(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938087
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ねじがない計時器用バランスばねスタッドホルダー
(51)【国際特許分類】
G04B 18/02 20060101AFI20160609BHJP
G04B 17/32 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
G04B18/02 Z
G04B17/32
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-231286(P2014-231286)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-102550(P2015-102550A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2014年11月14日
(31)【優先権主張番号】13193609.8
(32)【優先日】2013年11月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・クルヴォワジエ
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭50−009027(JP,Y1)
【文献】
特開昭52−088061(JP,A)
【文献】
スイス国特許発明第00332548(CH,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/32,18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用バランスばね(21)を保持又は支持するアセンブリ(20)であって、
バランスばねスタッド(1)及びスタッドホルダー(2)を有し、
前記スタッドホルダー(2)は、エスケープ機構(30)に前記スタッドホルダー(2)を固定する手段(6)を有し、
前記バランスばねスタッド(1)は、前記バランスばね(21)を保持又は支持する方向を定める少なくとも1つの横方向支え面(7)を有し、
前記スタッドホルダー(2)は、2つの部品によって形成されており、前記固定する手段(6)を支える剛構造体(5)と、及び前記剛構造体(5)に押され少なくとも1つの弾性リップ(9)を有するストリップ状ばね(8)とを有し、
前記少なくとも1つの弾性リップ(9)は、前記剛構造体(5)とともに、前記スタッド(1)を受け前記スタッド(1)の前記少なくとも1つの横方向支え面(7)と連係する前記スタッド(1)を指標付けされたロック位置に前記スタッド(1)を保持するように連係するチャンバー(10)を形成する
ことを特徴とするアセンブリ(20)。
【請求項2】
前記横方向支え面(7)は、前記バランスばね(21)の外側端の方向を1つのみに定める配向表面を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項3】
前記バランスばねスタッド(1)は、前記少なくとも1つの横方向支え面(7)の対抗する両方の辺において、前記バランスばね(21)の軸方向における前記バランスばねスタッド(1)の移動を制限する止め面(11、12)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの横方向支え面(7)は、前記止め面(11、12)が前記バランスばね(21)の軸方向(D)の方向におけるバランスばねスタッド(1)の位置を1つのみに定めるように調整される
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項5】
前記剛構造体(5)及び/又は前記ストリップ状ばね(8)は、前記剛構造体(5)と前記ストリップ状ばね(8)の間の前記バランスばねスタッド(1)の接線方向の挿入のため、及び前記ストリップ状ばね(8)の弾性戻し力に対抗して前記チャンバー(10)内への挿入のために、挿入用傾斜(13、14)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項6】
前記剛構造体(5)及び/又は前記ストリップ状ばね(8)は、前記チャンバー(10)に切り欠き(15)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項7】
前記横方向支え面(7)は、前記バランスばね(21)の軸方向(D)に平行な平坦な部分(16)である
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項8】
前記剛構造体(5)は、ストリップ状ばね(8)に設けられた突起(18)と連係するように構成する切り欠き(17)、又はストリップ状ばね(8)に設けられた切り欠き(17)と連係するように構成する突起(18)を有し、
これによって、前記剛構造体(5)及び前記ストリップ状ばね(8)が、一方が他方の上になって押すように回転するように固定される
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項9】
前記剛構造体(5)は、実質的に環状であり、これによって、前記剛構造体(5)が、前記バランスばね(21)の軸(D)を中心にして、前記エスケープ機構(31)の構造(31)に支持されるように保持されることが可能になる
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項10】
前記ストリップ状ばね(8)は、実質的に環状であり、これによって、前記ストリップ状ばねが、前記エスケープ機構(30)の構造(31)と前記剛構造体(5)の間で支持されるように保持されること、又は前記バランスばね(21)の軸方向(D)を中心にして共通の周全体にわたって前記剛構造体(5)に支持されるように保持されることが可能になる
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項11】
前記剛構造体(5)は、前記バランスばね(21)の軸方向(D)に垂直な少なくとも1つの面(51、52)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項12】
前記剛構造体(5)は、お互い平行であって前記バランスばね(21)の軸方向(D)に垂直である2つの面(51、52)を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項13】
前記スタッドホルダー(2)は、2つの相補的な部品によって形成され、そのそれぞれは、前記バランスばねスタッド(1)をクランプされた状態で保持するように、前記バランスばねスタッド(1)の1つの表面と連係するように構成する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項14】
前記ストリップ状ばね(8)は、前記スタッド(1)を受ける前記チャンバー(10)を前記弾性リップ(9)とともに定めるように前記弾性リップ(9)と連係し、
指標付きのロック位置に前記スタッド(1)を保持するように前記スタッド(1)の前記少なくとも1つの横方向支え面(7)と連係する、付加的なウィング(109)をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ(20)。
【請求項15】
前記付加的なウィング(109)は、弾性を有する
ことを特徴とする請求項14に記載のアセンブリ(20)。
【請求項16】
請求項1に記載のアセンブリ(20)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする計時器用エスケープ機構(30)。
【請求項17】
請求項16に記載のエスケープ機構(30)を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする計時器用ムーブメント(40)。
【請求項18】
請求項17に記載のムーブメント(40)を少なくとも1つ有し、腕時計である
ことを特徴とする計時器(50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランスばねスタッド及びスタッドホルダーを有する計時器用バランスばねを保持又は支持するためのアセンブリであって、スタッドホルダーは、エスケープ機構にスタッドホルダーを固定する手段を有し、バランスばねスタッドは、バランスばねを保持又は支持する方向を定める少なくとも1つの配向表面を有するような、アセンブリに関する。
【0002】
本発明は、さらに、この種の保持アセンブリを少なくとも1つ有する計時器用エスケープ機構に関する。
【0003】
本発明は、さらに、このようなエスケープ機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0004】
本発明は、さらに、この種のムーブメントを少なくとも1つ有する計時器に関する。
【0005】
本発明は、計時器用エスケープ機構の分野に関する。
【背景技術】
【0006】
多数の大量生産される口径において、バランスばねの外部取り付け点を形成するバランスばねスタッドは、スタッドホルダーにつかまれ、スタッドホルダーは、平坦で型押しされた部品である。
【0007】
ハイエンド向けの生産においては、バランスばねスタッドは、機械加工された部品であるスタッドホルダーにねじ込まれる。そして、止めねじがねじ足とねじ山の間ではたらく。ねじ頭はロックされない。ロックによって、頻繁な破損を引き起こす。これは、ねじ足がバランスばねスタッドにロックされ、オペレーターがねじを回し続ける際に、経験するねじれ応力に起因する。
【0008】
PARECHOC SA名義のスイス特許出願CH 332548Aは、バランスばねの有効長を規制するデバイスを開示しており、このバランスばねの端は、バランスばねスタッドの介在なしでバランスばねを直接クランプするデバイスによって、スタッドなしで固定される。「バランスばねホルダー」と呼ばれる部品、及び「曲がり板」と呼ばれる部品が、ともにバランスばねを制限するのに必要である。この曲がり板は、独立的な部品であり、これは、バランスばねスタッドと同一視することができない。バランスばねをロックするためにねじが使用される。第1の弾性ストリップ片(細長片)が、バランスばねの有効長を決定するために使用される。曲がり板は第2の弾性ストリップ片を第1の弾性ストリップ片に押しつけて、曲がり板が不適当に動くのを防ぐ。この機構は、単にストリップ片の弾性的な効果によって、バランスばねを支えるユニットの挿入及び解放を許容しない。
【0009】
GLASHUTTE UHRENBETRIEB名義の欧州特許出願EP 2290477A1は、スタッド止めねじを固定する雌ねじを有するスタッドホルダーを記載しており、これは、スタッドの厚みの一部にわたってスタッド内の凹部と連係する。ねじを受ける雌ねじを支える区分壁は剛性を有する壁である。この構造は、取り付け点を変更するために、スタッドとバランスばねの間に設けることができる摩擦防止パッドを使用する。したがって、これもまた、バランスばねの有効長を調整するシステムである。
【0010】
両方の場合において、実際にクランプされるのはバランスばねである。これは、ねじれ又は圧縮応力に耐えることができないシリコンバランスばねでははたらくことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ハイエンド向けのムーブメントと互換性を有するようなバランスばねの外側コイルを保持する解決策を提供し、ねじがない固定手法によって止めねじの頻発する問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、計時器用バランスばねを保持又は支持するアセンブリに関し、バランスばねスタッド及びスタッドホルダーを有し、前記スタッドホルダーは、エスケープ機構に前記スタッドホルダーを固定する手段を有し、前記バランスばねスタッドは、前記バランスばねを保持又は支持する方向を定める少なくとも1つの配向表面を有し、前記スタッドホルダーは、2つの部品によって形成されており、前記固定する手段を支える剛構造体と、及び前記剛構造体に押され少なくとも1つの弾性リップを有するストリップ状ばねとを有し、前記少なくとも1つの弾性リップは、前記剛構造体とともに、前記スタッドを受け前記スタッドの前記少なくとも1つの配向表面と連係する前記スタッドを指標付けされたロック位置に前記スタッドを保持するように連係するチャンバーを形成する。
【0013】
本発明の特徴の1つによって、横方向支え面は、バランスばねの外側端の方向を1つに定める配向表面を形成する。
【0014】
本発明は、さらに、この種の保持アセンブリを少なくとも1つ有する計時器用エスケープ機構に関する。
【0015】
本発明は、さらに、このようなエスケープ機構を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメントに関する。
【0016】
本発明は、さらに、この種のムーブメントを少なくとも1つ有し、腕時計である計時器に関する。
【0017】
添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むことで、本発明の他の特徴及び利点を思い描くことができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係るバランスばね保持アセンブリを有するエスケープ機構の概略的な部分的な斜視図を示し、このバランスばね保持アセンブリは、バランスばねスタッドを表示する位置において、保持アセンブリに設けられたチャンバーの中へのスタッドの挿入区画において、バランスばねの外側コイルを保持している。保持アセンブリは、バランスコックのようなエスケープ機構の構造に固定される。
【
図2】
図2は、この保持アセンブリの概略拡大斜視図を示し、この保持アセンブリは、一定の厚みを有する第1の変形例における剛構造体と、及びストリップ状ばねとを有し、これらはともに、バランスばねスタッドを受けクランプするチャンバーを形成するように構成し、スタッドはアセンブリと連係するように構成している。
【
図3】
図3は、
図2のストリップ状ばねの概略的斜視図を示す。
【
図4】
図4は、第2の変形例における2レベルにある剛構造体の概略的斜視図を示す。
【
図5】
図5は、本発明に係るアセンブリによって保持されるバランスばねを有するエスケープ機構を有するムーブメントを有する計時器のブロック図である。
【
図6】
図6は、スタッドを受けるチャンバーがストリップ状ばねに設けられた2つの可撓性ストリップによって定められる変形例の概略的斜視図を示す。
【
図7】
図7は、スタッドを受けるチャンバーがストリップ状ばねに設けられた2つの可撓性ストリップによって定められる変形例の概略的斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
スタッドを保持するねじを使用しないようにするために、本発明は、弾性的戻し手段を有する固定要素を使用し、この弾性的戻し手段は、一方では、スタッドに特定の力をはたらかせることによってスタッドを挿入し又は引き抜き、他方では、単一の止め位置に動作位置のスタッドを保持することを可能にする。
【0020】
このように、本発明は、計時器用バランスばね21を保持又は支持するアセンブリ20に関し、これは、バランスばねスタッド1及びスタッドホルダー2を有する。
図1に示すように、このスタッドホルダー2は、バランスコックのようなエスケープ機構30にスタッドホルダー2を固定する手段6を有する。
【0021】
バランスばねスタッド1は、この種のバランスばね21を保持又は支持する方向を定める少なくとも1つの横方向支え面7を有する。
【0022】
本発明によると、このスタッドホルダー2は、少なくとも2つの部分で形成されており、固定する手段6を支える剛構造体5、及びこの剛構造体5を押すストリップ(細長)状ばね8を有する。このストリップ状ばね8は、少なくとも1つの弾性リップ9を有し、この弾性リップ9は、剛構造体5と連係して、バランスばねスタッド1を受けるチャンバー10を形成する。この弾性リップ9は、スタッド1の少なくとも1つの横方向支え面7と連係して、指標付きのロック位置にスタッド1を保持する。要するに、
図2に示すように、スタッド1は、ストリップ状ばね8の弾性リップ9と、剛構造体5の切り欠き53との間でクランプされる。
【0023】
好ましくは、横方向支え面7は、バランスばね21の外側端の方向を1つに定める配向表面を形成する。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態において、スタッドホルダー2は2つの部品によって形成されており、これによって、経済性が高い。なぜなら、スタッドホルダー2を形成する2つの部品のそれぞれは、製造が非常に簡単であり、大量生産の大きさと完全に互換性を有する。2つの部分で形成されるこのスタッドホルダー2は、さらに、最低限の間隙しか必要としない。実際に、図に示すように、好ましくは、ストリップ状ばね8は、剛構造体5を少なくとも部分的に包囲し、バランスピボット軸の軸方向Dにおいて占有される間隙の合計は、剛構造体5の厚みと、ストリップ状ばね8が好ましくは形成される金属板の厚みとの和である。
【0025】
したがって、好ましいことに、スタッドホルダー2は、2つの相補的な部分によって形成される。これらのそれぞれがスタッド1の1つの表面と連係して、スタッド1をクランプするように保持する。
【0026】
図1、2及び3に示したストリップ状ばね8は、好ましくは、切断され折られたシートメタルで作られ、他の特定の機械加工を必要としない。このストリップ状ばねは廉価であり、これによって、エスケープ機構30の同じ支持構造31、そして同じ剛構造体5とともに、異なる大きさのいくつものストリップ状ばね8を使用して、異なる幾何学的構成を有する多くのスタッドのモデルと連係させることができる。
【0027】
剛構造体5は、その大きさに依存して、機械加工することができ、また、ストリップ状ばね8よりも厚く剛性が高い材料に対して型押しをすることによって作ることができる。
図2は、一定の厚みを有する非常に経済的な第1の変形例を示す。これは、この種の型押しされた実施形態に適している。
図4は、2レベルにある剛構造体5の第2の変形例を示す。これは、好ましくは機械加工される。
【0028】
本発明に係るアセンブリ20を保持するアセンブリは、スタッドホルダーの機械加工及び作成を単純化する。なぜなら、従来技術と異なり、バランスばねスタッド1を受けるボアないし同様な凹部、あるいはロックねじと連係する雌ねじを作ることが必要なくなるからである。
【0029】
図に示す変形実施形態(これに限定されない)によって、少ない生産コストとともに、アセンブリを非常に簡単にすることができる。
【0030】
好ましくは、スタッド1は、バランスばね21の外側端の配向を定めるために設けられた少なくとも1つの横方向支え面7の対向する両方の辺に、剛構造体5及びストリップ状ばね8のアセンブリによって形成されるクランプに対してのバランスばね21の軸方向Dのスタッド1の移動を制限するための止め面11、12を有する。図示した変形例において、ストリップ状ばね8の弾性リップ9は、この横方向支え面7と平行で(そして、それぞれが軸方向Dに垂直な平面に位置する)、この横方向支え面7と連係する2つの縁面91及び92を有し、これは、この変形例において、止め面11、12によって定められる平坦な部分16によって形成される。好ましくは、複数の変形例に示すように、横方向支え面7は、バランスばね21の軸Dと平行な平坦な部分16である。
【0031】
極めて簡単な場合は、止め面11、12の間の間隙E1は、軸方向の遊びなしで保持するために、
縁面91、92の間の間隙Eと等しいように定めることができる。したがってこの極めて簡単な場合において、この少なくとも1つの横方向支え面7は、止め面11、12がバランスばね21の軸方向Dの方向においてバランスばねスタッド1の位置を1つのみに定めるように調整される。
【0032】
別の一変形例において、間隙Eよりも大きな間隙E1を選択することによって、特定の離間距離を設けることができ、これによって、所望の調整幅の値の分、スタッド1の限定された軸方向の調整が可能になる。
【0033】
更なる別の一変形例において、スタッド1は、軸方向Dにおける少なくとも一方の側において止め面を有していない。
【0034】
この保持アセンブリ20に対するスタッド1の挿入又は引き抜きを促進するために、剛構造体5及び/又はストリップ状ばね8は、剛構造体5とストリップ状ばね8の間のスタッド1の(
図1の矢に沿った)接線方向の挿入のために、又は反対に、接線方向の引き抜きのために、挿入用傾斜13、14を有する。この単純で集合的な傾斜によって、ストリップ状ばね8の弾性戻し力に対抗してのチャンバー10への挿入が促進される。引き抜きについて同じことが言える。スタッド1がこの傾斜及びストリップ状ばね8に対して押された場合、弾性リップ9を持ち上げて、スタッドがチャンバー10内の取り付け位置に達することを可能にする。チャンバー10は、切り欠き15によって輪郭が定められ、この切り欠き15が挿入又は引き抜きの境界を形成する。
【0035】
図示した変形例において、チャンバー10は、
図3に示す凹部80において、ストリップ状ばね8の側に位置しており、スタッド1は、弾性リップ9の裏面93に、そして、剛構造体5の側で切り欠き53において支えられる。この切り欠き53の境界は、一方では、好ましくは曲がったエントリー区画52によって定められ、この種の傾斜13を形成し、他方では、平坦な部分51によって定められる。この平坦な部分51は、選ばれた実施形態に依存して、弾性リップ9から遠いままか、又は
図3に示すように、弾性リップ9の1つの部分94を当接するように受ける。ここにおいて、スタッド1と当接するように連係するのは1つの突出端95のみである。剛構造体と弾性ストリップ状ばねの間のスタッドをクランプすることを伴うような本発明の範囲から逸脱せずに、他の変形例を考えることができる。
【0036】
すべての変形例において、チャンバー10は、軸方向Dに垂直な平面への射影における1つの位置のみにスタッド1を動けなくするように考えられている。
【0037】
好ましくは、剛構造体5及び/又はストリップ状ばね8は、挿入又は引き抜きの境界に対応するチャンバー10に切り欠き15を有する。
【0038】
図に示す好ましい実施形態において、剛構造体5とストリップ状ばね8の間の最適な相対的な位置合わせのために、剛構造体5は、ストリップ状ばね8に設けられた突起18と連係するように構成する切り欠き17(又は溝など)、又はストリップ状ばね8に設けられた切り欠きと連係するように構成する突起18を有し、これによって、剛構造体5とストリップ状ばね8を一方が他方の上で押す形態で固定する。図示していない変形例において、ストリップ状ばねは、さらに、少なくとも3つのタブを有することができる。これは、弾性ストリップ片9のように90°折り曲げられ、ストリップ状ばね8のボア81又は周縁82上に配置され、剛構造体5のボア58又は周縁59と連係するように構成して、これら2つの要素が完全に共軸であるようなアセンブリを確実にする。
【0039】
この相対的な位置合わせによって、剛構造体5とストリップ状ばね8を同期させることが、これらのアセンブリ時に、あるいはスタッド1の位置の角度調整を行うために、制限された角度的な移動性を可能とするようにアセンブリ20を保持することが決定された場合には、調整段階において、可能となる。当然、この機構は、構造31に対してアセンブリ20を所定位置に保持する手段を少なくとも必要とする。
【0040】
好ましくは、剛構造体5は、実質的に環状となっており、これによって、剛構造体5が、バランスばね21の軸方向Dを中心にして、エスケープ機構30の構造31、特に、バランスコックに支えられるように保持されることが可能になる。
【0041】
好ましくは、ストリップ状ばね8は、実質的に環状であり、これによって、ストリップ状ばね8が、バランスばね21の軸方向Dを中心にして、構造31と剛構造体5の間に支えられるように保持され、又はそれらの共有される周全体にわたって剛構造体5に支えられるように保持されることが可能になる。好ましいことに、剛構造体5は構造31に取り付けられて、ストリップ状ばね8を制限する。
【0042】
経済的な一実施形態において、剛構造体5は、バランスばね21の軸方向Dに垂直な少なくとも1つの面51、52を有し、好ましくは、剛構造体5は、お互いに平行であってバランスばね21の軸方向Dに垂直な2つの面51、52を有する。
【0043】
剛構造体5が2つのレベルにある
図4における特定の場合においては、ねじを有する従来のスタッドホルダーが元々設けられたエスケープ機構との互換性を有することが可能になる。これによって、製造コストが大きくても、高い高さを超えてスタッド1をガイドすることが改善されるという利点によって補われる。
【0044】
図6及び7は、単一片の折り曲げ部分を有する2つの変形例を示す。これは、弾性ストリップ片9に加えて、付加的な好ましくは弾性を有するウィング109を有し、これは、切り欠き53を有し、一方では、傾斜13を形成する、好ましくは曲がった、エントリー区画52によって輪郭が定められ、他方では、平坦な部分51によって輪郭が定められる。これらの2つの変形例においては、緩衝機構のための保持要素を設けることが好ましい。このようにして、チャンバー10は、これらの2つの可撓性ストリップ9、109によって輪郭が定められる。このようにして、剛構造体5は、バランスコックに固定する手段6が設けられた単純なワッシャーへと単純化することができる。
【0045】
別の一変形例は、スタッドホルダーを完全に一片で作り、また、バランスコックに固定する手段をさらに取り入れることを伴う。しかし、これは製造コストが高いであろう。なぜなら、好ましくは異なる材料の区画の領域を有するからである。
【0046】
本発明は、さらに、このような保持アセンブリ20を少なくとも1つ有する計時器用エスケープ機構30に関する。
【0047】
本発明は、さらに、この種のエスケープ機構30を少なくとも1つ有する計時器用ムーブメント40に関する。
【0048】
本発明は、さらに、このようなムーブメント40を少なくとも1つ有する計時器50に関する。具体的には、この計時器50は、腕時計である。
【0049】
手短に書くと、本発明は以下のような様々な利点を有する。すなわち、
−スタッドホルダーへのバランスばねの取り付けは完全に保証される。
−本発明によって、シリコン、石英、アモルファス物質、DLCなどで作られたバランスばねの使用が可能になる。
−ねじを有する従来のスタッドホルダーのねじが、廉価な切り出し部品に置き換えられる。
−スタッドホルダーを形成する剛構造体の機械加工が、大きく単純化され又は型押しによって置き換えられる。
−本機構の魅力及び質は、ハイエンド向けの計時器用ムーブメントと互換性を有する。
−スタッドの軸方向の調整は依然として可能である。
−本発明に係る機構は、従来のスタッドホルダーを有する既存のムーブメントにおいて交換可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 バランスばねスタッド
2 スタッドホルダー
5 剛構造体
7 横方向支え面
8 ストリップ状ばね
9 弾性リップ
10 チャンバー
11 止め面
12 止め面
13 挿入用傾斜
14 挿入用傾斜
17 切り欠き
18 突起
21 バランスバネ
30 エスケープ機構
109 ウィング
D 軸方向