特許第5938146号(P5938146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938146
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】時計用ヒゲゼンマイ
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20160609BHJP
   G04B 18/06 20060101ALI20160609BHJP
   G04B 17/26 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   G04B17/06 Z
   G04B18/06
   G04B17/26
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-516650(P2015-516650)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公表番号】特表2015-519581(P2015-519581A)
(43)【公表日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】EP2013064108
(87)【国際公開番号】WO2014016094
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】12178020.9
(32)【優先日】2012年7月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】シュトランツル,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラルド,マルコ
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−545954(JP,A)
【文献】 特開2004−279203(JP,A)
【文献】 特表2009−526215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
G04B 17/26
G04B 17/32 − 34
G04B 18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地板(2)又は受けへの取り付け手段を含む少なくとも1つのヒゲ持ち(3)を含む、
時計組立体(1)であって、
前記組立体(1)は、内側端部(7)と外側端部(8)との間でコイル(6)状に巻かれた少なくとも1つのストリップ(5)を備える少なくとも1つの時計用ヒゲゼンマイ(4)を含み、
ヒゲ玉(9)に固定された前記内側端部(7)は、枢軸(D)の周りで枢動可能であり、
前記外側端部(8)は前記ヒゲ持ち(3)に固定され、
前記ヒゲ玉(9)は制動手段(10)を含み、前記制動手段(10)は、前記ヒゲゼンマイ(4)の設定値より大きい収縮又は膨張による加速中に、前記コイル(6)の少なくとも1つの第1のコイル(61)と協働して、少なくとも1つの前記第1のコイル(61)を前記制動手段(10)に局所的に連結することによって作動中のコイルの数を変化させた際に、前記ヒゲゼンマイ(4)の結果的な剛性を変化させるよう配設される、時計組立体(1)において、
前記ヒゲ玉(9)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(96)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(97)を含むこと、並びに
前記制動手段(10)は、前記ヒゲ玉(9)が備える少なくとも1つの第1の内側リップ(16;96)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(17;97)上に配設されること
を特徴とする、時計組立体(1)。
【請求項2】
前記制動手段(10)は、少なくとも1つの前記第1のコイル(61)が備える補助摩擦手段(11)と協働するよう配設され、
前記補助摩擦手段(11)は、前記ヒゲゼンマイ(4)の打ち出し加工された若しくは溝付きの若しくは打抜き加工された表面、又は高い表面粗度を有する表面、又は摩擦係数が高い表面コーティングを含む表面で形成される
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項3】
前記制動手段(10)は、前記補助摩擦手段(11)が備える補助摩擦表面(15)と協働するよう配設された少なくとも1つの摩擦表面(14)を含むことを特徴とする、請求項2に記載の時計組立体(1)。
【請求項4】
前記制動手段(10)は、少なくとも1つの略螺旋状の凹状摩擦経路(12)を含み、
前記凹状摩擦経路(12)は、前記設定値を超える加速時の少なくとも1つの前記コイル(6)の膨張中に、少なくとも1つの前記コイル(6)の外側部分に当接してこれを受承するよう配設される
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項5】
前記制動手段(10)は、少なくとも1つの略螺旋状の凸状摩擦経路(13)を含み、
前記凸状摩擦経路(13)は、前記設定値を超える加速時の少なくとも1つの前記コイル(6)の収縮中に、少なくとも1つの前記コイル(6)の内側部分に当接してこれを受承するよう配設される
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項6】
前記ヒゲ持ち(3)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(16)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(17)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項7】
前記組立体は、前記ヒゲ持ち(3)を支持する地板(2)を含み、
前記地板(2)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(16)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(17)を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項8】
前記組立体は、前記ヒゲ玉(9)を支持するテンプ(21)を含み、
前記テンプ(21)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(96)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(97)を含み、
前記テンプ(21)は、前記ヒゲ玉(9)並びに前記少なくとも1つの第1の内側リップ(96)及び前記少なくとも1つの第2の外側リップ(97)と、単一ピースの組立体を形成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項9】
前記制動手段(10)は、少なくとも1つの略螺旋状の凸状摩擦経路(13)を含み、
前記凸状摩擦経路(13)は、前記設定値を超える加速時の少なくとも1つの前記コイル(6)の収縮中に、少なくとも1つの前記コイル(6)の内側部分に当接してこれを受承するよう配設される
ことを特徴とし、また、
前記ヒゲ持ち(3)及び/又は前記ヒゲ玉(9)は、前記凸状摩擦経路(13)を備える第1の内側リップ(16;96)と、前記凹状摩擦経路(12)を備える第2の外側リップ(17;97)とを備えることを特徴とする、請求項4に記載の時計組立体(1)。
【請求項10】
前記ヒゲ持ち(3)及び/又は前記ヒゲ玉(9)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(16;96)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(17;97)を備えること、並びに
前記第1の内側リップ(16;96)及び/又は前記第2の外側リップ(17;97)は可撓性であること
を特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項11】
前記ヒゲ持ち(3)は、それぞれ前記制動手段(10)を含む少なくとも1つの第1の内側リップ(16)及び少なくとも1つの第2の外側リップ(17)を備えること、並びに
前記第1の内側リップ(16)及び/又は前記第2の外側リップ(17)は、前記ヒゲ持ち(3)に対して枢動するか、又は前記ヒゲ持ち(3)に対して枢動するプレート(18)に固定されること
を特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項12】
前記第1の内側リップ(16)及び/又は前記第2の外側リップ(17)は、前記ヒゲ持ち(3)に対して枢動することを特徴とする、請求項11に記載の時計組立体(1)。
【請求項13】
前記ヒゲ持ち(3)は、前記組立体(1)が備える又は前記組立体(1)に付属されている地板(2)に対して固定されることを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項14】
前記ヒゲ持ち(3)は、前記組立体(1)が備える又は前記組立体(1)に付属されている地板(2)に対して可動であるヒゲ持ちホルダに固定されることを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項15】
前記ヒゲ持ち(3)及び前記ヒゲゼンマイ(4)は、微小機械加工可能な材料で作製された単一ピースの組立体を形成し、
前記ヒゲゼンマイ(4)は前記内側端部(7)に、天真への取り付けのための前記ヒゲ玉(9)を含む
ことを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項16】
前記組立体は、調速機組立体(20)を含み、
前記調速機組立体(20)は、前記枢軸(D)の周りで枢動し、前記ヒゲ玉(9)によって前記ヒゲゼンマイ(4)の前記内側端部(7)が固定された、少なくとも1つのテンプ(21)を含む
ことを特徴とし、また
前記テンプ(21)の枢動の大きさは360°未満であることを特徴とする、請求項1に記載の時計組立体(1)。
【請求項17】
前記ヒゲ持ち(3)及び前記ヒゲゼンマイ(4)並びに前記テンプ(21)は、微小機械加工可能な材料で作製された単一ピースの組立体を形成することを特徴とする、請求項16に記載の時計組立体(1)。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の時計組立体(1)を少なくとも1つ含む、時計ムーブメント(30)。
【請求項19】
請求項18に記載のムーブメント(30)を少なくとも1つ、及び/又は請求項16若しくは17に記載の時計組立体(1)を少なくとも1つ含む、時計(40)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地板又は受けへの取り付け手段を備える少なくとも1つのヒゲ持ちを含む時計組立体に関する。上記組立体は、内側端部と外側端部との間でコイル状に巻かれた少なくとも1つのストリップを備える少なくとも1つの時計用ヒゲゼンマイを含む。ヒゲ玉に固定された上記内側端部は、枢軸の周りで枢動可能であり、上記外側端部は上記ヒゲ持ちに固定される。上記ヒゲ持ち及び/又は上記ヒゲ玉は制動手段を含み、この制動手段は、上記ヒゲゼンマイの設定値より大きい収縮又は膨張による加速中に、上記コイルの少なくとも1つの第1のコイルと協働して、少なくとも1つの上記第1のコイルを上記制動手段に局所的に連結することによって作動中のコイルの数を変化させた際に、上記ヒゲゼンマイの結果的な剛性を変化させるよう配設される。
【0002】
本発明はまた、少なくとも1つのこのタイプの時計組立体を含む時計ムーブメントにも関する。
【0003】
本発明はまた、少なくとも1つのこのタイプの時計ムーブメント及び/又は少なくとも1つのこのタイプの時計組立体を含む、時計にも関する。
【0004】
本発明は時計機構の分野に関し、より具体的には腕時計の調速部材の分野に関する。
【背景技術】
【0005】
機械式腕時計において、調速部材、特に脱進機は、複数の「安全性」基準を満たさなければならない。安全デバイスの1つであるトリップ防止システムは、通常の回転角度を超えるテンプの角度的な膨張を防止するように設計されている。
【0006】
技術的問題は、安全機構、特に過度の加速中、とりわけ衝撃を受けた場合のテンプの枢動角度を制限するトリップ防止システムを、特にデテント脱進機用に考案することである。トリップ防止機構は、テンプの両枢動方向において、即ちヒゲゼンマイの膨張中と収縮中の両方において作用できなければならない。
【0007】
1つの解決法は、連続するコイルの突起部を当接するように協働させることで、ヒゲゼンマイの幾何学的形状を変更することにより、いくつかのコイルの作動を停止させ、これに伴ってヒゲゼンマイの剛性及び衝撃に対する反応を変化させることからなる。ヒゲゼンマイの移動角度を両枢動方向において制限できる上記のタイプの機構は、MONTRES BREGUET SAによる特許文献1から公知である。特許文献1は、ヒゲゼンマイの収縮中及び膨張中の両方において、連続するコイルに付属するノッチと互いに協働する、トリップ防止ヒゲゼンマイを開示している。
【0008】
LEVINGSTON GIDEONによる特許文献2は、通常より大きな膨張又は収縮中にヒゲゼンマイと接触することによってヒゲゼンマイの有効長を変化させることができる2つのリップを含むヒゲ持ちを外側コイル上に備える、ヒゲゼンマイについて記載している。
【0009】
PATEK PHILIPPEによる特許文献3は、単一ピースのヒゲゼンマイ−ヒゲ玉組立体について記載しており、ヒゲ玉の外側輪郭は、衝撃を受けた場合に、内側コイルの弾性限界を超える前にヒゲゼンマイが当接して協働する、少なくとも1つの停止部材を備える。
【0010】
SWATCH GROUP R&Dによる特許文献4は、衝撃吸収ヒゲ玉について記載しており、このヒゲ玉の非対称な輪郭は、略一定の距離を置いてヒゲゼンマイの内側コイルに沿ったものであり、上記輪郭は、独立した複数の支持点を備える曲線の形状を取ることができる。
【0011】
ENSIGN、GEORGEによる特許文献5は、調速機について記載しており、テンプのアームは、平衡化されたストリップを備えるピンを支持し、上記ストリップは、アームに対する角度的配向に応じて制動力を発生させることによってトリップを防止できるよう配設される。変形例では、ヒゲゼンマイの外側コイルは、テンプのアームが備えるピンに干渉できるユニットを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第2434353A1号
【特許文献2】米国特許出願第2009/116343A1号
【特許文献3】欧州特許出願第1857891A1号
【特許文献4】欧州特許出願第1818736A1号
【特許文献5】米国特許出願第3041819A号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、両方の回転方向において移動角度を制限することによって、テンプの慣性をごく僅かにしか乱すことなく、安全性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明は、地板又は受けへの取り付け手段を備える少なくとも1つのヒゲ持ちを含む時計組立体に関する。上記組立体は、内側端部と外側端部との間でコイル状に巻かれた少なくとも1つのストリップを備える少なくとも1つの時計用ヒゲゼンマイを含む。ヒゲ玉に固定された上記内側端部は、枢軸の周りで枢動可能であり、上記外側端部は上記ヒゲ持ちに固定される。上記ヒゲ持ち及び/又は上記ヒゲ玉は制動手段を含み、この制動手段は、上記ヒゲゼンマイの設定値より大きい収縮又は膨張による加速中に、上記コイルの少なくとも1つの第1のコイルと協働して、少なくとも1つの上記第1のコイルを上記制動手段に局所的に連結することによって作動中のコイルの数を変化させた際に、上記ヒゲゼンマイの結果的な剛性を変化させるよう配設される。この時計組立体は、上記ヒゲ玉が、それぞれ上記制動手段を備える少なくとも1つの第1の内側リップ及び少なくとも1つの第2の外側リップを含むこと、並びに上記制動手段が、それぞれ上記ヒゲ持ち及び/又は上記ヒゲ玉が備える少なくとも1つの第1の内側リップ及び少なくとも1つの第2の外側リップ上に配設されることを特徴とする。
【0015】
本発明の特徴によると、上記時計組立体は調速機組立体を含み、この調速機組立体は、上記軸の周りで枢動する、上記ヒゲゼンマイの上記内側端部又は上記外側端部が固定された少なくとも1つのテンプを備え、上記テンプの枢動の大きさは360°未満である。
【0016】
本発明はまた、少なくとも1つのこのタイプの時計組立体を含む時計ムーブメントにも関する。
【0017】
本発明はまた、少なくとも1つのこのタイプの時計ムーブメント及び/又は少なくとも1つのこのタイプの時計組立体を含む、時計にも関する。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明を説明する時計組立体の概略平面図である。上記組立体は、枢軸の周りで振動するよう設計され、外側端部でヒゲ持ちに取り付けられたヒゲゼンマイを備える。上記ヒゲ持ちは、大き過ぎる衝撃又は衝突によって発生し得る通常より大きな振幅が発生した場合に、ヒゲゼンマイのコイルが制動手段に接触した際にヒゲゼンマイの剛性を結果的に変化させるよう配設された制動手段を備える。ある変形例では、上記制動手段は、ヒゲ持ちが内側リップ及び外側リップを備え、これらがそれぞれ凸状及び凹状の摩擦経路を備えることを特徴とする。
図2図2は、本発明による時計組立体の、図1と同様の図であり、テンプへの取り付けのためにヒゲ玉に固定されたヒゲゼンマイの内側コイル近傍に、上記と同様の制動手段が配設されている。
図3図3は、図1、2の実施形態を組み合わせた概略図である。
図4図4は、別の変形例の詳細を示す、図1と同様の図である。ヒゲゼンマイは、ヒゲゼンマイの打ち出し加工部分等の補助摩擦手段を含み、この補助摩擦手段は、内側リップ及び外側リップが備える打ち出し加工摩擦表面と協働するよう設計されている。
図5図5は、図3の変形例による時計組立体を含むムーブメントを備える、特に腕時計である時計のブロック図であり、ヒゲゼンマイはその内側端部において、ヒゲ玉によってテンプに取り付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は時計機構の分野に関し、より具体的には腕時計の調速部材の分野に関する。
【0021】
本発明の目的は、ヒゲゼンマイ、特に調速機構を備える、振動機構又はエネルギ貯蔵機構の安全性を向上させることである。
【0022】
ここで採用される原理は、通常より大きな振幅が発生した場合に、ヒゲゼンマイの結果的な剛性を変化させることであり、上記通常より大きな振幅は:大き過ぎる衝撃又は衝突によって;通常動作とは異なる使用条件において事故が発生した場合に;及び特に大きな加速又は衝撃が発生している間に発生し得る。
【0023】
ヒゲゼンマイの剛性を変化させることによって色々な用途が考えられ、脱進機機構のトリップ防止システムへの本発明の好ましい応用に関する本明細書は、決して限定を意図したものではない。
【0024】
調速機への応用の目的は、特に360°超の振幅に関して、機械式腕時計内のテンプの回転角度を所定の角度に制限することである。移動角度の制限は、テンプの慣性を変化させることなく、両回転方向において達成される。調速機の通常の運動中には上記システムはいずれの衝撃も発生させないため、調速機は(トリップ防止システムに対する)通常の角度移動の間は「自由(free)である」と表現される。
【0025】
本明細書で提案するシステムの原理は、ヒゲゼンマイの幾何学的形状を変化させることによるものである。テンプの回転によるヒゲゼンマイの膨張又は収縮中、複数のコイルの間に相対的な角度運動及び径方向運動が発生する。
【0026】
上述のシステムは、回転角度に応じて、及びコイルの運動に応じて、作動できるコイルの数を制限する。これにより、回転角度に応じてヒゲゼンマイの剛性を一時的に変化させることができる。
【0027】
本明細書に記載する時計組立体1は、ヒゲゼンマイ4の絶対的な径方向運動に基づく停止システムを有する。このシステムの応用は、ヒゲゼンマイの1つ又は複数の第1の外側コイルに関する。
【0028】
注意深く設計することにより、ヒゲゼンマイの重心を確実に平衡化する。停止表面の幾何学的形状、分布、位置、数は、詳細に設計する必要があり、本文書では単にその原理を概説する。
【0029】
この種類のヒゲゼンマイの製造は、平面的な設計の高いレベルの自由度を実現できる微小機械加工方法に基づくものである。シリコン技術を用いて、この種類のヒゲゼンマイを作製できる。本発明はこの技術に限定されず、「LIGA」法や、時計構成部品及び特に脱進機機構に現在使用されているその他の微小機械加工方法も使用できる。
【0030】
本発明は、時計組立体1に関する。上記時計組立体1は、地板2又は受けへの取り付け手段を備える少なくとも1つのヒゲ持ち3を含む。
【0031】
組立体1は少なくとも1つのヒゲゼンマイ4を含み、このヒゲゼンマイ4は、内側端部7と外側端部8との間でコイル6状に巻かれた少なくとも1つのストリップ5を含む。内側端部7はヒゲ玉9に取り付けられ、枢軸Dの周りで枢動可能であり、外側端部8はヒゲ持ち3に固定される。
【0032】
ヒゲ持ち3及び/又はヒゲ玉9は、制動手段10を含む。これらの制動手段10は、ヒゲゼンマイ5の設定値より大きい収縮又は膨張による加速中に、コイル6の少なくとも1つの第1のコイル61と協働して、ヒゲゼンマイ4の結果的な剛性を変化させるよう配設される。このような剛性の変化は、少なくとも1つの上記第1のコイル61を制動手段10に局所的に連結することによって、ヒゲゼンマイ4の作動中のコイルの数を変化させることから得られる。あるコイルを、例えば隣接する内側コイル及び/又は隣接する外側コイルといった別の1つ又は複数のコイルに連結することによって、これら1つ又は複数のコイルの効果が打ち消され、ヒゲゼンマイ4全体の結果的な特性が変化することが理解されるだろう。
【0033】
本発明によると、ヒゲ玉9は、それぞれ上記制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ96及び少なくとも1つの第2の外側リップ97を含む。これら制動手段10は、それぞれヒゲ持ち3及び/又はヒゲ玉9が備える少なくとも1つの第1の内側リップ16、96及び少なくとも1つの第2の外側リップ17、97上に配設される。
【0034】
従ってヒゲ持ち3は、好ましくはヒゲゼンマイ4の1つ又は複数の外側コイルに作用する停止用スタッドである。この停止は、ヒゲゼンマイの最も外側のコイルに関する場合は、ヒゲゼンマイ全体の径方向運動に基づくものである。実際にはヒゲ持ちへのヒゲゼンマイの取り付けは、ヒゲゼンマイに僅かな延長の可能性を残すものであり、ヒゲゼンマイの変形の殆どは軸Dに対して径方向のものである。
【0035】
図4に示すように、特定の実施形態では、制動手段10は、少なくとも1つの第1のコイル61が備える補助摩擦手段11と協働するよう配設される。制動手段及び/又は摩擦手段11は、高い表面粗度、摩擦係数が高い表面コーティング、ヒゲゼンマイ4の打ち出し加工された又は溝付きの又は打抜き加工された表面、といった様々な様式で配設できるが、これらの経済的な実施例を図示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
従ってある変形例では、補助摩擦手段11は、ヒゲゼンマイ4の打ち出し加工された又は溝付きの又は打抜き加工された表面によって形成される。
【0037】
別の変形例では、制動手段10は、補助摩擦手段11が備える補助摩擦表面15と協働するよう配設された少なくとも1つの摩擦表面14を含む。
【0038】
図1に示す有利な変形実施形態では、制動手段10は少なくとも1つの略螺旋状の凹状摩擦経路12を含み、この凹状摩擦経路12は、設定値を超える加速中に上記コイルが膨張する際、少なくとも1つのコイル6の外側部分に当接してこれを受承するよう配設される。
【0039】
また、図1に示す有利な変形実施形態では、制動手段10は少なくとも1つの略螺旋状の凸状摩擦経路13を含み、この凸状摩擦経路13は、設定値を超える加速中に上記コイルが収縮する際、少なくとも1つのコイル6の内側部分に当接してこれを受承するよう配設される。
【0040】
また、図1に示す変形例では、ヒゲ持ち3は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ16及び少なくとも1つの第2の外側リップ17を含む。
【0041】
ある変形例では、時計組立体1はヒゲ持ち3を支持する地板2を含み、上記地板2は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ16及び少なくとも1つの第2の外側リップ17を含む。
【0042】
図2の変形例では、ヒゲ玉9は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ96及び少なくとも1つの第2の外側リップ97を含む。
【0043】
本発明は有利には、ヒゲ玉9を支持するテンプ21を含む時計組立体1のために提供される。本発明に近いこのような実施形態によると、テンプ21は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ96及び少なくとも1つの第2の外側リップ97を含む。特定の実施形態では、テンプ21は、ヒゲ玉9並びに上記少なくとも1つの第1の内側リップ96及び上記少なくとも1つの第2の外側リップ97と、単一ピースの組立体を形成する。第1の内側リップ96及び第2の外側リップ97はテンプ21と共に回転し、従ってこれらは、本発明の場合はヒゲ玉9と、又は本発明に近い実施形態においてヒゲ玉9及びテンプ21が別個の構成部品である場合にはテンプ21と、一体化している。
【0044】
リップを有するこれらの実施形態では、ヒゲ持ち3及び/又はヒゲ玉9は、凸状摩擦経路13を備える第1の内側リップ16、96及び/又は凹状摩擦係数12を備える第2の外側リップ17、97を備える。
【0045】
ヒゲ持ち3及び/又はヒゲ玉9がいずれの衝撃の減衰に関与するよう配設されている特定の実施形態では、ヒゲ持ち3及び/又はヒゲ玉9は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ16、96及び少なくとも1つの第2の外側リップ17、97を含み、第1の内側リップ16、96及び/又は第2の外側リップ17、97は可撓性である。
【0046】
特定の実施形態では、ヒゲ持ち3は、それぞれ制動手段10を含む少なくとも1つの第1の内側リップ16及び少なくとも1つの第2の外側リップ17を含み、第1の内側リップ16及び/又は第2の外側リップ17は、ヒゲ持ち3に対して枢動するか、又はヒゲ持ち3に対して枢動するプレート18に固定される。この枢動組立体は、摩擦によって、又は好ましくは弾性復元手段、ばね等の復元作用によって、制動できる。微小機械加工可能な材料で作製された特定の実施形態では、これらのリップはそれぞれ、弾性屈曲によって枢動するように都合よく作製できる。
【0047】
調整が可能なある変形例では、第1の内側リップ16及び/又は第2の外側リップ17は、ヒゲ持ち3に対して枢動するか、又はヒゲ持ち3に対して枢動するプレート18に固定される。
【0048】
地板を有する変形例では、第1の内側リップ16及び/又は第2の外側リップ17は、地板2に対して枢動可能に設置できる。
【0049】
ある変形例では、ヒゲ持ち3は、組立体1が備える又は組立体1に付属されている地板2に対して固定される。
【0050】
別の変形例では、ヒゲ持ち3は、組立体1が備える又は組立体1に付属されている地板2に対して可動であるヒゲ持ちホルダに固定される。
【0051】
図3、5は、ヒゲゼンマイ4の最も内側のコイル7及び最も外側のコイル8の両方に対面するように手段10が配置されている組立体1を示す。第1のコイル61の符号は各場合において同一である。この第1のコイル61は、実際にはあるコイルの局所的な小部分であるが、これは衝撃を受けている間に位置が異なっていても同一の特定の役割を果たす(これが符号を同一とした理由である)、ヒゲゼンマイ4の一部分である。
【0052】
本発明はまた、調速機組立体20を含む時計組立体1にも関する。この調速機組立体20は、枢軸Dの周りで枢動可能であり、ヒゲ玉9によってヒゲゼンマイ4の内側端部7が固定された、少なくとも1つのテンプ21を含む。本発明によると、テンプの枢動の大きさは360°未満である。
【0053】
特定の変形実施形態では、ヒゲ持ち3及びヒゲゼンマイ4は、微小機械加工可能な材料で作製された単一ピースの組立体を形成する。好ましくは、ヒゲゼンマイ4はその内側端部7に、天真への取り付けのためのヒゲ玉9を含む。このような実施形態では、ヒゲ持ち及びヒゲゼンマイを同一の単一層に作製できる。
【0054】
別の特定の変形例では、ヒゲ持ち3及びヒゲゼンマイ4並びにテンプ21は、微小機械加工可能な材料で作製された単一ピースの組立体を形成する。限定するものではないが、この単一ピースの組立体は特に、一方はテンプ21用、他方はヒゲ持ち3及びヒゲゼンマイ4用である2つのシリコン層を備えるSOIウェハから作製でき、上記2つの層は、ヒゲゼンマイとテンプとの間に必要な機能性の遊びに相当する酸化物層で隔てられている。この単一ピースの組立体は、2つの酸化物層で隔てられた3つのシリコン層で作製することもでき、中間のシリコン層と2つの酸化物層とによって、上記機能性の遊びの値が画定される。
【0055】
当然のことながら、本発明は複数のヒゲゼンマイを備えるテンプの場合又はその逆の場合にも適用でき、上記ウェハの数はこれに応じて修正される。有利には、例えば2つのヒゲゼンマイを中央のテンプの各側部上に配設する場合、各ヒゲゼンマイは、上述のような制限停止表面を含むヒゲ持ちに囲まれる。
【0056】
本発明はまた、少なくとも1つのこのような時計組立体1を含む時計ムーブメント30にも関する。
【0057】
本発明はまた、少なくとも1つのこのようなムーブメント30及び/又は少なくとも1つのこのような時計組立体1が組み込まれた時計40にも関する。
【0058】
本発明は、両回転方向においてテンプの移動を制限するという利点を有する。この制限は、ヒゲゼンマイの剛性を変化させることによって達成される。このような剛性の変化は、ヒゲゼンマイ又はヒゲ持ち又は地板に組み込まれた停止表面の数及び分布を選択することによって適合させることができる。
【0059】
調速機システムの慣性は、ヒゲゼンマイの慣性の変更によってのみ変化する。このトリップ防止システムは、調速機の通常の振動を阻害せず、回転量が過大となった場合に調速機の動作に影響を与えるだけである。
図1
図2
図3
図4
図5