(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938279
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】セルロース類水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/03 20060101AFI20160609BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
C08J3/03CEP
C08F2/20
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-138168(P2012-138168)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-1325(P2014-1325A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉野 利忠
(72)【発明者】
【氏名】作山 晃
(72)【発明者】
【氏名】木村 太一
(72)【発明者】
【氏名】轟 麻優子
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】原 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】根本 義徳
(72)【発明者】
【氏名】柴田 修作
(72)【発明者】
【氏名】江尻 哲男
【審査官】
原田 隆興
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−143813(JP,A)
【文献】
特開昭62−294420(JP,A)
【文献】
特開2002−142796(JP,A)
【文献】
特開平02−293404(JP,A)
【文献】
特開2011−132388(JP,A)
【文献】
特開2003−128710(JP,A)
【文献】
特開2003−137911(JP,A)
【文献】
特開昭59−174605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08B 1/00−37/18
C08C 19/00−19/44
C08F 2/00−2/60;6/00−246/00;301/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体を製造する際に用いられる懸濁剤の製造方法であって、
上記懸濁剤はセルロース類水溶液であり、
加熱した水にセルロース類を投入して分散させる分散工程と、
分散工程により得られた水溶液を冷却して、該水溶液中のセルロース類を溶解させる冷
却工程と、
上記冷却工程後の上記水溶液に対し、遠心分離を一段階以上行う遠心分離工程と
を含み、
上記遠心分離工程における少なくとも一段階の遠心分離において、遠心力が10000G以上であることを特徴とする懸濁剤の製造方法。
【請求項2】
上記遠心分離は一段階または二段階であることを特徴とする請求項1に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項3】
上記セルロース類はメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1または2に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項4】
上記セルロース類水溶液のセルロース類濃度は1〜100g/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項5】
上記加熱した水の温度は40℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項6】
上記冷却工程によって得られる上記水溶液の温度は30℃以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項7】
上記分散工程における分散はジャケット式溶解槽を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の懸濁剤の製造方法。
【請求項8】
上記冷却工程における冷却はブラインを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の懸濁剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース類水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁重合では、モノマー類を水性媒体中に分散させるために懸濁剤が用いられる。なかでもセルロース類の水溶液は、懸濁重合の優れた懸濁剤として機能する。セルロース類の水溶液を作製するとき、セルロース類を水に溶解させるためにセルロース類の粉末を直接冷水に投入すると、粉末表面のみが水に溶解した「ママコ」と呼ばれる凝集粒を形成してしまう。凝集粒の表面は高粘性の被膜となり、内部に水が浸透しないため、いったん凝集粒を生じると、完全に溶解することが困難となる。
【0003】
このような現象を回避する手段として、特許文献1には、平均粒径が120μm以下の水溶性のアルキルセルロースおよび/またはヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなるセルロースエーテル類と、グリコール類および/またはHLBが3〜17である非イオン界面活性剤を含んでいるセルロースエーテル粉末およびその製造方法が記載されている。また、特許文献2には、水への溶解温度が45℃〜75℃であるヒドロキシアルキルアルキルセルロースエーテルを、80℃〜95℃の無機塩類が添加された熱水中に分散して溶解する方法が記載されている。また、特許文献3には、水溶性高分子粉粒物を流動させながら、湿潤剤を含む液体または湿潤剤粉体を滴下、噴霧または混合処理し、この処理粉粒物に対し強制乾燥および粉砕を行わずに冷水溶解性高分子粉粒物を製造する方法が記載されている。
【0004】
特に、薄いフィルムもしくは延伸フィルムなどのフィルムまたは電池電極用バインダー等の製造に用いられる重合体を重合するための懸濁剤としてセルロース類の水溶液が使用される場合、セルロース類の水溶液中に微小な凝集粒が存在すると、凝集粒が原因となって重合体中に不均一部分が生じる。この不均一部分が重合体中に存在していると、この重合体を用いて形成されたフィルムにおいては「フィッシュアイ」と呼ばれる欠陥が生じ、この重合体を用いて製造されたバインダーにおいては未溶解物が生じるため、それら製品の品質を悪化させ、歩留まりを低下させるという問題がある。
【0005】
この問題を解決する方法として、特許文献4には、一定範囲のメトキシ基置換度およびヒドロキシプロポキシ基置換度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む懸濁重合用分散安定剤であって、所定の粘度を有し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの0.2質量%溶液2mlにおいて、コールターカウンター法により測定された粒径8〜200μmの未溶解繊維の個数が1000個以下であり、かつ、同法により測定された粒径50μm以上の未溶解繊維の個数が20個以下である懸濁重合用分散安定剤、およびこれを用いた塩化ビニル系重合体の製造方法が記載されている。特許文献4では、未溶解繊維の個数をこの範囲にするために、通常のセルロース誘導体の製造方法において、均一で充分な反応が行われる条件を採用することにより得られるヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いて、懸濁重合用分散安定剤を調製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−322801号公報(1999年11月26日公開)
【特許文献2】特開2000−143813号公報(2000年5月26日公開)
【特許文献3】特開2006−124661号公報(2006年5月18日公開)
【特許文献4】特開2008−202034号公報(2008年9月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法では、薄いフィルムもしくは延伸フィルムなどのフィルムまたはバインダー等の製造の際に問題となる、視認が困難なセルロース類の微小な凝集粒については考慮されていない。なおセルロース類の凝集粒はゲル状であるため、フィルター等を用いて微小な凝集粒を排除することは、目詰まり等の問題があり必ずしも有効ではない。また、特許文献4においては、特定の条件で製造されたヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いることにより、懸濁重合用分散安定剤中の微小な未溶解繊維の個数を低減させている。すなわち、通常の条件下で製造された他のセルロース類を用いる場合における、懸濁重合用分散安定剤中の微小な未溶解繊維の個数を低減させる方法については記載されていない。以上のことから、通常の条件下で製造されるセルロース類に適用できる、微小な凝集粒が少ないセルロース類水溶液の新規な製造方法が求められている。
【0008】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、微小な凝集粒が少ないセルロース類水溶液の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、加熱した水にセルロース類を投入して分散させる分散工程と、分散工程により得られた水溶液を冷却して、該水溶液中のセルロース類を溶解させる冷却工程と、上記冷却工程後の上記水溶液に対し、遠心分離を一段階以上行う遠心分離工程とを含むことを特徴とするセルロース類水溶液の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法では、上記遠心分離工程における少なくとも一段階の遠心分離において、遠心力が10000G以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記遠心分離は一段階または二段階であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記セルロース類はメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記セルロース類水溶液のセルロース類濃度は1〜100g/Lであることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記加熱した水の温度は40℃以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記冷却工程によって得られる上記水溶液の温度は30℃以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記分散工程における分散はジャケット式溶解槽を用いることが好ましい。
【0017】
本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法において、上記冷却工程における冷却はブラインを用いることが好ましい。
【0018】
さらに、懸濁重合による塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法であって、懸濁剤として本発明に係る製造方法によって得られたセルロース類水溶液を用いることを特徴とする塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
発明に係るセルロース類水溶液の製造方法によれば、微量な凝集粒が少ないセルロース類水溶液の製造が可能となり、当該セルロース類水溶液を懸濁剤として用いてフィルム用途またはバインダー用途の重合体の重合を行うことにより、それぞれフィッシュアイの少ないフィルムまたは未溶解物の少ないバインダーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るセルロース類水溶液の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態におけるセルロース類水溶液の製造方法は、熱水中にセルロース類を分散させる分散工程、セルロース類が分散した熱水を冷却して、セルロース類が溶解した水溶液を得る冷却工程、セルロース類が溶解した水溶液に対し、遠心分離を一段階以上行う遠心分離工程を含む方法である。
【0022】
セルロース水溶液におけるセルロース類としては、懸濁重合における懸濁剤としてのセルロース水溶液に用いられるものであれば特に制限はなく、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースおよびカルボキシアルキルセルロース等が挙げられる。なかでも、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースが好適に用いられる。また、これらのセルロース類は2種類以上を混合して用いてもよい。セルロース類の重量平均分子量(g/mol)として特に制限はないが、10000〜500000のものが好適であり、50000〜300000のものがより好ましい。
【0023】
製造されるセルロース類水溶液のセルロース類の濃度は、その用途に応じて適宜決定することができる。例えばセルロース類水溶液を塩化ビニリデンまたはフッ化ビニリデンの懸濁重合剤として用いる場合には、セルロース類水溶液のセルロース類の濃度は、1〜100g/Lであることが好ましく、5〜30g/Lであることがより好ましい。
【0024】
(分散工程)
本工程は、内部に攪拌機を設置した溶解槽に加熱した水(以下、熱水という)を準備し、この熱水中にセルロース類を投入して分散させる工程である。熱水の温度は、加熱により常温よりも高い温度になっていれば特に制限はないが、40〜98℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。さらに、70℃であることがもっとも好ましい。温度が40℃以上であると、分散する前にセルロース類が凝集してしまうことを抑え、発生する凝集粒をより少なくすることができる。熱水は、溶解槽に水を投入した後に加熱して得られたもの、および別途準備した熱水を溶解槽に投入したものの何れであってもよい。なお、温度が80℃以下であると、作業上の安全性を高められる上、引き続き行われる冷却に要する時間を短くでき、生産効率を高めることができる。さらに蒸気の発生が抑えられ、投入前のセルロース類が蒸気を吸収してゲル化してしまうことを防ぐことができる。
【0025】
セルロース類の投入量は、目的のセルロース類水溶液におけるセルロース類の濃度に応じて適宜決定すればよい。
【0026】
溶解槽としては、ジャケット式の溶解槽、トレース式の溶解槽、内部コイル式の溶解槽、および外部熱交換式の溶解槽が挙げられる。このうちジャケット式の溶解槽を用いることが好ましい。ジャケット式溶解槽を用いることにより、伝熱効率が向上するため、溶解作業を短時間で行なうことができる。また、形状が単純であるため装置の洗浄が容易である。
【0027】
溶解槽の容積は製造される水溶液の量に応じて適宜選択される。
【0028】
溶解槽内を攪拌するための攪拌機は、プロペラ式またはパドル式の羽根を具備している。攪拌時間は、セルロース類の濃度および重量平均分子量に応じて適宜設定することができ、例えばセルロース類濃度が5〜30g/Lであるときには、攪拌時間を30分〜1時間程度とすることができる。
【0029】
溶解槽内の熱水にセルロース類を投入した後、溶解槽内を攪拌機によって攪拌してセルロース類を熱水中に分散させる。
【0030】
(冷却工程)
本工程は、溶解槽内のセルロース類が分散した熱水を冷却することにより、セルロース類を溶解させる工程である。
【0031】
溶解槽内の熱水の冷却は、冷却装置を用いて溶解槽を冷却することにより行うことができる。冷却装置としては、ブライン冷却方式による冷却装置、ならびに水冷式および空冷式の冷却装置等が挙げられる。なかでも、ブライン冷却方式による冷却装置を用いることが好ましい。セルロース類の水溶液はゆっくり冷却すると凝集粒が発生する恐れがある。当該装置を用いれば冷却を急速に行うことができるため、冷却にかかる時間を短縮でき、作業を効率的に行うことができる。さらに、冷却を急速に行うことにより、冷却過程で凝集粒が発生することを防ぐことができる。
【0032】
本工程では、セルロース類が分散した熱水を30℃以下に冷却することが好ましく、15℃以下に冷却することがより好ましい。30℃以下にまで冷却されることにより、分散したセルロース類は水に溶解され、セルロース類水溶液となる。なお、冷却により得られる溶液の温度に下限はないが、例えば3℃以上であり得る。
【0033】
目的の温度となるまでの冷却中、および目的の温度に達した後において攪拌を続け、目視によって溶解状態を観察し、肉眼で検出可能な範囲のセルロース類の粉粒が水中に観察されなくなった時点で攪拌機を停止し、本工程を完了する。
【0034】
このとき攪拌速度は上述の分散工程における攪拌速度と同じ速度のままであってもよく、異なる速度であってもよい。
【0035】
(遠心分離工程)
本工程は、上述の分散工程および冷却工程を経て得られたセルロース類水溶液を遠心分離機に導入して水溶液の遠心分離を一段階以上行い、水溶液中の凝集粒を遠心分離により除去する工程である。
【0036】
遠心分離は一段階以上行われれば回数に制限はないが、一段階または二段階のみ行うことが好ましい。遠心分離の回数を二段階とした場合、一段目の遠心分離によってセルロース類水溶液に対する比重差がより大きな凝集粒をまず分離することができる。次に二段目の遠心分離によって一段階の遠心分離では除去しきれなかったセルロース類水溶液に対する比重差がより小さな微小な凝集粒をより確実に分離することが可能となる。
【0037】
遠心分離の際の加える遠心力は、遠心分離を行う回数、セルロース水溶液の濃度および重量平均分子量により適宜設定し得るが、少なくとも一段階の遠心分離において、遠心力が10000G以上であることが好ましい。10000G以上の遠心分離を少なくとも一段階行うことにより、セルロース類水溶液に対する比重差が0.1g/cm
3以下の極めて小さな凝集粒の分離も可能となる。遠心分離が二段階以上行われる場合、上述の少なくとも一段階の遠心分離以外の遠心分離における遠心力に制限はなく、上述の少なくとも一段階の遠心分離における遠心力と同じであってもよく、これより小さな遠心力であってもよく、あるいはこれより大きな遠心力であってもよい。なお、遠心分離を一段階のみ行う場合には、微小な凝集粒の分離をより確実にするために、20000G以上の遠心力でもって遠心分離を行うことが好ましい。遠心分離の回数を一段階とすることにより、遠心分離にかかる時間を短縮することができる。
【0038】
凝集粒は遠心分離によって沈降するため、上澄のみが回収される。回収した上澄は、上澄貯槽へ輸送され、貯蔵される。上澄貯槽は、遠心分離の段階毎に設けられる。例えば二段階の遠心分離が行われる場合、一段階目の遠心分離による上澄は一段目の上澄貯槽に一時貯蔵され、二段目の遠心分離に用いられる。次に二段階目の遠心分離による上澄は二段目の上澄貯槽に輸送され、貯蔵される。
【0039】
さらに、溶解槽から一段目の遠心分離機までセルロース類水溶液を輸送する流速、およびある段階の上澄貯槽から次段の遠心分離を行う遠心分離機へセルロース類水溶液を輸送する流速は、300〜2000L/時間が好ましく、500〜1500L/時間がより好ましい。このうち各輸送における初期5分間は、300〜1200L/時間であることが好ましく、500〜900L/時間であることがより好ましい。
【0040】
本工程で用いられる遠心分離機は、上記の処理が行えるものであればその種類は特に限定されない。例えば、試料を連続的に投入して、連続的に分離できる超遠心分離機を好適に用いることができる。
【0041】
以上の製造方法によれば、分散工程および冷却工程を経ることによって、凝集粒の発生が最小限に抑制され、生じた微小な凝集粒も、遠心分離工程を経ることにより分離除去される。したがって、得られるセルロース類水溶液において、凝集粒を少なくすることができる。例えば、透過度が90%以上のセルロース類水溶液を製造することができる。
【0042】
このセルロース類水溶液は、例えば懸濁剤としてセルロース水溶液を用いる懸濁重合による重合体の製造方法に利用可能である。例えば、懸濁重合による塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法であって、懸濁剤としてセルロース類水溶液を用いる塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法に用いることができる。なお、懸濁剤として上述のセルロース水溶液を用いた塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、懸濁剤として上述のセルロース類水溶液を用いる以外は従来行われている塩化ビニリデン系重合体またはフッ化ビニリデン系重合体の製造方法と同様の条件で行うことができる。さらに、上述の製造方法により得られるセルロース水溶液では、微小な凝集粒も低減しているため、フィルムまたはバインダー等の製造に用いられる重合体を懸濁重合するための懸濁剤として特に好適に用いられる。上述のセルロース類水溶液を懸濁剤として用いることにより、微小な凝集粒が要因となる重合体中の不均一部分の発生を防ぐことができるので、フィルム形成時にはフィッシュアイが極めて少ない、またはバインダー形成時には未溶解物をほとんど発生させない重合体を製造することが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0044】
〔実施例1:メチルセルロース水溶液の製造〕
予め準備した60℃または70℃の熱水3000Lを容積6.5m
3のジャケット式溶解槽に入れ、さらにメチルセルロースを41kg〜42kg投入した。その後溶解槽内に設置された攪拌機を起動して溶解槽内を攪拌し、熱水中にメチルセルロースを分散させた。
【0045】
攪拌開始30分後に、−25℃のブラインで溶解槽を冷却することによって、溶解槽内の水溶液の温度を5℃になるまで冷却した。5℃の温度を保持したままさらに3時間攪拌を続けたのち攪拌機を停止して溶解処理を完了し、メチルセルロース水溶液を得た。
【0046】
一段階目の遠心分離機を起動し、溶解槽内のメチルセルロース水溶液を、初期5分間は流速を700L/時間とし、それ以降は流速を700〜1100L/時間として一段階目の遠心分離機を経由して一段目の上澄貯槽に輸送した。水溶液を一段階目の遠心分離機に導入したとき、20000Gの遠心力で3時間30分の間遠心した。遠心によって得られた水溶液の上澄を一段目の上澄貯槽に輸送し、貯蔵した。上述の溶解槽内の水溶液の液レベルが0となった時点で一段目の遠心分離を終了した。続いて二段階目の遠心分離機を起動し、初期5分間は流速を700L/時間とし、それ以降は流速を700〜1100L/時間として二段階目の遠心分離機を経由して二段目の上澄貯槽に輸送した。水溶液を一段目の上澄貯槽から二段階目の遠心分離機に導入したとき、20000Gの遠心力で3時間30分の間遠心した。遠心によって得られた水溶液の上澄を二段目の上澄貯槽に輸送し、貯蔵した。一段目の上澄貯槽内の水溶液の液レベルが0となった時点で二段目の遠心分離を終了した。
【0047】
〔実施例2:メチルセルロース水溶液およびメチルセルロース水溶液を用いて製造した重合体フィルムの品質評価〕
(2−1.メチルセルロース水溶液の透過度の測定)
メチルセルロース水溶液として、上述の分散工程および冷却工程のみを行ったもの、分散工程および冷却工程を経た水溶液に対し、一段階の遠心分離をして上澄を回収した遠心分離工程を行ったもの、ならびに分散工程および冷却工程を経た水溶液に対し、二段階の遠心分離をして上澄を回収した遠心分離工程を行ったものをそれぞれ製造した。紫外可視近赤外(UV―Vis−NIR)分光光度計(SIMADZU UVmini―1240)を用い、得られた3種類のメチルセルロース水溶液を試料として、470nmの波長における吸光度を測定し、測定値から透過度(%)を算出した。なお、ブランクの測定には純水を用いた。算出結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
(2−2.重合体フィルム形成後のフィッシュアイの個数の計測)
(2−2−1.重合体フィルムの作製方法)
上述の3種類のメチルセルロース水溶液の何れか1つを懸濁剤として用いてフッ化ビニリデンの懸濁重合を行い、フッ化ビニリデン重合体を製造した。すなわち、内容量20Lのオートクレーブに、イオン交換水10240g、上述のメチルセルロース水溶液を140mL(メチルセルロース2.0gを含有)、酢酸エチル112g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート20gおよびフッ化ビニリデン4000gを仕込み、26℃まで1時間で昇温し、昇温開始から25.5時間の懸濁重合を行った。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗した後に、80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン重合体を得た。重合率は88%で、得られた重合体のインヘレント粘度(重合体4gを1LのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度)は1.03dl/gであった。
【0049】
続いて、下記の押出条件で、T−ダイ押出機を用いた押出によって、重合体から厚さ0.04±0.01mmおよび幅100±5mmのフィルムを形成した。
・押出条件
押出機:20φ短軸型の押出機
T−ダイ:吐出口120mmおよびスリット0.6mmのT−ダイ
設定温度:C1 180〜185℃、C2 230〜235℃、C3 265〜275℃、D1 265〜275℃
スクリュー:フルフライトタイプ、L400mm、D20mmおよび圧縮比2.0
スクリューの回転速度:40回転/分
重合体ペレットの供給量:26g/分
押出量:10〜25g/分
引取機のロール温度:100℃
ロール回転速度:可変
続いて形成したフィルムの状態を目視によって観察し、正常であることを確認した後に試料を採取した。
【0050】
(2−2−2.フィッシュアイの個数の測定方法)
加工されたフィルムの一部に長さ450mmの間隔で線をつけた。倍率40倍の拡大鏡を用いて観察を行い、2本の線間に観察される最大幅0.05mm以上0.1mm未満、0.1mm以上0.3mm未満、および0.3mm以上の大きさの異物を計数した。
【0051】
上述のように測定した、フィルムの面積が450cm
2あたりの異物の総数を表2に示す。
【0052】
【表2】
(2−3.測定結果)
分散工程および冷却工程のみ行ったメチルセルロース水溶液と比較して、分散工程および冷却工程に続いて一段階および二段階の遠心分離を行って上澄を回収する遠心分離工程を行ったものはメチルセルロース水溶液の透過度が著しく上昇した。また、遠心分離が一段階のものと比較して二段階のものは透過度がより上昇した。この結果から、一段階または二段階の遠心分離を行うことにより、メチルセルロース水溶液に含まれるメチルセルロースの凝集粒が低減することが示された。
【0053】
さらに、表2に示されるように、分散工程および冷却工程のみ行って得られたメチルセルロース水溶液を用いた場合と比較して、分散工程および冷却工程に続いて一段階または二段階の遠心分離を行って得られたセルロース水溶液を用いて製造された重合体から形成したフィルムにおけるフィッシュアイの個数は著しく少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、懸濁重合の懸濁剤として用いられるセルロース類水溶液の製造に利用することができる。