(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938285
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20160609BHJP
【FI】
F16H25/22 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-153418(P2012-153418)
(22)【出願日】2012年7月9日
(65)【公開番号】特開2014-15972(P2014-15972A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100148231
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 謙治
(72)【発明者】
【氏名】野口 恵伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄祐
【審査官】
稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−090438(JP,A)
【文献】
特開2006−090436(JP,A)
【文献】
特開2007−064863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が形成されるねじ軸と、
前記ねじ軸に外嵌めされるとともに、内周面にねじ溝が形成されるナットと、
前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝により形成される転動通路に収容される複数のボールと、
前記ナットの胴部に形成される貫通孔内に設けられ、前記ボールを前記転動通路内で循環させる循環路を有するデフレクタと、を備え、
前記デフレクタには、収容凹部が形成されており、
前記収容凹部には、圧電素子が配設されることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記収容凹部は、前記デフレクタに形成された溝状のスリットであり、
前記ナットの貫通孔には、内側に突出する段部が形成され、
前記デフレクタは、前記スリットから突出した前記圧電素子が前記段部に載置された状態で前記貫通孔内に配置されることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記スリットは、前記デフレクタの長手方向の両端位置に形成されることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外周面にねじ溝を有するねじ軸と、ねじ軸に外嵌めされるとともに内周面にねじ溝を有するナットと、両ねじ溝により形成される転動通路に収容される複数のボールと、ナットに形成される貫通孔に嵌め込まれ、ボールを転動通路内で循環させる循環路を有するデフレクタと、を備えるボールねじ装置が開示されている。
【0003】
このボールねじ装置によれば、ナットを回転させることで、ねじ軸を軸方向に直線的に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−133049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなボールねじ装置においては、ボールがデフレクタの循環路を通過する時に、ボールからデフレクタに押圧力が作用するが、この押圧力を活用することは一切考慮されていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、デフレクタに作用する押圧力を電力に変換することができるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外周面にねじ溝が形成されるねじ軸と、前記ねじ軸に外嵌めされるとともに、内周面にねじ溝が形成されるナットと、前記ねじ軸のねじ溝及び前記ナットのねじ溝により形成される転動通路に収容される複数のボールと、前記ナットの胴部に形成される貫通孔内に設けられ、前記ボールを前記転動通路内で循環させる循環路を有するデフレクタと、を備える。そして、前記デフレクタには収容凹部が形成され、前記収容凹部には圧電素子が配設される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のボールねじ装置によれば、ナットの貫通孔に嵌め込まれるデフレクタに収容凹部を形成し、当該収容凹部に圧電素子を配設する。ボールが循環路を通過する時に生じる押圧力により、デフレクタは撓んだり振動したりするので、収容凹部に収容された圧電素子にはデフレクタの撓みや振動に起因する外力が作用し、この外力に基づく圧電効果により圧電素子は発電する。このようにボールねじ装置では、圧電素子を用いて、ボールからデフレクタに作用する押圧力を電力に変換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態によるボールねじ装置の概略構成図である。
【
図3A】ボールねじ装置のナットに設けられるデフレクタの正面図である。
【
図4】
図1のIV−IV面におけるナット及びデフレクタの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜
図4を参照して、本発明の実施形態によるボールねじ装置100について説明する。
【0011】
ボールねじ装置100は、例えば車両の電動パワーステアリング装置に組み込まれ、電動モータ81の回転を、車輪に連結されるラック軸の軸方向運動に変換するものとして使用される。
【0012】
図1及び
図2に示すように、ボールねじ装置100は、ラック軸の一部を構成するねじ軸10と、複数のボール20を介してねじ軸10に外嵌めされるナット30と、ナット30を回転駆動させる電動モータ81と、を備える。電動モータ81には、車両に搭載されたバッテリ82から電力が供給される。
【0013】
ねじ軸10は、棒状の部材である。ねじ軸10の外周面には、ねじ溝11が形成されている。ねじ溝11は、ねじ軸10の軸方向に沿って螺旋状に形成されている。
【0014】
ナット30は、両端が開口した円筒状部材である。ナット30は、ねじ軸10の軸心を回転中心として回転可能なように、ねじ軸10に外嵌めされている。ナット30の内周面には、螺旋状のねじ溝31が軸方向に沿って形成されている。
【0015】
ねじ軸10とナット30とはねじ溝11及びねじ溝31が対向するように配置され、両ねじ溝11,31によりボール20が転動可能な転動通路40が形成される。転動通路40は、ねじ溝11,31に対応する螺旋状の通路である。転動通路40内には、複数のボール20が充填される。
【0016】
ナット30の胴部32には、当該胴部32を径方向に貫通する貫通孔33が設けられる。貫通孔33は、トラック形(角丸長方形)の長孔として形成されている。貫通孔33は複数設けられ、これら貫通孔33はナット30の軸方向及び周方向において異なる位置に配置される。
【0017】
図1、
図2、及び
図4に示すように、貫通孔33内には、貫通孔33の形状に対応して形成されたトラック形のデフレクタ50が嵌め込まれる。デフレクタ50は、鋼材や鋳鉄等により形成される。貫通孔33の長手方向の両端位置には内側に突出する段部33A(
図4参照)が形成されており、デフレクタ50は、後述する圧電素子70が段部33A上に載置された状態で、貫通孔33内に配設されている。デフレクタ50の配設後、貫通孔33内には接着剤60が充填され、貫通孔33は接着剤60により閉塞される。
【0018】
図3A、
図3B、及び
図4に示すように、デフレクタ50は、転動通路40内でボール20を循環させるための循環路51と、圧電素子70を収容可能な収容凹部としてのスリット52と、を備える。
【0019】
循環路51は、デフレクタ50の底面に凹設された通路である。循環路51は、デフレクタ50が貫通孔33内に設置された状態で、隣接する2つのねじ溝11を接続するように構成されている。循環路51は、一方のねじ溝11と他方のねじ溝11を滑らかに接続するように湾曲形成されている。また、循環路51の深さは、循環路51を通過するボール20が隣接するねじ溝11の間に設けられたねじ軸10のランド部12(
図2参照)を乗り越えることができる深さに設定されている。
【0020】
このようにデフレクタ50の循環路51がねじ軸10の隣接するねじ溝11を連通することで、転動通路40はボール20が循環可能な循環通路として構成される。
【0021】
スリット52は、デフレクタ50の長手方向の両端位置において、デフレクタ50の一部を切り欠いて形成される。スリット52は、貫通孔33の段部33Aに対応して設けられる。スリット52は、圧電素子70の基端部分を収容可能な溝状の収容凹部として構成されている。
【0022】
圧電素子70は、外力を受けた時に電圧を発生し、電圧が印加された時に伸縮する電気素子である。圧電素子70は、デフレクタ50の端部形状及びスリット52の形状に対応して半円形の薄板として形成されている。圧電素子70は、スリップリング等を備える電気配線を介して、バッテリ82と電気的に接続されている(
図1参照)。
【0023】
図4に示すように、デフレクタ50は、圧電素子70を介して貫通孔33の段部33A上に載置され、貫通孔33内に嵌め込まれる。圧電素子70の基端部分は、デフレクタ50のスリット52内に収容されている。デフレクタ50が貫通孔33内に嵌め込まれた状態では、圧電素子70の上面はスリット52の上面52Aに当接しており、圧電素子70の下面はスリット52から突出した部分がナット30の段部33Aに当接している。なお、スリット52の上面52Aは、圧電素子70の上面全体に接触するように半円形面として形成されている。
【0024】
ボールねじ装置100では、電動モータ81によってナット30が正回転駆動されると、ナット30の回転に応じて転動通路40を転動するボール20を介して、ねじ軸10が
図2中右方向に移動する。一方、電動モータ81によってナット30が逆回転駆動されると、ナット30の回転に応じて転動通路40を転動するボール20を介して、ねじ軸10が
図2中左方向に移動する。
【0025】
転動通路40を転動するボール20がデフレクタ50の循環路51を通過する時には、ボール20からデフレクタ50に押圧力が作用する。この押圧力によりデフレクタ50が撓んだり振動したりしてスリット52に収容された圧電素子70に外力が入力すると、圧電効果により圧電素子70は電圧を発生する。このように圧電素子70から出力される電力はバッテリ82に供給される。
【0026】
上記した本実施形態のボールねじ装置100によれば、以下の効果を得ることができる。
【0027】
ボールねじ装置100では、ナット30の貫通孔33に嵌め込まれるデフレクタ50に収容凹部としてのスリット52を形成し、スリット52内に圧電素子70を配設する。デフレクタ50はボール20が循環路51を通過する時に生じる押圧力により撓んだり振動したりするので、スリット52に収容された圧電素子70にはデフレクタ50の撓みや振動に起因する外力が作用し、この外力に基づく圧電効果により圧電素子70は発電する。このようにボールねじ装置100では、圧電素子70を用いて、ボール20からデフレクタ50に作用する押圧力を電力に変換することが可能となる。圧電素子70で発生した電力をバッテリ82等に供給すれば、ボールねじ装置100におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0028】
また、ボールねじ装置100では、デフレクタ50は、スリット52から突出した圧電素子70がナット30の段部33Aに載置された状態で、貫通孔33内に配置される。このように構成した場合にも、デフレクタ50に作用する押圧力を電力に変換することが可能となる。一方、圧電素子70にバッテリ82等から所定電圧を印加して圧電素子70をスリット52の隙間方向(
図3Bの縦方向)に伸縮させるようにすれば、貫通孔33内におけるデフレクタ50の高さ方向位置を調整することが可能となる。圧電素子70によりデフレクタ50の高さ方向位置を調整することで、ナット30のねじ溝31とデフレクタ50の循環路51との境界位置において段差が生じることを抑制できる。ナット30が回転駆動されてねじ軸10が軸方向に移動する場合にボール20は転動通路40を転動するが、ボール20はねじ溝31と循環路51の境界位置を滑らかに転動するので、当該境界位置をボール20が通過する時に発生する騒音及び振動を抑制することができる。
【0029】
さらに、ボールねじ装置100では、圧電素子70の基端部分をデフレクタ50のスリット52内に収容するようにしたので、デフレクタ50の大型化を抑制でき、デフレクタ50をコンパクトな構成とすることが可能となる。
【0030】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなし得ることは明白である。
【0031】
ボールねじ装置100は、ナット30を電動モータ81で回転させ、ねじ軸10を軸方向に移動させるように構成したが、これに限られるものではない。例えば、ボールねじ装置100は、電動モータ81でねじ軸10を回転させ、ナット30を軸方向に移動させるように構成してもよい。
【0032】
また、デフレクタ50に作用する押圧力を利用して圧電素子70で発電するという観点では、デフレクタ50の両端部にスリット52を形成するのではなく、デフレクタ50の内部に収容空間を形成して、当該収容空間内に圧電素子70を配設するようにしてもよい。なお、デフレクタ50全体を圧電材料により形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
100 ボールねじ装置
10 ねじ軸
11 ねじ溝
20 ボール
30 ナット
31 ねじ溝
32 胴部
33 貫通孔
33A 段部
40 転動通路
50 デフレクタ
51 循環路
52 スリット(収容凹部)
60 接着剤
70 圧電素子