特許第5937925号(P5937925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

特許5937925ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法
<>
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000002
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000003
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000004
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000005
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000006
  • 特許5937925-ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937925
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ミリング加工工具を用いた複合材料成形物のトリミング方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/00 20060101AFI20160609BHJP
   B23C 3/12 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B23C3/00
   B23C3/12 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-188763(P2012-188763)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-46376(P2014-46376A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】加賀 忠士
(72)【発明者】
【氏名】田村 純一
(72)【発明者】
【氏名】財津 匡克
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−057901(JP,A)
【文献】 特開昭59−014414(JP,A)
【文献】 特開平05−318218(JP,A)
【文献】 特開2003−165016(JP,A)
【文献】 特開2004−058262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00− 9/00
B23D 45/00−65/04
B27B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外周面に切れ刃を有する回転工具であるミリング加工工具を用いて、繊維強化樹脂複合材料で構成される成形物の周囲をトリミングするトリミング方法であって、
前記ミリング加工工具が、円筒状であり、前記外周面の切れ刃と当該切れ刃につながる底刃を先端面に有するエンドミル工具であり、
当該エンドミル工具を、その先端面が前記成形物のトリミング箇所に当接するように倒した状態で予め設定される順方向に移動させて、その先端面の前記底刃により前記成形物の周囲の表面側を、当該表面に対して下向きに切削した後に、
当該エンドミル工具を、前記順方向の逆方向に移動させて、前記底刃により前記成形物の周囲の裏面側を、前記表面に対して上向きに切削することを特徴とする、
複合材料成形物のトリミング方法。
【請求項2】
少なくとも外周面に切れ刃を有する回転工具であるミリング加工工具を用いて、繊維強化樹脂複合材料で構成される成形物の周囲をトリミングするトリミング方法であって、
前記ミリング加工工具が、円筒状であり、前記外周面の切れ刃と当該切れ刃につながる底刃を先端面に有するエンドミル工具であり、
当該エンドミル工具を、前記成形物の表面に対して立てた状態で、予め設定される順方向に傾斜させた状態で当該順方向またはその逆方向に移動させて、前記外周面の切れ刃により前記成形物の周囲の前記表面側を、当該表面に対して下向きに切削した後に、
当該エンドミル工具を、前記逆方向に傾斜させた状態で前記順方向または前記逆方向に移動させて、前記外周面の切れ刃により前記成形物の周囲の裏面側を前記表面に対して上向きに切削することを特徴とする、
複合材料成形物のトリミング方法。
【請求項3】
少なくとも外周面に切れ刃を有する回転工具であるミリング加工工具を用いて、繊維強化樹脂複合材料で構成される成形物の周囲をトリミングするトリミング方法であって、
前記ミリング加工工具が、先端側が広がる円形の笠状部を有し、当該笠状部の外周面に前記切れ刃を有するとともに当該切れ刃につながる底刃を当該笠状部の先端面に有する、あり溝フライス工具であり、
当該あり溝フライス工具を、その笠状部の外周縁が前記成形物に当接する傾斜状態にするとともに、さらに、前記成形物の表面の法線を基準として、当該法線のベクトル方向に見て反時計回りに角度αを成すような回転状態としながら、予め設定される順方向に移動させて、前記成形物の表面側を下向きに切削するとともに、
当該あり溝フライス工具を、前記傾斜状態にするとともに、さらに、前記法線のベクトル方向に見て時計回りに角度αを成すような回転状態としながら、前記順方向の逆方向に移動させて、前記成形物の裏面側を上向きに切削することを特徴とする、
複合材料成形物のトリミング方法。
【請求項4】
前記あり溝フライス工具としては、前記先端面の底刃に逃げ角が形成されているものが用いられることを特徴とする、
請求項3に記載の複合材料成形物のトリミング方法。
【請求項5】
前記成形物が繊維強化樹脂製の部品である
ことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複合材料成形物のトリミング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミル等のミリング加工工具を用いて繊維強化樹脂複合材料からなる成形物のトリミングを行うトリミング方法に関し、特に、成形物の繊維層の剥離を有効に抑制し得るトリミング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、これまで金属材料が用いられてきた分野において、繊維強化樹脂複合材料(以下、適宜「複合材料」と略す。)が広く用いられるようになっている。例えば、強化繊維材として炭素繊維(カーボンファイバ)を用い、これにエポキシ樹脂等を含むマトリクス樹脂材を含浸させて成形した炭素繊維強化型のもの(一般に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と称する。)は、金属材料よりも軽量であることに加え、より高強度であることから、スポーツ用品、産業機械、車両(自動車および自転車等)、航空宇宙等の分野に広く採用されている。
【0003】
複合材料からなる成形物(以下、適宜「複合材料成形物」と称する。)の代表的な製造工程について説明すると、まず、複数枚のプリプレグ(強化繊維材からなるシートにマトリクス樹脂材を含浸等させて半硬化状態としたもの)を積層し、得られる積層物をオートクレーブ(圧力釜)により加圧および加熱して硬化させ、得られる硬化物の周囲を切断(トリミング)して所定形状に成形する。
【0004】
ここで、硬化物をトリミングする具体的な方法としては、例えば、ウォータージェット加工、あるいは、エンドミルを用いた切削方法等が知られている。例えば、航空機用の複合材料成形物であれば、翼を構成する部品については、自由曲面が多いためウォータージェット加工によりトリミングが行われ、胴体部分を構成する部品については、複雑な断面形状のものが多いためウォータージェット加工によるトリミングが困難であり、エンドミルを用いてトリミングが行われる。
【0005】
ところで、一般に複合材料は、強化繊維材とマトリクス樹脂材という2種類の異なる材料を用いていることから、金属等の単一材料に比べて加工性に劣ることが多い。例えば、代表的な強化繊維材である炭素繊維は、その表面層がダイヤモンドに近い硬度を有するため、工具が摩耗しやすく、工具寿命が短くなりやすい。また、エンドミル等の回転工具を用いた場合、回転速度を過剰に高速化するとマトリクス樹脂材が軟化または溶融することで仕上げ面に品質低下等の問題が生じたり、送り速度を大きくすると上下のエッジ部で繊維層が剥離する等の問題が生じたりする。
【0006】
そこで、従来から、エンドミル等のミリング加工工具を用いて複合材料を切削する際に、加工条件を好適化することで、前述した問題の発生を抑制または防止する技術が知られている。例えば特許文献1には、トリミングに限定されないが、エンドミル状工具の主軸の振れ精度、回転速度、一刃の送り量を好適化することで、加工面精度(仕上げ面の品質)を良好なものとしつつ能率的に切削加工を可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3377665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、実質的に空気静圧スピンドルに特化された技術であり、また、複合材料を含む繊維質有機材料の切削加工に適用可能であると記載されているものの、実施例で検証されている材料は木材のみである。つまり、特許文献1に開示の技術は、エンドミル状工具を備える空気静圧スピンドルを用いて、実質的に木材を切削加工する用途に好適化されたものであり、複合材料の切削加工にそのまま適用できるとは限らない。
【0009】
また、前述した製造工程から明らかなように、一般的な複合材料は多層構造となっているが、木材は必ずしも多層構造とはならないので、特許文献1に開示の技術では、エッジ部での繊維層の剥離を有効に抑制することはできない。実際、特許文献1では、課題に関して加工面の「むしれ」が大きいとの記載はあるものの、繊維質有機材料が多層構造であることに関しては何ら記載がない。特に、航空機においては、複合材料に用いられる炭素繊維が高強度であることから、特許文献1に開示の技術を用いて航空機用の複合材料成形物をトリミングしたとしても、高精度かつ高品質の複合材料成形物を得ることは困難となる。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、エンドミル等のミリング加工工具を用いて複合材料成形物をトリミングする際に、特にエッジ部での繊維層の剥離を有効に抑制または防止することが可能なトリミング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複合材料成形物のトリミング方法は、前記の課題を解決するために、少なくとも外周面に切れ刃を有する回転工具であるミリング加工工具を用いて、繊維強化樹脂複合材料で構成される成形物の周囲をトリミングするトリミング方法であって、前記成形物の周囲の表面側を、前記ミリング加工工具により当該表面に対して下向きに切削した後に、前記成形物の周囲の裏面側を、前記ミリング加工工具により前記表面に対して上向きに切削する構成である。
【0012】
前記構成によれば、トリミングに際して表面側を下向きに切削すると、ミリング加工工具は、成形物の繊維層を押さえ込む方向に複合材料成形物を切削することになる。そのため、表面近傍のエッジ部での繊維層の剥離を有効に抑制または防止することができる。しかも、表面を切削した後に裏面側を上向きに切削すると、ミリング加工工具の切削方向は、裏面から複合材料成形物の中間層部分に向かって巻き上げる方向となる。中間層部分は両面に繊維層が重なっているので、巻き上げる方向に力が加えられてもエッジ部のように剥離することがない。それゆえ、裏面近傍のエッジ部でも中間層部分でも繊維層の剥離が生じることがない。
【0013】
加えて、繊維層の剥離を抑えたり防いだりできるということは、結果としてミリング加工工具の送り速度(単位時間当たりの送り量)を増加させてトリミング効率を向上することができる。さらに、送り速度の増加は、ミリング加工工具と繊維層との擦過距離を低減することにもなるので、当該ミリング加工工具の摩耗を抑えることができ、工具寿命を延長することが可能となる。
【0014】
前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記ミリング加工工具が、円筒状であり、前記外周面の切れ刃と当該切れ刃につながる底刃を先端面に有するエンドミル工具、円板状であり、外周面に複数の突出刃を有するメタルソー工具、および、先端側が広がる円形の笠状部を有し、当該笠状部の外周面に前記切れ刃を有するとともに当該切れ刃につながる底刃を当該笠状部の先端面に有する、あり溝フライス工具、のいずれかである構成であればよい。
【0015】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記ミリング加工工具が前記エンドミル工具である場合、当該エンドミル工具を、その先端面が前記成形物のトリミング箇所に当接するように倒した状態で予め設定される順方向に移動させて、その先端面の前記底刃により前記表面側を下向きに切削するとともに、前記順方向の逆方向に移動させて、前記底刃により前記裏面側を上向きに切削する構成であればよい。
【0016】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記ミリング加工工具が前記エンドミル工具である場合、当該エンドミル工具を、前記成形物の表面に対して立てた状態で、予め設定される順方向に傾斜させた状態で当該順方向またはその逆方向に移動させて、前記外周刃により前記成形物の表面側を下向きに切削するとともに、前記逆方向に傾斜させた状態で前記順方向または前記逆方向に移動させて、前記外周刃により前記成形物の裏面側を上向きに切削する構成であればよい。
【0017】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記ミリング加工工具が前記メタルソー工具である場合、当該メタルソー工具を、予め設定される順方向に移動させて、前記成形物の表面側を下向きに切削するとともに、前記順方向の逆方向に移動させて、前記成形物の裏面側を上向きに切削する構成であればよい。
【0018】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記ミリング加工工具が前記あり溝フライス工具である場合、当該あり溝フライス工具を、その笠状部の外周縁が前記成形物に当接するように傾斜させながら、予め設定される順方向に移動させて、前記成形物の表面側を下向きに切削するとともに、前記順方向の逆方向に移動させて、前記成形物の裏面側を上向きに切削する構成であればよい。
【0019】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記あり溝フライス工具としては、前記先端面の底刃に逃げ角が形成されているものが用いられればよく、その好ましい形状としては、例えば、前記先端面が外周縁から中心に向かって陥凹したすり鉢状を挙げることができる。
【0020】
また、前記複合材料成形物のトリミング方法においては、前記成形物が繊維強化樹脂製の部品である構成であればよい。
【0021】
さらに、本発明には、繊維強化樹脂複合材料で構成される成形物の周囲を、その表面側を当該表面に対して下向きに切削した後に、その裏面側を前記表面に対して上向きに切削することによりトリミングを行うために用いられるミリング加工工具であって、先端側が広がる円形の笠状部を有し、当該笠状部の外周面に前記切れ刃を有するとともに当該切れ刃につながる底刃を当該笠状部の先端面に有するあり溝フライス工具であり、さらに、前記先端面の底刃に逃げ角が形成されている構成のミリング加工工具も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明では、エンドミルを用いて複合材料成形物をトリミングする際に、特にエッジ部での繊維層の剥離を有効に抑制または防止することが可能なトリミング方法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は、本発明に係るトリミング方法において、複合材料成形物の表面側をミリング加工工具により下向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(b)は、裏面側をミリング加工工具により上向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(c)は、従来のトリミング方法において、複合材料成形物の表面側をミリング加工工具により上向きに切削する場合の一例を示す模式図である。
図2】(a)は、本発明の実施の形態1に係るトリミング方法において、エンドミル工具により複合材料成形物の表面側を下向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(b)は、裏面側を上向きに切削する場合の一例を示す模式図である。
図3】(a)は、本発明の実施の形態2に係るトリミング方法において、エンドミル工具により複合材料成形物の表面側を下向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(b)は、裏面側を上向きに切削する場合の一例を示す模式図である。
図4】(a)は、本発明の実施の形態3に係るトリミング方法において、メタルソー工具により複合材料成形物の表面側を下向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(b)は、裏面側を上向きに切削する場合の一例を示す模式図である。
図5】本発明の実施の形態4に係るトリミング方法に用いられる、あり溝フライス工具の構成の一例を模式的に示す概略側面図である。
図6】(a)は、図5に示すあり溝フライス工具により複合材料成形物の表面側を下向きに切削する場合の一例を示す模式図であり、(b)は、裏面側を上向きに切削する場合の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0025】
(実施の形態1)
本発明は、複合材料成形物の周囲をミリング加工工具でトリミングする際に、当該複合材料成形物の周囲の表面側を下向きに切削し、裏面側を上向きに切削するトリミング方法である。
【0026】
[複合材料成形物]
本発明でトリミングの対象となる複合材料成形物(以下、単に「成形物」と略す。)は、繊維強化樹脂複合材料(以下、単に「複合材料」と略す。)で構成されていれば、その具体的な構成は特に限定されない。代表的には、複数の繊維層が積層された多層構造を有する成形物を挙げることができるが、これに限定されず、繊維層としては、短めの繊維をランダムに絡めた不織布のような単層であってもよい。複合材料は、強化繊維材にマトリクス樹脂材を含浸させてから硬化成形したものであり、成形物が多層構造であれば、強化繊維材からなる繊維層が複数積層されることにより構成されることになる。
【0027】
強化繊維材の具体的な種類は特に限定されず、複合材料分野で公知の繊維材料を好適に用いることができる。具体的には、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、等の有機繊維;炭素繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維等の無機繊維が挙げられる。これら繊維材料は、単独で用いられてもよいし、複数種類の繊維材料を適宜組み合わせて用いられてもよい。特に好ましい一例としては炭素繊維が挙げられる。
【0028】
成形物を構成する強化繊維材は、前述したように繊維層を構成していればよく、繊維層の具体的な構成は特に限定されない。複合材料分野では、一般に、前記繊維材料から構成される組物、織物、編物、または不織布等のシート(あるいは布体)が用いられる。
【0029】
強化繊維材に含浸されるマトリクス樹脂材の具体的な構成は特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を挙げることができる。マトリクス樹脂材に含まれる熱硬化性樹脂の具体的な構成は特に限定されず、複合材料分野で公知の樹脂を好適に用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これら樹脂は単一種類のみを用いてもよいし、複数種類を適宜組み合わせて用いてもよい。また、これら熱硬化性樹脂のより具体的な化学構造も特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。また、マトリクス樹脂材に含まれる樹脂は熱可塑性樹脂等といった他の樹脂であってもよい。
【0030】
マトリクス樹脂材は、前記樹脂に加えて、公知の硬化剤、硬化促進剤、繊維基材以外の補強材または充填材、その他公知の添加剤を含んでいてもよい。これら硬化剤、硬化促進剤等の添加剤の具体的な種類、組成等についても特に限定されず、公知の種類または組成のものを好適に用いることができる。さらに、成形物に要求される物性に応じて、公知の熱可塑性樹脂を公知の組成で含んでいてもよい。
【0031】
前記強化繊維材およびマトリクス樹脂材を用いて成形物を成形する方法も特に限定されず、公知の成形方法を好適に用いることができる。代表的な一例としては、強化繊維材からなるシートにマトリクス樹脂材を含浸させて半硬化状態としたプリプレグを予め製造し、このプリプレグを所定形状となるように積層し、得られる積層体をオートクレーブにより加熱および加圧硬化する成形方法が挙げられる。
【0032】
なお、プリプレグの具体的な構成、積層条件、硬化条件(温度、圧力等)の諸条件については特に限定されず、成形物の種類あるいは用途等に応じて公知の諸条件を適用することができる。成形物に含まれる繊維層の数は特に限定されないが、一般的には、20〜25層程度であり、この場合、成形物の厚みは例えば5mm程度となる。
【0033】
本発明でトリミング対象となる成形物は、前述した複合材料で構成され、前述したような成形方法で成形されたものであれば、その用途等も特に限定されず、スポーツ用品、産業機械、車両(自動車および自転車等)、航空宇宙等の様々な分野に用いられるものであればよい。本発明を適用する上で特に好ましい用途としては繊維強化樹脂製の部品が挙げられる。例えば、繊維強化樹脂製の航空機用部品は、一般に他の分野に比べて高い強度の繊維が使用されることから、その製造過程において、エッジ部での繊維層の剥離を抑制または防止できる本発明を好適に用いることができる。
【0034】
[ミリング加工工具およびトリミング装置]
本発明で用いられるミリング加工工具は、少なくとも外周面に複数の切れ刃を有する回転工具であればよく、本発明における「ミリング加工工具」には、各種フライス工具だけでなく、旋盤等に用いられる切削工具(バイト)あるいは円板状で回転するカッター工具等も含まれるものとする。
【0035】
本発明で特に好ましく用いられるミリング加工工具としては、エンドミル工具、メタルソー工具、あり溝フライス工具等が挙げられる。このようなミリング加工工具としては、市販されている各種の工具、あるいはJIS等の工業規格で規格化されている工具を好適に用いることができる。また、これら工具の材質、寸法、その他の条件については特に限定されず、成形物の種類、形状等の諸条件に応じて公知の条件を選択することができる。
【0036】
本発明で用いられるトリミング装置についても特に限定されず、前述したエンドミル工具、メタルソー工具、あり溝フライス工具等のミリング加工工具を用いてトリミングを行うことができるものであれば、公知の多軸制御加工機、マニシングセンタ等を好適に用いることができる。
【0037】
[トリミング方法]
次に、本発明に係るトリミング方法の代表的な一例について、図1(a)〜(c)並びに図2(a),(b)を参照して具体的に説明する。
【0038】
本発明に係る成形物のトリミング方法は、図1(a)に示すように、まずは成形物20の周囲の表面20a側を、ミリング加工工具により下向きに切削し、その後に、図1(b)に示すように、当該成形物20の周囲の裏面20b側を、ミリング加工工具により上向きに切削する。
【0039】
代表的なミリング加工工具であるエンドミル工具は、その外周面に切れ刃(外周刃)を有している。この切れ刃は、エンドミル工具の長手方向に沿って設けられる直刃であればよいが、捩じれ角を有する螺旋刃であってもよい。このようなエンドミル工具を用いて、金属材料を加工する場合と同様の手法で成形物20のトリミングを行うと、図1(c)に示すように、成形物20の表面20a側のエッジ部(端部)では、図中矢印Dに示すように、ミリング加工工具の切れ刃10aによる切削は上向きとなり、繊維層21を巻き上げる方向が大きくなる。これにより、図中矢印Pに示すように、繊維層21を剥離する方向に力が加えられることになる。
【0040】
これに対して、本発明では、図1(a)の矢印Dに示すように、表面20aに対して切れ刃10aが下向きに切削するようにミリング加工工具を用いる。このように下向きの切削で切れ刃10aが成形物20の表面20aに侵入すれば、図中矢印Pで示すように繊維層21を押さえ込むように切削することになる。そのため、表面20a近傍のエッジ部での繊維層21の剥離を有効に抑制または防止することができる。
【0041】
成形物20の表面20aを下向きに切削した後、裏面20b側については、図1(b)の矢印Dに示すように、従来同様に切れ刃10aにより上向きに切削する。この場合、図中矢印Pに示すように、切れ刃10aによる切削は、裏面20bから成形物20の中間層部分に向かって巻き上げる方向に力を加えることになる。中間層部分は両面に繊維層21が重なっているので巻き上げる方向に力が加えられてもエッジ部のように剥離することがない。それゆえ、裏面20b近傍のエッジ部でも中間層部分でも繊維層21の剥離は生じることがない。
【0042】
このように、繊維層21の剥離を抑えたり防いだりできるということは、結果としてミリング加工工具の送り速度(単位時間当たりの送り量)を増加して、トリミング効率を向上することができる。さらに、送り速度の増加は、切れ刃10aと繊維層21との擦過距離を低減することにもなるので、切れ刃10aの摩耗を抑えることができ、結果としてミリング加工工具の工具寿命を延長することが可能となる。特に強化繊維材が炭素繊維であれば、その表面層がダイヤモンドに近い硬度を有するため、擦過距離が長くなると工具寿命が短くなりやすいが、本発明によれば、炭素繊維強化型の複合材料(CFRP)であっても工具寿命の低下を有効に抑制することができる。
【0043】
前述したトリミング方法のより具体的な例について説明する。本実施の形態では、例えば、図2(a),(b)に示すように、ミリング加工工具としてエンドミル工具11を用い、このエンドミル工具11を、成形物20の表面20aの広がり方向に沿って倒した状態でトリミングを行う。なお、図中Rはエンドミル工具11の回転方向を指し、本実施の形態では、エンドミル工具11は、工具の根元から先端を見たときに時計回りとなる方向に回転している。
【0044】
エンドミル工具11は、円筒状であり、外周刃11a(図2(a),(b)に示す例では直刃)を外周面に有するとともに、この外周刃11aにつながる底刃11bを先端面(底面)に有する、公知の構成となっている。図2(a),(b)に示す例では、先端を下側としたときに外周刃11aは向かって左側に捩じれていても良く、また、底刃11bは先端面で放射状に設けられているが他の形状であってもよい。
【0045】
代表的なエンドミル工具11としては、JIS B0172−4201〜4205等に規定されるものを挙げることができ、より具体的一例としては、三菱マテリアル株式会社製、商品名:DF−4JCのダイヤモンドコートエンドミル(出典:「2011−2012総合カタログ 旋削工具 ミーリング工具 穴あけ工具」、三菱マテリアル株式会社)を挙げることができる。
【0046】
そして本実施の形態では、エンドミル工具11を倒して先端面を成形物20の周囲に向けてトリミングを行うので、先端面(底面)の底刃11b(底刃)をトリミングに用いることになる。図2(a)では、図中記号G1で示すように、紙面の手前に向かう方向が順方向の送り方向であり、この送り方向に倒したエンドミル工具11を回転移動させながら、先端面の底刃11bにより表面20a側を当該表面20aに対して下向きに切削する。その後、図2(b)において記号G2で示すように、送り方向を逆方向(紙面の奥に向かう方向)とし、回転方向Rは順方向と同じままで、倒したエンドミル工具11を回転移動させながら、先端面の底刃11bにより裏面20b側を表面20aに対して上向きに切削する。
【0047】
なお、エンドミル工具11を倒した状態とは、本実施の形態では成形物20の表面20aの広がり方向に沿った状態、すなわち、図2(a),(b)に示すような水平方向となっているが、この状態に限定されず、その先端面が前記成形物のトリミング箇所に当接するように倒した状態であればよい。したがって、エンドミル工具11は、水平方向に倒れた状態であってもよいし、水平方向から多少傾斜して倒れた状態であってもよい。言い換えれば、エンドミル工具11を倒した状態は、底刃11bの具体的形状、成形物20の周囲端面の具体的形状等のトリミング条件に応じて適宜設定可能である。
【0048】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、ミリング加工工具として一般的なエンドミル工具11を用い、当該エンドミル工具11を倒して先端面の底刃11bを用いてトリミングを行ったが、本実施の形態2では、同じくエンドミル工具11を用いるものの、当該エンドミル工具11を倒さずに立てた状態で、外周刃11aを用いてトリミングを行う。本実施の形態に係るトリミング方法の一例について、図3(a),(b)を参照して具体的に説明する。
【0049】
図3(a)に示すように、本実施の形態では、エンドミル工具11を、成形物20の表面20aに対して傾斜させて立てた状態で予め設定される順方向に移動させ、これによって表面20a側を切削する。
【0050】
なお、図3(a)では、成形物20の手前側の端面をトリミングする状態を示しており、図中向かって右側(ブロック矢印G1方向)が順方向の送り方向であり、エンドミル工具11は順方向に傾斜している。また、エンドミル工具11の回転方向Rも前記実施の形態1と同様に、根元から見たときに時計回りとなる方向となっている。このように傾斜して立てた状態で順方向にエンドミル工具11を回転移動させ、外周刃11aにより成形物20の表面20a側を下向きに切削する。
【0051】
また、本実施の形態においては、図3(a)において点線のブロック矢印G2で示すように、成形物20の表面20a側を切削する場合に、エンドミル工具11の送り方向を順方向ではなく逆方向にしてもよい。エンドミル工具11の送り方向は、種々の条件に応じて、順逆の好ましい方向を適宜選択することができる。
【0052】
その後、図3(b)に示すように、エンドミル工具11の傾斜方向を逆方向とした以外は、送り方向を順方向(ブロック矢印G1方向)のまま、回転方向Rも順方向のままで、エンドミル工具11を回転させて移動させながら、外周刃11aにより成形物20の裏面20b側を上向きに切削する。
【0053】
ここで、成形物20の裏面20b側を切削する場合のエンドミル工具11の送り方向は、前述した表面20a側を切削する場合の送り方向と同様に、必ずしも順方向に限定されるものではなく、図3(b)において点線のブロック矢印G2で示すように、逆方向であってもよい。送り方向は、種々の条件によって順逆の好ましい方向を適宜選択することができる。
【0054】
なお、エンドミル工具11の傾斜角度は、外周刃11bの具体的形状、成形物20の周囲端面の具体的形状等のトリミング条件に応じて適宜設定可能であり、特に限定されるものではない。
【0055】
(実施の形態3)
前記実施の形態1および2では、ミリング加工工具として一般的なエンドミル工具11を用いてトリミングを行っていたが、本実施の形態3では、円板状のメタルソー工具を用いている。本実施の形態に係るトリミング方法の一例について、図4(a),(b)を参照して具体的に説明する。
【0056】
図4(a),(b)に示すように、メタルソー工具12は、円板状であり、外周面に複数の突出刃12aを有する構成である。なお、突出刃12aの数、突出量(刃先の長さ)等については特に限定されず、成形物20の材質、成形物20の周囲の状態等の諸条件に応じて適宜設定される。代表的なメタルソー工具12としては、JIS B0172−4112に規定されるものを挙げることができ、より具体的一例としては、オーエスジー株式会社製、商品名:F2052 P2S90NまたはF2052 P3T90N等のフルスロットカッタ(千鳥刃)(出典:「ミーリング加工工具 2011−2012」カタログ、オーエスジー株式会社)を挙げることができる。
【0057】
トリミングに際しては、図4(a)に示すように、メタルソー工具12を、順方向(図4(a)では記号G1で示す紙面の手前に向かう方向)の送り方向に回転移動させながら、成形物20の表面20a側を下向きに切削する。このとき、メタルソー工具12の回転方向Rも前記実施の形態1または2と同様に、根元から見たときに時計回りとなる方向となっている。その後、図4(b)に示すように、送り方向を逆方向とし(記号G2で示す紙面の奥に向かう方向)、回転方向Rは順方向と同じままで、メタルソー工具12を逆方向に回転移動させ、成形物20の裏面20b側を上向きに切削する。
【0058】
本実施の形態によれば、前記実施の形態1または2と同様に、トリミングに際してエッジ部の繊維層21の剥離を抑制または防止できるとともに、トリミング効率を向上することができ、また工具寿命を延長することもできるが、さらに、トリミングに際して複合材料の除去率を小さくすることができる。それゆえ、成形物20の製造に際して複合材料の無駄を少なくすることができる。また、突出刃12aの数を増減させることが可能であるので、例えば突出刃12aの数を増やすことで工具寿命を延ばすことが可能となり、エンドミル工具11よりもさらなる長寿命化を図ることができる。
【0059】
なお、実施の形態1または2では、円筒状のミリング加工工具を用いていることから、直線形状、凸形状、および凹形状のいずれの形状のトリミングにも好適に対応することができるが、本実施の形態では、円板状のメタルソー工具12を用いているため、直線形状および凸形状のトリミングについては好適に対応できるものの、凹形状のトリミングについては、凹形状の寸法、曲線の急峻度等に応じて十分に対応できない場合がある。
【0060】
(実施の形態4)
前記実施の形態1または2では円筒状のミリング加工工具を用い、前記実施の形態3では、円板状のミリング加工工具を用いていたが、本実施の形態4では、先端側が笠状に大きく開いたあり溝フライス工具を用いている。本実施の形態に係るトリミング方法の一例について、図5および図6(a),(b)を参照して具体的に説明する。
【0061】
図5に示すように、あり溝フライス工具13は、先端側が広がる円形の笠状部13aを有し、この笠状部13aの外周面に外周刃13bを有し、さらに笠状部13aの先端面には、外周刃13bにつながる底刃13cを有している。この外周刃は、前記実施の形態1のエンドミル工具11の外周刃11aと同様に、直刃であってもよいし螺旋刃であってもよい。また、底刃13cも放射状であればよいが、その他の形状であってもよい。このように、あり溝フライス工具13は、エンドミル工具11の先端側が「キノコ状」に開いたような形状を有している。
【0062】
ここで、図5に示すように、あり溝フライス工具13の先端面は、外周縁から中心に向かって陥凹したすり鉢状に構成されていることが好ましい。また、先端面に設けられている底刃13cには、第一逃げ角θ1 (二番角)および第二逃げ角θ2 (三番角)が形成されていることが好ましい。なお、第一逃げ角θ1 (二番角)および第二逃げ角θ2 (三番角)の具体的な角度は特に限定されず、切削条件等に応じて好適な範囲内に設定することができる。また、第二逃げ角θ2 (三番角)は無くてもよい。したがって、あり溝フライス工具13においては、先端面の底刃に逃げ角が形成されていればよく、その逃げ角の具体的な構成は特に限定されない。
【0063】
具体的なあり溝フライス工具13としては、JIS B0172−4225に規定されるものを挙げることができ、より具体的一例としては、米国エム・エー・フォード社(M.A. Ford Mfg. Co., Inc.)製、SERIES 50 Back Taper(出典:“M.A. FORD CUTTING TOOLS”1994年カタログ)を挙げることができる。
【0064】
トリミングに際しては、図6(a)の上図に示すように、あり溝フライス工具13を、笠状部13aの外周縁が成形物20に当接するように傾斜させた状態(送り方向の周りに回転させた傾き角度を与えた状態)とし、順方向(図6(a)の上図では記号G1で示す紙面の手前に向かう方向)の送り方向に回転移動させながら、成形物20の表面20a側を下向きに切削する。このとき、あり溝フライス工具13の回転方向Rも前記実施の形態1〜3と同様に、根元から見たときに時計回りとなる方向となっている。
【0065】
その後、図6(b)の上図に示すように、送り方向を逆方向とし(記号G2で示す紙面の奥に向かう方向)、前記順方向への移動時と同じ傾斜状態(送り方向の周りに回転させた傾き角度を与えた状態)で、回転方向Rは順方向と同じままで、あり溝フライス工具13を逆方向に回転移動させ、成形物20の裏面20b側を上向きに切削する。
【0066】
ここで、図6(a),(b)の上図に示すように、あり溝フライス工具13は、外周縁を成形物20に当接するように傾斜させながら、さらに、成形物20の表面20aの法線方向H(表面20aに対して垂直となる方向)周りとなる矢印D方向に、図6(a),(b)の下図に示すように角度αとなるように少し回転させておくことが好ましい。これにより、繊維層21の剥離をより一層有効に抑制または防止することが可能になる。
【0067】
角度αの具体的な値は特に限定されないが、図6(a),(b)の上図において成形物20の表面20aの法線Hを基準として、矢印Dの方向が法線ベクトル方向(図6(a)の下から上へ向かう方向)に見て時計周り(右回り)となるときをプラスとし、矢印Dの方向が反時計回り(左回り)となるときをマイナスとすれば、表面20a側を切削する場合には、図6(a)の下図に示すように、角度αがマイナス(α<0)となるように(言い換えれば、反時計回りに角度αを成すように)回転状態を設定し、裏面20b側を切削する場合には、図6(b)の下図に示すように、角度αがプラス(α>0)となるように(言い換えれば、時計周りに角度αを成すように)回転状態を設定すればよい。
【0068】
このように、角度αの回転を与える場合には、たとえあり溝フライス工具13の先端面が外周縁から中心に向かって少し陥凹したすり鉢状に構成されていても、この先端面の底刃13cでも切削を行う必要がある。そのため、あり溝フライス工具13の先端面は陥凹したすり鉢状に構成する必要はない。なお、トリミングする際の送り方向G1、G2が図6に示すように一定ではなく、変化する場合(例えばトリミング形状が曲線の場合)には、瞬間の送り方向に対して角度α=0の状態であっても、上記先端面の底刃13cで切削を行う必要が生じる。
【0069】
もちろん角度α=0の状態でも切削は可能であるが、繊維層21の剥離をより一層有効に抑制または防止する上では、あり溝フライス工具13は、傾斜させるだけでなく角度αで回転させることが好ましい。角度αの一例としては、例えばα=±10°を挙げることができるが、これに限定されず、切削条件等に応じて好適な範囲内に設定することができる。
【0070】
なお、図6(a),(b)は、あり溝フライス工具13のトリミング時の回転方向R、角度αを成す回転状態、および送り方向G1またはG2を説明する便宜上、成形物20とあり溝フライス工具13とは模式的な位置関係で図示している。したがって、実際のトリミング時に際しては、あり溝フライス工具13は、成形物20に対して前述した条件を満たすように位置していればよく、図6(a),(b)に示す模式的な位置関係に限定されないことは言うまでもない。
【0071】
本実施の形態によれば、前記実施の形態1〜3と同様に、エッジ部の繊維層21の剥離を抑制または防止でき、トリミング効率を向上することができ、工具寿命を延長することもできる。しかも、本実施の形態は、あり溝フライス工具13を用いることで、笠状部13aによりトリミングを行うことで複合材料の除去率を抑えることができるとともに、比較的大きな半径の凹形状のトリミングにも好適に対応することが可能となる。
【0072】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、CFRP等の繊維強化樹脂複合材料からなる成形物をトリミングする分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
10a (ミリング加工工具の)切れ刃
11 エンドミル工具
11a 外周刃(外周面の切れ刃)
11b 底刃
12 メタルソー工具
12a 突出刃
13 あり溝フライス工具
13a 笠状部
20 複合材料成形物
20a 表面
20b 裏面
21 繊維層

図1
図2
図3
図4
図5
図6