(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし9のいずれかに記載の位相調整装置によって、電圧検出手段により検出された三相電力系統の各相の電圧信号の位相を調整して出力することを特徴とする系統対抗分生成装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る位相調整装置を系統連系インバータシステムの系統対抗分生成部に用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0030】
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、および制御回路7を備えている。
【0031】
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されて、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
【0032】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0033】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
【0034】
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0035】
電流センサ5は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの各相の系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
【0036】
制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路7は、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電流を制御している。これにより、制御回路7は、各種フィードバック制御を行っている。指令値信号は、電圧センサ6が検出した電圧信号Vを基にした信号に、電流制御のための補償信号を加算することで生成される。
【0037】
図1においては、出力電流制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。実際には、制御回路7は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)や無効電力制御(出力無効電力が予め設定された無効電力目標値となるように行うフィードバック制御)なども行っている。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
【0038】
制御回路7は、電流制御部71、PWM信号生成部72、および系統対抗分生成部8を備えている。
【0039】
電流制御部71は、電流センサ5より入力される電流信号I(Iu,Iv,Iw)に基づいて、電流制御のための補正値信号Xu,Xv,Xwを生成するものである。電流制御部71は、電流信号Iu,Iv,Iwをそれぞれの目標値に一致させるためのフィードバック制御を行うためのものであり、当該制御のための補償信号として補正値信号Xu,Xv,Xwを出力する。後述する系統対抗分生成部8が出力する系統指令値信号Yu,Yv,Ywと、電流制御部71が出力する補正値信号Xu,Xv,Xwとがそれぞれ加算されて、指令値信号X’u,X’v,X’wが算出され、PWM信号生成部72に入力される。
【0040】
PWM信号生成部72は、入力される指令値信号X’u,X’v,X’wと、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pu,Pv,Pwを生成する。三角波比較法では、指令値信号X’u,X’v,X’wとキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号X’uがキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Puとして生成される。生成されたPWM信号Pu,Pv,Pwは、インバータ回路2に出力される。
【0041】
系統対抗分生成部8は、電圧センサ6から電圧信号V(Vu,Vv,Vw)を入力されて、系統指令値信号Yu,Yv,Ywを生成して出力する。系統指令値信号Yu,Yv,Ywは系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号X’u,X’v,X’wの基準となるものであり、系統指令値信号Yu,Yv,Ywが補正値信号Xu,Xv,Xwで補正されることにより指令値信号X’u,X’v,X’wが生成される。系統対抗分生成部8は、フィルタ回路3等で遅延する位相の遅れ分を進めて、系統指令値信号Yu,Yv,Ywを生成する。系統対抗分生成部8は、電圧信号Vに含まれる正相分の信号と逆相分の信号とをそれぞれ抽出し、別々に位相を進める処理を行う。正相分の信号と逆相分の信号とは、それぞれ位相を進められてから加算される。
【0042】
図2は、系統対抗分生成部8の内部構成を説明するためのブロック図である。
【0043】
同図に示すように、系統対抗分生成部8は、三相/二相変換部81、正相分抽出部82、逆相分抽出部83、正相分位相調整部84、逆相分位相調整部85、振幅調整部86、および二相/三相変換部87を備えている。
【0044】
三相/二相変換部81は、電圧センサ6より入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部81は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電圧信号Vu,Vv,Vwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを生成する。
【0045】
三相/二相変換部81で行われる変換処理は、下記(5)式に示す行列式で表される。
【数4】
【0046】
正相分抽出部82は、三相/二相変換部81より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相分信号を抽出するものである。抽出された正相分信号Yαp,Yβpは、正相分位相調整部84に出力される。正相分抽出部82は、回転座標変換部82a、LPF82b、および静止座標変換部82cを備えている。
【0047】
回転座標変換部82aは、三相/二相変換部81から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、回転座標系のd軸電圧信号Vdpおよびq軸電圧信号Vqpに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部82aは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、図示しない位相検出部が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電圧信号Vdpおよびq軸電圧信号Vqpに変換する。
【0048】
回転座標変換部82aで行われる変換処理は、下記(6)式に示す行列式で表される。
【数5】
【0049】
LPF82bは、ローパスフィルタであり、d軸電圧信号Vdpおよびq軸電圧信号Vqpの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβの基本波の正相分が、それぞれd軸電圧信号Vdpおよびq軸電圧信号Vqpの直流成分に変換されている。LPF82bは、直流成分だけを通過させ交流成分を遮断することで、基本波の正相分信号を通過させその他の成分の信号(逆相分信号や高調波信号)を遮断する。d軸電圧信号Vdpの直流成分信号Ydpおよびq軸電圧信号Vqpの直流成分信号Yqpが、静止座標変換部82cに出力される。
【0050】
静止座標変換部82cは、LPF82bから入力される直流成分信号Ydp,Yqpを、静止座標系の2つの正相分信号Yαp,Yβpに変換するものであり、回転座標変換部82aとは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部82cは、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の直流成分信号Ydp,Yqpを、位相θに基づいて、静止座標系の正相分信号Yαp,Yβpに変換する。
【0051】
静止座標変換部82cで行われる変換処理は、下記(7)式に示す行列式で表される。
【数6】
【0052】
逆相分抽出部83は、三相/二相変換部81より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の逆相分信号を抽出するものである。抽出された逆相分信号Yαn,Yβnは、逆相分位相調整部85に出力される。逆相分抽出部83は、回転座標変換部83a、LPF83b、および静止座標変換部83cを備えている。
【0053】
回転座標変換部83aは、三相/二相変換部81から入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、逆相分の回転座標系のd軸電圧信号Vdnおよびq軸電圧信号Vqnに変換するものである。逆相分の回転座標系は、電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で逆の方向に回転する直交座標系である。回転座標変換部83aは、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβを、系統電圧の基本波の位相θの負の値である位相(−θ)に基づいて、逆相分の回転座標系のd軸電圧信号Vdnおよびq軸電圧信号Vqnに変換する。
【0054】
回転座標変換部83aで行われる変換処理は、下記(8)式に示す行列式で表される。
【数7】
【0055】
LPF83bは、ローパスフィルタであり、d軸電圧信号Vdnおよびq軸電圧信号Vqnの直流成分だけを通過させる。逆相分の回転座標変換処理によって、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβの基本波の逆相分が、それぞれd軸電圧信号Vdnおよびq軸電圧信号Vqnの直流成分に変換されている。LPF83bは、直流成分だけを通過させ交流成分を遮断することで、基本波の逆相分を通過させその他の成分の信号(正相分信号や高調波信号)を遮断する。d軸電圧信号Vdnの直流成分信号Ydnおよびq軸電圧信号Vqnの直流成分信号Yqnが、静止座標変換部83cに出力される。
【0056】
静止座標変換部83cは、LPF83bから入力される直流成分信号Ydn,Yqnを、静止座標系の2つの逆相分信号Yαn,Yβnに変換するものであり、回転座標変換部83aとは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部83cは、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の直流成分信号Ydn,Yqnを、位相(−θ)に基づいて、静止座標系の逆相分信号Yαn,Yβnに変換する。
【0057】
静止座標変換部83cで行われる変換処理は、下記(9)式に示す行列式で表される。
【数8】
【0058】
正相分位相調整部84は、遅延する位相をあらかじめ進めておくように、位相を調整するものである。遅延する位相は、実験によってあらかじめ取得されており、これを調整するための位相調整量θ
0が設定されている。つまり、フィルタ等で位相がθ
0だけ遅延する場合、正相分位相調整部84は、正相分信号Yαp,Yβpの位相を位相調整量θ
0だけ進める処理をして、位相調整後の正相分信号Y’αp,Y’βpを出力する。
【0059】
正相分位相調整部84で行われる位相調整処理は、下記(10)式に示す行列式で表される。
【数9】
【0060】
なお、静止座標変換部82cで行われる処理と正相分位相調整部84で行われる処理を、1つの処理で行うようにしてもよい。すなわち、静止座標変換部82cで静止座標変換を行う際に、合わせて位相を位相調整量θ
0だけ進める処理を行うようにしてもよい。
【0061】
静止座標変換処理と位相調整処理とを一度に行う場合の処理は、上記(7)式および(10)式から、下記(11)式に示す行列式で表される。
【数10】
【0062】
逆相分位相調整部85は、遅延する位相をあらかじめ進めておくように、位相を調整するものである。フィルタ等で位相がθ
0だけ遅延する場合、逆相分位相調整部85は、逆相分信号Yαn,Yβnの位相を位相調整量θ
0だけ進める処理をして、位相調整後の逆相分信号Y’αn,Y’βnを出力する。
【0063】
逆相分の信号の位相を位相調整量θ
0だけ進める場合、上記(10)式に示す行列において、θ
0を(−θ
0)とした行列を用いる。すなわち、逆相分位相調整部85で行われる位相調整処理は、下記(12)式に示す行列式で表される。
【数11】
【0064】
なお、静止座標変換部83cで行われる処理と逆相分位相調整部85で行われる処理を、1つの処理で行うようにしてもよい。すなわち、静止座標変換部83cで静止座標変換を行う際に、合わせて位相を位相調整量θ
0だけ進める処理を行うようにしてもよい。
【0065】
静止座標変換処理と位相調整処理とを一度に行う場合の処理は、上記(9)式および(12)式から、下記(13)式に示す行列式で表される。
【数12】
【0066】
正相分位相調整部84が出力した正相分信号Y’αpと逆相分位相調整部85が出力した逆相分信号Y’αnとが加算された信号Y’αと、正相分信号Y’βpと逆相分信号Y’βnとが加算された信号Y’βとが、振幅調整部86に入力される。振幅調整部86は、信号Y’α,Y’βの振幅を調整するものであり、フィルタで減衰する分を増幅する処理を行い、振幅調整後の信号Yα,Yβを出力する。
【0067】
二相/三相変換部87は、振幅調整部86から出力される信号Yα,Yβを、3つの系統指令値信号Yu,Yv,Ywに変換するものである。二相/三相変換部87は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部81とは逆の変換処理を行うものである。
【0068】
二相/三相変換部87で行われる変換処理は、下記(14)式に示す行列式で表される。
【数13】
【0069】
本実施形態において、系統対抗分生成部8は、電圧信号Vu,Vv,Vwをα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換し、正相分信号Yαp,Yβpと逆相分信号Yαn,Yβnとをそれぞれ抽出する。そして、正相分信号Yαp,Yβpの位相を正相分位相調整部84で調整し、逆相分信号Yαn,Yβnの位相を逆相分位相調整部85で調整する。位相を調整された各信号をそれぞれ加算し、振幅調整を行ってから、二相/三相変換によって3つの系統指令値信号Yu,Yv,Ywに変換する。位相の調整方法が異なる正相分信号と逆相分信号がそれぞれ抽出され、それぞれに適した方法で位相調整されるので、系統電圧に逆相分が重畳されている場合でも、系統対抗分生成部8は、位相が適切に調整された系統指令値信号を出力することができる。
【0070】
図3〜5は、本実施形態において行ったシミュレーション結果を説明するための図である。
【0071】
まず、系統対抗分生成部8が出力する系統指令値信号Yu,Yv,Ywを、電力系統Bの系統電圧に精度よく追従させることができるかの検証を行った。そのため、位相調整量θ
0=0としてシミュレーションを行っている。
図3は、このシミュレーションにおける連系点電圧(系統電圧に相当する。)と系統対抗分(系統指令値信号に相当する。)の波形を、相毎に示している。同図(a)はU相のものであり、同図(b)はV相のものであり、同図(c)はW相のものである。シミュレーション開始から0.2秒後に瞬低をおこし、更に逆相分を印加した。同図(a)〜(c)に示すように、各相とも系統対抗分が連系点電圧に高速に精度よく追従している。
【0072】
次に、位相を調整できるかを検証した。
図4は、位相を進めた場合のシミュレーションにおける連系点電圧と系統対抗分の波形を、相毎に示している。当該シミュレーションは、位相調整量θ
0=30度とした以外は上記シミュレーションと同じ条件で行っている。また、
図5は、位相を遅らせた場合のシミュレーションにおける連系点電圧と系統対抗分の波形を、相毎に示している。当該シミュレーションは、位相調整量θ
0=−30度とした以外は上記シミュレーションと同じ条件で行っている。
図4および
図5に示すように、系統対抗分が連系点電圧に高速に精度よく追従し、かつ、位相の調整を適切に行っている。つまり、系統電圧に逆相分が重畳された状態でも、系統指令値信号の位相を適切に調整することができる。
【0073】
上記第1実施形態においては、ローパスフィルタを用いた場合について説明したが、ハイパスフィルタを用いて構成するようにしてもよい。
【0074】
この場合、
図2に示す正相分抽出部82がハイパスフィルタを用いて逆相分を除去するようにし、逆相分抽出部83がハイパスフィルタを用いて正相分を除去するようにすればよい。すなわち、回転座標変換部82aが位相(−θ)に基づいて逆相分の回転座標変換を行い、LPF82bに代えてハイパスフィルタで直流成分(逆相分)を遮断し、静止座標変換部82cが位相(−θ)に基づいて静止座標変換を行うようにする。また、回転座標変換部83aが位相θに基づいて回転座標変換を行い、LPF83bに代えてハイパスフィルタで直流成分(正相分)を遮断し、静止座標変換部83cが位相θに基づいて静止座標変換を行うようにする。この場合でも、正相分抽出部82が基本波の正相分信号を抽出し、逆相分抽出部83が基本波の逆相分信号を抽出することができる。
【0075】
上記第1実施形態においては、回転座標変換部82a,83aおよび静止座標変換部82c,83cが非線形時変処理を行うために、線形制御理論を用いて制御系を設計することができず、また、システム解析もできなかった。線形制御理論を用いることができるように、回転座標変換部82a,83aおよび静止座標変換部82c,83cを備えず、これに代わる構成を採用した場合を、第2実施形態として説明する。
【0076】
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
【0077】
図6(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。
図6(a)に示す非線形時変の処理を、
図6(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
【0078】
図6(a)に示す回転座標変換は下記(15)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(16)式の行列式で表される。
【数14】
【0079】
したがって、
図6(a)に示す処理を、行列を用いて、
図7(a)のように表すことができる。
図7(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、
図6(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
【0080】
回転座標変換の行列は、下記(17)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
【数15】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数16】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0081】
【数17】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数18】
であることが、確認できる。
【0082】
また、静止座標変換の行列は、下記(18)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
【数19】
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
【数20】
である。なお、T
-1は、Tの逆行列である。
【0083】
【数21】
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
【数22】
であることが、確認できる。
【0084】
上記(17)式および(18)式を用いて、
図7(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(19)式のように計算される。
【数23】
【0085】
上記(19)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、
図8に示すブロック線図になる。
図8に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
【数24】
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である 。
【0086】
ここで、θ(t)=ω
0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω
0t−ω
0τ=ω
0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、
図8に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω
0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω
0)が得られる。また、
図8に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω
0)の入出力特性になる。
【0087】
したがって、上記(19)式からさらに計算を進めると、
【数25】
と計算される。
【0088】
これにより、
図7(a)に示す処理を、
図7(b)に示す処理に変換することができる。
図7(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
【0089】
ローパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=1/(Ts+1)で表される。したがって、
図9に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからローパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
LPFは、上記(20)式を用いて、下記(21)式のように算出される。
【数26】
【0090】
図10は、行列G
LPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
LPFの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω
0=120πの場合)のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0091】
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
LPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
LPFに示す処理を、
図11を参照して検討する。
【0092】
図11は、正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は正相分の信号を示しており、同図(b)は逆相分の信号を示している。
【0093】
同図(a)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の正相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記正相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0094】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が進んでいる。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図10(a)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図10(b)参照)。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図10(c)参照)。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0095】
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。
図11(b)において、電圧信号Vu,Vv,Vwの基本波の逆相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。前記逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω
0で反時計回りの方向に回転している。
【0096】
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が遅れている。α軸信号に行列G
LPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号に行列G
LPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号にG
LPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。また、β軸信号に行列G
LPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。つまり、伝達関数の行列G
LPFは、基本波の正相分信号を通過させ、逆相分信号を遮断する。また、基本波以外の周波数の信号(高調波など)は基本波より減衰されるので、伝達関数の行列G
LPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号を抽出するフィルタ処理であることが確認できる。
【0097】
伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分信号を遮断し、逆相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号を抽出する場合には、伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0098】
図12は、第2実施形態に係る系統対抗分生成部の内部構成を説明するためのブロック図である。同図において、
図2に示す系統対抗分生成部8と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0099】
図12に示す系統対抗分生成部8’は、正相分抽出部82および逆相分抽出部83に代えて、正相分抽出部82’および逆相分抽出部83’を備えている点で、第1実施形態に係る系統対抗分生成部8(
図2参照)と異なる。
【0100】
正相分抽出部82’は、三相/二相変換部81より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の正相分信号を抽出するものである。抽出された正相分信号Yαp,Yβpは、正相分位相調整部84に出力される。正相分抽出部82’は、上記(21)式に示す、基本波の正相分信号を抽出するための伝達関数の行列G
LPFに表される処理を行う。つまり、下記(22)式に示す処理を行っている。角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数27】
【0101】
本実施形態において、正相分抽出部82’は、回転座標変換および静止座標変換を行うことなく、静止座標系でフィルタリング処理を行っている。伝達関数の行列G
LPFは、回転座標変換を行ってからフィルタリング処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列である。したがって、伝達関数の行列G
LPFで表される処理を行う正相分抽出部82’は、
図2に示す回転座標変換部82a、静止座標変換部82c、およびLPF82bと等価の処理、すなわち、正相分抽出部82と等価の処理を行っている。
【0102】
また、正相分抽出部82’で行われる処理は、伝達関数の行列G
LPFで示されるので、線形時不変の処理である。非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれていない線形時不変システムになっているので、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。このように、上記(21)式に示す伝達関数の行列G
LPFを用いることで、回転座標変換を行ってからフィルタリング処理を行った後に静止座標変換を行う非線形の処理を、線形時不変の多入出力系へ帰着させることができ、これによりシステム解析や制御系設計が容易になる。
【0103】
逆相分抽出部83’は、三相/二相変換部81より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、基本波の逆相分信号を抽出するものである。抽出された逆相分信号Yαn,Yβnは、逆相分位相調整部85に出力される。逆相分抽出部83’は、上記(21)式に示す伝達関数の行列G
LPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列に表される処理を行う。つまり、基本波の逆相分信号を抽出するための処理を行っており、下記(23)式に示す処理を行っている。角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。
【数28】
【0104】
逆相分抽出部83’は、
図2に示す回転座標変換部83a、静止座標変換部83c、およびLPF83bと等価の処理、すなわち、逆相分抽出部83と等価の処理を行っている。また、逆相分抽出部83’で行われる処理も線形時不変の処理であり、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能となる。
【0105】
正相分抽出部82’および逆相分抽出部83’は、第1実施形態に係る正相分抽出部82および逆相分抽出部83(
図2参照)とそれぞれ等価の処理を行っている。つまり、正相分抽出部82’はα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから正相分信号Yαp,Yβpを抽出し、逆相分抽出部83’はα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから逆相分信号Yαn,Yβnを抽出する。そして、正相分信号Yαp,Yβpの位相は正相分位相調整部84で調整され、逆相分信号Yαn,Yβnの位相は逆相分位相調整部85で調整される。したがって、第2実施形態に係る系統対抗分生成部8’も、第1実施形態に係る系統対抗分生成部8と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態に係る系統対抗分生成部8’は、線形制御理論を用いた制御系設計やシステム解析が可能であるという効果も奏することができる。
【0106】
なお、本実施形態においては、伝達関数の行列の各要素の時定数が同一である場合について説明したが、要素毎に異なる値を用いるようにしてもよい。例えば、α軸成分の速応性を向上させたり、安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
【0107】
また、本実施形態においては、正相分抽出部82’および逆相分抽出部83’をそれぞれ個別に設計する場合について説明したが、これに限られない。時定数Tを共通にするようにして、正相分抽出部82’および逆相分抽出部83’を一度に設計するようにしてもよい。
【0108】
また、本実施形態においては、正相分抽出部82’および逆相分抽出部83’で用いられる角周波数ω
0をあらかじめ設定しておく場合について説明したが、これに限られない。信号処理のサンプリング周期が固定サンプリング周期の場合、系統電圧の基本波の角周波数を周波数検出装置などで検出して、検出された角周波数を角周波数ω
0として用いるようにしてもよい。
【0109】
本実施形態においては、ローパスフィルタに代わる処理を行う場合について説明したが、ハイパスフィルタに代わる処理を行う構成としてもよい。
【0110】
ハイパスフィルタの伝達関数は、時定数をTとすると、F(s)=Ts/(Ts+1)で表される。したがって、
図13に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからハイパスフィルタ処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列G
HPFは、上記(20)式を用いて、下記(24)式のように算出される。
【数29】
【0111】
図14は、行列G
HPFの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、中心周波数が60Hzの場合のものであり、時定数Tを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
【0112】
同図(a)が示す振幅特性は中心周波数近辺で減衰しており、中心周波数での振幅特性は−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、遮断帯域が小さくなっている。同図(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、振幅特性のピークは−6dB(=1/2)である。また、時定数Tが大きくなると、通過帯域が小さくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度遅らせて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数の信号の位相を90度進めて通過させる。以下に、三相/二相変換後の2つの信号に対する伝達関数の行列G
HPFに示す処理を、
図11を参照して検討する。
【0113】
図11(a)において、基本波の正相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない(
図14(a)参照)。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる(
図14(b)参照)。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図14(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。
【0114】
同図(b)において、基本波の逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号(ベクトルα)に行列G
HPFの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。また、β軸信号(ベクトルβ)に行列G
HPFの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度遅れる。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでα軸信号が再現される。一方、α軸信号に行列G
HPFの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相が90度進む(
図14(c)参照)。また、β軸信号に行列G
HPFの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合、振幅が半分になって、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することでβ軸信号が再現される。
【0115】
つまり、伝達関数の行列G
HPFは、基本波の逆相分信号を通過させ、正相分信号を遮断する。また、基本波以外の周波数の信号(高調波など)は、行列G
HPFの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行った場合はそのまま通過し(
図14(a)参照)、(1,2)要素および(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行った場合は減衰するので(
図14(b)、(c)参照)、ほぼそのまま通過する。したがって、伝達関数の行列G
HPFに示す処理は、中心周波数の正相分信号だけを除去するノッチフィルタ処理であることが確認できる。
【0116】
伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、逆相分信号を遮断し、正相分信号を通過させる。したがって、中心周波数の逆相分信号だけを除去する場合には、伝達関数の行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。
【0117】
第2実施形態においてハイパスフィルタに代わる処理を行う場合、
図12に示す正相分抽出部82’がハイパスフィルタに代わる処理を行って逆相分を除去するようにし、逆相分抽出部83’がハイパスフィルタに代わる処理を行って正相分を除去するようにすればよい。すなわち、逆相分抽出部83’が上記(24)式に示す行列G
HPFを用いた下記(25)式に示す処理を行って、正相分抽出部82’が上記(24)式に示す行列G
HPFの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いた下記(26)式に示す処理を行うようにする。なお、角周波数ω
0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω
0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、時定数Tはあらかじめ設計されている。この場合でも、正相分抽出部82’が基本波の正相分信号を抽出し、逆相分抽出部83’が基本波の逆相分信号を抽出することができる。
【数30】
【0118】
正相分信号と逆相分信号とを抽出する方法として、対称座標変換が知られている。以下に、対称座標変換を用いて、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから正相分信号Yαp,Yβpと逆相分信号Yαn,Yβnとを抽出する場合を、第3実施形態として説明する。
【0119】
図15は、第3実施形態に係る系統対抗分生成部の内部構成を説明するための図である。同図において、
図2に示す系統対抗分生成部8と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0120】
図15に示す系統対抗分生成部8”は、正相分抽出部82および逆相分抽出部83に代えて、抽出部88を備えている点で、第1実施形態に係る系統対抗分生成部8(
図2参照)と異なる。
【0121】
抽出部88は、三相/二相変換部81より入力されるα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、正相分信号Yαp,Yβpと逆相分信号Yαn,Yβnとを抽出するものである。抽出された正相分信号Yαp,Yβpは正相分位相調整部84に出力され、抽出された逆相分信号Yαn,Yβnは逆相分位相調整部85に出力される。抽出部88は、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから、下記(27a)式に示す行列式によって正相分信号Yαp,Yβpを算出し、下記(27b)式に示す行列式によって逆相分信号Yαn,Yβnを算出する。但し、jは虚数単位である。なお、下記(27a)式および(27b)式は、後述する下記(28a)式、(28b)式、(29)式、および(30)式から算出できるが、詳細な算出過程の説明は省略する。
【数31】
【0122】
抽出部88は、上記(27a)式および(27b)式を用いて、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβから正相分信号Yαp,Yβpと逆相分信号Yαn,Yβnとを抽出する。そして、正相分信号Yαp,Yβpの位相は正相分位相調整部84で調整され、逆相分信号Yαn,Yβnの位相は逆相分位相調整部85で調整される。したがって、第3実施形態に係る系統対抗分生成部8”も、第1実施形態に係る系統対抗分生成部8と同様の効果を奏することができる。
【0123】
上記第3実施形態においては、三相/二相変換を行ってから正相分信号と逆相分信号とを抽出しているが、先に正相分信号と逆相分信号とを抽出してから三相/二相変換を行うようにしてもよい。以下に、対称座標変換を用いて電圧信号V(Vu,Vv,Vw)から正相分信号と逆相分信号とを抽出し、その後に三相/二相変換を行う場合を、第4実施形態として説明する。
【0124】
図16は、第4実施形態に係る系統対抗分生成部の内部構成を説明するための図である。同図において、
図15に示す系統対抗分生成部8”と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0125】
図16に示す系統対抗分生成部8'''は、正相分信号と逆相分信号とを抽出してから三相/二相変換を行う点で、第3実施形態に係る系統対抗分生成部8”(
図15参照)と異なり、三相/二相変換部81および抽出部88に代えて、抽出部88’および三相/二相変換部81’a,81’bを備えている。
【0126】
抽出部88’は、電圧センサ6より入力される電圧信号V(Vu,Vv,Vw)から、各相の正相分信号Yup,Yvp,Ywpと逆相分信号Yun,Yvn,Ywnとを抽出するものである。抽出された正相分信号Yup,Yvp,Ywpは三相/二相変換部81’aに出力され、抽出された逆相分信号Yun,Yvn,Ywnは三相/二相変換部81’bに出力される。抽出部88’は、下記(28a)式および(28b)式に示す処理を行う。但し、a=exp(j・2π/3)であり、exp()は自然対数の底eの指数関数、jは虚数単位である。
【数32】
【0127】
三相/二相変換部81’aは、抽出部88’より入力される3つの正相分信号Yup,Yvp,Ywpを、2つの正相分信号Yαp,Yβpに変換するものである。変換後の正相分信号Yαp,Yβpは、正相分位相調整部84に出力される。三相/二相変換部81’aはいわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部81’aで行われる変換処理は、下記(29)式に示す行列式で表される。
【数33】
【0128】
三相/二相変換部81’bは、抽出部88’より入力される3つの逆相分信号Yun,Yvn,Ywnを、2つの逆相分信号Yαn,Yβnに変換するものである。変換後の逆相分信号Yαn,Yβnは、逆相分位相調整部85に出力される。三相/二相変換部81’bはいわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部81’bで行われる変換処理は、下記(30)式に示す行列式で表される。
【数34】
【0129】
抽出部88’および三相/二相変換部81’a,81’bは、電圧信号V(Vu,Vv,Vw)から各相の正相分信号Yup,Yvp,Ywpと逆相分信号Yun,Yvn,Ywnとを抽出し、それぞれ正相分信号Yαp,Yβpと逆相分信号Yαn,Yβnとに変換する。そして、正相分信号Yαp,Yβpの位相は正相分位相調整部84で調整され、逆相分信号Yαn,Yβnの位相は逆相分位相調整部85で調整される。したがって、第4実施形態に係る系統対抗分生成部8'''も、第1実施形態に係る系統対抗分生成部8と同様の効果を奏することができる。
【0130】
上記第1ないし第4実施形態においては、本発明に係る位相調整装置を系統対抗分生成部に用いた場合について説明したが、これに限られない。例えば、電流制御部71(
図1参照)に入力される電流信号I(Iu,Iv,Iw)の位相を調整する場合や、電流制御部71から出力される補正値信号Xu,Xv,Xwの位相を調整する場合にも、本発明に係る位相調整装置を用いることができる。
【0131】
上記第1ないし第4実施形態においては、本発明に係る位相調整装置を系統連系インバータシステムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る位相調整装置は、三相交流に基づく信号を用いるあらゆる装置や構成において、当該信号の位相を調整する場合に用いることができる。例えば、高調波補償装置、電力用アクティブフィルタ、不平衡補償装置、静止型無効電力補償装置(SVC、SVG)、無停電電源装置(UPS)、力率補償装置、周波数変換装置などの三相交流を扱う装置にも、本発明に係る位相調整装置を用いることができる。
【0132】
本発明に係る位相調整装置、系統対抗分生成装置、系統連系インバータシステム、および、位相調整方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る位相調整装置、系統対抗分生成装置、系統連系インバータシステム、および、位相調整方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。