(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938162
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】自動車用電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20160609BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20160609BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
H01B7/04
D06M11/83
H01B5/02 A
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-269114(P2010-269114)
(22)【出願日】2010年12月2日
(65)【公開番号】特開2012-119211(P2012-119211A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月14日
【審判番号】不服2015-6326(P2015-6326/J1)
【審判請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【合議体】
【審判長】
鈴木 匡明
【審判官】
中田 剛史
【審判官】
加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−76852(JP,A)
【文献】
特開2006−12698(JP,A)
【文献】
特開2010−100934(JP,A)
【文献】
特開2009−68673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/04
D06M11/83
H01B5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリレート繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とし、前記導体部の周囲を被覆部により覆った自動車用電線であって、
前記ポリアリレート繊維の外径は10μm以上100μm以下であり、
前記金属メッキの厚さは0.25μm以上66μm以下であり、
前記素線の外径を前記ポリアリレート繊維の外径で割り込んだ値が1.05以上2.32以下であり、
一端に400gの荷重を設け、直径25mmのマンドレルを用いて他端側を180°の角度で1秒間に2回屈曲させる耐屈曲試験において、前記素線の抵抗値が10%上昇するまでの屈曲回数が10000回以上となる
ことを特徴とする自動車用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
自動車用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化により二酸化炭素の排出量が少ない製品が市場に受け入れられている。特に自動車は原油価格高騰の影響との相乗効果により、二酸化炭素の排出量を抑えることが望まれており、燃費を向上させるべく自動車用電線について軽量化の要求が日増しに高まってきている。
【0003】
しかし、軟銅撚り線や銅合金撚り線などの自動車用電線では各金属の比重が決まっていることから、軽量化するためには細径化するしかない。
【0004】
そこで、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole))繊維などの高強度繊維に金属メッキを施し、これを撚り合わせた導電性高強力コードが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、超臨界流体を用いて高分子繊維にめっき前処理を行ったうえで高密着に無電解銅メッキを施した素線を撚り合わせて導体部とした電線が提案されている(例えば特許文献2参照)。これらによれば、繊維にメッキ処理を施したものを導体として用いているため、軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−130241号公報
【特許文献2】特開2009−242839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の電線によれば軽量を図ることができるものの、ドア部等に用いられる電線としての耐屈曲性について要求を満たすものではない。すなわち、特許文献1及び2に記載の電線では、メッキ仕様など何ら考慮されておらず、耐屈曲性については自動車用として信頼性にたるものとはなっていない。なお、上記問題は、自動車用電線に限らず、ロボットなど可動部を有する箇所に用いられる電線についても共通するものである。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、軽量化を図りつつ耐屈曲性を向上させることが可能な
自動車用電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自動車用電線は、ポリアリレート繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とし
、前記導体部の周囲を被覆部により覆った自動車用電線であって、
前記ポリアリレート繊維の外径は10μm以上100μm以下であり、前記金属メッキの厚さは0.25μm以上66μm以下であり、前記素線の外径を
前記ポリアリレート繊維の外径で割り込んだ値が1.05以上2.32以下であ
り、一端に400gの荷重を設け、直径25mmのマンドレルを用いて他端側を180°の角度で1秒間に2回屈曲させる耐屈曲試験において、前記素線の抵抗値が10%上昇するまでの屈曲回数が10000回以上となることを特徴とする。
【0009】
本発明の
自動車用電線によれば、
ポリアリレート繊維上に金属メッキを施した素線を導体部とした電線であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、素線の外径を
ポリアリレート繊維の外径で割り込んだ値が1.05以上2.32以下である。ここで、当該割り込んだ値が1.05以上である場合、メッキ厚が薄くなり過ぎず屈曲時に他部材との接触などによって
ポリアリレート繊維がダメージを受け難くなり、繊維羽毛による断線を抑制することができる。一方、当該値が2.32以下である場合、屈曲時にメッキの歪みが大きくなり過ぎず、メッキ割れが生じ難くなる。従って、軽量化を図りつつ耐屈曲性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の
自動車用電線によれば、軽量化を図りつつ耐屈曲性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る電線を示す図である。
【
図2】メッキ厚と屈曲性との関係を示すグラフである。
【
図3】本実施形態に係る電線の軽量化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電線を示す図である。同図に示す電線1は、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11からなる導体部10と、導体部10を覆う被覆部20とから構成されている。
【0013】
ここで、高強度繊維11aとは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、及びPBO繊維などである。具体的に高強度繊維11aは、強度が2GPa以上であり、弾性率が50GPa以上であるものが該当する。金属メッキ11bは、例えば銅及びスズが該当する。このような高強度繊維11aと金属メッキ11bとからなる素線11は、繊維を用いているため、軽量化を図ることができる。
【0014】
なお、
図1において電線1の導体部10は複数本の素線11を撚り合わせて構成されているが、導体部10は複数本の素線11を撚り合わせたものに限らず、単線により構成されていてもよい。
【0015】
また、本実施形態に係る電線1において、素線11の外径を高強度繊維11aの外径で割り込んだ値が1.05以上2.32以下である。ここで、当該割り込んだ値が1.05以上である場合、メッキ厚が薄くなり過ぎず屈曲時に他部材との接触などによって高強度繊維がダメージを受け難くなり、繊維羽毛による断線を抑制することができる。一方、当該値が2.32以下である場合、屈曲時にメッキの歪みが大きくなり過ぎず、メッキ割れが生じ難くなる。なお、本実施形態において高強度繊維11aは径が10μm〜100μmである。よって、金属メッキ11bは厚さが
0.25μm〜66μmである。
【0016】
図2は、メッキ厚と屈曲性との関係を示すグラフである。なお、
図2では、φ25のマンドレルを用い、荷重400g、屈曲速度2回/sとする180°屈曲試験を行った結果を示している。また、電線は抵抗値が10%上昇すると、導体抵抗管理が必要な機器に電線を使用できなくなるため、
図2では10%抵抗値が上昇するまでの屈曲回数を測定した。また、高強度繊維11aとしては、パラ系アラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維をそれぞれ用いた。
【0017】
図2に示すように、アラミド繊維に金属メッキ11bを施した電線1については、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.02であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約1600回程度であり、マンドレルに接触して
素線11が繊維羽毛によ
り断線した。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.05であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は10000回に達した。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.13であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は11000回であった。
【0018】
また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.59であるとき、及び、2.00であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は13000回であった。さらに、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.32であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は10000回であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.67であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約5000回程度であり、金属メッキ11bに割れが生じた。
【0019】
このため、高強度繊維11aがアラミド繊維である場合、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.05以上2.32以下であると、屈曲回数が10000回以上となり、耐屈曲性に優れているといえる。
【0020】
また、PBO繊維に金属メッキ11bを施した電線1については、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.02であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約1700回程度であり、マンドレルに接触して
素線11が繊維羽毛によ
り断線した。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.05であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は11000回に達した。なお、10%抵抗値が上昇する屈曲回数が10000回となる素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値は、約1.046であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.13であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は12000回であった。
【0021】
また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.59であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は14000回であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.00であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は13000回であった。さらに、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.32であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は10000回であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.67であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約5200回程度であり、金属メッキ11bに割れが生じた。
【0022】
このため、高強度繊維11aがPBO繊維である場合、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.046以上2.32以下であると、屈曲回数が10000回以上となり、耐屈曲性に優れているといえる。
【0023】
また、ポリアリレート繊維に金属メッキ11bを施した電線1については、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.02であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約5000回程度であり、マンドレルに接触して
素線11が繊維羽毛によ
り断線した。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.05であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は13000回に達した。なお、10%抵抗値が上昇する屈曲回数が10000回となる素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値は、約1.039であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.13であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は14000回であった。
【0024】
また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.44であるとき、及び2.10であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は15000回であった。さらに、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.58であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は8000回であり、金属メッキ11bに割れが生じた。なお、10%抵抗値が上昇する屈曲回数が10000回となる素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値は、約2.44であった。また、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が2.69であるとき、10%抵抗値が上昇する屈曲回数は約5500回程度であり、この場合にも同様に金属メッキ11bに割れが生じた。
【0025】
このため、高強度繊維11aがポリアリレート繊維である場合、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値が1.039以上2.44以下であると、屈曲回数が10000回以上となり、耐屈曲性に優れているといえる。
【0026】
以上、耐屈曲性に優れている範囲は、アラミド繊維において1.05以上2.32以下であり、PBO繊維において1.046以上2.32以下であり、ポリアリレート繊維において1.039以上2.44以下であった。よって、高強度繊維11aに金属メッキ11bを施して導体部10とする場合、素線11の外径/高強度繊維11aの外径の値を1.05以上2.32以下としておけば、耐屈曲性に優れた電線1を提供することができることがわかった。
【0027】
図3は、本実施形態に係る電線1の軽量化の様子を示す図である。
図3に示すように、純銅を素線とし、この素線を複数本撚り、撚り外径である導体断面積を0.35sqとした場合、導体部の重量は3.08g/mであった。
【0028】
一方、高強度繊維11aとしてパラ系アラミド繊維を用い、金属メッキ11bとして2μmの銅メッキを施して素線11を得て、この素線11を複数本撚り、撚り外径である導体断面積を0.35sqとした場合、導体部の重量は1.65g/mであった。このように、この例によると46%の軽量化が可能となった。
【0029】
このようにして、本実施形態に係る電線1によれば、高強度繊維11a上に金属メッキ11bを施した素線11を導体部10とした電線1であるため、繊維による軽量を図ることができる。また、素線11の外径を高強度繊維11aの外径で割り込んだ値が1.05以上2.32以下である。ここで、当該割り込んだ値が1.05以上である場合、メッキ厚が薄くなり過ぎず屈曲時に他部材との接触などによって高強度繊維11aがダメージを受け難くなり、繊維羽毛による断線を抑制することができる。一方、当該値が2.32以下である場合、屈曲時にメッキの歪みが大きくなり過ぎず、メッキ割れが生じ難くなる。従って、軽量化を図りつつ耐屈曲性を向上させることができる。
【0030】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0031】
例えば、本実施形態に係る電線1は許容電流が純銅を導体部とする電線よりも小さい可能性があるため、微弱な電流を流す電線1として用いられてもよいし、可能であれば通常の電流を流す電線1として用いられてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…電線
10…導体部
11…素線
11a…高強度繊維
11b…金属メッキ
20…被覆部