(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンドソーム溶解物質を、生体活性物質、およびヒアルロン酸とフラボノイドとの結合体と合わせて懸濁液を形成させる段階を含み、粒子がエンドソーム溶解物質をさらに含む、請求項25〜33のいずれか一項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0044】
詳細な説明
1つの局面においては、溶液中の不混和性粒子の懸濁液であって、粒子が生体活性物質と;ヒアルロン酸とフラボノイドとの複数の結合体との集塊を含み;粒子が平均で直径約15nm〜約300nmであり、かつ生体活性物質がフラボノイドによって、放出可能なように粒子中に保たれている懸濁液が提供される。
【0045】
本明細書で用いる場合、懸濁液とは、粒子が媒質、好ましくは液体の全体にわたって分散している異種混交的な混合物のことを指す。理解されるであろうが、懸濁液の粒子は媒質から沈降してもよいが、例えば混合物の撹拌を通じて再分散させることができる。本明細書で用いる場合、懸濁液は、直径が1マイクロメートルを上回る粒子を含む混合物には限定されず、直径が15〜300nmである粒子を含む、直径が1マイクロメートル未満である粒子を含む混合物を範囲に含む。
【0046】
本明細書で用いる場合、集塊とは、分子、部分または化合物の混合物または凝集物のことを指す。
【0047】
本明細書記載の粒子は、粒子中に含まれる生体活性物質の、細胞への送達をもたらしうる。さらに、本明細書記載の粒子が、粒子中に含まれる生体活性物質の、癌細胞への標的化送達をもたらしてもよい。本粒子中にヒアルロン酸(HA)を含めることにより、HAと結合するとともに、結腸癌細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、肝癌細胞および膵癌細胞を含む多くの種類の癌細胞で過剰発現される、CD44受容体に対するアクティブターゲティング配列が得られる
7,8。そのため、本明細書で提供される粒子は、生体活性物質の送達のためのCD44受容体を過剰発現する癌細胞を特異的に標的とすることができる。特定の態様において、生体活性物質は抗癌薬である。
【0048】
(-)-没食子酸エピガロカテキン(EGCG)などのフラボノイド類は、イオン結合または疎水結合などの非共有的な可逆的結合の形成を通じてタンパク質と結合する能力を有する
11,12。このため、本明細書記載の粒子において、生体活性物質を、疎水結合、水素結合またはイオン結合などの非共有的結合を含む、フラボノイドと生体活性物質との間の相互作用によって、放出可能なように粒子中に保つことができる。生体活性物質を粒子中に保たせるためのそのような非共有的結合の使用により、生体活性物質の三次構造を非可逆的に変化させ、それ故にその活性を非可逆的に変化させる恐れのある化学的コンジュゲーションの必要がなくなる。さらに、そのような非共有的結合は、粒子が本明細書記載の懸濁液中にある時には生体活性物質を粒子中に保つ一方で、生体活性物質が細胞に送達されると直ちに粒子からの生体活性物質の放出が容易に達成されるようにする。
【0049】
したがって、本懸濁液の1つの態様において、生体活性物質はフラボノイドによって、放出可能なように粒子中に保たれている。特定的な態様において、生体活性物質は、生体活性物質とフラボノイドとの間の非共有的結合を通じて、放出可能なように粒子中に保たれている。別の態様において、非共有的結合は疎水結合、イオン結合または水素結合であってよい。ある態様において、フラボノイドおよび生体活性物質との間の非共有的結合は、本懸濁液中にある時には生体活性物質を粒子中に保たせるが、生体活性物質の細胞への送達後には生体活性物質を粒子から放出させる。
【0050】
特定の態様において、生体活性物質はフラボノイドに対する親和性を有し、その結果、生体活性物質は他の化合物、分子または構成要素に対するよりもフラボノイドと選好的に相互作用または結合する。例えば、生体活性物質は、HAに対するよりもフラボノイドに対してより高い親和性を有する。したがって、ある態様において、生体活性物質は、生体活性物質が粒子中に選好的に保たれるように、フラボノイドと選好的に、しかし放出可能なように相互作用する。
【0051】
本明細書で用いる場合、「放出可能なように保たれる」とは、生体活性物質がその後に粒子から放出されうるような様式での、生体活性物質の本粒子中への保持のことを指す。ある態様において、生体活性物質は、フラボノイドと生体活性物質との間の、例えば非共有的結合を含む相互作用の破壊によって、粒子から放出される。
【0052】
ある態様において、本粒子中でのフラボノイドと生体活性物質との間の相互作用は、フラボノイドおよび生体活性物質が相互作用して複合体を形成するような、フラボノイドと生体活性物質との間の複合体生成によって特徴づけることができる。本明細書で用いる場合、「複合体」とは、構成要素のランダムな会合ではなく、特異的相互作用を通じての構成要素の会合によって形成される実体のことを指す。当業者には理解されるであろうが、複合体は異なる複数の相互作用を含んでもよいが、個々の複合体に含まれる相互作用は、相互作用に関与する構成要素または構成要素の一部、さらには形成される相互作用または結合の種類によって規定されるいくつかの特定の種類の相互作用に限定される。このため、特定の態様においては、本明細書記載の粒子中で、生体活性物質ならびにHAおよびフラボノイドの複数の結合体が複合体を形成する。
【0053】
本明細書で提供される粒子は、HAおよびフラボノイドの結合体(HA-フラボノイド結合体)および生体活性物質の自己集合により、本明細書記載の粒子が形成されることによって形成される(
図1)。いかなる特定の理論にも限定されることは望まないが、HA-フラボノイド結合体および生体活性物質の本明細書で提供される粒子への自己集合は、フラボノイドと生体活性物質との間の相互作用に起因しうる。特定の態様において、HA-フラボノイド結合体および生体活性物質の本明細書で提供される粒子への自己集合は、フラボノイドと生体活性物質との間の可逆的な非競合的結合の形成に起因しうる。
【0054】
いかなる特定の理論にも限定されることは望まないが、ポリマー担体またはリポソーム担体とは対照的に、本粒子は粒子内に水和環境をもたらし、それは生体活性物質をプロテアーゼまたは細網内皮系による分解を含む分解から守ることができ、それ故に生体活性物質の循環時間の延長をもたらしうるように思われる。さらに、HAは生体適合性材料であることが実証されているため、HA-フラボノイド結合体を使用して本粒子を形成させることにより、送達システム材料の生体適合性に関する懸念を減らすことができるであろう
10。
【0055】
特定の態様において、本明細書記載の粒子は細胞内に入ること、または輸送されることができ、それ故に本粒子は生体活性物質を細胞の内部に直接送達することができる。そのような細胞内への直接的な生体活性物質の送達により、ウイルストランスフェクションおよび細胞内発現の必要性がなくなる。さらに、本粒子は、生体活性物質が原形質膜を横断して細胞に入ることを可能にする目的での、例えば形質導入ドメインを付加することによって生体活性物質を修飾する必要性を伴わない、細胞内への生体活性物質の送達ももたらす。特定の態様において、本粒子は、それ単独で細胞に送達された場合に通常は細胞の原形質膜を越えることができない生体活性物質を細胞内に送達するために用いることができる。
【0056】
したがって、本粒子は細胞への生体活性物質の送達を、さらにある態様においては、癌細胞への生体活性物質の標的化送達をもたらすことができる。特定の態様において、本粒子は、生体活性物質の送達を細胞内に直接的にもたらすことができる。本粒子はそのような送達を、生体活性物質の機能性または活性を変化させる恐れのある、ターゲティングドメインまたは形質導入ドメインを組み入れるような生体活性物質の修飾を伴わずにもたらすことができる。
【0057】
フラボノイド類は、非常に数が多く、かつ最もよく研究されている植物ポリフェノール群の1つである。フラボノイド類は、果実および野菜の中に天然に存在する低分子量ポリフェノール性物質の大規模な群からなり、人の食事に不可欠な要素である。乾燥した緑茶葉は30重量%ものフラボノイド類を含むことができ、これには、(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキン、(+)-カテキン、(-)-没食子酸エピカテキンおよび(-)-没食子酸エピガロカテキンを含む、カテキン類(フラバン-3-オール誘導体またはカテキンベースのフラボノイド類)として知られるフラボノイド類が高いパーセンテージで含まれる。
【0058】
近年、これらの緑茶カテキンは、それらが抗菌特性、抗新生物特性、抗血栓特性、血管拡張特性、抗酸化特性、抗突然変異誘発特性、抗発癌特性、抗高コレステロール血症特性、抗ウイルス特性および抗炎症特性を含む生物学的および薬理学的特性を有することが認識されており、そのことが数多くのヒト、動物およびインビトロの試験で実証されたことから、大きな注目を集めている
16〜18。これらの生物学的および薬理学的特性は、疾患を予防し、ゲノムの安定性を保護する上で有益である可能性がある。カテキン類の有益な効果の多くは、カテキン類の抗酸化作用と関連があると考えられている
19。カテキン類の中で、緑茶の主要な構成要素である(-)-没食子酸エピガロカテキン(EGCG)は最も高い活性を有すると考えられているが、これはおそらくトリヒドロキシB環およびC3位の没食子酸エステル部分のためである
20〜24。EGCGが、抗酸化特性、抗発癌特性および抗炎症特性を含む生化学的および薬学的効果を有することは認知されている
25〜27。EGCGは、生物医学的に意義のある極めて多数の分子標的および疾患に関連した細胞プロセスを阻害し
28、その結果として、アポトーシスの誘導、腫瘍細胞増殖の阻害および血管新生の阻害を導くことが知られている
29。これらの有益な生物活性の大半は、さまざまな酵素活性およびシグナル伝達経路に影響を及ぼすペプチドおよびタンパク質を含む多くの生体分子に対するEGCGの強い結合能力に起因する
30。EGCGはまた、腫瘍転移において極めて重要な役割を果たすマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)ゼラチナーゼ
31の強力な阻害因子としても知られている。
【0059】
したがって、ある態様において、本粒子中に含まれる生体活性物質が、本粒子中に含まれるフラボノイドによってももたらされる治療効果を有するならば、本粒子は、細胞への生体活性物質およびフラボノイドの複合的送達に起因する治療的相乗作用をもたらすことができる。1つの態様において、本粒子中での抗癌薬とEGCGなどのフラボノイドとの組み合わせは、癌の治療において治療的相乗作用をもたらすことができる。
【0060】
HA-フラボノイド結合体の形成
本明細書記載の粒子は、抗癌薬を含む生体活性物質、およびヒアルロン酸(HA)とフラボノイドとの複数の結合体(HA-フラボノイド結合体)で構成される。
【0061】
本粒子のHA-フラボノイド結合体は、下記のように、HAおよび任意の適したフラボノイドで構成されうる。
【0062】
別の態様において、HAは、アルデヒドで誘導体化されたヒアルロン酸、アミノアセチルアルデヒドジエチルアセタールとコンジュゲートされたヒアルロン酸、またはチラミンで誘導体化された前述のいずれかのヒアルロン酸ポリマーである。そのようなHAポリマーの合成の方法は当技術分野において公知であり、例えば、国際出願WO 2006/124000号および米国出願2008/102052号に記載されており、それらの内容は全体が本明細書に組み入れられる。
【0063】
HA部分上の遊離アルデヒド基は、フラボノイド構造のA環のC6位もしくはC8位またはその両方に対する、HAの制御された様式でのコンジュゲーションを可能にし、それ故にフラボノイド構造、特にフラボノイドのB環およびC環の破壊を防ぎ、さらにそれ故に、フラボノイドの有益な生物学的および薬理学的特性を維持することを可能にする。
【0064】
フラボノイドは、コアのフェニルベンジルピロン構造に由来する一般的な分子クラス由来の任意のフラボノイドであってよく、これにはフラボン類、イソフラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバン-3-オール類、カテキン類、アントシアニジン類およびカルコン類が含まれる。
【0065】
特定の態様において、フラボノイドはカテキンまたはカテキンベースのフラボノイドである。カテキンまたはカテキンベースのフラボノイドとは、カテキン類(またはフラバン-3-オール誘導体)として一般に知られるクラスに属する任意のフラボノイドのことであり、これにはエピカテキン、エピガロカテキン、カテキン、エピカテキン没食子酸および没食子酸エピガロカテキンを含むカテキンおよびカテキン誘導体、さらにはカテキン類またはカテキンベースのフラボノイド類のすべての可能な立体異性体が含まれる。特定の態様において、カテキンベースのフラボノイドは(+)-カテキンまたは(-)-没食子酸エピガロカテキンである。1つの特定の態様において、カテキンベースのフラボノイドは没食子酸エピガロカテキン(EGCG)である。
【0066】
HAとコンジュゲートさせるカテキンベースのフラボノイドは、カテキンベースのフラボノイドの単一のモノマー単位であってもよく、またはそれが1つまたは複数のカテキンベースのフラボノイド類のオリゴマーであってもよい。フラボノイドに対するHAのコンジュゲーションは、フラボノイドの生物学的または薬理学的特性の増強をもたらす可能性がある。さらに、カテキンベースのフラボノイド類のオリゴマーは、カテキンベースのフラボノイド類に付随する生物学的および薬理学的特性をより増幅または増強されたレベルで有する傾向があり、モノマー性のカテキンベースのフラボノイド類に時折付随する酸化促進効果が低下していることさえある。したがって、1つの態様においては、増幅または増強されたフラボノイド特性を有するオリゴマー化されたカテキンベースのフラボノイドを、HAとコンジュゲートさせる。
【0067】
HA、例えばポリマーなどとコンジュゲートさせることのできる、カテキンベースのフラボノイド類のオリゴマーは公知であり、これには、例えば、それらの内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、公開国際出願WO 2006/124000号および公開米国出願2008/102052号に記載されたような、酵素触媒酸化カップリングを通じて、およびアルデヒド媒介オリゴマー形成を通じて調製されるオリゴマーが含まれる。
【0068】
アルデヒド媒介オリゴマー形成プロセスでは、該当する場合に可能ないずれの立体配置をも含む、例えば、1つのモノマーのA環上のC6またはC8位から次のモノマーのA環上のC6またはC8位へと連結されたCH-CH
3架橋などの炭素-炭素結合を介した、定まった結合を有する非分枝オリゴマーが生じる。このため、CH-CH
3結合は、1つのモノマーのA環のC6位と次のモノマーのC6もしくはC8位のいずれかとの間にあってもよく、またはそれが第1のモノマーのA環のC8位と次のモノマーのC6もしくはC8位との間にあってもよい。
【0069】
HA、例えばポリマーとコンジュゲートさせる、カテキンベースのフラボノイドのオリゴマーは、連結して一緒になった2個またはそれ以上のモノマー単位であってよい。ある態様において、カテキンベースのフラボノイドオリゴマーは、2〜100個のモノマー単位、10〜100個、2〜80個、10〜80個、2〜50個、10〜50個、2〜30個、10〜30個、20〜100個、30〜100個または50〜100個のモノマー単位を有する。
【0070】
HAは、HAのフラボノイドとの結びつきをもたらして、フラボノイドのポリフェノール構造を破壊することなしに本明細書に記載の粒子となる結合体を形成させる、当技術分野において公知である任意の適した手段によって、フラボノイドとコンジュゲートさせることができる。
【0071】
1つの態様においては、HAを「アルデヒド媒介コンジュゲーション」によってフラボノイドとコンジュゲートさせることができ、この場合にはHAを酸触媒の存在下でフラボノイドと反応させるが、このHA部分は遊離アルデヒド基または酸の存在下で遊離アルデヒド基に変換されうる基を有する。HAのフラボノイドとのアルデヒド媒介コンジュゲーションは、フラボノイドA環のC6および/またはC8位でのHAの結びつきをもたらすことができ、それはフラボノイドのBおよびC環もフラボノイド上のさまざまなヒドロキシル基も破壊せず、影響を及ぼすこともない。アルデヒド媒介コンジュゲーションにようるHA-フラボノイド結合体の形成は公開国際出願WO 2006/124000号および公開米国出願2008/102052号に記載されており、それらの内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0072】
他の態様において、HAとコンジュゲートさせるフラボノイドを修飾して、HAとのコンジュゲーションのために適した官能基を含むフラボノイド誘導体を形成させてもよい。特定の態様において、フラボノイドを修飾して、HAとのコンジュゲーションのために適した末端基を含むフラボノイド誘導体を形成させる。別の態様において、フラボノイドを、カルボキシル、アミンまたはスクシンイミド官能基を含むように修飾してもよい。したがって、特定の態様において、HA-フラボノイド結合体は、HAとのコンジュゲーションのために適した官能基、例えば末端基を含むフラボノイド誘導体をまず調製することによって形成させることができる。このフラボノイド誘導体を続いてHAと反応させて、HA-フラボノイド結合体を形成させる。
【0073】
1つの特定の態様において、HA-フラボノイド結合体はカテキンベースのフラボノイドとコンジュゲートされたHA結合体で構成され、コンジュゲーションは上記で定義したアルデヒド媒介コンジュゲーションによって行われる。したがって、コンジュゲーション反応は、遊離アルデヒド基または酸の存在下で遊離アルデヒド基に変換されうる基を含むHA部分の、カテキンベースのフラボノイドとのコンジュゲーションを伴いうる。したがって、1つの態様において、HA-フラボノイド結合体は、HAのアルデヒド基とカテキンベースのフラボノイドとの酸触媒下での縮合を用いて、またはアルデヒド基とカテキンベースのフラボノイドとの縮合の前に、HA上の官能基を遊離アルデヒドに変換させるために酸を用いて、合成することができる。1つの特定の態様において、カテキンベースのフラボノイドはEGCGである。
【0074】
HAおよびフラボノイドをコンジュゲートさせるには、HA部分およびフラボノイドを適した溶媒中に別々に溶解させるとよい。例えば、遊離アルデヒドを有するHAを、酸の存在下において、例えばpH 約1〜約5で、または例えば約pH 1で、フラボノイドを含む溶液に滴下添加によって添加する。反応を完了するまで進行させる。コンジュゲーション反応の後に、反応しなかった余分なフラボノイドを、コンジュゲートした組成物から、例えば透析または分子篩によって除去することができる。
【0075】
もう1つの態様においては、HA部分を脱イオン水または蒸留水に溶解させて、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解したフラボノイドを含む溶液と混合してもよい。溶液のpHを酸、例えばHClの添加によって約1に調整し、例えば室温で約24時間撹拌することによって、反応を完了するまで進行させる。コンジュゲーション反応の後に、例えば透析によって、結合体を溶液から精製してもよい。
【0076】
フラボノイドとHAとの比はさまざまであってよく、そのため、フラボノイドに結びついているのが1つのHA部分のみでもよく、HA部分上の複数の位置に結びついたフラボノイドがあってもよく、フラボノイドに2つのHA部分が、例えばカテキンベースのフラボノイドのC6およびC8位の両方に1つずつ結びついていてもよい。
【0077】
結合体におけるHA部分とフラボノイドとの比は、出発試薬の比によって制御することができる。例えば、HAとフラボノイドとのモル比が約1である場合には、単一のHA部分が単一のフラボノイド部分に結びつくと考えられる(モノマー性またはオリゴマー性のいずれを用いてもよい)。しかし、HAがより高濃度、例えばHAとフラボノイドとのモル比が10:1であれば、HA-フラボノイド-HAというトリブロック構造を有する組成物が得られるであろう。
【0078】
同様に、コンジュゲーション反応におけるHAおよびフラボノイドの濃度を変更させることにより、HAのフラボノイドとのコンジュゲーションの度合いを変更することもできる。「コンジュゲーションの度合い」とは、本明細書で用いる場合、HA 100単位当たりのフラボノイド分子の数のことを指す。例えば、コンジュゲーションの度合いが50%とは、HA 100単位当たりのフラボノイド分子が50個であることを意味する。
【0079】
HAは、コンジュゲーション反応の際にフラボノイドと反応しうる複数の部位を有するため、出発反応におけるフラボノイドの濃度を変化させることにより、HAとフラボノイドとの間のコンジュゲーションの度合いを変化させることが可能である。
【0080】
HA-フラボノイド結合体を形成させるための出発試薬におけるHAとフラボノイドとの比を、結果的に生じるHA-フラボノイド結合体におけるHAのフラボノイドとのコンジュゲーションの度合いを調整し、それ故にこれらのHA-フラボノイド結合体から形成される粒子中に存在するHAとフラボノイドとの比を調整するために変化させてもよい。
【0081】
1つの特定の態様において、HA-フラボノイド結合体はHAおよびEGCGの結合体であり、この結合体は二段階の手順で合成される。第1の段階では、ジエトキシエチルアミン(DA)を、NHS/EDC化学反応を通じてHAとコンジュゲートさせてHA-DA結合体を形成させることにより、保護されたアルデヒド基をHAに導入する。続いて、EGCGのアルデヒド基とのコンジュゲーションを行わせるためのpH 1でのHA-DA結合体の脱保護によって、HA-EGCG結合体を形成させる。
【0082】
別の態様において、HA部分は、約5000〜約10,000,000ダルトン、少なくとも約5000ダルトン、少なくとも約10,000ダルトン、少なくとも約20,000ダルトン、少なくとも約30,000ダルトン、少なくとも約40,000ダルトン、少なくとも約50,000ダルトン、少なくとも約60,000ダルトン、少なくとも約70,000ダルトン、少なくとも約80,000ダルトン、少なくとも約90,000ダルトン、少なくとも約100,000ダルトン、少なくとも約150,000ダルトン、少なくとも約200,000ダルトン,少なくとも約250,000ダルトン、少なくとも約300,000ダルトン、少なくとも約350,000ダルトン、少なくとも約400,000ダルトン、少なくとも約450,000ダルトン、少なくとも約500,000ダルトン、少なくとも約550,000ダルトン、少なくとも約600,000ダルトン、少なくとも約650,000ダルトン、少なくとも約700,000ダルトン少なくとも約750,000ダルトン、少なくとも約800,000ダルトン、少なくとも約850,000ダルトン、少なくとも約900,000ダルトン、少なくとも約950,000ダルトン、少なくとも約1,000,000ダルトン、少なくとも約1,500,000ダルトン、少なくとも約2,000,000ダルトン、少なくとも約2,500,000ダルトン、少なくとも約3,000,000ダルトン、少なくとも約3,500,000ダルトン、少なくとも約4,000,000ダルトン、少なくとも約4,500,000ダルトン、少なくとも約5,000,000ダルトン、少なくとも約5,500,000ダルトン、少なくとも約6,000,000ダルトン、少なくとも約6,500,000ダルトン、少なくとも約7,000,000ダルトン、少なくとも約7,500,000ダルトン、少なくとも約8,000,000ダルトン、少なくとも約8,500,000ダルトン、少なくとも約9,000,000ダルトン、少なくとも約9,500,000ダルトン、または少なくとも約10,000,000ダルトンの分子量を有する。
【0083】
HA-フラボノイド結合体および生体活性物質を含む粒子の形成
1つの局面においては、溶液中の不混和性粒子の懸濁液であって、粒子が生体活性物質と;ヒアルロン酸とフラボノイドとの複数の結合体との集塊を含み;粒子が平均で直径約15nm〜約300nmであり、かつ生体活性物質がフラボノイドによって、放出可能なように粒子中に保たれている懸濁液が本明細書で提供される。
【0084】
溶液は、本明細書記載の粒子を分散させて本懸濁液を形成させるのに適した任意の溶液であってよい。溶液は好ましくは非毒性であり、薬理学的用途のために適している。1つの態様において、溶液は水溶液である。
【0085】
生体活性物質は、身体または細胞において生物学的、薬理学的または治療的な効果を有する任意の作用物質であってよく、これにはタンパク質、核酸、低分子または薬物が非限定的に含まれる。タンパク質である生体活性物質は、例えばペプチド、抗体、イントラボディ、ホルモン、酵素、増殖因子またはサイトカインであってよい。核酸である生体活性物質は、例えば一本鎖もしくは二本鎖のDNAもしくはRNA、短鎖ヘアピンRNA、siRNAであってもよく、またはこれには治療用産物をコードする遺伝子も含まれうる。同じく生体活性物質の範囲に含まれるものには、抗生物質、化学療法薬、降圧薬、抗癌薬、抗菌薬、抗新生物薬、抗血栓薬、血管拡張薬、抗酸化薬、抗突然変異誘発薬、抗発癌薬、抗高コレステロール血症薬、抗ウイルス薬および抗炎症薬がある。
【0086】
特定の態様において、細胞内に送達される生体活性物質は、それ単独で細胞に送達された場合に原形質膜を横断して細胞内に入ることができない作用物質であってよい。例えば、作用物質の中には、それらのサイズ、疎水性、親水性または電荷のために、それら単独では原形質膜を横断することができないものがある。
【0087】
特定の態様において、生体活性物質は抗癌薬であってよい。本明細書で用いる場合、「抗癌薬」とは、癌の治療に対して身体において生物学的、薬理学的もしくは治療的な効果を有するか、または細胞に対して、細胞傷害効果、アポトーシス効果、抗有糸分裂効果、抗血管新生効果もしくは転移阻害効果といった抗腫瘍効果を含む抗癌効果を有する、任意の作用物質のことを指す。「抗癌効果」とは、本明細書で用いる場合、腫瘍細胞増殖の阻害もしくは低下、発癌の阻害もしくは低下、腫瘍細胞の死滅、または腫瘍細胞を含む細胞の発癌特性もしくは腫瘍形成特性の阻害もしくは低下を含むものとする。
【0088】
特定の態様において、抗癌薬は、例えばペプチド、抗体、イントラボディ、酵素または細胞傷害性タンパク質であってよい。特定の態様において、抗癌薬はイントラボディまたはグランザイムBである。同じく抗癌薬の範囲に含まれるものには、化学療法薬、抗癌薬、抗新生物薬、抗酸化薬、抗突然変異誘発薬および抗発癌薬がある。
【0089】
抗癌薬は、例えば、ハーセプチン、TNP470、トラスツズマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、エルロチニブ、ダウノルピシン、ドキソルビシン、エトポシド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、メトトレキサート、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、アラビノシルシトシン、アルトレタミン、アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、BCNU、クラドリビン、シスプラチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、ドセタキセル、ドキソルビシン、ドキソルビシン、イマチニブ、ドキソルビシンリポソーム(doxorubicin liposomal)、VP16、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、CPT-11、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、または免疫療法に用いるための抗体であってよい。
【0090】
生体活性物質を含む態様に対する本明細書における言及は、さらに、非生体活性物質(non-bioactive agent)などの作用物質を生体活性物質の代わりに用いる態様も例示することを意図している。したがって、特定の態様においては、溶液中の不混和性粒子の懸濁液であって、粒子が作用物質と;ヒアルロン酸とフラボノイドとの複数の結合体との集塊を含み;粒子が平均で直径約15nm〜約300nmmであり、かつ作用物質がフラボノイドによって、放出可能なように粒子中に保たれている懸濁液が本明細書で提供される。本明細書で用いる場合、「作用物質」は、生体活性物質または非生体活性物質であってよい。本明細書で用いる場合、「非生体活性物質」とは、身体または細胞において生物学的、薬理学的または治療的な効果のいずれも有しない作用物質のことを指し、これには、身体または細胞において生物学的、薬理学的または治療的な効果のいずれも有しないタンパク質、核酸または低分子が非限定的に含まれる。したがって、1つの態様において、本明細書で提供される粒子は、非生体活性物質である作用物質を含んでもよい。1つの特定の態様において、作用物質は、細胞集団における特定の細胞を同定するための不活性マーカーなどの不活性化合物である。
【0091】
上記のように、本粒子は、本明細書記載の粒子が形成されるようにする、多数のHA-フラボノイド結合体および生体活性物質の自己集合によって形成される。
【0092】
本明細書記載の粒子を形成させるには、適した反応条件ならびにHA-フラボノイド結合体および生体活性物質の適した濃度の下で、HA-フラボノイド結合体を生体活性物質と混合して自己集合させ、約15nm〜約300nmである本明細書記載の粒子を形成させる。
【0093】
本粒子の形成は、HA-フラボノイド結合体の濃度および生体活性物質の濃度の両方に依存し、これらはいずれも、HA-フラボノイド結合体および生体活性物質の自己集合、ならびに形成される粒子のサイズに影響を及ぼしうる。
【0094】
本粒子を形成させるには、HA-フラボノイド結合体を一般に、HA-フラボノイド結合体のヒドロゲルとしての形成をもたらす濃度よりも一桁低い濃度で用意する。別の態様において、HA-フラボノイド結合体の濃度は、約0.05μg/ml〜約5000μg/ml、約10μg/ml〜約5000μg/ml、約10μg/ml〜約1000μg/ml、少なくとも約0.05μg/ml、少なくとも約0.1μg/ml、少なくとも約0.5μg/ml、少なくとも約1μg/ml、少なくとも約5μg/ml、少なくとも約10μg/ml、少なくとも約20μg/ml、少なくとも約30μg/ml、少なくとも約40μg/ml、少なくとも約50μg/ml、少なくとも約60μg/ml、少なくとも約70μg/ml、少なくとも約80μg/ml、少なくとも約90μg/ml、少なくとも約100μg/ml、少なくとも約125μg/ml、少なくとも約150μg/ml、少なくとも約175μg/ml、少なくとも約200μg/ml、少なくとも約225μg/ml、少なくとも約250μg/ml、少なくとも約275μg/ml、少なくとも約300μg/ml、少なくとも約325μg/ml、少なくとも約350μg/ml、少なくとも約375μg/ml、少なくとも約400μg/ml、少なくとも約425μg/ml、少なくとも約450μg/ml、少なくとも約475μg/ml、少なくとも約500μg/ml、少なくとも約525μg/ml、少なくとも約550μg/ml、少なくとも約575μg/ml、少なくとも約600μg/ml、少なくとも約625μg/ml、少なくとも約650μg/ml、少なくとも約675μg/ml、少なくとも約700μg/ml、少なくとも約725μg/ml、少なくとも約750μg/ml、少なくとも約800μg/ml、少なくとも約825μg/ml、少なくとも約850μg/ml、少なくとも約875μg/ml、少なくとも約900μg/ml、少なくとも約925μg/ml、少なくとも約950μg/ml、少なくとも約975μg/ml、少なくとも約1000μg/ml、少なくとも約1500μg/ml、少なくとも約2000μg/ml、少なくとも約2500μg/ml、少なくとも約3000μg/ml、少なくとも約3500μg/ml、少なくとも約4000μg/ml、少なくとも約4500μg/mlまたは少なくとも約5000μg/mlであってよい。
【0095】
以上に考察したように、本粒子の形成は生体活性物質の濃度にも依存し、それは本明細書に記載の粒子の自己集合およびサイズに影響を及ぼしうる。生体活性物質の濃度を上昇させることにより、形成される粒子のサイズは増加することもあれば減少することもある。生体活性物質の濃度を上昇させることの影響は、生体活性物質の種類および用いる生体活性物質の量に依存する。例えば、本出願の
図3で実証されているように、生体活性物質が比較的少量の場合は、生体活性物質の濃度の上昇は形成される粒子のサイズの減少をもたらしうるが、一方、生体活性物質が比較的多量の場合は、生体活性物質の濃度の上昇は形成される粒子のサイズの増加をもたらしうる。
【0096】
別の態様において、生体活性物質の濃度は、約0.01% w/v〜約1.0% w/v、約0.1% w/v〜約0.75% w/v、少なくとも約0.01% w/v、少なくとも約0.02% w/v、少なくとも約0.03% w/v、少なくとも約0.04% w/v、少なくとも約0.05% w/v、少なくとも約0.06% w/v、少なくとも約0.07% w/v、少なくとも約0.08% w/v、少なくとも約0.09% w/v、少なくとも約0.1% w/v、少なくとも約0.15% w/v、少なくとも約0.2% w/v、少なくとも約0.25% w/v、少なくとも約0.3% w/v、少なくとも約0.35% w/v、少なくとも約0.4% w/v、少なくとも約0.45% w/v、少なくとも約0.5% w/v、少なくとも約0.55% w/v、少なくとも約0.6% w/v、少なくとも約0.65% w/v、少なくとも約0.7% w/v、少なくとも約0.75% w/v、少なくとも約0.8% w/v、少なくとも約0.85% w/v、少なくとも約0.90% w/v、少なくとも約0.95% w/vまたは少なくとも約1.0% w/vであってよい。
【0097】
当業者には理解されるであろうが、本明細書記載の粒子を形成させるのに適切なサイズ粒子を形成させるために必要な生体活性物質およびHA-フラボノイド結合体の濃度は、HA-フラボノイド結合体の種類および生体活性物質の種類に応じて異なりうる。さらに、当業者は、本粒子を形成させるために必要とされる生体活性物質およびHA-フラボノイド結合体の濃度が、必要とされる生体活性物質の濃度がHA-フラボノイド結合体の濃度に依存し、かつその逆もまた同様であるように、互いに対して相対的であってもよいことを理解するであろう。
【0098】
当業者は、上記の要因に基づき、公知の方法および手法を用いて、本明細書記載の粒子を形成させ、それ故に本明細書記載の懸濁液および治療用製剤を形成させるのに適切なサイズの粒子を形成させるために必要とされる生体活性物質およびHA-フラボノイド結合体の相対濃度を決定することができる。
【0099】
したがって、1つの局面においては、不混和性粒子の懸濁液を製剤化する方法であって、0.01% w/v〜約1.0% w/vの生体活性物質、ならびに0.05μg/ml〜約5000μg/mlのヒアルロン酸とフラボノイドとの結合体を溶液中で合わせて粒子の懸濁液を形成させる段階を含み、粒子が生体活性物質と、ヒアルロン酸とフラボノイドとの結合体との集塊を含み、粒子が平均で直径約15nm〜約300nmであり、かつ生体活性物質がフラボノイドによって、放出可能なように粒子中に保たれている方法が本明細書で提供される。
【0100】
ヒドロゲルのようなより大型の構造とは対照的に、本明細書で提供される粒子のサイズは、粒子が癌細胞を含む細胞内に入ることを可能にするであろう。さらに、本粒子のサイズは、より大型の構造と比較して、粒子が循環して細胞間を標的癌細胞に向かって移動することを可能にする、細胞培養物、身体または細胞外環境の全体にわたっての粒子のより高度の移動性ももたらしうるであろう。
【0101】
本明細書で用いる場合、「直径」とは、動的光散乱法によって測定される流体力学的直径のことを指す。当業者には理解されるであろうが、「流体力学的直径」とは、粒子が流体中でどの程度拡散するかを指す。動的光散乱法によって得られる直径は、測定される粒子と同じ並進拡散係数を有する球のそれである。ある態様において、測定される直径は粒子の物理的特性の1つまたは複数の測定値に基づく算出平均直径であってもよいため、粒子「直径」は、粒子の「見かけの直径」のことを指してもよく、またはそう称されてもよい。
【0102】
別の態様において、本粒子は平均で直径約15nm〜約300nm、約50〜約100nm、少なくとも約15nm、少なくとも約20nm、少なくとも約25nm、少なくとも約30nm、少なくとも約35nm、少なくとも約40nm、少なくとも約45nm、少なくとも約50nm、少なくとも約55nm、少なくとも約60nm、少なくとも約65nm、少なくとも約70nm、少なくとも約75nm、少なくとも約80nm、少なくとも約85nm、少なくとも約90nm、少なくとも約95nm、少なくとも約100nm、少なくとも約125nm、少なくとも約150nm、少なくとも約175nm、少なくとも約200nm、少なくとも約225nm、少なくとも約250nm、少なくとも約275nmまたは少なくとも約300nmである。
【0103】
以上に考察したように、本粒子を、生体活性物質を細胞に送達するために用いてもよい。ある態様において、本粒子は、生体活性物質を細胞内に直接送達することができる。粒子が生体活性物質を細胞に送達するようにするには、粒子が細胞培養物、身体または細胞外環境の中を移動することが許容されるように、粒子を適したサイズにするべきである。加えて、生体活性物質を細胞内に送達しようとするならば、粒子が細胞内に入ることが許容されるように、粒子を適したサイズにするべきである。したがって、特定の態様において、本粒子は、粒子が細胞培養物、身体もしくは細胞外環境の中を移動すること、または細胞内に入ることが許容される平均直径を有する。
【0104】
当業者は、以下の実施例で開示されているような動的光散乱法を含む、当技術分野において公知の方法および手法を用いて、粒子のサイズおよび安定性を容易に決定しうるであろう。
【0105】
本粒子は不混和性である。本明細書で用いる場合、「不混和性の」とは、他の粒子または追加的なHA-フラボノイド結合体もしくは生体活性物質のいずれかと凝集して本明細書記載の粒子よりもサイズが実質的に大きい大型粒子または大きな凝集物を形成することのない粒子のことを指す。当業者には理解されるであろうが、約300nm未満の中型粒子を一緒に凝集させて、本粒子を形成させることもできる。そのような中型粒子はさまざまな異なるサイズのものであってよい。しかし、本粒子が互いに凝集して、平均で直径約300nmを上回る粒子を形成することはないと考えられる。
【0106】
本粒子は溶液中で安定である。特定の態様において、本粒子は水溶液中で安定である。本明細書で用いる場合、「安定な」粒子とは、不混和性のままであり続け、かつ溶液、例えば水溶液中で、粒子の使用目的にとって十分な時間にわたって崩壊も溶解もしない粒子のことを指す。例えば、1つの態様において、本粒子は、不混和性のままであり続け、かつ水溶液中で、細胞への生体活性物質の送達のために本明細書記載の懸濁液または治療薬を用いることを可能にするのに十分な期間にわたって崩壊も溶解もしないと考えられる。もう1つの態様において、本粒子は不混和性のままであり続け、かつ、水溶液中で、本明細書記載の懸濁液または治療用製剤の所望の期間にわたる貯蔵を可能にするのに十分な期間にわたって崩壊も溶解もしないと考えられる。
【0107】
別の態様において、本粒子は、溶液中で、少なくとも約1時間〜少なくとも約12週、少なくとも約1日〜少なくとも約7日、少なくとも約1時間〜少なくとも約24時間、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間、少なくとも約7時間、少なくとも約8時間、少なくとも約9時間、少なくとも約10時間、少なくとも約11時間、少なくとも約12時間、少なくとも約13時間、少なくとも約14時間、少なくとも約15時間、少なくとも約16時間、少なくとも約17時間、少なくとも約18時間、少なくとも約19時間、少なくとも約20時間、少なくとも約21時間、少なくとも約22時間、少なくとも約23時間、少なくとも約24時間、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約3日、少なくとも約4日、少なくとも約5日、少なくとも約6日、少なくとも約7日、少なくとも約1週、少なくとも約2週、少なくとも約3週、少なくとも約4週、少なくとも約5週、少なくとも約6週、少なくとも約7週、少なくとも約8週、少なくとも約9週、少なくとも約10週、少なくとも約11週または少なくとも約12週にわたって安定である。
【0108】
1つの特定の態様において、本粒子はエンドソーム溶解物質をさらに含む。したがって、1つの態様において、不混和性粒子の懸濁液を製剤化する本方法は、エンドソーム溶解物質を生体活性物質ならびにヒアルロン酸とフラボノイドとの結合体と合わせて懸濁液を形成させる段階を含み、ここで粒子はエンドソーム溶解物質をさらに含む。
【0109】
本明細書で用いる場合、「エンドソーム溶解物質」とは、エンドソームから細胞のサイトゾル中への粒子の放出を媒介することができる、任意の作用物質のことを指す。例えば、特定の態様において、エンドソーム溶解物質は、ポリエチレンイミン、メリチン、エンドソーム溶解性ペプチドまたはエンドソーム溶解性タンパク質である。
【0110】
特定の態様において、本粒子は、エンドサイトーシスを介して細胞内に輸送される。いかなる特定の理論にも限定されることは望まないが、エンドサイトーシスを介した細胞内への本粒子の輸送が、細胞表面上のCD44受容体に対する本粒子中のHAの結合によって媒介されてもよい。
【0111】
エンドサイトーシスにおいて、粒子は、輸送粒子を細胞表面からサイトゾル中に輸送するエンドソームへの内部移行によって細胞内に輸送される。エンドソーム溶解物質は、エンドソームを溶解することによって、エンドソームからサイトゾル中への粒子の放出を促進することができる。
【0112】
理解されるであろうが、本粒子の生体活性物質がエンドソーム溶解物質、例えばエンドソーム溶解性ペプチドまたはエンドソーム溶解性タンパク質である場合には、追加的なエンドソーム溶解物質を含めることは必要ないであろう。
【0113】
本粒子中に含まれるエンドソーム溶解物質は、好ましくは非毒性であり、薬理学的用途のために適している。特定の態様において、エンドソーム溶解物質の活性はpH感受性であり、エンドソームの低pHに曝露されると直ちにエンドソーム溶解物質が活性化される。
【0114】
特定の態様において、エンドソーム溶解物質はポリエチレンイミンである。
【0115】
1つの特定の態様においては、水溶液中の不混和性粒子の懸濁液であって、粒子が生体活性物質と;ヒアルロン酸とEGCGとの複数の結合体との集塊を含み;粒子が平均で直径約15nm〜約300nmであり、かつ生体活性物質がEGCGにより、EGCGと生体活性物質との間の非共有的結合の結果として、放出可能なように粒子中に保たれている懸濁液が本明細書で提供される。ある態様において、生体活性物質は、EGCGと生体活性物質との間の疎水結合によって、放出可能なように粒子中に保たれている。他の態様において、生体活性物質は、EGCGと生体活性物質との間のイオン結合によって、放出可能なように粒子中に保たれている。
【0116】
もう1つの特定の態様においては、水溶液中の不混和性粒子の懸濁液であって、粒子が生体活性物質と;ヒアルロン酸とEGCGとの複数の結合体、ならびにエンドソーム溶解物質との集塊を含み;粒子が平均で直径約15nm〜約300nmであり、かつ生体活性物質がEGCGによって、放出可能なように粒子中に保たれている懸濁液が本明細書で提供される。ある態様において、エンドソーム溶解物質はポリエチレンイミンである。ある態様において、生体活性物質は、EGCGと生体活性物質との間の疎水結合によって、放出可能なように粒子中に保たれている。他の態様において、生体活性物質は、EGCGと生体活性物質との間のイオン結合によって、放出可能なように粒子中に保たれている。
【0117】
使用方法
本明細書に記載の懸濁液は、抗癌薬を含む生体活性物質を、癌細胞を含む細胞に送達するために用いることができる。本粒子のHAは、多くの細胞種で過剰発現されるCD44受容体と結合することができ、それ故に本粒子は特異的に、癌細胞を生体活性物質の送達のための標的とすることができる。
【0118】
したがって、1つの局面においては、細胞への生体活性物質の送達のための方法であって、細胞を本明細書に記載の懸濁液または製剤と接触させる段階を含む方法が提供される。
【0119】
ある態様において、本粒子は生体活性物質を細胞内に直接送達することができる。したがって、もう1つの局面においては、細胞への生体活性物質の細胞内送達のための方法であって、細胞を本明細書に記載の懸濁液または製剤と接触させる段階を含む方法が本明細書で提供される。
【0120】
特定の態様において、細胞内に送達される生体活性物質は、それ単独で細胞に送達された場合に通常は細胞の原形質膜を横断して細胞内に入ることができない作用物質であってよい。
【0121】
ある態様において、細胞は癌細胞である。以上に考察したように、本粒子は選択的に、癌細胞を生体活性物質の送達のための標的とすることができる。
【0122】
本明細書で用いる場合、生体活性物質を細胞に「送達すること」とは、作用物質が細胞に対してその生物学的効果を発揮しうるように、作用物質を細胞のごく近傍に与えることを指す。
【0123】
本明細書で用いる場合、細胞と「接触させること」とは、本明細書記載の粒子が生体活性物質を細胞に送達することを可能にする様式で、懸濁液を与えること、または投与することを指す。インビトロでは、例えば、細胞と接触させることは、懸濁液を細胞培地に添加することを含みうる。インビボでは、例えば、細胞と接触させることは、懸濁液を対象に対して薬学的組成物として投与することを含みうる。
【0124】
細胞への生体活性物質の送達の後に、生体活性物質が本粒子から放出されてその生物学的効果を発揮してもよい。いかなる特定の理論にも限定されることは望まないが、生体活性物質が、生体活性物質とフラボノイドとの間の非共有的な可逆的結合の破壊の結果としての粒子の解離によって、本粒子から放出されてもよい。別の態様において、この破壊を細胞の外側または内側で達成させることもできる。特定の態様において、粒子は、原形質膜の分子との相互作用、細胞内分子との相互作用を通じて、解離剤(disassociation agent)、例えばTriton-Xの添加を通じて、またはpHの変化を通じて、解離させることができる。
【0125】
特定の態様において、生体活性物質は抗癌薬であり、本方法は癌細胞への抗癌薬の送達を提供する。ある態様においては、細胞内への直接的な抗癌薬の送達が提供される。
【0126】
特定の態様において、細胞は、疾患または障害に対する治療を必要とする対象の中に位置する細胞であってよい。例えば、対象の内部の細胞は、癌を有する対象、癌に対する治療を必要とする対象、または癌の予防が望まれる対象の内部の細胞であってよい。いくつかの態様において、対象はヒト対象である。
【0127】
本明細書で用いる「細胞(cell)」という用語は、特に指定のない限り、単一の細胞のほか、文脈上許容される場合には複数の細胞または細胞の集団を含む。細胞は、対象から外植された細胞を含む、インビトロ細胞であってもよい。細胞は、バッチ培養下で、または組織培養プレート中で増殖させた細胞であってもよい。または、細胞は、対象の中のインビボ細胞であってもよい。いくつかの態様において、対象はヒト対象でる。ある態様において、対象は、疾患または障害に対する治療を必要とする対象である。同様に、「細胞(cells)」に対する言及は、特に指定のない限り、文脈上許容される場合には単一の細胞も含む。
【0128】
本明細書で用いる場合、「癌細胞」とは、CD44受容体を過剰発現する任意の癌細胞のことを指す。癌細胞とは、異常な細胞増殖、細胞分裂に関する制御の低下または喪失、および近接組織に浸潤する能力を呈する細胞のことを指す。癌細胞の中には、細胞が体内の他の場所に波及することである転移を示すものもある。癌細胞の中には腫瘍を形成するものもある。癌細胞には、例えば、肉腫細胞、癌腫細胞、リンパ腫細胞または芽腫細胞が含まれうる。
【0129】
本明細書で用いる「癌」は、細胞が異常な細胞増殖および近接組織に浸潤する能力を呈する、一群の疾患を範囲に含む。癌のいくつかの型では、異常な細胞が体内の他の場所にも波及する。癌のさまざまな種類には、例えば、乳癌、結腸直腸癌、脳悪性腫瘍(brain cancer)、前立腺癌、子宮頸癌、卵巣癌、骨悪性腫瘍(bone cancer)、皮膚癌、肺癌、膵癌、膀胱癌、胆嚢癌、腎癌、食道癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、喉頭癌、白血病、多発性骨髄腫、口腔癌、胸膜中皮腫、小腸癌、精巣癌、子宮癌、甲状腺癌および胃癌が含まれる。
【0130】
「治療」という用語は、臨床結果を含む、有益なまたは望ましい結果を得るための取り組みのことを指す。有益なまたは望ましい臨床結果には、1つまたは複数の症状または病状の軽減または回復、症状または疾患の程度の減弱化、疾患の状態の安定化、障害または疾患の発症の予防、障害または疾患の波及の予防、障害または疾患の進行の遅延化または緩徐化、障害または疾患の発生の遅延化または緩徐化、障害または疾患状態の回復または緩和、および部分的であるか完全であるかを問わない寛解が、非限定的に含まれうる。「治療」はまた、治療がなされない場合に予期されるものを上回って、対象の生存期間を延長させることも意味しうる。「治療」はまた、障害または疾患を阻害すること、障害または疾患の進行を一時的に緩徐化することも意味しうるが、場合によっては、それは障害または疾患の進行を永続的に停止させることも含む。
【0131】
本明細書で用いる「有効量」または「有効な量」という用語は、所望の結果を達成するために必要な投与量および期間での、有効な量のことを意味する。例えば、疾患または障害を軽減する、改善する、和らげる、回復させる、安定化する、その波及を予防する、その進行を緩徐化もしくは遅延化する、もしくはそれを治癒させる、または、疾患に関連した酵素の活性を阻害する、低下させる、もしくは妨げるように機能しうる生体活性物質を送達するために必要な数量および投与量で、粒子を投与することができる。疾患に関連した酵素とは、代謝経路または生化学経路に関与しており、その経路が遮断された場合、または酵素もしくは経路の調節制御が遮断もしくは阻害された場合の酵素の活性が、疾患または障害の発生または進行に関与する酵素のことである。特定の態様において、粒子を、癌の治療のための抗癌薬を送達するために必要な数量および投与量で投与してもよい。
【0132】
対象に投与される懸濁液の有効量は、粒子中のHA-フラボノイド結合体および生体活性物質の特性を含む懸濁液または懸濁液中の粒子の薬力学的特性、投与様式、対象の年齢、健康状態および体重、障害または疾患状態の性質および程度、治療の頻度、ならびに併用治療がある場合にはその種類といった、多くの要因に応じて異なりうる。さらに、有効量が、粒子中に用意された生体活性物質の濃度によって異なることもある。
【0133】
当業者は、適切な量を、上記の要因に基づいて決定することができる。懸濁液を最初に適量で投与し、対象の臨床反応に応じて、必要に従ってそれを調節してもよい。本懸濁液の有効量は経験的に決定することができ、それは安全に投与することのできる懸濁液の最大量に依存する。しかし、投与される懸濁液の量は、好ましくは、所望の結果を生じさせる最小量である。
【0134】
したがって、本明細書に記載の懸濁液を含む薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、薬学的に許容される希釈剤または担体をさらに含んでもよい。薬学的組成物は、薬学的に許容される濃度の塩、緩衝剤、保存料、および適合性のあるさまざまな担体を、慣用的に含有することができる。あらゆる送達形態に関して、粒子を生理的食塩水中に製剤化することができる。
【0135】
薬学的に許容される希釈剤または担体の割合および実体は、選んだ投与経路、該当する場合には生物活性タンパク質との適合性、および標準的な薬学的慣行によって決定される。
【0136】
薬学的組成物は、粒子の有効量および任意の追加的な活性物質が、薬学的に許容される媒体との混合物中で合わされるように、対象への投与のために適した薬学的に許容される組成物の調製のための公知の方法によって調製することができる。適した媒体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)に記載されている。これに基づき、組成物は、粒子を、1つまたは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤を伴って、適したpHを有するとともに生理的液体と等浸透圧である緩衝液中に含まれる形で含むことができる。
【0137】
通常の貯蔵および使用の条件下では、そのような薬学的組成物は微生物の増殖を防ぐための保存料を含んでもよく、それによって、粒子および生体活性物質のあらゆる生物活性が維持されると考えられる。当業者は、適した製剤をいかにして調製すべきかを把握しているであろう。適した製剤の選択および調製のための従来の手順および成分は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、および1999年に発行された米国薬局方:国民医薬集(The United States Pharmacopeia: The National Formulary)(USP 24 NF 19)に記載されている。または、保存料の必要がないように、使用に十分に近い時点で構成要素を混合することによって、フラボノイド結合体ヒドロゲルを製剤化してもよい。
【0138】
したがって、1つの局面においては、本明細書に記載の懸濁液を含む治療用製剤が提供される。もう1つの局面においては、疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に対して、本明細書に記載の懸濁液または製剤の有効量を投与する段階を含む方法が提供される。
【0139】
細胞への生体活性物質の送達のための、および、細胞への生体活性物質の送達のための医薬の調製における、本明細書に記載の懸濁液および製剤の使用も想定している。
【0140】
細胞への生体活性物質の細胞内送達のための、および、細胞への生体活性物質の細胞内送達のための医薬の調製における、本明細書に記載の懸濁液および製剤の使用も想定している。
【0141】
本方法および化合物を、以下の非限定的な例によってさらに説明する。
【実施例】
【0142】
材料
ヒアルロン酸ナトリウム(HA)(MW=90KDa、密度=1.05g/cm
3)は、チッソ株式会社(Chisso Corporation)(Tokyo, Japan)によって寄贈された。ジエトキシエチルアミン(DA)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC-HCl)、ニワトリ卵白由来のリゾチーム、およびミクロコッカス・リソディクティカス(Micrococcus lysodeikticus)はすべて、Sigma-Aldrichから購入した。リサミンローダミンBエチルジアミンおよびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)は、Invitrogenから購入した。リン酸緩衝食塩水(PBS、150mM、pH 7.3)は、Biopolis、Singaporeの培地調製施設による供給を受けた。
【0143】
ExGen 500トランスフェクション試薬(線状ポリ(エチレンイミン)(PEI)22kDa)は、Fermentas INCから購入した。マウス・グランザイムBおよびリン酸クロロキンは、Sigma-Aldrichから購入した。アラマーブルー(alamarblue)(100ml)はInvitrogenから購入した。
【0144】
HA-DA結合体の合成.HA(5g、12.5mmol)を500mlの蒸留水に溶解させた。これに対して、複数の異なる量(1.19g、8.93mmol)または(2.38g、17.8mmol)のジエトキシエチルアミン(DA)を投与し、その後に、コンジュゲーション反応を開始させるためにNHS(1.16g、10.0mmol)およびEDC(2.40g、12.5mmol)を添加した。反応を進行させる際に、混合物のpHは0.1M NaOHの添加によって4.7に維持した。反応混合物を室温で一晩撹拌し、続いてpHを7.0に調整した。この溶液を、分子カットオフ値1000Daの透析チューブに移した。チューブの透析を、100mMの塩化ナトリウム溶液に対して2日間、蒸留水およびエタノールの混合物(3:1)に対して1日間、ならびに蒸留水に対して1日間にわたり、続けて行った。精製した溶液を凍結乾燥させて、HA-DAを得た。置換度(HA反復単位100個当たりのDA分子の数)を、
1H NMR測定により、DAのメチルプロトンおよびHAのメチルプロトンの相対ピーク積分値の比を比較することによって算出した。置換度は16.8%であった。
【0145】
HA-EGCG結合体の合成.HA-DA結合体(1g)を57mlの蒸留水に溶解させた。続いて、溶液に窒素通気を20分間行うことによって、溶液の脱ガス処理を行った。EGCG溶液を、脱ガス処理を行った13mlのDMSOに溶解させた。続いて、このEGCG溶液(DA単位に対してモル濃度20当量)をHA-DA結合体の溶液に添加した。濃HClを用いて溶液のpHを1.0に調整した。この結果得られた溶液を、続いて窒素雰囲気下にて室温で24時間撹拌した。溶液を分子カットオフ値3500Daの透析チューブに移し、窒素雰囲気下にて水に対する透析を3日間行った。精製した溶液を凍結乾燥させて、HA-EGCG結合体を得た。置換度(HA反復単位100個当たりのビス-EGCG分子の数)をUV-VIS測定によって算出した。
【0146】
HA-EGCG-ローダミン(HAER)の合成.100mgのHA-EGCGを、窒素による連続的脱ガス処理を15分間行った10mlの蒸留水に溶解させた。1mgのリサミンローダミンBエチルジアミン(Invitrogen)を1mlのDMSOに溶解させ、遮光して、窒素による脱ガス処理を15分間行った。このローダミンB溶液を続いてHA-EGCG溶液に添加し、リサミンローダミンBエチルジアミン上の第一級アミンとHA-EGCGの主鎖上の遊離アルデヒド基との間のシッフ塩基形成を促進するためにpHを4.5に急速に調整した。その間は、窒素による反応混合物の連続パージングを行った。pHを3時間維持し、その後に反応混合物の透析を100mMの塩化ナトリウム溶液に対して2日間、蒸留水およびエタノールの混合物(3:1)に対して1日間、ならびに蒸留水に対して1日間、続けて、かつ常に窒素雰囲気下において行った。最終的な透析液の蛍光を測定して、遊離ローダミン色素(EX:560〜575nm、EM:580〜595nm)が依然として存在するか否かを判定した。存在した場合には、透析を蒸留水中でさらに1日間行った。精製した溶液を凍結乾燥させて、HA-EGCG-ローダミンを得た。
【0147】
FITC-リゾチーム(FL)の合成.300mgのリゾチームを、60mlの0.1Mホウ酸緩衝液(pH 8.5)に溶解させた。12mgのFITCを別の60mlのホウ酸緩衝液に溶解させた。暗所で撹拌しながら、リゾチーム溶液にFITC溶液を滴下添加した。この溶液を穏やかに16時間撹拌させるままにし、その後にそれを4℃の蒸留水に対して、蒸留水を1日2回補充しながら3日間透析した。この結果得られた溶液を凍結乾燥させた。
【0148】
HA-EGCG/リゾチーム粒子の調製.HA-EGCGを、5分間のボルテックス処理および10分間の音波処理によって、貯蔵濃度10mg/mlで蒸留水に溶解させた。このHA-EGCG貯蔵溶液をその後にPBSで希釈し、各々の使用濃度とした。リゾチームをPBS中に溶解させた。HA-EGCG溶液およびリゾチーム溶液を、穏やかなピペット操作を行いながら室温でそのまま混合し、続いて混合物を10分間静置することによって、粒子を合成した。粒子の組成は、HA-EGCGまたはリゾチームのいずれかの使用濃度を変えることによって変化した。
【0149】
動的光散乱法(DLS).HA-EGCG/リゾチーム粒子のサイズを、粒径分析計(Brookhaven instruments Co.)を用いるDLSによって評価した。DLS測定は、0.75、1または2mg/mlの試料の濃度で25℃にて行った。
【0150】
蛍光消光試験.HA-EGCG/リゾチーム粒子、HA/リゾチーム混合物、遊離リゾチームのみ、遊離HA-EGCG担体、または遊離HAのみの蛍光発光スペクトルを、蛍光分光光度計(Hitachi, Japan)を用いて励起波長280nmで測定した。HA-EGCG/リゾチーム粒子とHA-EGCGとの間の差スペクトルを入手することで、さまざまなHA-EGCG濃度の粒子中のリゾチームの正味の蛍光を求めた。同じことをHA/リゾチーム混合物についても行った。
【0151】
リゾチーム活性アッセイ.リゾチームの活性を決定するには、遊離リゾチームまたはHA-EGCG/リゾチーム粒子のいずれかを含む20μlの試料を96ウェルアッセイプレートのウェルに添加し、その後に100μlのM.リソディクティカス(0.15%(w/v)、PBS中)を添加した。濁度の低下を、Tecan Infinite 200マイクロプレートリーダーにより、試料の450nmでの吸光度を室温で3分毎に15分間にわたって測定することによってモニターした。吸光度減衰プロットの一次方程式に対するフィッティングを行い、その勾配を用いてリゾチーム活性を決定した。HA-EGCGと複合体を形成したリゾチームの活性の回復については、以下のプロトコールを用いた:HA-EGCG/リゾチーム粒子をまず室温で10分間にわたって自己集合させ、PBSで希釈した遊離リゾチームも対照として用意した。続いて、種々の濃度の一定容積のTriton-Xを(最終濃度が0.001、0.01または0.1% w/vとなるように)各試料に添加し、室温でさらに5分間インキュベートした後に、リゾチーム基質であるM.リソディクティカスを添加し、吸光度を上記のようにモニターした。
【0152】
円偏光二色性(CD)分光法.Olis分光偏光計を用いて遠紫外CDスペクトルを入手した。経路長0.5mmの円筒形石英キュベットを用いた。1秒間の積分時間で1nm毎に楕円率を測定した。3つの逐次スペクトルを記録し、各試料について平均を求めた。HA-EGCG/リゾチーム粒子とHA-EGCG担体との間の差スペクトルを入手して、リゾチームのみのスペクトルと比較した。結果はミリ度として表している。
【0153】
細胞培養.HCT-116ヒト結腸癌細胞をATCCから入手し、10% FBSおよび100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを加えたマッコイ5A培地中で培養した。
【0154】
細胞取り込み試験.HCT-116細胞を、8ウェルのLabTekチャンバースライドガラス(chambered glass slide)に、完全増殖培地とともに各ウェル当たり20,000個ずつ播種し、そのまま48時間おいて付着させた。培地を吸引して、細胞を無血清培地で穏やかに1回洗浄し、その後にFL、HAER、HAR、HAER/FL、HAR/FL(すべて無血清培地で希釈)を添加して、細胞をそれぞれ増殖条件にて4時間インキュベートした。続いて溶液を除去し、細胞をPBSで2回洗浄し、室温の4%ホルムアルデヒドで15分間固定して、PBSで2回洗浄した上で、核を明瞭にするために1μg/mlのHoechst 33358で染色し、最後にPBSで2回洗浄した。63倍対物レンズならびにFITCおよびローダミンBの励起用にそれぞれ488nm、543nmのレーザーを備えたCarl Zeiss LSM 5 DUO倒立共焦点顕微鏡を用いて、共焦点画像を入手した。共焦点画像をMetamorphプログラムで定量した。25個のランダムな箇所のバックグラウンド蛍光強度を測定し、平均を求めた上で、それぞれリゾチームおよびHAER/HARの取り込みの程度を表す、25個のランダムな箇所でのFITCまたはローダミンBの平均蛍光強度から差し引いた。
【0155】
細胞生存度試験:HCT-116細胞を、96ウェルマイクロプレートに、完全増殖培地とともに各ウェル当たり10,000個で播種し、そのまま48時間おいて付着させた。検査試薬は、まず線状PEI(ポリエチレンイミン)またはクロロキン溶液(100μMに固定))をグランザイムB(2μg/mlに固定)と15分間混合し、その後にHA-EGCG溶液を混合物に添加して、複合体生成を45分間にわたり起こさせることによって調製した。続いてウェル中の培地を吸引し、細胞を各々の試薬で48時間処理した(希釈はすべて無血清培地で行った)。細胞生存度はアラマーブルー(AlamarBlue)を用いて分析した。分析の前に培地を吸引し、細胞をPBSで穏やかに1回洗浄した後に、10μlのアラマーブルー試薬と100μlの血清含有培地の混合物を各ウェルに添加した。細胞を2時間インキュベートし、各ウェルの蛍光発光をTecan Infiniteマイクロプレートリーダーを用いて測定した。処理した細胞の生存度を、陰性対照に対するパーセンテージとして評価した。各データセットは、4回の繰り返しの平均である。
【0156】
結果
HA-EGCGを、前述したような二段階の反応手順によって合成した。まずHA-ジエトキシエチルアミン(HA-DA)結合体を、標準的なカルボジイミド/活性エステル媒介カップリング反応によって調製した。この後に、EGCGの求核性A環と、HA-DAのジエトキシアセタール基の脱保護によって形成されたアルデヒド基との間の酸性条件下でのバイヤー酸触媒反応を介した、EGCGのHAとのコンジュゲーションを行った(
図2)。
【0157】
まず、HA-EGCGとモデルタンパク質であるリゾチームとの間の複合体生成の挙動を、動的光散乱法によって調べた。桁数が100nm規模であるHA-EGCGおよびリゾチームの粒子を調製することができた。一定濃度のHA-EGCGおよびさまざまなリゾチーム濃度を用いて調製したHA-EGCG/リゾチーム粒子は、リゾチーム濃度が上昇するにつれて粒径が最初は減少し、その後は粒径が増加するという二相性挙動を示した(
図3)。対照として、一定濃度の非修飾HAを種々の濃度のリゾチームと混合したところ、リゾチーム濃度の上昇に伴う粒径の単調減少がみられることが観察された。この違いは、HA-EGCG粒子がイオン性相互作用および疎水性相互作用の両方を介して形成されることを可能にする疎水EGCG部分に起因する可能性がある。事実、非常に高いリゾチーム濃度(>0.75% w/v)では、HA-EGCG/リゾチーム粒子の濁度が次第に増加し、静置させると広範囲にわたる疎水性相互作用のために溶液から相分離し始める。対照的に、HA/リゾチーム混合物は同じタンパク質濃度で相分離しない。
【0158】
HA-EGCG/リゾチーム粒子の試料品質も、HA/リゾチーム混合物のそれよりも一貫して高かった(
図4)。試料品質とは、ベースライン実測値と自己相関関数によるベースライン算出値との間の差のことを指し、具体的に言えば、低い試料品質は大型の粒子または凝集物の存在のことを指している。このため、HA-EGCG/リゾチーム粒子はHA/リゾチーム混合物よりも安定かつ均一である。
【0159】
HA-EGCGがタンパク質と効率的に結合するためにEGCG部分が確かに必要であることを確かめるために、EGCGがリゾチームの内因性蛍光を濃度依存的な様式で消失させることができるという事実
13を利用した(
図5)。HA-EGCGはHAと比較して、内因性リゾチーム蛍光を顕著に減少させることが観察された(
図6aおよび6b)。さらに、遊離EGCGが同じEGCG濃度で内因性リゾチーム蛍光を消失させる度合いはHA-EGCGよりも小さいことも認められ(
図7)、このことはEGCGのHAとのコンジュゲーションがEGCGとリゾチームとの間の結合相互作用を強めることを示しており、これはおそらくHA骨格がリゾチーム分子の周囲のEGCG部分の局所濃度を上昇させるためと考えられる。
【0160】
HA-EGCGによる内因性リゾチーム蛍光の消失はリゾチームの部分的変性と相関する可能性があるという推定に立ち、その遊離形態およびHA-EGCG/リゾチーム粒子におけるリゾチームの二次構造を円偏光二色性分光法によって調べた。リゾチームの二次構造に関する情報を抽出するために、HA-EGCG/リゾチームとHA-EGCGのみとの差スペクトルを入手した。220nmでの楕円率はタンパク質のらせん含量の標準的尺度であることから、これを用いてタンパク質の二次構造変化を推測した。HA-EGCG濃度が上昇するにつれて220nmでの楕円率は減少したが(
図8)、これはリゾチームの部分的変性を指し示している。
【0161】
また、HA-EGCGのリゾチームとの複合体生成を、HA-EGCG濃度の上昇に伴うリゾチーム活性の阻害によって示すこともできる。M.リソディクティカスをリゾチーム基質として用いたところ
14、HA-EGCGはリゾチーム活性を濃度依存的な様式で低下させるが、HAはそうではないことが見いだされた(
図9a)。
【0162】
細胞内への機能的タンパク質の送達を探し求めていたため、効率的な複合体生成では十分ではなかった。粒子が細胞内への内部移行を受けた時点で、タンパク質がその意図する機能を遂行しうるように、複合体が解離して機能的タンパク質を放出することも望まれた。これが可能であることを実証する目的で、前もって形成させたHA-EGCG/リゾチーム粒子を、複合体内部の疎水性相互作用を破壊する
15と予想されるTriton-Xによって不安定化した。遊離リゾチーム対照の場合には、低濃度のTriton-X(0.001% w/v)を添加するのみで、その見かけの活性はその元の活性の140%に増大した(
図9b)。Triton-Xの非存在下では一部の遊離リゾチームが疎水性プラスチックウェルに接着し、部分的に変性する可能性があることを考慮すれば、これは理にかなっている。Triton-X濃度をさらに二桁上昇させると(0.01%および0.1%)、見かけのリゾチーム活性はプラトーになり、約160%というその最大活性に達する。HA-EGCG/リゾチーム(50μMのHA-EGCGおよび20μg/mlのリゾチームを含む)複合体の場合は、0.001%または0.01%のTriton-Xを添加してもリゾチーム活性は顕著には回復せず、60%近くのままであった(
図9b)。しかし、0.1%のTriton-Xを添加した場合には、HA-EGCG/リゾチーム粒子内部の疎水性相互作用の十分な破壊が起こり、これらの実験条件下で、リゾチーム活性のその最大レベルへのほぼ完全な回復が生じた。
【0163】
ローダミンB標識HA-EGCG(HAER)は、HCT-116ヒト結腸癌細胞によって、ローダミンB標識HA(HAR)よりも効率的に内部移行を受けることが見いだされた(
図10a)。さらに、非標識HA-EGCGおよびFITC標識リゾチームの粒子(HAE/FL)は、HAおよびFITC標識リゾチームの混合物(HA/FL)または送達システムを伴わない場合(遊離タンパク質、FL単独)のいずれよりも、リゾチームをHCT-116細胞内により効率的に送達するすることが見いだされた(
図10b)。HA/リゾチーム混合物は特に優れた複合体を形成せず、遊離リゾチームは受容体媒介エンドサイトーシスよりもはるかに効率が低いピノサイトーシスによって取り込まれる可能性が高いことから、このことは理にかなっている。HAER/FL粒子で処理した細胞におけるローダミンBおよびFITCの共存は、リゾチームの取り込みの増加が、HA-EGCGがリゾチームの担体として作用することに確かに起因することをさらに裏づけるものである(
図10c)。
【0164】
本HA-EGCG粒子を用いた機能的タンパク質の細胞内送達の概念をさらに深く考察するために、グランザイムBを用いた。グランザイムBは、ウイルス感染細胞を死滅させるために免疫系の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって通常分泌されるプロテアーゼである。これはそのことを、アポトーシスを誘導する反応カスケードを誘発するカスパーゼの細胞内での活性化を通じて行う。グランザイムは、クロロキンと併せて送達された場合、HCT-116細胞における細胞傷害性を誘導した(非提示データ)。クロロキンは、エンドソームからのカーゴの逸脱を促進させることのできるエンドソーム溶解物質である。グランザイムBをサイトゾル中に放出させ、そこでそれがその標的を活性化しうるように細胞を処理するためには、クロロキンをグランザイムBと組み合わせることが必要である。また、HA-EGCGおよびグランザイムを含む粒子はクロロキンの存在下で細胞のアポトーシスを示した。しかし、クロロキンを含有する粒子は、クロロキンの毒性のために適切でない。このため、タンパク質薬の細胞内送達のための、HA-EGCG、グランザイムおよびPEIを含む粒子を設計した。PEIがエンドソーム溶解物質であり、細胞内のエンドソームを不安定化することは周知である。PEIを含有する粒子を用いることによって細胞生存度は低下することが観察された(
図11)。5μg/mlの HA-EGCGは、最も顕著なグランザイム効果を示した。また、グランザイムの効果は、より高濃度のHA-EGCGを利用した場合には低下した。これらの結果は、5μg/mlのHA-EGCGを利用した場合には、HA-EGCGおよびグランザイム複合体の不安定化のプロセスと、エンドソームからのグランザイムの逸脱のプロセスとの組み合わせが、おそらく最も効率的であることを指し示している。これらの結果から、HA-EGCG粒子が、HCT-116細胞のサイトゾル中への機能的イントラボディであるグランザイムBの成功裏の送達を達成したことが結論づけられた。
【0165】
本発明のさまざまな態様が本明細書に開示されているが、多くの適応化および改変を、当業者の共通一般知識に従って、本発明の範囲内で行ってもよい。そのような改変には、同じ結果を実質的に同じ様式で達成するための、本発明の任意の局面の、公知の等価物への置換が含まれる。
【0166】
数値の範囲は、範囲を定義している数字を含む。
【0167】
本明細書で用いられる技術用語および科学用語はすべて、特に明記しない限り、本発明の技術分野における当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0168】
本明細書に提示されている濃度は、パーセンテージで提示されている場合、重量/重量(w/w)、重量/容積(w/v)および容積/容積(v/v)パーセンテージを含む。
【0169】
「含む(comprising)」という語は、本明細書において、「を非限定的に含む(including, but not limited to)」という語句と実質的に等価な非制限的用語(open-ended term)として用いられ、「含む(comprises)」という語は相応する意味を有する。本明細書で用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈からそうでないことが明らかに示されている場合を除き、複数形の指示物も含む。したがって、例えば、「1つのもの」に対する言及は、複数のそのようなものも含む。
【0170】
本明細書における参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の先行技術であることを認めたものではない。本明細書中に引用された、特許および特許出願を非限定的に含む、あらゆる優先権書類およびすべての刊行物は、それぞれの個々の刊行物が参照により本明細書に組み入れられることが特定的および個別的に示されている場合と同程度に、かつ本明細書に全文が記載されたものとして、参照により本明細書に組み入れられる。
【0171】
本発明は、実施例および図面を参照しながら本明細書において実質的に前述された、すべての態様および変形物を含む。いくつかの態様において、本発明は、内科的治療または外科的治療を含む段階を範囲に含まない。
【0172】
参考文献