【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0047】
[第1の実施例]
(実施例1−1〜1−8)
第1の実施例において作製した磁気記録媒体の層構成を
図1に示す。
この
図1に示す磁気記録媒体を作製する際は、先ず、2.5インチのガラス基板101の上に、層厚35nmのNi−50at%Taからなる第1の下地層102を形成した後、220℃の基板加熱を行い、層厚20nmのRu−50at%Alからなる第2の下地層103と、層厚3nmのTiNからなる第3の下地層104とを順に形成した。
【0048】
次に、600℃の基板加熱を行った後、層厚12nmの(Fe45at%Pt−10at%Ag)−15mol%SiO
2からなる第1の磁性層105と、層厚3nmのCoZrBからなる第2の磁性層106を形成した。
【0049】
ここで、第2の磁性層106については、Zrが6〜16at%、Bが6〜16at%、となる範囲(本発明の数値範囲)で、それぞれCoZrBの組成比を変えて形成を行った。
【0050】
次に、第2の磁性層106の上に、層厚3nmのDLCからなる保護層107を形成することによって、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体を作製した。
【0051】
(比較例1−1〜1−6)
比較例1−1〜1−5では、上記第2の磁性層106について、下記表1に示すように、上記本発明の数値範囲外となるように、それぞれCoZrBの組成比を変えて形成を行った。また、比較例1−6では、上記第2の磁性層106の形成を行わなかった。それ以外は、実施例1−1〜1−8と同様の磁気記録媒体を作製した。
【0052】
そして、これら実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体について、保磁力Hcと、規格化保磁力分散ΔHc/Hcの測定を行った。その測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
なお、保磁力Hcについては、PPMSにより7Tの磁界を印加して室温にて測定を行った。また、ΔHc/Hcについては、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法を用いて測定を行った。
【0055】
具体的には、メジャーループ及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から反転磁界分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcの算出を行った。また、ΔHc/Hcは、反転磁界分布の半値幅に相当するパラメータであり、この値が低いほど、SFDが狭くなり、良好な媒体SNRが得られる。
【0056】
表1に示すように、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体では、何れもHcが30kOe以上の高い値を示した。この測定結果から、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体では、第1の磁性層105を構成するL1
0−FePt合金が良好な規則度を有していることがわかる。
【0057】
また、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体では、第2の磁性層106を構成するCoZrBのZr及びBの合計が増加するのに伴って、ΔHc/Hcが増加する傾向にあるものの、何れもΔHc/Hcが0.3以下と低い値を示した。
【0058】
一方、比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体では、何れもHcが30kOe以上の高い値を示したものの、比較例1−4,1−5の磁気記録媒体では、ΔHc/Hcが0.35以上となり、実施例1−1〜1−6の磁気記録媒体に比べて高い値を示した。特に、比較例1−6の磁気記録媒体では、ΔHc/Hcが0.55と著しく高かった。このことは、第1の磁性層105の上に、第2の磁性層106を形成することによって保磁力分散が大幅に低減されることを示している。
【0059】
次に、実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体について、高分解能透過電子顕微鏡を用いて断面構造の観察を行った。その結果、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体では、第2の磁性層106中に明瞭な格子縞が観察されなかった。このことから、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体では、第2の磁性層106を構成するCoZrB合金が何れも非晶質構造を有していると考えられる。
【0060】
一方、比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体のうち、比較例1−1〜1−3の磁気記録媒体において、第2の磁性層106中に部分的に格子縞が観察された。これは、第2の磁性層106中に結晶質構造の領域と非晶質構造の領域が混在しているためと考えられる。
【0061】
次に、実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体の表面にパーフルオルポリエーテル系の潤滑剤を塗布した後、
図2に示す磁気記録再生装置に組み込んだ。
【0062】
この磁気記録再生装置は、
図2に示すように、磁気記録媒体301と、磁気記録媒体301を回転させるための媒体駆動部302と、磁気記録媒体301に対して記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド303と、磁気ヘッド303を磁気記録媒体301に対して相対移動させるためのヘッド駆動部304と、磁気ヘッド303への信号入力と磁気ヘッド303からの出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系305とから概略構成される。
【0063】
また、上記磁気記録再生装置に組み込んだ磁気ヘッド303の構造を
図3に模式的に示す。この磁気ヘッド303は、主磁極401と、補助磁極402と、磁界を発生させるためのコイル403と、レーザーダイオード(LD)404と、LDから発生したレーザー光Lを近接場発生素子405まで伝達するための導波路406とを備える記録ヘッド407と、一対のシールド408で挟み込まれたTMR素子等の再生素子409とを備える再生ヘッド410とから概略構成されている。
【0064】
そして、この磁気記録再生装置では、磁気ヘッド303の近接場発生素子405から発生した近接場光を磁気記録媒体301に照射し、その表面を局所的に加熱して上記第1の磁性層105の保磁力を一時的にヘッド磁界以下まで低下させて書き込みを行う。
【0065】
そして、上記実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置において、線記録密度1400kFCIの条件で記録動作を行い、信号対雑音比(SNR)とオーバーライト(OW)特性の評価を行った。その評価結果を表2に示す。なお、記録時のLD404への投入パワーは、トラックプロファイルの半値幅と定義した記録トラック幅が70nmとなるように調整した。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示すように、実施例1−1〜1−8の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、何れも12dB以上の高いSNRと、25dB以上の良好なOW特性を示していることがわかる。特に、実施例1−2〜1−6の磁気記録再生装置では、SNRが13dB以上の高い値を示した。これは、保磁力分散が低減されたためと考えられる。
【0068】
一方、比較例1−1〜1−6の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、何れもSNRが10dB以下の低い値を示しており、OW特性も23dB以下であった。このうち、比較例1−1〜1−3の磁気記録媒体では、保磁力分散が0.3以下と低かったものの、SNRが大幅に低かったのは、上述した第2の磁性層106中に結晶質領域と非晶質領域が混在していたためと考えられる。
【0069】
以上のことから、CoZrB非晶質合金からなり、このCoZrB非晶質合金中に含まれるZrが6〜16原子%、Bが6〜16原子%となる第2の磁性層106を用いた本発明の磁気記録媒体では、SNRを大幅に改善できることがわかった。
【0070】
なお、実施例1−2〜1−6の磁気記録媒体では、特にSNRが13dB以上の高い値を示した。これより、第2の磁性層(CoZrB)106中に含まれるZr及びBの合計を16〜28at%の範囲とすることにより、特にSNRが高い磁気記録媒体が得られることがわかった。
【0071】
[第2の実施例]
(実施例2−1〜2−5)
第2の実施例では、上記
図1に示す第1の磁性層105を下部磁性層と上部磁性層との2層構造とした以外は、上記実施例1−3と同様の磁気記録媒体を作製した。また、下部磁性層については、層厚5nmの(Fe−50at%Pt)−45at%Cを形成した。一方、上部磁性層については、層厚5nmの(Fe−50at%Pt)−15mol%SiO
2(実施例2−1)、(Fe−50at%Pt)−12mol%SiO
2(実施例2−2)、(Fe−50at%Pt)−12mol%B
2O
3(実施例2−3)、(Fe−50at%Pt)−10mol%C−12mol%SiO
2(実施例2−4)、(Fe−50at%Pt)−20mol%C−10mol%BN(実施例2−5)をそれぞれ形成した。
【0072】
そして、これら実施例2−1〜2−5の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置において、上記第1の実施例と同様の条件で、SNRとOW特性の評価を行った。その評価結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示すように、実施例2−1〜2−5の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、何れも実施例1−3の磁気記録再生装置よりも高いSNRと、32dB以上の良好なOW特性を示していることがわかる。特に、実施例2−4の磁気記録再生装置が最も高いOW特性を示した。
【0075】
また、実施例2−1〜2−5の磁気記録媒体について、上記第1の実施例と同様の条件で、ΔHc/Hcの測定を行ったところ、何れも0.24以下と低い値を示した。このことから、実施例2−1〜2−5の磁気記録再生装置が実施例1−3の磁気記録再生装置よりも高いSNRを示したのは、ΔHc/Hcが更に低減された結果と考えられる。
【0076】
以上のことから、上記第1の磁性層105を2層構造とすることによって、SNRとOW特性を更に改善できることがわかった。
【0077】
[第3の実施例]
(実施例3−1〜3−5)
第3の実施例では、上記
図1に示す第2の磁性層106として、層厚10nmのCr−10at%Mn(実施例3−1)、C−20at%Ru(実施例3−2)、Cr−40atMo、Cr−15at%Ti(実施例3−3)、Cr−50at%V(実施例3−4)をそれぞれ形成した以外は、上記実施例1−4と同様の磁気記録媒体を作製した。
【0078】
そして、これら実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置において、上記第1の実施例と同様の条件で、SNRとOW特性の評価を行った。その評価結果を表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4に示すように、実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、何れも実施例1−4の磁気記録再生装置よりも0.5〜1.5dBほど高いSNRと、26dB以上の良好なOW特性を示していることがわかる。
【0081】
また、実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体について、X線回折による測定を行ったところ、全ての磁気記録媒体の第2の下地層103から、BCC(200)ピークのみが観察された。また、第1の磁性層105からは、L1
0−FePt(001)ピークと、L1
0−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークのみが観察された。この測定結果から、実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体では、第1の磁性層105を構成するL1
0−FePt合金が良好な規則度を有しながら、(001)配向をとっていることが考えられる。
【0082】
また、第3の下地層104は、3nmと薄いため、明瞭なピークが観察されなかったものの、第1の磁性層105が良好な(001)配向をとっていることから、この第3の下地層104は、第2の下地層103の上にエピタキシャル成長することによって、(100)配向をとっていると考えられる。
【0083】
また、L1
0−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピーク強度(I
002+I
200)に対するL1
0−FePt(001)ピーク強度I
001の比率I
001/(I
002+I
200)は、何れも2.4以上の高い値を示した。一方、実施例媒体1−4の磁気記録媒体については、上記ピーク強度比が2.1であった。このことから、実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体では、上記実施例1−4の磁気記録媒体よりも、第1の磁性層105を構成するL1
0−FePt合金が良好な規則度を有していることがわかる。
【0084】
また、実施例3−1〜3−5の磁気記録媒体が上記実施例1−4の磁気記録媒体よりも高いSNRを示したのは、上記第2の下地層103にBCC構造を有するCr合金を用いることによって、L1
0−FePt合金の規則度が改善したためと考えられる。
【0085】
[第4の実施例]
(実施例4−1〜4−8)
第4の実施例で作製した磁気記録媒体の層構成を
図4に示す。
この
図4に示す磁気記録媒体を作製する際は、先ず、2.5インチガラス基板201の上に、層厚5nmのCr−50at%Tiからなる接着層202を形成した後、層厚50nmのAg−7at%Pdからなるヒートシンク層203を形成した。さらに、層厚5nmNi−38at%Taからなる第1の下地層204を形成し、280℃の基板加熱を行った後、層厚20nmのCr−10at%Tiからなる第2の下地層205と、層厚2nmのTiCからなる第3の下地層206とを順に形成した。
【0086】
次に、640℃の基板加熱を行った後、層厚6nmの(Fe45at%Pt−10at%Ag)−35mol%Cからなる下部磁性層207aと、層厚4nmの(Fe45at%Pt−10at%Ag)−10mol%SiO
2−10mol%BNからなる上部磁性層207bで構成される2層構造の第1の磁性層207と、層厚4nmの第2の磁性層208を形成した。
【0087】
ここで、第2の磁性層208については、Zrが6〜16at%、Taが6〜16at%となる範囲(本発明の数値範囲)で、それぞれCoZrTaの組成比を変えて形成を行った。
【0088】
次に、第2の磁性層208の上に、層厚3nmのDLCからなる保護層209を形成することによって、実施例4−1〜4−8の磁気記録媒体を作製した。
【0089】
(比較例4−1〜4−6)
比較例4−1〜4−6では、上記第2の磁性層208について、下記表4に示すように、上記本発明の数値範囲外となるように、それぞれCoTaBの組成比を変えて形成を行った。それ以外は、実施例4−1〜4−8と同様の磁気記録媒体を作製した。
【0090】
そして、これら実施例4−1〜4−8及び比較例4−1〜4−5の磁気記録媒体を上記
図2に示す磁気記録再生装置に組み込んだ。また、上記
図2示す磁気記録再生装置は、上記
図3に示す構造の磁気ヘッド303を用いている。
【0091】
そして、上記実施例4−1〜4−8及び比較例4−1〜4−5の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置において、線記録密度1600kFCI、トラック密度500kFCI(面記録密度800Gbit/inch
2)の条件で記録動作を行い、そのエラーレート(BER)の測定を行った。その測定結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5に示すように、実施例4−1〜4−8の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、1×10
−5以下の低いエラーレートを示した。一方、比較例4−1〜4−6の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、エラーレートが1×10
−3台であった。
【0094】
また、第2の磁性層(CoZrTa)208中に含まれるZr及びTaの合計が16〜28at%の範囲となる実施例4−2〜4−6の磁気記録媒体では、特にエラーレートが1×10
−7と低い値を示した。
【0095】
したがって、この測定結果から、本発明の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記録再生装置では、低いエラーレートが得られることがわかった。