【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した太陽電池において、受光面側に位置するn層を薄くすることによって表面再結合速度を低下させ、より多くの電流を取り出せるようにしたシャローエミッタが提案されている。シャローエミッタ化すると、特に400(nm)付近の短波長側も発電に寄与するようになるため、太陽電池の効率向上の面では理想的な解と考えられている。その反面で、セルを高シート抵抗にする必要があること、表面近傍のドナー元素(例えば燐)濃度が低下するためAg-Si間のバリア障壁が増加し、受光面電極のオーミックコンタクトの確保が困難になること、pn接合が浅くなるためファイヤースルーで反射防止膜を十分に破り且つpn接合に電極が侵入しないような侵入深さ制御が非常に困難であること、などの不都合がある。
【0011】
なお、従来のシリコン太陽電池セルのn層厚みは100〜200(nm)であり、シャローエミッタのそれは70〜100(nm)である。このように薄くなることで、受光により発生した電気のうちpn接合に達する前に熱に変わって有効に利用できなかった部分が減じられるので、短絡電流が増大し、延いては発電効率が高められる。
【0012】
上述した特許文献1,2,4,5に記載されたペースト組成物は、従来構造の太陽電池において特性を改善しようとするものであったが、未だ十分とは言えなかった。しかも、シャローエミッタに用いる高シート抵抗セルには対応できず、良好なオーミックコンタクトが得られない問題があった。
【0013】
これに対して、前記特許文献6に記載のペースト組成物によれば、オーミックコンタクトが更に改善されており、前述したようにシャローエミッタにも適用可能である。しかしながら、このペースト組成物では、ファイヤースルー性およびおよび侵入量を共に適切に制御し、特にシャローエミッタのような浅いpn接合に侵入させないようにすることは困難であった。また、シャローエミッタ用の高シート抵抗セルではドナー濃度も不足するが、Liのドナー補償効果のみでは不足する問題もあった。すなわち、FF値や変換効率を十分に高めることが困難であった。
【0014】
また、前記特許文献3では、Sn化合物を含むペースト組成とすることにより、接触抵抗を低下させ、延いてはFF値を高めることが示されているが、本発明者等が追試を行ったところ、Sn化合物を添加することで若干の改善効果は認められるものの未だ不十分な特性に留まる結果となった。本発明者等は、更に検討を重ねた結果、上記Sn化合物の添加による効果は、Snがガラスの構造中に入り込み、これにより、ガラスへのAgの溶解度が高められて再結晶により生ずるAg結晶核が大きくなり、延いては接触抵抗が低下させられるものと推測するに至った。ガラス中に陽イオンの外殻電子数が18個、または18+2個持つような起分極性が強い元素、例えば、Sn、Zn、In、Pb、Sb、Bi、Fe、Cd、Teイオン等やアルカリ金属イオンを含むと強い余剰結合力が発生し、他の金属とガラス間の分子間力を強めることになり、ガラス中へのAg溶解量が増大するものと考えられる。
【0015】
図1(a)、(b)は、上記Ag結晶核によって特性が変化する作用を説明するための模式図である。上述したファイヤースルーによる受光面電極形成では、焼成過程においてシリコン基板50と受光面電極52との界面にガラス層54が形成され、そのガラス層54とシリコン基板50との界面に、高温でガラス中に溶け込んだAgが降温時に析出して再結晶する。再結晶Agは高い導電性を有するので、シリコン基板50から受光面電極52への導電パスとなるが、その導電パスは、この再結晶Agの発生状態で変化する。
【0016】
図1(a)は、比較的大きい再結晶Ag56が生成される場合である。Agの溶解度が大きいガラス(Te等の添加によるものを含む)を用いると、再結晶Ag56は大きくなり、数が減ってガラス-Si界面近傍に存在する個数が少なくなる。この構造では、図示の通り、発生した電子はシリコン基板50(n
+層)内および再結晶Ag56内を通って、これに接する銀粒子58を経由して受光面電極52まで移動する。そのため、低抵抗である再結晶Ag56内部を通ることから直列抵抗 Rsは低下するが、再結晶Ag56の数が少ないことから再結合速度が速いn
+層内を通る距離が長くなるので、電流が減少して変換効率が低くなる。前記特許文献3のSn化合物の添加は、このような作用により接触抵抗 Rcを低下させ、FF値を高くすることで効率改善を図ったものと思われるが、前述したように十分な効果を奏する追試結果は得られていない。
【0017】
一方、
図1(b)は、比較的小さい、例えばナノメートルオーダーの再結晶Ag60が多数生成される場合である。Agの溶解度が小さいガラス(例えばLiを含まない或いは少ないもの)を用いることで、再結晶Ag60が小さくなり且つ数が増えるので、シリコン基板50−ガラス層54界面近傍に存在する個数が多くなる。この構造では、図示の通り、発生した電子は界面の再結晶Ag60まで到達すると、一部は銀粒子58に直接伝導させられるが、多くはAg-ガラス-Ag-・・・というホッピング伝導が主となって抵抗値が高いガラス内を通り受光面電極52に至るので直列抵抗 Rsが高くなる。そのため、抵抗が高いガラス内で一部の電子は熱に変わって失われるものの、再結合速度は遅いので電流値は高くなるが、抵抗が高いためにFF値が低くなる。また、Ag溶解度の小さいガラスは、適当な組成のときはガラス層54全体にAg結晶核が析出し、その後比較的穏やかに結晶成長するため上記
図1(b)に示す構造が得られる。しかしながら、例えばアルカリやPbが少なくSiが多い組成など、温度低下でAgの溶解度が急激に下がるガラス組成では、Si量やAg量の変化でAg溶解度や侵食速度が容易に変化する。溶解度が著しく低下すると、ガラス層54とシリコン基板50および受光面電極52との界面近傍で結晶核が生成し、結晶成長も急激になり再結晶Agも極めて大きくなることから、シリコン基板表面近傍のpn接合が損傷してリーク電流が発生し延いては出力特性が低下する。すなわち、Ag溶解度の小さいガラスは組成の最適範囲が狭くなる傾向にある。なお、前記
図1(a)の場合でも微細な再結晶Ag60は存在するが、
図1(b)の場合に比べて極めて少なく、電子の伝達経路の説明上無用であるため省略した。
【0018】
本発明は、以上の事情を背景として為されたもので、その目的は、ファイヤースルー法による太陽電池の受光面電極形成、特にn層の薄いシャローエミッタ構造の太陽電池に好適に用いられ、接触抵抗を低下させ且つ発生した電子の再結合を抑制することにより、太陽電池セルのFF値および電流値を増大させ延いては変換効率を高くできる太陽電池電極用ペースト組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0020】
第1発明によれば、太陽電池電極用ペースト組成物は、ガラスフリットがSnを0.5〜20.0(mol%)
、Li2Oを0.6〜18(mol%)、PbOを24〜64(mol%)、B2O3を1〜18(mol%)、SiO2を11〜40(mol%)、P
2O
5を1.0〜6.0(mol%)
、Bi2O3を1〜15(mol%)の範囲で、それぞれ含む鉛ガラスを含み
、第2発明によれば、太陽電池電極用ペースト組成物は、ガラスフリットがSnを0.5〜12.0(mol%)、PbOを55〜65(mol%)、B2O3を1〜8(mol%)、SiO2を21〜36(mol%)、P2O5を1.0〜4.0(mol%)、Bi2O3を1〜2(mol%)の範囲でそれぞれ含み、Li2Oを含まない鉛ガラスを含むことから、これ
らを用いてファイヤースルー法でシリコン基板上に受光面電極を形成すると、ガラス中へのAg溶解量が増大すると共にAg結晶核が適度に発生させられる。すなわち、前記
図1(a)、(b)に示す状態の間の適切な状態とすることができる。そのため、シリコン基板と受光面電極との間に形成されるガラス層内を電子がホッピング伝導で移動すると共に、ガラス層から受光面電極への電子の移動は直接伝導の割合が多くなることから、十分に直列抵抗が低くなり且つ再結合も生じ難くなるので、FF値および電流値が大きく延いては変換効率の高い太陽電池セルが得られる。上記Snの含有量は、0.5(mol%)以上であることが必要であり、0.5(mol%)未満ではAg溶解量が過少になり延いては再結晶Agの大きさが小さくなり過ぎるので、直列抵抗が高くなって曲線因子が小さくなる。また、20.0(mol%)を越えるとAg溶解量が過剰になり延いては再結晶Agの大きさが大きくなり過ぎるので、再結合が生じ易くなって変換効率が低くなる。また、P
2O
5は、n層に対するドナーであり且つSiへの不純物溶解度が2×10
−21(atm/cm
3)程度と高いことから、P
2O
5が含まれることにより、基板と受光面電極とのオーミックコンタクトが一層得られ易くなり、接触抵抗が一層低くなる。ガラス中にドナー元素が含まれていると、電極形成の際の浸食過剰による出力低下がドナーの働きによって抑制される。そのため、出力低下を伴うことなく、導通確保のために僅かに浸食過剰の状態とすることができるので、容易にオーミックコンタクトを確保できるのである。しかしながら、P
2O
5が多くなると軟化点が高くなるため、上記範囲とすることが必要である。
また、Bi2O3は、ガラスの軟化点を低下させる成分で、低温焼成を可能とするために必要である。
【0021】
しかも、本発明によれば、Snを含むガラスフリットを用いることでAg溶解量が増大させられることから、浸食量の制御が容易な利点もある。因みに、Pb、Sb、Bi、Te量を十分に多くすることや、アルカリ量を十分に多くすること等でもAg溶解量を増大させ得るが、組成の変更、特にPb/Si比の変更は浸食量制御に影響を及ぼす問題がある。また、アルカリ量を多くして粘性を下げると浸食速度が速くなるので、適正な焼成温度範囲が狭くなる問題がある。
【0022】
なお、溶解したAg
2OはNa
2O等と同様にガラス構造中で網目修飾酸化物(-Si-O-Ag)として存在しているが、電極形成のための焼成処理が施される際に、多価原子価イオンによってAgイオンが熱的還元され、Ag結晶核の生成とAg結晶の成長が起こって再結晶Agが析出する。再結晶Agの析出挙動は、一般的な核生成および成長理論と同様であり、Ag溶解量、焼成温度、時間、冷却速度の影響を受ける。
【0023】
因みに、前記特許文献3に記載のペーストは、Snを含まないガラスが用いられ、ペーストを調製する際にSn化合物が添加されるが、前述したように、そのペースト中に含まれるSnがガラス構造中に入ることで、上述したようにAgイオンが熱的還元されて再結晶Agが析出するものと推定される。そのため、このような構成ではガラス構造中に入るSnは僅かな量に留まることから十分な添加効果が得られず、本発明のようにSnを含むガラス組成とすることにより、再結晶Agの析出を適切に制御することができる。
【0024】
なお、前記ガラスフリットは、1種類の鉛ガラスであってもよいが、軟化点が相互に異なる2種類以上のガラスを混合したものであってもよい。混合するガラスは、全て鉛ガラスでもよく、上記Snを含む鉛ガラスの他は無鉛ガラスとしてもよい。
【0025】
また、本発明のペースト組成物は、安定なオーミック抵抗性を有し、低シート抵抗の基板だけでなく80〜120(Ω/□)程度の高シート抵抗基板に対しても十分低い接触抵抗が得られる利点もある。そのため、pn接合に電極が侵入しないように制御することにより、リーク電流が低くすなわち並列抵抗が高く、曲線因子が大きく、電流値が大きく、かつ光電変換率の高い太陽電池セルが得られる。
【0026】
ここで、好適には、前記鉛ガラスは、酸化物換算でSnを0.5〜20.0(mol%)、Li
2Oを0.6〜18(mol%)、PbOを24〜64(mol%)、B
2O
3を1〜18(mol%)、SiO
2を11〜40(mol%)、P
2O
5を
1.0〜6.0(mol%)の範囲で含むものである。このようにすれば、Liを含む組成において、各成分量が一層適切な範囲に定められていることから、FF値が一層大きく且つ変換効率Effが一層高い太陽電池セルが得られる。
【0027】
また、好適には、前記鉛ガラスは、酸化物換算でSnを0.5〜12.0(mol%)、PbOを55〜65(mol%)、B
2O
3を1〜8(mol%)、SiO
2を21〜36(mol%)、P
2O
5を
1.0〜4.0(mol%)の範囲で含み、Li
2Oを含まないものである。このようにすれば、Liを含まない組成において、各成分量が一層適切な範囲に定められていることから、曲線因子FFが一層大きく且つ変換効率Effが一層高い太陽電池セルが得られる。
【0028】
なお、上記各鉛ガラスの組成において、PbOは、ガラスの軟化点を低下させる成分で、低温焼成を可能とするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li含有組成においてはPbOが24(mol%)以上且つ64(mol%)以下、Li非含有組成においてはPbOが55(mol%)以上且つ65(mol%)以下であることがそれぞれ好ましい。何れの組成系においても、PbO量が下限値を下回ると軟化点が高くなり過ぎる傾向があり、ガラス化が困難になると共に反射防止膜へ浸食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトを得ることが困難になる。一方、上限値を越えると軟化点が低くなり過ぎる傾向があり、浸食性が強くなり過ぎてpn接合が破壊され、延いてはFF値が小さくなる等の問題が生じ易い。PbO量は、Li含有組成においては30〜61(mol%)の範囲が一層好ましく、35〜60(mol%)の範囲が特に好ましい。また、Li非含有組成においては55〜62(mol%)の範囲が一層好ましく、58〜62(mol%)の範囲が特に好ましい。
【0029】
また、B
2O
3は、ガラス形成酸化物(すなわちガラスの骨格を作る成分)であり、ガラスの軟化点を低くするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li含有組成においてはB
2O
3が1(mol%)以上且つ18(mol%)以下、Li非含有組成においてはB
2O
3が1(mol%)以上且つ8(mol%)以下であることがそれぞれ好ましい。何れの組成系においても、B
2O
3量が下限値を下回るとガラスの粘性が高くなる傾向があり、反射防止膜へ浸食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトが得られ難くなると共に、耐湿性も低下し易い。また、B
2O
3量が少なくなり過ぎるとVocが低下すると共にリーク電流が増大する傾向が生じ易い問題もある。一方、上限値を越えても却ってVocが低下すると共にリーク電流が増大し、更に、ガラスの粘性が低くなり過ぎる傾向が生じ易く、延いては浸食性が強くなり過ぎてpn接合が破壊される等の問題が生じ易い。B
2O
3量は、Li含有組成においては2.8〜12(mol%)の範囲が一層好ましく、4〜8(mol%)の範囲が更に好ましい。
【0030】
また、SiO
2は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの耐化学性を高くするための成分で、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li含有組成においてはSiO
2が11(mol%)以上且つ40(mol%)以下、Li非含有組成においてはSiO
2が21(mol%)以上且つ36(mol%)以下であることがそれぞれ好ましい。何れの組成系においても、SiO
2量が下限値を下回ると耐化学性が不足すると共にガラス形成が困難になり易い。一方、上限値を越えると軟化点が高くなり過ぎてガラス化し難くなって反射防止膜へ浸食し難くなり、延いては良好なオーミックコンタクトが得られなくなり易い。SiO
2量は、Li含有系においては20〜36(mol%)の範囲が一層好ましく、24〜32(mol%)の範囲が特に好ましい。また、Li非含有系においては25〜29(mol%)の範囲が一層好ましく、27〜29(mol%)の範囲が特に好ましい。
【0031】
また、PbOおよびSiO
2がそれぞれ上記の範囲内にあるだけでなく、更にPb/Si(mol比)が、Li含有系においては0.6以上且つ5.0以下、Li非含有系においては1.5以上且つ2.9以下であることが、それぞれ好ましい。何れの組成系においても、Pb/Siモル比が下限値を下回ると、ファイヤースルー性が低下し、受光面電極とn層との接触抵抗が高くなり易い。一方、Pb/Siモル比が上限値を超えると、リーク電流が著しく大きくなり易いので、何れにしてもFF値が低下し、十分な出力特性が得られなくなり易い。Pb/Si(mol比)は、Li含有系においては1〜2.5の範囲が一層好ましく、1.19〜2.13の範囲が更に好ましい。また、Li非含有系においては2.14〜2.44の範囲が一層好ましく、2.14〜2.30の範囲が更に好ましい。
【0032】
また、Li
2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分で、これを含む組成系においては、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li
2Oが0.6(mol%)以上且つ18(mol%)以下であることが好ましい。Li
2Oが0.6(mol%)未満では軟化点が高くなり過ぎ延いては反射防止膜への浸食性が不十分になる。一方、18(mol%)を越えるとアルカリが溶出すると共に浸食性が強くなり過ぎるので却って電気的特性が低下する。因みに、Liは、拡散を促進することから一般に半導体に対しては不純物であって、特性を低下させる傾向があることから半導体用途では避けることが望まれるものである。特に、通常はPb量が多い場合にLiを含むと浸食性が強くなり過ぎて制御が困難になる傾向がある。しかしながら、上記のような太陽電池用途においては、Liを含むガラスを用いても特性低下が認められず、却って適量が含まれていることでファイヤースルー性が改善され、特性向上が認められた。また、Liはドナー元素であり、接触抵抗を低くする作用もある。しかも、Liを含む組成とすることにより、良好なファイヤースルー性を得ることのできるガラスの組成範囲が広くなる利点もある。Li
2O量は、1〜15(mol%)の範囲が一層好ましい。
【0033】
また、P
2O
5は、
前述したように、n層に対するドナーであり且つSiへの不純物溶解度が2×10
-21(atm/cm
3)程度と高いことから、基板と受光面電極とのオーミックコンタクトが一層得られ易くなり、接触抵抗を一層低くできる利点がある。P
2O
5が多くなると軟化点が高くなる傾向があるため、P
2O
5の含有量はLi含有系においては6.0(mol%)以下、Li非含有系においては4.0(mol%)以下に、それぞれ留めることが好ましい。また、Li含有系においては2.0(mol%)以下に留めることが一層好ましく、Li非含有系においては1.0〜4.0(mol%)の範囲内とすることが一層好ましく、1.0〜2.0(mol%)の範囲内とすることが特に好ましい。
【0034】
因みに、シャローエミッタを構成する高シート抵抗のセルでは、例えばSi
3N
4から成る反射防止膜の厚さ寸法を80(nm)程度として、電極による浸食量を90〜110(nm)の範囲に制御すること、すなわち20(nm)の精度で制御することが望ましい。しかしながら、このような制御は極めて困難であり、導通確保のためには僅かに浸食過剰となった状態に制御せざるを得ない。上記のようにガラス中にドナー元素が含まれていると、その浸食過剰による出力低下がドナーの働きによって抑制されるので、オーミックコンタクトが得られ易くなる。
【0035】
なお、前述したようにガラスフリットを軟化点が相互に異なる2種類以上のガラスを混合したものとする場合には、相対的に低軟化点のものをSnを含む鉛ガラス(以下、“侵食ガラス”という)とし、相対的に高軟化点のものをドナー量の多いガラス(以下、“ドナーガラス”という)とすることが好ましい。ドナーとしては、Pが好ましいが、侵食ガラスをPを多く含む組成にすると軟化点が高くなり易いので最適組成を得ることが困難になる。上記のように2種類以上のガラスを混合すれば、前述したSnの添加効果を十分に享受できると共に、十分なドナー補償効果も享受できる。ドナーガラスは、全ガラス量の10〜30(wt%)程度とすることが好ましい。また、ドナーガラスは、侵食ガラスよりも軟化点が50〜200(℃)程度高く、電極用ペーストに単独で用いた場合に50〜73程度のFF値が得られるものが好ましい。Ag粉の焼結開始温度付近にドナーガラスの軟化点を設定すれば、低軟化点の鉛ガラスで反射防止膜を侵食できなかった部分にドナーガラスが供給され、その反射防止膜を侵食させて一層安定したオーミックコンタクトが得られるようになる。Li含有系、非含有系の何れにおいても、侵食ガラスの軟化点は350〜500(℃)の範囲内が好ましく、400〜450(℃)の範囲内が特に好ましい。また、ドナーガラスの軟化点は450〜650(℃)の範囲内が好ましく、500〜600(℃)の範囲が特に好ましい。また、ドナーガラスは、リーク電流の低いガラスであることが好ましい。また、ドナーガラスを硫黄を含む組成にすると、ガラスの表面張力が低下するため、電極−基板界面への迅速なガラス供給に効果的である。
【0036】
また、上記各成分および後述する各成分は、ガラス中に如何なる形態で含まれているか必ずしも特定が困難であるが、これらの割合は何れも酸化物換算した値とした。
【0037】
また、好適には、前記ガラスは、Al
2O
3、TiO
2、ZnOの少なくとも一種を、Li含有系においてはAl
2O
3を9(mol%)以下、TiO
2を6(mol%)以下、ZnOを15(mol%)以下、Li非含有系においてはAl
2O
3を6(mol%)以下、TiO
2を3(mol%)以下、ZnOを4.5(mol%)以下の範囲でそれぞれ含むものである。これらを含む組成とすれば、PbO量を少なくできる利点がある。また、並列抵抗を向上させてリーク電流を小さくできると共に、開放電圧および短絡電流を大きくできる利点もある。その一方、これらが多くなるほどリーク電流が増大する傾向もあるので、これらは上記の量を上限とすることが好ましい。
【0038】
なお、Al
2O
3はガラスの安定性を得るために有効な成分であって、Al
2O
3が含まれるとガラスの粘性や軟化点が高くなる傾向があり、更に、直列抵抗を低下させて曲線因子を大きくすると共に焼成温度範囲が広くなる傾向があるが、上述したようにリーク電流を増大させると共に過剰になると開放電圧を却って低下させる作用もあるため、Li含有系においては7(mol%)以下に留めることが一層好ましく、6(mol%)以下とすることが更に好ましい。また、Li非含有系においては6(mol%)以下に留めることが一層好ましく、1(mol%)以下に留めることが更に好ましい。
【0039】
また、TiO
2はFF値を高める傾向があるが、過剰に添加すると軟化点が上昇し延いては接触抵抗が高くなる傾向があると共に、上述したようにリーク電流を増大させる作用もあるため、TiO
2量は、Li含有系においては3(mol%)以下とすることが一層好ましく、Li非含有系においては含まない組成とすることが一層好ましい。
【0040】
また、ZnOの含有量が過剰になると開放電圧が低下するため、ZnO量は、Li含有系においては12(mol%)以下に留めることが一層好ましく、8.5(mol%)以下に留めることが更に好ましい。また、Li非含有系においては2(mol%)以下に留めることが一層好ましい。
【0041】
また、好適には、前記ガラスは、ZrO
2をLi含有系およびLi非含有系の何れにおいても0.5(mol%)以下の範囲で含むものである。ZrO
2は、ガラスの化学的耐久性を高めると共に、FF値を高める成分であるが、本発明では必須成分ではなく、含まれていなくとも差し支えない。
【0042】
また、好適には、前記ガラスは、Bi
2O
3をLi含有系においては15(mol%)以下、Li非含有系においては2(mol%)以下の範囲でそれぞれ含むものである。Bi
2O
3は、ガラスの軟化点を低下させる成分で、低温焼成を可能とするために含まれることが好ましい。Bi
2O
3量は、Li含有系においては12(mol%)以下が一層好ましく、3(mol%)以下が更に好ましい。また、Li非含有系においてはBiを含まない組成とすることが一層好ましい。
【0043】
また、好適には、前記ガラスは、Li含有系においてはNa
2Oを1(mol%)以下の範囲で含むものである。Na
2OはLi
2Oと同様にガラスの軟化点を低下させる成分であるが、1(mol%)を越えると軟化点が低すぎる値になり、侵食が過剰になるため、リーク電流が増大し、太陽電池の電気的特性が不十分になる。
【0044】
また、好適には、前記ガラスは、SO
2をLi含有系においては2(mol%)以下、Li非含有系においては0.5(mol%)以下の範囲でそれぞれ含むものである。SO
2はガラスが軟化したときの粘性を低下させ延いては表面張力を低下させることから、ガラス成分が速やかに電極−基板界面に供給されるので、その界面に均一な薄いガラス層が形成され、良好な電気的特性が得られる。そのため、電極材料の侵入量の制御が容易になり、オーミックコンタクトが一層容易に得られる。
【0045】
また、好適には、前記ガラスは、Ag
2OをLi含有系においては2(mol%)以下、Li非含有系においては0.5(mol%)以下の範囲でそれぞれ含むものである。ガラス構造中に初期的に含まれるAgは、電極の焼成過程でガラス構造中に入るAgと共に還元されて再結晶させられるから、直列抵抗を一層低くできる。また、高温で保持される時間が短い高速焼成により電極形成が行われると、Agのガラス中への溶解が不十分となる場合があるが、初期的にガラス構造中にAgが存在することで焼成のプロセスマージンが広くなる効果がある。
【0046】
また、前記ガラスフリットは平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内である。ガラスフリットの平均粒径が小さすぎると電極の焼成時に融解が早すぎるため電気的特性が低下するが、0.3(μm)以上であれば適度な融解性が得られるので電気的特性が一層高められる。しかも、凝集が生じ難いのでペースト調製時に一層良好な分散性が得られる。また、ガラスフリットの平均粒径が導電性粉末の平均粒径よりも著しく大きい場合にも粉末全体の分散性が低下するが、3.0(μm)以下であれば一層良好な分散性が得られる。しかも、ガラスの一層の溶融性が得られる。したがって、一層良好なオーミックコンタクトを得るためには上記平均粒径が好ましい。
【0047】
なお、上記ガラスフリットの平均粒径は空気透過法による値である。空気透過法は、粉体層に対する流体(例えば空気)の透過性から粉体の比表面積を測定する方法をいう。この測定方法の基礎となるのは、粉体層を構成する全粒子の濡れ表面積とそこを通過する流体の流速および圧力降下の関係を示すコゼニー・カーマン(Kozeny-Carmann)の式であり、装置によって定められた条件で充填された粉体層に対する流速と圧力降下を測定して試料の比表面積を求める。この方法は充填された粉体粒子の間隙を細孔と見立てて、空気の流れに抵抗となる粒子群の濡れ表面積を求めるもので、通常はガス吸着法で求めた比表面積よりも小さな値を示す。求められた上記比表面積および粒子密度から粉体粒子を仮定した平均粒径を算出できる。
【0048】
また、好適には、前記導電性粉末は平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内の銀粉末である。導電性粉末としては銅粉末やニッケル粉末等も用い得るが、銀粉末が高い導電性を得るために最も好ましい。また、銀粉末の平均粒径が3.0(μm)以下であれば一層良好な分散性が得られるので一層高い導電性が得られる。また、0.3(μm)以上であれば凝集が抑制されて一層良好な分散性が得られる。なお、0.3(μm)未満の銀粉末は著しく高価であるため、製造コストの面からも0.3(μm)以上が好ましい。また、導電性粉末、ガラスフリット共に平均粒径が3.0(μm)以下であれば、細線パターンで電極を印刷形成する場合にも目詰まりが生じ難い利点がある。
【0049】
なお、前記銀粉末は特に限定されず、球状や鱗片状等、どのような形状の粉末が用いられる場合にも導電性を保ったまま細線化が可能であるという本発明の基本的効果を享受し得る。但し、球状粉を用いた場合が印刷性に優れると共に、塗布膜における銀粉末の充填率が高くなるため、導電性の高い銀が用いられることと相俟って、鱗片状等の他の形状の銀粉末が用いられる場合に比較して、その塗布膜から生成される電極の導電率が高くなる。そのため、必要な導電性を確保したまま線幅を一層細くすることが可能となることから、特に好ましい。
【0050】
また、好適には、前記太陽電池電極用ペースト組成物は、25(℃)−20(rpm)における粘度が150〜250(Pa・s)の範囲内、粘度比(すなわち、[10(rpm)における粘度]/[100(rpm)における粘度])が3〜8である。このような粘度特性を有するペーストを用いることにより、スキージングの際に好適に低粘度化してスクリーンメッシュを透過し、その透過後には高粘度に戻って印刷幅の広がりが抑制されるので、スクリーンを容易に透過して目詰まりを生じないなど印刷性を保ったまま細線パターンが容易に得られる。ペースト組成物の粘度は、180〜220(Pa・s)の範囲が一層好ましく、粘度比は3.2〜6.5の範囲が一層好ましい。また、設計線幅が100(μm)以下の細線化には粘度比4〜6が望ましい。
【0051】
なお、線幅を細くしても断面積が保たれるように膜厚を厚くすることは、例えば、印刷製版の乳剤厚みを厚くすること、テンションを高くすること、線径を細くして開口径を広げること等でも可能である。しかしながら、乳剤厚みを厚くすると版離れが悪くなるので印刷パターン形状の安定性が得られなくなる。また、テンションを高くし或いは線径を細くすると、スクリーンメッシュが伸び易くなるので寸法・形状精度を保つことが困難になると共に印刷製版の耐久性が低下する問題がある。しかも、太幅で設けられることから膜厚を厚くすることが無用なバスバーも厚くなるため、材料の無駄が多くなる問題もある。
【0052】
また、好適には、前記太陽電池電極用ペースト組成物は、前記導電性粉末を64〜90重量部、前記ベヒクルを3〜20重量部の範囲内の割合で含むものである。このようにすれば、印刷性が良好で線幅の細く導電性の高い電極を容易に形成できるペースト組成物が得られる。
【0053】
また、好適には、前記導電性ペースト組成物は、前記ガラスフリットを前記導電性粉末100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含むものである。1重量部以上含まれていれば十分な浸食性(ファイヤスルー性)が得られるので、良好なオーミックコンタクトが得られる。また、10重量部以下に留められていれば絶縁層が形成され難いので十分な導電性が得られる。導電性粉末100重量部に対するガラス量は、1〜8重量部が一層好ましく、1〜7重量部が更に好ましい。
【0054】
また、前記ガラスフリットを構成する鉛ガラスは、前記組成範囲でガラス化可能な種々の原料から合成することができ、例えば、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、例えば、Sn源としては一酸化錫 SnOを、Li源としては炭酸リチウム Li
2CO
3を、P源としては燐酸二水素アンモニウム NH
4H
2PO
4を、Si源としては二酸化珪素 SiO
2を、B源としては硼酸 B
2O
3を、Pb源としては鉛丹 Pb
3O
4を用い得る。
【0055】
また、上記成分の他にAl、Ti、Zn、Zr等の他の成分を含む組成とする場合には、例えばそれらの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を用いればよい。
【0056】
また、本発明の導電性ペーストを構成する前記ガラスは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加物を含み得る。例えば、Ca、Mg、K、Ba、Sr等が含まれていても差し支えない。これらは例えば合計30(mol%)以下の範囲で含まれ得る。