特許第5938276号(P5938276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938276
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】車両用前照灯の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20160609BHJP
   F21S 8/12 20060101ALI20160609BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20160609BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20160609BHJP
【FI】
   B60Q1/14 A
   F21S8/12 220
   F21S8/12 269
   F21S8/12 291
   F21W101:10
   F21Y101:02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-130610(P2012-130610)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-252821(P2013-252821A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲西 豊
(72)【発明者】
【氏名】河原 武央
【審査官】 竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−031807(JP,A)
【文献】 特開平07−172233(JP,A)
【文献】 特開2012−020715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
F21S 8/12
F21W 101/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席側に配置され、車両前方に第1照射領域を形成する第1光学系と、
助手席側に配置され、車両前方に第2照射領域を形成する第2光学系と、
車両の前方を走行する前方車両を検出する検出部と、
第1縦カットオフラインの左側を含む第1非照射領域を前記第1照射領域内に、第2縦
カットオフラインの右側を含む第2非照射領域を前記第2照射領域内に形成し、前記検出
部により検出された前方車両が前記第1縦カットオフラインと第2縦カットオフラインに
挟まれるように前記第1非照射領域および前記第2非照射領域を配置する配光制御部とを
備え、
前記配光制御部は、前記第1縦カットオフラインと前方車両の右端部の間隔と、前記第
2縦カットオフラインと前方車両の左端部の間隔とが、前記運転席から見て等しくなるよ
うに、前記第2縦カットオフラインの位置を定める制御を行なう、車両用前照灯の制御シ
ステム。
【請求項2】
前方車両との車間距離を特定する距離特定部をさらに備え、
前記配光制御部は、前記距離特定部により特定された車間距離が所定値を上回る場合に
前記制御を行なわない、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記検出部は、対向車線側を走行する車両を検出対象から除外する、請求項1または2に記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯の配光を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシステムとしては、カメラが撮像した車両前方の画像に基づいて先行車を検出し、当該先行車への光の照射を抑制しつつ、その周囲には光を照射するような配光パターンを形成するものが知られている。このような配光パターンにより先行車に与えるグレアを抑制しつつ、周囲の視認性を確保している。
【0003】
具体的には、検出された先行車の左右端部から一定の距離に境界線を設定し、当該境界線の左右内側を非照射領域に、左右外側を照射領域にすることにより、上記の配光パターンが形成される(例えば、特許文献1参照)。以降の説明においては、この境界線を縦カットオフラインと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−31807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カメラは通常車両の左右方向中央部に設置されるため、運転席に着座している運転者はカメラとは異なる視点から先行車を視認することとなる。したがって、カメラが取得した画像に基づいて左右の縦カットオフラインを先行車の左右両端部から等距離に設定しても、運転者からは両縦カットオフラインと先行車の左右両端部との間隔が異なって見える。この非対称感は、運転者に意図しない視線誘導や煩わしさをもたらすことがある。
【0006】
よって本発明は、縦カットオフラインを有する非照射領域を含む配光パターンを形成する際に、運転者に与える煩わしさを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる一態様は、車両用前照灯の制御システムであって、
運転席側に配置され、車両前方に第1照射領域を形成する第1光学系と、
助手席側に配置され、車両前方に第2照射領域を形成する第2光学系と、
車両の前方を走行する前方車両を検出する検出部と、
第1縦カットオフラインの左側を含む第1非照射領域を前記第1照射領域内に、第2縦カットオフラインの右側を含む第2非照射領域を前記第2照射領域内に形成し、前記検出部により検出された前方車両が前記第1縦カットオフラインと第2縦カットオフラインに挟まれるように前記第1非照射領域および前記第2非照射領域を配置する配光制御部とを備え、
前記配光制御部は、前記第1縦カットオフラインと前方車両の右端部の間隔と、前記第2縦カットオフラインと前方車両の左端部の間隔とが、前記運転席から見て等しくなるように、前記第2縦カットオフラインの位置を定める制御を行なう。
【0008】
このような構成によれば、縦カットオフラインを有する非照射領域を含む配光パターンを形成する際に生じる見かけ上の非対称性が解消され、運転者が感じる煩わしさを抑制することができる。
【0009】
前方車両との車間距離を特定する距離特定部をさらに備え、前記配光制御部は、前記距離特定部により特定された車間距離が所定値を上回る場合に前記制御を行なわない構成としてもよい。前方車両との車間距離が長くなるほど上記の非対称性は小さくなるため、制御を省略することができる。これにより配光制御部の負荷を抑制することが可能となる。
【0010】
前記配光制御部は、前記第1光学系の光軸の向きと前記第2光学系の光軸の向きの少なくとも一方を変更するスイブル機構を備え、前記距離特定部は、前記第1光学系の光軸と前記第2光学系の光軸がなす角度に基づいて前記車間距離を特定する構成としてもよい。この場合、距離センサ等を設けずとも上記の制御が可能であり、配光制御部の負荷を抑制するとともに、安価なシステムを構成することができる。
【0011】
前記検出部は、対向車線側を走行する車両を検出対象から除外する構成としてもよい。この場合においても、配光制御部の負荷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る制御システムを模式的に示す図である。
図2】制御システムを構成する前照灯の内部構成を模式的に示す縦断面図である。
図3】前照灯に搭載されるシェード機構の構成を示す正面図である。
図4】制御システムにより形成される配光パターンの例を模式的に示す図である。
図5】制御システムにより実行される制御を説明するための図である。
図6】制御システムにより実行される制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照しつつ本発明について以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0014】
図1に本発明の一実施形態に係る制御システム1が搭載された車両2の全体構成を模式的に示す。制御システム1は、統合制御部3、カメラ4、右前照灯5R、左前照灯5L、および距離センサ8を備えている。
【0015】
統合制御部3は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を備え、車両2における様々な制御を実行する。
【0016】
カメラ4は、車両2の左右方向中央部に配置されている。より具体的には、ルームミラー7(図5参照)の裏面に配置されて前方を向き、車両前方の画像を撮影する。カメラ4は統合制御部3と通信可能に接続されており、取得した画像を統合制御部3に送信する。
【0017】
距離センサ8は、前方車両等の対象との距離を測定する周知のセンサである。距離センサ8は統合制御部3と通信可能に接続されており、測定した距離を示す信号を統合制御部3に送信する。
【0018】
右前照灯5Rは車両2の前部右寄り(運転席6aの側)に配置され、左前照灯5Lは車両2の前部左寄り(助手席6bの側)に配置される。以降の説明においては、必要に応じて右前照灯5Rと左前照灯5Lを「前照灯5」と総称する。
【0019】
図2は、右前照灯5Rの内部構造を示す概略断面図である。左前照灯5Lの構造は右前照灯5Rと同等であるため、図示および詳細な説明を省略する。
【0020】
前照灯5は、車両前方に開口部を有するランプボディ212と、ランプボディ212の開口部を覆う透明カバー214とを有する。ランプボディ212と透明カバー214とで形成される灯室216には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。灯具ユニット10は、基台11、ハイビーム光源12、ロービーム光源13、ハイビームリフレクタ14、ロービームリフレクタ15、投影レンズ16、シェード機構20、およびスイブル機構30を備えている。
【0021】
ハイビーム光源12は発光面が下向きに基台11に取り付けられ、ハイビーム光源12からの光は、ハイビーム光源12と対向するように基台11に取り付けられたハイビームリフレクタ14により車両前方に反射される。また、ロービーム光源13は発光面が上を向いた状態で基台11に取り付けられる。ロービーム光源13からの光は、ロービーム光源13と対向するように基台11に取り付けられたロービームリフレクタ15により車両前方に反射される。また、これらハイビームリフレクタ14及びロービームリフレクタ15からの反射光は、凸レンズからなる投影レンズ16を介して灯具の光軸Axに沿って車両前方に投射される。
【0022】
本実施形態においては、ハイビーム光源12及びロービーム光源13をLEDで構成している。また、ハイビームリフレクタ14及びロービームリフレクタ15は、楕円反射面である。
【0023】
投影レンズ16の後方焦点F近傍には、ハイビーム光源12及びロービーム光源13の光の一部を遮光可能なシェード機構20が設けられている。シェード機構20としては、図3に示す機構を採用することができる。
【0024】
シェード機構20は、フレーム21と、DCモーター等のアクチュエータに接続された一対のギアユニット22a、22bと、各ギアユニット22a、22bと噛み合ってフレーム21に回転可能に取り付けられた一対の遮光部材23a、23bと、フレーム21より上方に設けられた固定遮光板24とを備えている。
【0025】
フレーム21と固定遮光板24との間には透光空間Sが形成されており、ハイビーム光源12及びロービーム光源13からの光は透光空間Sを通過して投影レンズ16に入射される。遮光部材23a,23bの遮光部は透光空間Sに進入するように回動され、ハイビーム光源12及びロービーム光源13からの光の一部を遮光可能とされている。
【0026】
図2に示すように、灯具ユニット10の下面には、灯具ユニット10の光軸を左右に回動させるスイブル機構30が設けられている。スイブル機構30は、スイブルアクチュエータ31を備え、その回転軸が灯具ユニット10の基台11の下部に設けられた回転軸受31aに固定されている。スイブルアクチュエータ31は統合制御部3によって制御され、曲路走行時等に灯具ユニット10の光軸Axを左右に旋回させることで、車両の正面以外の領域にも光を照射し、視認性を向上させることができる。
【0027】
スイブルアクチュエータ31は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、ランプボディ212に固定されたレベリング調整機構226が接続されている。レベリング調整機構226は送りねじ機構などから構成され、レベリング調整機構226を調節することで灯具ユニット10の光軸Axの向きを上下方向に調整することができる。
【0028】
図4の(a)〜(e)は、左右の前照灯5により形成可能な配光パターンを模式的に示す図であり、車両2の前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示している。
【0029】
図4の(b)〜(e)に示すように、前照灯5のハイビーム光源12からの光は横カットオフラインCLの上方を照射し、ロービーム光源13からの光は横カットオフラインCLの下方を照射するように構成されている。統合制御部3は、シェード機構20の遮光部材23a、23bの位置を制御することにより、ハイビーム光源12とロービーム光源13から出射される光をどのように遮光するかを制御する。
【0030】
これにより前照灯5は、車両前方の照射可能領域の全てを照射領域とするハイビーム照射モード、横カットオフラインCLより上方かつ左縦カットオフラインLCLの右側の領域を非照射領域とする左側照射モード、横カットオフラインCLより上方かつ右縦カットオフラインRCLの左側の領域を非照射領域とする右側照射モード、および横カットオフラインCLより上方の領域を非照射領域とするロービーム照射モードのいずれかを選択可能とされている。
【0031】
図4の(a)は、ロービーム配光パターンLoCを示している。この配光パターンでは横カットオフラインCLよりも下方のみが照射されており、市街地走行時等に前方車両や歩行者にグレアを与えないようにしている。この配光パターンは、左右の灯具ユニット10のシェード機構20をロービーム照射モードに設定し、ロービーム光源13のみを点灯し、ハイビーム光源12を消灯することにより得られる。
【0032】
図4の(b)は、ハイビーム配光パターンHiCを示しており、運転者の前方視界を最大にする配光パターンである。この配光パターンは、左右の灯具ユニット10のシェード機構20をハイビーム照射モードに設定し、ハイビーム光源12及びロービーム光源13を点灯することにより得られる。
【0033】
図4の(c)は、左側ハイビーム配光パターンHiCLを示している。この配光パターンは、自車線側に先行車や歩行者が存在せず、対向車線側に対向車や歩行者が存在する場合に適しており、運転者の前方視認性を向上させつつ、対向車や対向車線の歩行者にグレアを与えないように配慮したものである。
【0034】
左側ハイビーム配光パターンHiCLは、左前照灯5Lで形成する左側ハイビーム配光パターンHiLと、右前照灯5Rで形成するロービーム配光パターンLoRとを合成することにより形成される。左側ハイビーム配光パターンHiLは、左前照灯5Lのシェード機構20を左側照射モードに設定し、ハイビーム光源12及びロービーム光源13を点灯することにより形成される。ロービーム配光パターンLoRは、右前照灯5Rのシェード機構20をロービーム照射モードに設定し、ロービーム光源13を点灯することにより形成される。
【0035】
図4の(d)は、右側ハイビーム配光パターンHiCRを示している。この配光パターンは、自車線側に先行車や歩行者が存在し、対向車線側に対向車や歩行者が存在しない場合に適しており、運転者の前方視認性を向上させつつ、先行車や自車線の歩行者にグレアを与えないように配慮したものである。
【0036】
右側ハイビーム配光パターンHiCRは、右前照灯5Rで形成する右側ハイビーム配光パターンHiRと、左前照灯5Lで形成するロービーム配光パターンLoLとを合成することにより形成される。右側ハイビーム配光パターンHiRは、右前照灯5Rのシェード機構20を右側照射モードに設定し、ハイビーム光源12及びロービーム光源13を点灯することにより形成される。ロービーム配光パターンLoLは、左前照灯5Lのシェード機構20をロービーム照射モードに設定し、ロービーム光源13を点灯することにより形成される。
【0037】
図4の(e)は、スプリット配光パターンHiSPを示している。この配光パターンは、自車線側および対向車線側に前方車両や歩行者が検出された場合において、当該前方車両や歩行者に与えるグレアを抑制しつつ、運転者の視認性を高めるためのものである。
【0038】
スプリット配光パターンHiSPは、左前照灯5Lで形成する左側ハイビーム配光パターンHiLと、右前照灯5Rで形成する右側ハイビーム配光パターンHiRとを合成することにより形成される。左側ハイビーム配光パターンHiLの左縦カットオフラインLCLと右側ハイビーム配光パターンHiRの右縦カットオフラインRCLとの間に非照射領域が形成されている。統合制御部3がスイブル機構30を制御することにより、左右両側の灯具ユニット10の光軸Axを左右方向に旋回させ、検出された前方車両や歩行者が非照射領域内に位置するように、左縦カットオフラインLCLと右縦カットオフラインRCLの位置が調節される。
【0039】
運転席6a側に配置された右前照灯5Rは、車両2の前方に第1照射領域を形成する本発明の第1光学系として機能する。助手席6b側に配置された左前照灯5Lは、車両2の前方に第2照射領域を形成する本発明の第2光学系として機能する。第1照射領域と第2照射領域が合成されたものが、図4の(b)に示すハイビーム配光パターンHiCに相当する。
【0040】
統合制御部3は、カメラ4が取得した画像に基づいて、車両2の自車線側前方を走行する先行車を検出する。すなわち統合制御部3とカメラ4は、本発明の検出部として機能する。
【0041】
統合制御部3は、先行車が検出されると、図4の(e)に示すスプリット配光パターンHiSPを形成する。そのために統合制御部3は、図4の(d)に示す右側ハイビーム配光パターンHiRを形成する。すなわち右前照灯5Rのシェード機構20を制御することにより、本発明の第1縦カットオフラインとしての右縦カットオフラインRCLの左側を含む第1非照射領域を前記の第1照射領域内に形成する。また統合制御部3は、図4の(c)に示す左側ハイビーム配光パターンHiLを形成する。すなわち左前照灯5Lのシェード機構20を制御することにより、本発明の第2縦カットオフラインとしての左縦カットオフラインLCLの右側を含む第2非照射領域を前記の第2照射領域内に形成する。
【0042】
そして統合制御部3は、上記のように形成した右側ハイビーム配光パターンHiRと左側ハイビーム配光パターンHiLとを合成することにより、スプリット配光パターンHiSPを形成する。このとき統合制御部3が左右の前照灯5のスイブル機構30を制御し、検出された先行車が右縦カットオフラインRCLと左縦カットオフラインLCLに挟まれるように、第1非照射領域と第2非照射領域の配置を決定する。すなわち統合制御部3、シェード機構20、およびスイブル機構30は、本発明の配光制御部として機能する。
【0043】
このとき統合制御部3は、左前照灯5Lのスイブル機構30を制御して左縦カットオフラインLCLの位置を定めるにあたり、右縦カットオフラインRCLと先行車の右端部の間隔と、左縦カットオフラインLCLと先行車の左端部の間隔とが、運転席6aから見て等しくなるように制御を行なう。
【0044】
図5を参照しつつ、当該制御についてより詳細に説明する。図5の(a)は、車両2の前方に先行車Pが検出された状態を示している。前述のようにカメラ4はルームミラー7の裏面に設置されているため、運転席6aに着座している運転者は、カメラ4とは異なる視点から先行車Pを視認することとなる。
【0045】
カメラ4が取得した画像に基づいて、右縦カットオフラインRCLと左縦カットオフラインLCLが先行車Pの左右両端部から等距離になるように配置した場合の左縦カットオフラインLCLを、図5の(a)に一点鎖線で示す。同図中においてMRは運転席6aから見た先行車Pの右端部と右縦カットオフラインRCLとの間隔を示し、MLは運転席6aから見た先行車Pの左端部と左縦カットオフラインLCLとの間隔を示す。左右の間隔MRとMLが非対称であり、左側の間隔MLの方がより狭く見えることが判る。
【0046】
図5の(b)は、この条件で形成したスプリット配光パターンHiSPを運転席6aから見た状態を示している。右縦カットオフラインRCLと先行車Pの右端部との間隔MRよりも、左縦カットオフラインLCLと先行車Pの左端部との間隔MLが狭く見えることが判る。前述の通り、この非対称感は運転者に意図しない視線誘導や煩わしさをもたらすことがある。
【0047】
そこで本実施形態においては、左縦カットオフラインLCLがより左方に位置するように、統合制御部3が左前照灯5Lのスイブル機構30を制御する。図5の(a)においては、このときの左縦カットオフラインLCLの位置を実線で示している。換言すると、右縦カットオフラインRCLと先行車Pの右端部との間隔よりも、先行車Pの左端部との間隔が広くなるように左縦カットオフラインLCLの配置を定めている。
【0048】
より具体的には、統合制御部3が距離センサ8を用いて先行車Pとの車間距離を特定する。車間距離が特定されれば、右前照灯5Rの光軸Axの向き(スイブル角)より見かけ上の間隔MRが特定される。これにより見かけ上の間隔MRと等しい見かけ上の間隔MLを得るための、左前照灯5Lに必要な追加のスイブル角Sが定まる。統合制御部3は、左前照灯5Lのスイブル機構30を制御して灯具ユニット10の光軸Axの向きをスイブル角Sに対応する分だけ左方に変更する。このとき統合制御部3と距離センサ8は、本発明の距離特定部として機能する。
【0049】
その結果、図5の(c)に示すように、右縦カットオフラインRCLと先行車Pの右端部の間隔MRと、左縦カットオフラインLCLと先行車Pの左端部の間隔MLとが、運転席6aからは等しく見えるようになる。したがって、スプリット配光パターンHiSPの形成時において運転者に与える煩わしさを抑制することができる。
【0050】
図6を参照しつつ、先行車Pとの車間距離が変化した場合について説明する。図6の(b)に一点鎖線で示すように、図6の(a)に示す状態よりも車間距離が短くなると、左右の縦カットオフラインRCL、LCLと先行車Pの左右端部との間隔は短くなる。統合制御部3は、カメラ4より取得した画像に基づいて、右前照灯5Rのスイブル機構30を制御して灯具ユニット10の光軸Axの向きをスイブル角S1だけ変位させ、先行車Pの右端部との間隔が所定値となるように右縦カットオフラインRCLの位置を変更する。図6の(b)においては、変更後の右縦カットオフラインRCLの位置を実線で示している。
【0051】
統合制御部3は、カメラ4より取得した画像と距離センサ8を用いて取得した先行車Pとの車間距離に基づいて、運転席6aからの見かけ上の間隔MRとMLが等しくなるように、左前照灯5Lのスイブル機構30を制御して灯具ユニット10の光軸Axの向きをスイブル角S2だけ変位させ、左縦カットオフラインLCLの位置を変更する。図6の(b)においては、変更後の左カットオフラインLCLの位置を実線で示している。
【0052】
図6の(a)と(b)を比較して判るように、先行車Pとの車間距離が短くなるほど、見かけ上の間隔MRとMLの非対称性は顕著になる。したがって先行車Pとの車間距離が短くなるほど、右前照灯5Rのスイブル角S1と左前照灯5Lのスイブル角S2の差分は大きくなる。
【0053】
換言すると、先行車Pとの車間距離が長くなるほど、スイブル角S1とスイブル角S2の差分は小さくなる。したがって統合制御部3は、距離センサ8を用いて特定された先行車Pとの車間距離が所定値を上回る場合には、上述の非対称性を解消するための制御を行なわない構成とされている。これにより統合制御部3における制御負荷を抑制している。
【0054】
所定値の例としては、ロービーム光源13により形成される横カットラインCLが着地する距離を挙げることができる。
【0055】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
【0056】
距離センサ8は必ずしも設けることを要しない。統合制御部3は、カメラ4より取得した画像に基づいて、左右の縦カットオフラインRCL、LCLが先行車Pの左右端部と一定距離を保つようにスイブル機構30を制御するため、制御量より右前照灯5Rの光軸と左前照灯5Lの光軸とがなす角度を把握することができる。先行車Pとの車間距離と当該角度との関係を予めテーブルや演算式として保持しておくことにより、左右の前照灯5のなす角度から先行車Pとの車間距離を推定することができる。推定された車間距離を用いて上述の制御を実行することができる。
【0057】
上記の実施形態においては、カメラ4を用いた検出対象を先行車Pに限定し、対向車線側を走行する車両を検出対象から除外することによって統合制御部3の制御負荷を抑制している。しかしながら制御負荷の許容範囲内において、対向車線側を走行する車両を含め、車両2の前方を走行する前方車両全般を検出対象としてもよいことは明らかである。
【0058】
前照灯5のハイビーム光源12とロービーム光源13は、LEDに限定されるものではない。レーザダイオード等の発光素子を用いてもよく、ハロゲンランプやHID(High Intensity Discharge)ランプなど適宜のバルブ光源を用いてもよい。
【0059】
また少なくともハイビーム光源12は、複数の発光素子を配列したアレイ光源を用いることができる。この場合、個々の発光素子に対応する複数の部分領域により照射可能領域が形成され、個々の発光素子の点消灯を制御することにより当該照射可能領域内に照射領域と非照射領域が形成される。検出した先行車が非照射領域に含まれるように発光素子の点消灯を行なう、いわゆる電子スイブル制御にも本発明を適用することができる。
【0060】
この場合、点灯された発光素子に対応する照射領域と消灯された発光素子に対応する非照射領域の境界に縦カットオフラインが形成される。左右の縦カットオフラインと前方車両の左右端部との間隔が運転席から見て等しくなるように点消灯される発光素子を定めればよい。
【0061】
前方車両を検出するための手段は、カメラ4に限られない。前方車両の左右端部を検出するためにレーダセンサ等を用いてもよい。
【0062】
以上の説明における前方車両の「左右端部」という表現は、車体の端縁や左右のテールランプ等、前方車両の左右端部を特徴づけることのできる、あらゆる対象を含みうる意味で用いている。
【符号の説明】
【0063】
1:制御システム、3:統合制御部、4:カメラ、5R:右前照灯、5L:左前照灯、6a:運転席、6b:助手席、8:距離センサ、20:シェード機構、30:スイブル機構、Ax:灯具ユニットの光軸、CL:横カットオフライン、HiSP:スプリット配光パターン、LCL:左縦カットオフライン、MR:右縦カットオフラインと先行車の右端部との見かけ上の間隔、ML:左縦カットオフラインと先行車の左端部との見かけ上の間隔、P:先行車、RCL:右縦カットオフライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6