(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル樹脂は透明性、光沢、表面硬度、耐候性、機械的性質等の特徴を生かし、ガラス代替材料として古くから各方面に広く利用されている。例えば、屋外で使用される材料の表面を覆うキャップストック、携帯電話等のディスプレイパネル、ディスプレイのハウジング用の透明部材としても用いられている。また、レンズ、プリズム等の光学機器に使用されている他、最近では、良好な成形性、低い複屈折率等の性能を生かして、ビデオディスク、オーディオディスク、情報ディスク、光カード等の情報記録体用基盤、光ファイバー等の光学機器用材料として使用されている。光学機器、例えば情報記録体基盤では、夾雑物の存在により、情報の書き込み信号の読み取り等においてエラーを生じ信頼性が低下する。またプラスチック光ファイバーでは、夾雑物の存在により、光の吸収や遮断が生じ導光損失が大きくなる等性能が低下する。従って、(メタ)アクリル樹脂を光学機器用材料に供する場合、夾雑物の混入の少ない材料が要求される。
【0003】
(メタ)アクリル樹脂は、たとえば塊状重合、懸濁重合、乳化重合といったラジカル重合により製造されているが、中でも不純物が少ないという点で塊状重合が最も広く採用されている。塊状重合の場合、(メタ)アクリル樹脂製品の最終形態はペレットとなる。しかし、組成物調製時に加えられる耐衝撃性改良剤、加工性改良剤をはじめとする原料の多くはパウダー形態であるため、コンパウンディング、移送、押出成形時などにペレットとパウダーが分離し、構成する成分の混合や分散が不均一になることがある。
【0004】
これに対し、懸濁重合の場合、重合により直径が数十から数千ミクロンの粒子が得られ、洗浄、乾燥工程を経て真球状のパウダーとして(メタ)アクリル樹脂製品が得られるため、他のパウダー形態の原料との混合・分散性が優れる利点がある。しかし、重合においてモノマー・ポリマー滴の安定分散を維持するために多くの懸濁安定剤および懸濁助剤を副原料として加える必要がある。そのため、洗浄後も少量の不純物が製品中に残留し、成形加工時の熱劣化の原因となることが指摘されている。懸濁安定剤の使用量を少なくした場合には、その濃度の低下とともにモノマー・ポリマー滴の分散安定性が低下してしまうため、モノマー・ポリマー滴の合一が発生したり、結果として粒子分布の広いポリマー粒子が生成し、また条件のバランスが崩れると重合系全体が集塊してしまうことがある。このため成形加工時の熱劣化(より具体的には成形加工時の透明性の悪化および黄変)の課題は安定生産、粒子径制御の面で懸濁安定剤種の選択とその濃度調整をより困難なものとしている。
【0005】
そこで懸濁重合法にて高純度(メタ)アクリル樹脂を製造する方法として、特許文献1には、懸濁重合により得られた粒状ポリマーに、水と相溶性を有する有機溶剤と水との混合溶液を添加して、ポリマー中の低分子量有機化合物や水溶性無機化合物を抽出分離する方法が開示されている。ただしこの方法では、懸濁重合に続く後処理工程を付加したものであり、この様な工程を付加すること自体単に頬雑になるのみならず別の夾雑物の混入の可能性がある。
【0006】
特許文献2には重合槽内で懸濁重合を行うにあたり、特定の攪拌条件を採用することにより夾雑物の少ない熱可塑性重合体粒子を製造する方法が開示されている。ただしこの方法では、機械的な因子の制御によってのみ夾雑物の重合体粒子への混入を防止しているため、混入防止はまだ充分とは言えず、また攪拌条件の選択範囲も限定される。
【0007】
特許文献3には、界面活性剤と硫酸ナトリウム又はリン酸ナトリウムを用いた懸濁重合で得られる光ディスク用(メタ)アクリル樹脂が開示され、該樹脂中の残存陽イオンが少ない程微小気泡が少なく良好な光ディスク基盤となることが示されている。ただしこの方法では、樹脂に含まれるNaイオンの量で夾雑物の評価をしているが、界面活性剤の具体的な記載がなく樹脂を製造する方法として充分な評価が出来ないものである。
【0008】
また、特許文献4には、メタクリル酸メチルを主成分とする単量体を水性媒体中で懸濁重合して(メタ)アクリル樹脂を製造する際、重合開始時は懸濁安定剤としてアニオン系水溶性高分子を用い、重合率が20〜85%の間に、ノニオン系水溶性高分子を追添加して重合することにより、狭雑物の少ない高純度の(メタ)アクリル樹脂を製造する方法が開示されている。ただしこの方法では、比較的多めのアニオン系水溶性高分子からなる懸濁安定剤の存在下で重合を開始しているため、得られる粒状重合体中に懸濁安定剤であるアニオン系水溶性高分子が残存し、純度の低い粒状重合体しか得られない。また成形加工時には透明性の悪化や黄変等の課題が依然としてある。
【0009】
以上のように、懸濁重合により夾雑物が少なく、成形加工時の熱劣化による透明性の悪化や黄変が少ない(メタ)アクリル樹脂を得ることは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はメタクリル酸メチル30〜100重量%およびこれと共重合可能なモノマー70〜0重量%を懸濁重合して得られる。
【0016】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えばアルキル基の炭素数1〜10である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(ただしメタクリル酸メチルを除く)が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびそのエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;マレイン酸、フマール酸およびそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類:ハロゲン化アルケン類;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーが挙げられる。これらのビニル単量体は単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0017】
メタクリル酸メチル重合体中、メタクリル酸メチルは、30〜100重量%、好ましくは50〜99.9重量%、より好ましくは50〜98重量%含有され、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーは、70〜0重量%、好ましくは50〜0.1重量%、より好ましくは50〜2重量%含有される。メタクリル酸メチルの含有量が30重量%未満では(メタ)アクリル樹脂特有の光学特性、外観性、耐候性、耐熱性が低下してしまう傾向がある。
【0018】
本発明において、メタクリル酸メチル重合体は、メタクリル酸メチルおよびこれと共重合可能なモノマーの混合物を懸濁重合することにより得られる。懸濁重合して得られる重合体粒子の平均粒子径は、とくに制限されないが、通常の懸濁重合操作で得られる50〜4000μmであることが好ましい。成形加工時に加えられる耐衝撃性改良剤、加工性改良剤などの原料とコンパウンディングする用途に使用する場合には、移送、押出成形時に分離せず、混合・分散が不均一にならないことから、より好ましい平均粒子径は、50〜1000μm、更に好ましくは50〜800μmである。
【0019】
本発明では、メタクリル酸メチル30〜100重量%およびこれと共重合可能なモノマー70〜0重量%からなる単量体の重合を、該単量体に対して350ppm以下の初期懸濁安定剤の存在下で開始する。そして、該単量体の重合転化率が20〜90%、好ましくは20〜75%になった時点で後期懸濁安定剤を添加することを特徴とする。
【0020】
初期懸濁安定剤、および後期懸濁安定剤としては、アニオン系水溶性高分子、ノニオン系水溶性高分子からなる高分子タイプの懸濁安定剤、第三リン酸カルシウム、硫酸バリウムなどの水に難溶性の無機微粒子タイプの懸濁安定剤を使用することができる。
【0021】
アニオン系水溶性高分子からなる懸濁安定剤としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、メタクリル酸ナトリウム−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。中でも、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
ノニオン系水溶性高分子からなる懸濁安定剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン等の水溶性高分子が挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、更に好ましくはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体である。
【0023】
水難溶性の無機微粒子からなる懸濁安定剤としては、硫酸バリウム、第三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。好ましくは第三リン酸カルシウムである。ここでの水難溶性とは、25℃の水への溶解度が1重量%以下であることをいう。
【0024】
本発明の初期懸濁安定剤とは、重合開始時に存在する懸濁安定剤をいう。初期懸濁安定剤は重合開始時から系に存在しているため、得られる粒状重合体中に取り込まれやすく、各種後処理工程を経ても初期懸濁安定剤がそのまま粒状重合体中に残存する。その結果、粒状重合体の純度が低下したり、成形加工時には透明性の悪化や黄変等の課題をもたらす。例えば、水難溶性の無機微粒子を懸濁安定剤として多量に重合初期から使用した場合、粒状重合体内部に残存することにより、成形加工時等の透明性が必然的に劣る。また、水溶性高分子を懸濁安定剤として多量に重合初期から使用する場合には、粒状重合体内部に残存することにより、成形加工時の熱劣化による黄変がおこる。そのため、初期懸濁安定剤の使用量は該単量体に対して350ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは40ppm以下、最も好ましくは初期分散剤を使用しないことが重要である。なお、後述するように重合反応の進行に伴い単量体または単量体混合物を追加して重合反応を実施する場合、初期懸濁安定剤の使用量は、重合反応の全過程で使用する単量体の総量に対する相対量を意味する。
【0025】
従来技術では比較的多めの初期懸濁安定剤の存在下で重合を開始することが重合安定性を確保する上で必須と考えられていたが、今回、初期懸濁安定剤を該単量体に対して350ppm以下、さらには全く使用しなくても、該単量体の重合転化率が20〜90%になった時点で後期懸濁安定剤を添加することにより、重合時の重合体粒子の合一を抑制し、良好なビーズ状の粒状重合体が得られることを新たに見出した。その結果、使用する懸濁安定剤の総量を減らし、粒状重合体中に取り込まれる懸濁安定剤の量を減らすことが可能となり、不純物が少なく、成形加工時の熱劣化による透明性の悪化や黄変が少ないメタクリル酸メチル重合体を製造できることを見出した。なお、重合反応の進行に伴い単量体または単量体混合物を追加して重合反応を実施する場合、重合転化率は、重合反応の全過程で使用する単量体の総量を基準とした数値である。
【0026】
初期懸濁安定剤としてはアニオン系水溶性高分子、ノニオン系水溶性高分子などの高分子タイプ、無機微粒子タイプから選ばれる。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでも使用できる。ただし、アニオン系水溶性高分子を用いた場合、粒状重合体中に残存した場合、特に成形加工時の黄変につながりやすいことから、ノニオン系水溶性高分子、水難溶性無機微粒子から選ばれる初期懸濁安定剤を使用することが好ましい。さらには、水難溶性無機微粒子も粒状重合体中に残存した場合、成形加工時の透明性の悪化につながりやすいことから、初期懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子を使用することがより好ましい。なかでも、成形加工時の黄変がより少ないので、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体が最も好ましい。該ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体はそれ自体の成形加工時の熱安定性が良好であり、黄変しにくいことに加え、疎水性が高いポリオキシプロピレン(PPO)鎖がモノマー油滴や重合体粒子などの疎水性表面に吸着し、また親水性のポリオキシエチレン(PEO)鎖が水和を受けて水相に大きく広がることで優れた分散効果を発揮することが出来る。その結果、懸濁安定剤の使用量を大きく削減でき、成形加工時に透明性悪化や黄変が発生しにくいとともに、コスト面でも有利である。
【0027】
該単量体の重合転化率が20〜90%、好ましくは20〜75%になった時点で添加する後期懸濁安定剤は、重合が進むにつれてモノマー油滴中のポリマー比率が高まり、ある程度個々のモノマー油滴の合一、分散が落ち着き、固定化された段階で添加するため、粒状重合体の内部には残存しにくい。そのため、純度が高く、成形加工時に透明性の悪化、黄変を抑制することが可能となる。重合転化率が20%未満の時点で後期懸濁安定剤を添加した場合には、得られる粒状重合体の内部に懸濁安定剤が取り込まれることにより残存し、純度の低い粒状重合体しか得られず、また微粉が発生しやすい。微粉が発生した場合、得られた粒状重合体の回収時、および得られた製品パウダーのハンドリング性の悪化や粉塵爆発等の危険性を伴う。一方、重合転化率が90%を越えた時点で添加した場合には、重合系が不安定になるため、重合体粒子が合一したり、純度の低い粒状重合体しか得られない。後期懸濁安定剤の使用量は、該単量体100重量部に対して0.005〜2.0重量部、好ましくは0.005〜1.0重量部、さらに好ましくは0.005〜0.2重量部の範囲から選択されるが、重合系が安定となる範囲内で少ない方が好ましい。0.005重量部未満では重合系が不安定となり、2.0重量部を越えると、微小な粒状重合体が生成したり、粒状重合体内部や表面に残存する懸濁安定剤の量も多くなる。そのため、得られる粒状重合体の純度の低下や、成形加工時の光学特性の悪化、および、得られた粒状重合体の回収時、および得られた製品パウダーのハンドリング性の悪化や粉塵爆発等の危険性を伴う。また、後期懸濁安定剤としてはアニオン系水溶性高分子、ノニオン系水溶性高分子などの高分子タイプ、無機微粒子タイプから選ばれる。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでも使用できる。ただし、前記記載の初期懸濁安定剤と同様の理由により、ノニオン系水溶性高分子、無機微粒子タイプが好ましく、さらにはノニオン系水溶性高分子が好ましい。ノニオン系水溶性高分子のなかでも、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体が最も好ましい。また、後期懸濁安定剤は、一括、分括、または連続的に添加することが出来る。
【0028】
また、懸濁安定剤と併用して、懸濁助剤を用いることもできる。ここでいう懸濁助剤とは、分散助剤としても知られている物質であり、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤等の低分子界面活性剤、ホウ酸、炭酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、硫酸ナトリウム等の水溶性の無機塩などである。懸濁助剤としては、リン酸水素2ナトリウムが好ましい。懸濁助剤は、成形加工時に透明性の悪化や黄変の問題を引き起こしにくいため、重合の開始時から重合系に存在していてもよい。
【0029】
例えば懸濁安定剤として無機微粒子を用いる場合、懸濁助剤として低分子界面活性剤を用いることで、無機微粒子表面がモノマーと水の界面に対して両親媒的に働くようになり、安定化効果を高めることができる。また、懸濁安定剤としてポリビニルアルコール等の水溶性高分子を用いる場合、懸濁助剤としてホウ酸やリン酸水素2ナトリウムなどの無機塩を用いることで、ポリビニルアルコールの水酸基の架橋反応が進み、懸濁安定剤によるモノマー油滴の保護能力を向上させることができる。懸濁安定剤がノニオン系水溶性高分子の場合についてもエーテル結合間の架橋反応が進み、保護能力を向上させることができる。これらの懸濁助剤を懸濁安定剤と併用することで、重合系をより安定化することができ好ましい。懸濁助剤のなかでも、成形加工時の黄変を抑制する点で、水溶性の無機塩が好ましい。なお本発明の懸濁助剤とは、25℃の水への溶解度が2重量%以上のものをいう。この点で、上記の水難溶性の無機微粒子からなる懸濁安定剤とは明確に区別される。
【0030】
本発明の懸濁重合で使用する重合開始剤は、ビニル単量体の重合用として周知のものでよい。例えば2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2、2′−アゾビス(2−メチルプロオネート)等のアゾ化合物;ターシャリーブチルパーオキシピバレート、ターシャリーブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、クミルパーオキシ2−エチルヘキサノエートなどのパーオキシエステル類;ジ8,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ジラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物等を挙げることができ、これらのうち1種類または2種類以上が用いられる。これらの重合開始剤の使用量は、単量体または単量体混合物に対して0.02〜2重量%で使用する。
【0031】
また、重合体の分子量を調節するために、周知の連鎖移動剤を用いてもよい。該連鎖移動剤としてはアルキルメルカプタン、アルキルサルファイド、アルキルジサルファイド、チオグリコール酸2−エチルヘキシルなどのチオグリコール酸エステル、α−メチルスチレンダイマー、β−メルカプトプロピオン酸などのメルカプト酸、ベンジルメルカプタン、チオフェノール、チオクレゾール、チオナフトールなどの芳香族メルカプタン等が挙げられる。
【0032】
重合体の分子量に関しては特に限定はなく、使用用途に適した分子量に調整すればよい。なかでも、塗料、インキ、コーティング材料、接着剤用途等に使用する場合には、靭性、塗膜強度、接着強度、表面硬度、耐磨耗性(耐擦傷性)、引張伸び(2次成形性)、耐薬品性、硬化前のコーティング面のタックフリー性、また、接着剤として使用した場合に初期接着力が強く、タレにくいために作業性が向上する等の観点から、重量平均分子量が20万以上であることが好まれる。
【0033】
重合開始剤および連鎖移動剤の添加方法には、とくに制限がないが、重合開始剤および連鎖移動剤の両方をモノマーに溶解したのち、モノマーを水中に懸濁させ、そのまま重合反応を実施する手法が最も好ましい。
【0034】
また、懸濁重合時に、可塑剤、滑剤、安定剤または紫外線吸収剤など、硬質プラスチックの成形加工時に通常添加される成分をモノマーに添加することも可能であるが、得られた粒状重合体に成形加工時等にブレンドしてもよい。
【0035】
水性媒体と単量体または単量体混合物の割合は、1:1〜10:1、好ましくは1:1〜4:1の範囲である。水性媒体の量が少なすぎると、単量体の分散が不均一となり易く、重合系が不安定となり、多い場合には製造効率の点で不利である。
【0036】
また、該懸濁重合体粒子の製造には、単量体または単量体混合物を水に懸濁させ、そのまま重合反応を実施する方法や、単量体または単量体混合物の一部を水に懸濁させて重合反応を開始し、重合反応の進行にともない、残りの単量体または単量体混合物、もしくは単量体または単量体混合物の水懸濁液を一段または数段に分けて、もしくは連続的に重合反応槽へ追加して重合反応を実施する方法など、公知となっているすべての手法を用いることができる。
【0037】
重合の温度条件は、60〜120℃程度で、用いる重合開始剤に適した温度でよい。重合に要する時間は、重合開始剤の種および量、または重合温度などによって異なるが、通常1〜24時間である。
【0038】
攪拌条件は、通常の懸濁重合で(メタ)アクリル樹脂を製造する際の条件でよい。装置としては、周知の攪拌翼例えばタービン翼、ファウドラー翼、プロペラ翼、ブルーマージン翼、H型翼等の付いた攪拌機を備えた重合容器を用い、該容器には、バッフルを付けているのが一般的である。
【0039】
懸濁重合の終了後は、周知の方法で洗浄、脱水、乾燥して粒状重合体を得ることができる。
【0040】
なお本発明においてノニオン系水溶性高分子を用いる場合、重合初期のノニオン系水溶性高分子の使用量が0〜350ppmなので、得られるメタクリル酸メチル重合体中のノニオン系水溶性高分子の含有量を500ppm以下とすることが可能である。メタクリル酸メチル重合体中のノニオン系水溶性高分子の含有量は、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。
【0041】
また本発明で得られたメタクリル酸メチル重合体は、粒状のままで、または押出機によりペレット状としたのち、加熱しながら押出成形や射出成形、圧縮成形等により、用途に適した形状の成形品とすることができる。また、使用用途に適合した、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、色彩安定剤、可塑剤、滑剤および各種の充填剤等の添加物を混合して用いても良い。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、これらはいずれも例示的なものであり、本発明の内容を何ら限定するものではない。
【0043】
重合転化率は以下の手順に従い算出した。
【0044】
まず、得られたスラリーの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をスラリー中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の数式1により重合転化率を算出した。なお、この数式1において、連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
【0045】
重合転化率(%)
=〔(仕込み原料総重量×固形成分比率−水・単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量〕×100 (数式1)
体積平均粒子径は、マイクロトラックMT3000II(日機装(株)製)を用いて測定した。
【0046】
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。本発明では、高速GPC装置(東ソー(株)製HLC−8220GPC)、カラムは東ソー(株)製TSKguardcolumn SuperHZ−H、GPC溶媒としてテトラヒドロフランを用いた。
【0047】
全光線透過率の測定には、JIS K7361−1に準拠した積分球式光線透過率測定装置(日本電色工業(株)製NDH2000)を用いた。測定対象としては射出成形で作製した厚み3mmの平板サンプルを用いた。
【0048】
ヘイズの測定には、JIS K7136に準拠した積分球式光線透過率測定装置(日本電位工業(株)製NDH2000)を用いた。測定対象としては射出成形で作製した厚み3mmの平板サンプルを用いた。
【0049】
透過YI(Yellowness index)の測定には、JIS Z8722に準拠した測色色差計(日本電色工業(株)製ZE−2000)を用いた。測定対象としては射出成形で作製した厚み3mmの平板サンプルを用いた。
【0050】
(実施例1)
H型撹拌機を備えた8リットルガラス製反応器に脱イオン水200重量部、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウム0.5重量部を仕込んだ。次に250rpmで攪拌しながら、反応器にラウロイルパーオキサイド0.95重量部を溶解させたメタクリル酸メチル97重量部、アクリル酸メチル3重量部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル0.15重量部からなるモノマー混合液を加え、反応器内を窒素置換しながら60℃に昇温して重合を開始した。初期懸濁安定剤は添加しなかった。60℃到達後70分経過時点で後期懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子であるアデカプルロニックF−68(株式会社ADEKA製、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を0.06重量部添加した。この時点での重合転化率は27%であった。その後60℃でさらに85分反応させた後、80℃に昇温し、3時間攪拌し、重合を完結させた。得られた重合体を、樹脂量の3倍量の脱イオン水を用いた水洗を4回実施し、乾燥することでビーズ状の懸濁重合体粒子を得た。得られた重合体の体積平均粒子径は530μm、Mwは245000であった。
【0051】
(実施例2)
実施例1において、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウムを使用しない以外は実施例1と同様の方法で実施した。なお、アデカプルロニックF−68を添加した時点での重合転化率は41%であった。得られた重合体の体積平均粒子径は500μm、Mwは262000であった。
【0052】
(実施例3)
H型撹拌機を備えた8リットルガラス製反応器に脱イオン水200重量部、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウム0.5重量部を仕込んだ。次に250rpmで攪拌しながら、反応器にラウロイルパーオキサイド0.95重量部を溶解させたメタクリル酸メチル95重量部、アクリル酸メチル5重量部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル0.6重量部からなるモノマー混合液を加え、反応器内を窒素置換しながら60℃に昇温して重合を開始した。初期懸濁安定剤は添加しなかった。60℃到達後120分経過時点で後期懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子であるアデカプルロニックF−68(株式会社ADEKA製、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を0.06重量部添加した。この時点での重合転化率は30%であった。その後60℃でさらに65分反応させた後、80℃に昇温し、3時間攪拌し、重合を完結させた。得られた重合体を、樹脂量の3倍量の脱イオン水を用いた水洗を4回実施し、乾燥することでビーズ状の懸濁重合体粒子を得た。得られた重合体の体積平均粒子径は500μm、Mwは86000であった。
【0053】
(実施例4)
H型撹拌機を備えた8リットルガラス製反応器に脱イオン水200重量部、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウム0.5重量部を仕込んだ。次に250rpmで攪拌しながら、反応器にラウロイルパーオキサイド0.95重量部を溶解させたメタクリル酸メチル95重量部、アクリル酸メチル5重量部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル0.375重量部からなるモノマー混合液を加え、反応器内を窒素置換しながら60℃に昇温して重合を開始した。初期懸濁安定剤は添加しなかった。60℃到達後110分経過時点で後期懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子であるアデカプルロニックF−68(株式会社ADEKA製、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を0.06重量部添加した。この時点での重合転化率は27%であった。その後60℃でさらに65分反応させた後、80℃に昇温し、3時間攪拌し、重合を完結させた。得られた重合体を、樹脂量の3倍量の脱イオン水を用いた水洗を4回実施し、乾燥することでビーズ状の懸濁重合体粒子を得た。得られた重合体の体積平均粒子径は450μm、Mwは124000であった。
【0054】
(実施例5)
H型撹拌機を備えた8リットルガラス製反応器に脱イオン水200重量部、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウム0.5重量部を仕込んだ。次に250rpmで攪拌しながら、反応器にラウロイルパーオキサイド0.95重量部を溶解させたメタクリル酸メチル95重量部、アクリル酸ブチル5重量部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル0.45重量部からなるモノマー混合液を加え、反応器内を窒素置換しながら60℃に昇温して重合を開始した。初期懸濁安定剤は添加しなかった。60℃到達後110分経過時点で後期懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子であるアデカプルロニックF−68(株式会社ADEKA製、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を0.06重量部添加した。この時点での重合転化率は32%であった。その後60℃でさらに75分反応させた後、80℃に昇温し、3時間攪拌し、重合を完結させた。得られた重合体を、樹脂量の3倍量の脱イオン水を用いた水洗を4回実施し、乾燥することでビーズ状の懸濁重合体粒子を得た。得られた重合体の体積平均粒子径は550μm、Mwは83000であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1において、初期懸濁安定剤としてポリメタクリル酸ナトリウム(シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製、Mw9500、Mn5400)を0.04重量部(単量体に対して400ppm)添加してから重合を開始した以外は実施例1と同様の方法で実施した。なお、アデカプルロニックF−68を添加した時点での重合転化率は35%であった。得られた重合体の体積平均粒子径は430μm、Mwは241000であった。
【0056】
(比較例2)
実施例1において、初期懸濁安定剤として第三リン酸カルシウム(太平化学産業(株)製、TCP−10・U)を純分で0.4重量部(単量体に対して4000ppm)、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセノールKH−17)0.25重量部(単量体に対して2500ppm)を添加してから重合を開始し、重合途中でアデカプルロニックF−68を添加しないこと以外は実施例1と同様の方法で実施した。得られた重合体の体積平均粒子径は200μm、Mwは243000であった。
【0057】
(成形体の作製と物性評価)
以上の実施例、比較例で得られた重合体それぞれ100重合部を、ベント付単軸押出機(HW−40−28:40m/m、L/D=28、田端機械(株)製)を用い、設定温度C1〜C3=200℃、C4=210℃、C5=220℃、D=230℃の条件で押出混練しペレット化した。得られたペレットを90℃で3時間以上乾燥したあと、射出成形機(160MSP−10型、三菱樹脂(株)製)を使用してシリンダー温度T3=240℃、T2=245℃、T1=250℃、ノズル温度N=255℃、金型=60℃の条件で射出成形して厚み3mmの平板サンプルを得た。得られた平板サンプルについて、透明性の指標として全光線透過率、ヘイズを、熱劣化による黄変度の指標として透過YIを測定した。その結果を表1に示した。
【0058】
【表1】