建物ユニット20との間にはスペーサ49が配設されていることから、建物10の水平状態は保持される。その後、ジャッキアップ用取付部材30を各床大梁23A,23Bから取り外す。これにより、一連の作業が終了する。
【0061】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0062】
ジャッキアップ用取付部材30を、互いに直交する2つの床大梁23A,23Bにそれぞれ取り付けられる一対の床梁取付部31A,31Bと、ジャッキ装置45による押し上げ力が付与される押し上げ力付与部32とを備えて構成した。この場合、ジャッキ装置45による押し上げ力が押し上げ力付与部32に付与されると、床梁取付部31A,31Bの平面部33aに床大梁23A,23Bを上方に押圧する押圧力が発生し、この押圧力により床大梁23A,23Bが上方に持ち上げられ、ひいては建物10が上方に持ち上げられる。
【0063】
また、押し上げ力付与部32は、各床梁取付部31A,31Bが床大梁23A,23Bに取り付けられた状態において、各床大梁23A,23Bの角部に位置する柱21に対して角部内側(建物ユニット20内側)に配置されるため、ジャッキ装置45による床大梁23A,23Bのジャッキアップを当該角部内側で行うことができる。この場合、ジャッキ装置45を基礎11と床大梁23A,23Bとの間に配設して床大梁23A,23Bを下方から直接ジャッキアップする場合とは異なり、基礎11をはつる等して基礎11内にジャッキ装置45を配設するスペースを形成するといった面倒な作業を行う必要がない。そのため、建物10をジャッキ装置45によりジャッキアップする作業を好適に行うことができる。
【0064】
また、この場合、1つのジャッキ装置45により2つの床大梁23A,23Bをジャッキアップすることができるため、1つの床大梁23をジャッキアップする場合と比べて、ジャッキアップ時に床大梁23A,23Bにかかる負荷を軽減させることができる。その結果床大梁23A,23Bの変形や傷付きといった不都合が生じるのを抑制することができる。
【0065】
各床梁取付部31A,31Bを互いに直交する方向に延びるように形成し、各床梁取付部31A,31Bをそれぞれ取付対象の床大梁23A,23Bに沿って取り付けるようにした。そして、床梁取付部31A,31Bの平面部33aにより床大梁23A,23Bを押圧する際、平面部33を床大梁23A,23Bに沿って面接触させた状態で押圧するようにした。この場合、長尺状の床大梁23A,23Bを安定した状態でジャッキアップすることができるとともに、長尺状の床大梁23A,23Bに対して局所的に過大な力(押圧力等)が加わるのを抑制することができるため、床大梁23A,23Bの変形や傷付きといった不都合が生じるのを抑制することもできる。
【0066】
各床梁取付部31A,31Bを取付対象の床大梁23A,23Bにおいて柱21との連結部から当該床大梁23A,23Bに沿って延びるように取り付け、それら各床梁取付部31A,31Bの間の隅角部に配置した押し上げ力付与部32により各床梁取付部31A,31Bを連結した。この場合、各床梁取付部31A,31Bがそれぞれ床大梁23A,23Bに取り付けられた状態において押し上げ力付与部32が柱21周辺に配置される。そのため、押し上げ力付与部32においてジャッキ装置45により押し上げ力が付与されるポイント(ジャッキアップポイント)を各床大梁23A,23B換言すると各床梁取付部31A,31Bのいずれに対しても近くに設定することができるため、押し上げ力付与部32に付与された押し上げ力を各床梁取付部31A,31Bに好適に伝達させることができる。
【0067】
各床梁取付部31A,31Bをそれぞれ溝形鋼からなる床大梁23A,23Bの溝部24に収容した状態で当該床大梁23A,23Bに取り付けた。この場合、かかる取付状態において、押し上げ力付与部32にジャッキ装置45により押し上げ力が付与されると、床梁取付部31A,31Bの平面部33aにより床大梁23A,23Bの上フランジ23bが押圧され、その押圧力により床大梁23A,23Bが持ち上げられる。このように床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに取り付ける構成では、床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bにボルト等の締結具を用いないで取り付けることが可能となる。そのため、床梁取付部31A,31Bの取付作業を大いに簡単なものとすることができる。また、締結具が不要となることから、床大梁23A,23Bに締結具を挿入する挿入孔等を設ける必要がない。つまり、床大梁23A,23Bに欠損部を生じさせないようにすることができるため、ジャッキアップ対象の床大梁23A,23Bの強度が低下してしまうことを防止することができる。
【0068】
各床梁取付部31A,31Bにそれぞれ、取付対象の床大梁23A,23Bに取り付けられた状態において柱21の側面部21aに当接される柱当接部(具体的には床梁取付部31A,31Bにおける長手方向の柱21側の端部)を設けた。そのため、ジャッキアップ用取付部材30を安定した状態で床大梁23A,23Bに取り付けることができる。また、ボルト等の締結具を用いないで各床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに取り付けるにあたって、各床梁取付部31A,31Bが床大梁23A,23Bに沿って位置ずれするのを抑制することができるため、床大梁23A,23Bのジャッキアップ中に床梁取付部31A,31Bが床大梁23A,23Bに対して位置ずれして取付状態が不安定になる等の不都合が生じるのを抑制することもできる。
【0069】
各床梁取付部31をそれぞれ床大梁23A,23Bに対して着脱可能に取り付けたため、ジャッキアップ用取付部材30を使い回し(再利用)することができる。これにより、ジャッキアップ用取付部材30の有効利用を図ることができる。
【0070】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0071】
(1)上記実施形態では、床梁取付部31A,31Bにおいて各平面部33a,33b同士の離間距離を床大梁23A,23Bの溝部24の上下高さと略同じとしたが、各平面部33a,33b同士の離間距離を溝部24の上下高さより小さくしてもよい。この場合、床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bの溝部24において下フランジ23c上に載置した状態では、床梁取付部31A,31Bの平面部33aと床大梁23A,23Bの上フランジ23bとの間に隙間が形成されることとなる。したがって、ジャッキ装置45により押し上げ力付与部32に押し上げ力を付与して床大梁23A,23Bをジャッキアップする際、まずジャッキアップ用取付部材30を単体状態で床梁取付部31A,31Bの平面部33aが床大梁23A,23Bの上フランジ23bに当接する位置まで上昇させることとなる。この場合、本ジャッキアップ用取付部材30では、上述したように重心位置Gが押し上げ力付与部32に位置しているため、重心位置Gに対して押し上げ力を付与することができる。そのため、ジャッキアップ用取付部材30をバランスよく上昇させることができ、上昇途中に同取付部材30が溝部24から脱落してしまうといった不都合を生じにくくすることができる。
【0072】
(2)上記実施形態では、床大梁23A,23Bを溝形鋼により構成したが、H形鋼やC形鋼(リップ溝形鋼)等溝部(詳しくはウェブと、ウェブを挟んで対向する一対のフランジとにより囲まれた溝部)を有する他の形鋼により構成してもよい。その場合でも、各床大梁23A,23Bが溝部を建物ユニット20内側に向けて側方に開放させた状態で設置されていれば、上記実施形態と同様、床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに対して溝部に配設した状態で取り付けることができる。
【0073】
(3)上記実施形態では,床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bの溝部24に配設した状態で取り付けたが、これを変更してもよい。例えば基礎11(その天端)と床大梁23A,23Bとの間に隙間が存在している場合には、その隙間を利用して床梁取付部31A,31Bを床大梁23A,23Bに対して下方から取り付けてもよい。この場合、床大梁23A,23B(詳しくは下フランジ23c)の下面に床梁取付部31A,31Bをボルトにより取り付けることが考えられる。具体的には、床梁取付部31A,31Bのフランジ31bに挿通孔を形成するとともに、床大梁23A,23Bの下フランジ23cに挿通孔を形成し、それら各挿通孔にボルトを挿通してナットと締結することが考えられる。この場合、ジャッキ装置45により押し上げ力付与部32に押し上げ力が付与されると、床梁取付部31A,31Bの平面部33aに床大梁23A,23Bの下フランジ23cを上方に押圧する押圧力が発生し、その押圧力により床大梁23ひいては建物ユニット20が上方に押し上げられる。
【0074】
(4)建物ユニット20において柱21に対して各床大梁23A,23Bを溶接する際には、床大梁23A,23Bを柱21に対して位置合わせするために裏当て金が用いられることがある。そこで、この裏当て金を用いてジャッキアップ用取付部材を構成するようにしてもよい。その具体例を
図7に示す。
図7(a)に示すように、裏当て金50(ジャッキアップ用取付部材に相当)は鋼板が折り曲げ形成されてなるものであり、平板状の水平板部51を有する。水平板部51はL字状をなしており、基部51aと、基部51aから互いに直交する方向に張り出す一対の張出部51bとを有する。裏当て金50は、さらに各張出部51bにおいて基部51aとは反対側の端部から下方に延びる一対の鉛直板部52を有する。この場合、張出部51bと鉛直板部52とにより床梁取付部が構成され、基部51aが押し上げ力付与部に相当する。
【0075】
図7(b)に示すように、裏当て金50は、水平板部51のL字内側を柱21の側面部21aに沿わせた状態で配置され、その配置状態において各張出部51bがそれぞれ柱21の側面部21aに当接された状態で溶接固定されている。裏当て金50の外側には、各床大梁23A,23Bが設けられている。床大梁23A,23Bは、その上フランジ23bを裏当て金50の張出部51b上に載置した状態で、かつ、ウェブ23aを鉛直板部52に外側から当接させた状態で設けられている。ここで、ユニット製造工場において床大梁23A,23Bを柱21に対して溶接する際には、このように床大梁23A,23Bを裏当て金50上に配置した状態で溶接を行う。そして、かかる状態で床大梁23A,23Bは、柱21に溶接固定されるとともに、裏当て金50の張出部51b及び鉛直板部52に溶接固定される。これにより、裏当て金50は柱21及び各床大梁23A,23Bに対してそれぞれ溶接固定されている。
【0076】
かかる裏当て金50の固定状態において、基部51aは柱21に対してユニット内側に配置されている。すなわち、建物ユニット20の平面視では、基部51aが各床大梁23A,23Bの間に配置されている。したがって、この場合にも、ジャッキ装置45により基部51aに対して押し上げ力を付与することができる。基部51aに対して押し上げ力が付与されると、各張出部51b(その上面が押圧面部となる)により床大梁23A,23Bの上フランジ23bが上側に向けて押圧される。これにより、床大梁23A,23Bが上方に持ち上げられ、その結果建物ユニット20ひいては建物10が上方に持ち上げられる。
【0077】
かかる構成によれば、柱21に対して床大梁23を溶接する際にそれら両者の位置合わせに用いられる裏当て金50をジャッキアップ用取付部材として兼用することができる。そのため、本来施工時にしか用いられない裏当て金50の有効利用を図ることができる。また、裏当て金50は予め製造工場において柱21及び床大梁23A,23Bに溶接固定されているため、建物10をジャッキアップする作業を行う際ジャッキアップ用取付部材を床大梁23A,23Bに取り付ける作業を行わなくて済む。これにより、建物10のジャッキアップ作業を行うにあたって作業工数の削減を図ることができる。
【0078】
(5)また、裏当て金を用いてジャッキアップ用取付部材を構成する場合、裏当て金を例えば
図8に示す構成としてもよい。
図8に示す裏当て金60は、上記(4)の構成(
図7の構成)における裏当て金50に対して、さらに水平板部51の各張出部51bにおけるL字内側の端部から下方に延びる一対の鉛直板部61を有している。これら各鉛直板部61は柱21の側面部21aに当接した状態で溶接固定される。この場合、裏当て金60の固定強度を高めることができるため、裏当て金60をジャッキアップ用取付部材として兼用する上で好ましい構成といえる。なお、鉛直板部61は柱固定板部に相当するとともに、床梁取付部の一部を構成している。
【0079】
(6)ジャッキアップ用取付部材30の構成は必ずしも上記実施形態のものに限定されない。例えば、
図9(a)に示すジャッキアップ用取付部材70は、平面部33a(又は33b)の正面視において押し上げ力付与部72が直角三角形状をなしている。この場合、押し上げ力付与部72において直角をなす2つの端辺がそれぞれ各床梁取付部71A,71Bの長手方向の長さと同じ長さとされており、それら各端辺部がそれぞれ各床梁取付部71A,71Bの長手方向全域に対して連結されている。この場合、ジャッキ装置45により押し上げ力付与部72に付与された押し上げ力を各床梁取付部71A,71Bの長手方向全域に対して好適に伝達することができる。
【0080】
また、
図9(b)に示すジャッキアップ用取付部材75は、各床梁取付部76A,76Bが上記実施形態の床梁取付部31A,31Bよりも短くなっており、各床大梁23A,23Bに対する取付状態において柱21の側面部21aから離間されて配置されている。押し上げ力付与部77は、柱21に対してユニット内側に離間した位置で各床梁取付部76A,76Bを斜めに繋いでいる。この場合でも、ジャッキ装置45により押し上げ力付与部77に押し上げ力を付与することで、各床梁取付部76A,76Bにより各床大梁23A,23Bを押圧し持ち上げることができる。
【0081】
(7)上記実施形態では、ジャッキアップ用取付部材30において各床梁取付部31A,31Bを同一構成としたが、異なる構成としてもよい。例えば、各床梁取付部31A,31Bの長手方向の長さを異ならせてもよい。具体的には、各床大梁23A,23Bのうち床大梁23Aが建物ユニット20の長辺側に、床大梁23Bが建物ユニット20の短辺側に取り付けられるものとした場合、床梁取付部31Aの長手方向の長さを床梁取付部31Bの長手方向の長さよりも長くすることが考えられる。
【0082】
また、押し上げ力付与部32の構成を上記実施形態のものに対して変更してもよい。例えば上記実施形態では本体部35を角形鋼管より構成したが、これを変更して、本体部35を離間対向する各平板部36の間に架け渡された複数の矩形平板状の鋼板により構成してもよい。例えば、平板部36の正面視にて、平板部36を各床梁取付部31A,31Bとともに囲むようにして2枚の鋼板を平板部36の端辺に沿ってL字状に設けることが考えられる。また、この場合、さらに上記2枚の鋼板の隅角部と各床梁取付部31A,31Bの隅角部とを繋ぐようにもう1枚鋼板を設け、剛性を高めてもよい。
【0083】
(8)上記実施形態では、ジャッキ装置45による建物10のジャッキアップを建物10における出隅部で行ったが、入隅部で行ってもよい。例えば、床大梁23がH形鋼よりなる場合には、入隅部を挟んで隣り合う2つの床大梁23の溝部24がいずれも屋外側に側方を向けて開放されるため、ジャッキアップ用取付部材30の各床梁取付部31A,31Bをそれぞれ入隅部屋外側から各床大梁23の溝部24に配設し各床大梁23に取り付けることができる。この場合、押し上げ力付与部32が入隅部屋外側に配置されるため、ジャッキ装置45による押し上げ力付与部32の押し上げを屋外で行うこととなる。
【0084】
なお、ジャッキ装置45によるジャッキアップを建物10において出隅部及び入隅部以外の場所で行ってもよい。例えば、建物10において出隅部を構成しない建物ユニット20に対してジャッキアップ用取付部材30を取り付けてジャッキアップを行ってもよい。
【0085】
(9)基礎11の天端を点検又は補修する際には、点検対象又は補修対象の基礎11上方に設置された建物ユニット20をジャッキ装置45により一時的にジャッキアップして点検又は補修を行うことが考えられる。そこでかかる場合に、ジャッキアップ用取付部材30を建物ユニット20の各床大梁23に取り付けて建物ユニット20のジャッキアップを行ってもよい。
【0086】
また、ユニット式建物10では、施工時に各建物ユニット20を基礎11上に設置した際、隣り合う建物ユニット20において床面材28同士の間に段差が生じる場合があると考えられる。そこでかかる場合に、それら各建物ユニット20のうち下側の建物ユニット20にジャッキアップ用取付部材30を取り付けて、同ユニット20をジャッキ装置45によりジャッキアップすることで床面材28同士の段差を解消するようにしてもよい。
【0087】
(10)上記実施形態では、二階建ての建物10への適用例を説明したが、一階建ての建物や、三階建ての建物に対して本発明を適用してもよい。
【0088】
(11)上記実施形態では、ユニット式建物への適用例を説明したが、鉄骨軸組工法により構築される建物や、在来木造工法により構築される建物等、他の構造の建物にも本発明を適用することができる。例えば、鉄骨軸組工法により構築される建物において、基礎11上に沿って配設された床梁に本発明のジャッキアップ用取付部材を取り付けてジャッキ装置45によるジャッキアップを行ってもよい。