(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0018】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0019】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0020】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0021】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0022】
(実施の形態1)
以下、本実施の形態1では紙面内にx軸とz軸をとる座標系に統一して説明を行なう。光の偏光方向の呼称はTE偏光光とTM偏光光に統一する。このとき、TE偏光光とは、y方向に電場の振動成分を持つ光であり、TM偏光光とは、x方向に電場の振動成分を持つ光である。電磁波を記述するマクスウェル方程式の数値的解法としては、FDTD(FiniTE Differential Time Domain)法を用いる。
【0023】
金属や半導体材料の屈折率としては、特に断わらない限り、Palikのハンドブック(Palik E.D. (ed.) (1991) Handbook of Optical Constants of Solids II. Academic Press、 New York.)を参照するものとする。
【0024】
特に、本実施の形態1における技術的思想は、マクスウェル方程式に記述される電磁波に幅広く適用することができるが、特に、本実施の形態1では、電磁波の一種である光(可視光)を例に挙げて説明する。
【0025】
<本発明者が検討した技術>
まず、本実施の形態1における技術的思想を説明する前に、本願発明を想到するに至った前提技術(本発明者が検討した技術)について説明し、その後、この前提技術の問題点を説明する。そして、この前提技術の問題点を解決する工夫を施した本実施の形態1における技術的思想について説明する。
【0026】
図1は、金属細線構造からなるワイヤグリッド構造をした透過型光学素子の模式的構成を示す斜視図である。
図1において、ワイヤグリッド構造をした透過型光学素子は、例えば、ガラス基板、石英基板、あるいは、プラスチック基板からなる基板1S上に、周期構造を有する凹凸形状部からなるワイヤグリッド構造WGが形成されている。具体的に、ワイヤグリッド構造WGは、
図1に示すように、y方向に延在する金属細線をx方向に所定間隔で配置した金属櫛状構造のことを言い、このワイヤグリッド構造WGを別表現で言えば、複数の金属細線を所定間隔で周期的に配列した凹凸形状部から構成されているとも言える。
【0027】
このようなワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子は、紙面上部(z軸プラス方向)から多数の偏光光を含む光(電磁波)を入射させると、基板1Sの下部から特定方向に偏光した偏光光だけを透過させることができる。つまり、ワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子は、偏光素子(偏光板)として機能する。以下に、このメカニズム(動作原理)について図面を参照しながら簡単に説明する。
【0028】
まず、
図2に示すように、電場の振動方向がx軸方向であるTM偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、ワイヤグリッド構造WGを構成する金属細線内の自由電子が金属細線の片側に集まり、これによって、個々の金属細線に分極が生じる。このように、TM偏光光を入射する場合、金属細線内に分極が生じるだけであるので、TM偏光光は、ワイヤグリッド構造WGを通過して基板1Sに達する。このとき、基板1Sも透明であるため、TM偏光光は、基板1Sも透過する。この結果、TM偏光光は、ワイヤグリッド構造WGおよび基板1Sを透過することになる。
【0029】
一方、
図3に示すように、電場の振動方向がy方向であるTE偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、金属細線内の自由電子は、金属細線の側壁による制限を受けることなく振動することができる。このことは、TE偏光光がワイヤグリッド構造WGに入射される場合も、連続した金属膜に光を入射する場合と同様の現象が起こっていることを意味する。したがって、TE偏光光をワイヤグリッド構造WGに入射する場合、連続した金属膜に光を入射する場合と同様に、TE偏光光は、反射されることになる。このとき、光が金属内に侵入できる厚さ(Skin Depth)よりも、金属細線のz方向の厚さが厚い場合、ワイヤグリッド構造WGは、TM偏光光を透過し、TE偏光光を反射する分離性能(消光比)の高い偏光分離機能を有することになる。
【0030】
以上のことから、ワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子は、例えば、様々な偏光光を含む光を入射すると、特定方向に偏光した偏光光だけを透過させる機能を有することになる。これは、ワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子が、偏光素子(偏光板)として機能することを意味するものである。
【0031】
ここで、光学装置の代表的な一例として、液晶プロジェクタがある。この液晶プロジェクタは、光学像(画像光)を形成するために液晶パネルを有している。液晶パネルは、1つの偏光に対して強度変調を行う特性があるため、その入射側と出射側にはそれぞれ偏光光を選択透過する機能を有する偏光板(偏光素子)が配置されている。したがって、例えば、液晶プロジェクタを構成する偏光板として、上述したワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子を使用することができる。
【0032】
特に、液晶プロジェクタの小型化、および、投影画像の高輝度化のために、液晶パネル上の光密度が高まっており、これに対応した偏光素子として熱・光耐性に優れるものが望まれている。この点において、例えば、無機材料で構成されるワイヤグリッド構造WGをした透過型光学素子が適していると言えるが、半導体リソグラフィ技術を用いて金属膜をワイヤ状(金属細線状)に加工する工程で作成されるため、一般に、有機高分子フィルムを用いた偏光素子に比較して高価になってしまう問題点がある。
【0033】
この点に関し、例えば、液晶プロジェクタにおいて、光源から偏光素子に至る光路には反射ミラーが設置されることが一般的であり、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備える光学素子を提供することができれば、部品点数を削減してコスト削減が可能になると考えられる。つまり、ワイヤグリッド構造WGをした光学素子として、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備えるものを提供できれば、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を提供することができるのである。そこで、本実施の形態1では、ワイヤグリッド構造WGをした光学素子として、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備える反射型偏光素子を提供するための工夫を施している。以下に、この工夫を施した本実施の形態1における技術的思想について説明する。
【0034】
<実施の形態1における特徴>
図4は、本実施の形態1における反射型偏光素子の概略構成を示す斜視図である。
図4において、本実施の形態1における反射型偏光素子は、例えば、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板、あるいは、シリコン基板からなる基板1S上に、例えば、アルミニウム膜からなる反射ミラー部MPが形成されている。そして、この反射ミラー部MP上に、周期構造を有する凹凸形状部からなるワイヤグリッド構造WGが形成されている。具体的に、ワイヤグリッド構造WGは、
図4に示すように、y方向に延在する金属細線をx方向に所定間隔で配置した金属櫛状構造から構成される。
【0035】
ここで、本実施の形態1の特徴は、ワイヤグリッド構造WGの表面SUR2における表面粗さよりも、反射ミラー部MPの表面SUR1の表面粗さの方が粗くなっている点にある。言い換えれば、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の上面(表面SUR2)の表面粗さよりも、凹凸形状部の底面(表面SUR1)の表面粗さの方が粗くなっている点に、本実施の形態1における特徴点が存在するとも言える。さらに言えば、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光(電磁波)の入射側から遠い第1面(表面SUR1)の表面粗さは、光(電磁波)の入射側に近い第2面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗いと言うこともできる。これにより、本実施の形態1によれば、反射型偏光素子を実現することができる。以下に、上述した本実施の形態1における特徴点により、反射型偏光素子を実現できるメカニズムについて図面を参照しながら説明する。
【0036】
図5は、反射型偏光素子を実現できるメカニズムを説明するための図である。
図5において、まず、電場の振動方向がy方向であるTE偏光光が入射する場合、
図3で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、TE偏光光は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射されることになる。一方、電場の振動方向がx軸方向であるTM偏光光が入射する場合、
図2で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、ワイヤグリッド構造WGを通過してワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達する。
【0037】
ここで、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)の表面粗さは、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗くなっている。表面粗さが粗いと言うことは、表面の乱雑さが大きくなっていることを意味する。そして、乱雑さが大きい表面ほど、様々な周波数の形状の重ね合わせで表されることから、乱雑さの大きな表面ほど、多くの異なる周波数の形状を潜在的に含んでいると考えることができる。このことから、乱雑さの大きな表面SUR1には、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達したTM偏光光の周波数と同等の周波数を有する形状を含んでいる可能性が高くなる。
【0038】
この結果、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)でTM偏光光の共鳴吸収が起こると考えられる。このTM偏光光の共鳴吸収が生じると、表面SUR1に自由電子が流れ、この自由電子が流れることによりジュール熱が発生する。すなわち、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)でTM偏光光の共鳴吸収が起こると、TM偏光光のエネルギーは、ジュール熱に消費される。このため、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)からのTM偏光光の反射率は低下することになる。さらに、表面粗さが粗い表面SUR1にTM偏光光が入射されると、位相が乱されてTM偏光光の散乱(乱反射)も生じやすくなり、正反射されるTM偏光光の割合も低下する。
【0039】
ここで、反射率(正反射率)とは、入射光の光強度に対する、入射光の入射角と等しい出射角を有する反射光の光強度の比率である。
【0040】
以上のことから、本実施の形態1における反射型光学素子は、例えば、様々な偏光光を含む光を入射させると、特定方向に偏光した偏光光だけを反射させる機能を有することになる。これは、本実施の形態1における反射型光学素子が反射型偏光素子(偏光板)として機能することを意味するものである。
【0041】
具体的に、本実施の形態1における反射型偏光素子の機能について説明する。
図6(a)は、本実施の形態1における反射型偏光素子に入射する入射光の偏光状態の一例を示す図である。
図6(a)に示すように、この入射光は、TM偏光光とTE偏光光とを含んでいる直線偏光光であり、例えば、TM偏光光の成分がTM1であり、TE偏光光の成分がTE1となっている。次に、
図6(b)は、このような偏光状態の入射光を、本実施の形態1における反射型偏光素子に入射させた後、この反射型偏光素子から反射される反射光の偏光状態を示す図である。
【0042】
本実施の形態1における反射型偏光素子においては、
図5で説明したように、TE偏光光は反射される一方、TM偏光光は吸収される。このことから、本実施の形態1における反射型偏光素子から反射した反射光においては、
図6(b)に示すように、TE偏光光の成分はTE1である一方、TM偏光光の成分はほぼゼロとなる。つまり、本実施の形態1における反射型偏光素子から反射した反射光は、概ねTE偏光光となる。
【0043】
以上のことから、本実施の形態1における反射型光学素子によれば、TE偏光光とTM偏光光とを含む入射光から、概ねTE偏光光だけを含む反射光を反射することができる。したがって、本実施の形態1における反射型光学素子は、偏光素子(偏光板)として機能することがわかる。そして、本実施の形態1における反射型光学素子によれば、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備える光学素子を実現できることから、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を提供することができる。
【0044】
<実施の形態1における技術的思想の有用性の検証>
続いて、本実施の形態1における技術的思想の有用性の検証結果について説明する。
図7〜
図10は、乱雑な表面形状を有する反射型偏光素子の計算モデルを示す図である。
図7は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)と底面(表面SUR1)の両方に同じ粗さの乱雑表面を有するモデル(TypeI)を示しており、
図8は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)だけに乱雑表面を有するモデル(TypeII)を示している。さらに、
図9は、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)だけに乱雑表面を有するモデル(TypeIII)を示しており、
図10は、ワイヤグリッド構造WGの側壁だけに乱雑表面を有するモデル(TypeIV)を示している。
【0045】
ここでは、ワイヤグリッド構造WGの周期(x方向)を200nmとし、ワイヤグリッド構造WGの凸部の幅を100nmとし、ワイヤグリッド構造WGの凸部の高さ(凹部の底面と凸部の上面との間の高さ)を100nmとしている。また、紙面上方から入射する入射光は、TE偏光光とTM偏光光とを含む光を想定しており、入射光の波長は460nmとしている。そして、反射ミラー部MPの厚さを200nmとし、基板1Sの材質を酸化シリコン(SiO
2)とし、反射ミラー部MPおよびワイヤグリッド構造WGを構成する金属の材質をアルミニウム(Al)としている。
【0046】
このような条件のもと、FDTD法でTE偏光光とTM偏光光の反射光の電磁界分布を求めた後、等価定理を用いてゼロ次回折光として反射率を算出した。メッシュサイズは、x方向、y方向、z方向ともに5nmである。表面の乱雑さは正規分布に従うものとしており、
図7〜
図10に示す乱雑表面の標準偏差を変化させて反射率との関係を算出した。
【0047】
図11(a)〜(d)は、
図7〜
図10で示したTypeI〜TypeIVの反射型偏光素子のTE偏光光およびTM偏光光のそれぞれの反射率と、乱雑表面の標準偏差(σ)との関係を計算した結果である。具体的に、
図11(a)は、TypeIの反射型偏光素子のTE偏光光およびTM偏光光のそれぞれの反射率と、乱雑表面の標準偏差(σ)との関係を計算した結果であり、
図11(b)は、TypeIIの反射型偏光素子のTE偏光光およびTM偏光光のそれぞれの反射率と、乱雑表面の標準偏差(σ)との関係を計算した結果である。また、
図11(c)は、TypeIIIの反射型偏光素子のTE偏光光およびTM偏光光のそれぞれの反射率と、乱雑表面の標準偏差(σ)との関係を計算した結果であり、
図11(d)は、TypeIVの反射型偏光素子のTE偏光光およびTM偏光光のそれぞれの反射率と、乱雑表面の標準偏差(σ)との関係を計算した結果である。
図11(a)〜
図11(d)において、横軸は、乱雑表面の標準偏差(σ)を示しており、縦軸は、反射率を示している。
【0048】
図11(a)〜(d)に示されるように、TypeI〜TypeIVの反射型偏光素子において、TE偏光光とTM偏光光で異なる反射率となることがわかる。特に、本実施の形態1に対応した
図11(c)のTypeIIIの反射型偏光素子において、乱雑表面の標準偏差(σ)が約30nmの条件で、TE偏光光の反射率が85%以上、TM偏光光の反射率が1%以下と言う大きな偏光コントラスト比を得られることがわかる。すなわち、本実施の形態1に対応した
図11(c)のTypeIIIの反射型偏光素子においては、偏光板として優れた有用性を備えていることがわかる。つまり、本実施の形態1における反射型偏光素子においては、TE偏光光がワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射され、TM偏光光がワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達する。
【0049】
このとき、本実施の形態1に対応した
図11(c)のTypeIIIの反射型偏光素子においては、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)にだけ乱雑表面を有するため、TM偏光光がワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)で反射する際、位相が乱されることによる散乱効果と微細構造による共鳴吸収効果が同時に発現し、結果として、TM偏光光の正反射率が小さくなるものと考えられる。このような機構によって、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、TE偏光光の反射率とTM偏光光の反射率との間に大きなコントラストを得ることができることがわかる。
【0050】
以上のことから、本実施の形態1の特徴は、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光の入射側から遠い第1面(表面SUR1)の表面粗さは、光の入射側に近い第2面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗いと言う点にあることがわかる。さらに、この特徴点を具体的に説明すると、本実施の形態1の特徴は、表面粗さを正規分布での標準偏差で表した場合、第1面(表面SUR1)の表面粗さに対応した第1標準偏差は、第2面(表面SUR2)の表面粗さに対応した第2標準偏差よりも大きいと言うことができる。より具体的には、第1標準偏差は、数十nmのオーダであり、第2標準偏差は、数nmのオーダであることが望ましい。
【0051】
さらに、本実施の形態1における特徴を現象論的に説明すると、本実施の形態1における反射型偏光素子に、TM偏光光と、TM偏光光と偏光方向が直交するTE偏光光とを含む光を入射させた場合、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光の入射側から遠い第1面(表面SUR1)では、TM偏光光を吸収し、光の入射側に近い第2面(表面SUR2)では、TE偏光光を反射する点に基本的な技術的思想上の特徴があると言うことができる。
【0052】
ただし、実際には、TM偏光光のわずかな一部は、上述した第1面(表面SUR1)で吸収されずに反射されると考えられるため、本実施の形態1の特徴は、TM偏光光と、TM偏光光と偏光方向が直交するTE偏光光とを含む光を入射させた場合、光の入射側から遠い第1面(表面SUR1)でのTM偏光光の反射率は、光の入射側に近い第2面(表面SUR2)でのTE偏光光の反射率よりも小さい点にあると言うことができる。このとき、偏光板として優れた有用性を実現する観点から、第1面でのTM偏光光の反射率は、1%以下であり、第2面でのTE偏光光の反射率は、85%以上であることが望ましい。
【0053】
図12は、本実施の形態1における反射型偏光素子の偏光コントラスト比(R
TE/R
TM)と、表面粗さ(標準偏差σ)との関係を示す計算結果である。この
図12は、
図11(c)で示した結果を整理したものである。
【0054】
ここで、ワイヤグリッド構造WGの周期は、200nmであり、ワイヤグリッド構造WGの凸部の高さ(凹部の底面と凸部の上面との間の高さ)を100nmとしている。
図12において、横軸は、表面粗さの指標となる標準偏差(σ)を示しており、縦軸は、偏光コントラスト比を示している。
【0055】
図12に示すように、ワイヤグリッド構造WGの底面の表面粗さを示す標準偏差σが約30nmの場合に最大の偏光コントラスト比(約800)が得られることがわかる。ここで、例えば、偏光コントラスト比が10以上の場合、本実施の形態1における反射型偏光素子の機能が明示的に発現していると言うことができる。その意味で、
図12を参照すると、本実施の形態1における反射型偏光素子が有効な偏光素子として機能する範囲は、ワイヤグリッド構造WGの底部の表面粗さを示す標準偏差の値が22nmから44nmの範囲である。言い換えれば、ワイヤグリッド構造WGの代表的な数値(周期または高さ)との相対値で、表面粗さを示す標準偏差の値が概ね11%(22/200(周期の値))〜44%(44/100(高さの値))の範囲において、偏光素子としての顕著な効果が発現する。
【0056】
次に、本実施の形態1における反射型偏光素子の分光反射率について説明する。
図13は、本実施の形態1における反射型偏光素子の分光反射率を測定した結果を示す図である。
図13(a)〜
図13(c)は、それぞれ、ワイヤグリッド構造WGの高さ(凹部の底面と凸部の上面との間の高さ)が120nm、150nm、180nmの場合の結果を示している。
【0057】
図13(a)〜
図13(c)において、横軸は、入射光の波長(nm)を示しており、縦軸は、反射率を示している。ここで、分光反射率の測定には、分光光度計(日立製U4100)を使用した。また、TE偏光光とTM偏光光を分離して反射率を測定するために、ランバート社製Gran−Taylarプリズムを2個使用し、それぞれ、検光子と偏光子として利用した。
図11(c)に示した計算結果と同様に、
図13(a)〜
図13(c)のいずれの場合においても、本実施の形態1における反射型偏光素子によって、TE偏光光の反射率が大きく、かつ、TM偏光光の反射率が小さくなる現象が観測された。同時に、ワイヤグリッド構造WGの高さ、すなわち、凹凸形状部の凹部の底面と凸部の上面との間の高さに応じて、TM偏光光の反射率が最小となる波長が異なることがわかる。つまり、ワイヤグリッド構造WGの高さを所定値に設定することにより、TM偏光光の反射率が最小となる波長を選択することが可能になることがわかる。
【0058】
これは、ワイヤグリッド構造WGの実効高さ(表面プラズモンの効果によって、光がワイヤグリッド構造WGを構成する複数の金属細線の間を進行するときの実効屈折率を考慮した高さ)がλ/4(λ:波長)相当の場合に、よく知られた反射防止膜と同じ干渉効果によって反射率が極小になるためであると理解される。したがって、本実施の形態1における反射型偏光素子においては、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光の入射側から遠い第1面(表面SUR1)の表面粗さを、光の入射側に近い第2面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗くする構成を取るとともに、ワイヤグリッド構造WGの実効高さをλ/4(λ:波長)相当に設定することが望ましい。この場合、表面粗さによって位相が乱されることによる散乱効果と表面粗さによる共鳴吸収効果が同時に発現することに加えて、反射防止膜と同様の干渉効果によって、TM偏光光の正反射率を限りなく小さくすることができる。
【0059】
このような機構によって、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、TE偏光光の反射率とTM偏光光の反射率との間に大きなコントラストを得ることができる。この結果、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備える光学素子を実現できることから、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を実現することができる。
【0060】
図13(a)に示すように、ワイヤグリッド構造WGの高さが120nmの場合、TM偏光光の反射率が最小となる入射光の波長は、460nmであり、
図13(b)に示すように、ワイヤグリッド構造WGの高さが150nmの場合、TM偏光光の反射率が最小となる入射光の波長は、630nmである。また、
図13(c)に示すように、ワイヤグリッド構造WGの高さが180nmの場合、TM偏光光の反射率が最小となる入射光の波長は、810nmである。これらの波長において、偏光コントラスト比(TE偏光光の反射率/TM偏光光の反射率)が最大となるため、これらの波長は、反射型偏光素子の性能を充分に発揮できる波長である。
【0061】
液晶プロジェクタに代表される光学装置への応用を考える場合、青色(概略波長範囲430nm〜500nm)には、
図13(a)に示すワイヤグリッド構造WGの高さが120nmの反射型偏光素子が適していることがわかる。また、緑色(概略波長範囲500nm〜600nm)には、ワイヤグリッド構造WGの高さが120nm(
図13(a))と150nm(
図13(b))の間の反射型偏光素子が適している。さらに、赤色(概略波長範囲600nm〜680nm)には、
図13(b)に示すワイヤグリッド構造WGの高さが
150nmの反射型偏光素子が適していることがわかる。さらに、CDプレーヤなどに使用される波長780nm〜830nmの近赤外線レーザ光用としては、
図13(c)に示すワイヤグリッド構造WGの高さが180nmの反射型偏光素子が適していることがわかる。
【0062】
このように、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、入射光の波長に応じてワイヤグリッド構造WGの高さを設定することにより、入射光の波長に対応して偏光コントラスト比を最大とすることができる。このため、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、液晶プロジェクタに代表される光学装置への幅広い応用が可能となる利点が得られる。つまり、本実施の形態1における反射型偏光素子によれば、幅広い波長域の様々な光学製品に対しての適用が容易である利点が得られる。
【0063】
本実施の形態1における反射型偏光素子を設計する上では、ワイヤグリッド構造WGの高さによって、偏光コントラスト比が最大となる波長が選択可能であることを基本として、金属膜の材質、成膜方法、ワイヤグリッド構造WGのピッチや幅などの条件を適宜選定して用途に合った素子特性を得るようにすることができる。例えば、使用可能な金属膜の材質としては、使用波長帯での複素屈折率の虚部が実部よりも大きな金属材料が適しており、アルミニウム(Al)の他に、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)などが適している。このなかでも、アルミニウム(Al)は、比較的安価な材料であるため、利用範囲が広い。
【0064】
なお、ワイヤグリッド構造WGによる回折光が発生する条件では、1次回折光や2次回折光による回折ロスにより、TE偏光光での大きな正反射率を得られなくなるため、ワイヤグリッド構造WGの周期は、入射光の波長よりも小さいことが望ましい。
【0065】
ここで、ワイヤグリッド構造WGの周期を入射光の波長よりも小さくすることにより、1次回折光や2次回折光による回折ロスが発生しない理由について説明する。
【0066】
周期構造をしたワイヤグリッド構造WGに光が入射するとき、ワイヤグリッド構造WGで反射された光の回折光(反射回折光)の角度は、以下の式(1)で表される。
【0067】
sinθ=m×λ/PT ・・・(1)
このとき、sinθは回折角度(光が入射する界面の法線からの角度)、mは回折次数(整数)、λは入射光の波長、PTはワイヤグリッド構造WGの周期である。例えば、入射光の波長λ=500nm、ワイヤグリッド構造WGの周期PT=550nm、回折次数m=1とすると、sinθ<1となり、θ=65.4°の方向に反射回折光(1次回折光)が生じることになる。このような反射回折光が存在すると、回折光によるロスが発生し、正反射率が低下することになる。つまり、ワイヤグリッド構造WGの周期PTが入射光の波長λよりも大きくなると、反射回折光が発生し、正反射率が低下することになる。
【0068】
一方、ワイヤグリッド構造WGの周期PTを入射光の波長λよりも小さくすると、sinθ>1となり、反射回折光は生じない。したがって、ワイヤグリッド構造WGの周期PTを入射光の波長λよりも小さくすると、1次回折光や2次回折光による回折ロスが発生せず、大きな正反射率を得ることができる。このため、ワイヤグリッド構造WGの周期は、入射光の波長よりも小さいことが望ましいのである。
【0069】
<実施の形態1における光学素子の製造方法>
本実施の形態1における光学素子は、上記のように構成されており、以下に、その製造方法について説明する。ここでは、原理的に上述した光学素子自体と同等の構造を有するが、さらに、コスト低減の観点も取り入れた光学素子の製造方法について説明する。
【0070】
まず、
図14に示すように、凹凸形状部を形成した基板1Sを準備する。基板1Sに凹凸形状部を形成するには、例えば、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Video Disk)に適用される射出成形法などを利用することができる。つまり、射出成形法によって、凹凸パターンを有する透明なプラスチック基板を得ることができる。また、ナノインプリント法を応用してガラス基板、石英基板、または、シリコン基板などの表面に凹凸パターンを形成することもできる。
【0071】
ここで、本実施の形態1においては、
図14に示すように、凸部の表面SUR1の表面粗さを粗くする処理が施されている。この処理は、例えば、電子線描画法などで直接乱雑表面を形成したスタンパを準備することも可能であるし、太陽電池の反射率抑止のための表面加工法(表面テクスチャー形成)や、磁気ディスクのヘッドクラッシュ抑止のための表面加工法を応用することができる。このようにして、基板1Sには、溝DITによる凹凸形状部が形成され、表面SUR1の表面粗さを、溝DITの底面を構成する表面SUR2の表面粗さよりも粗くすることができる。
【0072】
次に、
図15に示すように、凹凸形状部を形成した基板1Sの表面に、スパッタリング法を使用することにより、例えば、アルミニウム(Al)膜からなる金属膜MFを形成する。このとき、金属膜MFの膜厚が薄い状態では、基板1Sの表面形状を反映するように金属膜MFが形成されることになる。その後、
図16に示すように、さらに、基板1S上に堆積する金属膜MFの膜厚を厚くする。ここで、スパッタリング法に代表される成膜技術では、金属粒子がz方向だけでなく、x方向やy方向にも大きな運動エネルギーを持って基板1S上に堆積する。したがって、基板1S上に堆積する金属膜MFの膜厚が厚くなると、基板1Sの表面に形成された凹凸形状部を反映した金属膜MFの形状が次第に平滑化される。そして、最終的に、
図17に示すように、金属膜MFの表面は、基板1Sの表面に形成された凹凸形状部の形状に関係なく平坦化される。このようにして、本実施の形態1における光学素子を製造することができる。
【0073】
具体的に、
図17に示すように、本実施の形態1における光学素子では、基板1Sの表面SUR2の表面粗さよりも、基板1Sの表面SUR1の表面粗さの方が粗くなっている。言い換えれば、表面SUR2の表面粗さに対応した標準偏差σ
bottomよりも、表面SUR1の表面粗さに対応した標準偏差σ
topの方が充分に大きくなっている。この場合、
図17に示すように、基板1Sの下側から入射光を入射させると、入射光に含まれるTE偏光光が基板1Sの表面SUR2で反射される一方、入射光に含まれるTM偏光光が基板1Sの表面SUR1で吸収される。さらに厳密に言えば、基板1Sの下側から入射光を入射させると、表面SUR2でのTE偏光光の反射率よりも、表面SUR1でのTM偏光光の反射率が充分に小さくなる。この結果、本実施の形態1によれば、TE偏光光とTM偏光光とを含む入射光から、概ねTE偏光光だけを含む反射光を反射することができる。
【0074】
したがって、本実施の形態1における反射型光学素子は、偏光素子(偏光板)として機能することがわかる。特に、上述した製造方法では、CD製造技術や太陽電池の製造技術あるいは磁気ディスク製造技術で一般的に使用されている技術を流用できるため、安価な製造コストで光学素子を製造することができる。
【0075】
以上のことから、本実施の形態1によれば、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を提供することができる。
【0076】
続いて、さらに、コスト削減を図ることができる光学素子の製造方法について説明する。まず、
図18に示すように、凹凸形状部を形成した基板1Sを準備する。基板1Sに凹凸形状部を形成するには、例えば、CD(compact disk)やDVD(digital video disk)に適用される射出成形法などを利用することができる。つまり、射出成形法によって、凹凸パターンを有する透明なプラスチック基板を得ることができる。また、ナノインプリント法を応用してガラス基板、石英基板やシリコン基板などの表面に凹凸パターンを形成することもできる。このようにして、基板1Sには、溝DITによる凹凸形状部が形成される。このとき、溝DITの深さGDが図示されている。
【0077】
次に、
図19に示すように、電子ビーム蒸着法のように、金属粒子の運動エネルギーがz方向に局在した成膜技術により、溝DITを形成した基板1S上に、例えば、アルミニウム(Al)膜からなる金属膜MFを形成する。すなわち、直進性の高い粒子ビームを使用した成膜技術により金属膜MFを形成する。この場合、
図20に示すように、金属膜MFの膜厚を厚くしていくと、基板1Sの凸部に対応した領域では、周辺部が真空であるため、阻害要素がない状態で金属結晶粒が堆積成長する。一方、基板1Sの凹部に対応した領域では、先行して結晶成長した凸部の粒界によって成長する結晶方位に制限を受ける。この結果、
図21に示すように、さらに、金属膜MFの膜厚を厚くしていくと、凹部の底面の表面粗さが凸部の上面の表面粗さに比べて粗くなる。このとき、例えば、金属膜MFに形成された凹部の深さGDは、基板1Sに形成された溝DITも深さGDと同等にすることができる。
【0078】
このようにして、本実施の形態1における光学素子を製造することができる。具体的に、
図21に示すように、本実施の形態1における光学素子では、金属膜MFの凸部の表面SUR2の表面粗さよりも、金属膜MFの凹部の表面SUR1の表面粗さの方が粗くなっている。言い換えれば、表面SUR2の表面粗さに対応した標準偏差σ
topよりも、表面SUR1の表面粗さに対応した標準偏差σ
bottomの方が充分に大きくなっている。この場合、
図21に示すように、金属膜MFの上側から入射光を入射させると、入射光に含まれるTE偏光光が金属膜MFの表面SUR2で反射される一方、入射光に含まれるTM偏光光が金属膜MFの表面SUR1で吸収される。さらに厳密に言えば、金属膜MFの上側から入射光を入射させると、表面SUR2でのTE偏光光の反射率よりも、表面SUR1でのTM偏光光の反射率が充分に小さくなる。
【0079】
この結果、本実施の形態1によれば、TE偏光光とTM偏光光とを含む入射光から、概ねTE偏光光だけを含む反射光を反射することができる。したがって、本実施の形態1における反射型光学素子は、偏光素子(偏光板)として機能することがわかる。
【0080】
この製造方法では、凹凸形状部を形成した基板1S上に、指向性を有する成膜法で、凹凸形状部の形状を反映した金属膜MFを形成する工程を備えることに特徴がある。特に、この工程として、金属粒子の運動エネルギーが基板1Sの厚さ方向に局在した粒子ビームによる成膜技術を使用することにより、金属膜MFの凹部底面の表面粗さを、金属膜MFの凸部上面の表面粗さよりも粗くすることができる。この成膜技術によれば、凹部の表面SUR1の表面粗さを粗くする処理を特別に施す必要がないため、さらなるコスト削減を図ることができる。以上のことから、本実施の形態1によれば、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を提供することができることがわかる。
【0081】
図22は、本実施の形態1における製造方法により製造された反射型偏光素子の断面SEM写真の一例である。
図22は、ワイヤグリッド構造(凹凸形状部)の延在方向(y方向)に沿って試料を割って観察したものである。使用した基板は、ピッチ200nm、溝の幅100nm、溝の深さが180nmである。試料は、電子線リソグラフィプロセスを利用して作成したシリコンスタンパを用い、ガラス2P法によって石英基板上にワイヤグリッド構造(櫛状構造)の凹凸パターンを転写して形成した。金属膜の材質は、アルミニウム(Al)を選択し、電子ビーム蒸着法によって220nm相当の膜厚を積層したものである。
図22に示すように、作製した試料において、ワイヤグリッド構造の表面(凸部)の表面粗さを示す標準偏差σ
topは、7nmであり、ワイヤグリッド構造の底面(凹部)の表面粗さを示す標準偏差σ
bottomは、31nmである。
【0082】
このように本実施の形態1における反射型偏光素子の製造方法によれば、金属膜の凸部の表面の表面粗さよりも、金属膜の凹部の表面の表面粗さの方を粗くすることができることがわかる。言い換えれば、凸部の表面粗さに対応した標準偏差σ
topよりも、凹部の表面粗さに対応した標準偏差σ
bottomを充分に大きくすることができることがわかる。
【0083】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、例えば、
図4に示すように、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光(電磁波)の入射側から遠い第1面(表面SUR1)の表面粗さを、光(電磁波)の入射側に近い第2面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗くする例について説明した。本実施の形態2では、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層を設ける例について説明する。
【0084】
<本実施の形態2の特徴>
図23は、本実施の形態2における反射型偏光素子の概略構成を示す斜視図である。
図23において、本実施の形態2における反射型偏光素子は、例えば、ガラス基板、石英基板、プラスチック基板、または、シリコン基板からなる基板1S上に、例えば、アルミニウム膜からなる反射ミラー部MPが形成されている。そして、この反射ミラー部MP上に、光を吸収する光吸収層ABLが形成され、この光吸収層ABL上に、周期構造を有する凹凸形状部からなるワイヤグリッド構造WGが形成されている。具体的に、ワイヤグリッド構造WGは、y方向に延在する金属細線をx方向に所定間隔で配置した金属櫛状構造から構成される。ここで、本実施の形態2の特徴は、反射ミラー部MPとワイヤグリッド構造WGとの間に光吸収層ABLを設ける点にある。これにより、本実施の形態2によれば、反射型偏光素子を実現することができる。
【0085】
ここで、光吸収層ABLは、金属酸化物膜や金属窒化物膜から形成することができる。具体的に、光吸収層ABLは、例えば、酸化クロム膜、酸化チタン膜、酸化タンタル膜、酸化モリブデン膜、酸化コバルト膜、酸化鉄膜、酸化バナジウム膜、窒化クロム膜、窒化チタン膜、窒化タンタル膜、窒化モリブデン膜、窒化コバルト膜、窒化鉄膜、窒化バナジウム膜、窒化シリコン膜などから形成することができる。特に、光吸収層ABLを構成する材料としては、光吸収性を有する無機材料薄膜であり、かつ、使用環境での安定性を確保する観点から、融点が300℃以上の材料が望ましい。
【0086】
本実施の形態2における反射型偏光素子において、反射ミラー部MPやワイヤグリッド構造WGを構成する金属材料は、アルミニウム(Al)膜を使用している。ただし、これに限らず、前記実施の形態1と同様に、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)などを使用してもよい。この中でも、アルミニウム(Al)は、比較的安価な材料であるため、利用範囲が広い。
【0087】
また、本実施の形態2における反射型偏光素子において、ワイヤグリッド構造WG(櫛状構造)のピッチは160nm、幅は、80nm、高さは、80nmとしている。さらに、光吸収層ABLとして、酸化クロム(Cr
2O
3)膜(複素屈折率2.67+0.29i)を使用し、厚さを40nmとしている。また、光吸収層ABLの下層に形成されている反射ミラー部MPは、厚さ200nmのアルミニウム膜から形成している。
【0088】
以下に、上述した本実施の形態2における特徴点により、反射型偏光素子を実現できるメカニズムについて図面を参照しながら説明する。
【0089】
図23において、まず、電場の振動方向がy方向であるTE偏光光が入射する場合、
図3で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、TE偏光光は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射されることになる。一方、電場の振動方向がx軸方向であるTM偏光光が入射する場合、
図2で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、ワイヤグリッド構造WGを通過してワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達する。ここで、本実施の形態2では、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLが形成されている。このことから、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達したTM偏光光は、光吸収層ABLで吸収される。厳密に言えば、光吸収層ABLは、100%の吸収率を有しているとは言えないが、少なくとも、光吸収層ABLを設けることにより、反射されるTM偏光光は減少する。すなわち、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)からのTM偏光光の反射率は低下することになる。
【0090】
以上のことから、本実施の形態2における反射型光学素子は、例えば、様々な偏光光を含む光を入射させると、特定方向に偏光した偏光光(TE偏光光)を主に反射させる機能を有することになる。これは、本実施の形態2における反射型光学素子が反射型偏光素子(偏光板)として機能することを意味するものである。このようにして、本実施の形態2によれば、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLを設けることにより、反射型偏光素子を実現できることがわかる。
【0091】
ここで、本実施の形態2においても、ワイヤグリッド構造WGの高さと光吸収層ABLの厚さを所定値に設定することにより、TM偏光光の反射率を最小とすることができる。具体的には、ワイヤグリッド構造WGの実効高さ(表面プラズモンの効果によって、光がワイヤグリッド構造WGを構成する複数の金属細線の間を進行するときの実効屈折率を考慮した高さ)や光吸収層ABLの厚さをλ/4(λ:入射光の波長)相当とすることにより、よく知られた反射防止膜と同じ干渉効果によって反射率を極小にすることができる。したがって、本実施の形態2における反射型偏光素子においては、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLを設ける構成を採るとともに、ワイヤグリッド構造WGの実効高さや光吸収層ABLの実効厚さをλ/4(λ:波長)相当に設定することが望ましい。
【0092】
この場合、光吸収層ABLによるTM偏光光の吸収効果が発現することに加えて、反射防止膜と同様の干渉効果によって、TM偏光光の正反射率を限りなく小さくすることができるからである。このような機構によって、本実施の形態2における反射型偏光素子によれば、TE偏光光の反射率とTM偏光光の反射率との間に大きなコントラストを得ることができる。この結果、本実施の形態2における反射型偏光素子によれば、反射ミラーと偏光素子の機能を兼ね備える光学素子を実現できることから、熱・光耐性に優れ、かつ、コスト削減にも寄与する光学素子を実現することができる。
【0093】
図24は、本実施の形態2における反射型偏光素子の反射率の波長依存性を計算した結果である。
図24において、横軸は、入射光の波長(nm)を示しており、縦軸は、反射率を示している。
図24に示すように、TE偏光光の反射率に比較して、TM偏光光の反射率が小さいことがわかる。言い換えれば、TM偏光光の反射率に比較して、TE偏光光の反射率が大きいことがわかる。これは、本実施の形態2において、ワイヤグリッド構造WG(凹凸形状部)の下層に光吸収層ABLを設けているため、ワイヤグリッド構造WGを透過してきたTM偏光光のほとんどが、光吸収層ABLで吸収されているためであると考えることができる。したがって、本実施の形態2によれば、ワイヤグリッド構造WG(凹凸形状部)の下層に光吸収層ABLを設けることにより、反射型偏光素子として望まれる特性が得られることがわかる。
【0094】
<実施の形態2における光学素子の製造方法>
本実施の形態2における光学素子は、上記のように構成されており、以下に、その製造方法について説明する。
【0095】
まず、
図25に示すように、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、石英基板、あるいは、シリコン基板などからなる基板1S上に、反射ミラー部MPを形成する。反射ミラー部MPは、例えば、アルミニウム(Al)膜から形成され、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。そして、この反射ミラー部MP上に、光吸収層ABLを形成する。この光吸収層ABLは、例えば、酸化クロム膜から形成され、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。その後、光吸収層ABL上に、例えば、アルミニウム(Al)膜からなる金属膜MFを形成する。この金属膜MFも、例えば、スパッタリング法を使用して形成することができる。このようにして、基板1S上に、順次、反射ミラー部MPと光吸収層ABLと金属膜MFを積層した積層構造を形成することができる。
【0096】
続いて、
図26に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、積層構造の最上層に形成されている金属膜MFをパターニングする。金属膜MFのパターニングは、金属細線を形成する領域にレジスト膜が残存するように行われる。そして、パターニングしたレジスト膜をマスクにして、金属膜MFをエッチングする。これにより、金属膜MFがパターニングされて、金属膜MFからなるワイヤグリッド構造WGを形成することができる。
【0097】
このとき行われる金属膜MFのエッチングの際、金属膜MFの下層に形成されている光吸収層ABLがエッチングストッパとして機能する。つまり、光吸収層ABLを構成する金属酸化物や金属窒化物と、金属膜MFとは、一般的に、エッチングレートが異なるため、金属膜MFのエッチングを行なう際、金属膜MFの下層に形成されている光吸収層ABLをエッチングストッパとして機能させることができる。
【0098】
このことから、ワイヤグリッド構造WGの高さを精密に加工することができるとともに、プロセスンマージンも確保できる利点が得られる。つまり、光吸収層ABLは、光を吸収すると言う本来の機能の他に、エッチングストッパとしての副次的な機能も有することになる。以上のようにして、本実施の形態2によれば、高精度な反射型偏光素子を製造することができる。
【0099】
特に、本実施の形態2では、光吸収層ABLをエッチングストッパとしても機能させることができるので、光吸収層ABL上に形成されるワイヤグリッド構造WGの高さを均一に揃えることができる。すなわち、金属膜MFのエッチングによって、ワイヤグリッド構造WGが形成されるが、金属膜MFのエッチングレートは、領域によって、若干のばらつきが生じる場合がある。この場合、エッチング残りが生じないように、多少オーバエッチング気味にエッチングする必要がある。この場合であっても、金属膜MFの下層に形成されている光吸収層ABLがエッチングストッパとして機能するため、オーバエッチングしても、領域ごとによる金属細線の高さのばらつきを抑制することができ、周期的に配列された金属細線の高さの均一性を向上させることができる。さらに、加工精度を向上させることができるので、本実施の形態2における光学素子の製造方法によれば、ワイヤグリッド構造WGの実効高さをλ/4(λ:波長)相当に設定することが容易となり、高性能な反射型偏光素子を製造できると言う利点が得られる。
【0100】
<変形例>
なお、本実施の形態2では、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層を設ける例について説明したが、さらに、この光吸収層の表面粗さを粗くしてもよい。すなわち、本実施の形態2における技術的思想と、前記実施の形態1における技術的思想を組み合わせても良い。この場合、本変形例の構成は、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLを設け、かつ、光吸収層ABLの表面粗さを、ワイヤグリッド構造WGの上面の表面粗さよりも粗くする構成と言うことができる。言い換えれば、本変形例の構成は、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLを設け、かつ、光吸収層ABLの表面粗さに対応する標準偏差を、ワイヤグリッド構造WGの上面の表面粗さに対応した標準偏差よりも大きくする構成と言うことになる。
【0101】
このように構成された変形例によれば、光吸収層ABLを設けることによるTM偏光光の反射率の低減効果(吸収効果)の他に、光吸収層ABLの表面粗さを粗くすることに起因する光吸収層ABLの表面積の増大により、TM偏光光の吸収率の増大効果を得ることができる。さらに、光吸収層ABLの表面粗さを粗くすることにより、位相が乱されてTM偏光光の散乱(乱反射)も生じやすくなり、正反射されるTM偏光光の割合も低下する効果も得られる。
【0102】
したがって、本変形例によれば、(1)光吸収層ABLを設ける点と、(2)光吸収層ABLの表面積を増大させる点と、(3)TM偏光光の乱反射を増大させる点と、の相乗効果を得ることができる。そして、この相乗効果により、TE偏光光の反射率とTM偏光光の反射率との間に大きなコントラストを得ることができる。この結果、本変形例における反射型偏光素子によれば、熱・光耐性に優れたさらなる高性能な反射型偏光素子を提供することができる。
【0103】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、前記実施の形態1や前記実施の形態2における反射型偏光素子を適用した光学装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態3では、様々な光学装置のうち、特に、画像投影装置の1つである液晶プロジェクタを例に挙げて説明する。
【0104】
<液晶プロジェクタの構成>
図27は、本実施の形態3における液晶プロジェクタの光学系を示す模式図である。
図27において、本実施の形態3における液晶プロジェクタは、光源LS、導波光学系LGS、ダイクロイックミラーDM(B)、DM(G)、反射ミラーMR1(R)、反射型偏光素子RWG(B)、RWG(R)、液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)、透過型偏光素子WG1(G)、WG2(G)、WG2(B)、WG2(R)、投影レンズLENを有している。
【0105】
光源LSは、ハロゲンランプなどから構成され、青色光と緑色光と赤色光とを含む白色光を射出するようになっている。そして、導波光学系は、光源LSから射出された光分布の一様化やコリメートなどを実施するように構成されている。
【0106】
ダイクロイックミラーDM(B)は、青色光に対応した波長の光を反射し、その他の緑色光や赤色光を透過するように構成されている。同様に、ダイクロイックミラーDM(G)は、緑色光に対応した波長の光を反射し、その他の赤色光を透過するように構成されている。また、反射ミラーMR1(R)は、赤色光を反射するように構成されている。
【0107】
反射型偏光素子RWG(B)は、青色光を入射して特定の偏光光を選択反射するように構成されており、反射型偏光素子RWG(R)は、赤色光を入射して特定の偏光光を選択反射するように構成されている。具体的に、反射型偏光素子RWG(B)や反射型偏光素子RWG(R)は、前記実施の形態1や前記実施の形態2で説明した反射型偏光素子であり、例えば、前記実施の形態1に対応している場合は、
図4に示すように、ワイヤグリッド構造WGを構成する凹凸形状部の第1面と第2面のうち、光(電磁波)の入射側から遠い第1面(表面SUR1)の表面粗さは、光(電磁波)の入射側に近い第2面(表面SUR2)の表面粗さよりも粗くするようになっている。一方、前記実施の形態2に対応している場合は、
図23に示すように、ワイヤグリッド構造WGの下層に光吸収層ABLが設けられた構造をしている。
【0108】
液晶パネルLCP(B)は、青色用の反射型偏光素子RWG(B)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光光の強度変調を行なうように構成されている。同様に、液晶パネルLCP(G)は、緑色用の透過型偏光素子WG1(G)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光光の強度変調を行なうように構成され、液晶パネルLCP(R)は、赤色用の反射型偏光素子RWG(R)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光光の強度変調を行なうように構成されている。これらに液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)は、液晶パネルを制御する制御回路(図示せず)と電気的に接続されており、この制御回路からの制御信号に基づいて、液晶パネルに印加される電圧が制御されるようになっている。
【0109】
透過型偏光素子WG1(G)、WG2(G)は、緑色用の透過型偏光素子であり、緑色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成されている。同様に、透過型偏光素子WG2(B)は、青色用の透過型偏光素子であり、青色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成され、透過型偏光素子WG2(R)は、赤色用の透過型偏光素子であり、赤色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成されている。なお、投影レンズLENは、画像を投影するためのレンズである。
【0110】
<液晶プロジェクタの動作>
本実施の形態3における液晶プロジェクタは、上記のように構成されており、以下に、その動作について説明する。まず、
図27に示すように、ハロゲンランプなどより構成される光源LSから青色光と緑色光と赤色光を含む白色光が射出される。そして、光源LSから射出された白色光は、導波光学系LGSに入射されることにより、白色光に対して光分布の一様化やコリメートなどが実施される。その後、導波光学系LGSを射出した白色光は、最初にダイクロイックミラーDM(B)に入射する。ダイクロイックミラーDM(B)では、白色光に含まれる青色光だけが反射され、緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(B)を透過する。
【0111】
ダイクロイックミラーDM(B)を透過した緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)に入射される。ダイクロイックミラーDM(G)では、緑色光だけが反射され、赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)を透過する。このようにして、白色光から青色光と緑色光と赤色光に分離することができる。
【0112】
続いて、分離された青色光は、反射型偏光素子RWG(B)に入射され、青色光に含まれる特定の偏光光が選択反射される。そして、選択反射された偏光光は、液晶パネルLCP(B)に入射する。液晶パネルLCP(B)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行なわれる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(B)から射出され、透過型偏光素子WG2(B)に入射した後、透過型偏光素子WG2(B)から射出される。
【0113】
同様に、分離された緑色光は、透過型偏光素子WG1(G)に入射され、緑色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(G)に入射される。液晶パネルLCP(G)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行なわれる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(G)から射出され、透過型偏光素子WG2(G)に入射された後、透過型偏光素子WG2(G)から射出される。
【0114】
また、分離された赤色光は、反射型偏光素子RWG(R)に入射され、赤色光に含まれる特定の偏光光が選択反射される。そして、選択反射された偏光光は、液晶パネルLCP(R)に入射する。液晶パネルLCP(R)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行なわれる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(R)から射出され、透過型偏光素子WG2(R)に入射した後、透過型偏光素子WG2(R)から射出される。
【0115】
その後、透過型偏光素子WG2(B)から射出された偏光光(青色)と、透過型偏光素子WG2(G)から射出された偏光光(緑色)と、透過型偏光素子WG2(R)から射出された偏光光(赤色)とが合波され、投影レンズLENを介して、スクリーン(図示せず)に投影される。このようにして、本実施の形態3における液晶プロジェクタによれば、画像を投影することができる。
【0116】
<実施の形態3における液晶プロジェクタの利点>
以下に、従来技術における液晶プロジェクタと比較しながら、本実施の形態3における液晶プロジェクタの利点について説明する。
【0117】
図28は、従来技術における液晶プロジェクタの光学系を示す模式図である。
図28に示す従来技術における液晶プロジェクタと、
図27に示す本実施の形態3における液晶プロジェクタとの相違点について説明する。
図28に示す従来技術における液晶プロジェクタでは、例えば、反射ミラーMR1(B)と透過型偏光素子WG1(B)とが別部品として構成されている。同様に、例えば、反射ミラーMR2(R)と透過型偏光素子WG1(R)とが別部品として構成されている。
【0118】
これに対し、
図27に示す本実施の形態3における液晶プロジェクタでは、例えば、反射ミラーMR1(B)と透過型偏光素子WG1(B)との組合せに換えて、反射ミラーと偏光板の機能を兼ね備える反射型偏光素子RWG(B)を採用している。同様に、反射ミラーMR2(R)と透過型偏光素子WG1(R)との組合せに換えて、反射ミラーと偏光板の機能を兼ね備える反射型偏光素子RWG(R)を採用している。
【0119】
この結果、本実施の形態3における液晶プロジェクタによれば、従来技術における液晶プロジェクタに比べて、部品点数を削減することができる。したがって、本実施の形態3によれば、液晶プロジェクタの小型化や低コスト化を実現できると言う利点が得られることがわかる。
【0120】
<付記>
本実施の形態3における画像投影装置は、以下の態様を含む。
【0121】
(付記1)
(a)光源と、(b)前記光源より射出される光から特定の偏光光を選択反射する第1偏光素子と、(c)前記第1偏光素子から射出された前記偏光光を入射し、画像情報に応じて前記偏光光の強度変調を行なう液晶パネルと、(d)前記液晶パネルから射出された前記偏光光を入射する第2偏光素子と、(e)前記第2偏光素子から射出された前記偏光光を入射して画像を投影する投影レンズと、を備え、前記第1偏光素子は、光を入射する周期構造をした凹凸形状部を有し、前記凹凸形状部の表面を構成する第1面と第2面のうち、前記光の入射側から遠い前記第1面の表面粗さは、前記光の入射側に近い前記第2面の表面粗さよりも粗い画像投影装置。
【0122】
(付記2)
(a)光源と、(b)前記光源より射出される光から特定の偏光光を選択反射する第1偏光素子と、(c)前記第1偏光素子から射出された前記偏光光を入射し、画像情報に応じて前記偏光光の強度変調を行なう液晶パネルと、(d)前記液晶パネルから射出された前記偏光光を入射する第2偏光素子と、(e)前記第2偏光素子から射出された前記偏光光を入射して画像を投影する投影レンズと、を備え、前記第1偏光素子は、光を入射する周期構造をした凹凸形状部と、前記凹凸形状部の下層に設けられ、前記光を吸収する吸収層と、を備える画像投影装置。
【0123】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0124】
例えば、前記実施の形態では、可視光から近赤外線光に対応する光学素子や光学装置について説明したが、これに限らず、マクスウェル方程式に従う電磁波であれば、本願発明の技術的思想を同様に適用することができる。具体的には、77GHzの無線デバイスでは、電磁波(光)の波長は約4mmであり、このような電磁波に対しても、例えば、波長よりも小さなピッチで構成される反射型偏光素子を光学部品(偏光板)として適用することができる。このとき、光学素子の作製には、プレス加工や研削加工などを用いることができる。
【0125】
<先行技術文献との対比>
最後に先行技術文献(特開2011−81154号公報:特許文献3)と本願発明の技術的思想との相違点を明確化するために対比を行なう。
【0126】
図29は、先行技術文献に記載されている光学素子(1/2波長板)の構成を示す模式図である。
図29において、先行技術文献における光学素子は、反射ミラー部MP上に、ワイヤグリッド構造WGが形成されている。ここで、ワイヤグリッド構造WGの方位は、x−y平面内で45度回転した配置とし、x方向を45度回転した方向をa方向と定義し、y方向を45度回転した方向をb方向と定義する。この場合、まず、電場の振動方向がb方向である偏光光(b方向)を入射する場合、
図3で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、偏光光(b方向)は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射されることになる。
【0127】
一方、電場の振動方向がa方向である偏光光(a方向)を入射する場合、
図2で説明したメカニズムと同様のメカニズムにより、ワイヤグリッド構造WGを通過してワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達する。そして、ワイヤグリッド構造WGの底面(表面SUR1)に達した偏光光(a方向)は、表面SUR1で反射される。
【0128】
先行技術文献に記載された技術では、表面SUR2で反射された偏光光(b方向)と、表面SUR1で反射された偏光光(a方向)が再び重ね合わされて光学素子から反射される。このとき、表面SUR1で反射される偏光光(a方向)は、ワイヤグリッド構造WGの高さを往復する分だけ、表面SUR2で反射される偏光光よりも光路長が長くなる。そして、この光路長が1/2波長分になるように設計することにより、偏光光(b方向)と偏光光(a方向)が再び重ね合わされる際、偏光光(a方向)の位相は、180度ずれることになる。つまり、入射光に含まれる偏光光(a方向)の位相と、反射光に含まれる偏光光(a方向)の位相は180度ずれることになる。この結果、入射光の偏光方向と反射光の偏光方向が90度異なるようになる。このようにして、先行技術文献に記載されている光学素子は、1/2波長板として機能することになる。
【0129】
具体的に、
図30は、1/2波長板の機能を説明する図である。
図30(a)は、先行技術文献における光学素子にTE偏光光を入射する場合を示している。先行技術文献における光学素子は、x−y平面内で45度回転していることから、TE偏光光は、例えば、
図30(a)に示すように、a方向のベクトル成分とb方向のベクトル成分がともに「1」となっている。そして、
図30(b)は、先行技術文献に記載された光学素子からの反射光を示している。上述したように、先行技術文献における光学素子から反射される反射光においては、a方向の偏光光の光路長がb方向の偏光光の光路長よりも1/2波長分長くなるため、a方向の偏光光の位相は180度ずれることになる。このことは、
図30(b)に示すように、a方向のベクトル成分が「1」から「−1」になることを意味している。
【0130】
この結果、反射光は、入射光であるTE偏光光と偏光方向が90度異なるTM偏光光になることがわかる。つまり、先行技術文献における光学素子は、1/2波長板として機能することがわかる。ここで、重要な点は、先行技術文献における光学素子が、1/2波長板として良好に機能するためには、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射される偏光光(b方向)の反射率と、ワイヤグリッド構造WGを透過した後、底面で反射される偏光光(a方向)の反射率が等しいことが要求される点である。
【0131】
これに対し、本願発明における光学素子は、1/2波長板ではなく、偏光素子として機能する点で大きく相違する。本願発明における光学素子は、偏光素子として機能させるため、例えば、
図6に示すように、TE偏光光を反射する一方、TM偏光光を吸収するように機能させる必要がある。つまり、本願発明で重要な点は、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)でTE偏光光が反射される一方、ワイヤグリッド構造WGを透過した後、底面で反射されるTM偏光光の反射率がほぼゼロになることが要求される点である。これにより、本願発明における光学素子を偏光素子として機能させることができるのである。
【0132】
したがって、本願発明の光学素子が偏光素子として機能させる必要があるのに対し、先行技術文献の光学素子が1/2波長板として機能させる必要がある点で大きく相違することがわかる。そして、この機能の相違から、先行技術文献では、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)で反射される偏光光(b方向)の反射率と、ワイヤグリッド構造WGを透過した後、底面で反射される偏光光(a方向)の反射率が等しくする構成を採る。これに対し、本願発明では、ワイヤグリッド構造WGの上面(表面SUR2)でTE偏光光が反射される一方、ワイヤグリッド構造WGを透過した後、底面で反射されるTM偏光光の反射率がほぼゼロにする構成を採る点で、本願発明の基本思想と、先行技術文献の基本思想とは全く異なることがわかる。
【0133】
以上のことから、本願発明の基本思想と、先行技術文献の基本思想が全く異なることから、たとえ、当業者といえども、先行技術文献から本願発明を想到することは困難であると考えられる。