特許第5938112号(P5938112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938112ガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938112
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   C03B5/225
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-561669(P2014-561669)
(86)(22)【出願日】2014年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2014084554
(87)【国際公開番号】WO2015099136
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2014年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-268975(P2013-268975)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 諒
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212942(JP,A)
【文献】 特表2011−502934(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132471(WO,A1)
【文献】 特開2013−216531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁と熔融ガラス表面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成される処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
前記処理装置で前記熔融ガラスを処理する際に前記気相空間と接する内壁に高温領域と前記高温領域よりも温度の低い低温領域が形成され、
前記処理装置には、前記処理装置の本体を通電加熱するための電極、又は、前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを連通させる排気管、の少なくとも何れかが設けられ、
前記処理装置の本体、および、前記電極又は前記排気管の外部には、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させる伝熱媒体が設けられ、
前記伝熱媒体の伝熱量は、前記電極又は前記排気管の少なくとも何れかが原因で生じる前記低温領域と前記高温領域との温度差が基準値以下となるように調整される、ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記基準値を、目標となるガラス基板中の白金貴金属の凝集物数によって定める、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
内壁と熔融ガラス液面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成される処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
前記処理装置で前記熔融ガラスを処理する際に、前記気相空間と接する内壁に高温領域と前記高温領域よりも温度の低い低温領域が形成され、
前記処理装置には、前記処理装置の本体を通電加熱するための電極、又は、前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを連通させる排気管、の少なくとも何れかが設けられ、
前記処理装置の本体、および、前記電極又は前記排気管の外部には、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させる伝熱媒体が設けられ、
前記電極又は前記排気管の少なくとも何れかが原因で生じる前記低温領域と前記高温領域との温度差を低減するように、前記伝熱媒体の伝熱量が調整されている、ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記高温領域と前記低温領域の温度差が200℃以下となるように前記伝熱媒体による伝熱量を調整する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記処理装置および前記伝熱媒体は耐火断熱レンガにより覆われ、
前記伝熱媒体は前記耐火断熱レンガよりも熱伝導率が高い耐火レンガであり、
前記伝熱媒体の伝熱量は、前記伝熱媒体の熱伝導率及び配置の何れかを用いて調整される、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記伝熱媒体の伝熱量は、コンピュータシミュレーションを用いて決定される、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記処理装置は、熔融ガラスを清澄させる清澄装置を含み、
前記伝熱媒体は、前記清澄装置の高温領域および低温領域と当接し、
前記伝熱媒体による伝熱量を調整することで、前記清澄装置の高温領域と低温領域の温度差を調整する、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
内壁と熔融ガラス表面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成され、熔融ガラスを処理する際に、高温領域と前記高温領域よりも温度の低い低温領域前記気相空間と接する内壁に形成される本体、および、
前記処理装置の本体を通電加熱するための電極、又は、前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを連通させる排気管、の少なくとも一方が設けられた処理装置と、
前記処理装置の本体、および、前記電極又は前記排気管の外部に設けられ、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させ、前記電極又は前記排気管の少なくとも何れかが原因で生じる前記低温領域と前記高温領域との温度差が基準値以下になるように、伝熱量が調整されている伝熱媒体と、
を備えるガラス基板製造装置。
【請求項9】
内壁と熔融ガラス液面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成され、
熔融ガラスを処理する際に、高温領域と前記高温領域よりも温度が低くなる低温領域前記気相空間と接する内壁に形成される本体、および、
前記処理装置の本体を通電加熱するための電極、又は、前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを連通させる排気管、の少なくとも一方が設けられた処理装置と、
前記処理装置の本体、および、前記電極又は前記排気管の外部に設けられ、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させ、前記電極又は前記排気管の少なくとも何れかが原因で生じる前記低温領域と前記高温領域との温度差を低減するように、伝熱量が調整されている伝熱媒体と、
を備えるガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、一般的に、ガラス原料から熔融ガラスを生成させた後、熔融ガラスをガラス基板へと成形する工程を経て製造される。上記の工程中には、成形前の熔融ガラスを処理する工程が含まれ、例えば、熔融ガラスが内包する微小な気泡を除去する工程(以下、清澄ともいう)が含まれる。清澄は、清澄管の本体を加熱しながら、この清澄管本体に清澄剤を含有する熔融ガラスを通過させ、清澄剤の酸化還元反応により熔融ガラス中の泡が取り除かれることで行われる。より具体的には、粗熔解した熔融ガラスの温度をさらに上げて清澄剤を機能させ泡を浮上脱泡させた後、温度を下げることにより、脱泡しきれずに残った比較的小さな泡は熔融ガラスに吸収させるようにしている。すなわち、清澄は、泡を浮上脱泡させる処理(以下、脱泡処理または脱泡工程ともいう)および小泡を熔融ガラスへ吸収させる処理(以下、吸収処理または吸収工程ともいう)を含む。
【0003】
成形前の高温の熔融ガラスに接する部材の内壁は、その部材に接する熔融ガラスの温度、要求されるガラス基板の品質等に応じ、適切な材料により構成する必要がある。たとえば、上述の清澄管本体を構成する材料は、通常、白金族金属の単体又は合金が用いられていることが知られている(特許文献1)。白金族金属は、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金族金属が内壁面に用いられた処理装置を熔融ガラスが通過すると、加熱された内部表面の気相空間(酸素を含む雰囲気)に接する部分において白金族金属が酸化物として揮発する。一方、白金族金属の酸化物は、処理装置の局所的に温度が低下した位置で還元され、還元された白金族金属が内壁面に付着する。内壁面に付着した白金族金属は熔融ガラス中に落下して混入し、ガラス基板に異物として混入するおそれがあった。
また、上記白金族金属等の揮発物の凝集物に由来する異物の熔融ガラスへの混入の問題は、近年の高精細化に伴い、益々品質要求が厳しくなっている液晶ディスプレイに代表されるディスプレイ用ガラス基板ではより大きくなる。
【0006】
本発明は、熔融ガラスの処理装置の局所的に温度が低下した位置の周囲との温度差を低減し、基準値以下とすることで、異物がガラス基板に混入するおそれが少なく、品質の高いガラス基板を製造することができるガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の形態を有する。
(形態1)
内壁と熔融ガラス表面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成される処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
前記処理装置の前記気相空間と接する領域には、熔融ガラスを処理する際に高温領域と、高温領域よりも温度の低い低温領域と、が形成され、
前記処理装置の外部には、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させる伝熱媒体が設けられ、
前記伝熱媒体の伝熱量は、前記高温領域と前記低温領域との温度差が基準値以下となるように調整される、ガラス基板の製造方法。
例えば、高温領域は、処理装置の温度が1600℃以上の温度範囲にある領域であり、低温領域は、処理装置の温度が1600℃未満の温度範囲にある領域であってもよい。又は、高温領域は、処理装置の温度が1620℃以上の温度範囲にある領域であり、低温領域は、処理装置の温度が1590℃以下の温度範囲にある領域であってもよい。
あるいは、処理装置に設けられた電極が設けられる領域である電極領域及び排気管が設けられた領域が低温領域であり、低温領域以外の領域又は電極と排気管の間の領域が高温領域であってもよい。
【0008】
ここで、処理装置には、熔解槽、清澄装置、攪拌槽や成形装置、および、これらの装置管で熔融ガラスを移送する移送管、これらの装置にガラスを供給する供給管を含む。処理装置における処理には、ガラスの熔解処理、熔融ガラスの清澄処理、攪拌処理、成形処理、および、熔融ガラスの移送処理、供給処理が含まれる。
高温領域と低温領域との温度差を基準値以下にするとは、伝熱媒体の伝熱量により高温領域と低温領域との温度差を調整し、当該温度差を予め設定された基準値以下にすることをいう。なお、基準値は、目標となるガラス基板中の白金貴金属の凝集物数によって定めることができる。伝熱媒体の伝熱量は、高温領域の最高温度が1600〜1750℃となり、かつ、低温領域の最低温度が1300〜1600℃となるように、調節することが好ましい。高温領域と低温領域との温度差を低減し、基準値以下にすることで、高温領域で揮発した白金族金属が低温領域で凝集する量を低減することができる。
白金族金属とは、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。
気相空間における白金族金属の蒸気圧は、0.1Pa〜15Paであることが好ましい。
【0009】
(形態2)
内壁と熔融ガラス液面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成される処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
前記処理装置には熔融ガラスを処理する際に高温領域と低温領域が形成され、
前記処理装置の外部には、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させる伝熱媒体が設けられ、
前記高温領域と前記低温領域との温度差を低減するように、前記伝熱媒体の伝熱量が調整されている、ガラス基板の製造方法。
【0010】
(形態3)
前記基準値は、200℃以下であり、
前記高温領域と前記低温領域の温度差が200℃以下となるように前記伝熱媒体による伝熱量を調整する、形態1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
(形態4)
前記処理装置および前記伝熱媒体は耐火断熱レンガにより覆われ、
前記伝熱媒体は前記耐火断熱レンガよりも熱伝導率が高い耐火レンガであり、
前記伝熱媒体の伝熱量は、前記伝熱媒体の熱伝導率及び配置の何れかを用いて調整される、形態1〜3のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
(形態5)
前記伝熱媒体の伝熱量は、コンピュータシミュレーションを用いて決定される、形態1〜4のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
コンピュータシミュレーションは、例えば、有限要素法やメッシュフリー法により、処理装置、伝熱媒体および気相空間のモデルを作成し、このモデルを使用して伝熱解析をすることにより行うことができる。
【0012】
(形態6)
前記処理装置は、熔融ガラスを清澄させる清澄装置を含み、前記伝熱媒体は、前記清澄装置の高温領域および低温領域と当接し、前記伝熱媒体による伝熱量を調整することで、前記清澄管の高温領域と低温領域の温度差を調整する、形態1〜5のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
処理装置内の熔融ガラスの最高温度は1630℃〜1720℃であることが好ましい。最高温度が1630℃以上であることで、熔融ガラス内の清澄剤が清澄効果を発揮することができる一方、1720℃以下であることで高温領域と低温領域との温度差を低減し、基準値以下にすることができ、気泡の低減と白金族金属の揮発量の低減とを両立することができる。
清澄剤として、酸化錫を用いることが好ましい。熔融ガラス中の酸化錫の含有量は、0.01〜0.3mol%であることが好ましい。酸化錫の含有量が少なすぎると、気泡の低減を十分に行うことができない。一方、酸化錫の含有量が多すぎると、酸化錫の熔融ガラスからの揮発量が増加し、揮発した酸化錫の凝集物が熔融ガラスに混入するという問題が生ずる。酸化錫の含有量を0.01〜0.3mol%とすることで、気泡を十分に低減しながら酸化錫の凝集物が熔融ガラスに混入することを抑制することができる。
【0013】
(形態7)
内壁と熔融ガラス表面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成され、熔融ガラスを処理する際に高温領域と、高温領域よりも温度の低い低温領域と、が形成される処理装置と、
前記処理装置の外部に設けられ、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させ、前記高温領域と前記低温領域との温度差が基準値以下となるように、伝熱量が調整されている伝熱媒体と、
を備えるガラス基板製造装置。
【0014】
(形態8)
内壁と熔融ガラス液面とから形成される気相空間を有し、前記気相空間と接する前記内壁の少なくとも一部は白金族金属を含む材料で構成され、熔融ガラスを処理する際に、高温領域と低温領域が形成される処理装置と、
前記処理装置の外部に設けられ、前記処理装置を支持し、前記高温領域から前記低温領域へ熱を伝導させ、前記高温領域と前記低温領域との温度差を低減するように、伝熱量が調整されている伝熱媒体と、
を備えるガラス基板製造装置。
【0015】
(形態9)
上記いずれかの形態において、気相空間中の酸素濃度は、0〜10%であることが好ましい。酸素濃度を小さくすることで、白金族金属の揮発量を低減することができる。
気相空間中の白金族金属の蒸気圧は0.1Pa〜15Paであることが好ましい。白金族金属の蒸気圧がこの範囲であると、還元された白金族金属が内壁面に付着するのを抑制することができる。
【0016】
(形態10)
上記いずれかの形態において、熔融ガラスに混入した白金族金属の凝集物を熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程をさらに有することが好ましい。
凝集物処理工程の開始時における熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度を、0.05〜20ppmとすることが好ましい。
凝集物処理工程では、熔融ガラスの温度を1660℃〜1750℃にすることで、熔融ガラスにおける白金族金属の飽和溶解度を調整することが好ましい。
白金族金属の飽和溶解度は、熔融ガラスの酸素活量を調整することにより調整することが好ましい。例えば、酸素活量の指標である[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が0.2〜0.5の範囲となるように酸素活量を調整することが好ましい。
【0017】
(形態11)
上記いずれかの形態において、前記白金族金属の揮発物の凝集により生成される凝集物は、例えば、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100以上である。また、例えば、白金族金属の凝集物の最大長さは50μm〜300μm、最小長さは0.5μm〜2μmである。ここで、白金族金属の凝集物の最大長さとは、白金族金属の凝集物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形のうち最大長辺の長さをいい、最小長さとは、前記外接長方形の最小短辺の長さをいう。
あるいは、前記白金族金属の揮発物の凝集により生成される凝集物は、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100以上であり、白金族金属の凝集物の最大長さが100μm以上、好ましくは100μm〜300μmであるものを示してもよい。
【0018】
(形態12)
上記いずれかの形態において、前記ガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板である。また、前記ガラス基板は、酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板又はLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異物がガラス基板に混入するおそれを低減し、品質の高いガラス基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2図1に示す熔解工程〜切断工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図3】清澄管120の構成を示す概略図である。
図4】清澄管120の断面図である。
図5】清澄管120の上面の長手方向における温度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0023】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。
【0024】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入し、加熱することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。
熔解槽の熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱し加熱する方法である通電加熱に加えて、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、熔融ガラスは、清澄剤を含有する。清澄剤として、酸化錫、亜ヒ酸、アンチモン等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化錫を用いることが好ましい。ガラス基板の酸化錫の含有量は、0.01〜0.3mol%であることが好ましく、0.03〜0.2mol%であることがより好ましい。酸化錫の含有量が少なすぎると、気泡の低減を十分に行うことができない。一方、酸化錫の含有量が多すぎると、酸化錫の熔融ガラスからの揮発量が増加し、揮発した酸化錫の凝集物が熔融ガラスに混入するという問題が生ずる。また、酸化錫の含有量が多すぎると、熔融ガラスから気相空間に放出される酸素が増加し、気相空間の酸素濃度が上昇し過ぎてしまい、処理装置からの白金族金属の揮発量が増加してしまうという問題が生ずる。酸化錫の含有量を0.01〜0.3mol%とすることで、気泡を十分に低減しながら酸化錫の凝集物が熔融ガラスに混入することを低減することができる。また、気泡を十分に低減しながら処理装置からの白金族金属の揮発量を低減することができる。
酸化錫は、一般的に用いられていた亜ヒ酸に比べて清澄機能は低いが、環境負荷が低い点で清澄剤として好適に用いることができる。しかし、酸化錫は、清澄機能が亜ヒ酸に比べて低いので、酸化錫を用いた場合、熔融ガラスMGの清澄工程時の熔融ガラスMGの温度を従来よりも高くしなければならない。そのため、後述する清澄管からの白金族金属の揮発量が増加し、結果的に白金族金属がガラス基板に異物として混入するという問題が顕著となる。
【0025】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄管において行われる。清澄工程では、清澄管内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO2あるいはSO2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じた酸素を吸収して体積が増大し、熔融ガラスの液面に浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。本実施形態の清澄工程では、酸化錫を清澄剤として用いる清澄方法について説明する。
なお、清澄工程は、減圧雰囲気の空間を清澄管につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。しかし、減圧脱泡方式は装置が複雑化及び大型化するため、清澄剤を用い、熔融ガラス温度を上昇させる清澄方法を採用することが好ましい。
【0026】
均質化工程(ST3)では、清澄管から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0027】
成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)は、成形装置で行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように、シートガラスを徐冷する。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0028】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄管120と、攪拌槽103と、移送管104、105と、ガラス供給管106と、を有する。
図2に示す熔解槽101には、図示されないバーナー等の加熱手段が設けられている。熔解槽には清澄剤が添加されたガラス原料が投入され、熔解工程が行われる。熔解槽101で熔融した熔融ガラスは、移送管104を介して清澄管120に供給される。
清澄管120では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄が行われる。清澄後の熔融ガラスは、移送管105を介して攪拌槽に供給される。
攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスが攪拌されて均質化される。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を介して成形装置200に供給される。
成形装置200では、オーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスからシートガラスが成形される。
【0029】
(清澄管の構成)
次に、図3を参照して、清澄管120の構成について説明する。図3は、実施の形態の清澄管120の構成を示す概略図である。
図3に示すように、清澄管120の長さ方向の両端の外周面には、電極121a、121bが設けられており、清澄管120の気相空間と接する壁には、排気管127が設けられている。なお、清澄管120は、白金、強化白金又は白金合金製であることが好ましい。
【0030】
清澄管120の本体、電極121および排気管127は、白金族金属から構成されている。なお、本明細書において、「白金族金属」は、白金族元素からなる金属を意味し、単一の白金族元素からなる金属のみならず白金族元素の合金を含む用語として使用する。ここで、白金族元素とは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の6元素を指す。白金族金属は高価ではあるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性にも優れている。
なお、本実施例では、清澄管120が白金族金属から構成されている場合を具体例として説明するが、清澄管120の一部が、耐火物や他の金属などから構成されていてもよい。
【0031】
電極121a、121bは、電源装置122に接続されている。電極121a、121bの間に電圧が印加されることにより、電極121a、121bの間の清澄管120に電流が流れて、清澄管120が通電加熱される。この通電加熱により、清澄管120の本体の最高温度が例えば、1600℃〜1750℃、より好ましくは1630℃〜1750℃となるように加熱され、ガラス供給管104から供給された熔融ガラスの最高温度は、脱泡に適した温度、例えば、1600℃〜1720℃、より好ましくは1620℃〜1720℃、より一層好ましくは1630℃〜1720℃に加熱される。
また、通電加熱によって熔融ガラスの温度を制御することで、熔融ガラスの粘度を調節し、これにより清澄管120を通過する熔融ガラスの流速を調節することができる。
【0032】
また、電極121a、121bには、図示しない温度計測装置(熱電対等)が設けられていてもよい。温度計測装置は電極121a、121bの温度を計測し、計測した結果を、制御装置123に出力する。
制御装置123は電源装置122が清澄管120に通電させる電流量を制御し、これにより清澄管120を通過する熔融ガラスの温度および流速を制御する。制御装置123は、CPU、メモリ等を含むコンピュータである。
【0033】
清澄管120の気相空間と接する壁には、排気管127が設けられている。排気管127は、清澄管120の本体外壁面から外側に向かって煙突状に突出する形状であってもより。排気管127は、清澄管120の内部空間の一部である気相空間120aと、清澄管120の外部空間とを連通している。
【0034】
図4は清澄管120の本体の長手方向および排気管127の長手方向における清澄管120の断面図である。清澄管120の本体の外壁面、電極121a、121bの外壁面および排気管127の外壁面には、伝熱媒体130が設けられ、伝熱媒体130よりも外側には、断熱材140が設けられている。
【0035】
伝熱媒体130は、断熱材140よりも熱伝導率が高い材料からなり、清澄管120の高温領域および低温領域と当接し、伝熱媒体130を介して高温領域から低温領域へ熱を伝導させることにより、高温領域と低温領域との温度差を低減させる役割を果たす。伝熱媒体130の伝熱量を調整することで、高温領域と低温領域との温度差を調整し、当該温度差を予め設定された基準値以下にすることができる。伝熱媒体130は、清澄管120の全領域と当接するように設ける必要はない。少なくとも高温領域と当接する箇所、および、低温領域と当接する箇所に伝熱媒体130を選択的に設けるとともに、両者を接続するように伝熱媒体130を設けることが好ましい。
伝熱媒体130の熱伝導率は、断熱材140の熱伝導率の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。1000℃における熱伝導率が2〜40W/m・Kである材料を伝熱媒体130として用いることが好ましい。伝熱媒体130には、優れた耐火性を有し、かつ、強度(剛性)が高い部材を用いることができる。具体的には、伝熱媒体130として、アルミナ電鋳耐火物、マグネシア質耐火物、炭化ケイ素耐火物等を用いることができる。このような材料を伝熱媒体130に用いることで、清澄管120の変形を防止することができる。
伝熱媒体130を介して高温領域から低温領域に移動する熱量は、0.3kW〜20kWであることが好ましく、0.5kW〜15kWであることがより好ましい。
【0036】
断熱材140は伝熱媒体130よりも熱伝導率が低い材料からなり、清澄管120および伝熱媒体130から外部への放熱量を調整する役割を果たす。1000℃における熱伝導率が0.1〜1W/m・Kである材料を断熱材140として用いることが好ましい。具体的には、断熱材140として、多孔質レンガ、セラミックファイバー等を用いることができる。
伝熱媒体130の断熱性は低いため、伝熱媒体130のみでは清澄管120を十分に保温することができない。一方、伝熱媒体130の外側に設けられた断熱材140は、断熱性は優れているが、強度が低い傾向がある。例えば、断熱耐火レンガは気孔率が高いほど、断熱性が高くなるが、強度が低くなる。そのため、断熱耐火レンガのみでは、清澄装置120の変形を防止することはできない。
本実施形態においては、伝熱媒体130と断熱材140の2層構造にすることによって、伝熱媒体130による清澄管120の支持と断熱材140による保温が達成される。
【0037】
なお、高温領域とは、他の領域よりも温度が高い領域を示す。清澄管120の場合、例えば、高温領域は、清澄管120の温度が1600℃以上の温度範囲にある領域、あるいは、1620℃以上の温度範囲にある領域であってもよい。また、例えば、高温領域は清澄管120が熔融ガラスを処理する際に最高温度となる領域を含んでもよい。低温領域とは、他の領域よりも温度が低い領域を示し、具体的には、高温領域よりも温度が低い領域を示す。清澄管120の場合、低温領域とは、清澄管120の温度が1600℃未満の温度範囲にある領域、あるいは1590℃以下の温度範囲にある領域であってもよい。また、例えば、低温領域は清澄管120が熔融ガラスを処理する際に最低温度となる領域を含んでもよい。例えば、以下に説明するように、清澄管の電極121a、121bの近傍、および、排気管127の近傍の領域は、低温領域となり、電極121a、121bと排気管127の間の領域は、高温領域となる。
【0038】
図5は、清澄管120の上面の長手方向における温度分布の一例を示す図であり、実線は本実施形態の清澄管120、破線は従来の清澄管の温度分布である。清澄管120の電極121a、121bの近傍、および、排気管127の近傍は、電極121a、121bおよび排気管127から外部への放熱が行われるため、清澄管120の他の領域と比較して低温となりやすい。具体的には、本実施形態の清澄管120の場合、フランジ形状を有する電極121a、121bは、高い放熱機能を有するので、電極121a、121b近傍の壁は、その壁の周辺の部分に比べて低温になる。さらに、電極121a、121bは、例えば、過熱による破損を抑制するために、液体又は気体により冷却されている。また、排気管127も、清澄管120から突出する形状であるため、排気管127近傍の気相空間41cと接する清澄管120の壁も、その壁の周辺に比べて低温になる。このため、気相空間と接する清澄管120の壁の温度は、熔融ガラスの流れ方向に沿って必然的に温度プロファイルを持つ。言い換えると、本実施形態の清澄管120の場合、清澄管120の温度が一定になることはなく、不可避的に温度差が生じる。
【0039】
本実施形態では、清澄管120の本体の外壁面、電極121a、121bの外壁面および排気管127の外壁面に伝熱媒体130が設けられていることで、伝熱媒体130を介して清澄管120の高温領域から低温領域へ熱が伝導される。これにより、清澄管120の高温領域と低温領域との温度差を所定の範囲に抑制することができる。
【0040】
清澄管120において局所的な温度低下が起きると、清澄が十分に行なわれず、成形されるガラス基板の泡品質が低下するおそれがある。これに対して、本実施の形態では、伝熱媒体130により局所的な温度低下を緩和し、高温領域と低温領域との温度差を所定の範囲に抑制することができる。このため、熔融ガラスの脱泡を確実に行うことができ、成形されるガラス基板の泡品質を改善することができる。
【0041】
また、白金族金属からなる清澄管120では、気相空間において白金族金属が酸化され揮発する。この揮発は特に清澄管120の高温領域で顕著である。揮発した白金族金属の酸化物は、局所的に温度が低下した領域で還元され、固化した白金族金属が凝集し内壁面に付着する。内壁面に付着した白金族金属の凝集物は清澄工程中の熔融ガラス中に落下し異物として混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがある。特に清澄剤として酸化錫を用いる場合には清澄効果を得るために必要な最高温度が高くなるため、揮発および付着の問題が一層顕著となる。局所的な温度低下を緩和し、清澄管120の高温領域と低温領域との温度差を所定の範囲に抑制することで、白金族金属の凝集物が内壁面に付着することを防ぐことができる。
気相空間中の酸素濃度を0%にすれば、白金族金属の揮発を防ぐことができる。このため、白金族金属の揮発を防ぐ観点からは、気相空間中の酸素濃度を0%にすることが好ましい。しかし、気相空間の酸素濃度を常に0%に保つためには清澄剤の含有量を極めて減らすことや、コストがかかるという問題がある。このため、泡低減、低コスト及び白金族金属の揮発の低減を両立するために、気相空間41cの酸素濃度は、0.01%以上であることが好ましい。気相空間の酸素濃度が小さくなり過ぎると、熔融ガラスと気相空間の酸素濃度差が大きくなることで熔融ガラスから気相空間120aに放出される酸素が増加し、熔融ガラスが還元され過ぎてしまうことで、結果的に成形後のガラス基板に硫黄酸化物や窒素等の気泡が残存するおそれがある。一方、酸素濃度が大きすぎると、白金族金属の揮発が促進され、揮発した白金族金属の析出量が増大するおそれがある。以上のことから、気相空間中の酸素濃度は、0〜30%であることが好ましく、0.01〜10%であることが好ましく、0.01〜1%であることがより好ましい。
気相空間中の白金族金属の蒸気圧は0.1Pa〜15Paであることが好ましく、3Pa〜10Paであることがより好ましい。白金族金属の蒸気圧がこの範囲であると、還元された白金族金属の凝集物が内壁面に付着するのを抑制することができる。
【0042】
なお、高温領域と低温領域との温度差の基準値は、白金族金属の揮発の抑制と清澄効果とを両立する観点から、50℃以上200℃以下であることが好ましく、70℃以上150℃以下であることがより好ましい。高温領域と低温領域との温度差が200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下であると、高温領域で酸化された白金族金属の酸化物が低温領域で還元することを抑制でき、固化又は凝集した白金族金属の熔融ガラスへの混入を抑制することができる。他方、高温領域と低温領域との温度差が50℃以上、より好ましくは70℃以上であると、熔融ガラスの温度を清澄に適した温度範囲とすることができ、泡数を低減することができる。なお、高温領域と低温領域との温度差とは、高温領域の最高温度と低温領域との最低温度の温度差としてもよい。
高温領域と低温領域との温度差を上記範囲とするために、低温領域の最低温度は1300℃以上1600℃以下であることが好ましく、1400℃以上1600℃以下であることがより好ましく、1500℃以上1600℃以下であることがさらに好ましい。また、高温領域の最高温度は1600℃以上1750℃以下であることが好ましく、1600℃以上1720℃以下であることがより好ましく、1610℃以上1700℃以下であることがさらに好ましい。
【0043】
高温領域と低温領域との温度差は、伝熱媒体130による伝熱量を調整することで調整することができる。伝熱量の調整は、伝熱媒体130の熱伝導率や伝熱媒体130の量を調節することにより調整することができる。
また、伝熱媒体130が耐火レンガである場合には、耐火レンガの配置を調整することで、高温領域と低温領域の温度差を制御することができる。
【0044】
伝熱媒体130の熱伝導率や配置、量を変えたときの伝熱量は、例えば、有限要素法やメッシュフリー法により作成した3Dモデルを用いた数値流体力学的計算(コンピュータシミュレーション)により算出することができる。例えば、清澄管120、伝熱媒体130、断熱材140、清澄管120内の熔融ガラスおよび気相空間を再現した3Dモデルを作成し、これを有限多数の領域(計算格子)に分割し、境界条件(清澄管12内の熔融ガラス温度や清澄管12の放熱等)および材料特性(熱伝導率等)を規定する。次に、コンピュータによる反復計算を用いて各計算格子における熱量の出入りを解析する。コンピュータシミュレーションを用いることにより、伝熱媒体130および断熱材140の最適な熱伝導率や配置、量を算出することができる。
【0045】
なお、本実施形態で抑制しようとしている白金族金属の凝集物は、一方向に細長い線状の形状をなし、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比は100以上である。例えば、白金族金属の凝集物の最大長さは50μm〜300μm、最小長さは0.5μm〜2μmである。ここで、白金族金属の凝集物の最大長さとは、白金族金属の凝集物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形のうち最大長辺の長さをいい、最小長さとは、前記外接長方形の最小短辺の長さをいう。
【0046】
本実施形態によれば、白金族金属の凝集物が異物として熔融ガラスに混入することを低減することができる。しかし、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入した場合に備えて、白金族金属の凝集物を熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程を有することが好ましい。白金族金属の凝集物を熔融ガラスに熔解させることで、製造されるガラス基板に混入する白金族金属の凝集物を低減することができる。
【0047】
以下に説明する凝集物処理工程は、熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度を0.05〜20ppmとした状態で行うことが好ましい。すなわち、凝集物処理工程の開始時における熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度を、0.05〜20ppmとすることが好ましい。凝集処理工程開始時の熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度が低いほど、熔融ガラス中の白金族金属の凝集物が溶解する溶解量が増大する。一方、白金族金属の濃度を低くし過ぎると、熔融ガラスと接する処理装置の壁から熔融ガラスに白金族金属が溶出して、処理装置が熔損するおそれがある。
熔融ガラスの白金族金属の濃度は、例えば、清澄管内の熔融ガラスをサンプリングし、冷却後粉砕してICP定量分析を用いた測定により求めることができる。
【0048】
凝集物処理工程では、熔融ガラスの温度を1660℃〜1750℃にすることで、熔融ガラスにおける白金族金属の飽和溶解度を調整する。熔融ガラスの温度を上昇させることで、熔融ガラスにおける白金族金属の飽和溶解度を高くすることができ、熔融ガラスに混入した白金族金属の凝集物を溶解させることができる。一方、熔融ガラスの温度を高くしすぎると、ガラス成分(例えばB)の揮発量が増加し、ガラス組成が局所的に変化してガラスの熱膨張係数や粘度等のガラス特性が局所的に変わり、脈理等のスジをガラス基板に発生させるおそれがある。また、熔融ガラスの温度を高くすると、熔融ガラスの処理装置の壁面からの白金族金属の揮発量が増加する。さらに、熔融ガラスの温度を高くしすぎると、処理装置の壁が熔損するおそれがある。
また、熔融ガラスの温度を高くしすぎると、過剰に脱泡されるため、熔融ガラスの酸素活量は低くなる。この状態で、吸収処理工程が行われると、熔融ガラスに溶存しているSO、COが還元されることでSO、COが生成される。SO、COはSO、COに比べて熔融ガラスに溶存されにくいため気泡として残りやすく、製造されるガラス基板に生じる泡欠陥の原因となる。
【0049】
なお、熔融ガラスと面する気相空間の圧力を調整することにより、白金族金属の飽和溶解度を調整してもよい。ここで、気相空間の圧力とは、気相空間に含まれる気体の全圧を意味する。
気相空間の圧力の調整は、例えば、気相空間内の気体が排気管127を通って清澄管120の外側に排出される量(排出量)や、清澄管120内へのガス、例えば不活性ガスの供給量、熔融ガラスから放出されるガスの放出量を調整することによって行うことができる。排出量は、例えば、清澄管120の排気管127の出口を吸引装置と接続したり、上記出口を狭める等して、気相空間と清澄管120の外側の大気との圧力差の大きさを調節することで調整できる。熔融ガラスから放出されるガスの放出量は、例えば、熔融ガラスに含まれる清澄剤の量、ガラス成分の配合比を調整することで調整できる。なお、気相空間の圧力が、清澄管120の外側の大気圧より高いまたは低いことは、例えば、排気管127から放出されるガス量によって求めることができる。
気相空間の圧力を高くすると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる。一方、気相空間の圧力を高くしすぎると、脱泡処理工程において、熔融ガラス中に発生した泡が熔融ガラスの表面から放出され難くなり、清澄不良を招く場合がある。また、気相空間の圧力を高くしすぎると、清澄管120の外側の大気との圧力差が大きくなって、気相空間内の気流の流速が上昇する。このため、気相空間内の白金族金属の濃度が上昇せず飽和状態になり難いため、清澄管120の壁からの白金族金属の揮発量が増加する。
【0050】
また、熔融ガラスの酸素活量を調整することにより、白金族金属の飽和溶解度を調整してもよい。熔融ガラスの酸素活量とは、熔融ガラスに溶存する酸素量(気泡として熔融ガラス中に存在するものを除く)を意味する。酸素活量の指標として、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を用いてもよい。ここで、[Fe2+]及び[Fe3+]は、熔融ガラスに含まれるFe2+及びFe3+の活量であり、具体的には、質量百分率表示含有量である。[Fe2+]及び[Fe3+]は、分光光度法を用いて計測することができる。
【0051】
熔融ガラスの酸素活量を上昇させることにより、白金族金属の凝集物の溶解量を増加させることができる。一方、酸素活量が高すぎると、熔融ガラスから放出される酸素量が増加し、白金族金属が酸化されて揮発しやすくなる。また、熔融ガラス中の溶存酸素濃度が高まることで、酸素の気泡が残り、製造されるガラス基板に生じる泡欠陥の原因となる。このため、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が0.2〜0.5の範囲となるように酸素活量を調整することが好ましい。
【0052】
熔融ガラスの酸素活量は、例えば、熔解工程において、熔融ガラスに含まれる清澄剤、ガラス原料の酸化物の量を調整することにより調整することができる。また、清澄工程において、凝集物処理工程開始前の熔融ガラスの温度を調整することや、凝集物処理工程の開始前に熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングすることによっても調整することができる。
【0053】
[実施例]
実施例1〜4では、図4に示す清澄装置を用いて、清澄剤として酸化錫を用いて熔融ガラスの清澄を1時間行い、清澄後の熔融ガラスを、2270mm×2000mm、厚さ0.5mmのシートガラスに成形し、100枚のガラス基板を作成した。このとき、伝熱媒体130および断熱材140の熱伝導率を調整することで、清澄管の最高温度の領域から電極121a、121b及び排気管127の周辺の領域への伝熱量を調整した。これにより、電極121a、121b及び排気管127の周辺の温度と清澄管の最高温度との温度差を表1に示す温度に保つことができた。なお、実施例4における伝熱量は2kWであり、実施例1〜3の伝熱量は2kW以上であった。
【0054】
[比較例]
伝熱媒体及び断熱材の熱伝導率を調整し、清澄管の最高温度の領域から電極121a、121b及び排気管127の周辺の領域への伝熱量を調整しなかったことを除いて実施例と同様の方法で、100枚のガラス基板を作成した。この結果、電極121a、121b及び排気管127の周辺の温度と清澄管の最高温度との温度差は、表1に示す温度となった。
【0055】
なお、実施例1〜6および比較例において、ガラス基板のガラス組成は、SiO 66.6mol%、Al 10.6mol%、B 11.0mol%、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量 11.4mol%、SnO 0.15mol%、Fe 0.05mol%、アルカリ金属酸化物 0.2mol%であり、歪点は660℃、粘度が102.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は1570℃であった。
【0056】
[白金族金属の凝集物の計数]
実施例1〜6および比較例において作製したガラス基板中を光学顕微鏡で観察し、ガラス基板中の白金族金属の凝集物の個数を計数した。なお、最高温度と最低温度の温度差が120℃である場合の1kgあたりの白金族金属の凝集物の個数を1として、夫々の条件における白金族金属の凝集物の個数を比率で示した。温度差が250℃である場合(比較例)に対し、温度差が50℃、80℃、100℃、120℃、170℃、200℃、である場合(実施例1〜6)には、ガラス基板中の白金族金属の凝集物の量を抑制できたことを明らかである。なお、白金族金属の凝集物としては、アスペクト比が100以上であり、最大長さが100μm以上の白金異物をカウントした。
【0057】
【表1】
【0058】
この凝集物による欠陥個数の単位質量当たりの許容レベルは、例えば0.02個/kg以下である。実施例1〜6のガラス基板では、白金族金属の凝集物の欠陥個数は、許容レベルにあった。一方、比較例のガラス基板では、白金族金属の異物の欠陥個数は、許容レベルを外れていた。
【0059】
(ガラス組成)
酸化錫を含む無アルカリガラス基板、又は、酸化錫を含む微アルカリガラス基板であると、本実施形態の効果は顕著となる。無アルカリガラス又は微アルカリガラスは、アルカリガラスと比較してガラス粘度が高い。そのため、熔解工程で熔融温度を高くする必要があり、多くの酸化錫が熔解工程で還元されてしまうので、清澄効果を得るためには清澄工程における熔融ガラス温度を高くして、酸化錫の還元をさらに促進し、かつ熔融ガラス粘度を低下させる必要がある。つまり、酸化錫を含む無アルカリガラス基板、又は、酸化錫を含む微アルカリガラス基板を製造する場合には、清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金または白金合金等の揮発が生じやすい。ここで、本明細書において、無アルカリガラス基板とは、アルカリ金属酸化物(Li2O、K2O、及びNa2O)を実質的に含有しないガラスである。また、微アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物の含有量(Li2O、K2O、及びNa2Oの合量)が0超0.8mol%以下のガラスである。
【0060】
本実施形態で製造されるガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は調合される。本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、SiO2 55〜75mol%、Al23 5〜20mol%、B23 0〜15mol%、RO 5〜20mol%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、 R’2O 0〜0.4mol%(R’はLi2O、K2O、及びNa2Oの合量)、SnO2 0.01〜0.4mol%、含有する。
このとき、SiO2、Al23、B23、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO2)+Al23)/((2×B23)+RO)は4.0以上であってもよい。モル比((2×SiO2)+Al23)/((2×B23)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性の高いガラスの一例である。高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金族金属(例えば、白金または白金合金)の揮発が生じやすい。つまり、このような組成を有するガラス基板を製造する場合には、熔融ガラス中に白金族金属の凝集物が異物として混入することを抑制するといった本実施形態の効果は顕著になる。なお、高温粘性とは、熔融ガラスが高温になるときのガラスの粘性を示し、ここでいう高温とは、例えば、1300℃以上を示す。
【0061】
本実施形態によれば、ガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率が0〜0.8mol%であっても、熔融ガラス中に白金族金属の凝集物が異物として混入することを抑制することができる。アルカリ金属酸化物の含有率が小さいほど、高温粘性が高くなるので、アルカリ金属酸化物の含有率が0〜0.8mol%のガラスは、アルカリ金属酸化物の含有率が0.8mol%を超えるガラスと比較して高温粘性が高い。高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金族金属の揮発が生じやすい。つまり、この高温粘性の高いガラスを用いるときには、熔融ガラス中に白金族金属の凝集物が異物として混入することを抑制する本実施形態の効果は顕著になる。
【0062】
本実施形態で用いる熔融ガラスは、粘度が102.5ポアズであるときの温度は1500〜1700℃、1600〜1700℃であるガラス組成であってもよい。このように、高温粘性の高いガラスは、一般的に清澄工程における熔融ガラス温度を高くする必要があるので、白金族金属の揮発が生じやすい。すなわち、高温粘性のガラス組成であっても、本実施形態の上記効果は顕著になる。
【0063】
本実施形態で用いる熔融ガラスの歪点は650℃以上であってもよく、660℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上が特に好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が102.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にある。つまり、歪点が高いガラス基板を製造する場合ほど、本実施形態の上記効果は顕著になる。また、歪点が高いガラスほど、高精細ディスプレイに使用されるため、白金族金属の凝集物が異物として混入する問題に対する要求が厳しい。そのため、高歪点のガラス基板ほど、白金族金属の凝集物混入を抑制できる本実施形態が好適となる。
【0064】
また、酸化錫を含み、粘度が102.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるガラスになるようにガラス原料を熔解した場合、より本実施形態の上記効果は顕著になり、粘度が102.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500℃〜1700℃であり、1550℃〜1650℃であってもよい。
【0065】
ガラス基板の表面に位置する白金族金属の凝集物は、ガラス基板を用いたパネル製造工程において離脱すると、離脱した部分が凹部となり、ガラス基板上に形成される薄膜が均一に形成されず、画面の表示欠陥を引き起こすという問題がある。さらに、ガラス基板中に白金族金属の凝集物が存在すると、徐冷工程において、ガラスと白金族金属の熱膨張率差により歪が生じるため、画面の表示欠陥を引き起こすという問題がある。そのため、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求が厳しいディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。特に、画面の表示欠陥に対する要求のさらに厳しい、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板等の高精細ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
以上のことから、本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0066】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0067】
例えば、図示しないが、高温領域と低温領域との間に冷媒の循環管を設け、循環管の内部で冷媒を循環させることで、冷媒を伝熱媒体としてもよい。この場合、冷媒の循環量を制御することで高温領域と低温領域の間の伝熱量を調整することができ、高温領域と低温領域との温度差を調整することができる。
循環管に循環させる冷媒は、水などの液体であってもよいし、空気などの気体であってもよい。
循環管には、融点が高い金属材料を用いることができる。具体的には、白金、ロジウム、銀、パラジウム、金、またはこれらの合金を循環管の材料として用いることができる。
【0068】
上記説明においては、清澄管120を中心に本発明の説明をしたが、清澄管120に限らず、熔解装置100の他の部分(熔解槽101、攪拌槽103、移送管104、105、ガラス供給管106)や成形装置200に伝熱媒体130や断熱材140を設けてもよい。
【符号の説明】
【0069】
101 熔解槽
103 攪拌槽
104、105 移送管
105 ガラス供給管
120 清澄管(清澄装置)
121a、121b 電極
122 電源装置
123 制御装置
127 排気管
130 伝熱媒体
140 断熱材
200 成形装置
図1
図2
図3
図4
図5