(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載される滑り軸受は、その製造工程としては、銅メッキを施した厚さ0.8mmの裏金上に鉛青銅粉末を0.3mmの厚さに散布して焼結し多孔質焼結層を形成し、この多孔質焼結層の上にPEEK樹脂を主成分とする樹脂組成物のシートを重ね合わせてロール間で圧接して樹脂組成物を含浸被覆し、厚さ1.5mmの複層体とし、さらに、これを切断した後、樹脂組成物側を内側にして、例えば内径が20mm、幅20mmの筒形に湾曲成形し、その後に旋盤や研磨によって内径が真円となるように仕上げ加工をすることで製造される。複層形成・切断後に筒型(円筒状)に曲げ加工するなどの点は、特許文献1や特許文献3における滑り軸受でも同様である。
【0007】
このため、特許文献3の
図3に示すように、滑り軸受の周方向の一ヶ所には切断部が残っており、旋盤や研磨機で加工しても、切断部近辺の形状がいびつになるという問題がある。また、旋盤加工の場合、切断部によってバイトの摩耗が激しく、所用時間が多くなるという問題がある。研磨加工の場合も、研磨対象が樹脂であるため、砥石の目詰まりが頻繁にあり、やはり所用時間が多くなるという問題がある。
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、製造が容易でありながら、高い寸法精度を有し、かつ、耐熱性、低摩擦性、耐摩耗性、耐荷重性、耐クリープ性に優れ、低回転トルクを安定的に得ることができる圧縮機用滑り軸受、および、該圧縮機用滑り軸受を備えた圧縮機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧縮機用滑り軸受は、圧縮機の圧縮機構を駆動するための回転部材を回転可能に支持する圧縮機用滑り軸受であって、上記滑り軸受は、焼結金属製基材に、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなる樹脂層の摺動面を有し、上記樹脂層は、上記焼結金属製基材の表面に0.1〜0.7mmの厚さで射出成形により重ねて一体に設けられたことを特徴とする。
【0010】
上記樹脂組成物が繊維状充填材を含み、上記樹脂層において該繊維状充填材が、繊維の長さ方向を滑り軸受の摺動方向に対して45〜90度に交差するように配向していることを特徴とする。
【0011】
上記樹脂層の厚さが、上記焼結金属製基材の厚さの1/8〜1/2であることを特徴とする。
【0012】
上記焼結金属製基材の理論密度比が、0.7〜0.9であることを特徴とする。また、上記焼結金属製基材が、鉄を主成分とする焼結金属からなることを特徴とする。
【0013】
上記繊維状充填材の平均繊維長が、0.02〜0.2mmであることを特徴とする。また、上記繊維状充填材が、炭素繊維であることを特徴とする。特に、上記炭素繊維が、PAN系炭素繊維であることを特徴とする。
【0014】
上記樹脂組成物が、該樹脂組成物全体に対して、上記炭素繊維を5〜30体積%、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂を1〜30体積%含むことを特徴とする。また、上記樹脂組成物が、樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における溶融粘度50〜200Pa・sの樹脂組成物であることを特徴とする。
【0015】
上記滑り軸受は、上記回転部材をラジアル方向に支持する(ラジアル滑り)軸受であることを特徴とする。また、上記ラジアル滑り軸受は、上記圧縮機構のハウジング内の内部空間を圧力的に隔絶するように配設されていることを特徴とする。
【0016】
上記滑り軸受は、上記回転部材をスラスト方向に支持する(スラスト滑り)軸受であることを特徴とする。また、上記スラスト滑り軸受は、上記圧縮機構において発生する圧縮反力を上記回転部材を介して受ける側に配設されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の圧縮機は、圧縮機構を駆動するための回転部材を回転可能に支持する、上記本発明の滑り軸受を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧縮機用滑り軸受は、焼結金属製基材に、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなる樹脂層の摺動面を有するので、耐熱性、低摩擦性、耐摩耗性に優れた圧縮機用滑り軸受となる利点がある。また、上記樹脂層は、焼結金属製基材の表面に0.1〜0.7mmの厚さで射出成形により重ねて一体に設けられているので、耐荷重性、耐クリープ性に優れ、高面圧下でも寸法変化することがなく、低回転トルクを安定的に得ることが可能になる。さらに、樹脂層が焼結金属製基材の表面に射出成形により重ねて一体に設けられる、すなわち、焼結金属製基材を金型内にインサートして射出成形により樹脂層を形成するので、従来の複層軸受のように複層形成・切断後における旋盤や研磨機による切断部の加工、曲げ加工などが不要であり、製造が容易で低コストでありながら、摺動面が高寸法精度となる。
【0019】
上記樹脂組成物に繊維状充填材を含むので、樹脂層の耐熱性、耐摩耗性、耐荷重性、耐クリープ性をより高くすることができる。さらに、樹脂層において該繊維状充填材が、繊維の長さ方向を滑り軸受の摺動方向に対して45〜90度に交差するように配向しているので、繊維状充填材の両端エッジによる相手材表面への攻撃性を低減することができ、回転トルクの変動が防止できる。
【0020】
樹脂層の厚さが、焼結金属製基材の厚さの1/8〜1/2であるので、摩擦発熱による熱が摩擦面から焼結金属製基材に逃げ易く、蓄熱し難く、さらに耐熱性、低摩擦性、耐摩耗性に優れた圧縮機用滑り軸受となる。
【0021】
焼結金属製基材の理論密度比が、0.7〜0.9であるので、焼結金属製基材が担う軸受強度を確保するための所要の緻密性を有するとともに、樹脂層を焼結金属製基材に強固に密着させるための表面の凹凸を確保することができる。また、潤滑油を焼結金属製基材に保持することが可能である。さらに、焼結金属製基材の熱伝導性を確保できる。
【0022】
焼結金属製基材が、鉄を主成分とする焼結金属からなるので、より高い軸受強度を得ることができる。
【0023】
樹脂層を形成する樹脂組成物に含まれる繊維状充填材の平均繊維長が、0.02〜0.2mmであるので、樹脂層の摩擦摩耗特性、耐クリープ性に優れるとともに、薄肉成形性を阻害せず、樹脂層を焼結金属製基材の表面に0.1〜0.7mmの厚さで容易に射出成形により重ねて一体に設けることができる。
【0024】
繊維状充填材が、炭素繊維であるので、樹脂層の補強効果と耐摩耗性、低摩擦性が特に優れるようになる。また、炭素繊維の中でもPAN系炭素繊維を採用することで、樹脂層の弾性率が高くなり、樹脂層の変形、摩耗が小さくなる。さらに、摩擦面の真実接触面積が小さくなり、摩擦発熱も軽減する。
【0025】
樹脂層を形成する樹脂組成物が、該樹脂組成物全体に対して、繊維状充填材として炭素繊維を5〜30体積%、PTFE樹脂を1〜30体積%含むので、高PV条件においても、樹脂層の変形および摩耗、相手材表面への攻撃性が小さく、油などに対する耐性も高い。
【0026】
樹脂層を形成する樹脂組成物が、樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における溶融粘度50〜200Pa・sの樹脂組成物であるので、焼結金属製基材の表面に0.1〜0.7mmの薄肉インサート成形が円滑に行なえる。
【0027】
本発明の圧縮機用滑り軸受は、従来の圧縮機用滑り軸受と同じ軸受サイズでありながら、耐摩耗性、低摩擦性、寸法安定性などに優れる。このため、圧縮機の回転部材をラジアル方向に支持するラジアル滑り軸受に好適に使用できる。また、従来の圧縮機用滑り軸受のような切断部がなく、また、軸受外周面および摺動面を高精度に形成可能なため、支持軸とのはめあい隙間を小さくすることができ、良好なシール性を発揮できる。このため、圧縮機のハウジング内の内部空間を、シール部材を設けることなく圧力的に隔絶するように配設することも可能である。
【0028】
本発明の従来の圧縮機用滑り軸受と同じ軸受サイズでありながら、耐摩耗性、低摩擦性、寸法安定性などに優れる。このため、圧縮機の回転部材をスラスト方向に支持するスラスト滑り軸受としても好適に使用できる。
【0029】
本発明の圧縮機は、圧縮機構を駆動するための回転部材を回転可能に支持する滑り軸受を備えた圧縮機であって、この滑り軸受として本発明の圧縮機用滑り軸受を採用するので、省エネルギー性、長寿命性に優れる圧縮機となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の圧縮機用滑り軸受を用いた圧縮機の第1の実施形態として、
図1に車両空調装置を構成する片頭型ピストン式圧縮機の例を説明する。
【0032】
図1に示すように、圧縮機5は、そのハウジングを構成する、シリンダブロック6と、フロントハウジング7と、リヤハウジング9とを有する。リヤハウジング9は、弁形成体8を介してシリンダブロック6に接合固定されている。ここで、シリンダブロック6とフロントハウジング7とで囲まれる部分にクランク室10がある。ハウジングには、クランク室10を貫通する形で駆動軸11が回転自在に支持されている。駆動軸11は金属製のものなどが用いられる。駆動軸11の一端側(図中左側)が、動力伝達機構を介して車両エンジンに直結されている。駆動軸11には、クランク室10において鉄製のラグプレート12が一体回転可能に固定されている。駆動軸11およびラグプレート12によって回転部材が構成されている。
【0033】
駆動軸11の一端部は、フロントハウジング7に設けられた貫通孔7aに嵌入されたラジアル滑り軸受1aによって回転自在に支持されている。また、駆動軸11の他端部は、シリンダブロック6に設けられた貫通孔6aに嵌入されたラジアル滑り軸受1bによって回転自在に支持されている。このラジアル滑り軸受1aおよび1bが本発明の圧縮機用滑り軸受である。
【0034】
クランク室10には、カムプレートとしての斜板13が収容されている。斜板13は、ヒンジ機構14を介したラグプレート12との作動連結、および駆動軸11の支持によりラグプレート12および駆動軸11と同期回転可能であるとともに、駆動軸11の回転中心軸線方向へのスライド移動を伴いながら該駆動軸11に対して傾動可能に構成されている。また、シリンダブロック6には、複数のシリンダボア15が形成され、このシリンダボア15に片頭型のピストン16が往復動可能に収容されている。シリンダボア15の前後開口は、弁形成体8およびピストン16によって閉塞されており、このシリンダボア15内にピストン16の往復動に応じて体積変化する圧縮室が形成されている。各ピストン16は、シュー17を介して斜板13の外周部に係留されている。この構成により、駆動軸11の回転に伴う斜板13の回転運動が、シュー17を介してピストン16の往復直線運動に変換される。ピストン16、シュー17、斜板13、ヒンジ機構14およびラグプレート12によってクランク機構が構成され、該クランク機構、シリンダブロック6および駆動軸11によって圧縮機構が構成されている。
【0035】
ラグプレート12とフロントハウジング7との間にはスラスト転がり軸受18aが配設されている。スラスト転がり軸受18aは、回転部材(駆動軸11およびラグプレート12)をスラスト方向に支持するとともに、圧縮機構において発生する圧縮反力をラグプレート12を介して受ける側に配設されている。また、駆動軸11は、シリンダブロック6の貫通孔6a内に配設されたスラスト転がり軸受18bによってその後端部が支持されており、後方へのスラスト移動が規制されるようになっている。
【0036】
リヤハウジング9には、吸入室19および吐出室20が形成されている。吸入室19の冷媒ガスは、各ピストン16の移動により弁形成体8を介してシリンダボア15に導入される。シリンダボア15に導入された低圧な冷媒ガスは、ピストン16の移動により所定の圧力にまで圧縮され、弁形成体8を介して吐出室20に導入される。この吸入室19、吐出室20、シリンダボア15、弁形成体8によって冷媒経路が構成されている。
【0037】
以上の構成を有する圧縮機5は、車両エンジンから動力伝達機構を介して駆動軸11に動力が供給されると、駆動軸11とともに斜板13が回転する。斜板13の回転に伴って各ピストン16が斜板13の傾斜角度に対応したストロークで往復動され、各シリンダボア15において冷媒の吸入、圧縮および吐出が順次繰り返される。
【0038】
以下、
図2に基づいて、本発明の圧縮機用滑り軸受であるラジアル滑り軸受1(1aおよび1b)について詳細に説明する。
図2は、本発明の圧縮機用滑り軸受であるラジアル滑り軸受の斜視図および断面図である。ラジアル滑り軸受1は、円筒状の焼結金属製基材2と、その内周面に設けられた樹脂層3とからなる複層の滑り軸受である。樹脂層3は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなり、焼結金属製基材2の内周面に0.1〜0.7mmの厚さで射出成形により重ねて一体に設けられることで形成されている。樹脂層3の内周面が、駆動軸11(
図1参照)を支持する摺動面となる。
【0039】
ラジアル滑り軸受1の外径形状は、圧縮機内の貫通孔6a、7a(
図1参照)に沿った形状に設定されている。ラジアル滑り軸受1の外周面と貫通孔6a、7a(
図1参照)の内周面とは可能な限り隙間なく密着した状態となるように設定されている。また、内径形状は、駆動軸11(
図1参照)を支持した状態において、該駆動軸の周面とのクリアランスが回転支持のために必要な最小限のものとなるようにこれに沿った形状に設定されている。
【0040】
従来のラジアル滑り軸受は、内周面に切削または研削等の機械加工を施すことで、摺動面の内径寸法を仕上げたり、真円度を向上させたり、青銅焼結層を露出させたりしていたが、本発明の圧縮機用滑り軸受は射出成形で摺動面(樹脂層)を仕上げるため、切削または研削等の機械加工をする必要はない。また、従来の複層軸受のように複層形成・切断後における旋盤や研磨機による切断部の加工、曲げ加工なども不要である。これらの結果、製造が容易で低コストでありながら、摺動面が高寸法精度となる。
【0041】
ラジアル滑り軸受1は、軸受基材として焼結金属製基材2を用いているため、射出成形時に芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の溶融樹脂が、該焼結金属製基材2の表面の凹凸に深く入り込み、樹脂層3を基材2に強固に密着できる。射出成形では、溶融樹脂を高速で流し込むため、後述の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂として用いながらも、該樹脂がせん断力により多孔質の焼結層の凹凸(空孔)に入りやすい。そのため、焼結金属製基材2と樹脂層3との密着強度が確保できる。
【0042】
樹脂層3に、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物を使用することで、連続使用温度が250℃であり、耐熱性、耐油・耐薬品性、耐クリープ性、摩擦摩耗特性に優れたラジアル滑り軸受になる。また、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂は、靭性、高温時の機械物性が高く、耐疲労特性、耐衝撃性にも優れているため、使用時に摩擦力、衝撃、振動等が加わる際にも、樹脂層が焼結金属製基材から剥離し難い。従来のラジアル滑り軸受は、PTFE樹脂等を主成分とする樹脂組成物が摺動面であったため、異常時において多孔質焼結層から樹脂組成物が剥離することを防止することはできなかった。
【0043】
本発明で使用できる芳香族ポリエーテルケトン系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂などがある。本発明で使用できるPEEK樹脂の市販品としては、ビクトレックス社製:PEEK(90P、150P、380P、450P、90G、150Gなど)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製:キータスパイア(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセルデグザ社製:VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。また、PEK樹脂としては、ビクトレックス社製:VICTREX−HTなどが、PEKEKK樹脂としてはビクトレックス社製:VICTREX−STなどが、それぞれ挙げられる。
【0044】
樹脂層3の厚さは、0.1〜0.7mmに設定されている。なお、本発明における「樹脂層の厚さ」は、焼結金属製基材に入り込まない表面部分の厚さであり、ラジアル滑り軸受の場合は径方向の厚さであり、スラスト滑り軸受の場合は軸方向の厚さである。この厚さ範囲は、インサート成形面や物性面を考慮して設定されたものである。樹脂層の厚さが0.1mm未満では、インサート成形が困難である。また、長期使用時の耐久性、すなわち寿命が短くなるおそれがある。一方、樹脂層の厚さが0.7mmをこえると、ヒケが発生し寸法精度が低下するおそれがある。また、摩擦による熱が摩擦面から焼結金属製基材に逃げ難く、摩擦面温度が高くなる。さらに、荷重による変形量が大きくなるとともに、摩擦面における真実接触面積も大きくなり、摩擦力、摩擦発熱が高くなり、耐焼付き性などが低下するおそれがある。摩擦発熱の焼結金属製基材への放熱を考慮すると、樹脂層の厚さは0.2〜0.5mmが好ましい。
【0045】
また、樹脂層3の厚さは、焼結金属製基材2の厚さの1/8〜1/2であることが好ましい。樹脂層の厚さが焼結金属製基材の厚さの1/8未満では、基材に対して樹脂層が相対的に薄くなりすぎ、長期使用時の耐久性に劣るおそれがある。一方、樹脂層の厚さが焼結金属製基材の厚さの1/2をこえると、基材に対して樹脂層が相対的に厚くなりすぎ、摩擦による熱が摩擦面から焼結金属製基材に逃げ難く、摩擦面温度が高くなる。さらに、荷重による変形量が大きくなるとともに、摩擦面における真実接触面積も大きくなり、摩擦力、摩擦発熱が高くなり、耐焼付き性などが低下するおそれがある。
【0046】
焼結金属製基材2の材質としては、鉄系、銅鉄系、銅系、ステンレス系などが挙げられる。焼結金属製基材と樹脂層との密着性に優れることから、鉄が主成分(銅を含んでもよい)である焼結金属を採用することが好ましい。なお、銅を含む場合、銅は鉄よりも樹脂との密着性(接着性)に劣るため、銅の含有量は10重量%以下が好ましい。さらに好ましくは、銅の含有量は5重量%以下である。
【0047】
焼結金属製基材に油などの付着、含油がある場合、樹脂層の射出成形時において分解・ガス化する油残分が界面に介在するため、樹脂層と焼結金属製基材との密着性が低下してしまうおそれがある。そのため、樹脂層を形成する前の焼結金属製基材には、油を含浸しない焼結金属を使用することが好ましい。また、焼結金属の成形または再圧(サイジング)の工程内にて油を使用する場合は、溶剤洗浄などで油を除去した非含油焼結金属にすることが好ましい。
【0048】
鉄を主成分とする焼結金属製基材は、スチーム処理を施すことで、成形または再圧(サイジング)工程時に意図せず焼結表面に付着、または内部に浸透した油分、付着物などを除去する効果があるため、樹脂層との密着性のばらつきが小さく、安定する。また、焼結金属製基材に防錆性も付与することができる。スチーム処理の条件は特に限定するものではないが、500℃程度に加熱したスチームを吹きかける方法が一般的である。
【0049】
焼結金属製基材の理論密度比は、0.7〜0.9であることが好ましい。材質の理論密度比とは、材質の理論密度(気孔率0%の場合の密度)を1としたときの焼結金属製基材の密度の比である。理論密度比0.7未満では焼結金属製基材の強度が低くなり、インサート成形時の射出成形圧力により該基材が割れるおそれがある。一方、理論密度比0.9をこえると、凹凸が小さくなるため、表面積、アンカー効果が低下し、樹脂層との密着性が低くなる。さらに好ましくは、材質の理論密度比0.72〜0.84である。このように、焼結金属製基材の理論密度比を0.7〜0.9にすることで、焼結金属製基材が担う軸受強度を確保するための所要の緻密性を有するとともに、樹脂層を焼結金属製基材に強固に密着させるための表面の凹凸を確保することができる。また、潤滑油を焼結金属製基材に保持することも可能となる。さらに、焼結金属製基材の熱伝導性を確保できる。
【0050】
樹脂層を形成する樹脂組成物は、ベース樹脂として上記芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を用い、これにガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカなどの繊維状充填材を分散状態に配合することができる。これにより、樹脂層の機械的強度を一層向上させることができる。特に、本発明の圧縮機用滑り軸受では、樹脂層が0.1〜0.7mmの厚さという薄肉であるため、機械的強度の向上は望ましい。
【0051】
繊維状充填材の他に、PTFE樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤や、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルクなどの無機充填材を配合することも可能である。上記固体潤滑剤を配合することで、無潤滑、潤滑油が希薄な条件であっても低摩擦となり、耐焼き付き性を向上させることができる。また、上記無機充填材を配合することで、耐クリープ性を向上させることができる。
【0052】
繊維状充填材、無機系の固体潤滑剤(黒鉛、二硫化モリブデンなど)、および無機充填材は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の成形収縮率を小さくする効果がある。そのため、焼結金属製基材とのインサート成形時に、樹脂層の内部応力を抑える効果もある。
【0053】
繊維状充填材を配合した樹脂組成物からなる樹脂層を有する態様のラジアル滑り軸受を
図3に示す。
図3は、本発明の圧縮機用滑り軸受であるラジアル滑り軸受(樹脂層に繊維状充填材配合)の斜視図および断面図である。ラジアル滑り軸受1は、樹脂層3に繊維状充填材4を配合してある以外は、
図2のものと同様の構成である。
【0054】
樹脂層3を射出成形で形成するにあたって、樹脂組成物の溶融流動方向を調整することにより、繊維状充填材4(の長さ方向)を該滑り軸受1の摺動方向(図中矢印)に対して45度以上のできるだけ直角に近い交差角度で配向させることが好ましい。樹脂層の機械的強度を向上させるためには繊維状充填材を配合することが好ましいが、繊維状充填材の繊維の端部はエッジ状になっているため、繊維の端部によって相手材である駆動軸11(
図1参照)を物理的に摩耗損傷させ易く、摩擦係数も安定し難くなる。繊維状充填材(の長さ方向)を該滑り軸受の摺動方向に対して45〜90度に交差するように配向させることにより、繊維の両端のエッジが摺動方向に対して45〜90度に向く。これにより、繊維の両端のエッジによる駆動軸の摩耗損傷の軽減、摩擦係数の安定化を図れる。なお、繊維状充填材の配向は、90度により近い方が繊維のエッジによる摩耗損傷が少なく、摩擦係数も安定するので望ましい。80〜90度であれば特に好ましい。
【0055】
繊維状充填材の平均繊維長は、0.02〜0.2mmが好ましい。0.02mm未満では充分な補強効果が得られず、耐クリープ性、耐摩耗性が満足しないおそれがある。0.2mmをこえる場合は樹脂層の層厚に対する繊維長の比率が大きくなるため、薄肉成形性に劣る。特に、樹脂厚み0.2〜0.7mmにインサート成形する場合は、繊維長が0.2mmをこえると薄肉成形性を阻害する。より薄肉成形の安定性を高めるには、平均繊維長0.02〜0.1mmが望ましい。
【0056】
繊維状充填材の中でも、炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維は、樹脂層を成形する際に樹脂の溶融流動方向への配向性が強い。特に、直径が細く、比較的短い炭素繊維を選択し、その場合に、炭素繊維の両端のエッジが圧縮機用滑り軸受の摺動方向に沿っており、例えば配向方向が0〜45度未満であると、相手材である駆動軸を損傷する場合がある。そのため、細く、短い炭素繊維を採用した場合には、樹脂を射出成形する際に、溶融樹脂の流動方向を圧縮機用滑り軸受の摺動方向と直角または直角に近い角度とし、繊維の長さ方向を圧縮機用滑り軸受の摺動方向に対する45〜90度になるように配向させることが耐久性および軸受トルクを低く安定させるために極めて有利である。
【0057】
本発明で使用する炭素繊維としては、原材料から分類されるピッチ系またはPAN系のいずれのものであってもよいが、高弾性率を有するPAN系炭素繊維の方が好ましい。その焼成温度は特に限定するものではないが、2000℃またはそれ以上の高温で焼成されて黒鉛(グラファイト)化されたものよりも、1000〜1500℃程度で焼成された炭化品のものが、高PV下でも駆動軸を摩耗損傷しにくいので好ましい。
【0058】
炭素繊維の平均繊維径は20μm以下、好ましくは5〜15μmである。この範囲をこえる太い炭素繊維では、極圧が発生するため、耐荷重性の向上効果が乏しく、駆動軸がアルミニウム合金、焼入れなしの鋼材の場合、該駆動軸の摩耗損傷が大きくなるため好ましくない。また、炭素繊維は、チョップドファイバー、ミルドファイバーのいずれであってもよいが、安定した薄肉成形性を得るためには、繊維長が1mm未満のミルドファイバーの方が好ましい。
【0059】
本発明で使用できる炭素繊維の市販品としては、ピッチ系炭素繊維として、クレハ社製:クレカ M−101S、M−107S、M−101F、M−201S、M−207S、M−2007S、C−103S、C−106S、C−203Sなどが挙げられる。また、同様のPAN系炭素繊維として、東邦テナックス社製:ベスファイト HTA−CMF0160−0H、同HTA−CMF0040−0H、同HTA−C6、同HTA−C6−Sまたは東レ社製:トレカ MLD−30、同MLD−300、同T008、同T010などが挙げられる。
【0060】
樹脂層を形成する樹脂組成物は、ベース樹脂として上記芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を用い、これに上記炭素繊維と、固体潤滑剤であるPTFE樹脂とを必須成分として含むことが好ましい。
【0061】
PTFE樹脂としては、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。
【0062】
再生PTFEとは、熱処理(熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。再生PTFEの中でも、凝集せず、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の溶融温度おいて、全く繊維化せず、内部潤滑効果があり、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の流動性を安定して向上させることが可能なことから、γ線または電子線などを照射したPTFE樹脂を採用することがより好ましい。
【0063】
本発明で使用できるPTFE樹脂の市販品としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−450、KTL−350、KTL−8N、KTL−400H、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン(登録商標)7−J、TLP−10、旭硝子社製:フルオンG163、L150J、L169J、L170J、L172J、L173J、ダイキン工業社製:ポリフロンM−15、ルブロンL−5、ヘキスト社製:ホスタフロンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFE樹脂であってもよい。上記の中でγ線または電子線などを照射したPTFE樹脂としては、喜多村社製:KTL−610、KTL−450、KTL−350、KTL−8N、KTL−8F、旭硝子社製:フルオンL169J、L170J、L172J、L173Jなどが挙げられる。
【0064】
なお、この発明の効果を阻害しない程度に、樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。この添加剤としては、例えば、窒化ホウ素などの摩擦特性向上剤、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤、黒鉛、金属酸化物粉末などの熱伝導性向上剤が挙げられる。
【0065】
樹脂層を形成する樹脂組成物は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とし、炭素繊維を5〜30体積%、PTFE樹脂を1〜30体積%を必須成分として含むことが好ましい。この必須成分と他の添加剤を除く残部が芳香族ポリエーテルケトン系樹脂である。この配合割合とすることで、高PV条件においても、樹脂層の変形および摩耗、相手材である駆動軸表面への攻撃性が小さく、油などに対する耐性も高くなる。また、炭素繊維は、5〜20体積%がより好ましく、PTFE樹脂は、2〜25体積%がより好ましい。
【0066】
炭素繊維の配合割合が30体積%をこえると、溶融流動性が著しく低下し、薄肉成形が困難になるとともに、相手材である駆動軸がアルミニウム合金、焼入れなしの鋼材の場合、摩耗損傷するおそれがある。また、炭素繊維の配合割合が5体積%未満では、樹脂層を補強する効果が乏しく、充分な耐クリープ性、耐摩耗性が得られない場合がある。
【0067】
PTFE樹脂の配合割合が30体積%をこえると、耐摩耗性、耐クリープ性が所要の程度より低下するおそれがある。また、PTFE樹脂の配合割合が1体積%未満では組成物に所要の潤滑性の付与効果に乏しく、充分な摺動特性が得られない場合がある。
【0068】
以上の諸原材料を混合し、混練する手段は、特に限定するものではなく、粉末原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダー、レディゲミキサー、ウルトラヘンシェルミキサーなどにて乾式混合し、さらに二軸押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレット(顆粒)を得ることができる。また、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用い、焼結金属製基材に対して樹脂層をインサート成形により射出成形する。射出成形を採用することで、精密成形性および製造効率などに優れる。また、物性改善のためにアニール処理等の処理を採用してもよい。
【0069】
樹脂層を形成する樹脂組成物は、樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における溶融粘度が50〜200Pa・sであることが好ましい。溶融粘度がこの範囲であると、精密な成形と繊維状充填材を所定角度に配向をさせることが可能となり、焼結金属製基材の表面に0.1〜0.7mmの薄肉インサート成形が円滑に行なえる。溶融粘度が、上記所定範囲未満の粘度または上記所定範囲をこえる粘度であれば、精密な成形性を確実に得ることや、繊維状充填材を所定角度に配向させることが容易でなくなる。薄肉インサート成形を可能とし、インサート成形後の後加工を不要とすることで、製造が容易となり、製造コストの低減が図れる。
【0070】
樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における溶融粘度を50〜200Pa・sにするためには、該条件における溶融粘度が130Pa・s以下の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂を採用することが好ましい。このような芳香族ポリエーテルケトン系樹脂としては、ビクトレックス社製:PEEK(90P、90G)などが例示できる。
【0071】
使用中の摩擦力に対して、充分な密着強さを得るためには、焼結金属製基材と樹脂層とのせん断密着強さは、2MPa以上(面圧10MPa、摩擦係数0.1における安全率が2倍以上)であることが好ましい。更に安全率を高めるためには、3MPa以上が好ましい。また、焼結金属製基材と樹脂層のせん断密着強さを更に高めるために、樹脂層を形成する焼結金属面に、凹凸、溝などの物理的な抜け止め、周り止めを施してもよい。
【0072】
図1に示す第1の実施形態では、駆動軸11は、上記した耐熱性、低摩擦性、耐摩耗性、耐荷重性、耐クリープ性などに優れたラジアル軸受1aおよび1bの樹脂層の摺動面(内周面)に摺接して支持されている。このため、摺接面での摩耗や、樹脂層の変形を防止でき、低回転トルクを安定的に得ることができる。
【0073】
また、貫通孔7aのラジアル滑り軸受1aよりも前方(図中左側)の部分には、リップシール7bが設けられており、ハウジング内の冷媒ガスの貫通孔7aを介した外部への漏洩を防止している。ここで、ラジアル滑り軸受1aは、寸法精度に優れ、駆動軸11の周面とのクリアランスが回転支持のために必要な最小限のものとなるようにこれに沿った形状に設定され、かつ、ラジアル滑り軸受1aの外周面と貫通孔7aの内周面とは可能な限り隙間なく密着した状態となるように設定されている。このため、貫通孔7a内におけるラジアル滑り軸受1aとリップシール7bとの間の空間の圧力を、クランク室10の圧力よりも低く維持することが容易になる。この構成により、ハウジング内の冷媒ガスの貫通孔7aを介した外部への漏洩を防止するためのリップシール7bの負担が軽くなる。
【0074】
さらに、この第1の実施形態では、ラジアル滑り軸受1aおよび1bは、ハウジング内の冷媒経路には含まれないクランク室10に配設されている。これらラジアル滑り軸受1aおよび1bによれば、比較的冷媒ガスの循環量が少なく該冷媒ガスに混在するミスト状の潤滑オイルによる潤滑効果の低いクランク室10においても、樹脂層の摺動面によってラジアル滑り軸受1aおよび1bと駆動軸11との摺接部分の摩耗を抑止できる。この結果、圧縮機の寿命を延長できる。よって、この実施形態の圧縮機にラジアル滑り軸受1aおよび1bを採用することは特に有用である。
【0075】
本発明の圧縮機用滑り軸受を用いた圧縮機の第2の実施形態を
図4に基づいて説明する。この第2の実施形態は、
図1に示す第1の実施形態における圧縮機の構成を、スラスト転がり軸受18aに代えて、本発明の圧縮機用滑り軸受であるスラスト滑り軸受21を用いた構成に変更したものである。その他の構成は、第1の実施形態と同一である。
【0076】
図4に示すように、フロントハウジング7とラグプレート12との間には、スラスト滑り軸受21が配設されている。スラスト滑り軸受21はラグプレート12に固着され、フロントハウジング7に固定された鉄製のリング状のプレート24と摺接している。スラスト滑り軸受とプレート24との摺接により、回転部材の前方(図中左側)へのスラスト移動が規制される。
【0077】
図5に基づいてスラスト滑り軸受21を説明する。
図5は、本発明の圧縮機用滑り軸受であるスラスト滑り軸受の斜視図および断面図である。スラスト滑り軸受21は、リング状の焼結金属製基材22と、該基材のプレート24(
図4参照)との対向面となる面に設けられた樹脂層23とからなる複層の滑り軸受である。樹脂層23は、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなり、焼結金属製基材22の該表面に0.1〜0.7mmの厚さで射出成形により重ねて一体に設けられることで形成されている。樹脂層23の表面(基材反対側)が、プレート24(
図4参照)と摺接する摺動面となる。焼結金属製基材、樹脂組成物、樹脂層の形成方法などは、第1の実施形態の場合と同様である。
【0078】
この第2の実施形態では、スラスト方向であって圧縮機構において発生する圧縮反力をラグプレート12を介して受ける側において回転部材を支持する軸受として、スラスト滑り軸受21を採用している。この形態では、転がり軸受を採用した場合に比較してコストダウンすることが可能になる。また、このスラスト滑り軸受は、第1の実施形態のラジアル滑り軸受と同様に、冷媒経路には含まれない潤滑効果の低いクランク室10に配設されながら、樹脂層の摺動面によってスラスト滑り軸受21とプレート24との摺接部分の摩耗を抑止できる。この結果、圧縮機の寿命を延長できる。よって、この実施形態の圧縮機にスラスト滑り軸受21を採用することは特に有用である。
【0079】
また、この実施形態において、さらにスラスト転がり軸受18bに代えて、本発明の圧縮機用滑り軸受であるスラスト滑り軸受を採用してもよい。
【0080】
本発明の圧縮機用滑り軸受を用いた圧縮機の第3の実施形態として、
図6に車両空調装置を構成する両頭型ピストン式圧縮機の例を説明する。この態様の圧縮機5’は、一対のシリンダブロック33、フロントハウジング34、およびリヤハウジング35によりハウジングが構成されている。また、駆動軸32と、クランク室37内において該駆動軸32に固定された斜板36とにより、回転部材が構成されている。複数のシリンダボア33aは、駆動軸32と平行に延びるように、各シリンダブロック33の両端部間に同一円周上で所定間隔おきに形成されている。両頭型のピストン39は、各シリンダボア33a内に往復動可能に嵌挿支持され、それらの両端面と対応する両弁形成体40との間において圧縮室が形成されている。また、シュー38および斜板36によってクランク機構が構成され、該クランク機構、シリンダブロック33(シリンダボア33a)、ピストン39、および駆動軸32によって圧縮機構が構成されている。
【0081】
駆動軸32は、シリンダブロック33およびフロントハウジング34の中央に、一対のラジアル滑り軸受31aおよび31bを介して回転可能に支持されており、動力伝達機構を介して車両エンジン等の外部駆動源に作動連結されている。ラジアル滑り軸受31aおよび31bは、シリンダブロック33の内部に形成されたクランク室37に連通するようにシリンダブロック33の中央に形成された収容孔33bに挿入されている。このラジアル滑り軸受31aおよび31bが本発明の圧縮機用滑り軸受である。具体的な構成は、径方向および軸方向の寸法等を除いて第1の実施形態の場合と同様であり、同様の製法によって製造される。
【0082】
また、一対のスラスト転がり軸受44は、斜板36の支持円筒部の前後方向の両端面とこれらに対向する各シリンダブロック33の中央部との間に設けられ、該スラスト転がり軸受44を介して斜板36が両シリンダブロック33間に挟まれた状態で保持されている。
【0083】
駆動軸の挿通孔34aと、シリンダブロック33に形成された収容孔33bとは、弁形成体40(図中左側)に形成された貫通孔を介して連通した状態となっている。挿通孔34aには、リップシール34bが設けられており、ハウジング内の冷媒ガスの挿通孔34aを介した外部への漏洩を防止している。ここで、ラジアル滑り軸受31aは、寸法精度に優れ、駆動軸32の周面とのクリアランスが回転支持のために必要な最小限のものとなるようにこれに沿った形状に設定され、かつ、ラジアル滑り軸受31aの外周面と収容孔33bの内周面とは可能な限り隙間なく密着した状態となるように設定されている。このため、挿通孔34a内におけるリップシール34bとラジアル滑り軸受31aとの間の空間の圧力を、クランク室37の圧力よりも低く維持することが容易になる。この構成により、ハウジング内の冷媒ガスの挿通孔34aを介した外部への漏洩を防止するためのリップシール34bの負担が軽くなる。
【0084】
この実施形態では、クランク室37、ボルト挿通孔43、吸入室41、圧縮室、および吐出室42などによって、ハウジング内の冷媒経路が構成される。このハウジング内の冷媒経路内の各部位は、該経路内を流通する冷媒ガスに混在するミスト状の潤滑オイルなどにより潤滑される。このため、冷媒経路を構成するクランク室37(詳細には収容孔33b)に配設されたラジアル滑り軸受31aおよび31bと駆動軸32との摺接部分には、該滑り軸受の樹脂層の固体潤滑作用に加えて、上記潤滑オイルによる潤滑作用が大きく働く。これにより、駆動軸32と滑り軸受31aおよび31bとの摺接部分は、良好に潤滑され、圧縮機の寿命を延長できる。
【0085】
また、この実施形態において、さらにスラスト転がり軸受44に代えて、本発明の圧縮機用滑り軸受であるスラスト滑り軸受を採用してもよい。
【0086】
本発明の圧縮機用滑り軸受を用いた圧縮機の第4の実施形態として、
図7に車両空調装置を構成するスクロール式圧縮機の例を説明する。この態様の圧縮機5’’は、固定スクロール51と、センターハウジング52と、モータハウジング53によってハウジングが構成されている。センターハウジング52およびモータハウジング53には、回転軸である鉄製のシャフト54がラジアル滑り軸受55および56を介して回転可能に支持されている。また、シャフト54には偏心軸54aが一体に形成され、これにバランスウエイト57が支持されている。シャフト54およびバランスウエイト57によって回転部材が構成されている。
【0087】
偏心軸54aは、可動スクロール58が固定スクロール51と対向するように、ラジアル滑り軸受59およびブッシュ60を介して相対回転可能に支持されている。ラジアル滑り軸受59は、可動基板58aに突設されたボス部58c内に嵌合された略円筒状のブッシュ60内に嵌合されて収容されている。ラジアル滑り軸受59の内周面が、偏心軸54aの外周面との摺接面となる。可動スクロール58の可動基板58aには可動渦巻壁58bが形成され、固定スクロール51の固定基板51aには可動渦巻壁58bと噛合う固定渦巻壁51bが形成されている。固定基板51a、固定渦巻壁51b、可動基板58a、および可動渦巻壁58bにより区画される領域が、可動スクロール58の回転に応じて容積減少する密閉室61となる。固定スクロール51、可動スクロール58、センターハウジング52、ブッシュ60、ラジアル滑り軸受55、59、シャフト54、バランスウエイト57などによって、スクロール式圧縮機構が構成されている。
【0088】
モータハウジング53の内周面には固定子であるステータ62が固定されており、シャフト54の外周面にはステータ62と相対する位置に回転子であるロータ63が固定されている。ステータ62およびロータ63は電動式モータを構成し、ステータ62への通電によりロータ63およびシャフト54が一体回転する。また、センターハウジング52には、隔壁部52aが設けられており、ラジアル滑り軸受55は、該隔壁部52aの中央に形成された貫通孔52bに嵌入されている。ラジアル滑り軸受55の内周面が、シャフト54の外周面との摺接面となる。
【0089】
シャフト54には、その内部に吐出室64とモータ室65とを連通する流体通路54bと、モータ室65とモータハウジング53の外部とを連通する流体通路54cとが形成されている。可動スクロール58の公転に伴ない、固定スクロール51の入口から密閉室61に流入した冷媒ガスは、吐出ポート58d、吐出室64、流体通路54b、モータ室65、流体通路54cを通って、モータハウジング53の壁部に設けられた出口53aを介して外部に流出する。このため、吐出室64、流体通路54b、モータ室65、および流体通路54cは、吐出圧にほぼ等しい圧力値を有した高圧領域となる。一方、リング状のシール部材66を挟んで外側は吸入圧に近い圧力値を有した低圧室67となる。
【0090】
ラジアル滑り軸受55、56、および59が、本発明の圧縮機用滑り軸受である。具体的な構成は、径方向および軸方向の寸法等を除いて第1の実施形態の場合と同様であり、同様の製法によって製造される。
【0091】
ラジアル滑り軸受55および59は、それぞれ貫通孔52b、ブッシュ60に挿入されるとともにシャフト54(軸受59は具体的には偏心軸54a)が挿入された状態では、シャフト54の周面とのクリアランスが回転支持のために必要な最小限のものとなるようにこれに沿った形状に設定されている。なお、ラジアル滑り軸受55の外周面と貫通孔52bの内周面とは、ラジアル滑り軸受59の外周面とブッシュ60の内周面とは、それぞれ、可能な限り隙間なく密着した状態となるように設定されている。
【0092】
ボス部58cの外周側と隔壁部52aの内周側とで囲まれた空間68とモータ室65との、貫通孔52bとシャフト54との隙間を介した連通は、ラジアル滑り軸受55によってほぼ遮断されている。また、吐出室64と空間68との、ブッシュ60と偏心軸54aとの隙間を介した連通は、ラジアル滑り軸受59によってほぼ遮断されている。すなわち、ラジアル滑り軸受55および59は、ハウジングの内部空間を圧力的に隔絶するように設けられている。
【0093】
空間68は、調整弁による調圧やラジアル滑り軸受55および59と、シャフト54との僅かな隙間を介した高圧領域(モータ室65や吐出室64)からの冷媒ガスの漏洩により、該高圧領域よりも低圧であるとともに低圧室67よりも高圧な中間圧状態に維持される。可動スクロール58の背面に高圧領域よりも圧力が低い領域(空間68)が設けられることにより、可動スクロール58の背面に加わる圧力によって可動スクロール58に生じる固定スクロール51側への荷重は軽減される。そのため、可動スクロール58のスムーズな公転が得られるとともに、可動スクロール58の機械的損失が低減される。
【0094】
ラジアル滑り軸受55および59は、上述のとおり耐摩耗性などに優れるため、シャフト54との摺接部分の摩耗が低減でき、この摩耗により両者間の隙間が広がることによる圧力隔絶効果の低下を抑止できる。このように、ラジアル滑り軸受55および59は、シャフト54との間で良好なシール性を発揮でき、さらにその効果を高く維持することが容易である。このため、特段にシール部材を設けることなく、吐出室64と空間68とを、モータ室65と空間68とを効果的に圧力的に隔絶することが可能になる。
【0095】
以上、第1〜第4の実施形態について説明したが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
[実施例1〜20、比較例1〜4]
実施例、比較例に用いた焼結金属製基材の諸元を表1に示す。実施例、比較例には基材A〜基材I、基材Kの円筒状基材(φ30×φ35×20(mm))を用意した。
【0097】
【表1】
【0098】
また、実施例、比較例に用いた樹脂層の原材料を以下に示す。
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂の溶融粘度は、東洋精機社製キャピラグラフ、φ1×10mm細管、樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における測定値である。
(1)芳香族ポリエーテルケトン系樹脂〔PEK−1〕:ビクトレックス社製PEEK 90P(溶融粘度105Pa・s)
(2)芳香族ポリエーテルケトン系樹脂〔PEK−2〕:ビクトレックス社製PEEK 150P(溶融粘度145Pa・s)
(3)PAN系炭素繊維〔CF−1〕:東レ社製トレカMLD−30(平均繊維長0.03mm、平均繊維径7μm)
(4)PAN系炭素繊維〔CF−2〕:東邦テナックス社製ベスファイトHTA−CMF0160−0H(繊維長0.16mm、繊維径7μm)
(5)ピッチ系炭素繊維〔CF−3〕:クレハ社製クレカM−101S(平均繊維長0.1/2mm、平均繊維径14.5μm)
(6)ピッチ系炭素繊維〔CF−4〕:クレハ社製クレカM−107S(平均繊維長0.7mm、平均繊維径14.5μm)
(7)炭酸カルシウム粉末〔CaCO
3〕:日窒工業社製NA600(平均粒径3μm)
(8)黒鉛〔GRP〕:ティムカルジャパン社製TIMREX KS6(平均粒径6μm)
(9)四フッ化エチレン樹脂〔PTFE〕:喜多村社製KTL−610(再生PTFE)
【0099】
樹脂層の原材料を表2に示す配合割合(体積%)でヘンシェル乾式混合機を用いてドライブレンドし、二軸押出し機を用いて溶融混練し射出成形用ペレットを作製した。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例、比較例には、このペレットを用い、円筒状基材の内径に、樹脂層をインサート成形(樹脂温度380℃〜400℃、金型温度180℃)で形成し、
図3のようなラジアル荷重を支持する円筒状の滑り軸受(φ30×φ35×20(mm))を製作した。なお、円筒状基材の焼結寸法はφ30×φ35×20(mm)であるが、これに樹脂層を所定厚さに形成するため、円筒状基材の内径面は旋削してインサート成形を行なった。インサート成形する際には、軸受端面に9点のピンゲートを設け、樹脂層の溶融流動方向が滑り軸受の運動方向と直角となるようにした。
【0102】
実施例1〜9、比較例1は、基材A〜基材I、基材K(表1)からなる円筒状基材の内径(φ31mm)に、樹脂組成a(表2)のペレットを用いて樹脂層の厚さが0.5mmの円筒状滑り軸受をインサート成形により製作した。実施例10〜20、比較例2は、基材E(表1)からなる円筒状基材の内径に、樹脂組成a〜樹脂組成h(表2)のペレットを用いて樹脂層の厚さが0.2〜1.0mmの円筒状滑り軸受(φ30×φ35×20(mm))をインサート成形により製作した。
【0103】
比較例3は、樹脂組成a(表2)を用いてφ30×φ35×20(mm)の形状に射出成形した樹脂単体の滑り軸受である。比較例4は、裏金(SPCC)付多孔質焼結層(Cu+Sn)にPTFE樹脂組成物(炭素繊維10体積%入り)を含浸した3層型の滑り軸受(φ30×φ35×20mm,樹脂層0.05mm)である。
【0104】
(1)せん断密着強さ試験
実施例1〜9、比較例1の滑り軸受を用いて、せん断密着強さ試験を行なった。該せん断密着強さ試験は、円筒状基材を固定し、樹脂層に軸方向のせん断力を加え、焼結金属製基材から樹脂層が剥離する荷重を測定し、この荷重に、樹脂層と焼結金属製基材の見かけの接合面積を割った値を、せん断密着強さとし、表3に示した。また、滑り軸受を30個インサート成形し、成形圧による円筒状基材の割れの有無を確認し表3に併記した。
【0105】
【表3】
【0106】
表3のとおり、実施例1〜9はインサート成形時に焼結金属製基材の割れがなく、1.5MPa以上のせん断密着強さがあった。特に焼結金属製基材の密度が、材質の理論密度比0.7〜0.9である基材A〜Hを用いた実施例1〜8は、せん断密着強さが2MPa以上であった。一方、鋼材の機械加工品では、せん断密着強さが非常に低い値であった(比較例1)。
【0107】
(2)耐焼付き性試験
実施例10〜20、比較例2〜4の滑り軸受を用いて、油中ラジアル型試験機により耐焼付き性試験を実施した。表4の油供給条件で30分慣らし運転後、油供給を停止・油排出し焼付くまでの時間を測定した。焼付きは、滑り軸受の外径部温度が20℃上昇またはトルクが2倍に上昇するまでの時間とし、表5および表6に示した。
【0108】
【表4】
【0109】
(3)摩耗試験
耐焼付き性試験と同じ円筒状滑り軸受について、油中ラジアル型試験機を用い、表4の油供給条件で30時間運転した後の摩耗量を測定した。
【0110】
(4)溶融粘度
東洋精機社製キャピラグラフ、φ1×10(mm)細管、樹脂温度380℃、せん断速度1000s
−1における溶融粘度を測定し、表5および表6に示した。
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
実施例10〜20は焼付き時間が30分以上、摩耗量が10μm以下で、耐焼付き性、耐摩耗性に優れていた。
【0114】
樹脂層の厚みが0.7mmを超える比較例2は、焼付き時間が1分未満で、摩耗量も非常に大きかった。比較例3は、30分以内で異常摩耗したため、耐焼付き性試験は実施できなかった。比較例4の滑り軸受は、焼付き時間が1分未満ですぐに焼付き、摩耗量も大きかった。