特許第5937949号(P5937949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5937949エレベータの給油装置及びエレベータの給油方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5937949
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】エレベータの給油装置及びエレベータの給油方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/12 20060101AFI20160609BHJP
   B66B 7/04 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   B66B7/12 A
   B66B7/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-236677(P2012-236677)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84226(P2014-84226A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】八巻 正光
(72)【発明者】
【氏名】仙田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 厚史
(72)【発明者】
【氏名】君島 裕太
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−264857(JP,A)
【文献】 実開昭61−189071(JP,U)
【文献】 特開2011−051689(JP,A)
【文献】 特開平05−229759(JP,A)
【文献】 実開平06−037258(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内を昇降する昇降体と、この昇降体を上下方向に案内するガイドレールと、前記昇降体に取り付けられ、前記ガイドレールの摺動面に摺接するガイドシューとを有するエレベータに備えられ、前記ガイドレールに潤滑油を供給するエレベータの給油装置において、
それぞれ前記昇降体の前記ガイドレールに対向する側に設けられ、所定間隔で上下に配置された下側部材及び上側部材と、
前記下側部材と前記上側部材との間に設置されて前記ガイドレールに接触し、前記潤滑油が含油された塗布パッドとを備え、
前記下側部材及び前記上側部材の少なくとも一方は、前記ガイドシューを前記昇降体に取り付ける既設部材から成ることを特徴とするエレベータの給油装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータの給油装置において、
前記昇降体は、乗りかごまたは釣り合い重りから成り、
前記ガイドシューは、含油部材であるオイルレスシューから成り、
前記塗布パッドは、前記ガイドレールを挟み込む開口部を有する不織布から成り、
前記下側部材は、前記ガイドレールに向って延設され、前記塗布パッドが載置される平板部を有する下架台から成り、
前記上側部材は、前記ガイドレールに向って延設され、前記下架台の前記平板部に対向する平板部を有する上架台から成り、
前記下架台の前記平板部と前記上架台の前記平板部との間に、前記開口部によって前記ガイドレールを挟み込むようにして前記塗布パッドを設置したことを特徴とするエレベータの給油装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベータの給油装置において、
前記塗布パッドの前記開口部の幅寸法を、前記ガイドレールの前記摺動面を含む部分の幅寸法よりもわずかに小さくなるように設定し、前記塗布パッドの前記開口部の奥行寸法を、前記ガイドレールの前記摺動面の奥行寸法よりもわずかに大きくなるように設定し、
前記下架台と前記上架台との間の前記所定間隔を、前記塗布パッドの全体奥行寸法の1/2以下に設定したことを特徴とするエレベータの給油装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベータの給油装置において、
前記塗布パッドの前記開口部の前記幅寸法を、前記ガイドレールの前記摺動面に摺接する部分の開口部寸法に比べて、前記ガイドレール側に位置する先端部分の開口部寸法が小さくなるように設定したことを特徴とするエレベータの給油装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベータの給油装置を用いて、昇降体を上下方向に案内するガイドレールに潤滑油を供給するエレベータの給油方法において、
前記昇降体の前記ガイドレールに対向する側にそれぞれ設けられ、所定間隔で配置された下側部材と上側部材との間に、前記潤滑油が含油され前記ガイドレールに接触する塗布パッドを設置し、
前記塗布パッドを前記ガイドレールに接触させた状態で、前記昇降体を最上階と最下階との間で往復運転させて前記塗布パッドの潤滑油を前記ガイドレールに塗布し、
塗布後に前記塗布パッドを前記下側部材と前記上側部材との間から取り外すようにしたことを特徴とするエレベータの給油方法
【請求項6】
請求項5に記載のエレベータの給油方法において、
前記昇降体は、乗りかごまたは釣り合い重りから成り、
前記エレベータは、前記昇降体に取り付けられ、前記ガイドレールの摺動面に摺接する含油部材であるオイルレスシューを有し、
前記塗布パッドは不織布から成り、前記ガイドレールを挟み込む開口部を有することを特徴とするエレベータの給油方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗りかごまたは釣り合い重りから成る昇降体を上下方向に案内するガイドレールに、潤滑油を供給するエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗りかごまたは釣り合い重りから成る昇降体には、昇降路内に立設されたガイドレールの軌道に沿って当該昇降体を走行させる案内装置としてガイドシューが設けられている。このガイドシューは、ガイドレール上を摺動することから摺動時に発生する振動等がエレベータの乗り心地に影響する。そのために、従来のエレベータにあっては潤滑油供給装置を常設し、ガイドレールに常に潤滑油を供給することでガイドレールに対する昇降体の摺動を円滑にしていた。また、それと同時にガイドレールに対する防錆効果も得ていた。
【0003】
ところが、上述した構成の従来技術では、潤滑油を補充する手間や、潤滑油が飛散して昇降路及び乗りかご等の昇降体を潤滑油で汚損させてしまう等の問題があった。このようなことから従来、特許文献1に、ガイドシューを含油樹脂等で構成し、ガイドシュー自体の潤滑性を向上させて、潤滑油の常時供給を不要とすることができるオイルシューが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−189071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるオイルレスシューをガイドシューとした場合には、ガイドシューとガイドレールの摺動面との接触部分に対しては微量の油分が付着してオイルレスシューの摺動を円滑にしつつ防錆効果も得られる。しかし、オイルレスシューとガイドレールの摺動面との接触部分以外の部分には油分が付着しないため、それらの部分に錆が発生し、昇降路内の美観を損ねてしまう問題がある。また、ガイドレールから錆が剥がれ落ちてオイルレスシューとガイドレールの摺動面との間に入り込み、オイルレスシュー及びガイドレールの摩耗を促進させる虞があり、また、剥がれ落ちた錆が昇降路内の各機器に入り込み、該当する機器の劣化や故障を引き起こす虞があった。
【0006】
このようなことから、ガイドシューとしてオイルレスシューを設けるようにしたエレベータにあっては、所定期間毎に、例えば数年毎に防錆効果のある潤滑油を塗布することが必要になる。この塗布作業は、潤滑油を染み込ませたウェスを人手でガイドレールに擦りつけるようにして行っている。したがって、作業効率の向上を見込めないものであった。なお、オイルレスシューを備えたエレベータにあって、前述のような人手による塗布作業に代えて、従来から用いられている前述の潤滑油供給装置を昇降体に取り付け、昇降体を昇降させて潤滑油供給装置の油をガイドレールに自動的に供給してガイドレールの摺動面以外の部分も含めて塗布することが考えられる。しかし、このように潤滑油供給装置を設けることは設備コスト、設置コストが増加し、実用性の点で問題がある。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実情からなされたもので、その目的は、作業効率良く、また低コストでガイドレールに潤滑油を塗布することができるエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータの給油装置は、昇降路内を昇降する昇降体と、この昇降体を上下方向に案内するガイドレールと、前記昇降体に取り付けられ、前記ガイドレールの摺動面に摺接するガイドシューとを有するエレベータに備えられ、前記ガイドレールに潤滑油を供給するエレベータの給油装置において、それぞれ前記昇降体の前記ガイドレールに対向する側に設けられ、所定間隔で上下に配置された下側部材及び上側部材と、前記下側部材と前記上側部材との間に設置されて前記ガイドレールに接触し、前記潤滑油が含油された塗布パッドとを備え、前記下側部材及び前記上側部材の少なくとも一方は、前記ガイドシューを前記昇降体に取り付ける既設部材から成ることを特徴としている。
【0009】
また、前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータの給油方法は、前述のエレベータの給油装置を用いて、昇降体を上下方向に案内するガイドレールに潤滑油を供給するエレベータの給油方法において、前記昇降体の前記ガイドレールに対向する側にそれぞれ設けられ、所定間隔で上下に配置された下側部材と上側部材との間に、前記潤滑油が含油され前記ガイドレールに接触する塗布パッドを設置し、前記塗布パッドを前記ガイドレールに接触させた状態で、前記昇降体を最上階と最下階との間で往復運転させて前記塗布パッドの潤滑油を前記ガイドレールに塗布し、塗布後に前記塗布パッドを前記下側部材と前記上側部材との間から取り外すようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法は、下側部材と上側部材との間に設置され、潤滑油が含油された塗布パッドによって作業効率良く、また低コストでガイドレールに潤滑油を塗布することができ、実用性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エレベータの基本構成を示す図である。
図2】本発明者らが先に考案したエレベータの給油装置の参考例の要部構成を示す斜視図である。
図3図2に示す参考例に備えられる塗布パッドを示す図で、(a)図はガイドレールと、塗布パッドの第1例とを対向させて示した平面図、(b)図は塗布パッドの第2例を示す平面図である。
図4図2に示す参考例に備えられる塗布パッドの挙動を説明する図で、(a)図は下架台のみを設けた場合における昇降体の上昇時の塗布パッドの挙動を示す図、(b)図は下架台のみを設けた場合における昇降体の下降時の塗布パッドの挙動を示す図、(c)図は図2に示す参考例に係るエレベータの給油方法にあって、昇降体の下降時の塗布パッドの挙動を示す図である。
図5図2に示す参考例における下架台と上架台の間の間隔Lと、塗布パッドの全体奥行寸法lとの寸法関係を示す図で、(a)図は第1例を示す図、(b)図は第2例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、エレベータは、昇降路7に配置される昇降体すなわち乗りかご1及び釣り合い重り2と、これらの乗りかご1及び釣り合い重り2を上下方向に案内するガイドレール8と、乗りかご1と釣り合い重り2とを連結するロープ3と、例えば機械室20に配置され、ロープ3が巻き掛けられる巻上機4及びそらせ車5とを備えている。巻上機4を回転駆動させることによりロープ3が移動し、乗りかご1及び釣り合い重り2がガイドレール8に沿って安定した状態で昇降するようになっている。
【0014】
前述したように従来にあっては、例えば潤滑油供給装置9が乗りかご1及び釣り合い重り2に設けられ、潤滑油供給装置9から常時供給される潤滑油がガイドレール8に塗布されるようになっている。また、乗りかご1及び釣り合い重り2にはそれぞれガイドレール8の摺動面に摺接するガイドシュー6が備えられている。なお、潤滑油供給装置9はガイドシュー6を鉛直上方から見たときに、その正射影が重なる状態で昇降体に備えられるのが一般的であった。
【0015】
本実施形態に係る給油装置が備えられるエレベータは、例えばガイドシュー6としてオイルレスシューを備えている。そのため本実施形態では、常時潤滑油をガイドレール8に供給する潤滑油供給装置9は備えていない。本実施形態について述べる前に、本発明者らが先に考案した参考例について、図2図5に基づいて説明する。
【0016】
図2に示すように、本発明者等が先に考案したエレベータの給油装置の参考例は、乗りかご1及び釣り合い重り2のそれぞれのガイドレール8に対向する側に設けられ、所定間隔で上下に配置された下側部材及び上側部材を備えている。また、この参考例は、下側部材と上側部材との間に配置されてガイドレール8に接触し、潤滑油が含油された塗布パッド10を備えている。
【0017】
塗布パッド10は、ガイドレール8を挟み込む開口部11を有する例えば不織布から成っている。下側部材は、ガイドレール8に向かって延設され、塗布パッド10が載置される平板部を有する下架台12から成っている。上側部材は、ガイドレール8に向かって延設され、下架台12の平板部に対向する平板部を有する上架台13から成っている。例えば下架台12及び上架台13は、乗りかご1及び釣り合い重り2の該当するものに対して着脱が可能に設けられている。これらの下架台12と上架台13との間に、開口部11によってガイドレール8を挟み込むようにして塗布パッド10を設置してある。
【0018】
図3(a)図に示すように、第1例として塗布パッド10は、開口部11の幅寸法11aをガイドレール8の摺動面を含む部分の幅寸法8aよりもわずかに小さくなるように設定し、開口部11の奥行寸法11bをガイドレール8の摺動面の奥行寸法8bよりもわずかに大きくなるように設定してある。本発明者らの試験結果から、塗布パッド10の開口部11の幅寸法11aをガイドレール8の幅寸法8aの95%〜98%とすると、ガイドレール8に対する塗布パッド10の密着性を確保でき、しかも均一で漏れの無い潤滑油の塗布を実現できることが確認されている。なお試験結果から、塗布パッド10の開口部11の幅寸法11aをガイドレール8の幅寸法8の95%未満とすると、塗布パッド10とガイドレール8との間の摩擦力が不要に大きくなってしまうことが確認されている。一方、開口部11の幅寸法11aを、幅寸法8aの98%を超えるようにすると、塗布パッド10とガイドレール8との間に十分な密着性を確保し難くなることが確認されている。
【0019】
下架台12と上架台13を設けることについては、例えば図4(a)(b)に示すように、下架台12だけを設け、下架台12に塗布パッド10を載置した場合には、図4(a)に示すように、上昇時には下架台12に支えられながら上昇し、ガイドレール8に潤滑油を良好に塗布できる。しかし図4(b)図に示すように乗りかご1あるいは釣り合い重り2の下降時では、塗布パッド10が潤滑油を介して下架台12の一部に張り付いたりすると共に、塗布パッド10の開口部11aとガイドレール8の摺動面との摩擦力のために、下架台12の下降に引きずられるかたちで開口部11の先端側は上方に残り、開口部11の末端側は下方に下がった状態となるような位置ずれを生じる。この位置ずれが大きくなると塗布パッド10が脱落する虞がある。図4(c)図に示すように、下架台12に対向させて上架台13を設けた本実施形態では、前述の位置ずれを少なく抑え、位置ずれによる塗布パッド10の脱落を防ぐことができる。
【0020】
なお、塗布パッド10の形状を、図3(b)図に示す第2例のように設定してもよい。この図3(b)図に示す塗布パッド10は、開口部11の幅寸法を、ガイドレール8の摺動面に接触する部分の開口部寸法に比べて、ガイドレール8側に位置する先端部の開口部寸法が小さくなるように設定したものである。このように設定した塗布パッド10では、位置ずれをさらに抑え、脱落を確実に防ぐことができる。
【0021】
なお、前述した塗布パッド10の奥行寸法11bを、ガイドレール8の摺動面の奥行寸法8bよりも5mm長くした状態から小さくしていくと、次第に大きな傾きの位置ずれに対応できなくなってしまうことを本発明者らは確認している。この場合に、位置ずれに対応するためには、下架台12と上架台13との間隔を狭くしなければならないが、そのように狭くすると塗布パッド10を下架台12と上架台13との間に設置し難くなる。逆に、奥行寸法11bが奥行寸法8bよりも10mmを超える程になると大きな傾きの位置ずれに対応できるようになっていくものの、塗布パッド10の形状維持が難しくなったり、奥行寸法11bと奥行寸法8bとの差である余裕代が過度に大きくなって不要に他の機器に接触して問題を起こすことも考えられる。さらに奥行寸法11bを奥行寸法8bよりも15mmを超える程長くすると、余裕代を長めにすることの意義が略失われてしまう。したがって、塗布パッド10の開口部11の奥行寸法11bを、ガイドレール8の摺動面の奥行寸法8bよりも1〜15mm程長く、好ましくは5〜10mm程度長く設定するとよい。このように塗布パッド10の開口部11の奥行寸法11bを設定することにより、塗布パッド10がガイドレール8の摺動面に対して脱落する方向に位置ずれしても、塗布パッド10を極力脱落させずにガイドレール8の摺動面に接触した状態を維持できる。
【0022】
なお、塗布パッド10を図3(b)図に示すように設定する場合は、前述した開口部11の奥行寸法11bとガイドレール8の摺動面の奥行寸法8bとの関係を考慮した上で、開口部11の先端部を狭める形状に設定するとよい。
【0023】
また、下架台12と上架台13との間隔は、小さいほど塗布パッド10の位置ずれを抑制できるものである。しかし、小さすぎると塗布パッド10を下架台12と上架台13との間に設置し難くなり、また、取り外し難くなる。一方、下架台12と上架台13との間隔が大きすぎると、塗布パッド10の位置ずれを抑制する効果が得られなくなり、さらには大きく傾いた塗布パッド10が下架台12上で立ち上がった状態に近づき、ガイドレール8との摩擦と上架台13による押し下げでぐしゃぐしゃに変形したりすることも考えられる。これについて本発明者らは、試験結果によって例えば図5(a)図の第1例に示すように、下架台12の平板部と上架台13の平板部との間隔Lを、塗布パッド10の全体奥行寸法lの1/2以下に設定することが有効であることを確認している。さらに本発明者らは、下架台12と上架台13との間隔Lを塗布パッド10の全体奥行寸法lの1/3〜1/2とすると、塗布パッド10の脱落を確実に防止しつつ、塗布パッド10の設置及び取り外しの良好な作業性を確保できることを確認している。
【0024】
なお、図5(a)図に示す第1の例では、下架台12の平板部と上架台13の平板部とが平行となるように構成してある。これとは異なって、同図5(b)図の第2例で示すように、下架台12を下方に向かうように例えば5〜10°傾け、また上架台13を上方に向けて5〜10°傾けるように構成してもよい。このように構成したものでは、乗りかご1及び釣り合い重り2が下方に向かって動く時には上架台13の傾きとガイドレール8との摺動面での摩擦により、同様に、上方に向かって動く時は下架台12の傾きとガイドレール8との摺動面での摩擦によって、塗布パッド10がよりガイドレール8に密着しようとする方向に力が働くので、塗布パッド10の位置ずれを矯正でき、より好ましい。このように構成する場合には、下架台12の平板部の先端と上架台13の平板部の先端との間隔Lが、塗布パッド10の全体奥行寸法lの1/2以下に、好ましくは1/3〜1/2の範囲内になるようにすると都合が良い。
【0025】
以上のように構成される本発明者等が先に考案した参考例に係る給油装置を備えたものにあって、オイルレスシューが摺接するガイドレール8の摺動面以外の部分を含めた潤滑油の塗布を行うに際しては、例えば図4(c)図に示すように、乗りかご1または釣り合い重り2の該当するものに、下架台12と上架台13とを所定間隔で上下に取り付け、下架台12と上架台13との間に、潤滑油が含油されガイドレール8に接触する塗布パッド10を設置する。そして、塗布パッド10をガイドレール8に接触させた状態で、昇降体すなわち乗りかご1または釣り合い重り2を最上階と最下階との間で往復させて、塗布パッド10の潤滑油をガイドレール8に塗布する。塗布後には、塗布パッド10を下架台12と上架台13との間から取り外し、最後に下架台12及び上架台13を該当する昇降体から取り外す。このようにして、下架台12、上架台13、及び塗布パッド10を備えるだけの簡単な構造でガイドレール8に潤滑油を塗布することができる。なお、下架台12と上架台13を取り外さず、次回のガイドレール8への潤滑油の塗布のために該当する昇降体に取り付けたままとしておいてもよい。
【0026】
参考例に係るエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法によれば、下架台12と上架台13との間に設置され、オイルレスシューが接触しないガイドレール8の部分も含めて、作業効率良く、また低コストで潤滑油を塗布することができ、実用性に富む。
【0027】
発明に係るエレベータの給油装置及びエレベータの給油方法の一実施形態では、前述した参考例にあっては乗りかご1及び釣り合い重り2に着脱可能な下架台12及び上架台13を設けた構成にしてあるが、下架台12に相当する下側部材、及び上架台13に相当する上側部材の少なくとも一方を、乗りかご1または釣り合い重り2に備えられている既設部材によって構成する。すなわち本実施形態では、下側部材及び上側部材の少なくとも一方を、オイルレスシューを昇降体である乗りかご1や釣り合い重り2に取り付ける既設部材によって構成する。このように構成したものでは、前述した参考例に比べて効率よく塗布パッド10を設置でき、より低コストでガイドレール8に潤滑油を塗布することができる。
【0028】
なお、前述した参考例では、従来から知られている潤滑油供給装置を備えず、ガイドシュー6としてオイルレスシューを備えたエレベータに設けた構成にしてある。しかし、ガイドシュー6をオイルレスシューとせずに通常備えられるガイドシュー6とし、従来から知られている潤滑油供給装置を備えているエレベータにあっても、例えば潤滑油供給装置の故障時などに応急的に本実施形態を活用することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 乗りかご(昇降体)
2 釣り合い重り(昇降体)
6 ガイドシュー
7 昇降路
8 ガイドレール
8a 幅寸法
8b 奥行寸法
10 塗布パッド
11 開口部
11a 幅寸法
11b 奥行寸法
12 下架台(下側部材)
13 上架台(上側部材)
図1
図2
図3
図4
図5