(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938003
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】エアバッグ用インフレータ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20160609BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
B60R21/264
B01J7/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-97895(P2013-97895)
(22)【出願日】2013年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-218138(P2014-218138A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
(74)【復代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
(74)【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
(72)【発明者】
【氏名】中田 公也
(72)【発明者】
【氏名】中村 光晴
【審査官】
粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−241634(JP,A)
【文献】
特開2012−245873(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3004037(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグを展開させるためのガスを発生するエアバッグ用インフレータであって、
圧力容器と、イグナイタ部と、ガス発生剤を含み、
前記圧力容器は、ベース部と、前記ベース部に接合され、インフレータ内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔を備えたディフューザ部を有し、
前記イグナイタ部には、伝火薬と点火器を収容し、
前記ガス発生剤は、前記圧力容器内の前記イグナイタ部の外周側のガス発生剤充填部に収容されており、
前記インフレータは、さらに、前記圧力容器と前記ガス発生剤充填部との間に、前記圧力容器の側壁内面に沿って設けられたフィルターを備えており、
前記ガス発生剤充填部の少なくとも前記デュフューザ側に、ガスに含まれる固形残渣の吸着部材を配置し、
前記ガス発生剤充填部の前記デュフューザ側には、前記ガス発生剤充填部を前記圧力容器と隔てるリテーナディスクを備え、前記デュフューザ側に配置する前記吸着部材を、前記リテーナディスクと接触して設けたことを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項2】
エアバッグを展開させるためのガスを発生するエアバッグ用インフレータであって、
圧力容器と、イグナイタ部と、ガス発生剤を含み、
前記圧力容器は、ベース部と、前記ベース部に接合され、インフレータ内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔を備えたディフューザ部を有し、
前記イグナイタ部には、伝火薬と点火器を収容し、
前記ガス発生剤は、前記圧力容器内の前記イグナイタ部の外周側のガス発生剤充填部に収容されており、
前記インフレータは、さらに、前記圧力容器と前記ガス発生剤充填部との間に、前記圧力容器の側壁内面に沿って設けられたフィルターを備えており、
前記ガス発生剤充填部の前記デュフューザ側と前記ベース側の少なくともどちらか一方に、ガスに含まれる固形残渣の吸着部材を配置するとともに、当該吸着部材と前記ガス発生剤との間にクッション部材を設けたことを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項3】
前記吸着部材が、前記ガス発生剤充填部の前記ベース側にも配置されている場合、当該ベース側に配置された前記吸着部材は、前記圧力容器を背面として、前記圧力容器に接触して設けられることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項4】
前記吸着部材は、前記圧力容器を背面として、前記圧力容器に接触して設けられることを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項5】
前記ガス発生剤充填部の前記ベース側には、前記ガス発生剤充填部を前記圧力容器と隔てるスペーサを備え、前記ベース側に配置される前記吸着部材は、前記スペーサと接触して設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項6】
前記吸着部材は、金属メッシュ構造を含むものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項7】
前記吸着部材は、エキスパンドメタルを含むものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置として自動車に設置されるエアバッグに供給するガスを発生するインフレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、インフレータで発生させたガスによりエアバッグを展開させることで、衝突の際の衝撃から乗員を保護するものである。
【0003】
図5はシングルステージタイプのインフレータの構造の一例を説明する中央縦断面図である。このインフレータ1は、ディフューザ2aとアダプター2bとベース2cからなる圧力容器2に、点火器3と、点火器3の着火エネルギーを瞬時に増幅する伝火薬4と、伝火薬4を介して着火され、瞬時に大量のガスを発生するガス発生剤5を内装した構成である。
【0004】
このようなインフレータ1では、衝突時、衝突検知信号によって点火器3が作動し、伝火薬4を介してガス発生剤5が着火され、発生したガスがフィルター6を通ってディフューザ2aの側壁に設けたガス噴出孔2aaから噴出してエアバッグを展開させる。
【0005】
7は伝火薬4とガス発生剤5を区画するためにアダプター2bに取付けられたイグナイタチューブであり、このイグナイタチューブ7には、伝火薬4、ガス発生剤5、フィルター6を保持するためのリテーナディスク8が固定される。
【0006】
そして、前記リテーナディスク8とガス発生剤5との間及びベース2cとガス発生剤5との間には、インフレータ1の振動によるガス発生剤5の移動を防いで変形等を防止する目的で、ガラス繊維製のクッション部材9が取付けられている。
【0007】
なお、ベース2cとガス発生剤5との間には、前記クッション部材9に代えて、フィルター6とベース2cの間からのガス流出を防止する目的で、フィルター6の延設部を取付ける場合もある(例えば特許文献1)。また、ガス発生剤5を装入する部分の容積を調整するために、スペーサと称される金属板を設置する場合もある。
【0008】
しかしながら、上記インフレータの場合、前記クッション部材9はガス発生剤5の着火によるガス発生時に燃焼するため、発生したガスに含まれる固形残渣を吸着する機能を有していない。また、フィルター6の延設部や、金属板であるスペーサも、前記固形残渣を吸着する機能を有していない。
【0009】
従って、エアバッグ内に噴出するガス中の固形残渣を減少させるために、従来は、
図6に示すように、インフレータ1をエアバッグに取付ける際に使用するリテーナ21の側壁内周に残渣回収メッシュ22を貼り付ける場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−241638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、フィルターが必ずしも十分に固形残渣を吸着していない点である。また、リテーナディスクとガス発生剤の間及びベースとガス発生剤の間に取付けられたクッション部材には、発生したガスに含まれる固形残渣を吸着する機能を有していないという点である。また、クッション部材に代えて、ベースとガス発生剤の間に取付けられるフィルターの延設部或いはスペーサにも、発生したガスに含まれる固形残渣を吸着する機能を必ずしも十分に有していない、若しくは元々有していないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
発生したガスに含まれる固形残渣の吸着効率を向上させてインフレータから噴出する固形残渣を減少するために、
エアバッグを展開させるためのガスを発生するエアバッグ用インフレータであって、
圧力容器と、イグナイタ部と、ガス発生剤を含み、
前記圧力容器は、ベース部と、前記ベース部に接合され、インフレータ内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔を備えたディフューザ部を有し、
前記イグナイタ部には、伝火薬と点火器を収容し、
前記ガス発生剤は、前記圧力容器内の前記イグナイタ部の外周側のガス発生剤充填部に収容されており、
前記インフレータは、さらに、前記圧力容器と前記ガス発生剤充填部との間に、前記圧力容器の側壁内面に沿って設けられたフィルターを備えており、
a) 前記ガス発生剤充填部の
少なくとも前記デュフューザ
側に、ガスに含まれる固形残渣の吸着部材を配置し
、
前記ガス発生剤充填部の前記デュフューザ側には、前記ガス発生剤充填部を前記圧力容器と隔てるリテーナディスクを備え、前記デュフューザ側に配置する前記吸着部材を、前記リテーナディスクと接触して設けたこと、
或は、
b) 前記ガス発生剤充填部の前記デュフューザ側と前記ベース側の少なくともどちらか一方に、ガスに含まれる固形残渣の吸着部材を配置するとともに、当該吸着部材と前記ガス発生剤との間にクッション部材を設けたこと
、を最も主要な特徴としている。
【0013】
本発明では、ガス発生剤充填部のディフューザ側とベース側の少なくともどちらか一方に、ガスに含まれる固形残渣の吸着部材を配置するので、フィルターに加えて吸着部材でも固形残渣を吸着することができ、固形残渣の吸着効率が向上する。
【0014】
前記吸着部材は、固形残渣を吸着できるものであれば、フィルターと同様の金属メッシュ構造を含むものでも、エキスパンドメタルを含むものであっても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、フィルターだけでなく、ガス発生剤充填部のディフューザ側とベース側の少なくともどちらか一方に配置した吸着部材でもガス中の固形残渣を吸着するので、固形残渣の吸着効率が向上してインフレータから噴出されるガス中の固形残渣が減少する。
【0016】
従って、インフレータをエアバッグに取り付ける際に使用するリテーナの側壁内周に残渣回収メッシュを貼り付けることなく、エアバッグ内に噴出するガス中の固形残渣を減少させてエアバッグに与えるダメージを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のインフレータの第1実施例を示した図で、(a)は中央縦断面図、(b)は(a)の吸着部材を平面方向から見た図である。
【
図2】本発明のインフレータの第2実施例を示した中央縦断面図である。
【
図3】本発明のインフレータの第3実施例を示した中央縦断面図である。
【
図4】本発明のインフレータの吸着部材の他の例を示した図で、(a)は平面方向から見た図、(b)は(a)の要部断面図である。
【
図5】従来のインフレータの構造の一例を説明する中央縦断面図である。
【
図6】従来のインフレータと、このインフレータをエアバッグに固定するリテーナを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、ガス中の固形残渣の吸着効率を向上させてインフレータから噴出するガス中の固形残渣を減少するという目的を、ガス発生剤充填部のディフューザ側とベース側の少なくともどちらか一方に、固形残渣の吸着部材を配置することで実現した。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例を、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1〜
図3は本発明のインフレータの第1〜第3実施例を示した図である。
【0020】
11は本発明のエアバッグ用インフレータであり、圧力容器2の内部に、イグナイタ部、ガス発生剤5、及びフィルター6を収容した構成である。
【0021】
このうち、圧力容器2は、ベース部と、このベース部に接合されるディフューザ部を有している。第1〜第3実施例では、ベース部は、ベース2cにアダプター2bを接合した構成であり、ディフューザ部は、ディフューザ2aの側壁に、インフレータ11の内部で発生したガスを外部に噴出させるガス噴出孔2aaを設けた構成である。
【0022】
また、前記イグナイタ部は、前記アダプター2bに保持されたイグナイタチューブ7の内部に、伝火薬4と点火器3を収容した構成である。
【0023】
また、前記ガス発生剤5は、圧力容器2に収容したイグナイタチューブ7の外周側のガス発生剤充填部12に装入されている。このガス発生剤充填部12と圧力容器2との間において、圧力容器2の側壁内面に沿って前記フィルター6を配置している。
【0024】
第1〜第3実施例では、前記ガス発生剤充填部12のディフューザ側の天井は、伝火薬4、ガス発生剤5、フィルター6を保持するためにイグナイタチューブ7に固定されたリテーナディスク8を備えている。リテーナディスク8の内面を背面として、ガスに含まれる固形残渣を吸着する吸着部材14がリテーナディスク8に取付けられた構成である。
【0025】
また、前記ガス発生剤充填部12のベース側の床は、第1,3実施例ではベース2cの内面を背面として、ガスに含まれる固形残渣を吸着する吸着部材14がベース2cに取付けられた構成である。前記ガス発生剤充填部12のベース側の床は、第2実施例ではアダプター2bとフィルター6間に配置され、内外周に脚部を有する環状のスペーサ13を備え、このスペーサ13を背面として、ガスに含まれる固形残渣を吸着する吸着部材14がスペーサ13に取付けられた構成である。
【0026】
言い換えると、本発明のインフレータ11は、例えば前記ガス発生剤充填部12の天井となるリテーナディスク8、及び床となるベース2c又はスペーサ13等のガス発生剤充填部12側に、ガスに含まれる固形残渣を吸着する吸着部材14を取付けた構成である。なお、第3実施例では、吸着部材14のガス発生剤充填部12側にクッション部材9を設けている。図示しないが、リテーナディスク8が設けられていなくても良い。その場合は、ディフューザ2aの内面を背面として、ガスに含まれる固形残渣を吸着する吸着部材14がディフューザ2aに取付けられた構成である。
【0027】
前記吸着部材14は、固形残渣を効率良く吸着できるものであれば、
図1(b)に示すようなメッシュ構造の金属部材に限らず、
図4に示すようなエキスパンドメタルでも良い。吸着部材14として例えばエキスパンドメタルを採用する場合は、
図4(b)に示すように、開口部14aの内径が、入口の内径d1よりも中央部の内径d2が小さくなるようにしておけば、固形残渣を効率良く吸着することができる。
【0028】
上記インフレータ11では、衝突などの車両緊急時に発生したガスのうち、ガス発生剤充填部12の天井方向や床方向に拡散して衝突するガスに含まれる固形残渣は、吸着部材14で吸着される。
【0029】
この時、第1〜第3実施例のように吸着部材14をガス発生剤充填部12の天井及び床等の内面と接触するようにして取付けた場合は、吸着した固形残渣がはがれにくくなって、固形残渣の吸着効率が良くなる。すなわち、吸着部材14がガス発生剤充填部12に面する内壁面に貼り付けられることで、ガス発生時に一旦捕集された固形残渣が吸着部材14からはがれにくくなる。
【0030】
従って、フィルター6を通ってディフューザ2aのガス噴出孔2aaから噴出するガス中に含まれる固形残渣は、フィルター6でガス中の固形残渣を回収するだけの場合に比べて減少する。
【0031】
その結果、エアバッグに与えるダメージを軽減するために、
図6に示すように、インフレータ1をエアバッグに取付ける際に使用するリテーナ21の側壁内周に残渣回収メッシュ22を貼り付ける必要がなくなる。
【0032】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇に含まれるものであれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0033】
すなわち以上で述べたエアバッグ用インフレータは、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0034】
例えば、上記の例では、ガス発生剤充填部12のディフューザ側とベース側の両方に吸着部材14を取付けているが、何れか一方のみに吸着部材14を取付けた場合でも、従来のインフレータ1に比べて固形残渣の吸着効率が向上する。
【0035】
また、上記の例では、吸着部材14はガス発生剤充填部12の天井、床を形成する内壁面と接触させているが、必ずしも内壁面に密着した状態で取付けなくても良い。例えば、部分的に、若しくは全体的に僅かに隙間があっても、一旦吸着した固形残渣がはがれにくいような状態で吸着部材14が配置されていれば、本発明の技術的思想に含まれる。
【0036】
また、上記第1〜第3実施例で示したリテーナディスク8やスペーサ13は必須の構成要件ではない。このうちリテーナディスク8を配置しない場合、吸着部材14は、例えばガス発生剤充填部12の天井となるディフューザ2aの内面側に取付ける。
【0037】
また、本明細書ではシングルステージタイプのインフレータについて説明したが、ダブルステージタイプのインフレータにも適用できる。
【符号の説明】
【0038】
2 圧力容器
2a ディフューザ
2aa ガス噴出孔
2b アダプター
2c ベース
3 点火器
4 伝火薬
5 ガス発生剤
6 フィルター
7 イグナイタチューブ
8 リテーナディスク
9 クッション部材
11 インフレータ
12 ガス発生剤充填部
13 スペーサ
14 吸着部材