特許第5938280号(P5938280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938280パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物、防汚性被膜形成用組成物、防汚性被膜、およびこの被膜を有する物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938280
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物、防汚性被膜形成用組成物、防汚性被膜、およびこの被膜を有する物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/331 20060101AFI20160609BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20160609BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160609BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20160609BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C08G65/331
   C07F7/18 NCSP
   C09D5/16
   C09D183/12
   B05D7/24 302L
   B05D7/24 302Y
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-141219(P2012-141219)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-5353(P2014-5353A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ショケット アヒメット
(72)【発明者】
【氏名】塚谷 才英
(72)【発明者】
【氏名】木下 裕貴
【審査官】 大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−006349(JP,A)
【文献】 特開2009−144133(JP,A)
【文献】 特開2000−143991(JP,A)
【文献】 特開2000−327772(JP,A)
【文献】 特開平05−117283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/331
B05D 7/24
C07F 7/18
C09D 5/16
C09D 183/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物。
【化1】
(一般式(1)中、nは10〜40の範囲の整数であり、mは1〜3の範囲の整数であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R3はヒドロキシ基とヒドロキシ基およびフェノキシ基からなる群から選ばれる1つまたは2つの置換基とによって置換された炭素数3〜5のアルキル基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)中、mは2であり、R1はトリメチレン基を表し、R3は2,3−ジヒドロキシプロピル基を表す請求項1に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の防汚性被膜形成用組成物を成膜して得られた防汚性被膜。
【請求項5】
請求項4に記載の防汚性被膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物に関するものであり、詳しくは撥水性および汚れ付着防止性に優れるとともに、付着した汚れを容易に除去可能な防汚性被膜を形成することができるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物に関するものである。
更に本発明は、上記パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物、この防汚性被膜形成用組成物を用いて形成される防汚性被膜、およびこの防汚性被膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、パーフルオロポリエーテル基の自由エネルギーが低いため表面エネルギーが非常に小さく、これにより防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性などの様々な性質を有しており、これらの性質を利用して各種ディスプレイの保護剤、紙や繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の潤滑剤、精密機器の防油剤、離型剤などに幅広く利用されている。しかし、一般にパーフルオロポリエーテル基含有化合物は各種基材に対する密着性が低く、これを用いて形成された被膜において、経時的な防汚性の低下や膜剥がれが発生する場合がある。
【0003】
一方、被膜と基材との密着性を高める成分としては、シランカップリング剤が知られている。シランカップリング剤は、一分子中に有機官能基や有機材料との親和性に優れる構造と反応性アルコキシシラン基を有しており、このアルコキシシラン基が空気中の水分などにより自己縮合反応を引き起こしてシロキサンとなり被膜を形成する。これと同時に、基材表面と化学的結合を形成することで強固な密着性を発現することができる。こうして基材との密着性に優れる被膜を形成することができるため、現在シランカップリング剤は各種基材表面のコーティング剤成分や下塗剤(プライマー)として広く利用されている。
【0004】
そこで近年、パーフルオロポリエーテル基含有化合物による上記性質を有し、かつ基材との密着性に優れる被膜を形成するための成分として、シランカップリング剤とパーフルオロ基含有化合物を化学的に結合させた化合物が提案されている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−167597号公報
【特許文献2】特開昭58−122979号公報
【特許文献3】特開平10−232301号公報
【特許文献4】特開第2000−143991号公報
【特許文献5】特開2009−144133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1〜4では、これら文献に記載の化合物によればパーフルオロポリエーテル基をシランカップリング構造によって基材表面に固定することができるため、優れた防汚性(撥水性、撥油性、汚れ付着防止性、付着汚れの拭き取り性など)を有する被膜を形成できるとされている。しかし、上記文献に記載の化合物はパーフルオロ基の長さ(分子量)が短い場合には撥油性能が不十分であり、十分なパーフルオロ基の長さ(分子量)を有するとしても、パーフルオロ基を含む分子全体の分子量に対するアルコキシシラン基が占める比率が低いため、形成される被膜は密着性や耐久性に劣るものとなる。
【0007】
一方、特許文献5に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、一分子中にアルコキシシラン基を2個有し、また一分子中の加水分解性基の含有割合が多いため、高い反応性を有する。したがって穏和な条件でも、基材とパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物との反応が進行し高い密着性を有する被膜を形成することができ、またパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物同士の反応が進行して高分子化しやすく複雑な三次元構造を形成しやすい。そのため、特許文献5に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、比較的穏和な条件で成膜を行うスピンコーティング法やディッピング法といったコーティング法のための成膜材料として適している。
他方、近年、基材表面への成膜方法として真空蒸着法が注目されている。真空蒸着法は、特別な装置が必要であり、また使用できる成膜材料に制限がある(高耐熱性であり昇温工程では容易に高分子化しないが、所定の温度になると高分子化する性質を有するものが望ましい。)などの点で、汎用性や生産性、コスト面において他の成膜方法に劣る点はあるものの、膜厚をコントロールしやすく、磁気記録媒体などの精密機器表面に均一な薄膜を形成することが可能であり、今後も幅広く利用される成膜法であるため、真空蒸着法に対応可能な成膜材料への要求が高まっている。真空蒸着法においては、成膜を良好に行うためには成膜材料が昇温工程で徐々に蒸発することが求められるが、特許文献5に記載のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物では昇温工程において急激に高分子化してしまうためか、高温まで昇温した後に急激に蒸発する傾向が見られるため、良好な性能を有する被膜を形成することは困難である。
【0008】
本発明は上記の課題に対してなされたものであり、その目的は、コーティング法のみならず真空蒸着法によっても良好な成膜が可能であって、基材との密着性に優れた防汚性被膜を形成可能な防汚性被膜形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で表される新規なパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物によれば、上記の各種成膜方法によって、高い防汚性および耐久性を有するとともに、基材に対する密着性に優れる被膜を形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を提供する。
【0011】
【化1】
(一般式(1)中、nは10〜40の範囲の整数であり、mは1〜3の範囲の整数であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R3はヒドロキシ基とヒドロキシ基およびフェノキシ基からなる群から選ばれる1つまたは2つの置換基とによって置換された炭素数3〜5のアルキル基を表す。)
【0012】
上記構造を有する本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、コーティング法のみならず真空蒸着法による処理にも十分に対応することができ、各種基材に対して良好な密着性を示すとともに、優れた防汚性と耐久性とを兼ね備えた防汚性被膜を形成することができる。
【0013】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、一般式(1)においてmが2であり、R1がトリメチレン基を表し、R3が2,3−ジヒドロキシプロピル基を表すものであることが好ましい。
【0014】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、そのままで、または溶剤によって希釈して、防汚性被膜形成用組成物として使用することができる。
即ち本発明によって、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含む防汚性被膜形成用組成物が提供される。
【0015】
また本発明は、本発明の防汚性被膜形成用組成物を成膜して得られた防汚性被膜を提供する。
【0016】
また本発明は、本発明の防汚性被膜を有する物品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
前記一般式(1)で表される構造を有する本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、防汚性被膜形成用組成物成分として有用である。
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含む防汚性被膜形成用組成物を用いて基材表面上に成膜処理を行うことによって、基材表面に防汚性、密着性、耐久性に優れ、透明性も良好な防汚性被膜を形成することができる。
また、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含む防汚性被膜形成用組成物は、スピンコーティング法やディッピング法のみならず真空蒸着法による成膜にも適しており、いずれの成膜方法によっても性能が良好な防汚性被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0020】
【化2】
【0021】
(一般式(1)中、nは10〜40の範囲の整数であり、mは1〜3の範囲の整数であり、R1は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、R3はヒドロキシ基とヒドロキシ基およびフェノキシ基からなる群から選ばれる1つまたは2つの置換基とによって置換された炭素数3〜5のアルキル基を表す。)
【0022】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、ディッピング法やスピンコーティング法といったコーティング法のみならず真空蒸着法においても成膜材料として好適に使用することができる。また、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を用いて各種成膜方法によって基材表面に形成された被膜は、基材との密着性に優れるとともに、高い防汚性および耐久性を発揮することができる。本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物が真空蒸着法のための成膜材料として好適である理由は、構造中に十分な長さのパーフルオロポリエーテル基と1個のアルコキシシラン基(−Si(R2)X2)と1つ以上のヒドロキシ基を含む側鎖部分を有するため、真空蒸着時の昇温工程において急激に高分子化することなく徐々に蒸発することにあると考えられる。
【0023】
以下、一般式(1)について、更に詳細に説明する。
【0024】
一般式(1)中、nが10未満の整数では、パーフルオロポリエーテル基の長さが十分ではないため、十分な防汚性を発現する被膜を形成することは困難である。他方、nが40を超過する整数では、パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物中のアルコキシシラン基およびヒドロキシ基の比率が相対的に低くなるため、形成される被膜の密着性と耐久性が低下する。したがって本発明では、一般式(1)中のnは10〜40の範囲の整数とする。nは、形成される被膜の性能の観点から、10〜30の範囲の整数であることが好ましい。
【0025】
mは1〜3の範囲の整数であり、この範囲外である場合は、原料の入手が困難になるからである。形成される被膜の性能の点からは、mは2であることが好ましい。
【0026】
1は炭素数2〜4のアルキレン基を表す。炭素数が前記の範囲外である場合は、原料の入手が困難になるからである。形成される被膜の性能の点からは、R1はトリメチレン基であることが好ましい。
【0027】
2は、反応性と形成される被膜の性能の観点から、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基または炭素数1〜3のアルコキシ基とする。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基などを挙げることができる。炭素数1〜3のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などを挙げることができる。本発明においてR2は、形成される被膜の密着性と耐久性の観点から、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、またはイソプロポキシ基を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、またはエトキシ基を表すことがより好ましい。
【0028】
Xは、反応性の観点から、炭素数1〜3のアルコキシ基とする。なお、一般式(1)中に2つ存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。Xは、形成される被膜の密着性と耐久性の観点から、メトキシ基、エトキシ基を表すことが好ましい。
【0029】
3は、形成される被膜の性能の観点から、ヒドロキシ基とヒドロキシ基およびフェノキシ基からなる群から選ばれる1つまたは2つの置換基とによって置換された炭素数3〜5のアルキル基とする。R3の具体例としては、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2−メチル−2,4−ジヒドロキシブチル基、2−メチル−2,3,4−トリヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル基、2−ヒドロキシ−2−メチル−3−フェノキシプロピル基などを挙げることができる。本発明においてR3は、形成される被膜の密着性と耐久性の観点から、炭素数3〜5のジまたはトリヒドロキシアルキル基を表すことが好ましく、2,3−ジヒドロキシプロピル基を表すことがより好ましい。
【0030】
以上説明した一般式(1)の好ましい態様としては、一般式(1)においてmが2であり、R1がトリメチレン基を表し、R3が2,3−ジヒドロキシプロピル基を表す、下記一般式(2)を挙げることができる。
【0031】
【化3】
【0032】
(一般式(2)中、n、R2、およびXは、それぞれ一般式(1)と同義である。)
【0033】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は、当分野で一般的に使用される方法によって合成することができる。そのような合成方法としては、例えば、下記の4段階:
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階;
前記パーフルオロポリエーテル化合物をメチルエステル化してメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第2段階;
前記メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物とを反応させてパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を合成する第3段階;
前記パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物の2級アミノ基にエポキシアルコール化合物(エポキシ基とヒドロキシ基とを有する化合物)を反応させ、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を合成する第4段階;
を含む合成方法を挙げることができる。
以下、上記合成方法について、更に詳細に説明する。
【0034】
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階:
パーフルオロポリエーテル化合物は下記のように公知の方法により、ヘキサフルオロプロピレンオキシドとフッ化セシウムとを溶媒に添加し混合することにより、合成することができる[JAMES T.HILL,J.Macromol.Sci.Chem.,A8,(3),p499(1974)参照]。ここで前記溶媒としては、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、トリグリム(triglyme)、テトラグリム(tetraglyme)、ブチルジグリム(butylglyme)およびエチルジグリム(ethylglyme)などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。パーフルオロポリエーテル化合物の重合度(分子量)はヘキサフルオロプロピレンオキシドの導入速度および反応温度により制御することができる。
【0035】
パーフルオロポリエーテル化合物をメチルエステル化してメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第2段階:
パーフルオロポリエーテル化合物はメタノールと混合して20〜30℃程度の温度で攪拌することにより、容易にメチルエステル化することができる。その後、精製、乾燥を行うことでメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物を得ることができる。
ここで、ゲル透過クロマトグラフィー法により、メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物の分子量を測定することで、その重合度を確認することができる。前記重合度は前記一般式(1)のnに相当する。
【0036】
メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物とを反応させてパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を合成する第3段階:
アミノシラン化合物としては、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、例えば、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらのアミノシラン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記アミノシラン化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、溶媒内でメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物1.0モルに対して1.0〜3.0モル比で混合することができる。この時、反応温度は反応系の粘度と溶媒の沸点の観点から、60〜80℃程度の温度条件を維持することが好ましい。また、前記溶媒としては、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビストリフルオロベンゼンなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応終了後、精製、乾燥を行うことで、パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を得ることができる。
【0037】
パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物の2級アミノ基にエポキシアルコール化合物(エポキシ基とヒドロキシ基を有する化合物)を反応させ、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を合成する第4段階:
エポキシアルコール化合物としては、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、例えば、グリシドール、3−メチル−3,4−エポキシ−1−ブタノール、3−メチル−3,4−エポキシブタン−1,2−ジオール、フェニルグリシジルエーテル、フェニル−2−メチルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。これらのエポキシアルコール化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、形成される被膜の密着性と耐久性の観点からは、グリシドールを使用することが好ましい。
エポキシアルコール化合物を、溶媒内で、前記第3段階で製造されたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物1.0モルに対して、例えば、1.0〜2.0モル比で混合し、20〜50℃程度で撹拌することで反応を進行させることができる。また、前記溶媒としては、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、トリクロロトリフルオロエタン、トリフルオロベンゼン、1,3−ビストリフルオロベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビストリフルオロベンゼンなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
反応終了後、精製、乾燥を行うことにより、パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物の2級アミノ基にエポキシアルコール化合物のエポキシ基を反応および付加させた、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を得ることができる。
【0038】
以上説明した合成方法によって、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を得ることができる。
【0039】
また本発明は、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物を提供する。本発明の防汚性被膜形成用組成物は、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物のみを含むものであってもよいが、通常は取り扱いを容易にするために、当該化合物を希釈するための溶剤を含む。本発明の防汚性被膜形成用組成物における上記パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の含有量は、特別に制限されるわけではないが、扱いやすさの観点から、0.05〜50質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましい。
【0040】
前記溶剤は、当分野で一般的に使用されるものを用いることができ、特別に限定はされないが、例えば、パーフルオロヘプタン、パーフルオロヘキサン、m−六フッ化キシレン(m−xylene hexafluoride)、ベンゾトリフルオリド、メチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタン、メチルパーフルオロヘキシルエーテルなどのフッ素変性炭化水素系溶剤などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、本発明の防汚性被膜形成用組成物には、必要に応じて、加水分解縮合触媒を添加してもよい。このような触媒としては、有機酸(酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸など)、無機酸(塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ハロゲン化シランなど)、酸性ゾル状フィラー(酸性コロイダルシリカ、酸化チタニアゾルなど)、炭酸塩(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムなど)、炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムなど)、脂肪族アミン(メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなど)、脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンなど)、芳香族アミン(アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、メチルベンジルアミンなど)、アミノアルコール(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなど)、複素環式アミン(ピリジン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジンなど)、有機錫化合物(ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジメトキシドなど)、有機チタン化合物(テトラn−ブチルチタネートなど)、亜鉛化合物(ステアリン酸亜鉛など)、アルミ系の金属触媒等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0042】
本発明の防汚性被膜形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物に加え、微量の水分の混入や分解などによって生じるパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の部分加水分解縮合物が含まれていてもよい。
【0043】
また本発明は、本発明の防汚性被膜形成用組成物を成膜して得られた防汚性被膜および該防汚性被膜を有する物品を提供する。
【0044】
本発明の防汚性被膜は、本発明の防汚性被膜形成用組成物を用いて、ガラス、有機ポリマー、金属などの各種基材に対して成膜処理を行い形成することができる。本発明の防汚性被膜形成用組成物によれば、高い透明性を有する被膜を形成することができるため、物品の外観に影響を与えることなく、防汚性を付与することが可能である。
【0045】
防汚性被膜を形成する成膜方法としては、特に限定されず、当分野で一般的に使用される各種成膜方法、例えば、スピンコーティング法、浸漬コーティング法、カーテンコーティング法、ディッピング法、ゾル−ゲル法および真空蒸着法などの公知の方法を用いることができる。形成される防汚性被膜は、膜厚が5〜50nmの範囲であることが好ましく、5〜30nmの範囲であることがより好ましい。膜厚が5nm未満の場合は被膜の防汚性、密着性、耐久性が低下する傾向があり、50nmを超過する場合は、光透過性が減少し、厚さが不均一となるため、反射特性の劣化干渉模様が発生する傾向があるためである。本発明の防汚性被膜形成用組成物により成膜される防汚性被膜の膜厚は、光学式膜厚測定法等の公知の膜厚測定方法によって測定することができる。
【0046】
本発明の防汚性被膜が形成される物品としては、特に限定されるものではなく、防汚効果を付与することが望ましい各種物品を挙げることができる。例えば、無機ガラスや透明な有機ポリマーから構成され、汚れの付着が実生活の中で大きな不便をもたらすレンズ類、ガラス窓類、液晶類、平板表示素子(PDP)類、有機発光素子(EL)および電界放出ディスプレー(FED)などのフラットパネルディスプレー類、光学フィルター類の最外層として、本発明の防汚性被膜を形成することが好ましい。具体的には、眼鏡、カメラなどのレンズ類、各種製品の液晶表面、一般家庭用、産業用車両などの窓ガラス類、台所、浴室などの水周辺用品、建築外装材、そして美術用品などにも、本発明の防汚性被膜を形成することができる。
また、本発明の防汚性被膜と基材との間には、帯電防止層、反射防止層、電磁波シールド層などの多様な機能性層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
1.パーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の合成
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階:
攪拌器、冷却ジャケット、温度計、圧力計が設置されたステンレス製高圧反応器にテトラグリム2.49g、フッ化セシウム1.69g、ヘキサフルオロプロピレン87.75gおよびヘキサフルオロプロピレンオキシド220gを投入し、−35℃で反応させることで無色透明液状のパーフルオロポリエーテル化合物を得た。この化合物について、FT−IRおよび19F−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−C(O)Fの吸収の存在を確認した。19F−NMRにおいて以下のピークを確認した。
この化合物のFT−IRおよび19F−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
19F−NMR
83.3ppm s、3F、C3CF2
131.3ppm m、2F、CF32
83.2ppm m、2F、CF3CF22
s、3F、−CF(C3)C(O)F
146.2ppm t、1F、−OC(CF3)CF2
81.6ppm m、3F、−OCF(C3)CF2
m、2F、−OCF(CF3)C2
132.0ppm t、1F、−C(CF3)C(O)F
FT−IR
1880cm-1(−C(O)F)
1100〜1340cm-1(C−F)
【0049】
パーフルオロポリエーテル化合物をメチルエステル化してメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第2段階:
前記の第1段階で得られたパーフルオロポリエーテル化合物にメタノール5gを添加し、室温で12時間攪拌し、未反応のメタノールを真空乾燥にて除去することで、無色透明液状のメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物221gを得た。ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定により、このメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物の分子量がMW=2300であり、ヘキサフルオロプロピレンオキシドが約13量体であることが確認された(以下、「メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物13量体」という)。
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)の測定条件は以下の通りとした。
使用機器:Waters 410 Defferential Refactometer、Waters 717plus Auto Sampler、Waters 1525 Binary HPLC Pump
使用溶剤:R−113(1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン)
温度:25℃
流量:1〜5μl/min
【0050】
上記化合物について、FT−IRおよび1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−C(O)Fの吸収の消失と−C(O)OCH3の吸収の存在を確認した。1H−NMRにおいて−OC3のピークを確認した。
この化合物のFT−IRおよび1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
1800cm-1(−C(O)OCH3
1H−NMR(C6F6)
4.3ppm s、−OC3
【0051】
メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物とアミノシラン化合物とを反応させてパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を合成する第3段階:
前記の第2段階で得られたメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物13量体20g(8.7ミリモル)に反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン10gを加え、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)1.97g(9.57ミリモル)を添加した後、窒素雰囲気下で65〜75℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物21.50g得た。
この化合物について、FT−IRおよび1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいて−C(O)OCH3の吸収の消失と−C(O)NH−の吸収の存在を確認した。1H−NMRにおいて以下のピークを確認した。この化合物のFT−IRおよび1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
1710cm-1(−C(O)NH−)
1530cm-1(−C(O)NH−)
1H−NMR(C6F6)
0.11ppm s、3H、≡Si−C3
0.7ppm t、2H、−C2−Si≡
1.74ppm m、2H、−CH22CH2
2.91ppm m、2H、−NH−C2
3.16ppm m、2H、−C2−NH−
3.43ppm m、2H、−C(O)NH−C2
3.56ppm s、6H、=Si−(OC32
【0052】
パーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物の2級アミノ基にエポキシアルコール化合物(エポキシ基とヒドロキシ基とを有する化合物)を反応させ、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を合成する第4段階:
前記の第3段階で得られたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物21.50g(8.66ミリモル)に再び反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン10gを加えた後、3−グリシドール0.77g(10.43ミリモル)を添加し、窒素雰囲気下で35〜45℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物22.12gを得た。
この化合物について、FT−IRおよび1H−NMRによる同定を行った。FT−IRにおいてOHの吸収の存在を確認した。1H−NMRにおいて以下のピークを確認した。この化合物のFT−IRと1H−NMRのスペクトルデータを以下に示す。
FT−IR
3250〜3410cm-1(O−H、N−H)
2780〜3000cm-1(C−H)
1710cm-1(−C(O)NH−)
1530cm-1(−CONH−)
1100〜1340cm-1(C−F)
1H−NMR
0.11ppm s、3H、≡Si−C3
0.7ppm t、2H、−C2−Si≡
2.65〜3.15 m、6H、−C2−N(C2−)−C2
3.43ppm m、2H、−C(O)NH−C2
3.63ppm s、6H、=Si−(OC32
3.71〜4.31 m、5H、−C(O)C2
【0053】
以上の同定結果から、前記の第4段階で得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物が、下記化学式aで表される構造を有することが確認された。
【0054】
【化4】
【0055】
2.真空蒸着法による防汚性被膜の形成
上記1.で得たパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の20質量%溶液(溶媒はメチルパーフルオロブチルエーテル(東京化成工業株式会社製)を使用)0.25mLを、ステンレス製焼結フィルター(細孔径80〜100μm、直径18mm、厚さ3mm)に含浸させ、50℃で60分間加熱処理してメチルパーフルオロブチルエーテルを蒸発除去した。
その後、ポリカーボネート系プラスチックレンズまたは金属板と、上記方法でパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含浸させたステンレス製焼結フィルターとを真空蒸着機(商品名:CES−1050(シンクロン社製))に装着し、真空度1.5×10-2Pa以下で、第一ステップとして3分20秒で800℃まで加熱昇温し、さらに第二ステップとして1分40秒で850℃まで加熱昇温し、真空蒸着を行い、被膜を有する物品を得た。
光学式膜厚測定器にて、真空蒸着法にて得られた被膜の膜厚を測定したところ15nmであった。
この被膜を有する物品を用いて、下記の方法で、接触角、転落角、密着性、外観、耐久性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0056】
ポリカーボネート系プラスチックレンズ、金属板としては以下のものを使用した。
ポリカーボネート系プラスチックレンズは、レンズ基板(HOYA株式会社製ポリカーボネート製レンズ、屈折率1.589、度数−4.00)の表面上に、ハードコート膜(特開昭63−10640号公報に開示の保護膜を使用)と反射防止膜(SiO2を蒸着材料として形成された蒸着層とZrO2を蒸着材料として形成された蒸着層が複数積層された多層膜)をこの順に積層して作製した。上記多層膜の最外層のSiO2蒸着層表面に、上記被膜を形成した。
金属板としては、株式会社ニラコ製のニッケル板(品番:NI−313324)を、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した後、25℃で1 Nの塩酸水溶液で5分間処理した。その後水洗し、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した。洗浄後のニッケル板表面に、上記被膜を形成した。
【0057】
評価方法
(1)接触角
接触角計DM−500(協和界面科学社製)を用いて、設置角度0°(水平)のステージ上に設置した物品の被膜表面に蒸留水(2.0μL)を滴下し、20℃の雰囲気下で接触角(°)を測定した。接触角が大きいほど撥水性が良好であり、防汚性が良好であると判断する。
(2)転落角
接触角を測定した後ステージを水平(0°)から傾けていき、水滴の転がる角度を測定した。転落角が小さいほど撥水性が良好であり、防汚性が良好であると判断する。
(3)密着性
被膜を有する物品1枚をメチルパーフルオロブチルエーテル(300ml)に浸漬し、超音波洗浄機を行いて25℃で1分間処理を行い、取り出して乾燥後に、上記(1)と同様の方法で接触角を測定した。接触角が大きいほど密着性が良好と判断する。
(4)外観
目視にて、被膜を有する物品表面の透明性を確認し、下記の基準に従い評価を行った。
○:後述する比較例3と同等の透明性であり、透明性が良好。
×:後述する比較例3より透明性が劣る。
(5)摩擦耐久性
JIS L 0849:2004に従って、摩擦試験機I形(クロックメーター)を使用し、物品の被膜表面をキムワイプ(商品名:キムワイプ ワイパーS−200(日本製紙クレシア株式会社製))にて摩擦した後に、上記(1)の方法で接触角の測定を行った。摩擦時の荷重は2kgとし、摩擦回数は600回とした。摩擦後の接触角が大きいほど耐久性が良好と判断する。
【0058】
3.ディッピング法による防汚性被膜の形成
上記1.で得たパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物の0.1質量%溶液(溶媒は3M社製Novec7100(ハイドロフルオロエーテル)を使用)をシャーレに入れ、スライドグラスまたは金属板を25℃で30秒間浸後、90%RH90℃の雰囲気中で3時間加熱処理を行い被膜を有する物品を得た。オージェ電子分光分析装置(AES、日立協和エンジニアリング株式会社製、シリコン換算)にて、ディッピング法にて得られた被膜の膜厚を測定したところ15nmであった。
この被膜を有する物品を用いて、下記の方法で、接触角、はじき性、拭き取り性、密着性、外観、耐久性の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0059】
スライドグラス、金属板としては以下のものを使用した。
スライドグラスは、商品名:マツナミスライドグラス白縁磨No.1、品番:S1111(松浪硝子工業株式会社製)を使用した。
金属板としては、ニッケル板およびアルミニウム板を使用した。ニッケル板としては、株式会社ニラコ製のニッケル板(品番:NI−313324)を、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した後、25℃で1Nの塩酸水溶液で5分間処理した。その後水洗し、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した。洗浄後のニッケル板表面に、上記被膜を形成した。
アルミニウム板としては、TP技研株式会社製のアルミニウム板(品番:A1050P)を、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した後、25℃で5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で5分間処理した。その後水で洗い出し、超音波洗浄機にてアセトンで洗浄した。洗浄後のアルミニウム板表面に、上記被膜を形成した。
【0060】
評価方法
(1)接触角
(株)マツボー製の携帯式接触角計(PG−X)を用いて、物品の被膜表面に蒸留水(2.5μL)を滴下し、20℃の雰囲気下で接触角(°)を測定した。接触角が大きいほど撥水性が良好であり、防汚性が良好であると判断する。
(2)はじき性(汚れ付着防止性)
物品の被膜表面上に、油性ペン(商品名:PentelPEN ENN50 丸芯中字(ぺんてる製))で5cmの直線を引いたときの、被膜を有する物品表面でのインクのはじきの度合いを目視にて判定した。下記の基準に従い評価を行った。
○:インクをはじき滴状になり、インク汚れがほとんど付かない。
△:インクをはじくもののすべて滴状ではなく一部つながっており、
若干のインク汚れが付く。
×:インクの汚れが付く。
(3)拭き取り性
物品の被膜表面上に、油性ペン(商品名:PentelPEN ENN50 丸芯中字(ぺんてる製))で5cmの直線を引き、キムワイプ(商品名:キムワイプ ワイパーS−200(日本製紙クレシア株式会社製))にて拭き取った(荷重1kg×10往復)後のインク汚れの残存度合いを目視にて判定した。下記の基準に従い評価を行った。
○:インク汚れを全て拭き取ることができる
△:インク汚れの線の跡が若干残る
×:インク汚れの線の跡がはっきり残る
(4)密着性
被膜を有する物品1枚をメチルパーフルオロブチルエーテル(300ml)に浸漬し、超音波洗浄機を行いて25℃で1分間処理を行い、取り出して乾燥後に接触角を測定した。接触角が大きいほど密着性が良好と判断する。
(5)外観
目視にて、被膜を有する物品表面の透明性を確認し、下記の基準に従い評価を行った。
○:後述する比較例3と同等の透明性であり、透明性が良好。
×:後述する比較例3より透明性が劣る。
(6)摩擦耐久性
JIS L 0849:2004に従って、摩擦試験機I形(クロックメーター)を使用し、物品の被膜表面を綿ブロード布にて摩擦した後、上記(1)〜(3)の方法で接触角、はじき性、拭き取り性の評価を行った。摩擦時の荷重は1kgとし、摩擦回数は1000回とした。摩擦後の接触角が大きいほど耐久性が良好と判断する。
【0061】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
実施例1で用いたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物(化学式a)を、表1〜4に記載の化合物(下記化学式b〜g)に変えた点以外は実施例1と同様に操作して実施例2〜4および比較例1〜3の被膜を有する物品を得た。これらの被膜を有する物品を用いて、実施例1と同様に評価を行った。得られた結果を、表1〜4に示す。
【0062】
実施例2〜4、比較例1〜3で被膜の形成に使用した化合物の合成方法を、以下に示す。
【0063】
[化学式bで表される化合物(実施例2で使用)の合成]
パーフルオロポリエーテル化合物を合成する第1段階において、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの量を420gに増加した点以外は実施例1と同様に反応を行い、メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物421gを得た。ゲル透過クロマトグラフィー測定によりこのメチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物の分子量がMW=4、400であり、ヘキサフルオロプロピレンオキシドが約26量体であることが確認された(メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物26量体)。
メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物26量体40g(9.09ミリモル)に反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20gを加え、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)2.06g(10ミリモル)を添加した後、窒素雰囲気下で65〜75℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物を41.48gを得た。
このパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物41.5g(9.07ミリモル)に再び反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン20gを加えた後、3−グリシドールを0.81g(10.88ミリモル)添加し、窒素雰囲気下で35〜45℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物42.26gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は下記化学式bで表される構造を有することが確認された。
【0064】
【化5】
【0065】
[化学式cで表される化合物(実施例3で使用)の合成]
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)2.06g(10ミリモル)に変えて3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−603)2.22g(10ミリモル)を使用した点以外は、上記の化学式bで表される化合物の合成と同様に操作を行い、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物42.27gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は下記化学式cで表される構造を有することが確認された。
【0066】
【化6】
【0067】
[化学式dで表される化合物(実施例4で使用)の合成]
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)2.06g(10ミリモル)に変えて3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBE−603)2.64g(10ミリモル)を使用した点以外は、上記の化学式bで表される化合物の合成と同様に操作を行い、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物42.69gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は下記化学式dで表される構造を有することが確認された。
【0068】
【化7】
【0069】
[化学式eで表される化合物(比較例1で使用)の合成]
3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−602)1.97g(9.57ミリモル)に変えて3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−603)2.12g(9.57ミリモル)を使用し、3−グリシドール0.77g(10.43ミリモル)に変えて3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−403)2.46g(10.43ミリモル)を使用した点以外は、実施例1と同様に操作を行って、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物23.58gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は下記化学式eで表される構造を有することが確認された。
【0070】
【化8】
【0071】
[化学式fで表される化合物(比較例2で使用)の合成]
3−グリシドール0.77g(10.43ミリモル)に変えて3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBE−403)2.90g(10.43ミリモル)を使用した点以外は、実施例1と場合と同様に操作を行って、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物23.87gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物は下記化学式fで表される構造を有することが確認された。
【0072】
【化9】
【0073】
[化学式gで表される化合物(比較例3で使用)の合成]
メチルエステル化パーフルオロポリエーテル化合物13量体20g(8.7ミリモル)に反応溶媒として1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン10gを加え、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製商品名KBM−603)2.12g(9.57ミリモル)を添加した後、窒素雰囲気下で65〜75℃で6時間反応させ、メタノールで沈殿精製することで、微黄色透明液状のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物21.60gを得た。
化学式aで表される化合物を同定した際と同様の方法で同定を行った結果、得られたパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン化合物は下記化学式gで表される構造を有することが確認された。
【0074】
【化10】
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
以上の結果から、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物は、各種基材に対して成膜方法を問わず高い防汚性および耐久性を有する防汚性被膜を形成することができ、しかも形成された防汚性被膜は基材との密着性も良好であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物によれば、各種物品に対して成膜方法を問わず良好な防汚性と密着性および基材との密着性を兼ね備えた防汚性被膜を形成することができる。このため、本発明のパーフルオロポリエーテル変性シラン化合物を含有する防汚性被膜形成用組成物は、ガラス類、有機ポリマー類、金属類などの各種基材に広く適用できるので、産業上きわめて利用価値が高い。