特許第5938149号(P5938149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938149延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938149
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/06 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
   D01F8/06
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-528298(P2015-528298)
(86)(22)【出願日】2014年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2014069370
(87)【国際公開番号】WO2015012281
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-152703(P2013-152703)
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】矢代 弘文
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】塚原 幸哲
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表平03−503777(JP,A)
【文献】 特開2007−107143(JP,A)
【文献】 特開平11−081122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 − 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、
前記未延伸繊維を延伸処理する延伸工程と、
を有し、
前記未延伸繊維の繊度が1.5dTex以下であり、
前記紡糸工程では、紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが70〜170g/10分であり、かつ前記紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、紡糸口金から吐出された鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートとの比が1〜2.2である延伸複合繊維の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂に、ヒドロキシアミンエステル、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分であるアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種を添加することにより、前記紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートを調節する請求項1に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項3】
前記紡糸工程では、前記紡糸口金から吐出された鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲が60〜90g/10分である請求項1又は2に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項4】
前記芯材の主成分である結晶性プロピレン系重合体がアイソタクチックポリプロピレンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項5】
前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂に核剤を配合する請求項1〜4のいずれか1項に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記核剤は有機系造核剤である請求項5に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項7】
前記有機系造核剤は、リン酸エステル金属塩又はジベンジリデンソルビトールである請求項6に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項8】
前記鞘材の主成分であるオレフィン系重合体が高密度ポリエチレンである請求項1〜7のいずれか1項に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項9】
前記延伸工程を前記紡糸工程の後に連続して行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項10】
前記延伸工程を加圧飽和水蒸気中で行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の延伸複合繊維の製造方法。
【請求項11】
結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸繊維が延伸処理された延伸複合繊維であって、前記未延伸繊維の繊度が1.5dTex以下であり、前記延伸複合繊維の繊度が0.3dTex以下であり、前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂には核剤が配合されており、示差走査熱量計により、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した前記芯材の結晶化度が40%以上であり、かつ、下記の1)及び2)の条件を満たす延伸複合繊維。
1)前記未延伸繊維を紡糸する際に紡糸口金から吐出された状態の芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲が70〜170g/10分
2)前記紡糸口金から吐出された状態の芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記紡糸口金から吐出された状態の鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートとの比が1〜2.2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維に関する。より詳しくは、鞘芯構造の未延伸繊維を延伸処理して延伸複合繊維を製造する方法及びこの方法で製造された延伸複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
特性の異なる2種類の樹脂を用いて形成される鞘芯構造の複合繊維は、幅広い分野で用いられている。例えば、オレフィン系の複合繊維は、5mm以下程度に短くカットしてチョップドファイバーとした後、抄紙法により均一な不織布を得ることができる。また、オレフィン系の複合繊維は、耐薬品性に優れていることから、各種フィルター素材や電池用セパレータなどにも使用されている。このような鞘芯構造の複合繊維は、一般に、溶融紡糸により鞘芯構造の未延伸繊維を形成し、この未延伸繊維を延伸処理することにより製造されている。
【0003】
そして、従来、鞘芯構造の延伸複合繊維について、各種性能を向上させるために、種々の検討がなされている(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1には、結晶性プロピレン系重合体を芯材とし、それ以外のオレフィン系重合体を鞘材とする複合未延伸繊維を、加圧飽和水蒸気中で延伸処理することにより、高強度の延伸複合繊維を、生産性よく製造する方法が提案されている。また、特許文献2に記載の複合繊維では、芯材である結晶性プロピレン系重合体と、鞘材であるオレフィン系重合体の重量平均分子量の比を特定の範囲にすることにより、紡糸口金吐出後の芯成分のメルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)及び鞘成分のMFRを適宜選択し、延伸性を確保しつつ、延伸倍率に対する強度発現性を高めている。
【0004】
近年、更なる性能向上を目指し、薄く、強く、緻密な不織布が求められており、それに用いられる複合繊維においても細繊度化が求められている。そこで、例えばポリエステル系の繊維では、紡糸及び延伸を行うことで細繊度化する方法、海島構造の未延伸繊維を延伸し、海成分を除去することで細繊度化する方法、及び分割型未延伸繊維を延伸し、分割処理して細繊度化する方法などが行われている。これに対して、オレフィン系の複合繊維は、溶融張力が高く、紡糸及び延伸を行う方法では細繊度未延伸繊維が得られ難いため、主に、分割方式によって細繊度化されている。一方、メルトブロー法やエレクトロスピニング法により、複合繊維を細繊度化する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−180330号公報
【特許文献2】特開2007−107143号公報
【特許文献3】特開2009−133039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、分割方式によってオレフィン系の複合繊維を細繊度化すると、抄紙法で不織布を形成する際に、スラリー原液の段階で分割が進行しやすく、分散性が低下するという問題点がある。また、メルトブロー法やエレクトロスピニング法により細繊度化した複合繊維は、繊維物性及び得られた不織布強力が弱いという問題点がある。このため、オレフィン系の複合繊維では、紡糸及び延伸を行う方法で製造された細繊度複合繊維が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、高強度で細繊度の複合繊維を製造することが可能な延伸複合繊維の製造方法及び延伸複合繊維を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述した課題を解決するために未延伸繊維の細繊度化を目指し、鋭意実験検討を行った。その結果、紡糸口金から吐出された芯材のMFR及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRと鞘材のMFRとの比(=芯材MFR/鞘材MFR)が特定の範囲になるよう調整することにより、溶融張力が制御でき、繊度が1.5dTex以下の未延伸繊維を安定して紡糸可能となり、更に、この未延伸繊維を高倍率で延伸することにより、細繊度の延伸複合繊維が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明に係る延伸複合繊維の製造方法は、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程と、前記未延伸繊維を延伸処理する延伸工程と、を有し、前記未延伸繊維の繊度を1.5dTex以下とし、前記紡糸工程では、紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートを70〜170g/10分とし、かつ前記紡糸口金から吐出された芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、紡糸口金から吐出された鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートとの比を1〜2.2とする。
この延伸複合繊維の製造方法では、前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂に、ヒドロキシアミンエステル、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分であるアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種を添加することにより、前記紡糸口金から吐出された芯材の230℃におけるメルトフローレートを調節することができる。
また、前記紡糸工程において、前記紡糸口金から吐出された鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲は例えば60〜90g/10分である。
ここで、前記芯材の主成分である結晶性プロピレン系重合体としては、例えばアイソタクチックポリプロピレンを使用することができる。
一方、本発明の延伸複合繊維の製造方法では、前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂に核剤を配合してもよい。
その場合、前記核剤には、例えば有機系造核剤を使用することができる。
そして、前記有機系造核剤の具体例としては、リン酸エステル金属塩やジベンジリデンソルビトールが挙げられる。
また、前記鞘材の主成分であるオレフィン系重合体としては、例えば高密度ポリエチレンを使用することができる。
本発明の延伸複合繊維の製造方法は、前記延伸工程を前記紡糸工程の後に連続して行うこともできる。
また、前記延伸工程は加圧飽和水蒸気中で行ってもよい。
【0010】
本発明に係る延伸複合繊維は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、前記芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造の未延伸繊維が延伸処理された延伸複合繊維であって、前記未延伸繊維の繊度が1.5dTex以下であり、前記延伸複合繊維の繊度が0.3dTex以下であり、前記結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂には核剤が配合されており、示差走査熱量計により、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した前記芯材の結晶化度が40%以上であり、かつ、下記の1)及び2)の条件を満たす延伸複合繊維である。
1)前記未延伸繊維を紡糸する際に紡糸口金から吐出された状態の芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲が70〜170g/10分
2)前記紡糸口金から吐出された状態の芯材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートと、前記紡糸口金から吐出された状態の鞘材の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートとの比が1〜2.2

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紡糸口金から吐出された芯材のメルトフローレートの値を特定の範囲にすると共に、紡糸口金から吐出された芯材のメルトフローレートと鞘材のメルトフローレートとの比を特定の範囲にしているため、高強度で細繊度の複合繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の延伸複合繊維の製造方法を示すフローチャートである。
図2】実施例2の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。
図3】実施例4の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。
図4】実施例5の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。
図5】比較例5の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[全体構成]
図1は本発明の実施形態に係る延伸複合繊維の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本発明の実施形態の延伸複合繊維の製造方法は、溶融紡糸により鞘芯構造の未延伸繊維を得る紡糸工程(ステップS1)と、未延伸繊維を延伸処理する延伸工程(ステップS2)と、を行う。なお、以下の説明においては、特に断りがない限り、メルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)の値は、JIS K7210のA法に基づいて、温度:230℃、荷重:21.18Nの条件で測定した値である。
【0015】
[ステップS1:紡糸工程]
紡糸工程では、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を芯材とし、芯材よりも融点が低いオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を鞘材とする鞘芯構造で、繊度が1.5dTex以下の未延伸繊維を得る。その際、紡糸口金から吐出された芯材のMFRを70〜170g/10分の範囲とし、かつ紡糸口金から吐出された芯材のMFRと、紡糸口金から吐出された鞘材のMFR(=芯材MFR/鞘材MFR)との比を1〜2.2にする。
【0016】
(芯材:結晶性プロピレン)
芯材の主成分である結晶性プロピレン系重合体としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、更に前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部又は共重合部が、更にブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。これらの中でも、延伸性、繊維物性及び熱収縮抑制の観点から、アイソタクチックポリプロピレンが好適である。
【0017】
また、芯材(結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂)には、核剤が配合されていることが好ましい。芯材に核剤を添加すると、溶融した芯材が紡糸口金から吐出されて冷却される際に、核剤が自ら結晶核として作用し又は結晶性プロピレン系重合体に対して結晶形成を誘発する造核剤として作用するため、再結晶化温度が上昇する。これにより、紡糸工程の冷却が安定し、紡糸繊維(未延伸繊維)の繊度斑、繊維内での鞘芯比率の斑、及び鞘材により被覆されずに部分的に芯材が露出している鞘材の被覆斑を低減することができる。
【0018】
その結果、紡糸金口から吐出し紡糸された多数の紡糸繊維(未延伸繊維)の繊維間及び繊維内での斑が小さくなるため、延伸倍率をより高くすることができ、延伸工程での延伸性が向上する。また、結晶核が増加するため、微結晶が生成されやすくなり、高倍率かつ高速で延伸することが可能な未延伸繊維が得られる。即ち、延伸しやすい内部構造を、予め延伸工程の前段階である紡糸工程において形成することができる。
【0019】
ここで、芯材に添加する核剤としては、無機系核剤や有機系核剤を使用することができる。無機系核剤の具体例としては、タルク、カオリン、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、硫酸カルシウム及び硫酸バリウムなどが挙げられる。また、有機系核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウムなどの安息香酸金属塩系核剤、シュウ酸カルシウムなどのシュウ酸金属塩系核剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸金属塩系核剤、アルミニウムベンゾエート、カリウムベンゾエート、リチウムベンゾエートなどのベンゾエート金属塩系核剤、リン酸エステル系金属塩系核剤、ジベンジリデンソルビトール系核剤が挙げられる。
【0020】
また、核剤は、芯材である結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂が溶融状態のときに、共に溶融するもの及び完全には溶融せずに樹脂中に分散するもののいずれでもよく、溶融せずにそれ自体が核となるものでもよい。本実施形態の延伸複合繊維の製造方法においては、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂との関係において、共に溶融して親和する核剤及び完全には溶融しないがその一部が樹脂となじみあう核剤を使用することが好ましい。
【0021】
このような核剤を使用すると、紡糸直後の冷却において、繊維間の繊度(太さ)斑及び繊維内の芯鞘成分比率における斑の低減効果を充分に発揮しつつ、微結晶形成による内部構造によって、次の延伸工程での延伸性を更に向上することができる。無機系の核剤は溶融しないため、個々の紡糸条件と延伸条件とについて、核剤の添加量を繊細に調整する必要があるが、有機系核剤は比較的低い添加量で、より広い紡糸、延伸条件に適応できるようになる。このため、核剤には、有機系核剤を使用することが好ましく、特に、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂との関係においては、共に溶融して親和しやすいという点から、有機系造核剤を用いることがより好ましい。
【0022】
樹脂と共に溶融して親和する有機系造核剤としては、例えばジベンジリデンソルビトール系核剤が挙げられる。具体的には、ジベンジリデンソルビトール(DBS)、モノメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4−ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール(p−MDBS)、ジメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4−ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール(3,4−DMDBS)などが好ましく用いられる。
【0023】
一方、一部が樹脂となじみあう有機系核剤としては、分子量が400を超える程度に比較的大きな有機系骨格を有する核剤が好ましく、その具体例としてはリン酸エステル金属塩系核剤が挙げられる。各種リン酸エステル金属塩系核剤の中でも、特に、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーtert−ブルフェニル)アルミニウム塩、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーtert−ブルフェニル)アルカリ金属塩が好ましい。また、リン酸エステル金属塩系核剤におけるアルカリ金属は、ナトリウム、リチウム及びカリウムが好適である。
【0024】
なお、前述した各種核剤は、単独で使用してもよいが、効果や生産性などを考慮し、それぞれを適度な比率で混合して使用することもできる。また、芯材に対する核剤の添加量は、少なすぎると、繊維間及び繊維内における斑の低減などの紡糸冷却時の繊維形状固定化効果が十分に得られなかったり、微結晶の形成が不十分となる。一方、芯材に対する核剤の添加量が多すぎると、前述した効果が飽和すると共に、紡糸口金の汚れが増加し、紡糸工程の安定性が低下する。これらの理由から、核剤の添加量は、芯材全質量あたり、概ね0.05〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0025】
(鞘材:オレフィン系重合体)
鞘材の主成分であるオレフィン系重合体としては、例えば高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、あるいは軟質ポリプロピレンなどの非結晶性プロピレン系重合体、ポリ4−メチルペンテン−1などを挙げることができる。これらのオレフィン系重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、特に繊維物性の点から高密度ポリエチレンが好適である。
【0026】
(MFR)
紡糸口金から吐出された芯材のMFRが70g/10分未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなり、繊度が1.5dTex以下の未延伸繊維を得ることが難しくなる。一方、紡糸口金から吐出された芯材のMFRが170g/10分を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなり過ぎるため、未延伸繊維の繊度斑が大きくなると共に、紡糸性が著しく低下する傾向にある。よって、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは、70〜170g/10分の範囲とする。
【0027】
紡糸口金から吐出された芯材のMFRと、紡糸口金から吐出された鞘材のMFRとの比(=芯材MFR/鞘材MFR)が1未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなりやすく、繊度が1.5dTex以下の未延伸繊維を得ることが難しくなる。また、この芯材MFRと鞘材MFRとの比が2.2を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなり過ぎるため、未延伸繊維の繊度斑が大きくなり、繊維レベルでは鞘芯比率の斑や、鞘材による芯材の被覆斑(芯材の露出)が発生し、紡糸性が著しく低下する。よって、紡糸口金から吐出された芯材のMFRと、紡糸口金から吐出された鞘材のMFRとの比は、1〜2.2の範囲にする。
【0028】
一方、紡糸口金から吐出された鞘材のMFRは、特に限定されるものではないが、製造コスト及び汎用性の観点から、例えば60〜90g/10分の範囲にすることが好ましい。
【0029】
ここで、鞘材であるオレフィン系重合体は、紡糸温度を変更することにより、紡糸中の吐出樹脂粘度の調整が可能である。一方、芯材である結晶性プロピレンは、紡糸温度の変更の他に、高MFR(700〜1550g/10分程度)のアイソタクチックポリプロピレン、メタロセンポリプロピレン及びラジカル発生剤であり熱分解剤でもあるヒドロキシアミンエステルのうち少なくとも1種を添加することによっても、紡糸中の吐出樹脂粘度を調整することができる。また、芯材の紡糸中の吐出樹脂粘度は、分子量の小さいポリプロピレンワックスなどを添加することによっても調整することが可能である。
【0030】
なお、芯材の主原料に、MFRが異なる2種類以上の結晶性ポリプロピレンを混合して擬似的に分子量分布を広くした原料や、MFRが低い(10g/10分以下程度の)結晶性プロピレンを用いる方法でも、紡糸口金から吐出される芯材のMFRを調整することは可能である。しかしながら、これらの方法で芯材のMFRを調整した場合、細繊度の未延伸繊維を得ることはできるが、その後の延伸工程において延伸倍率が低下する傾向がある。このため、芯材には、高MFR(20〜70g/10分程度)でかつ分子量分布が狭い結晶性プロピレンを用いることが好ましい。
【0031】
より好ましくは、芯材に、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする高MFRかつ分子量分布が狭い樹脂を使用し、これに、前述した高MFRのアイソタクチックポリプロピレン及び/又はメタロセンポリプロピレンと、ポリプロピレン樹脂を低分子化する作用があるヒドロキシアミンエステル系のラジカル発生剤とを添加する。これにより、ヒドロキシアミンエステル系のラジカル発生剤によって、高MFRのアイソタクチックポリプロピレン及び/又はメタロセンポリプロピレンが分解されて可塑剤として作用するため、延伸工程での延伸性が向上する。
【0032】
[ステップS2:延伸工程]
延伸工程では、前述した紡糸工程で作製した未延伸繊維を延伸処理し、所定繊度の延伸複合繊維を得る。この延伸工程は、紡糸工程とは別に行ってもよいが、紡糸工程の後に連続して行ってもよい。紡糸工程で作製した未延伸繊維を集めて合糸した後で延伸するという工程では、紡糸工程と延伸工程とを別工程で行うため、一旦紡糸した繊維(未延伸繊維)を延伸工程で必要な繊維本になるまで待機する時間が発生するが、これらの工程を連続で行うと、このような待機時間が不要となるため、延伸する未延伸繊維の状態が均一となる。その結果、これらを別工程で行う場合よりも、繊維間で延伸可能な最大倍率が揃うため、延伸複合繊維の繊度及び繊維物性がより均質化され、延伸工程の安定性が向上する。
【0033】
また、延伸工程は、高温下で行うことが望ましく、これによって高倍率な延伸が可能となり、細繊度な延伸複合繊維が得られる。延伸工程での加熱延伸方法としては、高温加熱板との接触加熱延伸、遠赤外線などによる放射加熱延伸、温水加熱延伸、水蒸気加熱延伸などを適用することができる。これらの方法の中でも、加熱すべき繊維を瞬間的短時間で加熱できることから、加圧飽和水蒸気中での延伸が好ましい。また、ステープルファイバーやチョップドストランドの生産に用いられるトウ延伸は、トータル繊度が大きい未延伸繊維の集合体を延伸する必要があり、トウ内を均等にかつ短時間で加熱ができる点から、高圧な加圧飽和水蒸気加熱延伸が特に好ましい。
【0034】
加圧飽和水蒸気中で延伸する場合、その条件は、特に限定されるものではないが、通常は110℃以上で行われる。加圧飽和水蒸気の温度が110℃未満の場合、高倍率延伸及び高速延伸を行うことが困難になることがある。加圧飽和水蒸気の温度は、鞘材のオレフィン系重合体が溶融しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましい。延伸倍率、延伸速度及び経済性などを考慮すると、この加圧飽和水蒸気の好ましい温度範囲は115〜130℃であり、より好ましくは120〜125℃である。
【0035】
一方、延伸倍率は、未延伸繊維の繊度に応じて適宜選択することができるが、通常は、全延伸倍率で3.0〜10.0倍であり、好ましくは4.0〜8.0倍である。また、延伸速度は、例えば40〜150m/分程度とすることができる。特に、紡糸工程と延伸工程を連続して行う場合は、生産性の観点から1000m/分以上とすることが好ましい。
【0036】
[延伸複合繊維]
前述した紡糸工程及び延伸工程を行うことにより、細繊度の延伸複合繊維が得られる。この延伸複合繊維は、繊度が0.3dTex以下、繊維強度が5.5cN/dTex以上であることが好ましい。これにより、電池セパレータなどの不織布に用いた場合、優れた特性を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態の延伸複合繊維の製造方法により得られる延伸複合繊維は、示差走査熱量計により、昇温速度を30℃/分として、融解熱量法により測定した芯材(ポリプロピレン)の結晶化度が35%以上である。芯材の結晶化度を35%以上とすることにより、繊維の弾性率及び熱安定性が良好になる。更に、前述した核剤を添加するなどして、芯材の結晶化度を40%以上にすることが好ましく、これにより、延伸複合繊維の弾性率及び熱安定性を更に向上させることができる。
【0038】
ここで規定する延伸複合繊維の芯材の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した芯成分繊維の融解熱量から算出した値である。なお、結晶化度の算出にあたっては、芯材を構成する樹脂の完全結晶における融解熱量文献値(209J/g)を結晶化度100%とした。また、延伸複合繊維の測定量は約8mgとし、室温から200℃まで、昇温速度30℃/分で、昇温走査した。
【0039】
DSCを用いて樹脂の融点を測定する場合は、一般に、昇温速度は10℃/分に設定されるが、延伸物のような配向結晶化が生じているものの融解熱量を測定し、繊維に内在している結晶化度の差異を求める場合は、昇温速度が遅いと、昇温中に結晶化が進行し、測定前と異なる状態の融解熱量を測定することになる。そこで、本実施形態においては、昇温速度を30℃/分として測定し、その値から芯材の結晶化度を算出した。
【0040】
本実施形態の延伸複合繊維の製造方法では、紡糸口金から吐出された芯材のMFR及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRと鞘材のMFRとの比を特定の範囲にしているため、紡糸口金から吐出された芯材のMFRが比較的高い範囲であるにもかかわらず、未延伸繊維の繊度斑、鞘芯比率の斑及び鞘材による芯材の被覆斑などを低減することができ、細繊度の複合繊維を安定して紡糸することができる。
【0041】
また生産効率を上げる目的から、口金(即ち、ノズル孔)数が1000ホール以上、特に1500ホール以上の多ホールを有する大径の紡糸ダイスを使用して紡糸する場合においては、口金から吐出される樹脂のMFRが高いと吐出圧が低くなるため、紡糸される未延伸繊維に前述した斑が発生する。そして、このような斑がある未延伸繊維を用いると、その後の延伸工程において良好な延伸性が得られないため、安定した延伸を行うために延伸倍率を下げなければならず、細繊度の延伸複合繊維を得ることが困難になる。これに対して、本実施形態の延伸複合繊維の製造方法では、紡糸口金から吐出された芯材のMFR及び紡糸口金から吐出された芯材のMFRと鞘材のMFRとの比を特定の範囲にしているため、紡糸及び延伸のいずれも安定して実施することができる。
【0042】
なお、特許文献2に記載の複合繊維でも紡糸口金吐出後の芯成分のMFR及び鞘成分のMFRを適宜選択しているが、この特許文献2に記載の技術は、繊維の高強度化を主目的としており、実施例に記載されている芯材の吐出後のMFRの範囲は70g/10分未満である。このため、特許文献2に記載の方法では、前述した細繊度の未延伸繊維は得られず、細繊度で断面が均一な延伸複合繊維を製造することはできない。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記の方法及び条件で延伸複合繊維を製造し、その性能を評価した。
【0044】
[原料]
(1)芯材
A:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「S119」 (MFR=60g/10分、Q値=2.8)
B:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2000GV」 (MFR=18g/10分、Q値=3.0)
C:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「S135」 (MFR=9g/10分、Q値=3.5)
D:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「Y2005GP」 (MFR=20g/10分、Q値=4.7)
【0045】
(2)鞘材
a:旭化成ケミカルズ株式会社製 高密度ポリエチレン 「J302」 (MFR=38g/10分、Q値=4.3)
b:株式会社プライムポリマー製 高密度ポリエチレン 「Evoleu SP−H」 (MFR=47g/10分、Q値=2.2)
c:京葉ポリエチレン株式会社製 高密度ポリエチレン 「S6932」 (MFR=20g/10分、Q値=5.1)
【0046】
(3)添加剤
I:大日精化株式会社製 「PP−RM11K4753N」
Exxon Mobil社製 メタロセン高MFR顆粒状ポリプロプレン 「ACHIEVE 6936G1」(MFR=1550g/10分)と、パウダー状ポリプロピレン(MFR=40g/10分)とを、質量比で、80:20の割合でブレンドし、混練して作製したマスターバッチ(計算MFR=746g/10分)。
II:BASFジャパン株式会社製 ヒドロキシアミンエステル系ラジカル発生剤 「IRGATEC CR76」
III:株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン 「S13B」 (MFR=700g/10分、Q値=2.4)
IV:株式会社ADEKA製 リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーtert−ブルフェニル)アルミニウム塩 「アデカスタブ NA−21」
V:新日本理化株式会社製 ジメチルベンジリデンソルビトール 「ゲルオールMD」
【0047】
[評価・測定方法]
(1)繊維繊度
未延伸繊維及び延伸繊維繊維繊度は、JIS L 1015に準じて測定した。
【0048】
(2)MFR
原料ペレット及び紡糸口金から吐出された鞘芯それぞれの繊維状物について、JIS K 7210のA法により、MFRを測定した。その際の測定条件を以下に示す。
・ポリプロピレン樹脂原料:試験温度230℃、試験荷重21.18N(条件M)。
・ポリエチレン樹脂原料:試験温度190℃、試験荷重21.18N(条件D)。
・紡糸口金吐出後の繊維状物:試験温度230℃、試験荷重21.18N(条件M)。
・ポリプロピレン樹脂原料のブレンド物:下記数式1及び数式2から求めた。なお、下記数式1,2におけるwは構成成分iの質量分画、MFRは構成要素iのメルトフローレート、nはブレンド中の構成成分の総数である。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
(3)延伸倍率
繊維切れ、延伸切れ及びローラー巻き付きがなく、安定して延伸可能な最大延伸倍率を調べた。
(4)繊維の強度、伸度、ヤング率
JIS L 1015に準じて測定した。
(5)乾熱収縮率
JIS L 1015に準じて測定した。その際、熱処理温度は120℃とし、熱処理時間は10分間とした。
【0052】
(6)芯材の結晶化度
延伸複合繊維の芯材の結晶化度は、以下に示す手順で測定した。
i:測定用複合繊維の準備
延伸複合繊維をエタノール:メタノール=2:1の混合液で洗浄した後、室温で3時間以上風乾燥して、付着油剤及び水分を除去した。
【0053】
ii:吸熱量の測定
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、iで準備した延伸複合繊維を8.0±0.3mgの質量範囲になるように秤量し、融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入した。そして、窒素雰囲気下にて、昇温速度を30℃/分にして室温から200℃まで昇温し、延伸複合繊維の鞘材(ポリエチレン)及び芯材(ポリプロピレン)の吸熱量(mJ)をそれぞれ測定した。
【0054】
iii:芯材の融解熱量の算出
芯材(ポリプロピレン)の融解熱量ΔHPP(J/g)を算出する際は、先ず、測定に使用した延伸複合繊維の質量(mg)と、その鞘と芯の割合(断面積比)とから、鞘材(ポリエチレン)及び芯材(ポリプロピレン)の質量(mg)を算出した。そして、芯材の吸熱量HPP(mJ)を、芯材の質量で除すことによって、芯材の融解熱量ΔHPPを算出した。
【0055】
iv:結晶化度の算出
芯材(ポリプロピレン)の結晶化度XPPC(%)は、iiiで算出した芯材の融解熱量ΔHPPを用いて、下記数式3により算出した。なお、下記数式3におけるΔHPPCは、ポリプロピレンの完全結晶の融解熱量であり、本実施例においては、文献(J.Brandrup & E.H.Immergut:Polymer Handbook (2nd.Ed.),John Wiley & Sons,New York (1975) V-24.)に基づいて、209J/gとした。
【0056】
【数3】
【0057】
<実施例1>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに添加剤Iを7.5質量%配合した原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60になるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を275℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは84.4g/10分、鞘材のMFRは72.6g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.16であった。
【0058】
(2)延伸複合繊維の作製
3台のローラー間に予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用意した。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、予備延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分、予備延伸送出しローラー(G2ローラー)速度29m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した。その後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させて、124℃の加圧飽和水蒸気中で二段目の本延伸を行った。
【0059】
その結果、繊維切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は50m/分、全延伸倍率は5.0倍であった。また、得られた実施例1の延伸複合繊維の繊度は、0.15dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0060】
<実施例2>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに添加剤Iを15質量%配合した原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を270℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を260℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは91.1g/10分、鞘材のMFRは71.8g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.27であった。図2は実施例2の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。
【0061】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0062】
その結果、繊維切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は53m/分、全延伸倍率は5.3倍となった。実施例1に比べて、実施例2のローラー速度及び全延伸倍率が向上したのは、芯材のMFRが大きくなったためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.13dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0063】
<実施例3>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
前述した実施例2と同様の方法及び条件で、未延伸繊維を作製した。
【0064】
(2)延伸複合繊維の作製
3台のローラー間に予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用意した。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、予備延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分、予備延伸送出しローラー(G2ローラー)速度35m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した。その後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させて、100℃の常圧蒸気中で二段目の本延伸を行った。
【0065】
その結果、繊維切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は37m/分、全延伸倍率は3.7倍となった。実施例2に比べて、二段目の本延伸温度が低いため、延伸倍率は低下したが、得られた延伸複合繊維の繊度は0.19dTexであり、十分な繊維物性を有していた。また示差走査熱量計で、昇温速度30℃/分で測定した芯材の融解熱量ΔHPPは74.0J/gで、結晶化度は35.4%であった。
【0066】
<実施例4>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに添加剤Iを15質量%、添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)を0.3質量%配合した原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を270℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を260℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは91.9g/10分、鞘材のMFRは72.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.27であった。
【0067】
図3は実施例4の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。図3に示すように、核剤を添加した実施例4の未延伸繊維は、図2に示す核剤を添加していない実施例2の未延伸繊維に比べて、繊維間での繊度(太さ)斑がより小さく、単繊維内での鞘芯比率の斑や鞘材の被覆斑がより低減していることが確認された。
【0068】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0069】
その結果、繊維切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は55m/分、全延伸倍率は5.5倍となった。実施例2に比べて、実施例4のローラー速度及び全延伸倍率が向上した理由としては、芯材に結晶核剤を添加したことで、口金から吐出した樹脂の冷却が安定し、更に繊度斑が低減して鞘芯比率の斑や鞘材の被覆斑が低減したこと、微結晶が生成され延伸しやすい結晶構造が形成されたことが考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.12dTexであり、十分な繊維物性を有していた。更に示差走査熱量計で、昇温速度30℃/分で測定した芯材の融解熱量ΔHPPは99.5J/g、結晶化度は47.6%であり、核剤添加により、ヤング弾性率が大きく、熱収縮率が小さくなり、繊維物性の点においても優れた延伸複合繊維であった。
【0070】
<実施例5>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは112.7g/10分、鞘材のMFRは73.4g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.54であった。
【0071】
図4は実施例5の未延伸繊維の断面を示す顕微鏡写真である。図4に示すように、実施例5の未延伸繊維は核剤を添加していないため、一部の単繊維に鞘芯比率の斑や鞘材の被覆斑が認められた。
【0072】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0073】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は58m/分、全延伸倍率は5.8倍となった。実施例5においてローラー速度及び全延伸倍率が向上したのは、芯材に添加した高MFRの添加Iが、添加剤IIにより更に分解されて、可塑剤的に働いたためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.12dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0074】
<実施例6>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を700m/分として、繊度が0.46dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは120.5g/10分、鞘材のMFRは72.1g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.67であった。
【0075】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約37万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0076】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は52m/分、全延伸倍率は5.2倍となった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.09dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0077】
<実施例7>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材aを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は30/70となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.63dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは116.5g/10分、鞘材のMFRは70.2g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.66であった。
【0078】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約50万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0079】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は62m/分、全延伸倍率は6.2倍となった。実施例7において、ローラー速度及び全延伸倍率が向上したのは、芯材の比率を上げたためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.11dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0080】
<実施例8>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Bに、添加剤IIを0.5質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは140.5g/10分、鞘材のMFRは69.9g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は2.01であった。
【0081】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0082】
本実施例では、実施例5〜7で使用している芯材Aに比べてMFRが小さい芯材Bを用いているが、実施例5〜7よりも添加剤IIの配合量を多くしているため、紡糸口金から吐出される芯材のMFRを大きくし、本発明の範囲内にすることができた。その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は55m/分、全延伸倍率は5.5倍となった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.13dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0083】
<実施例9>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Cに、添加剤IIを0.7質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは156.9g/10分、鞘材のMFRは72.4g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は2.17であった。
【0084】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0085】
本実施例では、特にMFRが小さい芯材Cを用いているが、実施例5〜8よりも添加剤IIの配合量を多くしているため、紡糸口金から吐出される芯材のMFRを大きくして、本発明の範囲内にすることができた。その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は53m/分、全延伸倍率は5.3倍となった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.14dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0086】
<実施例10>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aと芯材Bを、質量比で、1:1の割合で混合し、擬似的に分子量分布を広くしたものに、添加剤IIを0.4質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分とし、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは137.8g/10分、鞘材のMFRは70.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.95であった。
【0087】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0088】
本実施例は、芯材の分子量分布が広いため、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は52m/分、全延伸倍率は5.2倍となった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.14dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0089】
<実施例11>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Bに、添加剤Iを10質量%、添加剤IIを0.3質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分として、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは148.7g/10分、鞘材のMFRは71.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は2.08であった。
【0090】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0091】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は57m/分、全延伸倍率は5.7倍となった。実施例11において良好な延伸性が得られたのは、芯材に添加した高MFRの添加Iが、添加剤IIにより更に分解されて、可塑剤的に働いたためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.12dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0092】
<実施例12>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材bとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を600m/分とし、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは109.6g/10分、鞘材のMFRは76.3g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.44であった。
【0093】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0094】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は58m/分、全延伸倍率は5.8倍となった。実施例12において良好な延伸性が得られたのは、芯材に添加した高MFRの添加Iが、添加剤IIにより更に分解されて、可塑剤的に働いたためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.12dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0095】
<実施例13>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を150m/分とし、繊度が0.45dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは128.9g/10分、鞘材のMFRは71.8g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.80であった。
【0096】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施することができるように、3台のローラー間に予備延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約1.5万dTex)を、紡糸工程に連続して、予備延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度150m/分、予備延伸送出しローラー(G2ローラー)速度750m/分の条件で、100℃の常圧蒸気で予備延伸処理した。引き続き、延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させて、124℃の加圧飽和水蒸気中で二段目の本延伸を行った。
【0097】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1200m/分、全延伸倍率は8.0倍であった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.06dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0098】
<実施例14>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aと、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60になるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を295℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を500m/分として、樹脂の吐出量を調整して、繊度が1.10dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは75.8g/10分、鞘材のMFRは71.8g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.06であった。
【0099】
(2)延伸複合繊維の作製
3台のローラー間に予備延伸槽(一段目、温水)及び本延伸槽(二段目、加圧飽和水蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用意した。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維250本(約55万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、予備延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分、予備延伸送出しローラー(G2ローラー)速度29m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した。その後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させて、124℃の加圧飽和水蒸気中で二段目の本延伸を行った。
【0100】
その結果、繊維切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は55m/分、全延伸倍率は5.5倍であった。また、得られた追加実施例の延伸複合繊維の繊度は、0.20dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0101】
<実施例15>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを10質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は45/55となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは88.9g/10分、鞘材のMFRは72.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.23であった。
【0102】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程に連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させながら、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0103】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1075m/分、全延伸倍率は4.3倍であった。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.15dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0104】
<実施例16>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIIを20質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は45/55となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは96.8g/10分、鞘材のMFRは72.8g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.33であった。
【0105】
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程に連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させながら、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0106】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1000m/分、全延伸倍率は4.0倍であった。添加剤IIIを添加した実施例16は、実施例15と比べて延伸性が若干低下したが、得られた延伸複合繊維の繊度は0.17dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0107】
<実施例17>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIIを20質量%、添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)を0.2%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは97.5g/10分、鞘材のMFRは73.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.33であった。
【0108】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程に連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させながら、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0109】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1125m/分、全延伸倍率は4.5倍であった。実施例17は、添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)を添加したため、実施例16に比べて、微結晶が生成され延伸しやすい結晶構造が形成され、延伸性が向上した。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.14dTexであり、十分な繊維物性を有していた。更に示差走査熱量計で、昇温速度30℃/分で測定したポリプロピレン繊維成分の融解熱量ΔHPPは90.2J/gで、結晶化度は43.2%であり、核剤添加により、ヤング弾性率が大きくなり、熱収縮率が小さく、繊維物性の点においても優れた延伸複合繊維が得られた。
【0110】
<実施例18>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIIを20質量%、添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)を0.3質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは96.5g/10分、鞘材のMFRは73.1g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.32であった。
【0111】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程に連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させ、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0112】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1200m/分、全延伸倍率は4.8倍であった。実施例18は、添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)の添加量が多かったため、実施例17と比較して、結晶核が増加し、微結晶が生成されて、更に延伸しやすい結晶構造が形成され、延伸性が向上した。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.13dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0113】
<実施例19>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIIを20質量%、添加剤V(ベンジリデンソルビトール系核剤)を0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは97.1g/10分、鞘材のMFRは72.6g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.34であった。
【0114】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程を実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程に連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させながら、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0115】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1325m/分、全延伸倍率は5.3倍であった。実施例17、18の添加剤IV(リン酸エステル金属塩系核剤)の分散型結晶核剤と比較して、実施例19の添加剤V(ベンジリデンソルビトール系)の溶融型結晶核剤は、非常に多くの微結晶が生成されるため、更に延伸しやすい結晶構造が形成され、延伸性は向上した。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.12dTexであり、十分な繊維物性を有していた。更に示差走査熱量計で、昇温速度30℃/分で測定したポリプロピレン繊維成分の融解熱量ΔHPPは94.2J/gで、結晶化度は45.1%であり、核剤添加により、ヤング弾性率が大きく、熱収縮率が小さく、繊維物性の点においても優れた延伸複合繊維であった。
【0116】
<実施例20>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIIを20質量%、添加剤V(ベンジリデンソルビトール系核剤)を0.2質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を260℃、鞘材の押出機シリンダー温度を260℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を250m/分とし、繊度が0.6dTexの未延伸繊維を紡糸した。紡糸口金から吐出された芯材のMFRは98.4g/10分、鞘材のMFRは74.2g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.33であった。
【0117】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程を実施することができるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約2万dTex)を、紡糸工程から連続して、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度250m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させ、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0118】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は1450m/分、全延伸倍率は5.8倍であった。実施例19と比較して、実施例20は添加V(ベンジリデンソルビトール系核剤)の添加量を増やしているため、結晶核が増加し、微結晶が生成され、更に延伸しやすい結晶構造が形成され、延伸性が向上した。また、得られた延伸複合繊維の繊度は0.11dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0119】
<比較例1>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Dと、鞘材cとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を275℃、鞘材の押出機シリンダー温度を275℃、紡糸口金温度を290℃、紡糸速度を500m/分として、樹脂の吐出量を調整しながら、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0120】
しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは38.7g/10分、鞘材のMFRは33.0g/10分、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は1.17であり、芯材及び鞘材共に紡糸口金から吐出する樹脂の溶融張力が高かった。このため、紡糸温度を高く設定したにも関わらず、安定紡糸可能な未延伸繊維繊度は3.11dTexに留まった。
【0121】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維70本(約56万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0122】
その結果、紡糸口金から吐出された芯材のMFRが本発明の範囲よりも小さい値であったため、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は54m/分、全延伸倍率は5.4倍となった。また、得られた延伸複合繊維は、繊維物性は良好であったが、未延伸繊維の細繊度化が不十分であったため、繊度0.60dTexと太いものであった。
【0123】
<比較例2>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.1質量%配合した樹脂原料と、鞘材cとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を500m/分として、樹脂の吐出量を調整しながら、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0124】
しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは105.7g/10分、鞘材のMFRは33.5g/10分、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は3.16あり、鞘材の紡糸口金から吐出する樹脂の溶融張力が高かったため、安定紡糸可能な未延伸繊維の繊度は2.04dTexに留まった。
【0125】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維130本(約53万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0126】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は60m/分、全延伸倍率は6.0倍となった。しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRと鞘材のMRFとの比が大きく、未延伸繊維が太かったため、得られた延伸複合繊維は、繊維物性は良好であったが、繊度が0.35dTexと前述した実施例より太いものであった。
【0127】
<比較例3>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aと、鞘材aを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が50/50となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を500m/分として、樹脂の吐出量を調整しながら、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0128】
しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは69.6g/10分、鞘材のMFRは71.5g/10分、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は0.97であり、芯材の紡糸口金から吐出する樹脂の溶融張力が若干高かったため、安定紡糸可能な未延伸繊維の繊度は1.61dTexに留まった。
【0129】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維170本(約55万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0130】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は62m/分、全延伸倍率は6.2倍となった。これは、紡糸口金から吐出された芯材のMFRの値が本発明の範囲よりも低く、更に未延伸繊維も太かったためと考えられる。一方、得られた延伸複合繊維は、繊維物性は良好であったが、繊度が0.29dTexと前述した実施例より太いものであった。
【0131】
<比較例4>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
比較例3と同様の方法及び条件で、未延伸繊維を作製した。
【0132】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維170本(約55万dTex)を、約2日間放置した後、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0133】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は55m/分、全延伸倍率は5.5倍となり、比較例3よりも延伸性が低下した。これは、未延伸繊維を約2日間放置したため、結晶が成長して、延伸し難い結晶構造が形成されたためと考えられる。一方、得られた延伸複合繊維は、繊維物性は良好であったが、繊度が0.29dTexと前述した実施例より太いものであった。
【0134】
<比較例5>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤IIを1.0質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を500m/分とし、樹脂の吐出量を調整して、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0135】
しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは237.9g/10分、鞘材のMFRは73.1g/10分、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は3.25であり、芯材の紡糸口金から吐出する樹脂の溶融張力が低くなり過ぎた。このため、若干不安定な状態となったが、繊度が0.67dTexの未延伸繊維を紡糸した。
【0136】
図5は比較例5の未延伸繊維断面を示す顕微鏡写真である。未延伸繊維の断面を顕微鏡観察して比較したところ、図5に示す比較例5の未延伸繊維は、図2〜4に示す実施例2,4,5の未延伸繊維に比べて、繊度斑が大きく、繊維レベルでは鞘芯比率の斑や、鞘材の被覆斑(芯材の露出)が認められた。
【0137】
(2)延伸複合繊維の作製
紡糸工程で得た未延伸繊維400本(約54万dTex)が準備できた後、直ちに、まとめたトウを、実施例1と同様の方法及び条件で予備延伸処理した後、連続して本延伸を行った。
【0138】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は45m/分、全延伸倍率は4.5倍となった。これは、比較例5では、未延伸繊維の繊度斑が大きかったためと考えられる。また、得られた延伸複合繊維は、繊度が0.16dTexであったが、繊維物性のばらつきが大きかった。
【0139】
<比較例6>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aに、添加剤Iを7.5質量%、添加剤IIを0.2質量%配合した樹脂原料と、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)が40/60となるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を500m/分とし、樹脂の吐出量を調整して、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0140】
しかし、未延伸繊維を紡糸できる条件が見出せなかった。これは、芯材に添加した高MFR添加剤Iが、添加剤IIにより分解され過ぎたためと考えられる。なお、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは180.7g/10分、鞘材のMFRは72.5g/10分であり、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は2.49であった。
【0141】
<比較例7>
(1)鞘芯型複合未延伸繊維の作製
芯材Aと、鞘材aとを用いて、鞘芯構造の未延伸繊維を作製した。その際、鞘芯型複合紡糸口金を使用し、鞘芯の断面積比(鞘/芯)は50/50になるようにした。また、紡糸条件は、芯材の押出機シリンダー温度を255℃、鞘材の押出機シリンダー温度を255℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を150m/分として、樹脂の吐出量を調整しながら、細繊度未延伸繊維の作製を試みた。
【0142】
しかし、紡糸口金から吐出された芯材のMFRは68.9g/10分、鞘材のMFRは73.9g/10分、MFR比(=芯材MFR/鞘材MFR)は0.93であり、芯材の紡糸口金から吐出する樹脂の溶融張力が若干高かったため、安定紡糸可能な未延伸繊維の繊度は1.50dTexに留まった。
【0143】
(2)延伸複合繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程を実施できるように、3台のローラー間に第一延伸槽(一段目、常圧蒸気)及び第二延伸槽(二段目、常圧蒸気)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、先ず、紡糸工程で得た未延伸繊維(約5万dTex)を引き続き、第一延伸槽にて、導入ローラー(G1ローラー)速度150m/分、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)と延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の二段目延伸比率(G3/G2)1.05倍の条件で、第一延伸送出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させながら、100℃の常圧蒸気による二段延伸を行った。
【0144】
その結果、繊維切れや延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)速度は825m/分、全延伸倍率は5.5倍であった。これは、紡糸口金から吐出された芯材のMFRの値が本発明の範囲よりも低く、更に未延伸繊維も太かったためと考えられる。一方、得られた延伸複合繊維は、繊維物性は良好であったが、繊度が0.30dTexと前述した実施例より太いものであった。
【0145】
以上の結果を下記表1及び表2にまとめて示す。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
上記表1及び表2に示すように、実施例1〜20の製造方法は、比較例1〜7の製造方法に比べて細繊度化に優れており、繊維物性に優れた細繊度の延伸複合繊維を製造できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5