特許第5938271号(P5938271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938271
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ころ軸受、およびシャフト支持構造
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/26 20060101AFI20160609BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20160609BHJP
   F16C 33/60 20060101ALI20160609BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20160609BHJP
   F16C 3/04 20060101ALI20160609BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F16C19/26
   F16C33/46
   F16C33/60
   F16C33/64
   F16C3/04
   F16C9/02
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-115520(P2012-115520)
(22)【出願日】2012年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-241995(P2013-241995A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091409
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100096792
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 八郎
(74)【代理人】
【識別番号】100091395
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 博由
(72)【発明者】
【氏名】片山 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克史
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−195270(JP,A)
【文献】 実開平4−126021(JP,U)
【文献】 特開昭58−065318(JP,A)
【文献】 特開2009−036329(JP,A)
【文献】 特開2012−007664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/26
F16C 3/04
F16C 9/02
F16C 33/46
F16C 33/60
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のころと、
複数のポケットを有し該ポケットに複数の前記ころを保持する保持器と、
前記ころが転動する転動面を有し、周方向に分割された外輪とを備えるころ軸受であって、
前記保持器は、前記ポケットを構成する周方向の壁面のうち内径側に位置する部分から前記ポケット側に向かって突出して延びる内径側ころ止め部、前記ポケットを構成する周方向の壁面のうち、外径側に位置する部分から前記ポケット側に向かって突出して延びる外径側ころ止め部、および周方向に分割可能な分割部を含み、前記分割部により複数の保持器部材に分離可能であり、
周方向に配置される前記複数の保持器部材間にはすき間が介在し、
前記内径側ころ止め部の前記ポケット側への突出量が、前記外径側ころ止め部の前記ポケット側への突出量よりも多く、
前記複数の保持器部材のうちころ軸受の回転軸線よりも上方側に位置する保持器部材は内径案内となり、
前記複数の保持器部材のうちころ軸受の回転軸線よりも下方側に位置する保持器部材はころ案内となる、ころ軸受。
【請求項2】
前記分割部には、互いに係合可能な係合部が設けられている、請求項に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記係合部を構成する一方端部には、周方向に突出する凸部が設けられており、
前記係合部を構成する他方側の端部には、前記凸部を受け入れるように周方向に凹む凹部が設けられている、請求項に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記凸部は、軸方向に延びる突出部を含み、
前記凹部は、前記凸部および前記突出部を受け入れるように軸方向に凹む受け入れ凹部を含む、請求項に記載のころ軸受。
【請求項5】
前記分割部の端部の外径面は、内径側に凹んだ形状である、請求項1〜のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項6】
前記保持器は、樹脂製である、請求項1〜のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項7】
前記外輪は、プレス製である、請求項1〜のいずれかに記載のころ軸受。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のころ軸受と、
クランクシャフト、カムシャフト、およびバランスシャフトのうちの少なくともいずれか一つのシャフトとを含み、
前記シャフトは、前記ころ軸受によって回転可能に支持される、シャフト支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受、およびシャフト支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今において、エンジンのクランクシャフトを支持する部分やコネクティングロッド(コンロッド)の大端部には、軸受投影面積が小さい割に高負荷容量が得られる針状ころ軸受、いわゆるニードル軸受が用いられる。針状ころ軸受は、複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器と、針状ころを転動させる転動面を有する外輪とから構成されている。また、針状ころを予め保持器に保持させた保持器付きころと、外輪というタイプで構成される場合もある。このような針状ころ軸受は、転動体を備えない滑り軸受と比較して、耐荷重性は低いものの、低フリクション化、低トルク化を図りやすい。また、潤滑用の油の量の低減を図りやすいため、自動車のエンジン等、自動車部品において、多用されている。
【0003】
針状ころ軸受の支持の対象となるクランクシャフトは、軸方向の途中部分にカウンターウェイト等が備えられるため、軸受部材の軸方向からの組み込みが非常に困難である。したがって、外輪および保持器を周方向に分割したものを準備し、シャフトの径方向、具体的には、シャフトの外径側からそれぞれ組み込んで、針状ころ軸受が取り付けられる。
【0004】
自動車の部品に用いられるころ軸受を開示した技術が、特開2002−195270号公報(特許文献1)や登録実用新案第2584225号(特許文献2)、特開2007−2914号公報(特許文献3)、特開2009−19701号公報(特許文献4)、特開2009−19708号公報(特許文献5)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−195270号公報
【特許文献2】登録実用新案第2584225号
【特許文献3】特開2007−2914号公報
【特許文献4】特開2009−19701号公報
【特許文献5】特開2009−19708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2によると、針状ころを保持する保持器について、外径案内方式を採用することにしている。すなわち、保持器を外輪の内径面と接触させて、保持器の案内を図り、径方向の位置を安定させようとするものである。
【0007】
しかし、このような方式を採用すると、以下の点で好ましくない。すなわち、保持器は、軸受稼働中の回転により、公転運動を行うと共に、軸受の負荷領域、非負荷領域とは関係なく、常に遠心力を受ける。そうすると、既に外径案内で外輪の内径面と接触させている保持器について、この遠心力により、保持器の外径面は、外輪の内径面に強く押し当てられることになる。この場合、外輪も分割されているため、この外輪の分割領域を通過する際に、保持器との接触で、振動や騒音が生じたりするおそれがある。特に、外輪の分割部分における内径面の段差が大きい場合、この傾向は顕著となる。
【0008】
ここで、特許文献3、特許文献4、および特許文献5によると、分割された外輪の分割部分に面取りやR形状を設けることとしている。そして、この部分にころが接触した際の振動や騒音の低減を図ろうとしている。しかし、この段差部分に保持器が接触した場合、上記した振動や騒音の問題が生じるおそれがある。また、このような保持器の段差部分との接触による保持器の摩耗により摩耗粉が発生し、この摩耗粉が噛み込んでフレーキングを発生させる要因ともなる。このような状況下においては、昨今のさらなる高速回転の要求に応じて、長寿命化を図ることができない。また、分割された外輪を組み合わせたときの外輪の真円度が低ければ、上記した段差部分に保持器が引っ掛かることになり、保持器の円滑な回転が阻害されるおそれもある。
【0009】
この発明の目的は、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現したころ軸受を提供することである。
【0010】
この発明の他の目的は、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現したシャフト支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るころ軸受は、複数のころと、複数のポケットを有し該ポケットに複数のころを保持する保持器と、ころが転動する転動面を有し、周方向に分割された外輪とを備える。保持器は、ポケットを構成する周方向の壁面のうち内径側に位置する部分からポケット側に向かって突出して延びる内径側ころ止め部、ポケットを構成する周方向の壁面のうち、外径側に位置する部分からポケット側に向かって突出して延びる外径側ころ止め部、および周方向に分割可能な分割部を含む。ここで、保持器は、分割部により複数の保持器部材に分離可能であり、周方向に配置される複数の保持器部材間にはすき間が介在する。また、内径側ころ止め部のポケット側への突出量が、外径側ころ止め部のポケット側への突出量よりも多い。そして複数の保持器部材のうちころ軸受の回転軸線よりも上方側に位置する保持器部材は内径案内となり、複数の保持器部材のうちころ軸受の回転軸線よりも下方側に位置する保持器部材はころ案内となる。
【0012】
このような構成のころ軸受によると、保持器は、周方向に分割可能な分割部を含むため、シャフトを支持する場合において外径側からシャフトに組み込むことができ、取り付けが容易になる。また、保持器はころ案内または内径案内であるため、軸受稼働時において、保持器と外輪とが接触することはない。そうすると、保持器が遠心力によって外輪の内径面に強く押し当てられることもなく、保持器と分割された外輪の分割部分との接触における振動や騒音、保持器の摩耗をなくすことができる。
【0013】
また、フレーキングの要因となる摩耗粉が発生することはなく、外輪の真円度や分割部分の段差の程度に関わりなく、保持器が円滑に回転することができる。その結果、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【0014】
また、分割部には、互いに係合可能な係合部が設けられているよう構成してもよい。
【0015】
また、合部を構成する一方端部には、周方向に突出する凸部が設けられており、係合部を構成する他方側の端部には、凸部を受け入れるように周方向に凹む凹部が設けられているよう構成してもよい。
【0016】
また、凸部は、軸方向に延びる突出部を含み、凹部は、凸部および突出部を受け入れるように軸方向に凹む受け入れ凹部を含むよう構成してもよい。
【0017】
また、分割部の端部の外径面は、内径側に凹んだ形状であるよう構成してもよい。
【0018】
また、保持器は、樹脂製であるよう構成してもよい。
【0019】
また、外輪は、プレス製であるよう構成してもよい。
【0020】
この発明の他の局面においては、シャフト支持構造は、上記したころ軸受と、クランクシャフト、カムシャフト、およびバランスシャフトのうちの少なくともいずれか一つのシャフトとを含む。シャフトは、ころ軸受によって回転可能に支持される。
【0021】
このようなシャフト支持構造は、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
このような構成のころ軸受によると、保持器は、周方向に分割可能な分割部を含むため、シャフトを支持する場合において外径側からシャフトに組み込むことができ、取り付けが容易になる。また、保持器はころ案内または内径案内であるため、軸受稼働時において、保持器と外輪とが接触することはない。そうすると、保持器が遠心力によって外輪の内径面に強く押し当てられることもなく、保持器と分割された外輪の分割部分との接触における振動や騒音、保持器の摩耗をなくすことができる。また、フレーキングの要因となる摩耗粉が発生することはなく、外輪の真円度や分割部分の段差の程度に関わりなく、保持器が円滑に回転することができる。その結果、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【0023】
また、このようなシャフト支持構造は、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明の一実施形態に係るころ軸受を含み、シャフトとしてのクランク軸を支持するクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図である。
図2図1に示すクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図であり、クランクシャフト支持構造の一部を分解した状態を示す。
図3図1および図2に示すクランクシャフト支持構造に備えられ、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受を示す断面図である。
図4図3中のIV−IVに示す針状ころ軸受の軸受稼働中における図3中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図5図3に示す針状ころ軸受の軸受稼働中における図3中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図6図3中のVI−VIに示す針状ころ軸受の軸受稼働中における図3中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図7図3に示す針状ころ軸受の軸受稼働中における図3中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図8】クランクシャフト支持構造に備えられ、この発明の他の実施形態に係る針状ころ軸受を示す断面図である。
図9】針状ころ軸受の軸受稼働中における図8中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図10】針状ころ軸受の軸受稼働中における図8中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図11】針状ころ軸受の軸受稼働中における図8中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図12】針状ころ軸受の軸受稼働中における図8中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。
図13】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の概略斜視図である。
図14】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の概略斜視図である。
図15】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えらえる保持器の一部を示す断面図である。
図16】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えらえる保持器の一部を示す断面図である。
図17】この発明のさらに他の実施形態に係るころ軸受を含み、シャフトとしてのクランク軸を支持するクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図である。
図18図17に示すクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図であり、クランクシャフト支持構造の一部を分解した状態を示す。
図19図17に示すクランクシャフト支持構造に備えられ、この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器を示す断面図である。
図20図19に示す保持器のクランクシャフトへの取り付け状態を示す断面図である。
図21】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の概略斜視図である。
図22】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の概略斜視図である。
図23】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の一部を示す概略図である。
図24】この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1および図2は、この発明の一実施形態に係るころ軸受を含み、シャフトとしてのクランク軸を支持するクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図である。なお、図1および図2は、クランクシャフトに垂直な面で切断した断面である。また、理解の容易の観点から、図2については、図1に示す状態に対して、クランクシャフト支持構造の一部を分解した状態を示している。なお、図1および図2において、紙面上下方向を上下方向とし、図1中の矢印Aで示す方向が下方向となる。また、理解の容易の観点から、後述する針状ころ等、部材の一部のハッチングの図示を省略している。
【0026】
図1図2を参照して、クランクシャフト支持構造11は、図1に示す紙面表裏方向に延びる形状のクランクシャフト12と、クランクシャフト12を回転自在に支持する針状ころ軸受21と、針状ころ軸受21を取り付けるエンジンブロック13およびキャップ14とを含む。クランクシャフト12は、図1における紙面表裏方向に延びる回転軸線15を中心として回転する。エンジンブロック13は、下方側に配置され、キャップ14は、上方側に配置される。エンジンブロック13およびキャップ14には、それぞれ針状ころ軸受21を嵌め込む形状に凹む断面半円弧状の凹部16、17が設けられている。キャップ14を針状ころ軸受21の上方側に被せてエンジンブロック13の上方側に載せ、針状ころ軸受21を挟み込むようにして、エンジンブロック13とキャップ14とをボルト(図示せず)によって上下方向に締結することにより、針状ころ軸受21はクランクシャフト支持構造11に取り付けられる。なお、針状ころ軸受21のうち、外輪は回転せずに固定され、保持器および保持器に保持される針状ころは回転する。
【0027】
次に、クランクシャフト支持構造11に備えられる針状ころ軸受21の構成について説明する。図3は、図1および図2に示すクランクシャフト支持構造11に備えられ、この発明の一実施形態に係る針状ころ軸受を示す断面図である。図3は、針状ころ軸受21によって支持されるクランクシャフトの回転軸線15を含み、回転軸線15に平行な平面で切断した場合の断面図である。
【0028】
図1図3を参照して、針状ころ軸受21は、環状の外輪22と、転動体である複数の針状ころ23と、複数の針状ころ23を保持する保持器24とを備える。複数の針状ころ23は、外輪22、具体的には、外輪22を構成する分割外輪部材26a、26bのそれぞれの内径面27a、27bを軌道面として転動する。すなわち、外輪22は、針状ころ23が転動する転動面を有する。また、複数の針状ころ23は、クランクシャフト12の外径面18を軌道面として転動する。複数の針状ころ23は、針状ころ23をそれぞれ収容するように保持器24に設けられたポケット25に収容され、保持される。
【0029】
外輪22は、上記したように、2つの分割外輪部材26a、26bから構成される。各分割外輪部材26a、26bは、環状の外輪22を、周方向の二箇所、具体的には、クランクシャフト12の回転軸線15でもある針状ころ軸受21の回転軸線15を含み、回転軸線15と平行な平面で切断した形状である。すなわち、外輪22は、1つの環状の外輪部材を、180°対向する位置に設けられる2つの分割部28a、28bにおいて切断して、2つの分割外輪部材26a、26bとした構成である。換言すると、外輪22は、2つの分割外輪部材26a、26bに分割可能であり、それぞれの分割外輪部材26a、26bを周方向に配置して一つの環状の外輪22を構成する。なお、それぞれの分割外輪部材26a、26bについては、一方側の分割外輪部材26aの周方向の端部29aと部29aに対向する他方側の分割外輪部材26bの端部29b同士を突き合わせて当接し、一方側の分割外輪部材26aの周方向の端部30aと端部30aに対向する他方側の分割外輪部材26bの端部30b同士を突き合わせて当接して形成される構成である。なお、端部29a、29b、30a、30bは、ほぼ平らである。
【0030】
外輪22については、プレス製である。すなわち、プレス加工により製造される。この場合、各分割外輪部材26a、26bがそれぞれ、プレス製である。このように構成することにより、外輪22を、より安価に製造することができる。また、プレス加工可能な板材から外輪部材を形成した場合、薄型の外輪とすることができ、省スペース化による周辺構造の設計自由度を向上させることができる。
【0031】
針状ころ23を保持する保持器24についても同様に、2つの分割保持器部材31a、31bから構成される。各分割保持器部材31a、31bは、環状の保持器24を、周方向の二箇所、具体的には、針状ころ軸受21の回転軸線15を含み、回転軸線15と平行な平面で切断した形状である。具体的には、円環状の部材を、ほぼ180°の部分で切断した形状に相当する。すなわち、保持器24は、1つの環状の保持器部材を、180°対向する位置に設けられる2つの分割部32a、32bにおいて切断し、2つの分割保持器部材31a、31bに分割した構成である。換言すると、保持器24は、2つの分割保持器部材31a、31bに分割可能であり、それぞれの分割保持器部材31a、31bを周方向に配置して一つの環状の保持器24を構成する。周方向に配置されるそれぞれの分割保持器部材31a、31b間には、すき間を有する。すなわち、それぞれの分割保持器部材31a、31bについては、180°に若干満たない半円弧状部材から構成されている。そして、一方側の分割保持器部材31aの周方向の端部33aと端部33aに対向する他方側の分割保持器部材31bの端部33b同士を突き合わせて、一方側の分割保持器部材31aの周方向の端部34aと端部34aに対向する他方側の分割保持器部材31bの端部34b同士を突き合わせて構成されるが、端部33aと端部34a、端部33bと端部34b間にはそれぞれすき間が形成される。分割保持器部材31a、31bはそれぞれ連結されておらず、軸受稼働中において、それぞれフリーな状態で動く。分割保持器部材31a、31bはそれぞれ、軸受稼働中において、回転軸線15を中心に公転運動を行う。
【0032】
このように構成することにより、具体的には、外輪22および針状ころ23を保持する保持器24について、周方向に分離可能な構成として、針状ころ軸受21の各構成部材をクランクシャフト12の外径側から組み込むことができる。そうすると、クランクシャフト12の軸方向に位置するカウンターウェイト(図示せず)等との干渉を防止して組み込むことができる。
【0033】
なお、保持器24の材質については、樹脂製である。すなわち、各分割保持器部材31a、31bはそれぞれ、樹脂製である。こうすることにより、保持器24自体の軽量化を図ることができる。また、射出成型等も可能となり、量産性等の生産性の向上も図ることができ、低コスト化を実現することもできる。また、ポケットの形状や、ポケットに設けられるころ止めなどの設計自由度も確保できる。
【0034】
ここで、保持器24の詳細な構成について説明する。図4図5図6、および図7はそれぞれ、針状ころ軸受21の軸受稼働中における図3中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。図4および図6は、図3中のIV−IVおよびVI−VIに示す針状ころ軸受21の上部側の一部の領域を、図3中の矢印Aで示す回転軸線15の一方方向から見た断面図であり、図1中の二点鎖線で示すAの領域に相当する。図5および図7は、図3に示す針状ころ軸受21の下部側の一部の領域を、図3中の矢印Aで示す回転軸線15の一方方向から見た断面図であり、図1中の三点鎖線で示すAの領域に相当する。また、図4および図5は、分割保持器部材のうちの周方向に連なる部分を含む部分で切断した場合であり、図6および図7は、分割保持器部材のうちの周方向に連なる部分を避けた部分で切断した場合である。
【0035】
図1図7を参照して、分割保持器部材31a、31bには、ポケット25内に収容した針状ころ23の抜け落ちを防止する内径側ころ止め部および外径側ころ止め部が設けられている。ここで、上方側に位置する分割保持器部材31aを用いて説明する。特に図6を参照して、それぞれ対向する位置に設けられる内径側ころ止め部36a、37aは、ポケット25を構成する周方向の壁面38a、39aのうち、内径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように設けられている。それぞれ対向する位置に設けられる外径側ころ止め部40a、41aは、ポケット25を構成する周方向の壁面38a、39aのうち、外径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように設けられている。この場合、内径側ころ止め部36a、37aのポケット25側への突出量が、外径側ころ止め部40a、41aのポケット25側への突出量よりも多く突出するように構成されている。この内径側ころ止め部36a、37aおよび外径側ころ止め部40a、41aにより、針状ころ23は、ポケット25内において、径方向に多少動くことができる。換言すれば、相対的に針状ころ23に対して、分割保持器部材31aが、径方向に動くことができる。この場合の径方向は、図6に示す断面において、紙面上下方向となる。なお、内径側ころ止め部36a、37aが設けられている軸方向の位置と、外径側ころ止め部40a、41aが設けられている軸方向の位置とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
また、同様に、下方側に位置する分割保持器部材31bについても、ポケット25を構成する周方向の壁面38b、39bのうち、内径側に位置する部分および外径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように、内径側ころ止め部36b、37bおよび外径側ころ止め部40b、41bが設けられている。
【0037】
ここで、保持器24は、内径案内またはころ案内となるよう構成されている。この場合、保持器24は、2つの分割保持器部材31a、31bで構成されており、それぞれが拘束されておらず、フリーな状態で動くため、それぞれの軸受内における位置によって、内径案内となったり、ころ案内となったりする。この場合、内径側ころ止め部36a、37aのポケット25側への突出量の調整等により、ころ案内の構成等とする。
【0038】
これについて、説明する。それぞれの分割保持器部材31a、31bは、上記したように回転軸線15を中心に公転運動を行う。ここで、分割保持器部材31aが上方側に位置した場合について考えると、分割保持器部材31a自身の自重により、内径側、すなわち、図4および図6における紙面下方向に動く力が働く。そして、分割保持器部材31aの内径面35aと、クランクシャフト12の外径面18とが当接することになる。この場合、分割保持器部材31aは、内径案内となり、分割保持器部材31aの内径面35aが、案内部となる。
【0039】
一方、分割保持器部材31bが下方側に位置した場合、分割保持器部材31b自身の自重および遠心力により、外径側、すなわち、図5および図7における紙面下方向に動くような力が働く。この場合、内径側ころ止め部36b、37bによって、外径側に動く分割保持器部材31bの移動、具体的には、下方向の移動が規制され、内径側ころ止め部36b、37bと針状ころ23とが当接することとなる。この場合、分割保持器部材31bは、ころ案内となり、分割保持器部材31bの内径側ころ止め部36b、37bが、案内部となる。すなわち、分割保持器部材31bの内径面35bとクランクシャフト12の外径面18との間には、すき間を有することになる。このようにして、保持器24を構成する各分割保持器部材31a、31bは、公転運動において、上方側に位置した場合は内径案内となり、下方側に位置した場合には、ころ案内となる。なお、側方側に位置した場合においては、遠心力や自重との兼ね合いで、ころ案内となるかまたは内径案内となるが、いずれにしても、周方向のいずれの箇所においても、分割保持器部材31a、31bは外輪22を構成する分割外輪部材26a、26bのそれぞれの内径面27a、27bと当接することはない。
【0040】
このような構成の針状ころ軸受21によると、保持器24は、周方向に分割可能な分割部32a、32bを含むため、クランクシャフト12を支持する場合において外径側からクランクシャフト12に組み込むことができ、取り付けが容易になる。また、保持器24はころ案内または内径案内であるため、軸受稼働時において、保持器24と外輪22とが接触することはない。そうすると、保持器24が遠心力によって外輪22の内径面27a、27bに強く押し当てられることもなく、保持器24と分割された外輪22の分割部28a、28bとの接触における振動や騒音、保持器24の摩耗をなくすことができる。また、フレーキングの要因となる摩耗粉が発生することはなく、外輪22の真円度や分割部28a、28bの段差の程度に関わりなく、保持器24が円滑に回転することができる。その結果、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【0041】
なお、上記の実施の形態においては、針状ころ軸受の保持器の分割保持器部材について、上方側に位置したときに内径案内となり、下方側に位置したときにころ案内とするよう構成することにしたが、これに限らず、上方側および下方側の双方において、ころ案内となるよう構成してもよい。
【0042】
図8は、この場合における針状ころ軸受42を示す断面図である。図8は、図3に示す断面に相当する。図9図10図11、および図12はそれぞれ、針状ころ軸受42の軸受稼働中における図8中の針状ころ軸受の一部を示す拡大断面図である。図9および図11は、図8に示す針状ころ軸受42の上部側の一部の領域を、図8中の矢印Aで示す回転軸線15の一方方向から見た断面図であり、図1中の二点鎖線で示すAの領域に相当する。図10および図12は、図8に示す針状ころ軸受42の下部側の一部の領域を、図8中の矢印Aで示す回転軸線15の一方方向から見た断面図であり、図1中の三点鎖線で示すAの領域に相当する。また、図9および図10は、分割保持器部材のうちの周方向に連なる部分を含む部分で切断した場合であり、図11および図12は、分割保持器部材のうちの周方向に連なる部分を避けた部分で切断した場合である。なお、図9に示す断面は、図4に示す断面に相当し、図10に示す断面は、図5に示す断面に相当し、図11に示す断面は、図6に示す断面に相当し、図12に示す断面は、図7に示す断面に相当する。なお、図8図12中において、図3等に示す部材と同じ部材については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
図8図12を参照して、針状ころ軸受42は、環状の外輪と、転動体である複数の針状ころ23と、複数の針状ころ23を保持する保持器とを備える。外輪は、上記した図3等に示す針状ころ軸受21と同様に、2つの分割外輪部材43a、43bから構成される。また、針状ころ23を保持する保持器についても、上記した図3等に示す針状ころ軸受21と同様に、2つの分割保持器部材44a、44bから構成される。
【0044】
分割保持器部材44a、44bには、ポケット25内に収容した針状ころ23の抜け落ちを防止する内径側ころ止め部および外径側ころ止め部が設けられている。ここで、上方側に位置する分割保持器部材44aを用いて説明する。特に図11を参照して、それぞれ対向する位置に設けられる内径側ころ止め部45a、46aは、ポケット25を構成する周方向の壁面47a、48aのうち、内径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように設けられている。それぞれ対向する位置に設けられる外径側ころ止め部49a、50aは、ポケット25を構成する周方向の壁面47a、48aのうち、外径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように設けられている。この場合、内径側ころ止め部45a、46aのポケット25側への突出量が、外径側ころ止め部49a、50aのポケット25側への突出量と同じ程度突出するように構成されている。この内径側ころ止め部45a、46aおよび外径側ころ止め部49a、50aにより、針状ころ23は、ポケット25内において、径方向に多少動くことができる。換言すれば、相対的に針状ころ23に対して、分割保持器部材44aが、径方向に動くことができる。この場合の径方向は、図11に示す断面において、紙面上下方向となる。
【0045】
また、同様に、下方側に位置する分割保持器部材44bについても、ポケット25を構成する周方向の壁面47b、48bのうち、内径側に位置する部分および外径側に位置する部分からポケット25側に向かって突出して延びるように、内径側ころ止め部45b、46bおよび外径側ころ止め部49b、50bが設けられている。
【0046】
ここで、保持器は、内径案内またはころ案内となるよう構成されている。この場合、保持器は、2つの分割保持器部材44a、44bで構成されており、それぞれの分割保持器部材44a、44bがころ案内となる。
【0047】
これについて、説明する。それぞれの分割保持器部材44a、44bは、上記したように回転軸線15を中心に公転運動を行う。ここで、分割保持器部材44aが上方側に位置した場合について考えると、分割保持器部材44a自身の自重により、内径側、すなわち、図9および図11における紙面下方向に動く力が働く。この場合、外径側ころ止め部49a、50aによって、内径側に動く分割保持器部材44aの移動、具体的には、下方向の移動が規制され、外径側ころ止め部49a、50aと針状ころ23とが当接することとなる。この場合、この場合、分割保持器部材44aは、ころ案内となり、分割保持器部材44aの外径側ころ止め部49a、50aが、案内部となる。
【0048】
一方、分割保持器部材44bが下方側に位置した場合、分割保持器部材44b自身の自重および遠心力により、外径側、すなわち、図10および図12における紙面下方向に動くような力が働く。この場合、内径側ころ止め部45b、46bによって、外径側に動く分割保持器部材44bの移動、具体的には、下方向の移動が規制され、内径側ころ止め部45b、46bと針状ころ23とが当接することとなる。この場合も、分割保持器部材44bは、ころ案内となり、分割保持器部材44bの内径側ころ止め部45b、46bが、案内部となる。このようにして、保持器を構成する各分割保持器部材44a、44bは、公転運動において、いずれの箇所、側方側に位置した場合においても、ころ案内となる。すなわち、この場合も、周方向のいずれの箇所において、分割保持器部材44a、44bは、外輪を構成する分割外輪部材43a、43bのそれぞれの内径面51a、51bと当接することはない。また、この場合、分割保持器部材44a、44bの内径面52a、52bとクランクシャフト12の外径面18とが接触することもない。
【0049】
このような構成の針状ころ軸受42によっても、保持器がころ案内であるため、軸受稼働時において、保持器と外輪とが接触することはない。そうすると、保持器が遠心力によって外輪の内径面に強く押し当てられることもなくなり、保持器と分割された外輪の分割部との接触における振動や騒音、保持器の摩耗をなくすことができる。また、フレーキングの要因となる摩耗粉が発生することはなく、外輪の真円度や分割部の段差の程度に関わりなく、保持器が円滑に回転することができる。その結果、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【0050】
なお、上記の実施の形態においては、保持器を構成する2つの分割保持器部材において、それぞれの周方向の端部は、平らであって、それぞれの部材の間にすき間を有する構成としたが、これに限らず、保持器を周方向に分割する分割部において、互いに係合可能な係合部を設ける構成としてもよい。
【0051】
図13および図14は、この場合におけるころ軸受の保持器を示す概略斜視図である。
図13は、後述する係合部を係合させた状態を示し、図14は、係合部を係合させず、いわゆる分割保持器部材同士を離隔させた状態を示す。また、図13および図14において、理解の容易の観点から、ころ止め部等の図示を省略している。
【0052】
図13および図14を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る針状ころ軸受に備えられる保持器53は、2つの分割保持器部材54a、54bから構成される。保持器53は、環状の部材を、180°対向する位置に設けられる2つの分割部55a、55bによって、2つの分割保持器部材54a、54bに分割した形状である。
【0053】
ここで、分割部55a、55bには、2つの分割保持器部材54a、54bを係合する係合部が設けられている。具体的には、一方側の分割保持器部材54aのうち、他方側の分割保持器部材54bに対向する周方向の一方側の端部には、周方向に突出する凸部56aが設けられている。凸部56aは、分割保持器部材54aのうち、軸方向の中央部に設けられている。一方、他方側の分割保持器部材54bのうち、一方側の分割保持器部材54aに対向する周方向の一方側の端部には、周方向に突出する凸部56aを受け入れるように周方向に凹む凹部56bが設けられている。凹部56bについても、分割保持器部材54bのうち、軸方向の中央部に設けられている。一方、他方側の分割保持器部材54bには、凹部56bとの相対的な位置関係において、周方向に突出する一対の凸部57b、58bが設けられている。一方、一方側の分割保持器部材54aには、上記した一対の凸部57a、57bのそれぞれに対応するように、凸部56aとの相対的な位置関係において、周方向に凹み、一対の凸部57b、58bを受け入れる形状の一対の凹部57a、58aが設けられている。
【0054】
この凸部56a、57b、58b、凹部56b、57a、58aが、係合部を構成する。なお、180°対向する位置に設けられる分割部55bについても、同様の係合部が設けられている。この場合、2つの分割保持器部材54a、54bがそれぞれ同じ形状となるように構成される。すなわち、周方向の一方端部に凸部および一対の凹部が設けられ、周方向の他方端部に凹部および一対の凸部が設けられる構成である。上記した凹凸形状は、外径側から見た場合を指している。そして、内径側から見た場合には、それぞれの凹凸形状が逆になるように構成されている。
【0055】
このように構成することにより、それぞれの係合部を係合させて、それぞれの分割保持器部材の軸方向の動きおよび径方向の動き等を規制することができる。したがって、より安定した保持器の案内を行うことができる。
【0056】
なお、分割保持器部材の周方向の端部は、内径側に凹んだ形状としてもよい。図15は、この場合の針状ころ軸受に備えらえる保持器の一部を示す断面図である。図15を参照して、保持器61のうち、分割保持器部材62a、62bのそれぞれの周方向の端部63a、63bの外径面64a、64bには、内径側に凹んだ形状となるように、それぞれ面取り65a、65bが設けられている。このようにしてもよい。こうすることにより、分割保持器部材62a、62bのうち、周方向の端部63a、63bが、外輪の内径面と接触したり、外輪の分割部における段差に引っ掛かるおそれがさらに低減される。したがって、より保持器の安定した案内を行うことができる。この場合、図16に示すように、面取りではなく、滑らかに内径側に凹んだ形状であるR形状となるように、分割保持器部材の周方向の端部を、内径側に凹んだ形状としてもよい。すなわち、保持器66のうち、分割保持器部材67a、67bのそれぞれの周方向の端部68a、68bの外径面69a、69bには、内径側に滑らかに凹んだR形状であるR形状部70a、70bが設けられているよう構成してもよい。
【0057】
また、上記の実施の形態においては、保持器を、2つの分割保持器部材から構成することとしたが、これに限らず、保持器を一体型として、周方向に分割可能な分割部を含むよう構成してもよい。
【0058】
図17および図18は、この発明のさらに他の実施形態に係るころ軸受を含み、シャフトとしてのクランク軸を支持するクランクシャフト支持構造の一部を示す断面図である。なお、図17および図18は、クランクシャフトに垂直な面で切断した断面であり、それぞれ図1および図2に対応する。
【0059】
図17図18を参照して、クランクシャフト支持構造71は、図1に示す紙面表裏方向に延びる形状のクランクシャフト12と、クランクシャフト12を回転自在に支持する針状ころ軸受72と、針状ころ軸受72を取り付けるエンジンブロック13およびキャップ14とを含む。クランクシャフト12は、図17における紙面表裏方向に延びる回転軸線15を中心として回転する。エンジンブロック13等、針状ころ軸受を構成する保持器以外の部材については、上記した図1に示すものと同等であるため、同一の符号を付して、それらの説明を省略する。
【0060】
図19に示すように、針状ころ23を保持する保持器73については、複数のポケットのそれぞれに針状ころを収容した1つの保持器部材から構成される。保持器73は、1つの環状の保持器部材を、周方向の任意の一箇所で切断した構成である。図20に示すように、保持器73は、周方向の任意の一箇所において、分割可能であり、それぞれの端部74a、74bを開けるようにして、具体的には、矢印A、Aに示す方向に周方向の端部74a、74b同士を開いて、クランクシャフト12の外径側からクランクシャフト12の外径面18に配置可能な構成である。周方向に位置するそれぞれの周方向端部74a、74b間には、すき間を有し、周方向端部74a、74b同士はそれぞれ連結されていない。保持器部材は軸受稼働中において、回転軸線を中心に公転運動を行う。
【0061】
ここで、保持器73についても、内径案内またはころ案内となるように構成されている。内径案内またはころ案内となる構成については、上記した図3図8に示す通りとなる。ここで、図3等に示す分割保持器部材との相違において、図19に示す保持器部材は、一体物であるが、周方向端部が連結されておらず、フリーであるため、軸受の上方側および下方側において、図3等に示す分割保持器部材と、同様の挙動となる。
【0062】
このように構成することにしてもよい。こうすることによっても、保持器が内径案内またはころ案内であるため、軸受稼働時において、保持器と外輪とが接触することはない。そうすると、保持器が遠心力によって外輪の内径面に強く押し当てられることもなくなり、保持器と分割された外輪の分割部との接触における振動や騒音、保持器の摩耗をなくすことができる。また、フレーキングの要因となる摩耗粉が発生することはなく、外輪の真円度や分割部の段差の程度に関わりなく、保持器が円滑に回転することができる。その結果、振動や騒音の低減を図り、長寿命化を実現することができる。
【0063】
また、一つの部材から構成される図19に示すような保持器において、それぞれの周方向の端部は、平らであって、それぞれの部材の間にすき間を有する構成としたが、これに限らず、上記した図13等に示すように、保持器を周方向に分割する分割部において、互いに係合可能な係合部を設ける構成としてもよい。
【0064】
図21および図22は、この場合における針状ころ軸受の保持器を示す概略斜視図である。図21は、係合部を係合させた状態を示し、図22は、係合部を係合させず、いわゆる分割保持器部材同士を離隔させた状態を示す。また、図21および図22において、理解の容易の観点から、ころ止め部等の図示を省略している。図21は、図13に相当し、図22は、図14に相当する。
【0065】
このように、保持器76において、分割部77が一つであっても、それぞれの端部78a、78b同士を係合する係合部を設けることにしてもよい。係合部の形状等、具体的な係合状態については、図13および図14に示す場合と同様である。このように構成することにしてもよい。
【0066】
また、係合部については、さらにこのような構成としてもよい。図23は、この場合の針状ころ軸受に備えられる保持器の一部を外径側から見た図である。図23を参照して、保持器81の分割部82を構成する周方向の端部83a、83b同士には、周方向の突出する凸部84aと、凸部84aを受け入れるように周方向に凹む凹部84bが設けられている。そして、凸部84aと凹部84bとの間には、周方向の若干のすき間を有するよう構成されている。このように構成することにしてもよい。
【0067】
また、図24を参照して、保持器86において、分割部87のうち、周方向の一方側の端部88aに設けられた凸部89aには、軸方向にさらに突出する突出部90a、90bが設けられている。そして、この凸部89aおよび突出部90a、90bを受け入れるように、他方側の端部88bには、周方向および軸方向に凹む受け入れ凹部89bが設けられている。このように構成してもよい。こうすることにより、より係合状態を強く維持することができる。すなわち、切断された部分における端部の移動を効率的に規制することができる。ここで、軸方向とは、図24において、紙面左右方向を示すものである。
【0068】
なお、上記の実施の形態において、保持器の材質として、樹脂製とすることとしたが、保持器自体の剛性等が求められる場合には、保持器の材質を金属製とすることにしてもよい。さらには、樹脂製の部分、および金属製の部分を含む構成とすることにしてもよい。
【0069】
また、上記の実施の形態において、外輪をプレス製とすることとしたが、外輪自体の剛性が求められる場合や外輪における高い真円度等が求められる場合には、ソリッド製とすることにしてもよい。すなわち、一体物の金属部材を削り出して、外輪を製造することにしてもよい。この場合、外輪に対して研削加工を施した後、衝撃荷重を加えて外輪を分割することにしてもよい。
【0070】
なお、保持器については、周方向に三つ以上の部品を組み合わせて一つの環状の保持器を構成するようにしてもよい。すなわち、例えば、三つ以上の分割された保持器の分割部品から構成されていてもよい。
【0071】
また、上記の実施の形態においては、ころとして、針状ころを用いることとしたが、これに限らず、例えば、円筒ころや棒状ころを採用しても構わない。
【0072】
なお、上記の実施の形態においては、クランク軸を支持するクランクシャフト支持構造を用いて説明したが、カムシャフトを支持するカムシャフト支持構造、バランスシャフトを支持するバランスシャフト支持構造に用いることにしてもよい。
【0073】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明に係る針状ころ軸受、およびシャフト支持構造は、長寿命化が要求される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0075】
11,71 クランクシャフト支持構造、12 クランクシャフト、13 エンジンブロック、14 キャップ、15 回転軸線、16,17 凹部、18,64a,64b,69a,69b 外径面、21,42,72 針状ころ軸受、22 外輪、23 針状ころ、24,53,61,66,73,76,81,86 保持器、25 ポケット、26a,26b,43a,43b 分割外輪部材、27a,27b,35a,35b,51a,51b,52a,52b 内径面、28a,28b,32a,32b,55a,55b,77,82,87 分割部、29a,29b,30a,30b,33a,33b,34a,34b,63a,63b,68a,68b,74a,74b,78a,78b,83a,83b,88a,88b 端部、31a,31b,44a,44b,54a,54b,62a,62b,67a,67b 分割保持器部材、36a,36b,37a,37b,45a,45b,46a,46b 内径側ころ止め部、38a,38b,39a,39b,47a,47b,48a,48b 壁面、40a,40b,41a,41b,49a,49b,50a,50b 外径側ころ止め部、56a,57b,58b,84a 凸部、56b,57a,58a,84b 凹部、65a,65b 面取り、70a,70b R形状部、90a、90b 突出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24