(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パス到来方向設定値算出部は、前記所望パス到来方向のアレー方向特性ベクトルと前記基準伝送特性行列を用い、該アレー方向特性ベクトルと、前記複数の散乱体アンテナの各々から放射される送信信号によるアレー応答ベクトルの合成とが一致する、前記パス到来方向設定値を算出することを特徴とする請求項1に記載のマルチアンテナ評価装置。
パス到来方向を変数に持つアレーベクトル方向関数を記憶するアレーベクトル方向関数記憶部を備え、前記アレーベクトル方向関数から所望パス到来方向のアレー方向特性ベクトルを取得することを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチアンテナ評価装置。
前記アレー方向特性ベクトルは、二次元における一方向、又は、三次元における二方向を変数として有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のマルチアンテナ評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマルチアンテナ評価装置の構成例を示すブロック図である。
図1において、マルチアンテナ評価装置は、アンテナ信号生成部1と散乱体2を有する。
図2は、
図1に示す散乱体2の構成例を示す説明図である。
図2において、散乱体2は複数(M個(Mは2以上の整数)、
図2の例ではM=8)の散乱体アンテナANT#1〜8を有する。散乱体アンテナANT#1〜8は円周上に等間隔で配置されている。散乱体2の中心付近には被測定機100が設置される。被測定機100は複数のアンテナ(マルチアンテナ)を有する。
【0016】
散乱体2および被測定機100は電波無響室内に設置される。散乱体アンテナANT#1〜8は、電波散乱体からの電波放射を模擬するものである。マルチアンテナ評価装置へ入力する送信信号には、例えば、ネットワークアナライザまたは信号発生器を利用することが挙げられる。また、被測定機100のマルチアンテナで受信した信号の測定には、例えば、ネットワークアナライザやスペクトルアナライザなどの測定器を使用することが挙げられる。又は、被測定機100がマルチアンテナを備えた無線機である場合には、該無線機と無線通信可能な無線機テスタを用いて、マルチアンテナ評価装置へ入力する送信信号の発生、および、マルチアンテナで受信した信号の測定を行ってもよい。
【0017】
図1において、アンテナ信号生成部1は分配器11とレベル・位相調整部12#1〜Mとパス到来方向設定値算出部13と基準伝送特性行列記憶部14とアレーベクトル方向関数記憶部15を備える。分配器11は、入力された送信信号を各レベル・位相調整部12#1〜Mへ分配する。
【0018】
レベル・位相調整部12#1〜Mは、散乱体2のM個の散乱体アンテナANT#1〜Mに対応して設けられている。各レベル・位相調整部12#1〜Mの出力信号は、それぞれ対応する散乱体アンテナANT#1〜Mに入力されるように接続されている。以下、各レベル・位相調整部12#1〜Mを特に区別しないときは「レベル・位相調整部12」と称する。レベル・位相調整部12は、入力された送信信号のレベルおよび位相を調整する。このレベルおよび位相の調整量は、パス到来方向設定値算出部13から入力されるパス到来方向設定値により決まる。各レベル・位相調整部12#1〜Mによってレベルおよび位相が調整された送信信号は、それぞれ対応する散乱体アンテナANT#1〜Mから放射される(
図2中の放射波S1〜S8に対応)。
【0019】
パス到来方向設定値算出部13には、所望パス到来方向が入力される。所望パス到来方向は、被測定機100のマルチアンテナへのパスの到来方向の所望値である。利用者は、被測定機100のマルチアンテナに対して模擬したいパスの到来方向を、所望パス到来方向として入力する。所望パス到来方向には任意の値を入力することができる。
【0020】
パス到来方向設定値算出部13は、所望パス到来方向と、基準伝送特性行列記憶部14に格納されている基準伝送特性行列と、アレーベクトル方向関数記憶部15に格納されているアレーベクトル方向関数とを用いて、パス到来方向設定値を算出する。以下、本実施形態に係るパス到来方向設定値の算出方法を説明する。
【0021】
まず、アレーベクトル方向関数について説明する。被測定機100のマルチアンテナはN個(Nは2以上の整数)の単アンテナから構成されている。アレーベクトル方向関数A(φ)は、式(1)で表される、N個の単アンテナの配置位置におけるそれぞれに対応する複素応答関数a
n(φ)から構成される複素列ベクトル関数である。nは1からNまでの整数である。
【0023】
但し、φはパスの到来方向(パス到来方向)である。複素応答関数a
n(φ)は、n番目の単アンテナの位置におけるパス到来方向φに対する複素応答関数である。
【0024】
アレーベクトル方向関数A(φ)は、被測定機100のマルチアンテナの単アンテナの位置と無線信号の周波数を変数に有する理論式により与えられる。又は、被測定機100のマルチアンテナの応答特性が既知である場合は、その既知の応答特性を利用してアレーベクトル方向関数A(φ)を定義してもよい。例えば、
図3に示されるように、単アンテナ数Nが2であり、単アンテナ間の距離がDであり、無線信号の波長がλである場合には、アレーベクトル方向関数A(φ)は、パス到来方向φを変数に持つ式(2)で表される。
図4に式(2)による位相特性例を示す波形W1,W2を示す。
【0026】
次に、基準伝送特性行列について説明する。基準伝送特性行列Hは、式(3)で表されるように、n番目の単アンテナとm番目の散乱体アンテナANT#mに関する複素伝送特性h
nmから構成される、N行M列の複素行列である。mは1からMまでの整数である。複素伝送特性h
nmは、n番目の単アンテナの位置とm番目の散乱体アンテナANT#mの位置の間の複素伝送特性である。
【0028】
基準伝送特性行列Hは、M個の散乱体アンテナANT#1〜Mの位置と、被測定機100のマルチアンテナのN個の単アンテナの位置と、無線信号の周波数を変数に有する理論式により与えられる。しかし、実際には、散乱体アンテナの放射特性や設置位置に誤差が生じるので、
図5に示されるように、被測定機100のマルチアンテナの配置場所と同じ場所にリファレンス用の同じマルチアンテナを配置し、該リファレンス用のマルチアンテナの単アンテナと散乱体アンテナの全組合せについての複素伝送特性をネットワークアナライザ200で測定することにより、基準伝送特性行列Hを求めることが好ましい。但し、リファレンス用のマルチアンテナについても、アンテナ固有の特性を有するので、予め放射特性を測定しておき、各散乱体アンテナの方向の放射特性についてアレーベクトル方向関数との差分を求めて補正することにより精度を高めることができる。
【0029】
パス到来方向設定値算出部13は、所望パス到来方向φ
0と、基準伝送特性行列記憶部14に格納されている基準伝送特性行列Hと、アレーベクトル方向関数記憶部15に格納されているアレーベクトル方向関数A(φ)とを用いて、パス到来方向設定値W(φ
0)を算出する。パス到来方向設定値W(φ
0)は、式(4)で表されるように、M個の散乱体アンテナANT#1〜Mのそれぞれに対応する重みw
m(φ
0)から構成される複素列ベクトル(複素重みベクトル)である。w
m(φ
0)は、m番目の散乱体アンテナANT#mから放射する送信信号のレベルおよび位相を調整するための重みである。
【0031】
パス到来方向設定値算出部13は、式(5)、式(6)により、パス到来方向設定値W(φ
0)を算出する。
【0033】
但し、
Hは行列の複素共役転置を表す。P
Noiseはスカラ値の仮想雑音電力である。IはM行M列の単位行列である。パス到来方向設定値W(φ
0)は、所望パス到来方向φ
0のアレーベクトル方向関数値(アレー方向特性ベクトル)A(φ
0)を参照信号ベクトルとし、参照信号ベクトルA(φ
0)と「H・W(φ
0)」との差分の最小化を規範として算出される。これは、所望パス到来方向φ
0のアレー方向特性ベクトルA(φ
0)と基準伝送特性行列Hを用い、該アレー方向特性ベクトルA(φ
0)と、M個の散乱体アンテナANT#1〜Mの各々から放射される送信信号によるアレー応答ベクトルの合成とが一致する、パス到来方向設定値W(φ
0)を算出することを意味する。
【0034】
上記式(6)は、散乱体アンテナANT#1〜Mによる合成出力が一定となるよう正規化する式である。式(6)では、合成出力が1となるように正規化しているが、スカラ変数を乗じて任意の値に正規化してもよい。
【0035】
以上が本実施形態に係るパス到来方向設定値の算出方法の説明である。
【0036】
パス到来方向設定値W(φ
0)はレベル・位相調整部12に入力される。レベル・位相調整部12#mは、重みw
m(φ
0)を用いて送信信号のレベルおよび位相を調整する。各レベル・位相調整部12#1〜Mによってパス到来方向設定値W(φ
0)によりレベルおよび位相が調整された送信信号は、各散乱体アンテナANT#1〜Mから放射される。この放射された信号の合成信号は、
図6に例示されるように、所望パス到来方向φ
0からのパスP1として被測定機100のマルチアンテナに到達する。これにより、任意のパス到来方向からのパスを擬似することができる。
【0037】
上述したように本実施形態によれば、数量や配置が限定された散乱体アンテナにより、任意のパス到来方向からのパスを擬似することができ、アンテナ評価性能の向上を図ることが可能となる。また、従来と同じアンテナ評価性能を実現することを考えると、散乱体アンテナ数を削減できるので、アンテナ信号生成部の削減と共に装置規模の縮小およびコスト削減を図ることができる。
【0038】
本実施形態に係るマルチアンテナ評価装置は様々な変形が可能である。以下、実施例を挙げて変形例を説明する。
【実施例1】
【0039】
図7は本発明の実施例1に係るマルチアンテナ評価装置の構成例を示すブロック図である。
図7に示される実施例1では、
図1のマルチアンテナ評価装置に対して、送信信号の入力段にフェージング変動生成部20を追加している。
【0040】
フェージング変動生成部20は、分配器21とレベル・位相調整部22#1〜K’と遅延調整部23#1〜K’とドップラー調整部24#1〜K’と合成器25を備える。入力された送信信号は、分配器21により、複数のパス(素波)#1〜K’にそれぞれ対応する信号処理系列(ドップラー調整部24#1〜K’、遅延調整部23#1〜K’およびドップラー調整部24#1〜K’)へ分配される。その信号処理系列では、レベル、位相、遅延およびドップラー周波数シフトを調整し、調整後の各パス#1〜K’の信号は合成器25により合成される。これにより、フェージング変動生成部20は、時間および周波数領域でのフェージング変動を生成する。合成器25の出力である合成信号は、アンテナ信号生成部1へ出力される。
【0041】
なお、「K’=1」である場合はフェージング変動しないパスとして扱われる。この場合は、空間領域で複数パスを合成することで、時間および周波数領域でのフェージング変動を生成できる。
【実施例2】
【0042】
実施例2は実施例1の変形例である。
図8は本発明の実施例2に係るアンテナ信号生成部1aの構成例を示すブロック図である。
図8に示される実施例2では、
図1のアンテナ信号生成部1に対して、送信信号の出力段に遅延調整部23#1〜Mおよびドップラー調整部24#1〜Mを追加している。これにより、アンテナ信号生成部1aは、時間および周波数領域でのフェージング変動を生成する。
【0043】
図8の構成において「K’=1」である場合、レベル・位相調整部12を、パス到来方向設定機能とフェージング変動生成機能とで共通化したのと等価である。このため、遅延調整部23#1〜Mおよびドップラー調整部24#1〜Mに対する設定値は同一の値に調整する。
【実施例3】
【0044】
実施例3では、散乱体の散乱体アンテナを直交偏波に対応した構成としている。
図9は本発明の実施例3に係るマルチアンテナ評価装置の構成例を示すブロック図である。
図10は本発明に係るマルチアンテナ評価装置の実施例3を説明するための説明図である。
図9に示される実施例3では、アンテナ信号生成部1を、垂直偏波(V偏波)用(アンテナ信号生成部1(V))と水平偏波(H偏波)用(アンテナ信号生成部1(H))にそれぞれ設けている。また、フェージング変動生成部20も同様に設けている。
【0045】
図10に示される実施例3の散乱体は、M=4であり、散乱体アンテナとしてV偏波アンテナANT#1〜4(V)とH偏波アンテナANT#1〜4(H)から構成される。
【0046】
図9において、入力された送信信号は、分配器30により、V偏波用とH偏波用に2つの信号処理系統(フェージング変動生成部20およびアンテナ信号生成部1)に分配され、各信号処理系統でフェージング変動の生成およびパス到来方向の設定が行われる。実施例3では、基準伝送特性行列H、アレーベクトル方向関数A(φ)および所望パス到来方向φ
0は、それぞれV偏波成分とH偏波成分に分け、{H(V),H(H)}、{A(V)(φ),A(H)(φ)}および{φ
0(V),φ
0(H)}として用意する。また、パス到来方向設定値算出部13は、V偏波成分とH偏波成分に分けたパス到来方向設定値{W(V)(φ
0(V)),W(H)(φ
0(H))}を生成する。式(7)、式(8)にV偏波成分W(V)(φ
0(V))の算出式を示す。式(8)は正規化のためである。H偏波成分W(H)(φ
0(H))の算出式は式(7)、式(8)と同様であるので省略する。
【0047】
【数6】
【0048】
図10に例示されるように、V偏波アンテナANT#1〜4(V)およびH偏波アンテナANT#1〜4(H)からそれぞれ放射される信号の合成信号は、所望パス到来方向{φ
0(V),φ
0(H)}からのパスP2として被測定機100のマルチアンテナに到達する。φ
0(V)とφ
0(H)については、通常は同一値とするが、異なる方向を割り当ててもよい。なお、偏波成分の電力配分を調整する場合には、フェージング変動生成部20で調整を行う。
【実施例4】
【0049】
実施例4は、到来方向が異なる複数のパス(マルチパス)を生成するための構成である。
図11は本発明の実施例4に係るマルチアンテナ評価装置の構成例を示すブロック図である。散乱体は
図10に示される実施例3と同様である。
【0050】
図11に示される実施例4では、
図9の実施例3に係るV偏波用アンテナ信号生成部1(V)とH偏波用アンテナ信号生成部1(H)を、マルチパスのパスの数であるL個だけ設けている。また、フェージング変動生成部20および分配器30も同様に設けている。そして、入力された送信信号を、分配器40により、L個のパスに対応する各信号処理系統に分配している。また、各信号処理系統からの出力信号は、各合成器41#1(V)〜#M(V)、#1(H)〜#M(H)により合成されてから各散乱体アンテナANT#1(V)〜#M(V)、#1(H)〜#M(H)へ供給される。
【0051】
実施例4では、マルチパスのl番目のパスに対応するアンテナ信号生成部1#l(V),(H)には所望パス到来方向{φ
l(V),φ
l(H)}を設定する。パス到来方向設定値算出部13は、V偏波成分とH偏波成分に分けたパス到来方向設定値{W
l(V)(φ
l(V)),W
l(H)(φ
l(H))}を生成する。
【0052】
図12は本発明に係るマルチアンテナ評価装置の実施例4を説明するための説明図である。
図12に例示されるように、V偏波アンテナANT#1〜4(V)およびH偏波アンテナANT#1〜4(H)からそれぞれ放射される信号の合成信号は、各所望パス到来方向{φ
l(V),φ
l(H)}からのパスP3〜P6として被測定機100のマルチアンテナに到達する。なお、マルチパスのパス毎のレベルおよび位相は、フェージング変動生成部20において全散乱体アンテナに対し共通に変動を与えるが、アンテナ信号生成部1で算出するパス到来方向設定値{W
l(V)(φ
0(V)),W
l(H)(φ
0(H))}に対してスカラ値で共通に調整してもよい。
【実施例5】
【0053】
実施例5は、複数の送信信号に対応した構成である。
図13は本発明の実施例5に係るマルチアンテナ評価装置の構成例を示すブロック図である。散乱体は
図10に示される実施例3と同様である。
【0054】
図13に示される実施例5では、
図11の実施例4に係るL個(マルチパスのパス数分)の信号処理系統を、送信信号の数であるK個だけ設けている。そして、入力された送信信号#1〜#Kを各分配器40により、L個のパスに対応する各信号処理系統に分配している。また、各信号処理系統からの出力信号は、各合成器41#11(V)〜#1M(V)、・・・、#K1(V)〜#KM(V)、#1(V)〜#M(V)、#11(H)〜#1M(H)、・・・、#K1(H)〜#KM(H)、#1(H)〜#M(H)により合成されてから各散乱体アンテナANT#1(V)〜#M(V)、#1(H)〜#M(H)へ供給される。
【0055】
実施例5では、k番目の送信信号に関するマルチパスのl番目のパスに対応するアンテナ信号生成部1#l(V),(H)には所望パス到来方向{φ
kl(V),φ
kl(H)}を設定する。パス到来方向設定値算出部13は、パス到来方向設定値{W
kl(V)(φ
kl(V)),W
kl(H)(φ
kl(H))}を生成する。
【0056】
図14に例示されるように、V偏波アンテナANT#1〜4(V)およびH偏波アンテナANT#1〜4(H)からそれぞれ放射される信号の合成信号は、各送信信号に関する各所望パス到来方向{φ
kl(V),φ
kl(H)}からのパスP11〜P14、P21〜P24、P31〜P33として被測定機100のマルチアンテナに到達する。なお、複数の送信信号としては、例えば、MIMO(Multi-Input Multi-Output)伝送方式に対応した異なる情報を重畳した送信信号であってもよく、又は、異なる周波数帯の信号であってもよく、又は、他の送信局からの信号などであってもよい。
【実施例6】
【0057】
実施例6では、散乱体アンテナの配置を、一平面上だけでなく、直交する平面上にも配置し、3次元方向からパスが到来することを擬似できるようにする。
【0058】
ここでは、M個の散乱体アンテナを水平面上と垂直平面上とに分けて配置し、パス到来方向は水平面方向φ(0〜360度)と垂直面方向θ(0〜180度)から構成されるとする。また、アンテナ信号生成部に係る構成は
図13の実施例5と同様である。この場合、基準伝送特性行列{H(V),H(H)}は、散乱体アンテナの配置に対応する行列データとして用意する。また、水平面方向φおよび垂直面方向θを含む3次元特性を表すアレーベクトル方向関数{A(V)(φ,θ),A(H)(φ,θ)}を用意する。
【0059】
また、k番目の送信信号に関するマルチパスのl番目のパスに対応するアンテナ信号生成部1#l(V),(H)には所望パス到来方向{(φ
kl(V),θ
kl(V)),(φ
kl(H),θ
kl(H))}を設定する。パス到来方向設定値算出部13は、パス到来方向設定値{W
kl(V)(φ
kl(V),θ
kl(V)),W
kl(H)(φ
kl(H),θ
kl(H))}を生成する。式(9)、式(10)にV偏波成分W
kl(V)(φ
kl(V),θ
kl(V))の算出式を示す。式(10)は正規化のためである。H偏波成分W
kl(H)(φ
kl(H),θ
kl(H))の算出式は式(9)、式(10)と同様であるので省略する。
【0060】
【数7】
【0061】
上述した実施例5、6によれば、MIMO伝送方式に対応したマルチアンテナ評価を簡易な装置構成で精度よく行うことができる。これにより、以下に示すような効果が得られる。
【0062】
MIMO伝送方式では、送受信局にマルチアンテナを備え、各送信アンテナから独立な情報を送信し、各受信アンテナで受信した信号からそれぞれを復調分離することで、パラレル伝送を実現する。このMIMO伝送技術は、無線資源として時間および周波数とは独立な空間次元を新たに利用することで伝送容量の大容量化を実現する技術であり、各無線通信システムへの適用が進められている。MIMO伝送性能を効果的に得られるマルチアンテナは、特に移動機等の小型の移動局の場合、サイズの制約からアンテナ指向性や実装方法等の技術的な課題が生じる。また、無線機と同一筐体内に実装される等の理由により、アンテナ単体の特性に歪みが生じてしまう。従って、製品の開発過程や開発後において、完成品と同等の状態で無線信号を用いたMIMO伝送性能評価を行うことが望ましい。
【0063】
一方、MIMO伝送技術では、各アンテナ受信時の各送信信号がそれぞれ独立変動で低相関となる特性を利用して復調分離する。その独立性は、電波伝搬路の変動が位置を変えることにより独立となる現象で得られ、マルチアンテナのアンテナ間距離が離れ、かつ送受間の電波伝搬路(MIMO伝搬路)がマルチパス環境である場合に効果的に得られる。ここで、マルチパス環境とは、送信局から受信局までの電波伝搬路が、建物等で発生する反射や回折、散乱等の現象により複数の経路が存在し、経路に応じてレベル、位相、遅延、及びドップラー周波数が異なる複数の電波(マルチパス)の合成となる電波伝搬環境であり、フェージング変動と呼ばれる急峻な電力変動を伴う。該マルチパスが、各受信局で様々な方向から到来する場合、送信点もしくは受信点の位置を離すに従って、フェージング変動間の相関(空間相関)が低下して独立性が得られる。
【0064】
従って、MIMO対応無線機のMIMO性能評価は、無線信号を用いたMIMO伝搬路の環境下で評価することが必須と考えられる。この評価を定量的に実現するためには、屋内環境に再現性よくMIMO伝搬路を生成することができる評価システムが必要であるが、該評価システムに本発明に係るマルチアンテナ評価装置は好適である。
【0065】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、基準伝送特性行列は時間を変数として有する関数として定義されてもよい。これにより、被測定機のマルチアンテナの方向に時間変動を有する基準伝送特性行列を実現できる。また、被測定機を回転台に載せ、被測定機を回転させながら評価する場合には、基準伝送特性行列は回転角を変数として有する関数として定義されてもよい。
【0066】
また、所望パス到来方向は時間を変数として有する関数として定義されてもよい。これにより、電波伝搬の時間変動を有するパス到来方向を実現できる。
【0067】
また、分配器はデジタル信号のコピー処理で実現してもよい。
【0068】
また、上述したマルチアンテナ評価装置を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0069】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。