(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938244
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】回転電機製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/20 20060101AFI20160609BHJP
H02K 5/18 20060101ALI20160609BHJP
H02K 9/06 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
H02K1/20 C
H02K5/18
H02K9/06 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-61519(P2012-61519)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-198239(P2013-198239A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103333
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 治
(74)【代理人】
【識別番号】100173451
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 彪
(72)【発明者】
【氏名】藤川 貴陽
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】津房 慶亮
【審査官】
宮地 将斗
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−077248(JP,U)
【文献】
特開2000−152546(JP,A)
【文献】
特開2001−238383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00−1/16
H02K 1/18−1/26
H02K 1/28−1/34
H02K 5/18
H02K 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸周りを回転自在な回転子と、
前記回転子を半径方向外側から取り囲むように配置された円筒状で、内周面に開口し軸方向に延びる複数の内周溝が互いに所定の周方向間隔をあけて形成された固定子鉄心と、
一部が前記内周溝内にあるように配置された固定子巻線と、
前記固定子鉄心を半径方向外側から取り囲むように配置された固定子枠と、
それぞれが前記固定子枠の外周面から半径方向外側に張り出して軸方向に延びた板状で、互いに所定の周方向間隔をあけて前記固定子枠の外周面に形成された複数の放熱フィンと、
を有する回転電機を製造する製造方法において、
前記固定子鉄心には、前記内周溝よりも半径方向外側に、軸方向穴が周方向に互いに間隔をあけて複数形成されて、
前記軸方向穴それぞれの周方向位置が、前記伝熱フィンそれぞれに揃い、しかも互いに周方向に隣接する2個の前記内周溝の間に配置されるように形成されていて、
当該製造方法は、
前記固定子枠を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後に前記固定子枠内に前記固定子鉄心を挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後に前記固定子枠を冷却して前記固定子鉄心を前記固定子枠内に固着する固着工程と、
を有することを特徴とする回転電機製造方法。
【請求項2】
前記軸方向穴は、軸方向に貫通していることを特徴とする請求項1に記載の回転電機製造方法。
【請求項3】
一部の前記軸方向穴に、ボルトを挿入して、このボルトがナットと共に前記固定子鉄心を軸外側から圧縮するように固定することを特徴とする請求項2に記載の回転電機製造方法。
【請求項4】
前記軸方向穴は、軸方向に空気が流通可能に構成されていること、を特徴とする請求項2に記載の回転電機製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子鉄心を有する回転電機
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、回転子と、この回転子を半径方向外側から取り囲む固定子鉄心と、この固定子鉄心を収容する固定子枠と、を有する。
【0003】
固定子枠内には、冷却用のファンが設けられて、固定子枠内を冷却している。また、固定子枠の外側には、放熱のためのフィンが形成されている。ファン冷却の回転電機では、固定子枠と固定子鉄心との接触面圧は、通常、焼ばめ等の嵌合によって保持される。
【0004】
回転電機の運転中に固定子巻線等から発生する熱は、固定子鉄心から固定子枠に伝わり、放熱フィンから放熱される。
【0005】
固定子鉄心に固定子枠が接して、熱が固定鉄心から固定子枠に伝わるように構成される回転電機は、例えば、特許文献1に開示されているものが知られている。また、特許文献2に開示されているように、固定子巻線から固定子枠に熱伝素子等を設けて伝熱するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−141509号公報
【特許文献2】特開昭63−144733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大型の回転電機の場合には、固定子鉄心の外周面と固定子枠の内面との接触状態が周方向にばらつきが生じることがある。この場合、固定子鉄心の外周面と固定子枠の内面との接触面圧がばらつくことになる。ばらつきの発生原因の一つは、固定子枠の内面を仕上げ加工の状態により当該内面の表面粗さ等が周方向位置で異なること等がある。
【0008】
このばらつきにより、固定子鉄心から固定子枠への伝熱が非効率になる可能性がある。当該伝熱効率が低いと、固定子鉄心等を冷却するための冷却装置等をより高性能なものにしなければなない等の問題が生じ、その結果、製造コスト等が増大する可能性がある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、固定子鉄心等を効率よく冷却することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る回転電機
製造方法は、所定の軸周りを回転自在な回転子と、前記回転子を半径方向外側から取り囲むように配置された円筒状で、内周面に開口し軸方向に延びる
複数の内周溝が
互いに所定の周方向間隔をあけて形成された固定子鉄心と、一部が前記内周溝内にあるように配置された固定子巻線と、前記固定子鉄心を半径方向外側から取り囲むように配置さ
れた固定子枠と、それぞれが前記固定子枠の外周面から半径方向外側に張り出して軸方向に延びた板状で、互いに所定の周方向間隔をあけて前記固定子枠の外周面に形成された複数の放熱フィンと、を有する回転電機
を製造する製造方法において、前記固定子鉄心には、前記内周溝よりも半径方向外側に、軸方向穴が周方向に互いに間隔をあけて複数形成されて、前記軸方向穴それぞれの周方向位置が、前記伝熱フィンそれぞれに揃
い、しかも互いに周方向に隣接する2個の前記内周溝の間に配置されるように形成されていて、
当該製造方法は、前記固定子枠を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に前記固定子枠内に前記固定子鉄心を挿入する挿入工程と、前記挿入工程の後に前記固定子枠を冷却して前記固定子鉄心を前記固定子枠内に固着する固着工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固定子鉄心等を効率よく冷却することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る実施形態の回転電機の概略正断面図である。
【
図2】
図1のII−II矢視の一部を示す部分側面図である。
【
図3】
図2の外側貫通穴の変形を模式的に示す概略側面図である。
【
図4】
図2の固定子鉄心から固定子枠に熱が伝わる状態を模式的に示す部分側面図である。
【
図5】
図1の変形例で、鋼板群に間隔板を付加した概略正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る回転電機の一実施形態について図面(
図1〜
図4)を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施形態の回転電機の概略正断面図である。
図1は、固定子枠40のうち、固定子30等を収容する部分について断面で示している。
【0015】
図2は、
図1のII−II矢視の一部を示す部分側面図である。
図2では、回転子20の図示を省略している。
図3は、
図2の外側貫通穴34の変形を模式的に示す概略側面図である。
【0016】
図4は、
図2の固定子鉄心31から固定子枠40に熱が伝わる状態を模式的に示す部分側面図である。
図4では、回転子20の図示を省略している。
【0017】
先ず、本実施形態の回転電機の構成について説明する。
【0018】
回転電機は、
図1に示すように、回転軸10と、回転子20と、固定子30と、固定子枠40と、放熱フィン45と、ファン48と、を有する。
【0019】
回転軸10は、水平に延びる軸周りを回転するもので、図示しない軸受で回転自在に支持されている。軸受は、固定子枠40に取り付けられている。回転子20は、回転軸10に固定されて回転軸10と共に同軸で回転する。
【0020】
固定子30は、回転子20を半径方向外側から取り囲むように構成されて、固定子鉄心31と、固定子巻線38と、を有する。
【0021】
固定子鉄心31は、円筒状の部材で、複数の鋼板群32と、軸方向両側それぞれに配置される押え板37と、を有する。押え板37には、半径方向に延びる通風路(図示せず)が形成される。この通風路は、固定子鉄心31等を冷却するための冷却空気が流れる。
【0022】
鋼板群32は、複数の鋼板が積層されてなる。
【0023】
各鋼板は、一つの中央貫通穴33と、複数の外側貫通穴34と、複数の内周溝39とが形成された穴あき円板状である。中央貫通穴33および外側貫通穴34については、以下、鋼板に形成されたものについて説明し、押え板37に形成されている穴については、各鋼板と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
各鋼板等の中央貫通穴33は、鋼板等が積層された鋼板群32が押え板37と共に固定子鉄心31を構成するときに、各鋼板等の中央貫通穴33が軸方向に連通し、その内部に回転子20が挿入される。軸方向に連通する中央貫通穴33の内周面と、回転子20の外周面との間に、所定の空隙49を保つように回転子20が配置される。
【0025】
内周溝39は、中央貫通穴33の内周(縁)から半径方向外側に延びる溝である。固定子鉄心31を構成するとき各鋼板の内周溝39が軸方向に連通し、連通した内周溝39に固定子巻線38が挿入される。
【0026】
外側貫通穴34は、鋼板の内周溝39より半径方向外側に周方向に互いに等間隔をあけて複数形成されている。この例では、外側貫通穴34は、同じ寸法で周方向に等間隔に配列されるため、各鋼板を積層するときには、周方向に配列された外側貫通穴34は、軸方向に連通する。
【0027】
押え板37にも、各鋼板と同様に外側貫通穴34が形成されているため、固定子鉄心31を構成するときに、外側貫通穴34は連通し軸方向に貫通する。なお、押え板37の中央貫通穴33は、固定子巻線38に干渉しないように、各鋼板に形成された中央貫通穴33よりも穴直径が大きくなるように形成されている。
【0028】
これらの連通した外側貫通穴34のうちの一部には、ボルト(図示せず)が挿入される。図示は省略するが、ボルト頭およびナットが、軸方向両側の押え板37の軸方向外側にあるように配置されて、押え板37で挟まれた鋼板群32を軸方向内側に締め付けて固定する。
【0029】
ファン48は、回転子20の軸方向外側の回転軸10に取り付けられて、回転軸10の回転と共に回転して、固定子枠40内に冷却空気を流す。このとき、ボルトが挿入されていない外側貫通穴34には、当該冷却空気が流通する。
【0030】
固定子枠40は、固定子30を半径方向外側から取り囲むように配置され、固定子鉄心31を嵌合するように構成される。固定子鉄心31は、固定子枠40に焼ばめで固着される。すなわち、固定子枠40を加熱して固定子鉄心31が挿入される部分の内径を膨張させた状態で、固定子鉄心31を挿入し、その後冷却して固定子鉄心31を固定する。焼ばめで固定することで、固定子鉄心31の外周と、固定子枠40の内周との接触面圧を保持している。なお、押え板37は、鋼板群32のよりも外径は小さくなるように形成されている。すなわち、押え板37は、固定子枠40の内面には接触していない。
【0031】
また、この固定子枠40の軸方向端部は、上述の軸受を固定するための軸受ハウジング(図示せず)等が取り付けられている。
【0032】
放熱フィン45は、固定子枠40の外周(半径方向外側)に複数形成されている。各放熱フィン45は、半径方向外側に張り出して軸方向に延びた板状で、所定の周方向間隔をあけて平行に配列される。
【0033】
放熱フィン45が延びる方向と、外側貫通穴34が連通する方向とは互いに同じで軸方向である。本実施形態では、
図2に示すように、放熱フィン45の周方向位置と、外側貫通穴34の周方向位置とが、同じになるように構成されている。
【0034】
続いて、本実施形態の回転電機の固定子鉄心31の熱が、固定子枠40の放熱フィン45に伝達されるときの作用について説明する。
【0035】
回転電機が運転状態にあるとき、すなわち、固定子巻線38に電流が流れて回転軸10等が回転しているときは、固定子巻線38から発熱し、この熱が固定子鉄心31に伝わる。固定子鉄心31に伝わった熱は、固定子枠40の内面から放熱フィン45に伝わり、外気に放熱される。
【0036】
上述の通り、固定子鉄心31は、焼ばめにより固定子枠40に嵌合されている。このとき、外側外周穴は、
図3に示すように周方向に圧縮される力(
図3の矢印B1)を受ける。この力により、半径方向(
図3の矢印B2の方向)に長い長円(例えば楕円)状に変形することとなる。当該変形により、外側貫通穴34の半径方向外側の鋼板群32は、半径方向外側に向かって変形しようとする。その結果、固定子鉄心31の外周面、より具体的には鋼板群32の外周面において、放熱フィン45がある部分にかかる固定子枠40の内面との接触面圧が、放熱フィン45がない部分に係る固定子枠40の内面との接触面圧よりも大きくなる。
【0037】
当該接触面圧は、
図2のA部に示すような分布となる。
図2に示すA部は、鋼板群32の外周面と固定子枠40の内面との接触面圧の分布の一部を示し、A部の輪郭が上方にあるときは接触面圧が高い状態を示している。
【0038】
このため、
図4における矢印Cに示すように、固定子鉄心31の熱が固定子枠40に伝わるときに、接触面圧の大きい部分により多く伝わることとなる。これにより、放熱フィン45に熱を効率よく伝熱することができる。
【0039】
以上の説明からわかるように本実施形態によれば、固定子鉄心31等を効率よく冷却することが可能になる。また、冷却構造をより簡素化することも可能となるため、回転電機をより小型化することもできる。
【0040】
上記実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0041】
また、上記実施形態では、放熱フィン45および固定子枠40が一体に形成されているがこれに限らず、別部材でもよい。
【0042】
また、軸方向に外側貫通穴34は、ボルトが挿入されるものと、冷却空気が流れるものについて説明しているが、これに限らない。軽量化のために形成されてもよい。
【0043】
また、固定子鉄心31は、複数の鋼板群32と、軸方向両側それぞれに配置される押え板37と、を有する例で説明しているが、これに限らない。
図5は、
図1の変形例で、鋼板群32に間隔板50を付加した概略正断面図である。
図5に示すように、大型の回転電機の場合には、
図1の鋼板群32を二つに分けて、それらの間に間隔板50を配置してもよい。この場合、鋼板群32および間隔板50は、軸方向に交互に配置されて、軸方向両側の押え板37により軸方向内側に互いに押し付けられた状態で固定すればよい。間隔板50には、押え板37と同様に、半径方向に延びる通風路(図示せず)が形成される。この通風路は、上述の冷却空気が流れるように構成される。なお、間隔板50は、複数配置してもよく、その数は固定子鉄心31の軸方向寸法により決まる。
【0044】
また、固定子枠40は、密閉されたものでも、開放されるものでもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…回転軸
20…回転子
30…固定子
31…固定子鉄心
32…鋼板群
33…中央貫通穴
34…外側貫通穴
37…押え板
38…固定子巻線
39…内周溝
40…固定子枠
45…放熱フィン
48…ファン
49…空隙
50…間隔板