特許第5938068号(P5938068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938068分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938068
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20160609BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20160609BHJP
【FI】
   H02J3/38 130
   H02M7/48 E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-115204(P2014-115204)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-231259(P2015-231259A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2014年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】田淵電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】龍 建儒
(72)【発明者】
【氏名】日高 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 英彦
【審査官】 田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−104075(JP,A)
【文献】 特開平01−222666(JP,A)
【文献】 特開2004−180452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/38
H02M 7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御装置であって、前記インバータの出力電流iinvと前記LCフィルタの出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定部を備え、前記出力電圧esdと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御する分散型電源の自立運転制御装置。
【請求項2】
前記出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するように前記インバータの目標電流iinvをフィードバック制御する電圧制御部と、前記目標電流iinvと前記出力電流iinvと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから前記目標電圧esdが出力されるように前記インバータのデューティ比uをフィードバック制御する電流制御部を備えている請求項1記載の分散型電源の自立運転制御装置。
【請求項3】
前記負荷電流推定部は、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記LCフィルタのコンデンサに流れる分岐電流iを推定し、前記出力電流iinvから前記分岐電流iを減算することにより前記負荷電流iLoadを算出するように構成されている請求項1または2記載の分散型電源の自立運転制御装置。
【請求項4】
直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、請求項1から3の何れかに記載の分散型電源の自立運転制御装置により前記インバータの出力電圧が制御されるように構成されているパワーコンディショナ。
【請求項5】
直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御方法であって、前記インバータの出力電流iinvと前記LCフィルタの出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定し、前記出力電圧esdと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御する分散型電源の自立運転制御方法。
【請求項6】
前記出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するように前記インバータの目標電流iinvをフィードバック制御する電圧制御ステップと、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定ステップと、前記目標電流iinvと前記出力電流iinvと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから前記目標電圧esdが出力されるように前記インバータのデューティ比uをフィードバック制御する電流制御ステップを備えている請求項5記載の分散型電源の自立運転制御方法。
【請求項7】
前記負荷電流iLoadは、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記LCフィルタのコンデンサに流れる分岐電流iを推定し、前記出力電流iinvから前記分岐電流iを減算することにより推定される請求項5または6記載の分散型電源の自立運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法に関し、特に直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及びインバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御装置、当該自立運転制御装置が組み込まれているパワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や燃料電池等の分散型電源は、系統電力に連系させて使用するために、周波数や電圧を電力系統に適合するように交流電力に変換するパワーコンディショナを備えている。
【0003】
パワーコンディショナは、分散型電源で発電された直流電圧を所定の直流電圧値に調整するDC/DCコンバータと、DC/DCコンバータから出力される直流電力を交流電力に変換するインバータと、インバータの出力から高周波成分を除去するLCフィルタ等を備えている。
【0004】
分散型電源が系統連系を行なっている配電線に地絡または短絡事故が発生し、或いは計画停電等によって変電所から配電線への電力の送電が停止した状態、即ち単独運転状態に至った場合に、区分開閉器の動作への影響防止及び配電線の作業の安全性を確保するために分散電源の制御装置によって当該配電線から分散型電源が解列される。
【0005】
そして、分散電源の制御装置によって系統電源から切り離された自立系統、或いは系統電源とは連系することなく独立した自立系統にパワーコンディショナから交流電力が給電制御される。
【0006】
分散電源の制御装置には、系統連系時に系統電圧の位相に同期した交流電流がインバータから出力されるようにインバータを制御する電流制御ブロックと、解列時に自立系統に法定された所定レベルの電圧が出力されるようにインバータを制御する電圧制御ブロックを備えている。法定された所定レベルの電圧とは、電気事業法第26条及び同法施行規則第44条に規定され、低圧需要家に向けて、標準電圧100Vに対して101±6V、標準電圧200Vに対して202±20V以内の電圧をいう。
【0007】
特許文献1には、負荷変動に伴い生じるインバータ装置の出力電圧の変動を所定の許容範囲内に抑制するための分散電源用のインバータ装置が開示されている。
【0008】
当該インバータ装置は、負荷電流の検出に基づいてインバータ出力電圧が許容範囲内となるように段階的な切り替えで出力電圧設定値を判定する第1の判定回路と、負荷電圧の検出に基づいてインバータ出力電圧が許容範囲内となるように段階的な切り替えで出力電圧設定値を判定する第2の判定回路を有し、系統連系時、第1の判定回路で負荷電流の検出により出力電圧設定値を更新し、系統停電の発生時から連系スイッチの遮断まで前記出力電圧設定値を保持した待機状態とし、連系スイッチの遮断時以降、第2の判定回路で負荷電圧の検出により出力電圧設定値を更新する待機状態とし、電流制御モードから電圧制御モードへの制御切り替え後、負荷電流の検出による出力電圧設定値に基づく出力電圧指令を送出する第1の判定回路から、負荷電圧の検出による出力電圧設定値に基づく出力電圧指令を送出する第2の判定回路へ切り替えるようにした電圧制御回路を備えている。
【0009】
特許文献2には、自立系統に接続された負荷に発生する突入電流を抑制して安定した自立運転を確保するために、自立系統に接続した負荷による突入電流を予め定められた電流値より小さくなるように制限する電流抑制回路を備えたパワーコンディショナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−120285号公報
【特許文献2】特開平10−313540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に開示された分散電源用のインバータ装置は、負荷電流を測定するための専用の負荷電流センサを設ける必要があり、電流センサの周辺回路を含めて部品コストや施工コストが嵩むという問題があった。
【0012】
また、特許文献2に開示されたパワーコンディショナも、突入電流を抑制するための専用の電流抑制回路を備え、当該電流抑制回路に対応した複雑な制御アルゴリズムを組込む必要があり、部品コストが嵩むという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、負荷電流を検出するためのセンサを備えることなく、また突入電流が生じるような状況でも特段の部品を設けることなく安定した出力電圧に制御可能な分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による分散型電源の自立運転制御装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御装置であって、前記インバータの出力電流iinvと前記LCフィルタの出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定部を備え、前記出力電圧esdと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御する点にある。
【0015】
自立運転制御装置は、系統電源が所定電圧以下に低下すると解列して、自立系統に所定電圧範囲の交流電圧を出力するべく、負荷電流推定部によってインバータの出力電流iinvとLCフィルタの出力電圧esdを検出し、それら検出値に基づいて自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定し、検出した出力電圧esdと推定した負荷電流iLoadに基づいてインバータから目標電圧esdが出力されるように制御するので、負荷電流を検出するための電流センサを備える必要が無く、そのための部品コストを低減できるようになる。
【0016】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するように前記インバータの目標電流iinvをフィードバック制御する電圧制御部と、前記目標電流iinvと前記出力電流iinvと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから前記目標電圧esdが出力されるように前記インバータのデューティ比uをフィードバック制御する電流制御部を備えている点にある。
【0017】
電圧制御部によって出力電圧esdを目標電圧esdに維持するためインバータの目標電流iinvが、例えばPID制御によって算出されて電流制御部に入力され、電流制御部によって目標電流iinvと出力電流iinvと負荷電流iLoadに基づいてインバータから目標電圧esdが出力されるように、例えばPID制御によってインバータのデューティ比uが算出され、当該デューティ比uでインバータが制御されることにより、自立系統に接続された負荷に流れる電流が変動するような場合でも、安定した出力電圧esdに制御される。
【0018】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記負荷電流推定部は、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記LCフィルタのコンデンサに流れる分岐電流iを推定し、前記出力電流iinvから前記分岐電流iを減算することにより前記負荷電流iLoadを算出するように構成されている点にある。
【0019】
インバータの出力電流iinvとLCフィルタの出力電圧esdに基づいてLCフィルタのコンデンサに流れる分岐電流iが推定され、出力電流iinvから分岐電流iが減算されて負荷電流iLoadが算出される。
【0020】
本発明によるパワーコンディショナの特徴構成は、直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、上述した第一から第三の何れかの特徴構成を備えた分散型電源の自立運転制御装置により前記インバータの出力電圧が制御されるように構成されている点にある。
【0021】
本発明による分散型電源の自立運転制御方法の第一の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、直流発電電力を交流電力に変換するインバータ及び前記インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタを備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御方法であって、前記インバータの出力電流iinvと前記LCフィルタの出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定し、前記出力電圧esdと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御する点にある。
【0022】
同第二の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、前記出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するように前記インバータの目標電流iinvをフィードバック制御する電圧制御ステップと、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定ステップと、前記目標電流iinvと前記出力電流iinvと前記負荷電流iLoadに基づいて前記インバータから前記目標電圧esdが出力されるように前記インバータのデューティ比uをフィードバック制御する電流制御ステップを備えている点にある。
【0023】
同第三の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記負荷電流iLoadは、前記出力電流iinvと前記出力電圧esdに基づいて前記LCフィルタのコンデンサに流れる分岐電流iを推定し、前記出力電流iinvから前記分岐電流iを減算することにより推定される点にある。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した通り、本発明によれば、負荷電流を検出するためのセンサを備えることなく、また突入電流が生じるような状況でも特段の部品を設けることなく安定した出力電圧に制御可能な分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】分散型電源の自立運転制御装置が適用される分散型電源の回路ブロック構成図
図2】系統電源と分電盤と分散型電源との接続関係の説明図
図3】自立運転制御装置によって実行される負荷電流の推定処理の説明図
図4】自立運転制御アルゴリズムの説明図
図5】自立運転制御アルゴリズムの確認実験のパラメータ説明図
図6】自立運転制御アルゴリズムの実験結果の説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による分散型電源の自立運転制御装置、当該自立運転制御装置に組み込まれるパワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1には、分散型電源の一例である太陽光発電装置1が示されている。太陽光発電装置1は太陽電池パネルSPと、太陽電池パネルSPが接続されたパワーコンディショナPCを備えて構成されている。太陽電池パネルSPで発電された直流電力は直流遮断器6及びサージアブソーバ7を介してパワーコンディショナPCに供給される。
【0028】
パワーコンディショナPCは、太陽電池パネルSPで発電された直流電圧を所定の直流リンク電圧Vdcに昇圧するDC/DCコンバータ2と、昇圧された直流リンク電圧Vdcを所定の交流電圧に変換するインバータ3と、インバータ3から出力される交流電圧から高調波を除去するLCフィルタ4と、DC/DCコンバータ2及びインバータ3を制御する制御装置5等を備えている。
【0029】
パワーコンディショナPCで変換された交流電力はサージアブソーバ8及び系統リレーRy1を介して系統電源100と連系可能に構成され、系統電源100から解列すると自立リレーRy2を介して自立負荷20に給電可能に接続されている。
【0030】
パワーコンディショナPCの制御装置5は、DC/DCコンバータ2の昇圧スイッチを制御するコンバータ制御部5aと、インバータ3のブリッジを構成するスイッチを制御するインバータ制御部5bで構成され、それぞれマイクロコンピュータ及びメモリ素子や入出力素子等を含む周辺回路で構成されている。
【0031】
コンバータ制御部5aはDC/DCコンバータ2への入力電圧、入力電流、出力電圧をモニタして、太陽電池パネルSPを最大電力点で動作させるMPPT制御等を実行しつつ、所定の出力電圧に昇圧制御する。
【0032】
インバータ制御部5bは、系統連系時に系統電圧の位相に同期するようにインバータの出力電流を制御する電流制御ブロックと、解列時に自立系統に所定電圧の交流電力を給電する電圧制御ブロックと、系統連系時に単独運転状態か否かを検出する単独運転検出ブロック等の機能ブロックを備えている。電圧制御ブロックが本発明の自立運転制御装置として機能する。
【0033】
図2には、系統電源100と太陽光発電装置1との接続関係が示されている。三本の架空線W1,W2,W3で構成される高圧配電線によって6,600Vの三相交流電力が送電され、需要家の近傍の配電柱に設置された柱上変圧器101に高圧配電線の内の1相分の2本の架空線W1,W3から電力が入力される。
【0034】
柱上変圧器101で6,600Vの電圧が200Vの単相電圧に降圧され、200Vの中間のタップが中性線として取り出され、片線と中性線との間で100V、線間で200Vの電圧が得られる。中性線は配電柱の近くで、中性線接地極と接続されて接地されている。
【0035】
柱上変圧器101の出力が配電柱に架設された低圧配電線L1,L2,L3に出力され、低圧引き込み線N1,N2,N3を経由して需要家の構内の分電盤102に構成された主回路104に主幹漏電遮断器103等を介して接続されている。低圧引き込み線には買電用電力量計Wh1と売電用電力量計Wh2が接続されている。
【0036】
主回路104にはブレーカCBを介して給電線105が接続され、各給電線105から構内負荷Load1に電力が供給されるように構成されている。太陽光発電装置1のパワーコンディショナPCの出力端子は系統リレーRy1を介して主回路104に接続可能に構成されるとともに、自立リレーRy2及びブレーカCBを介して自立系統の給電線106に接続された自立負荷Load2にも給電可能に構成されている。本実施形態では、AC100V2相のパワーコンディショナPCを例に説明するが、本発明は単相3相のパワーコンディショナPCにも適用可能である。
【0037】
インバータ制御部5bの電流制御ブロックは、系統連系時に系統リレーRy1を閉成して系統電圧の位相に同期するようにインバータの出力電流を制御し、単独運転検出ブロックによって単独運転状態が検知されると、系統リレーRy1を開成して系統から解列する。
【0038】
インバータ制御部5bの電圧制御ブロックとして機能する自立運転制御装置は、単独運転検出ブロックによって単独運転状態が検知され、系統リレーRy1が開成されると、自立リレーRy2を閉成して自立系統に所定電圧の交流電力を給電する。
【0039】
パワーコンディショナ2から自立系統に接続された負荷Load2への給電時に、負荷電流の変動に起因して出力電圧が101±6Vの範囲から逸脱すると、負荷Load2が安定的に動作することができなくなる。
【0040】
そこで、自立運転制御装置は、負荷電流の変動に関わらず、安定した出力電圧が得られるようにインバータ3を制御する。以下に詳述する。
【0041】
図3には、自立運転制御装置50と、インバータ3及びLCフィルタ4の等価回路が示されている。図3に示す符号Vdcは直流リンク電圧、Cdcは直流リンク電圧用の電解コンデンサ、S〜Sはインバータ3のスイッチング素子、einvはインバータ3の出力電圧、iinvはインバータ3の出力電流、LとCはLCフィルタ、RはインダクタLの内部抵抗、Rは交流側のコンデンサCの内部抵抗、esdは自立運転時のLCフィルタ4の出力電圧、iは交流側のコンデンサCに流れる電流、iLoadは負荷電流,RLoadは交流負荷、eLoadは負荷電圧を示す。コンデンサとしてフィルムコンデンサが好適に用いられるがフィルムコンデンサに限るものではない。
【0042】
キルヒホッフの電圧則に基づいて〔数1〕が、またキルヒホッフの電流則に基づいて〔数2〕が導かれる。ここで,uは単相インバータ出力のPWMのデューティである。
【数1】

【数2】
【0043】
〔数2〕により電流を指令値で表すと〔数3〕が成り立つ。
【数3】

また〔数2〕の負荷電流iLoadは〔数4〕から求める。ここで、iはLCフィルタ4を構成するコンデンサCに流れる電流である。また、iは〔数5〕に示すように、コンデンサC、内部抵抗R及び自立運転の出力電圧esdから推定できる。
【0044】
【数4】

【数5】

また、〔数1〕を指令値で表すと〔数6〕になる。
【数6】
【0045】
つまり、負荷電流iLoadを検出するための電流センサを設けなくても、インバータ3の出力電流iinvと、LCフィルタ4の出力電圧esdを検出すれば、〔数5〕に基づいてそれらの値からコンデンサCに流れる電流を推定することができ、その推定値に基づいて負荷電流iLoadが求まる。
【0046】
自立運転制御装置50は、上述した負荷電流iLoadの推定値に基づいて、自立運転時のインバータ3の出力電圧を制御するように構成されている。
【0047】
図4には、自立運転制御装置50により実行される電圧制御アルゴリズムのフローが示されている。自立運転制御装置50は、インバータ3の出力電流iinvとLCフィルタ4の出力電圧esdに基づいて自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定部51,52を備え、出力電圧esdと負荷電流iLoadに基づいてインバータ3から目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御するように構成されている。
【0048】
そして、自立運転制御装置50は、出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するようにフィードバック制御してインバータ3の目標電流iinvを設定する交流出力電圧制御部53と、設定された目標電流iinvと出力電流iinvと負荷電流iLoadに基づいてインバータ3から目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御してインバータのデューティuを設定する交流出力電流制御部54を備えている。
【0049】
交流出力電流制御部54で設定されたデューティuがPWM制御部55に入力され、インバータ3のスイッチング素子S〜SがPWM制御され、LCフィルタ4を介して高調波ノイズが除去された交流電圧が出力される。
【0050】
ここに、負荷電流推定部51,52は、既述したように、出力電流iinvと出力電圧esdに基づいてLCフィルタ4のコンデンサCに流れる分岐電流iを推定し、出力電流iinvから分岐電流iを減算することにより負荷電流iLoadを算出するように構成されている。
【0051】
フィードバック制御としてPID制御を好適に用いることができ、交流出力電圧制御部53では、出力電圧esdと目標電圧esdとの差分(偏差)に比例ゲインKipを乗ずる一次関数として目標電流iinvを設定することができる。
【0052】
また、交流出力電流制御部54では、出力電流iinvと目標電流iinvとの差分(偏差)に比例ゲインKipを乗ずる一次関数としてデューティuを設定することができ、この時に推定された負荷電流iLoadを外乱として取扱い、その大きさ位に応じて比例ゲインKipを可変に設定することにより、制御の応答性を向上させることができる。尚、上述の何れの場合もPID制御は、比例制御のみならず微分制御や積分制御を組み合わせて構成することも可能である。
【0053】
上述の自立運転制御装置50によって、直流発電電力を交流電力に変換するインバータ3及びインバータ3の出力から高調波成分を除去するLCフィルタ4を備え、系統電源が所定電圧以下に低下すると自立系統に給電可能に構成されている分散型電源の自立運転制御方法が実行される。
【0054】
当該自立運転制御方法は、インバータ3の出力電流iinvとLCフィルタ4の出力電圧esdに基づいて自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定し、出力電圧esdと負荷電流iLoadに基づいてインバータから目標電圧esdが出力されるようにフィードバック制御する方法である。
【0055】
そして、出力電圧esdを所定の目標電圧esdに維持するようにインバータ3の目標電流iinvをフィードバック制御する電圧制御ステップと、出力電流iinvと出力電圧esdに基づいて自立系統に供給される負荷電流iLoadを推定する負荷電流推定ステップと、目標電流iinvと出力電流iinvと負荷電流iLoadに基づいてインバータ3から目標電圧esdが出力されるようにインバータ3のデューティ比uをフィードバック制御する電流制御ステップを備えている。
【0056】
また、負荷電流推定ステップは、インバータ3の出力電流iinvとLCフィルタ4の出力電圧esdに基づいてLCフィルタ4のコンデンサに流れる電流iを推定し、インバータ3の出力電流iinvから推定した電流iを減算することにより負荷電流iLoadを算出するステップである。
【0057】
つまり、本発明によれば、負荷電流を測定するための別途の電流センサや、突入電流を抑制するための別途の回路を組み込む必要が無く、シンプルな構成を実現でき、さらには複雑な制御アルゴリズム等を組込む必要もなくなる。
【0058】
また、推定した負荷電流を外乱として制御に反映することにより、負荷急変時の出力電圧の安定化を向上することができ、推定負荷電流のフィードバックにより速い応答特性を得ることができるようになった。
【0059】
図6(a),(b)には、上述の自立運転制御方法を採用しない場合と、採用した場合の出力電圧の制御特性を評価する実験の結果が示されている。図5には、当該実験時の回路パラメータの設定値が示されている。
【0060】
図6(a)は推定負荷電流を用いない場合の実験結果であり、図6(b)は推定負荷電流を用いた場合の実験結果である。推定負荷電流を制御に用いない場合には、自立リレーが閉成してから約280ms.で定常状態になっているのに対して、推定負荷電流を用いた場合には、約20ms.で定常状態になっていることが明らかになった。つまり、推定負荷電流を制御に組み込むことによって、安定した電圧制御が可能になることが明らかになった。
【0061】
図6(c)には、上述の自立運転制御方法を採用した場合の過渡応答特性、つまり自立リレーが閉成すると同時に出力600Wの掃除機を駆動した時の負荷電圧特性が示されている。図6(c)から明らかなように、負荷電流が急激に流れる状態でも、負荷電圧eLoadは安定的に制御可能なことが確認された。
【0062】
上述した実施形態では、自立リレーRy2を介して自立系統の給電線106に接続された自立負荷Load2に給電する場合の自立運転制御装置及び方法について説明したが、図2に示すように、系統電源と解列した後、つまり低圧引き込み線N1,N2,N3と構内の分電盤102に構成された主回路104を主幹漏電遮断器103等によって遮断した後に、系統リレーRy1及び給電線105を介して構内負荷Load1に給電する場合にも、本発明による自立運転制御装置及び方法を適用して構内負荷Load1に給電することも可能である。
【0063】
以上説明した実施形態は、本発明による分散型電源の自立運転制御装置、パワーコンディショナ及び分散型電源の自立運転制御方法の一例に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、本発明の作用効果が奏される限り、具体的な制御アルゴリズムは適宜変更設計可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1:分散型電源
2:DC/DCコンバータ
3:インバータ
4:LCフィルタ
50:自立運転制御装置
51,52:負荷電流推定部
53:交流出力電圧制御部
54:交流出力電流制御部
100:系統電源
PC:パワーコンディショナ
SP:太陽電池パネル
S1,S2,S3,S4:インバータブリッジに備えたスイッチ素子

図1
図2
図3
図4
図5
図6