(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938332
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】有底筒体の製造方法及び有底筒体
(51)【国際特許分類】
C23C 18/31 20060101AFI20160609BHJP
C25D 7/04 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
C23C18/31 A
C25D7/04
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-243465(P2012-243465)
(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-91856(P2014-91856A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】吉越 洋志
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−137834(JP,A)
【文献】
特開2011−012328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00− 7/12
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有する有底筒体の製造方法であって、
管形状を有する管部材の一方の開口を閉塞するように、薄板形状を有する薄板部材を、前記管部材に組み合わせる第1の工程と、
前記薄板部材を前記管部材に組み合わせた状態で、前記薄板部材と前記管部材をメッキ槽に浸漬してメッキを施し、メッキ層によって、前記薄板部材を前記管部材に固定する第2の工程とを有することを特徴とする有底筒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の有底筒体の製造方法であって、
前記第2の工程は、
前記薄板部材を前記管部材に組み合わせた状態で、前記管部材の前記薄板部材で閉塞された口と反対側の口から空気を吸引して、前記薄板部材を前記管部材の前記一方の口に吸着するステップと、
前記薄板部材を前記管部材の前記一方の口に吸着した状態で、前記薄板部材と前記管部材をメッキ槽に浸漬してメッキを施し、メッキ層によって、前記薄板部材を前記管部材に固定するステップとを有することを特徴とする有底筒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の有底筒体の製造方法であって、
前記管部材の前記一方の口側の端部の内周側には、他方の口側に凹んだ環状の凹みが設けられており、
前記第1の工程において、前記環状の凹みに前記薄板部材を嵌合することにより、当該薄板部材を、前記管部材に組み合わせることを特徴とする有底筒体の製造方法。
【請求項4】
管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有する有底筒体であって、
前記側部を形成する、管形状を有する管部材と、
前記底部を形成する、薄板形状を有する薄板部材と、
前記側部の前記一方の口側の部分の外面と、前記薄板部材の外面とよりなる、前記有底筒体の外面の部分を少なくとも覆うメッキ層とを有し、
前記薄板部材は前記管部材に前記メッキ層によってのみ固定されていることを特徴とする有底筒体。
【請求項5】
請求項4記載の有底筒体と、
当該有底筒体の内部の前記底部に近接した位置に配置された形態で、前記有底筒体に収容された磁気検出素子とを有することを特徴とする磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底筒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有し、前記管形状の他方の口を開口した形状を有する有底筒体の製造方法としては、棒状の金属ブロックに、切削による深穴加工や研削による中ぐり加工を施して有底筒体の中空部を形成することにより、有底筒体を金属ブロックより削り出す技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、有底筒体の製造方法としては、スピニング加工によって薄板より有底筒体を塑性加工する技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07-328824号公報
【特許文献2】特開2001-30018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような、有底筒体を棒状の金属ブロックより削り出す技術によれば、塑性加工などによって薄板より有底筒体を塑性加工する場合に比べ、剛性の高い有底筒体を製造することができる一方、底部の厚みを薄く精度良く形成することや、筒体外径が細い、または管形状の側部が長い有底筒体を製造することが困難であるという問題があった。
そこで、本発明は、側部の剛性を高く維持しつつ、底部の厚みを薄く精度良く形成することができる有底筒体の製造方法を提供することを課題とする。また、併せて、本発明は、管形状の側部が長い有底筒体の製造に適した有底筒体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題達成のために、本発明は、管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有する有底筒体の製造方法として、管形状を有する管部材の一方の開口を閉塞するように、薄板形状を有する薄板部材を、前記管部材に組み合わせる第1の工程と、前記薄板部材を前記管部材に組み合わせた状態で、前記薄板部材と前記管部材をメッキ槽に浸漬してメッキを施し、メッキ層によって、前記薄板部材を前記管部材に固定する第2の工程とを有する有底筒体の製造方法を提供する。
【0007】
ここで、このような有底筒体の製造方法において、前記第2の工程は、前記薄板部材を前記管部材に組み合わせた状態で、前記管部材の前記薄板部材で閉塞された口と反対側の口から空気を吸引して、前記薄板部材を前記管部材の前記一方の口に吸着するステップと、
前記薄板部材を前記管部材の前記一方の口に吸着した状態で、前記薄板部材と前記管部材をメッキ槽に浸漬してメッキを施し、メッキ層によって、前記薄板部材を前記管部材に固定するステップとを含むように構成してもよい。
【0008】
また、前記管部材の前記一方の口側の端部の内周側に、他方の口側に凹んだ環状の凹みを設け、前記第1の工程において、前記環状の凹みに前記薄板部材を嵌合することにより、当該薄板部材を、前記管部材に組み合わせるようにしてもよい。
以上のような製造方法によれば、管部材の剛性は任意に設定することができるので有底筒体の側部の剛性は、これを高く設定することができる。一方で、薄板部材は適宜精度良く薄く形成することが容易であり、かつ、当該薄板部材を有底筒体の底部として、位置、姿勢に関して精度良く管部材に固定することができる。よって、本発明の製造方法によれば、有底筒体の底部を薄く精度良く形成することができる。また、本発明の製造方法は、管部材の長さに有底筒体の製造の難易が大きく依存することはないので、本発明によれば、管形状の側部が長い有底筒体であっても比較的容易に製造することができる。
【0009】
また、本発明は、他の観点からは、以上のような製造方法によって製造された有底筒体も提供する。
すなわち、本発明は、管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有する有底筒体として、前記側部を形成する、管形状を有する管部材と、前記底部を形成する、薄板形状を有する薄板部材と、メッキ層とを有する有底筒体を提供する。但し、メッキ層は、前記側部の前記一方の口側の部分の外面と、前記薄板部材の外面とよりなる、前記有底筒体の外面の部分を少なくとも覆うものである。そして、前記薄板部材は前記管部材に前記メッキ層によってのみ固定されているものである。
【0010】
ここで、このような有底筒体は、たとえば、磁気センサの筐体として好適である。すなわち、以上の有底筒体と、当該有底筒体の内部の前記底部に近接した位置に配置された形態で、前記有底筒体に収容された磁気検出素子とより磁気センサを構成すれば、有底筒体の底部の厚みを充分に薄くできることより、磁気センサの良好な検出感度を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、側部の剛性を高く維持しつつ、底部の厚みを薄く精度良く形成することができる有底筒体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、管形状の側部が長い有底筒体の製造に適した有底筒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る有底筒体の部品構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る有底筒体の製造方法を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る有底筒体の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る有底筒体の部品構成を示す。
有底筒体は、管形状の側部と、前記管形状の一方の口を閉口する底部とを有するものであり、本実施形態において、有底筒体は、有底筒体の管形状の側部を形成する円管状の管部材1と、有底筒体の底部を形成する薄板状の円板2とを含んで構成される。ここで、管部材1と円板2の材質としてステンレス、ニッケルなどを用いることができる。ここで、管部材1の直径は2cm程度、管部材1の高さは3cm程度、円板2の板厚は200μm以下とすることができる。なお、円板2の直径は管部材1の外径に対し数mm小さくする。
【0014】
ここで、
図1aは、管部材1と円板2の斜視図を表しており、
図1bは、管部材1の中心軸を通る線を面内に含む面による管部材1の断面と、円板2の中心軸を通る線を面内に含む面による円板2の断面とを表している。
さて、
図1bの符号11に示すように、管部材1の下部の内周側は外周側と比べ上方に段状に凹んでおり、
図1cに示すように当該凹みによって形成される環状の凹み11に、円板2がちょうど嵌り込んで、管部材1の下方の口を閉口するようになっている。
以下、このような管部材1と円板2を用いた有底筒体の製造工程について説明する。
有底筒体の製造の際には、まず、第1の工程において、脱脂等のメッキ前処理を管部材1と円板2に施す。
そして、第2の工程において、
図2aに示すように、管部材1の上方の口にキャップ300を装着し、管部材1の環状の凹み11に円板2を嵌め込んで管部材1の下方の口を閉口する。
ここで、また、キャップ300には、キャップ300を管部材1の上方の口に装着した状態で管部材1の外部に伸びるチューブ400が連結されている。また、キャップ300には、キャップ300を管部材1の上方の口に装着した状態で、チューブ400と管部材1の中空部とを連絡する空気路が設けられている。そして、キャップ300の装着によって、管部材1の上方の口は上述した空気路を除き密閉される。また、チューブ400のキャップ300と反対側の端には空気を吸引するエアポンプ500が連結されている。
【0015】
そして、第3の工程において、エアポンプ500で管部材1の中空部の空気を吸引して減圧し、管部材1の環状の凹み11に嵌り込んだ状態の円板2を、管部材1に吸い付けて固定する。
次に、第4の工程において、
図2bに示すように、エアポンプ500による減圧によって円板2が管部材1に固定されている状態のまま、円板2および管部材1をメッキ槽200に浸漬し、円板2と管部材1にメッキを施す。
ここで、第4の工程で用いるメッキ法としては、電解/無電解ニッケルメッキ等を用いることができ、第4の工程では、たとえば、5μm程度のメッキ層を円板2と管部材1の外面上に形成する。
ここで、
図2cと、
図2cの一部を模式的に拡大して表した
図2dに示すように、第4工程のメッキによって、円板2と管部材1の双方の外面を連続的に覆うメッキ層3が形成され、当該メッキ層3によって、円板2が管部材1に比較的強固に固定される。また、円板2と管部材1の図中左右方向の僅かな隙間にもメッキが浸潤して、円板2と管部材1との間を連結して両者を固定する。
【0016】
そして、当該固定によって、円板2と管部材1とが一体化して有底筒体が形成される。
次に、第5の工程において、エアポンプ500による減圧を解除した上で、キャップ300を管部材1の上部の口から取り外し、メッキを施した有底筒体の洗浄などのメッキ後処理を行い、有底筒体の製造を完了する。
尚、第5の工程の後、再度有底筒体をメッキ槽200に浸漬し、有底筒体の内面にメッキを施してもよい。
以上、本実施形態に係る有底筒体の製造工程について説明した。
以上のような有底筒体の製造工程による有底筒体の製造方法によれば、管部材1の剛性は任意に設定することができるので有底筒体の側部の剛性は、これを高く設定することができる。一方で、円板2は適宜、精度良く薄く形成することが容易であり、かつ、当該円板2を有底筒体の底部として位置、姿勢に関して精度良く管部材1に固定することができるので、結果、有底筒体の底部を薄く精度良く形成することができる。また、以上のような製造方法は、管部材の長さに有底筒体の製造の難易が大きく依存することはないので、管形状の側部が長い有底筒体であっても比較的容易に製造することができる。
【0017】
なお、円板2を接着によって管部材1に固定することも考えられるが、このようにすると円板2と管部材1の間に接着剤が存在することなるために、円板2による底部の姿勢や位置を精度良く形成することができなくなると共に、必ずしも充分な密閉が得られない不具合も生じ易い。
【0018】
次に、このようにして製造される有底筒体の適用例について説明する。
図3に、有底筒体を、磁気センサを用いた回転計の、磁気センサの筐体として適用した例を示す。
図3aに示すように、回転計は、磁気センサ600、計測装置610、磁気センサ600と計測装置610を連結するケーブル620とより構成される。
そして、
図3bに示すように、回転計は、ケーブル620で磁気センサ600と計測装置610とを連結した状態で、被計測体に固定した磁性体の歯車700の回転に伴う歯車700の歯の遠近による磁気変化を、磁気センサ600で検出すると共に、磁気センサ600で検出した磁気変化から計測装置610で回転速度等を計測するものである。
【0019】
ここで、磁気センサ600は、
図3aに示すように、大きく分けて本体部601と、センサ収容部602と二つの固定用ナット603とより構成される。そして、センサ収容部602と本体部601には、磁気検出素子を始めとする磁気/電気信号変換の為の各種素子や回路が収容されている。
【0020】
また、図示は省略したが、センサ収容部602の外周面には雄ネジが切られており、二つの固定用ナット603は、この雄ネジに螺合している。そして、このような二つの固定用ナット603は、
図3bに示すように、歯車700の歯先に対してセンサ収容部602の先端が近接する位置に磁気センサ600を固定するために用いられる。
【0021】
ここで、センサ収容部602には、上述した製造工程で製造した有底筒体が用いられる。
図3c1、c2にセンサ収容部602の斜視図を、
図3dにセンサ収容部602の中心軸を面内に含む面による断面で示したセンサ収容部602の内部構成を示す。
図示するように、センサ収容部602は、管部材1と円板2とメッキ層3とより形成される有底筒体であり、センサ収容部602の中空部の先端部分の底部近傍の位置には、磁界の作用を受けて作用する磁界の強度または強度変化を検出するMR素子などの磁気検出素子6021が配置されている。
【0022】
そして、上述した製造工程で製造した有底筒体によれば、有底筒体の底部(円板2)を充分に薄く形成することができる。したがって、磁気検出素子6021を磁気センサ600の先端に極めて近接した位置、すなわち、被検出体である歯車700の歯により近接した位置に配置することができるようになると共に、底部厚みによる磁気検出素子6021に作用する磁界に対する減衰等の影響を低減することができるようになる。よって、磁界検出センサの検出感度、ひいては、回転計の回転速度等の計測精度を向上することができるようになる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上では円筒形状の有底筒体について説明してきたが、本実施形態は、角筒形状の有底筒体など任意の形状の有底筒体について同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…管部材、2…円板、3…メッキ層、11…段、200…メッキ槽、300…キャップ、400…チューブ、600…磁気センサ、601…本体部、602…センサ収容部、603…固定用ナット、610…計測装置、620…ケーブル、700…歯車、6021…磁気検出素子。