(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遊星歯車と、該遊星歯車の軸方向側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に一体的に形成され前記遊星歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材と前記遊星歯車との間に配置された摺動促進部材と、を備えた遊星歯車装置であって、
前記ピン部材の根元にアール部が形成され、該アール部のフランジ部材側の終端の径が、前記摺動促進部材のフランジ部材側端部の最内径よりも大きく、かつ
前記摺動促進部材の前記ピン部材の根元側への移動を規制する移動規制部材を備えた
ことを特徴とする遊星歯車装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る遊星歯車装置の要部断面図、
図2は、
図1の遊星歯車装置の全体断面図である。
【0016】
先ず、遊星歯車装置G1の全体概略構成から説明する。この遊星歯車装置G1は、偏心揺動型と称される遊星歯車装置である。
【0017】
遊星歯車装置G1の入力軸12は、中空部12Aを有するホローシャフトで構成されている。入力軸12は、キー12Bを介してモータ13のモータ軸13Aと連結されている。入力軸12には、偏心体14、16が一体的に形成されている。
【0018】
偏心体14、16の軸心O2、O3は、入力軸12の軸心O1に対して、偏心量Δe1分だけそれぞれ偏心している。この例では、偏心体14、16の偏心位相差は、180度である。
【0019】
偏心体14、16の外周にはころ軸受18、20が配置されている。ころ軸受18、20の外周には外歯歯車(遊星歯車)22、24が揺動可能に組み込まれている。外歯歯車22、24は、それぞれ内歯歯車26に内接噛合している。
【0020】
内歯歯車26は、ケーシング31と一体化された内歯歯車本体26A、該内歯歯車本体26Aに支持された円柱状の外ピン26B、および該外ピン26Bに回転自在に外嵌され、内歯歯車26の「内歯」を構成するローラ26Cとで主に構成されている。内歯歯車26の内歯の数(ローラ26Cの数)は、外歯歯車22、24の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0021】
外歯歯車22、24には、その軸心(O2、O3に同じ)からオフセットされた位置に複数(この例では10個)の貫通孔22A、24Aが円周方向に36度の間隔で設けられている。また、外歯歯車22、24の軸方向両側部には、一対のキャリヤ(フランジ部材)32、34が配置されている。キャリヤ32、34は、アンギュラ玉軸受40、42を介してケーシング31に支持されている。アンギュラ玉軸受40、42は、専用の内輪を有しておらず、キャリヤ32、34の外周部が該アンギュラ玉軸受40、42の内輪を兼用している。なお、キャリヤ32、34は、軸受35、37を介して前記入力軸12を支持している。
【0022】
負荷側のキャリヤ34からは内ピン(ピン部材)28が一体的に形成されている。ここで、「キャリヤ34から内ピン28が一体的に形成されている」とは、キャリヤ34から内ピン28が当初より「単一の部材」として突出して形成されていることを意味する。すなわち、例えば、フランジ部材とは別の部材で構成されたピン部材が、圧入等によりフランジ部材と連結されることによって一体化される概念は含まない。
【0023】
具体的には、内ピン28は、外歯歯車22、24の貫通孔22A、24Aに対応して、10本突出して形成されており、それぞれが外歯歯車22、24の貫通孔22A、24Aを貫通している。キャリヤ34は、出力軸48と一体化されている。
【0024】
なお、反負荷側のキャリヤ32には、該キャリヤ32の外歯歯車22、24側の側面に凹部32Dが形成されている。内ピン28は、その先端28Tがこの凹部32Dに嵌入された状態で、ボルト45によってキャリヤ32とキャリヤ34とを連結している。
【0025】
内ピン28と外歯歯車22、24(の貫通孔22A、24Aの内周面)との間には、摺動促進部材たる滑りローラ44が配置されている。滑りローラ44は、常時外歯歯車22、24の貫通孔22A、24Aの内周面の一部と当接しており、当接していない側には、該貫通孔22A、24Aとの間に偏心体14、16の偏心量Δe1の2倍に相当する大きさ(2・Δe1)の隙間がそれぞれ確保されている。
【0026】
ここで、内ピン28の根元近傍の構成について詳細に説明する。
【0027】
内ピン28の根元28Bには、アール部50が形成されている。アール部50は、基本的には、内ピン28の外周の仕上げ加工時の仕上げ代(削り代)を確保すると共に、工具の逃げ代を確保するために形成されるものではあるが、本実施形態では、形成半径r1を維持したまま延在され、アール部50のキャリヤ(フランジ部材)34側の終端50Eにおける径(内ピン28の軸心O5からの距離の2倍)はd3とされている(終端50Eが最内径D3に相当する位置50Cよりも外周側に設定されている)。なお、「キャリヤ34側の終端50Eにおける径d3」は、常に完全な「円の径」として現れている訳ではなく、例えば、
図1、
図2に示されるように、軸受37の収容スペースを確保するためにその一部がカットされ、カットされた側においては、見かけ上の終端が符号50Fで示す位置とされていることがある。このような場合の「キャリヤ34側の終端50Eの径d3」は、カットされていない円弧部分をベースにしてカットされている円弧を補った符号50E、50Gを直径とする径(d3)を指している。
【0028】
この実施形態では、当該アール部50のキャリヤ34側の終端50Eの径d3が、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの最内径D3よりも、大きく形成されている(d3>D3)。因みに、この「滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの最内径D3」は、
図1に示されるように、もし、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44E側の内径の一部が面取りされている場合には、滑りローラ44の最内径D5よりも大きな寸法となる。
【0029】
この設定(d3>D3)は、滑りローラ44がアール部50の終端50E側に移動してくると、該滑りローラ44がアール部50に乗り上げてしまう設定である。そのため、この実施形態では、フランジ部材34と摺動促進部材44との間に、該滑りローラ44の、内ピン28の軸方向におけるアール部50の終端50E側への移動を規制する移動規制部材56が設けられている。
【0030】
移動規制部材56は、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eが、アール部50における最内径D3に相当する位置50Cよりも、さらにアール部50の終端50E側へ移動するのを規制する。換言するならば、移動規制部材56は、滑りローラ44がアール部50に乗り上げる前に、該滑りローラ44がアール部50の終端50E側(内ピン28の根元28B側)へ移動するのを規制する。これにより、該滑りローラ44がアール部50の終端50Eの近傍と衝突・干渉するのを回避できる。
【0031】
なお、滑りローラ44の内ピン28の軸方向キャリヤ32側への移動は、該キャリヤ32の軸方向側面32Aによって規制されている。
【0032】
この実施形態では、移動規制部材56は、各内ピン28のキャリヤ34側において、(複数ある内ピン28の)各内ピン28の滑りローラ44に対して、個々に設けられている。移動規制部材56の滑りローラ44側には、該滑りローラ44と当接する第1当接面56Aが形成されている。また、移動規制部材56のキャリヤ34側には、該キャリヤ34と当接する第2当接面56Bが形成されている。移動規制部材56の第1当接面56Aと第2当接面56Bの間は、内周面56Cおよび外周面56Dともキャリヤ34側に向かって内ピン28の軸心O5に対して角度θで拡開する形状(ラッパ形状)に形成されている。
【0033】
移動規制部材56の第2当接面56B側の内径D8は、アール部50のキャリヤ34側の終端50Eの径d3と同一に(あるいはそれよりも大きく)設定され(D8≧d3)、移動規制部材56とアール部50の干渉を回避した上で、該第2当接面56Bとキャリヤ34との当接を可能としている。
【0034】
なお、本実施形態においては、
図3、
図4に示されるように、外歯歯車24の貫通孔24Aの周囲に、座繰り部24Fが設けられ、移動規制部材56のほぼ全部が外歯歯車24の当該座繰り部24Fの内側に収められている。この構成は、本発明を実施するに当たって必須の構成ではないが、本実施形態ではアール部50を大きく取り、かつ、滑りローラ44とキャリヤ34との間に移動規制部材56が介在されるため、内ピン28の根元28Bの最小径部(アール部50の最小径部)50Sと、滑りローラ44および外歯歯車24の荷重点P1との距離L1が大きくなり易い。そこで、座繰り部24Fを形成することにより、内ピン28の根元28Bの最小径部(アール部50の最小径部)50Sと、滑りローラ44および外歯歯車24の荷重点P1との距離L1を短縮し、この不具合を緩和している。なお、ここでいう「座繰り部24F」とは、「外歯歯車24の軸方向側面の貫通孔24Aの周辺において、該貫通孔24Aの少なくとも一部と連続して形成された凹部空間」を指している。ただし、該定義における「凹部空間」の概念には、段部の概念は含まれない。したがって、例えば外歯歯車の歯部のみの軸方向長さが長く形成されているような場合の歯部以外の部分は、この凹部空間には該当しない。
【0035】
次に、この偏心揺動型の遊星歯車装置G1の作用を説明する。
【0036】
入力軸12が回転すると、該入力軸12と一体化されている偏心体14、16が偏心回転し、該偏心体14、16の外周にころ軸受18、20を介して組み込まれている外歯歯車22、24が180度の位相差で揺動される。外歯歯車22、24は、内歯歯車26に内接噛合しており、かつ、この実施形態では内歯歯車本体26Aがケーシング31と一体化されている。そのため、外歯歯車22、24は、入力軸12が1回回転する毎に、内歯歯車26(ケーシング31)に対して歯数差分(この例では1歯分)だけ相対回転する(自転する)。
【0037】
外歯歯車22、24の自転成分は、該外歯歯車22、24の貫通孔22A、24Aを貫通している滑りローラ44および内ピン28を介してキャリヤ32、34に伝達され、該キャリヤ32、34がケーシング31に対して外歯歯車22、24の自転成分と同一の速度で相対的に回転する。この結果、キャリヤ34と一体化されている出力軸48から減速出力を取り出すことができる。
【0038】
ここで、内ピン28のアール部50近傍の作用を詳細に説明する。
【0039】
従来は、滑りローラ(44)の内ピン(28)の軸方向キャリヤ(34)側への移動規制は、該キャリヤ(34)の軸方向側面によって行われていた。このため、基本的に、アール部(50)の終端(50E)
の径が滑りローラ(44)のキャリヤ(34)側端部(44E)の最内径(D3)よりも大きく設定されることはなく、したがって、アール部(50)の形成半径(r1)は小さなものとならざるを得ず、大きな応力集中が発生していた。
【0040】
これに対し、本実施形態では、アール部50のキャリヤ(フランジ部材)34側の終端50Eの径d3を滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの最内径D3よりも積極的に大きく形成し(d3>D3)、その上で、移動規制部材56を配置することにより滑りローラ44が当該アール部50に乗り上げるという作用が生じないようにしている。
【0041】
すなわち、移動規制部材56は、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eが、アール部50における「滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの最内径D3」に相当する位置50Cよりも、アール部50の終端50E側へ移動するのを規制する。これにより、アール部50の形成半径r1を十分に大きく取ることができ、従来よりも応力集中を緩和できると共に、アール部50と滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eとが干渉するのを効果的に防止することができ、該内ピン28と滑りローラ44との摺動を円滑に維持することができる。
【0042】
特に、本実施形態では、滑りローラ44のキャリヤ34側(フランジ部材側)に移動規制部材56が設けられているため、滑りローラ44がキャリヤ34側に移動するのを容易に規制することができる。
【0043】
また、複数ある内ピン28の各内ピン28の滑りローラ44に対して個々に移動規制部材56が設けられているため、移動規制部材56は、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの全周に当接することができ、該滑りローラ44の傾きが抑制され、該滑りローラ44のより円滑な回転を維持することができる。また、外歯歯車22、24を座繰る場合も、貫通孔22A、24Aの周りのみを座繰ればよいため(外歯歯車22、24を大きく座繰る必要がないため)、外歯歯車22、24の加工も容易である。
【0044】
また、移動規制部材56は、キャリヤ34側に向かって角度θで拡開する形状(ラッパ形状)に形成されているため、たとえアール部50のキャリヤ34側の終端50Eの径d3が、滑りローラ44のキャリヤ34側端部44Eの最内径D3よりも大きく形成されていても、該アール部50を跨ぐような態様で(アール部50と干渉することなく)移動規制部材56を配置することができる。
【0045】
図5に本発明の他の実施形態の一例に係る遊星歯車装置G2の全体断面を示す。
図6は、
図5の要部をさらに拡大して示した要部拡大断面図である。なお、先の実施形態と同一または機能的に同一の部分には、先の実施形態の符号と下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明は省略する。
【0046】
この実施形態においても、内ピン128の根元128Bにアール部150が形成され、該アール部150のキャリヤ134側の終端150Eの径d103が滑りローラ144のキャリヤ134側端部144Eの最内径D103よりも大きく形成されている(終端150Eが最内径D103に相当する位置150Cよりも外周側に設定されている)。また、摺動促進部材たる滑りローラ144の内ピン128の軸方向におけるアール部150の終端150E側への移動を規制する外歯歯車124と一体の移動規制部材156が設けられている。
【0047】
この移動規制部材156は、先の実施形態のように、各内ピン128の滑りローラ144に対して個々に設けられているのではなく、各滑りローラ144の外接円の直径(外歯歯車124の軸心O103からの距離)D110よりも僅かに小さな内径(外歯歯車124の軸心O103からの距離)D112を有する単一のリング形状に突出形成されたものである。各滑りローラ144は、この移動規制部材156の段差面156Aによってアール部150の終端150E側への移動が規制されている。
【0048】
すなわち、先の実施形態では、各内ピン28(各ピン部材)の滑りローラ44に、個々に移動規制部材56が設けられていたが、この実施形態では、複数の滑りローラ144の外接円の近傍と同時に接触する単一の大きなリング形状の移動規制部材156が、配置されていることになる。この構成は、(各内ピン128の滑りローラ144に対して個々の移動規制部材を有しないため)部品点数が少なく、組み付け工数もより削減できるというメリットがある。
【0049】
なお、この移動規制部材156は、外歯歯車124と一体化せずに独立した単一の大きなリング状の移動規制部材(156)を配置する構成としてもよい。
【0050】
なお、(一体、別体を問わず)このように複数の滑りローラ144の移動を単一の移動規制部材(156)で規制する場合においては、例えば
図5〜
図7に示されるように、外歯歯車124の全ての貫通孔124Aの外接円の近傍から内接円の近傍に至る大きな単一の座繰り部124Fを設けるようにする。尤も、本発明では、遊星歯車に座繰り部を設ける構成は、必ずしも必須ではない。
【0051】
また、図示はしないが、例えば、この種の遊星歯車装置にあっては、キャリヤ(フランジ部材)が外歯歯車(遊星歯車)の軸方向片側のみに配置され、内ピン(ピン部材)が片持ち状態で一体的にキャリヤから突出されている構成が公知であり、本発明は、このような偏心揺動型の遊星歯車装置にも適用可能である。ピン部材がフランジ部材から片持ち状態で突出形成されているような構成とされている場合には、例えば滑りローラ(摺動促進部材)を、径方向内側に突出した「鍔付き」で構成し、該鍔の部分をピン部材の先端面に当接させるようにすると、当該「鍔」を移動規制部材として機能させることができ、滑りローラがアール部の終端側へ移動するのを規制することができる。
【0052】
要するならば、本発明は、ピン部材がフランジ部材に両持ち状態で支持されているような遊星歯車装置にも、片持ち状態で支持されているような遊星歯車装置にも適用可能である。また、移動規制部材は、摺動促進部材の内ピンの根元側(フランジ部材側)または先端側のいずれの側に配置されていてもよく、また、独立した部材であっても、外歯歯車や摺動促進部材等の従来存在する部材と一体化されたものであってもよく、さらには、移動規制部材は、各摺動促進部材を同時に規制する単一の摺動促進部材であっても、また各摺動促進部材に対して個々に設けられたものであってもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、摺動促進部材として、円筒状の滑りローラが採用されていたが、本発明に係る摺動促進部材は、これに限定されるものではなく、例えばニードルやころのような転動体で構成されるものであってもよい。ニードルやころのような転動体で摺動促進部材を構成する場合、本発明でいう「摺動促進部材のフランジ部材側端部の最内径」には、該ニードルやころの最内接円径が対応することになる。
【0054】
また、上記実施形態においては、いずれも、本発明を偏心揺動型の遊星歯車装置に適用していたが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、単純遊星歯車装置が、遊星歯車と、該遊星歯車の軸方向側部に配置されたキャリヤ(フランジ部材)と、該キャリヤに一体的に形成され遊星歯車に設けられた貫通孔を貫通すると共に遊星歯車を回転自在に支持する遊星ピン(ピン部材)と、該遊星ピンと遊星歯車との間に配置されたニードル軸受やころ軸受(摺動促進部材)を有するような構成とされていた場合には、上記実施形態と同様の構成で本発明を単純遊星歯車装置にも適用することができる。