(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内側電極の内側検知部から狭幅の内側リード部を設けた場合、内側検知部の後端縁が周方向に延びる一方で内側リード部が軸線方向に延び、内側検知部の後端縁の接線と内側リード部の輪郭線とが接続する接続点のなす角が直角になっている。このようなガスセンサ素子に対して、高温から100℃以下に急冷される冷熱サイクルを受けると、内側電極が接続点付近から剥離し易くなるという問題がある。これは、接続点がエッジとなって応力集中するためと考えられる。
なお、一般に固体電解質体の外表面は、外側電極を被毒等から保護するための保護層が、固体電解質体から剥離することを防止するために粗くしているので、外側電極の密着性も高くて剥離し難くなっている。一方、固体電解質体の内表面は、外表面のように、保護層を形成することはないため粗くすることはなく、さらには、固体電解質体の筒体の成型時にプレスピンを挿抜するためにピンの表面を反映した鏡面になっており、内側電極の密着性は低くて剥離し易い。そのうえ、めっき皮膜には一般に圧縮応力が働くため、固体電解質体の外表面の外側電極は、冷熱サイクルを受けたとしても剥離し難いのに対し、内側電極は、冷熱サイクルを受けると剥離が促進される傾向にある。
従って、本発明は、内側リード部を内側検知部より径方向に幅狭として内側電極の電極材料を削減できると共に、冷熱サイクルを受けても内側電極が剥離し難いガスセンサ素子、ガスセンサ及びガスセンサ素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のガスセンサ素子は、軸線方向に延びつつ先端が閉じた有底筒状に形成された固体電解質体と、該固体電解質体の内周面に設けられた
メッキ層からなる内側電極と、前記固体電解質体の外周面に設けられた外側電極と、を有するガスセンサ素子であって、前記内側電極は、先端側に位置する内側検知部と、該内側検知部から後端側に向かって延び、前記内側検知部より周方向に幅狭の
1本の内側リード部とを有し、
前記内側検知部は、前記固体電解質体の前記内表面に、周方向全体にわたって形成されており、前記内側リード部の輪郭線と前記内側検知部の後端縁とが接続する接続点を通り、前記内側リード部の輪郭線と、前記内側検知部の後端縁の接線、とのなす前記内側リード部の周方向外側にできる角が鈍角であ
り、前記接続点から離れるに従って前記内側検知部の前記後端縁が先端に向かって立ち下がる。
このガスセンサ素子によれば、内側リード部を内側検知部より径方向に幅狭としているので、内側電極の電極材料を削減することができる。そして、内側リード部の輪郭線と内側検知部の後端縁の接線とのなす角(内側リード部の周方向外側にできる角)が鈍角であるので、接続点への応力集中が低減され、ガスセンサ素子が高温から100℃以下に急冷される冷熱サイクルを受けても、内側電極が接続点付近から剥離し難くなる。特に、固体電解質体の内面は鏡面になっており、内側電極の密着性が低く、さらに、めっき皮膜には一般に圧縮応力が働くため、内側電極の剥離が生じやすい傾向であるが、上記角を鈍角とすることで、内側電極の剥離を抑制できる。
【0006】
なお、本発明は、接続点が2つ(つまり、内側リード部の周方向両側の輪郭線に接続点が接続される)形成される内側電極に限られることなく、接続点が1つ形成される内側電極に適用されるものであってもよい。なお接続点が1つの場合、接続点が形成されない側の内側リード部の輪郭線は、内側検知部の輪郭線と直線にて接続されている形態を指す。また、接続点が2つ形成される内側電極の場合、両側の接続点にて、角が鈍角になっているものに限られることなく、片側の接続点にて、角が鈍角になっていてもよい。
【0007】
また、内側リード部が滲み、輪郭線にうねりや微小な波形が生じる場合においても、本発明においては、直線近似を行い上述の定義に当てはめるものとする。また、内側リード部の輪郭線は、軸線方向に平行な直線状であってもよいし、軸線方向の後端側に向かって傾斜(より詳細には、内側リード部の幅が後端側に向かって幅狭になる)していてもよい。
【0008】
さらに、本発明では、前記内側リード部の輪郭線が前記軸線方向に平行な直線状であると、内側リード部の幅をどの位置でも細くすることができ、内側リード部の電極材料の使用量を低減することができる。
【0009】
さらに、本発明では、
前記外側電極は、先端側に位置する外側検知部と、該外側検知部から後端側に向かって延び、前記外側検知部より周方向に幅狭の外側リード部とを有し、前記外側検知部は、前記内側リード部が形成された前記固体電解質体の内表面とは反対側に設けられた固体電解質体の外表面上に、周方向の一部にわたって設けられていることを特徴とする。これにより、外側電極においても、電極材料の使用量を低減することができる。
【0010】
さらに、本発明では、前記外側検知部の後端縁は、前記内側検知部の後端縁よりも先端側に形成されてなることを特徴とする。これにより、外側及び内側電極が確実に対向し、被測定ガス中の特定ガス成分を良好に測定することができる。
なお、内側検知部の後端縁とは、この後端縁が軸線方向と垂直でない場合には、後端縁のうち最も先端側をいう。又、外側検知部の後端縁とは、この後端縁が軸線方向と垂直でない場合には、後端縁のうち最も後端側をいう。
【0011】
本発明のガスセンサ素子の製造方法は、軸線方向に延びる有底筒状の固体電解質体の内表面に核を付着させる核付け工程と、前記核が触媒として作用するメッキ液を用いて、前記メッキ液中の金属を前記固体電解質体の内表面に析出させるメッキ工程と、を経て、前記固体電解質体の内表面に、前記金属からなる内側電極を形成するガスセンサ素子の製造方法であって、前記メッキ工程に先立って、前記固体電解質体の内表面のうち前記内側電極を形成する予定の電極予定部とは異なるマスク部に、マスク治具を装着するマスク治具装着工程と、前記電極予定部に前記金属を析出させる前記メッキ工程と、を備え、前記マスク治具は、前記軸線方向に沿って延びる切れ込み部を有すると共に、
該切れ込み部から先端縁に向かって立ち下がっており、当該マスク治具を前記マスク部に装着したときに前記マスク部と接するマスク外面を有する円筒形状を有し、且つ、前記マスク外面における、前記切れ込み部の輪郭線と前記マスク治具の先端縁とが接続する接続点を通り、前記切れ込み部の輪郭線と、前記先端縁の接線と、のなす前記切れ込み部の周方向外側にできる角が鈍角であり、前記マスク治具装着工程では、前記マスク治具の径が縮小する方向に前記マスク治具を弾性変形させつつ、前記マスク治具を前記固体電解質体の内側に挿入し、前記マスク治具の弾性復元力により、前記マスク外面を前記マスク部に接触させる。
このガスセンサ素子の製造方法によれば、マスク治具として、軸線方向の沿って延びる切れ込み部を有しているため、形成される内側電極には、検知部よりも幅狭なリード部が設けられる。よって、内側電極の電極材料を削減することができる。そして、マスク治具のうち、切れ込み部の輪郭線と先端縁の接線とのなす角(切れ込み部の周方向外側にできる角)が鈍角であるので、形成される内側電極では、リード部の輪郭線と検知部の後端縁の接線とのなす角(リード部の周方向外側にできる角)が鈍角となる。その結果、接続点への応力集中が低減され、ガスセンサ素子が高温から100℃以下に急冷される冷熱サイクルを受けても、内側電極が接続点付近から剥離し難くなる。特に、固体電解質体の内面は鏡面になっており、内側電極の密着性が低く、さらに、めっき皮膜には一般に圧縮応力が働くため、内側電極の剥離が生じやすい傾向であるが、上記角を鈍角とすることで、内側電極の剥離を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、内側リード部を内側検知部より径方向に幅狭として内側電極の電極材料を削減できると共に、冷熱サイクルを受けても内側電極が剥離し難いガスセンサ素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るガスセンサ素子3を有するガスセンサ100を軸線O方向に沿う面で切断した断面構造を示す。この実施形態において、ガスセンサ100は自動車の排気管内に挿入されて先端が排気ガス中に曝され、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサになっている。ガスセンサ素子3は、酸素イオン伝導性の固体電解質体に一対の電極を積層した酸素濃淡電池を構成し、酸素量に応じた検出値を出力する公知の酸素センサ素子である。
なお、
図1の下側をガスセンサ100の先端側とし、
図1の上側をガスセンサ100の後端側とする。
【0015】
ガスセンサ100は、先端が閉じた略円筒状(中空軸状)のガスセンサ素子(この例では酸素センサ素子)3を、筒状の金具本体(主体金具)20の内側に挿通して保持するよう組み付けられている。センサ素子3は、先端に向かってテーパ状に縮径する筒状の固体電解質体3sと、固体電解質体の内周面と外周面にそれぞれ形成された内側電極50(
図2参照)及び外側電極450(
図2参照)とからなる。又、ガスセンサ素子3の中空部には丸棒状のヒータ15が挿入され、固体電解質体3sを活性化温度に昇温するようになっている。
金具本体20の後端部には、ガスセンサ素子3の後端側に設けられたリード線や端子(後述)を保持し、センサ素子3の後端部を覆う筒状の外筒40が接合されている。さらに、ガスセンサ素子3の後端側の外筒40内側には、絶縁性で円柱状のセパレータ121が加締め固定されている。一方、ガスセンサ素子3先端の検出部はプロテクタ7で覆われている。そして、このようにして製造されたガスセンサ100の金具本体20の雄ねじ部20dを排気管等のネジ孔に取付けることで、ガスセンサ素子3先端の検出部を排気管内に露出させて被検出ガス(排気ガス)を検知している。なお、金具本体20の中央付近には、六角レンチ等を係合するための多角形の鍔部20cが設けられ、鍔部20cと雄ねじ部20dとの間の段部には、排気管に取付けた際のガス抜けを防止するガスケット14が嵌挿されている。
【0016】
ガスセンサ素子3の中央側に鍔部3aが設けられ、金具本体20の先端寄りの内周面には内側に縮径する段部が設けられている。又、段部の後端向き面にワッシャ12を介して筒状のセラミックホルダ5が配置されている。そして、ガスセンサ素子3が金具本体20及びセラミックホルダ5の内側に挿通され、セラミックホルダ5に後端側からワッシャ13を介してガスセンサ素子3の鍔部3aが当接している。
さらに、鍔部3aの後端側におけるガスセンサ素子3と金具本体20との径方向の隙間に、筒状の滑石粉末6、及び筒状のセラミックスリーブ10が配置されている。そして、セラミックスリーブ10の後端側に金属リング30を配し、金具本体20後端部を内側に屈曲して加締め部20aを形成することにより、セラミックスリーブ10が先端側に押し付けられる。これにより滑石リング6を押し潰し、セラミックスリーブ10及び滑石粉末6が加締め固定されるとともに、ガスセンサ素子3と金具本体20の隙間がシールされている。
【0017】
ガスセンサ素子3の後端側に配置されたセパレータ121には、挿通孔(この例では4個)が設けられ、そのうち2個の挿通孔にそれぞれ内側端子金具71、外側端子金具91の板状基部74、94が挿入されて固定されている。各板状基部74、94の後端にはそれぞれコネクタ部75、95が形成され、コネクタ部75、95にそれぞれリード線41、41が加締め接続されている。又、セパレータ121の図示しない2個の挿通孔(ヒータリード孔)に、ヒータ15から引き出されたヒータリード線43(
図1では1個のみ図示)が挿通されている。
セパレータ121の後端側の外筒40内側には筒状のグロメット131が加締め固定され、グロメット131の4個の挿通孔からそれぞれ2個のリード線41、及び2個のヒータリード線43が外部に引き出されている。
なお、グロメット131の中心には貫通孔131aが形成され、ガスセンサ素子3の内部空間に連通している。そして、グロメット131の貫通孔131aに撥水性の通気フィルタ140が介装され、外部の水を通さずにガスセンサ素子3の内部空間に基準ガス(大気)を導入するようになっている。
【0018】
一方、金具本体20の先端側には筒状のプロテクタ7が外嵌され、金具本体20から突出するガスセンサ素子3の先端側がプロテクタ7で覆われている。プロテクタ7は、複数の孔部(図示せず)を有する有底筒状で金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外側プロテクタ7bおよび内側プロテクタ7aを、溶接等によって取り付けて構成されている。
【0019】
次に、
図2、
図3を参照して外側電極450及び内側電極50の構成について説明する。
図2に示すように、内側電極50は固体電解質体3sの内周面に形成され、先端側に位置して周方向全周にわたって形成された内側検知部51と、内側検知部51から後端に向かって延びると共に周方向の一部に形成され、内側検知部51より径方向に幅狭の細長い内側リード部52と、内側リード部52より後端側に内側リード部52と同じ幅で延びる内側端子接続部53とを一体に有している。なお、この例では、内側検知部51は固体電解質体3sの内周面の底部にも形成されている。又、内側端子接続部53は内側リード部52より幅広でもよく、周方向全周にわたって形成されていてもよい。
【0020】
一方、外側電極450は固体電解質体3sの外周面に形成され、先端側に位置して周方向の一部にわたって形成された外側検知部451と、外側検知部451から後端に向かって延びると共に周方向の一部に形成され、外側検知部451より径方向に幅狭の細長い外側リード部452と、外側リード部452より後端側に外側リード部452と同じ幅で延びる外側端子接続部453とを一体に有している。なお、この例では、外側検知部451は固体電解質体3sの内周面の底部にも一部形成されている。又、外側端子接続部453は外側リード部452より幅広でもよく、周方向全周にわたって形成されていてもよい。
【0021】
この内側検知部51は、ガスセンサ素子3の内部空間に導入される基準ガス雰囲気に曝される。一方、ガスセンサ素子3の外面に形成された外側電極450は被検出ガスに曝され、固体電解質体3sを介して内側電極50(の内側検知部51)と外側電極450(の外側検知部451)との間でガスの検知を行うようになっている。
内側端子接続部53は、固体電解質体3sの開口部に挿入された内側端子金具71に電気的に接続され、ガスセンサ素子3の検出出力を内側端子金具71から外部に取り出すようになっている。また、外側端子接続部453は、固体電解質体3sに嵌めこまれた外側端子金具91に電気的に接続され、ガスセンサ素子3の検出出力を内側端子金具91から外部に取り出すようになっている。
【0022】
ここで、
図3に示すように、内側リード部52の輪郭線gと内側検知部51の後端縁51eとが接続する接続点Cを通る、内側リード部52の輪郭線gと、内側検知部51の後端縁51eの接線tと、のなす内側リード部52の周方向外側にできる角θが鈍角である。角θが鈍角(θ>90度)であると、接合部の端縁Cへの応力集中が低減されるので、ガスセンサ素子が高温から100℃以下に急冷される冷熱サイクルを受けても、内側電極50が接続点C付近から剥離し難くなる。
特に、固体電解質体3sの内面は、固体電解質体3sの筒体の成型時にプレスピンを挿抜するためにピンの表面を反映した鏡面になっており、内側電極50の密着性が低くなるので、θ>90度とすることが有利である。さらに、めっき皮膜には一般に圧縮応力が働くため、内側電極50の剥離が促進される傾向にあることからも、θ>90度とすることが有利である。
【0023】
なお、
図3の例では、内側リード部52の輪郭線gが軸線O方向に平行な直線状であると共に、内側検知部51の後端縁51eは同一面S1上にある。ここで、面S1は水平よりも傾いている。そのため、
図4に示すように、輪郭線gと接線tはいずれも直線状であり、接合点Cを通らない部分の輪郭線gと接線tとのなす角もθに等しくなるが、例えば、
図5に示すように、接合部の端縁Cから離れるに従って内側検知部51の後端縁51eが先端に向かって立ち下がる場合等、輪郭線gや接線tが直線状でない場合を考慮し、輪郭線g及び接線tとしては接続点Cを通るものを採用する。
なお、内側リード部52の輪郭線gが軸線O方向に平行な直線状であると、内側リード部52の幅をどの位置でも細くすることができ、内側リード部52の電極材料の使用量を低減することができる。
【0024】
また、
図2に示すように、外側検知部451は、内側リード部52が形成された固体電解質体3sの内表面とは反対側に設けられた固体電解質体3sの外表面上に、周方向の一部にわたって設けられている。これにより、外側電極450においても、電極材料の使用量を低減することができる。その上、外側検知部451の後端縁は、内側検知部51の後端縁よりも先端側に形成されてなる。これにより、被測定ガス中の特定ガス成分を良好に測定することができる。
【0025】
次に、
図6、
図7を参照し、本発明の実施形態に係るガスセンサ素子の製造方法について説明する。
図6(a)は、固体電解質体3s内面に内側電極50を形成する際に用いるマスク治具60の構成を示す斜視図である。マスク治具60は固体電解質体3s内面に装着され、内側電極を形成する必要のない部位(マスク部)を非メッキ部としてマスクする部材である。
マスク治具60は軸線O方向に沿って平行な切れ込み部60cを有している。そして、マスク部と接するマスク外面60sは、軸線O方向に直交する方向(径方向)に切断した断面において円弧をなすようになっている。又、マスク治具60の先端縁60eは径方向と角度を持って斜めになっており、先端縁60eは切れ込み部60cから最先端60tに向かって立ち下がっている(側面
図6(b)参照)。マスク治具60の材質は特に限定されないが、例えば、弾性を有する樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、PET)を用いることができる。又、マスク治具60は径が拡縮する方向に弾性変形可能とされている。
一方、マスク治具60の後端部60hはマスク外面60sよりテーパ状に拡径し、さらに後端部60hから径方向外側にフランジ部60fが延びている。
【0026】
さらに、切れ込み部60cの輪郭線60gとマスク治具60の先端縁60eとが接続する接続点Dを通り、切れ込み部60cの輪郭線60gと、先端縁60eの接線txとのなす角θが鈍角である。従って、後述するように、このマスク治具を用いて内側電極50を形成すると、切れ込み部60cに内側リード部52及び内側端子接続部53がメッキされ、マスク治具60より先端側に内側検知部51がメッキされる。そして、マスク治具60の上記した角θが内側リード部52の輪郭線gと内側検知部51の後端縁51eの接線tとが接続する接続点Dのなす角θとなる(
図3参照)。
なお、この実施形態では、マスク治具60が切れ込み部60cから先端縁60tに向かって立ち下がっているので、マスク治具60を固体電解質体3s内面に挿入する際、先細りになった先端縁60tがガイドとなり、マスク治具60を挿入し易いという利点がある。
【0027】
次に、マスク治具60を用いたガスセンサ素子の製造方法について説明する。
まず、公知の手法(例えば、特開2007−248123号参照)を用いて、マスク治具60を装着する前の固体電解質体3sの外表面に外側電極450を形成する。
次いで、核付け工程において、固体電解質体3sの内表面に核を付着させる(特許文献2参照)。具体的には、注液装置を用いて、固体電解質体3sの内部空間に、塩化白金酸水溶液(例えば、白金濃度;0.5g/L)を注入する。このときの注入量は、液面が端子接続部53の後端縁になるように調整すればよい。次に、塩化白金酸水溶液を加熱し、固体電解質体3sの内表面に塩化白金酸の水溶液の塗膜を形成する。その後、上記注液装置を用いて、固体電解質体3sの内部空間に注入した塩化白金酸水溶液を、固体電解質体3sの外部に排出する。
次いで、上記注液装置を用いて、固体電解質体3sの内部空間にヒドラジン水溶液(例えば、濃度;5質量%)を注入する。その後、注入したヒドラジン水溶液を加熱し、75℃とした状態で30分間放置する。これにより、固体電解質体3sの内表面に白金の核を析出させることができる。その後、上記注液装置を用いて、固体電解質体3sの内部空間に注入したヒドラジン水溶液を、固体電解質体3sの外部に排出する。
【0028】
次に、
図7(a)に示すように、マスク治具装着工程に進み、固体電解質体3sの後端開口からマスク治具60を挿入すると、マスク治具60の後端部60hが固体電解質体3sの後端開口部の逆テーパ面に密着すると共に、フランジ部60fの先端向き面が固体電解質体3sの後端面に係止し、マスク治具60の挿入深さを位置決めすることができる。
なお、固体電解質体3sに装着する前のマスク外面60sの曲率半径が、マスク部(つまり、固体電解質体3s内周面)の曲率半径よりも大きいため、マスク治具60の径が縮小するようにマスク治具60を弾性変形して縮径させつつ固体電解質体3sに挿入する。固体電解質体3s内では、マスク治具60の弾性復元力によりマスク外面60sがマスク部に接触する。このため、マスク部とマスク外面60sとの間に隙間が生じず、後のメッキ工程においてメッキ液がこの隙間に流れ込んでマスク部に不要なメッキが施されることを防止できる。
【0029】
次に、
図7(b)に示すように、メッキ工程に進み、固体電解質体3sの内表面に析出させた核が触媒として作用するメッキ液80を用いて、メッキ液80中の貴金属(白金)を、固体電解質体3sの内表面のうち電極予定部(検知予定部51x、リード予定部52x、及び端子接続予定部53x)に析出させる。具体的には、注液装置81を用いて、固体電解質体3sの内部空間にメッキ液80を注入する。このときメッキ液80の注入量は、液面Lが端子接続予定部53xの後端縁になるように調整すればよい。なお、メッキ液80として、例えば、白金錯塩水溶液(白金濃度;15g/L)とヒドラジンの水溶液(濃度;85質量%)とを混合して調整した組成を用いることができる。
次いで、固体電解質体3sの内部空間内に注入したメッキ液80を加熱し、その後、所定時間放置する。これにより、メッキ液80中の白金を、固体電解質体3sの内表面(上記電極予定部)に析出させることができる。その後、注液装置81を用いて、固体電解質体3sの内部空間に注入したメッキ液80を、固体電解質体3sの外部に排出する。
従って、このマスク治具60を用いて内側電極50を形成すると、切れ込み部60cに位置するリード予定部52x及び端子接続予定部53xに、それぞれリード部52及び端子接続部53がメッキされる。又、マスク治具60より先端側に位置する検知予定部51xに検知部51が形成される。そして、マスク治具60の上記した角θがリード部52と検知部51との接続点Cのなす角θとなるので(
図3参照)、接続点Cへの応力集中が低減され、ガスセンサ素子が冷熱サイクルを受けても内側電極50が接続部付近から剥離し難くなるという上述の効果が生じる。
【0030】
次に、マスク治具取り外し工程に進み、メッキ済みの固体電解質体3sから、マスク治具60を取り外す。マスク治具60は、自身の弾性復元力によって固体電解質体3s内のマスク部に固定されているだけなので、容易に取り外すことができる。
その後、還元処理工程に進み、メッキ済みの固体電解質体3sを、例えば750℃の還元雰囲気で加熱処理する。これにより、内側電極(白金メッキ)の表面に吸着している酸素を取り除くと共に、内側電極(白金メッキ)を固体電解質体3sの内表面に焼き付けて、所定の特性を付与することができる。このようにして、ガスセンサ素子3が完成する。
さらに、ガスセンサ素子3は、公知の組立方法(例えば、特開2004−053425号参照)により、ガスセンサ100(
図1参照)に組み付けることができる。
【0031】
次に、
図8〜
図10を参照し、本発明の第2の実施形態に係るガスセンサ素子について説明する。なお、第2の実施形態に係るガスセンサ素子は、内側電極150の構成が異なること以外は、第1の実施形態に係るガスセンサ素子と同様であるので、同一部分についての図示及び説明を省略する。
図8、
図9に示すように、内側電極150は固体電解質体3sの内周面に形成され、先端側に位置して周方向全周にわたって形成された検知部151と、検知部151から後端に向かって延びると共に周方向の一部に形成され、検知部151より径方向に幅狭の細長いリード部152と、リード部152より後端側に位置してリード部152より幅広に形成された端子接続部153とを一体に有している。
ここで、リード部152の輪郭線gは先端側へ向かって径方向に広がるハの字状をなし、検知部151の後端縁151eは水平な同一面S2上にある。従って、第2の実施形態においても、リード部152の輪郭線gと検知部151の後端縁151eの接線tとが接続する接続点Cを通り、リード部152の輪郭線gと、検知部151の後端縁151eの接線tと、のなす角θが鈍角である。このため、ガスセンサ素子が冷熱サイクルを受けても、接合部の端縁Cへの応力集中が低減され、内側電極150が接続部付近から剥離し難くなるのは第1の実施形態と同様である。
【0032】
図10(a)は、固体電解質体3s内面に内側電極150を形成する際に用いるマスク治具62の構成を示す斜視図である。このマスク治具62も固体電解質体3s内面に装着され、内側電極を形成する必要のない部位(マスク部)を非メッキ部としてマスクする部材である。
マスク治具62は軸線O方向に沿って切れ込み部62cを有している。そして、マスク部と接するマスク外面62sは、軸線O方向に直交する方向(径方向)に切断した断面において円弧をなすようになっている。又、マスク治具62の先端縁62eは径方向と平行になっている。
一方、マスク治具62の後端部62hはマスク外面62sよりテーパ状に拡径し、さらに後端部62hから径方向外側にフランジ部62fが延びている。
さらに、切れ込み部62cの後端側がさらに径方向に段状に拡がって拡幅部62dを形成している。このため、切れ込み部62cをメッキすると、段部より後端側の拡幅部62dに、リード部152より幅広の端子接続部153を形成することができる。
【0033】
図10(b)に示すように、切れ込み部62cが先端側へ向かって径方向に広がるハの字状をなしている。このため、先端縁62eが水平であるにも関わらず、切れ込み部62cとマスク治具62の先端縁62eとの接合部の端縁Dをそれぞれ通る、切れ込み部62cの輪郭線62gと、先端縁62eの接線txとのなす角θが鈍角になる。従って、このマスク治具62を用いて内側電極150を形成すると、切れ込み部62cにリード部152がメッキされ、マスク治具62より先端側に検知部151がメッキされる。
従って、
図7と同様に、マスク治具62を装着した固体電解質体3sの内周面にメッキすると、マスク治具62の上記した角θがリード部152の輪郭線gと検知部151の後端縁151eの接線tとのなす角θとなるので(
図8参照)、接合部の端縁Cへの応力集中が低減され、ガスセンサ素子が冷熱サイクルを受けても内側電極150が接続部付近から剥離し難くなるという上述の効果が同様に生じる。
【0034】
次に、
図11を参照し、本発明の第3の実施形態に係るガスセンサ素子について説明する。なお、第3の実施形態に係るガスセンサ素子は、内側電極250の構成が異なること以外は、第1の実施形態に係るガスセンサ素子と同様であるので、同一部分についての図示及び説明を省略する。
図11に示すように、内側電極250は固体電解質体3sの内周面に形成され、先端側に位置して周方向全周にわたって形成された検知部251と、検知部251から後端に向かって延びると共に周方向の一部に形成され、検知部251より径方向に幅狭の細長いリード部252と、リード部252より後端側に位置する端子接続部(図示せず)とを一体に有している。端子接続部は第1の実施形態と同一の形状を有する。
ここで、リード部252の輪郭線gは軸線O方向に平行な直線状であると共に、検知部251の後端縁251eは水平に延びている。一方、リード部252と検知部251との接合部の端縁(隅部)は、斜めになっている。従って、この斜め部分が検知部251に含まれるとみなせば、当該斜め部分とリード部252との境界部分が接続点C1となり、接続点C1を通り、リード部152の輪郭線g1と、検知部251の後端縁の接線t2(=上記斜め部分)とのなす角θ1が鈍角となる。一方、斜め部分がリード部252に含まれるとみなせば、当該斜め部分と検知部251との境界部分が接続点C2となり、接続点C2を通り、リード部152の輪郭線g2(=上記斜め部分)と、検知部251の後端縁251eの接線t1とのなす角θ2が鈍角となる。このように、いずれにせよ角θ1及びθ2が鈍角となるので、ガスセンサ素子が冷熱サイクルを受けても、接合部の端縁C1又はC2への応力集中が低減され、内側電極250が接続部付近から剥離し難くなるのは第1の実施形態と同様である。
【0035】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、内側電極の形状は上記に限定されない。
【実施例】
【0036】
図6のマスク治具60の先端縁60eの切り落とし角度を変えることで、
図3の内側電極50の角θを種々変えたガスセンサ素子3を製造した。固体電解質体としてはYb
20
3が固溶したZrO
2を用い、内側電極50及び外側電極はそれぞれ厚み1μmのPtを無電解めっきして形成した。そして、このガスセンサ素子3を組み付けて
図1に示すガスセンサ100を得た。
このガスセンサ100を、
図12に示す冷熱サイクルで所定時間加熱及び冷却を繰り返し、試験後にガスセンサ素子3を切断し、内側電極50の接続点Cの剥離状態を電子顕微鏡で観察した。なお、冷熱サイクルは、100℃以下から15分加熱して最高到達温度を650℃以上とした後、加熱を止めて15分空冷して最低到達温度を100℃以下とする合計30分の1サイクルを繰り返した。
得られた結果を表1に示す。なお、表の○は剥離無し、×は剥離あり、を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、角θが鈍角である実施例1〜3の場合、冷熱サイクルを300時間以上繰り返しても接続点Cにて内側電極が固体電解質体から剥離しなかった。一方、角θが鋭角(90度)である比較例の場合、冷熱サイクルを300時間以上繰り返すと、接続点Cが剥離した。