(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937891
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/013 20060101AFI20160609BHJP
B23G 3/00 20060101ALI20160609BHJP
B23B 5/46 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B23Q15/013
B23G3/00 B
B23B5/46
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-121107(P2012-121107)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-244576(P2013-244576A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
(72)【発明者】
【氏名】上野 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 範佳
【審査官】
牧 初
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−166221(JP,A)
【文献】
特開2006−995(JP,A)
【文献】
特開2010−247246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00−15/28
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
B23B 5/46
B23G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のワークを装着する把持装置と、前記ワークに対してその径方向及び軸方向への移動が可能な工具と、前記ワークと前記工具を相対的に前記ワークの軸線周りに回転させながら前記工具を前記径方向へ切り込ませて前記軸方向へ移動させた後、前記工具を径方向に逃がすパスを繰り返すねじ切り加工サイクルを実行する加工制御手段とを備えた工作機械であって、
前記パスごとの前記ワークと前記工具の相対的な回転速度を演算する回転速度演算手段と、当該回転速度演算手段で演算された前記回転速度を用いて、ねじ切上げ部において1パス前の軸方向位置と現在の軸方向位置とで前記工具を径方向に逃がす切上げ角度が等しくなるように径方向送り速度を演算する径方向送り速度演算手段とを備え、前記加工制御手段は、前記ねじ切り加工サイクルにおいて、前記回転速度演算手段によって演算された回転速度で各前記パスごとに前記回転速度を変更すると共に、前記径方向送り速度演算手段によって演算された径方向送り速度で前記工具を径方向に逃がす制御を実行することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記径方向送り速度演算手段は、基準回転速度と現在の前記ワークと前記工具の相対的な回転速度との比と、予め設定した定数との積を用いて現在のパスのねじ切上げ時の径方向送り速度を演算することを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記径方向送り速度演算手段は、1パス前のねじ切上げ部における回転速度と現在のパスのねじ切上げ部における前記ワークと前記工具の相対的な回転速度との比と、1パス前のねじ切上げ部における径方向送り速度との積を用いて現在のパスのねじ切上げ時の径方向送り速度を演算することを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ切り加工が可能な旋盤等の工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いてねじ切り加工を行う場合に、びびり振動と呼ばれる激しい振動が発生する場合がある。そこで、ねじ切り加工におけるびびり振動の抑制を目的として、特許文献1には、ねじ切り加工サイクル中に主軸回転速度を変化させるための技術が開示されている。また、特許文献2には、加工サイクル中に切込を変更する場合に切削断面積を一定に制御するための技術、および主軸回転速度を変更する場合に切削除去体積を一定に制御するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−209558号公報
【特許文献2】特開2000−105606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術を用いてねじ切り加工において加工サイクル中に主軸回転速度を変更する場合、ねじの切上げ部の径方向送り速度があらかじめ設定されている場合においては、ねじ切上げ角度が主軸回転速度変更前と変更後とで異なり、切込が設定値よりも増加する可能性があった。これにより切削負荷が予期せず大きくなり、工具を欠損する危険があった。
また、特許文献2に記載の技術によると、加工サイクル中に切込や主軸回転速度を変更する場合に切削断面積又は切削動力が一定になるように切込、送り速度、主軸回転速度のいずれかのパラメータを制御することが可能であるが、ねじの切上げ部のように切込、送り速度、主軸回転速度を変更しなくても切削断面積又は切削動力が変化する部分の加工においては切削負荷を制御することができなかった。よって、ここでも切削負荷が大きくなって工具が欠損するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、ねじ切り加工において加工サイクル中に回転速度を変更する場合に、すべてのパスのねじ切上げ角度が等しくなるように加工を行うことができ、切削負荷の増大を抑えて工具の欠損が防止可能となる工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、軸状のワークを装着する把持装置と、前記ワークに対してその径方向及び軸方向への移動が可能な工具と、前記ワークと前記工具を相対的に前記ワークの軸線周りに回転させながら前記工具を前記径方向へ切り込ませて前記軸方向へ移動させた後、前記工具を径方向に逃がす
パスを繰り返すねじ切り加工サイクルを実行する加工制御手段とを備えた工作機械であって、
前記
パスごとの前記ワークと前記工具の相対的な回転速度を演算する回転速度演算手段と、
当該回転速度演算手段で演算された前記回転速度を用いて、ねじ切上げ部において1パス前の軸方向位置と現在の軸方向位置とで前記工具を径方向に逃がす切上げ角度が等しくなるように径方向送り速度を演算する径方向送り速度演算手段とを備え、前記加工制御手段は、前記ねじ切り加工
サイクルにおいて、前記回転速度演算手段によって演算された回転速度で
各前記パスごとに前記回転速度を変更すると共に、前記径方向送り速度演算手段によって演算された径方向送り速度で前記工具を径方向に逃がす制御を実行することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記径方向送り速度演算手段は、基準回転速度と現在の前記ワークと前記工具の相対的な回転速度との比と、予め設定した定数との積を用いて現在のパスのねじ切上げ時の径方向送り速度を演算することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、前記径方向送り速度演算手段は、1パス前のねじ切上げ部における回転速度と現在のパスのねじ切上げ部における前記ワークと前記工具の相対的な回転速度との比と、1パス前のねじ切上げ部における径方向送り速度との積を用いて現在のパスのねじ切上げ時の径方向送り速度を演算することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、すべてのパスにおいて軸方向送り速度と径方向送り速度との比を等しくすることにより、すべてのパスのねじ切上げ角度が等しくなるように加工を行うことが可能になる。よって、切削負荷の増大を抑えて工具の欠損を防止可能となる。また、径方向の送り速度をワーク又は工具の一回転あたりの送り量で制御する場合は、径方向送り速度が基準回転速度に大きく依存するため、加工するワークによって切上げ部での径方向加速度が大きく異なり、振動を回避する等の目的でワーク又は工具の一回転あたりの送り量を設定し直す必要が出てくる可能性があるが、本発明によれば時間当たりの送り量で制御するため、径方向送り速度は基準回転速度に依存しない。したがって切上げ部での径方向加速度はワークに依存せず、過大な振動が発生する心配がないため、送り速度を設定し直す手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】ねじ切り加工サイクルにおける工具パスを示す説明図である。
【
図3】ねじ切り加工サイクル中に主軸回転速度を変更する様子の一例を示す説明図である。
【
図4】(A)は実施形態のねじ切上げ部における工具パスの説明図、(B)は従来技術のねじ切上げ部における工具パスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械の一例である旋盤を示す説明図である。旋盤1において、2は主軸で、主軸2の先端には、爪4を有する把持装置としてのチャック3を備え、チャック3によって軸状のワーク5を把持可能としている。また、主軸2を回転可能に支持する主軸台6内には、主軸2を回転させるためのモータ7、及び主軸2の回転速度を検出するためのエンコーダ8がそれぞれ内蔵されている。
【0010】
一方、10は、エンコーダ8によって主軸2の回転速度を監視するとともに、主軸2の回転速度を制御するための主軸制御部である。また、11は、旋盤1全体の挙動を制御する加工制御手段としての旋盤制御部であって、上記主軸制御部10に加えて、主軸回転速度の変更を指示等するための入力手段12と、加工プログラム等を記憶する記憶部13と、ねじ切り加工サイクルにおいて主軸回転速度を変更する場合に、例えば後述するように主軸回転速度変更幅と基準回転速度とに基づいて主軸回転速度を演算する回転速度演算手段としての主軸回転速度演算部14と、ねじ切上げ角度をすべてのパスで等しくするための径方向送り速度演算手段としての径方向送り速度演算部15とがそれぞれ接続されている。
【0011】
よって、旋盤制御部11は、主軸制御部10を介してワーク5の回転速度を制御する他、図示しない工具を回転中のワーク5の周面に切り込ませるとともに、ワーク5及び/又は工具を回転軸方向及び/又は径方向へ送るといった加工動作を周知の構成により制御するようになっている。
【0012】
図2は、ねじ切り加工サイクルにおける工具パスの一例を示す説明図である。
上記旋盤1では、記憶部13に記憶されている加工プログラムにしたがい、主軸制御部10による制御のもと、モータ7へ電力が供給されて主軸2を所定の回転速度で回転させるとともに、旋盤制御部11の制御により、刃物台16に固定した工具17をワーク5の径方向に切込み、長手方向(回転軸方向)に送ってねじ部の加工を行った後に工具を径方向に逃がす、というサイクルを複数回繰り返すことによりねじを加工するようになっている。
【0013】
図3は、ねじ切り加工サイクル中に主軸回転速度を変更する様子の一例を示す説明図である。
図3において、S
Oは基準回転速度、Wは主軸回転速度変更幅であり、オペレータが予め入力するものである。これらのパラメータに基づいて主軸回転速度演算部14が、例えば下記式(1)に基づいて高速回転速度S
Hと低速回転速度S
Lとを算出し、主軸回転速度をパスごとに高速回転速度または低速回転速度のいずれかに変更するようになっている。これにより、すべてのパスを一定の主軸回転速度で切削する場合に比べてびびり振動の成長を抑制することができる。
【0015】
そして、各パスのねじ切上げ部(
図2に示すA部)においては、回転軸方向に工具を送ると同時に、径方向送り速度演算部15が、下記式(2)に基づいて算出する送り速度で径方向にも工具を送ることにより切上げを行うようになっている。
【0017】
図4において、(A)は、本実施形態のねじ切上げ部における工具パスの説明図、(B)は、従来技術のねじ切上げ部における工具パスの説明図である。
従来技術では、主軸回転速度をパスごとに変更することによりねじ切上げ部の角度が変化するが、上記形態の旋盤1によれば、ねじ切り加工サイクル中に主軸回転速度を変更する場合、すべてのパスにおいて回転軸方向送り速度と径方向送り速度との比が等しくなるため、すべてのパスのねじ切上げ角度が等しくなる。
【0018】
このように、上記形態の旋盤1によれば、
パスごとの主軸2の回転速度を演算する主軸回転速度演算部14と、
回転速度演算部14で演算された回転速度を用いて、ねじ切上げ部において1パス前の回転軸方向位置と現在の回転軸方向位置とで工具17を径方向に逃がす切上げ角度が等しくなるように径方向送り速度を演算する径方向送り速度演算部15とを備え、旋盤制御部11は、ねじ切り加工
サイクルにおいて、主軸回転速度演算部14によって演算された回転速度で
各パスごとに主軸2の回転速度を変更すると共に、径方向送り速度演算部15によって演算された径方向送り速度で工具17を径方向に逃がす制御を実行することで、すべてのパスにおいて回転軸方向送り速度と径方向送り速度との比を等しくすることにより、すべてのパスのねじ切上げ角度が等しくなるように加工を行うことが可能になる。よって、切削負荷の増大を抑えて工具の欠損を防止可能となる。
また、径方向の送り速度を主軸一回転あたりの送り量で制御する場合は、径方向送り速度が基準回転速度に大きく依存するため、加工するワークによって切上げ部での径方向加速度が大きく異なり、振動を回避する等の目的で主軸一回転あたりの送り量を設定し直す必要が出てくる可能性があるが、本発明によれば時間当たりの送り量で制御するため、径方向送り速度は基準回転速度に依存しない。したがって切上げ部での径方向加速度はワークに依存せず、過大な振動が発生する心配がないため、送り速度を設定し直す手間を省くことができる。
【0019】
なお、上記実施形態では、ねじ切上げ部における径方向への工具送り速度を、基準回転速度とねじ切上げ時の主軸回転速度とを用いて算出したが、例えば下記式(3)のように、1パス前のねじ切上げ部における主軸回転速度と現在のパスのねじ切上げ部における主軸回転速度との比を用いて径方向の送り速度を決定しても良い。
【0021】
また、上記実施形態ではねじ切上げ部におけるねじ切上げ角度を回転軸方向位置によらず一定としたが、必ずしも一定である必要はなく、1パス前の回転軸方向位置と現在の回転軸方向位置とでねじ切上げ角度が等しくなるように径方向送り速度を制御してもよい。
さらに、本発明に係る工作機械は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、主軸回転速度演算部、ねじ切上げ時の径方向送り速度演算部、及び工作機械全体に係る構成等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
例えば、上記実施形態では、工作機械として旋盤を採用しているが、マシニングセンタにて主軸の回転に代えて送り軸で工具とワークを相対的に回転させることで同様の加工をさせる等他の工作機械にも適用可能である。
また、加工は外径のねじの加工に限らず、内径のねじにおいても適用可能である。
【符号の説明】
【0022】
1・・旋盤、2・・主軸、3・・チャック、5・・ワーク、7・・モータ、8・・エンコーダ、10・・主軸制御部、11・・旋盤制御部、12・・入力手段、13・・記憶部、14・・主軸回転速度演算部、15・・径方向送り速度演算部、16・・刃物台、17・・工具。