特許第5938396号(P5938396)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海染工株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938396
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】アラミド繊維の染色方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 3/24 20060101AFI20160609BHJP
   D06P 1/22 20060101ALI20160609BHJP
   D06P 1/30 20060101ALI20160609BHJP
   D06P 5/02 20060101ALI20160609BHJP
   D06P 5/04 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   D06P3/24 Z
   D06P1/22
   D06P1/30 A
   D06P5/02 101
   D06P5/04
【請求項の数】3
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-507727(P2013-507727)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058390
(87)【国際公開番号】WO2012133662
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2011-74295(P2011-74295)
(32)【優先日】2011年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-104846(P2011-104846)
(32)【優先日】2011年5月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219794
【氏名又は名称】東海染工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117503
【弁理士】
【氏名又は名称】間瀬 ▲けい▼一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】大岩 憲博
(72)【発明者】
【氏名】今井 一輝
(72)【発明者】
【氏名】佐山 昇平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 高廣
(72)【発明者】
【氏名】安井 彰
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−133552(JP,A)
【文献】 特開昭62−268876(JP,A)
【文献】 特開平03−045790(JP,A)
【文献】 特開平03−076879(JP,A)
【文献】 特開平09−087979(JP,A)
【文献】 特開2007−262589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00−7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維に建染染料(可溶化建染染料を除く)又は硫化染料から選ばれる水に不溶性の染料を付与する染料付与工程と、
極性溶媒を含有する処理液で前記アラミド繊維を処理する溶媒処理工程と、
この溶媒処理工程後に、必要により前記アラミド繊維を熱処理する熱処理工程とを有しており、
前記各工程において、前記建染染料或いは前記硫化染料を還元・水溶化する薬剤、又は、操作を使用することなく、
下記に示す4つの染色操作、
染色操作1:染料付与工程→溶媒処理工程、
染色操作2:溶媒処理工程→染料付与工程、
染色操作3:染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程、
染色操作4:溶媒処理工程→熱処理工程→染料付与工程、
のうち少なくとも1つの染色操作を1回以上備えており、
前記極性溶媒は、溶解度パラメーター(δ)の値が18〜32(MPa)1/2の範囲内にあることを特徴とするアラミド繊維の染色方法。
【請求項2】
アラミド繊維に建染染料(可溶化建染染料を除く)又は硫化染料から選ばれる水に不溶性の染料を付与する染料付与工程と、
極性溶媒を含有する処理液で前記アラミド繊維を処理する溶媒処理工程と、
この溶媒処理工程後に、必要により前記アラミド繊維を熱処理する熱処理工程とを有しており、
前記各工程において、前記建染染料或いは前記硫化染料を還元・水溶化する薬剤、又は、操作を使用することなく、
下記に示す4つの染色操作、
染色操作1:染料付与工程→溶媒処理工程、
染色操作2:溶媒処理工程→染料付与工程、
染色操作3:染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程、
染色操作4:溶媒処理工程→熱処理工程→染料付与工程、
のうち少なくとも1つの染色操作を1回以上備えており、
前記極性溶媒は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、硫酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とするアラミド繊維の染色方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアラミド繊維の染色方法と、
当該染色方法の前に行う前染色工程又は後に行う後染色工程とを有しており、
前記前染色工程又は前記後染色工程において、前記アラミド繊維が建染染料及び硫化染料以外の染料で染色されてなることを特徴とするアラミド繊維の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維の染色方法、特に、アラミド繊維を実用的な染色濃度に染色することのできる染色方法に関するものである
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド繊維は、アラミド繊維ともいわれ、高強力、高弾性率を有すると共に、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性などに優れており、産業用繊維として広い用途に使用されている。このアラミド繊維は、芳香族環にアミド結合が付く位置によってパラ系アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維など)、パラ系共重合アラミド繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4´−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合繊維など)、及び、メタ系アラミド繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維又はこれを主成分とする共重合繊維など)の3種類に大別される。
【0003】
パラ系アラミド繊維は、特に強力、弾性率に優れ、防弾チョッキなどの防護衣、ブレーキパッドなどの摩耗材、光ファイバーの補強材、或いは、特に高い強度が求められるロープやネットなどの産業用資材として広く使用されている。また、パラ系共重合アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維と同様の用途に使用されるが、化学安定性、耐疲労性が必要な用途に特徴を発揮する。例えば、ゴム補強材、ロープ、土木建築用途に広く使用されている。一方、メタ系アラミド繊維は、特に耐熱性、難燃性、耐薬品性などに優れ、消防服などの各種防護作業服として広く使用されている。
【0004】
これらのアラミド繊維は、剛直な分子構造と高い結晶性を有しており、一般の繊維と同様の染色方法では実用的な染色濃度を得ることができず、また、得られた染色物の染色堅牢度が実用的に十分なものといえない。そこで、実際には、主にメタ系アラミド繊維において、原着繊維(紡糸工程前の段階で着色剤を添加して作られる繊維)として製造し使用されている。このような原着繊維は、色相が限られるため、各種防護作業服或いはアラミド繊維の新たな用途展開に要求される豊富な色相に十分に対応できないという問題があった。更に、パラ系アラミド繊維やパラ系共重合アラミド繊維においては、原着繊維も含めブラックやネイビーブルーなどの実用的な染色濃度を有する繊維は未だ工業的に生産されていない。
【0005】
一方、アラミド繊維を染色するための特殊な染色方法が検討されている。例えば、ベンズアルデヒド、アセトフェノン、ベンジルアルコールなどのキャリヤを併用した高温高圧染色方法、或いは、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノンなどの極性溶媒中で高温染色する溶剤染色法などである。しかし、これらのキャリヤ或いは極性溶媒を高温で使用する染色方法は、主にメタ系アラミド繊維を染色する方法であり、パラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維を染色するには不十分であった。更に、メタ系アラミド繊維の染色においても、これらのキャリヤ或いは極性溶媒を高温で使用する染色方法では、染色物の染色ムラ、収縮による寸法変化や物性低下などの問題を有している。
【0006】
そこで、現在においても種々の新規染色方法が検討されている。例えば、下記特許文献1には、アラミド繊維を濃硫酸で前処理し、中和後、乾燥することなく所定の水分率を維持したまま染色浴に投入し、分散染料或いはカチオン染料などで染色する染色方法が提案されている。また、下記特許文献2には、高温で安定な一部の建染染料を使用して300〜400℃という極めて高い温度条件下で染色する染色方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−37882号公報
【特許文献2】特開2010−59556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1の染色方法は、豊富な色相の染色物を得ることができる。しかし、上記特許文献1の染色方法は、使用する染料が分散染料或いはカチオン染料などであり、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が悪いという問題があった。これに対して、上記特許文献2の染色方法は、耐光堅牢度の良好な建染染料を使用するものであるが、染色温度が非常に高温でこれに使用し得る染料が限られ、豊富な色相に十分に対応できないという問題があった。
【0009】
また、上記特許文献2の染色方法は、特殊な装置を必要とすると共にエネルギーコストが大きくなるという問題があった。更に、上記特許文献2の染色方法は、パラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維を実用的な染色濃度に染色するには未だ不十分であった。一方、上記特許文献2の染色方法をメタ系アラミド繊維に適用した場合、そのガラス転移点を大きく超える温度で処理するため、繊維の物性が大きく低下するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維のいずれにも適用できる染色方法によるものであって、アラミド繊維の新たな用途展開に要求される実用的な染色濃度に染色され、また、染色後のアラミド繊維に染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることがなく、更に、染色された染色物の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好なアラミド繊維の染色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、アラミド繊維を染色するにあたり、耐光堅牢度の良好な建染染料又は硫化染料を採用し、これらの染料をアラミド繊維上に付与する工程と、アラミド繊維を極性溶媒で処理する工程とを組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係るアラミド繊維の染色方法は、請求項1の記載によると、アラミド繊維に建染染料(可溶化建染染料を除く)又は硫化染料から選ばれる水に不溶性の染料を付与する染料付与工程と、
極性溶媒を含有する処理液で前記アラミド繊維を処理する溶媒処理工程と、
この溶媒処理工程後に、必要により前記アラミド繊維を熱処理する熱処理工程とを有しており、
前記各工程において、前記建染染料或いは前記硫化染料を還元・水溶化する薬剤、又は、操作を使用することなく、
下記に示す4つの染色操作、
染色操作1:染料付与工程→溶媒処理工程、
染色操作2:溶媒処理工程→染料付与工程、
染色操作3:染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程、
染色操作4:溶媒処理工程→熱処理工程→染料付与工程、
のうち少なくとも1つの染色操作を1回以上備えており、
前記極性溶媒は、溶解度パラメーター(δ)の値が18〜32(MPa)1/2の範囲内にあることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るアラミド繊維の染色方法は、請求項の記載によると、アラミド繊維に建染染料(可溶化建染染料を除く)又は硫化染料から選ばれる水に不溶性の染料を付与する染料付与工程と、
極性溶媒を含有する処理液で前記アラミド繊維を処理する溶媒処理工程と、
この溶媒処理工程後に、必要により前記アラミド繊維を熱処理する熱処理工程とを有しており、
前記各工程において、前記建染染料或いは前記硫化染料を還元・水溶化する薬剤、又は、操作を使用することなく、
下記に示す4つの染色操作、
染色操作1:染料付与工程→溶媒処理工程、
染色操作2:溶媒処理工程→染料付与工程、
染色操作3:染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程、
染色操作4:溶媒処理工程→熱処理工程→染料付与工程、
のうち少なくとも1つの染色操作を1回以上備えており、
前記極性溶媒は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、硫酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るアラミド繊維の染色方法は、請求項の記載によると、請求項1又は2に記載のアラミド繊維の染色方法と、
当該染色方法の前に行う前染色工程又は後に行う後染色工程とを有しており、
前記前染色工程又は前記後染色工程において、前記アラミド繊維が建染染料及び硫化染料以外の染料で染色されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維のいずれにも適用でき、これらのアラミド繊維を実用的な染色濃度に染色することができる。また、本発明によれば、染色後のアラミド繊維に染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることがない。更に、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好な建染染料又は硫化染料を使用するので、染色されたアラミド繊維の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好となる。
【0022】
また、使用する建染染料又は硫化染料の使用濃度と色相を変化させることにより、淡色から濃色まで、且つ、豊富な色相の染色物を得ることができる。特に、本発明によれば、これまで困難とされたパラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維をブラックやネイビーブルーなどの極濃色に染色することができる。
【0023】
ここで、ブラックやネイビーブルーなどの極濃色を評価する一つの方法として、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS Z8729において採用されている、L***表色系における明度(L*値)がある。このL*値は、100(白)〜0(黒)の範囲で表され、L*値が小さいほど濃色であると評価できる。
【0024】
例えば、市販のメタ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維の原着繊維においては、ブラックやネイビーブルーなどの極濃色でL*値=25〜27の値が得られている。従って、本発明においてもL*値が38以下で濃色と判断でき、更に、L*値が30以下で極濃色と判断できる。本発明においては、原着法でなく染色法によってメタ系アラミド繊維だけでなく、パラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維を濃色或いは極濃色に染色することができる。
【0025】
また、本発明に係るアラミド繊維の染色方法の前後工程として、建染染料及び硫化染料以外の染料による前染色工程、又は、後染色工程を行うことができる。これらの染色工程を行うことにより、アラミド繊維自体の表面の毛羽がより十分に染色され、染色品位と染色濃度が更に向上する。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維である場合には、これらの染色工程を行うことにより、アラミド繊維と当該他の繊維との色相を統一することができ、染色物の染色品位と染色濃度が更に向上する。
【0026】
よって、本発明によれば、染色された染色物の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好であり、色相が豊富で実用的な染色濃度を有するアラミド繊維の染色方法を提供することができる。このことは、アラミド繊維の新たな用途展開に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る染色方法で染色するアラミド繊維には、例えば、パラ系アラミド繊維として、帝人株式会社のトワロン(登録商標)、デュポン株式会社のケブラー(登録商標)があり、パラ系共重合アラミド繊維として、帝人株式会社のテクノーラ(登録商標)がある。一方、メタ系アラミド繊維として、帝人株式会社のコーネックス(登録商標)、デュポン株式会社のノーメックス(登録商標)がある。
【0028】
本発明において、アラミド繊維の形態はどのようなものであってもよく、フィラメントファイバー、ステープルファイバーなどの繊維の状態であってもよく、或いは、フィラメント糸、紡績糸、織物、編物、不織布、ロープ、網などの繊維構造物の状態であってもよい。また、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維或いはメタ系アラミド繊維のいずれか単独であってもよく、又は、これらの混合繊維の状態であってもよい。更に、アラミド繊維と他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維の状態であってもよい。
【0029】
本発明においては、アラミド繊維を建染染料(可溶化建染染料を除く)又は硫化染料から選ばれる水に不溶性の染料で染色する。これらの建染染料又は硫化染料は、いずれも染色堅牢度が良好な染料であって、特に耐光堅牢度に優れている。
【0030】
ここで、建染染料とは、通常は綿などの染色に使用され、本来は水に不溶性の染料であるが、亜二チオン酸ナトリウムなどの還元剤により還元されてバット酸或いはロイコ塩の形で繊維に吸着し、その後、酸化されて再び水に不溶性の染料として繊維に染着する。
【0031】
一方、硫化染料とは、分子中に硫黄原子を含む染料であって、通常は綿などの染色に使用される。この硫化染料も本来は水に不溶性の染料であるが、硫化ナトリウムなどの還元剤により還元されて水溶性となり繊維に吸着し、その後、酸化されて再び水に不溶性の染料として繊維に染着する。
【0032】
しかし、本発明においては、アラミド繊維に対して、建染染料又は硫化染料を還元せずに水に不溶性の染料のまま染色する。建染染料又は硫化染料は、そのままの状態では、アラミド繊維に対して染着する程の強い親和性を有していない。また、建染染料又は硫化染料を還元して水溶性にすると更にアラミド繊維に対する親和性が低下する。
【0033】
しかし、本発明においては、アラミド繊維に対する極性溶媒による溶媒処理と組み合わせることにより、建染染料又は硫化染料のアラミド繊維への染着性が発現するものと考えられる。更に、溶媒処理後に必要により熱処理を行うと、建染染料又は硫化染料のアラミド繊維への染着性がより向上する場合がある。但し、現時点においては、本発明における建染染料又は硫化染料のアラミド繊維に対する染着機構は明確ではない。
【0034】
以下、本発明に係るアラミド繊維の染色方法について各実施形態により説明する。
(1)第1実施形態
本第1実施形態に係る染色方法は、アラミド繊維に建染染料又は硫化染料を付与する染料付与工程と、極性溶媒を含有する処理液でアラミド繊維を処理する溶媒処理工程とを有している。これら染料付与工程と溶媒処理工程との順序は、特に限定するものではないが、染料付与工程後に溶媒処理工程を行うことが好ましい。本第1実施形態においては、まず、アラミド繊維に建染染料又は硫化染料を非還元状態で付与する染料付与工程を行い、続いて、建染染料又は硫化染料が付与されたアラミド繊維に対して極性溶媒を含有する処理液で処理する溶媒処理工程を行うこととする。
【0035】
本第1実施形態において、これら一連の工程を総称して「染色操作1」という。なお、この染色操作1(染料付与工程→溶媒処理工程)は、1回のみ行うようにしてもよく、或いは、必要により複数回繰り返すようにしてもよい。この染色操作を複数回繰り返すことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。
【0036】
A.染料付与工程
この染料付与工程で使用される建染染料は、通常、綿などの染色に使用される染料を使用することができる。また、本発明においては、染色液に分散させた状態で平均分散粒子径が数μm以下、好ましくは、1μm以下のスーパーファイン染料を使用することがよい。また、これらの建染染料の中でも特に、C.I.Vat Yellow 33、C.I.Vat Brown 1、C.I.Vat Red 1、C.I.Vat Violet 9、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6、C.I.Vat Blue 20、C.I.Vat Green 1、C.I.Vat Green 3、C.I.Vat Black 8、C.I.Vat Black 25などの各染料を使用することがより好ましい。
【0037】
一方、この染料付与工程で使用される硫化染料は、通常、綿などの染色に使用される染料を使用することができる。また、これらの硫化染料の中でも特に、C.I.Sulphur Yellow 16、C.I.Sulphur Orange 1、C.I.Sulphur Red 6、C.I.Sulphur Blue 7、C.I.Sulphur Blue 15、C.I.Sulphur Black 11などの各染料を使用することがより好ましい。
【0038】
アラミド繊維への染料付与の段階においては、建染染料又は硫化染料は還元された状態になく、水に対して不溶性の染料である。従って、染料付与工程におけるアラミド繊維への染料の付与には、建染染料又は硫化染料を水中に分散した染色液を使用する。この染色液には、建染染料又は硫化染料が非還元の分散状態で含有されており、必要によりマイグレーション防止剤を併用する。この染色液の付与には、どのような方法を採用してもよく、単なる浸漬、浸漬と搾液、或いは、スプレー、インクジェットなどによる付与であってもよい。
【0039】
染色液を付与されたアラミド繊維は、その後、必要により乾燥される。このアラミド繊維の乾燥は、どのような温度で行ってもよいが、通常、80℃〜120℃程度の温度で乾燥すればよい。また、アラミド繊維を乾燥してから更に高温で熱処理(後述の熱処理工程とは異なる処理)を行うようにしてもよい。又は、染色液を付与されたアラミド繊維を120℃〜200℃程度の温度或いはそれ以上の高温で乾燥を兼ねた熱処理を行うようにしてもよい。
【0040】
この乾燥温度が80℃より低い場合には、アラミド繊維の乾燥に時間を要する。一方、処理温度が200℃より高く、特に280℃より高い場合には、アラミド繊維の物性低下が大きく生じる場合がある。特に、メタ系アラミド繊維の場合には、そのガラス転移点を越える温度での熱処理は物性低下の原因となる。また、極度に高温で処理すると建染染料又は硫化染料が分解することがあり、色相が大きく変化する。
【0041】
一方、乾燥時間は、アラミド繊維の種類や形態、乾燥温度により適宜選定すればよく、特に問題とはならない。通常、乾燥時間は、30秒〜30分程度の時間でよい。例えば、アラミド繊維が布帛である場合には、105℃の乾燥温度の場合に、1分〜10分程度の乾燥時間が好ましい。
【0042】
この乾燥を終えた段階では、アラミド繊維上に建染染料又は硫化染料が均一に付与された状態にある。但し、アラミド繊維は建染染料又は硫化染料により完全に染色された状態にはない。しかし、この段階で建染染料又は硫化染料は、染着には至らないまでも、ある程度の親和性をもってアラミド繊維に付着している。ここで、アラミド繊維に建染染料又は硫化染料が付着する理由は明確ではないが、これらの染料は、非還元の水不溶性の状態において、分子間力などの物理作用でアラミド繊維の表面に付着するものと考えられる。
【0043】
ここで、アラミド繊維が布帛状である場合には、その長手方向に布帛を走行させながら一連の処理を行うことができる。この場合には、走行するアラミド繊維布帛は、まず、染色液を充填した浴中に浸漬される。続いてマングルなどの搾液手段により、このアラミド繊維布帛から余剰の染色液を搾液する。このようにして、所定量の染色液が均一に付与されたアラミド繊維布帛を得る。次に、搾液後のアラミド繊維布帛は、走行しながらピンテンタなどの熱処理装置に導入されて乾燥される。
【0044】
B.溶媒処理工程
染料付与工程後のアラミド繊維は、洗浄することなく続く溶媒処理工程に投入される。この溶媒処理工程においては、アラミド繊維が極性溶媒で処理される。本発明においては、極性溶媒を広く解釈し、溶媒分子構造中に極性の官能基を有する物質をいうものとする。例えば、極性溶媒のうち非プロトン性極性溶媒としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトフェノン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、N−ブチルフタルイミド、N−イソプロピルフタルアミド、N-メチルホルムアニリドなどを挙げることができる。これらの非プロトン性極性溶媒は、単独で使用してもよく、或いは、2種以上配合して、又は、後述のプロトン性極性溶媒と配合して使用するようにしてもよい。これらの非プロトン性極性溶媒の中で、アラミド繊維の収縮や物性低下を起こしにくく、且つ、建染染料又は硫化染料の染着に特に有効な溶媒としては、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0045】
また、極性溶媒のうちプロトン性極性溶媒としては、硫酸、ギ酸、乳酸、マレイン酸、シュウ酸などのプロトン酸類、1−プロパノール、1−オクタノール、ベンジルアルコール、DL−β−エチルフェネチルアルコール、2−エトキシベンジルアルコール、3−クロロベンジルアルコール、2,5−ジメチルベンジルアルコール、2−ニトロベンジルアルコール、p−イソプロピルベンジルアルコール、2−メチルフェネチルアルコール、3−メチルフェネチルアルコール、4−メチルフェネチルアルコール、2−メトキシベンジルアルコール、3−ヨードベンジルアルコール、ケイ皮アルコール、p−アニシルアルコール、ベンズヒドロール、2−(4−クロロフェノキシ)エタノール、2−(4−クロロフェノキシエトキシ)エタノール、2−(ジクロロフェノキシ)エタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、PEG200、PEG400、PEG600、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、更に、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、セロソルブ、n−ブチルセロソルブ、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのグリコール類のモノエーテル或いはモノエステルなどを挙げることができる。これらのプロトン性極性溶媒は、単独で使用してもよく、或いは、2種以上配合して、又は、上述の非プロトン性極性溶媒と配合して使用するようにしてもよい。これらのプロトン性極性溶媒の中で、アラミド繊維の収縮や物性低下を起こしにくく、且つ、建染染料又は硫化染料の染着に特に有効な溶媒としては、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、硫酸、ギ酸、乳酸、シュウ酸が好ましい。
【0046】
また、本発明に使用される極性溶媒の極性を表す定量的な指標として、溶解度パラメーター(δ)を使用することができる。本発明においては、溶解度パラメーターの値が、δ=18〜32(MPa)1/2の範囲内にある極性溶媒を使用することが好ましい。更に、溶解度パラメーターの値が、δ=19〜28(MPa)1/2の範囲内にある極性溶媒を使用することがより好ましい。ここで、例えば、パラ系アラミド繊維の溶解度パラメーターの値は、δ=23(MPa)1/2であるとされている(J. E. Mark, Physical Properties of Polymers Handbook. New York: Woodbury, 1996.)。従って、極性溶媒の溶解度パラメーターの値が上記範囲にあり、アラミド繊維の溶解度パラメーターの値に近いことにより、アラミド繊維への極性溶媒の作用が生じるものと思われる。このことにより、建染染料又は硫化染料のアラミド繊維への染着性が向上し、より実用的な染色濃度を有するアラミド繊維を得ることができる。
【0047】
これらの極性溶媒は、上述のように単独で使用してもよく、或いは、2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。また、溶媒処理に使用する極性溶媒の濃度は、処理するアラミド繊維の種類、形状、及び処理温度によって適宜選定すればよいが、通常、40重量%〜100重量%含有することが好ましく、更に、50重量%〜100重量%含有することがより好ましい。但し、シュウ酸は、通常、結晶水を有する固体であり、その溶解度も小さい。そこで、シュウ酸に関しては、10重量%程度の水溶液として使用することが好ましい。
【0048】
一方、パラ系アラミド繊維の製造段階でも使用される硫酸に関しては、その使用濃度をより狭く設定する必要がある。本溶媒処理工程においては、70重量%〜90重量%濃度の硫酸水溶液を使用することが好ましい。更に、75重量%〜85重量%濃度の硫酸水溶液を使用することがより好ましい。また、アラミド繊維がメタ系アラミド繊維を主体とする場合には、75重量%〜80重量%濃度の硫酸水溶液濃度を使用することが更に好ましい。
【0049】
極性溶媒の濃度が上述の範囲にある場合には、染色濃度が比較的安定した範囲内となり、極性溶媒の濃度が若干変動した場合にも染色濃度が大きく変化することが少ない。よって、極性溶媒の濃度が上述の範囲にあることで、安定した工業生産が可能となる。
【0050】
ここで、極性溶媒の希釈剤は、使用する極性溶媒と相溶性のある溶媒であればどのようなものを使用してもよいが、一般には水を使用する。ある種の極性溶媒、例えば、N−メチルピロリドンなどの場合には、ある程度の水分を混合することにより、より濃色の染色物を得ることができる。一方、極性溶媒の濃度が上述の範囲より低くなり溶媒処理液中の水分量が増加すると、染料付与工程でアラミド繊維に付着した建染染料又は硫化染料が溶媒処理液中に脱落する場合があり好ましくない。
【0051】
極性溶媒の処理温度は、処理するアラミド繊維の種類、形状及び処理時間によって適宜選定すればよいが、通常、0℃〜70℃の温度で処理される。また、10℃〜60℃の温度であることが好ましい。但し、硫酸を使用する場合には、硫酸水溶液の温度は、0℃以上50℃以下の温度であればよく、更に、0℃以上30℃以下の温度であることがより好ましい。
【0052】
極性溶媒の温度が上述の範囲にある場合には、染色濃度が比較的安定した範囲内となり、極性溶媒の温度が若干変動した場合にも染色濃度が大きく変化することが少ない。よって、極性溶媒の温度が上述の範囲にあることで、安定した工業生産が可能となる。一方、極性溶媒の温度が上述の範囲より高い場合には、アラミド繊維の物性低下や極端な収縮が生じることがある。また、極性溶媒の温度が若干変動することにより染色濃度が大きく変化することがある。これは、高温の極性溶媒がアラミド繊維の分子構造に大きな変化をもたらすためと考えられる。
【0053】
また、溶媒処理の処理時間は、極性溶媒の濃度と温度によって適宜選定され、通常、0.1秒〜30分程度の時間で処理される。更に、溶媒処理の処理時間は、1秒〜5分程度の時間であることが好ましい。溶媒処理の処理時間は、1秒程度の時間であっても溶媒処理の効果は維持される。このように、溶媒処理の処理時間が1秒〜30分程度の時間である場合には、処理時間が若干変動した場合にも染色濃度が大きく変化することが少なく、実用的な染色濃度に染色することができる。
【0054】
このように、溶媒処理の処理時間は所定の範囲内で制御されることが好ましい。従って、極性溶媒で処理されたアラミド繊維は、速やかに洗浄されることが好ましい。また、硫酸で処理する場合には、速やかに中和洗浄されることが好ましい。ここで、アラミド繊維の洗浄は、水洗或いは湯洗を行えばよいが、アラミド繊維の表面に付着した未染着の建染染料又は硫化染料を除去するために還元洗浄を行うようにしてもよい。
【0055】
ここで、アラミド繊維が布帛状である場合には、その長手方向に走行させながら溶媒処理を行うことができる。この場合には、走行するアラミド繊維布帛は、まず、極性溶媒を含有した処理液を充填した浴中に浸漬される。続いてマングルなどの搾液手段により、このアラミド繊維布帛から余剰の処理液を搾液する。次に、搾液後のアラミド繊維布帛は、走行しながら連続洗浄機に導入され、洗浄、中和洗浄或いは還元洗浄される。これら一連の処理が連続して行われる場合には、浸漬から洗浄、中和洗浄或いは還元洗浄までの時間を安定に制御することができる。このことにより、浸漬処理の処理時間を好ましいタイミングで維持し均一な溶媒処理を行うことができる。
【0056】
なお、これらの溶媒処理の作用については明確ではないが、上述の濃度の極性溶媒でアラミド繊維を処理することにより、剛直な分子構造と高い結晶性を有するアラミド繊維の分子間結合が部分的に緩み、微細な空隙が多く生じることが考えられる。一方、これらの極性溶媒が染料分子に作用することも考えられる。このようにして、染料付与工程で繊維表面に付着した建染染料又は硫化染料は、溶媒処理工程によりアラミド繊維の微細な空隙に強固に染着するものと考えられる。
【0057】
本第1実施形態においては、上述したように、特に耐光堅牢度が良好な建染染料又は硫化染料を使用する。このようにして、一連の染色操作1(染料付与工程→溶媒処理工程)を経ることにより、実用的な染色濃度を有し、且つ、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好なアラミド繊維の染色物を得ることができる。特に、本発明に係る染色方法は、従来の染色方法にない特有の染色方法であり、建染染料又は硫化染料の本来の染着機構である還元による吸着という手法を用いることがない。
【0058】
また、上述の染色操作1(染料付与工程→溶媒処理工程)を複数回繰り返すことにより、アラミド繊維の染色濃度を向上させることができる。すなわち、上述の方法による1回の染色操作1で染色されたアラミド繊維に対して、再度、2回目の染色操作1を行うことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。更に、同様の染色操作1を再度繰り返すことにより、染色濃度を更に向上させることができる。このようにして濃色に染色した染色物の染色堅牢度は、良好な状態を維持することができる。
(2)第2実施形態
本第2実施形態に係る染色方法は、アラミド繊維に建染染料又は硫化染料を付与する染料付与工程と、極性溶媒を含有する処理液でアラミド繊維を処理する溶媒処理工程と、溶媒処理工程後のアラミド繊維を熱処理する熱処理工程とを有している。本第2実施形態において、これら一連の工程を総称して「染色操作3」という。なお、この染色操作3(染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程)は、1回のみ行うようにしてもよく、或いは、必要により複数回繰り返すようにしてもよい。この染色操作を複数回繰り返すことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。
【0059】
A.染料付与工程
本第2実施形態における染料付与工程は、上記第1実施形態における染料付与工程と同様の操作を行う。
【0060】
B.溶媒処理工程
本第2実施形態における溶媒処理工程は、上記第1実施形態における溶媒処理工程と同様の操作を行う。但し、本第2実施形態においては、溶媒処理後のアラミド繊維は、洗浄、中和洗浄或いは還元洗浄されることなく、続く熱処理工程に導入される。
【0061】
C.熱処理工程
上述の溶媒処理工程後のアラミド繊維においては、建染染料又は硫化染料は既に染着している。ここで、熱処理を行うことにより、アラミド繊維に対する建染染料又は硫化染料の染着が更に進行し染色物がより堅牢となると考えられる。但し、極性溶媒として硫酸を使用した場合には、繊維強度が大きく低下するので熱処理を行うことができない。
【0062】
この熱処理は、乾熱処理であっても湿熱処理であってもよいが、通常、乾熱処理が好ましい。この熱処理は、50℃以上200℃以下の温度で行うことが好ましい。熱処理工程においては、アラミド繊維に極性溶媒が付与された状態で処理されるため、200℃より高い場合には、アラミド繊維の物性低下が生じることが考えられ好ましくない。また、極度に高温で処理すると建染染料又は硫化染料が分解することがあり、色相が大きく変化する。
【0063】
一方、熱処理の処理時間は、アラミド繊維の種類や形態、使用する建染染料又は硫化染料の種類などとの関係で適宜選定すればよく、特に問題とはならないが、通常、30秒〜30分程度の時間で行われる。更に、熱処理の処理時間は、30秒〜5分程度の時間であることが好ましい。熱処理の処理時間は、30秒程度の時間であっても熱処理の効果は維持される。このように、熱処理の処理時間が30秒〜30分程度の時間である場合には、処理時間が若干変動した場合にも染色濃度が大きく変化することが少なく、実用的な染色濃度に染色することができる。
【0064】
ここで、アラミド繊維が布帛状である場合には、上述の溶媒処理工程後のアラミド繊維布帛を走行させながら連続熱処理装置に導入して熱処理するようにしてもよい。上述の溶媒処理工程から熱処理工程に至る一連の処理が連続して行われる場合には、溶媒浸漬から熱処理までの処理時間を安定に制御することができ、溶媒処理と熱処理の処理時間を好ましいタイミングで維持し、均一な溶媒処理と熱処理を行うことができる。
【0065】
ここで、これらの溶媒処理と熱処理とを組み合わせたときの作用については明確ではないが、上述の濃度の極性溶媒でアラミド繊維を処理し、且つ、上述の温度で熱処理することにより、剛直な分子構造と高い結晶性を有するアラミド繊維の分子間結合が溶媒処理単独のときより更に緩み、微細な空隙がより多く生じることが考えられる。一方、極性溶媒の染料分子への作用が熱処理により増大することも考えられる。このようにして、溶媒処理工程でアラミド繊維に染着した建染染料又は硫化染料は、溶媒処理工程後の熱処理工程によりアラミド繊維の微細な空隙に更に強固に染着するものと考えられる。
【0066】
次に、熱処理工程後のアラミド繊維は、残留する極性溶媒を除去するために洗浄される。この洗浄としては、水洗或いは湯洗を行えばよいが、アラミド繊維の表面に付着した未染着の建染染料又は硫化染料を除去するために還元洗浄を行うようにしてもよい。
【0067】
本第2実施形態においては、上述したように、特に耐光堅牢度が良好な建染染料又は硫化染料を使用する。このようにして、一連の染色操作3(染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程)を経ることにより、実用的な染色濃度を有し、且つ、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好なアラミド繊維の染色物を得ることができる。特に、本発明に係る染色方法は、従来の染色方法にない特有の染色方法であり、建染染料又は硫化染料の本来の染着機構である還元による吸着という手法を用いることがない。
【0068】
また、上述の染色操作3(染料付与工程→溶媒処理工程→熱処理工程)を複数回繰り返すことにより、アラミド繊維の染色濃度を向上させることができる。すなわち、上述の方法による1回の染色操作3で染色されたアラミド繊維に対して、再度、2回目の染色操作3を行うことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。更に、同様の染色操作3を再度繰り返すことにより、染色濃度を更に向上させることができる。このようにして濃色に染色した染色物の染色堅牢度は、良好な状態を維持することができる。
(3)第3実施形態
本第3実施形態に係る染色方法は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態において説明した染色操作1又は染色操作3の前に、アラミド繊維を建染染料及び硫化染料以外の染料により染色する前染色工程を有している。なお、前染色工程の後に行う上記染色操作1又は染色操作3は、1回のみ行うようにしてもよく、或いは、必要により複数回繰り返すようにしてもよい。この染色操作1又は染色操作3を複数回繰り返すことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。
【0069】
D1.前染色工程
本第3実施形態に係る染色方法においては、まず、未染色のアラミド繊維に対して前染色工程を行う。この前染色工程においては、建染染料及び硫化染料以外の染料を含有する染色液を使用する。この前染色工程の染色方法は、どのような方法であってもよいが、主として浸染による染色が行われる。この前染色工程で使用する染色液の処方は、使用される染料における通常の染色方法と同様にすればよい。従って、アラミド繊維自体を染色する場合には、アラミド繊維に対する従来の染色方法と同様、キャリヤなどを併用するようにしてもよい。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維であって、これら他の繊維を染色する場合には、当該他の繊維に対する通常の染色方法を行うようにすればよい。
【0070】
この前染色工程でアラミド繊維自体を染色する場合には、使用される染料は、アラミド繊維に対して親和性を有する染料であれば使用することができる。例えば、通常のポリアミド繊維と同様、分散染料、カチオン染料或いは酸性染料などを使用することが好ましい。特に、従来からアラミド繊維用として染色性及び染色堅牢度の面から選定された染料を使用することが好ましい。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維であって、これら他の繊維を染色する場合には、当該他の繊維に適切な染料を使用すればよい。例えば、当該他の繊維がポリエステル繊維である場合には分散染料を使用する。また、当該他の繊維が綿又はレーヨン繊維である場合には、反応染料或いは直接染料などを使用する。
【0071】
アラミド繊維自体を染色する場合には、染料を含有する染色液にアラミド繊維を投入し、この染色液の温度を染色温度まで昇温し、この染色温度に所定時間維持することにより行われる。この染色温度は、アラミド繊維の種類や形態、及び、使用する染料の種類と染色濃度によって調整されるが、通常、80℃〜150℃の温度であればよい。また、100℃〜140℃の温度であることが好ましく、120℃〜135℃の温度であることがより好ましい。100℃を越える温度による染色の場合には、高温高圧染色機を使用する。
【0072】
アラミド繊維自体を染色する場合には、染色温度が80℃より低い場合には、十分な染色濃度を得ることができず、一方、染色温度が、150℃より高い場合には、一般に使用される高温高圧染色機に比べ特殊な仕様の装置が必要となり、また、エネルギーコストも大きくなる。
【0073】
一方、昇温後の染色時間は、染料の種類、染色温度及び染色装置との関係で適宜選定すればよく、例えば、分散染料を使用した135℃の染色温度においては、10分間〜90分間の範囲内が好ましい。また、染色の浴比は、特に限定するものではなく、例えば、1:5〜1:100などの範囲内であってもよい。染色後のアラミド繊維には、通常の方法による洗浄が行われる。また、従来の分散染料による染色工程と同様にして還元洗浄を行うようにしてもよい。
【0074】
本第3実施形態においては、上述の前染色工程を行ったアラミド繊維に対して、続いて下記の染色操作を行う。
【0075】
A.染料付与工程
本第3実施形態における染料付与工程は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態における染料付与工程と同様の操作を行う。
【0076】
B.溶媒処理工程
本第3実施形態における溶媒処理工程は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態における溶媒処理工程と同様の操作を行う。
【0077】
C.熱処理工程
本第3実施形態においては、必要により熱処理工程を行うようにしてもよい。なお、第3実施形態において熱処理工程を行う場合には、上記第2実施形態における熱処理工程と同様の操作を行う。
【0078】
本第3実施形態においては、上述したように、前染色工程を行った後に一連の染色操作1又は染色操作3を経ることにより、実用的な染色濃度を有し、且つ、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好なアラミド繊維の染色物を得ることができる。
【0079】
更に、本第3実施形態においては、上記前染色工程を行うことにより、次のような作用効果を奏することができる。まず、アラミド繊維自体に対しては、例えば、分散染料、カチオン染料或いは酸性染料による前染色工程を行うことにより、アラミド繊維自体の表面の毛羽がより十分に染色され、染色品位と染色濃度が更に向上する。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維である場合には、これら他の繊維を染色可能な染料による前染色工程を行うことにより、アラミド繊維と当該他の繊維との色相を統一することができ、染色物の染色品位と染色濃度が更に向上する。
(4)第4実施形態
本第4実施形態に係る染色方法は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態において説明した染色操作1又は染色操作3の後に、アラミド繊維を建染染料及び硫化染料以外の染料により染色する後染色工程を有している。なお、後染色工程の前に行う上記染色操作1又は染色操作3は、1回のみ行うようにしてもよく、或いは、必要により複数回繰り返すようにしてもよい。この染色操作を複数回繰り返すことにより、より濃色のアラミド繊維を得ることができる。
【0080】
A.染料付与工程
本第4実施形態における染料付与工程は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態における染料付与工程と同様の操作を行う。
【0081】
B.溶媒処理工程
本第4実施形態における溶媒処理工程は、上記第1実施形態又は上記第2実施形態における溶媒処理工程と同様の操作を行う。
【0082】
C.熱処理工程
本第4実施形態においては、必要により熱処理工程を行うようにしてもよい。なお、第4実施形態において熱処理工程を行う場合には、上記第2実施形態における熱処理工程と同様の操作を行う。
【0083】
D2.後染色工程
本第4実施形態における後染色工程は、上記第3実施形態において説明した前染色工程と同様の操作を行う。但し、後染色工程で染色するアラミド繊維は、上記第3実施形態の前染色工程と異なり、上記染色操作1又は上記染色操作3により既に建染染料又は硫化染料で染色されている。
【0084】
本第4実施形態においては、上述したように、一連の染色操作1又は染色操作3を行った後に後染色工程を経ることにより、実用的な染色濃度を有し、且つ、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好なアラミド繊維の染色物を得ることができる。
【0085】
更に、本第4実施形態においては、上記後染色工程を行うことにより、次のような作用効果を奏することができる。まず、アラミド繊維自体に対しては、例えば、分散染料、カチオン染料或いは酸性染料による後染色工程を行うことにより、アラミド繊維自体の表面の毛羽がより十分に染色され、染色品位と染色濃度が更に向上する。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維である場合には、これら他の繊維を染色可能な染料による後染色工程を行うことにより、アラミド繊維と当該他の繊維との色相を統一することができ、染色物の染色品位と染色濃度が更に向上する。
【実施例】
【0086】
以下、上記第1実施形態〜第4実施形態に基づいて、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維、及び、メタ系アラミド繊維のそれぞれに対して、次のような各実施例及び比較例の染色を行った。
【0087】
≪実施例1≫
本実施例1は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド繊維からなる織物(以下「アラミド織物」という)を染色した。本実施例1においては、パラ系アラミド繊維100重量%の20番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付244g/m2の綾織物(以下「パラ系アラミド織物」という)と、パラ系共重合アラミド繊維100重量%の20番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付244g/m2の綾織物(以下「パラ系共重合アラミド織物」という)と、メタ系アラミド繊維100重量%の40番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付200g/m2の綾織物(以下「メタ系アラミド織物」という)とを使用した。これらのアラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0088】
A.染料付与工程
染料付与は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、各アラミド織物に建染染料を含有する染色液をパッド・ニップして建染染料を付与した。このときのピックアップ率は、それぞれ、パラ系アラミド織物61重量%、パラ系共重合アラミド織物58重量%、メタ系アラミド織物67重量%であった。
【0089】
染色液には、建染染料50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリSA−25(荒川化学工業株式会社;以下「タマノリ」という)を併用した。使用した染料は、Mikethren Blue BC super−fine(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Blue 6)であった。
【0090】
乾燥は、試験用ベーキングボックス装置を使用し、染色液付与後の各アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を各アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の各アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)に投入した。
【0091】
B.溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)
極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドンを使用し、濃度60重量%の水溶液として処理した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の各アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は20℃であった。処理はアラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、それぞれ、パラ系アラミド織物59重量%、パラ系共重合アラミド織物59重量%、メタ系アラミド織物62重量%であった。
【0092】
C.熱処理工程
熱処理には試験用ベーキングボックス装置を使用し、溶媒処理後の各アラミド織物に105℃で5分間の乾熱処理を行って建染染料を各アラミド織物に付着した。熱処理後の各アラミド織物は、水洗及び湯洗により残留するN−メチル−2−ピロリドンを除去した後、乾燥した。
【0093】
次に、熱処理工程後の染色された各アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、繊維表面に残存する未染着の建染染料を除去して染色堅牢度を向上させるために行った。還元洗浄の条件は、ポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元剤として亜二チオン酸ナトリウム1g/Lに水酸化ナトリウム1g/Lを併用して80℃で1分間の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するネイビーブルーに染色された実施例1の各アラミド織物を得た。
【0094】
≪比較例1≫
上記実施例1に対して、各アラミド織物に染料付与工程のみを行い溶媒処理工程と熱処理工程を行わないものを比較例1とした。具体的には、上記実施例1と同一の条件で染料付与を行い、建染染料付与後の各アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例1の各アラミド織物を得た。
【0095】
以上のようにして染色した実施例1及び比較例1の染色された各アラミド織物を以下のようにして評価した。
【0096】
染色濃度(トータルK/S値):
染色された各アラミド織物の表面染色濃度をトータルK/S値として表わした。トータルK/S値が大きいほど、アラミド織物が濃色に染まっていることを示す。トータルK/Sとは、波長400nm〜700nmの測定範囲で20nm間隔に測定した16波長のK/S値16個を合計した値である。K/S値は、下記のKubelka−Munk式により、各波長における反射率Rから求められる。ここで、Kは吸光係数、Sは光散乱係数を表す。
【0097】
K/S=(1−R)2/2R
なお、各波長における反射率Rの値は、積分球を搭載した分光光度計UV−3100(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。各アラミド織物に対して、上式により計算して求めたトータルK/S値を表1に示す。
【0098】
明度(L*値):
染色された各アラミド織物の濃色の度合いを上述のL***表色系における明度(L*値)で評価した。L*値は、100(白)〜0(黒)の範囲で表され、L*値が小さいほど濃色であると評価する。なお、L*値は、色彩色差計CR−200(ミノルタカメラ株式会社製)を用いて測定した。求めた各アラミド織物のL*値を表1に示す。
【0099】
染色堅牢度:
上記染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)以外に染色物の基本的評価項目として染色堅牢度を確認した。特にアラミド繊維の染色堅牢度で問題とされる耐光堅牢度(JIS L0842)を評価した。アラミド繊維の耐光堅牢度は、光照射による染料の変退色に加え、繊維自身の黄褐変が重なり評価しづらいことから、次のようにして評価した。各アラミド織物に対してブルースケールの4級照射を行い、その変化を変退色用グレースケールで級判定した。なお、級判定は、1級(不良)から5級(良好)の5段階に加え、各級の中間の評価も行った。例えば、3級と4級の間の評価は、3−4級とした。その評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から分かるように、実施例1においては、各アラミド織物のいずれにおいても、実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)を有しており、また、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表1には示していないが、実施例1の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例1においては、実施例1に比べ各アラミド織物のいずれにおいても、染色濃度、明度及び耐光堅牢度が劣り、特に、メタ系アラミド織物の染色濃度、明度及び耐光堅牢度が不十分なものであった。
【0102】
≪実施例2≫
本実施例2は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例2においては、メタ系アラミド繊維95重量%とパラ系共重合アラミド繊維5重量%を混紡した40番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付160g/m2の綾織物(以下「混紡アラミド織物」という)を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0103】
A.染料付与工程
上記実施例1に対して、使用する染料を下記の硫化染料に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。染色液には、硫化染料50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリを併用した。使用した硫化染料は、Asathio Blue RC200(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 7)であった。
【0104】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、硫化染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)に投入した。
【0105】
B.溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)
本実施例2においては、極性溶媒として、上記実施例1と同じN−メチル−2−ピロリドンを使用したが、濃度を100重量%として処理した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は50℃であった。処理は混紡アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、88重量%であった。
【0106】
C.熱処理工程
熱処理は上記実施例1と同様にして行い、試験用ベーキングボックス装置を使用し、溶媒処理後の混紡アラミド織物に105℃で5分間の乾熱処理を行って硫化染料を混紡アラミド織物に付着した。熱処理後の混紡アラミド織物は、湯洗及び水洗により残留するN−メチル−2−ピロリドンを除去した後乾燥し、実用的な染色濃度を有するネイビーブルーに染色された実施例2の混紡アラミド織物を得た。
【0107】
≪比較例2≫
上記実施例2に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い、溶媒処理工程と熱処理工程を行わないものを比較例2とした。具体的には、上記実施例2と同一の条件で染料付与工程を行い、硫化染料付与後の混紡アラミド織物に対して湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例2の混紡アラミド織物を得た。
【0108】
以上のようにして染色した実施例2及び比較例2の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2から分かるように、実施例2においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例2の混紡アラミド織物は、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表2には示していないが、実施例2の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例2においては、実施例2に比べ染色濃度及び明度がかなり劣り、また、耐光堅牢度も低く実用的な染色物が得られていない。
【0111】
≪実施例3≫
本実施例3は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例3においては、上記実施例1で得られた染色された各アラミド織物に対して、上記実施例1と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例1を染色操作1回として、更に染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0112】
以上のようにして染色した実施例3の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3から分かるように、各アラミド織物において、染色操作1回の実施例1に比べ、実施例3においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L*値)がほぼ30前後或いはそれ以下と小さくなり、極濃色の各アラミド織物を得ることができた。これら極濃色の各アラミド織物は、表3に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表3には示していないが、実施例3の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0115】
≪実施例4≫
本実施例4は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例4においては、上記実施例1と同様の各アラミド織物に対して、上記実施例3と同様にして建染染料による染色操作を複数回繰り返した。但し、使用した建染染料は、Indanthren Brilliant Pink R(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Red 1)であった。具体的には、上記実施例1と同様の染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程を組み合わせた染色操作を行ったものを染色操作1回として、更に同様の染色操作を繰り返して合計2回及び合計3回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0116】
以上のようにして染色した実施例4の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4から分かるように、各アラミド織物において、染色操作1回に比べ、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、濃色の各アラミド織物を得ることができた。しかし、明度(L*値)は38より大きいが、これは使用した染料が「Pink R」であることによる。本実施例4は、鮮やかなレッドを染色する処方であり、濃色のネイビーブルー或いはブラックを目的とする処方ではないからである。一方、各アラミド織物は、表4に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表4には示していないが、実施例4の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0119】
≪実施例5≫
本実施例5は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第4実施形態(建染染料による染色→分散染料による後染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例5においては、上記実施例1で得られた建染染料で染色された各アラミド織物に対して、次に分散染料による後染色工程を行った。
【0120】
D2.分散染料による後染色工程
染色は分散染料による浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用して上記実施例1で得られた建染染料染色後の各アラミド織物を還元洗浄せずに染色した。染色液には、Dianix Blue FBL−E(ダイスタージャパン株式会社製分散染料、C.I.Disperse Blue 56)5%owfを使用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を併用した。
【0121】
染色は、浴比1:100とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後の各アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、還元剤として亜二チオン酸ナトリウム1g/Lに水酸化ナトリウム1g/Lを併用して80℃で1分間の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、極濃色のネイビーブルーに染色された実施例5の各アラミド織物を得た。
【0122】
≪比較例3≫
上記実施例5に対して、各アラミド織物に分散染料による染色のみを行ったものを比較例3とした。具体的には、本発明に係る染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程の染色操作をいずれも行うことなく、上記実施例5と同様の分散染料染色工程のみを行い、その後、実施例5と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例3の各アラミド織物を得た。
【0123】
≪比較例4≫
また、上記実施例5に対して、各アラミド織物に溶媒処理工程、熱処理工程及び分散染料染色工程のみを行ったものを比較例4とした。具体的には、建染染料を付与する染料付与工程を行わずに溶媒処理工程及び熱処理工程のみ行った後、上記実施例5と同様の分散染料染色工程を行い、その後、実施例5と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例4の各アラミド織物を得た。
【0124】
以上のようにして染色した実施例5、比較例3及び比較例4の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5から分かるように、建染染料のみで染色された実施例1に比べ、更に分散染料により染色された実施例5においては、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L*値)が30以下と小さくなり、極濃色の各アラミド織物を得ることができた。この極濃色の各アラミド織物は、表5に示すように、実施例1よりも更に良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例5の各アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表5には示していないが、実施例5の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0127】
一方、比較例3においては、実施例5に比べ各アラミド織物のいずれにおいても染色濃度及び明度が劣っている。また、これらの各アラミド織物は、分散染料のみで染色されており、耐光堅牢度は実施例5及び実施例1に比べ不十分なものであった。また、比較例4においては、溶媒処理の効果で分散染料での染色濃度及び明度が比較例3よりも向上している。しかし、比較例4の各アラミド織物は、実施例5に比べいずれも染色濃度及び明度が劣っている。また、これら比較例4の各アラミド織物は、分散染料のみで染色されており、耐光堅牢度は実施例5に比べ不十分なものであった。
【0128】
≪実施例6≫
本実施例6は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例6においては、上記実施例2と同じ混紡アラミド織物を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0129】
A.染料付与工程
本実施例6においては、上記実施例1と同じ建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」、又は、上記実施例4と同じ建染染料「Indanthren Brilliant Pink R」を使用した。染料付与工程における操作は、上記実施例1と同様に行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。
【0130】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0131】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
硫酸処理は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は77重量%であり、処理温度は20℃であった。浸漬後、マングルで搾液してピックアップ率を156重量%とし、速やかに水洗してから炭酸ナトリウム水溶液で中和し水洗した。硫酸水溶液による浸漬時間は、30秒間であった。溶媒処理工程後の混紡アラミド織物は、十分水洗を行った後乾燥した。
【0132】
次に、硫酸処理後の染色された混紡アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有する実施例6の混紡アラミド織物を得た。
【0133】
≪比較例5≫
上記実施例6に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例5とした。具体的には、上記実施例1と同一の条件で染料付与工程を行い、建染染料付与後の混紡アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例5の混紡アラミド織物を得た。
【0134】
以上のようにして染色した実施例6及び比較例5の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6から分かるように、実施例6においては、建染染料「Blue BC」において実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。一方、実施例6の建染染料「Pink R」においては、上記実施例4と同様に鮮やかなレッドを染色する処方であり、明度(L*値)はそれほど小さな値を示していない。しかし、建染染料「Pink R」においても、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有する混紡アラミド織物が得られている。また、実施例6の混紡アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表6には示していないが、実施例6の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例5においては、実施例6に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0137】
≪実施例7≫
本実施例7は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例7においては、上記実施例6で得られた染色された混紡アラミド織物のうち、建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」で染色された混紡アラミド織物に対して上記実施例6と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例6を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0138】
以上のようにして染色した実施例7の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表7に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
表7から分かるように、染色操作1回の実施例6に比べ、実施例7においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L*値)が25以下と小さくなり、極濃色の混紡アラミド織物を得ることができた。
これら極濃色の混紡アラミド織物は、表7に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表7には示していないが、実施例7の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0141】
≪実施例8≫
本実施例8は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例8においては、実施例6と同じ混紡アラミド織物に対して硫化染料による染色操作を行った。この混紡アラミド織物は、上記実施例6と同様に通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0142】
A.染料付与工程
本実施例8においては、上記実施例6に対して、使用する染料を下記の硫化染料に変更した以外は、上記実施例6と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。染色液には、硫化染料50g/Lを未還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリを併用した。使用した硫化染料は、Asathiosol Yellow S−RR(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.No.不明)、Asathiosol Bordeaux S−3B(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Red 6)、Asathio Blue RC200(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 7)、Asathiosol Indigo Green S−BG(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 15)であった。
【0143】
乾燥は、上記実施例6と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、硫化染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0144】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
本実施例8においては、上記実施例6と同様にして染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は77重量%であり、処理温度は20℃で浸漬時間は30秒間であった。このときのピックアップ率は156重量%であり、上記実施例6と同様にして水洗、中和、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有する実施例8の混紡アラミド織物を得た。
【0145】
≪比較例6≫
上記実施例8に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例6とした。具体的には、上記実施例8と同一の条件で染料付与工程を行い、硫化染料付与後の混紡アラミド織物に対して水洗を行って乾燥し、比較例6の混紡アラミド織物を得た。
【0146】
以上のようにして染色した実施例8及び比較例6の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表8に示す。
【0147】
【表8】
【0148】
表8から分かるように、実施例8においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例8の混紡アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表8には示していないが、実施例8の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例6においては、実施例8に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0149】
≪実施例9≫
本実施例9は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例9においては、パラ系アラミド繊維を主体とするアラミド繊維として、パラ系アラミド繊維100重量%の20番手単糸を経糸と緯糸に使用した目付144g/m2の綾織物(以下「パラ系単糸アラミド織物」という)を使用した。このパラ系単糸アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0150】
本実施例9においては、染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)の操作条件及び使用染料は、上記実施例6と同様にして行った。このとき、染料付与工程でのピックアップ率は61重量%であり、溶媒処理工程でのピックアップ率は126重量%であった。このようにして建染染料による染色操作を行った後、上記実施例1と同様にして還元洗浄を行い、実用的な染色濃度を有する実施例9のパラ系単糸アラミド織物を得た。
【0151】
≪比較例7≫
上記実施例9に対して、パラ系単糸アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例7とした。具体的には、上記実施例9と同一の条件で染料付与工程を行い、建染染料付与後のパラ系単糸アラミド織物に対して、実施例1と同一の条件で還元洗浄を行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例7のパラ系単糸アラミド織物を得た。
【0152】
以上のようにして染色した実施例9及び比較例7の染色されたパラ系単糸アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表9に示す。
【0153】
【表9】
【0154】
表9から分かるように、実施例9においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有するパラ系単糸アラミド織物を得ることができた。また、実施例9のパラ系単糸アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表9には示していないが、実施例9の染色されたパラ系単糸アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例7においては、実施例9に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物は得られていない。
【0155】
≪実施例10≫
本実施例10は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例10においては、上記実施例9で得られた染色されたパラ系単糸アラミド織物のうち、建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」で染色されたパラ系単糸アラミド織物に対して上記実施例9と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例9を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0156】
以上のようにして染色した実施例10の染色されたパラ系単糸アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表10に示す。
【0157】
【表10】
【0158】
表10から分かるように、染色操作1回の実施例9に比べ、実施例10においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、極濃色のアラミド織物を得ることができた。これら極濃色のパラ系単糸アラミド織物は、表10に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表10には示していないが、実施例10の染色されたパラ系単糸アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0159】
≪実施例11≫
本実施例11は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第4実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例11においては、上記実施例6と同じ混紡アラミド織物を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0160】
A.染料付与工程
本実施例11においては、建染染料として、Mikethren Grey M super−fine(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Black 8)60g/Lを使用した以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。
【0161】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0162】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
硫酸処理は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は80重量%であり、処理温度は20℃であった。浸漬後、マングルで搾液してピックアップ率を80重量%とし、速やかに水洗してから炭酸ナトリウム水溶液で中和し水洗した。硫酸水溶液による浸漬時間は、20秒間であった。本実施例11においては、溶媒処理工程(硫酸処理工程)後の混紡アラミド織物を乾燥することなく、続く分散染料による後染色工程に投入した。
【0163】
D2.分散染料による後染色工程
染色は分散染料による浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用して硫酸処理後の混紡アラミド織物を上述のように乾燥せずに染色した。染色液には、Kayalon Polyester Navy Blue NB−E(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)10%owfを使用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を併用した。
【0164】
染色は、浴比1:100とし、130℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後の混紡アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、上記実施例5の後染色工程と同様の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、極濃色のブラックに染色された実施例11の混紡アラミド織物を得た。
【0165】
≪比較例8≫
上記実施例11に対して、未染色の混紡アラミド織物に分散染料による染色工程のみを行ったものを比較例8とした。この比較例8において、分散染料による染色工程における条件は、上記実施例11と同様にして行った。
【0166】
≪比較例9≫
上記実施例11に対して、溶媒処理工程(硫酸処理工程)及び分散染料による染色工程のみを行ったものを比較例9とした。すなわち、比較例9は、硫酸処理を行った混紡アラミド織物を分散染料のみで染色したものである。この比較例9において、硫酸処理及び分散染料による染色の条件は、上記実施例11と同様にして行った。
【0167】
以上のようにして染色した実施例11、比較例8及び比較例9の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表11に示す。
【0168】
【表11】
【0169】
表11から分かるように、実施例11においては、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、極濃色の混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例11の混紡アラミド織物は、良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例11の混紡アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表11には示していないが、実施例11の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例8においては、実施例11に比べ染色濃度が劣り、また、耐光堅牢度が著しく劣っており実用的な染色物を得られていない。また、比較例9においては、十分な染色濃度が得られているが、分散染料のみで染色されているため耐光堅牢度が著しく劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0170】
≪実施例12≫
本実施例12は、ベンジルアルコールを極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例12においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物を使用した。このパラ系アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0171】
A.染料付与工程
本実施例12においては、上記実施例1と同様の操作で下記の建染染料を付与した。このときのピックアップ率は58重量%であった。染色液には、上記実施例11と同じ建染染料「Mikethren Grey M super−fine」50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤として、GERMADYE AM−X(RAON CHEMICAL株式会社製)10g/Lを併用した。
【0172】
乾燥は、上記実施例1と同様の工程で染色液付与後のパラ系アラミド織物を110℃で2分間乾燥し、建染染料をパラ系アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後のパラ系アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(ベンジルアルコール処理工程)に投入した。
【0173】
B.溶媒処理工程(ベンジルアルコール処理工程)
本実施例12においては、極性溶媒として、ベンジルアルコール(99.5%品)を希釈せずに使用した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後のパラ系アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は20℃であった。処理はパラ系アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、61重量%であった。なお、本実施例12においては、溶媒処理後の熱処理を行わず、溶媒処理工程後のパラ系アラミド織物を湯洗及び水洗して残留するベンジルアルコールを除去した後、還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同様にして行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するブラックに染色された実施例12のパラ系アラミド織物を得た。
【0174】
以上のようにして染色した実施例12の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表12に示す。
【0175】
【表12】
【0176】
表12から分かるように、実施例12においては、パラ系アラミド織物は実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)を有しており、また、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表12には示していないが、実施例12の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0177】
≪実施例13≫
本実施例13は、ベンジルアルコールを極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例13においては、上記実施例12で得られた染色されたパラ系アラミド織物に対して上記実施例12と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例12を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程を組み合わせた染色操作を繰り返して合計2回、合計3回及び合計4回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0178】
以上のようにして染色した実施例13の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表13に示す。
【0179】
【表13】
【0180】
表13から分かるように、パラ系アラミド織物において、染色操作1回の実施例12に比べ、実施例13においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。この極濃色のパラ系アラミド織物は、表13に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表13には示していないが、実施例13の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0181】
≪実施例14≫
本実施例14は、4種類の極性溶媒、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸及びシュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例14においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物を使用した。このパラ系アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0182】
A.染料付与工程
本実施例14においては、上記実施例12と同様に建染染料「Mikethren Grey M super−fine」を使用し、上記実施例12と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は58重量%であった。乾燥も、上記実施例12と同様の操作を行った。乾燥後のパラ系アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く各溶媒処理工程に投入した。
【0183】
B.溶媒処理工程
本実施例14においては、トリエチレングリコール(95%品)、ギ酸(98%品)及びDL−乳酸(85%品)は、いずれも希釈せずに使用した。一方、シュウ酸(2水和物)は、水で溶解し10重量%水溶液として使用した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後のパラ系アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は、いずれも20℃であった。処理はパラ系アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときの各極性溶媒のピックアップ率は、それぞれ、トリエチレングリコール75重量%、ギ酸71重量%、DL−乳酸81重量%、シュウ酸水溶液75重量%であった。
【0184】
C.熱処理工程
熱処理には試験用ベーキングボックス装置を使用し、各溶媒処理後のパラ系アラミド織物に110℃で2分間の乾熱処理を行って建染染料をパラ系アラミド織物に付着した。熱処理後のパラ系アラミド織物は、湯洗及び水洗により残留する各極性溶媒を除去した後、乾燥した。
【0185】
次に、熱処理工程後の染色されたパラ系アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同様にして行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するブラックに染色された実施例14のパラ系アラミド織物を得た。
【0186】
以上のようにして染色した実施例14の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表14に示す。
【0187】
【表14】
【0188】
表14から分かるように、実施例14においては、パラ系アラミド織物は4種類の極性溶媒のいずれにおいても実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L*値)を有しており、また、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表14には示していないが、実施例14の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0189】
≪実施例15≫
本実施例15は、5種類の極性溶媒、ベンジルアルコール、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸及びシュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用し、上述の第3実施形態(分散染料による先染色→建染染料による染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例15においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物に対して、まず、分散染料により先染色工程を行った。次に、この先染色工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例12及び実施例14と同様の建染染料と各極性溶媒による染色操作を行った。
【0190】
D1.分散染料による先染色工程
未染色のパラ系アラミド織物を通常の方法で糊抜き、精練してから、分散染料による染色を行った。染色は浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用してパラ系アラミド織物を染色した。染色液には、Kayalon Polyester Black ECX−300(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)2.5%owfと、Kayalon Polyester Black TN−200(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)2.5%owfとを併用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を使用した。
【0191】
染色は、浴比1:20とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後のパラ系アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、還元剤として亜二チオン酸ナトリウム5g/Lに水酸化ナトリウム5g/Lを併用して80℃で1分間の条件とし、本実施例15においては、還元洗浄を2回繰り返した。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、分散染料による前染色を行ったパラ系アラミド織物を得た。
【0192】
次に、前染色を行ったパラ系アラミド織物に対して、上記実施例12又は上記実施例14と同様にして、ベンジルアルコール、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸、又は、シュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用する染色操作及び還元洗浄を行って、極濃色のブラックに染色された実施例15のパラ系アラミド織物を得た。
【0193】
以上のようにして染色した実施例15の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表15に示す。
【0194】
【表15】
【0195】
表15から分かるように、建染染料のみで染色された上記実施例12(表12参照)又は上記実施例14(表14参照)に比べ、分散染料による前染色がなされた実施例15においては、いずれも、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。この極濃色のパラ系アラミド織物は、表15に示すように、非常に良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例15のパラ系アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表15には示していないが、実施例15の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0196】
≪実施例16≫
本実施例16は、DL−乳酸を極性溶媒として使用し、上述の第3実施形態(カチオン染料による先染色→建染染料による染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例16においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物に対して、まず、カチオン染料により先染色工程を行った。次に、この先染色工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例14と同様の建染染料とDL−乳酸による染色操作を行った。
【0197】
D1.カチオン染料による先染色工程
未染色のパラ系アラミド織物を通常の方法で糊抜き、精練してから、カチオン染料による染色を行った。染色は浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用してパラ系アラミド織物を染色した。染色液には、Kayacryl Navy RP−ED(日本化薬株式会社製カチオン染料、C.I.No.不明)5.0%owfを使用し、硝酸ナトリウム25g/Lと市販のキャリアを併用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を使用した。
【0198】
染色は、浴比1:20とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後のパラ系アラミド織物は、湯洗、水洗を行って乾燥し、カチオン染料による前染色を行ったパラ系アラミド織物を得た。
【0199】
次に、前染色を行ったパラ系アラミド織物に対して、上記実施例1と同じ建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」50g/Lを使用して上記実施例12と同様の操作で染料付与工程を行った。このときのピックアップ率は58重量%であった。更に、この染料付与工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例14と同様にして、DL−乳酸を極性溶媒として使用する溶媒処理工程、熱処理工程及び還元洗浄を行って極濃色のネイビーブルーに染色された実施例16のパラ系アラミド織物を得た。
【0200】
≪比較例10≫
上記実施例16に対して、パラ系アラミド織物にカチオン染料による染色のみを行ったものを比較例10とした。具体的には、本発明に係る染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程の染色操作をいずれも行うことなく、上記実施例16と同様のカチオン染料による染色工程のみを行い、その後、実施例16と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例10のパラ系アラミド織物を得た。
【0201】
以上のようにして染色した実施例16及び比較例10の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表16に示す。
【0202】
【表16】
【0203】
表16から分かるように、カチオン染料と建染染料で染色された実施例16においては、カチオン染料のみで染色された比較例10に比べ、染色濃度(トータルK/S値)が大きく、また明度(L*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。一方、カチオン染料のみで染色された比較例10の耐光堅牢度が著しく弱いことに対して、カチオン染料に加え建染染料で染色された実施例16においては、耐光堅牢度の大きな向上が認められる。また、本実施例16のパラ系アラミド織物においては、織物表面の毛羽がカチオン染料及び建染染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表16には示していないが、実施例16の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0204】
上述の実施例1〜実施例16の染色操作で説明したように、本発明によれば、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維のいずれにも適用でき、これらのアラミド繊維を実用的な染色濃度に染色することができる。また、本発明によれば、染色後のアラミド繊維に染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることがない。更に、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好な建染染料又は硫化染料を使用するので、染色されたアラミド繊維の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好となる。
【0205】
また、使用する建染染料又は硫化染料の使用濃度と色相を変化させることにより、淡色から濃色まで豊富な色相の染色物を得ることができる。特に、本発明によれば、これまで困難とされたパラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維をブラックやネイビーブルーなどの極濃色(例えば、L*値が30以下)に染色することができる。
【0206】
また、本発明に係るアラミド繊維の染色方法の前後工程として、建染染料及び硫化染料以外の染料による前染色工程又は後染色工程を行うことにより、アラミド繊維自体の表面の毛羽が十分に染色され、染色品位が良好となり、更に染色濃度が向上する。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維である場合には、これらの染色工程を行うことにより、アラミド繊維と当該他の繊維との色相を統一することができ、染色物の染色品位と染色濃度が更に向上する。
【0207】
よって、本発明によれば、染色された染色物の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好であり、色相が豊富で実用的な染色濃度を有するアラミド繊維の染色方法を提供することができる。このことは、アラミド繊維の新たな用途展開に有効である。
【0208】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施例に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施例においては、染料付与工程後に溶媒処理工程を行っているが、これに限ることはなく、溶媒処理工程後に染料付与工程を行うようにしてもよい。
(2)上記各実施例においては、アラミド織物に建染染料又は硫化染料を含有する染色液を付与した後に当該アラミド織物を乾燥するが、これに限ることはなく、染色液を付与した後にアラミド織物を乾燥することなく溶媒処理工程に投入するようにしてもよい。
(3)上記各実施例においては、一部の鮮明な色相を除きネイビーブルー或いはブラックを多く使用しているが、これらの実施例は、あくまで濃色或いは極濃色が染色できることを示している。従って、使用する建染染料又は硫化染料の使用濃度と色相を変化させることにより、淡色から濃色まで、また、鮮やかな色相を含め豊富な色相の染色物を得ることができる。
(4)上記各実施例においては、染料付与工程で建染染料又は硫化染料を付与したアラミド繊維を洗浄することなく続く溶媒処理工程に投入した。しかし、染料付与工程後の建染染料又は硫化染料は、ある程度の親和性をもってアラミド繊維に付着している。従って、染料付与工程後のアラミド繊維を洗浄してから溶媒処理工程に投入するようにしてもよい。
(5)上記各実施例においては、染色操作後に還元洗浄を行うものもあるが、還元洗浄は必要な場合にのみ行うようにすればよく、また、還元洗浄の処方はアルカリ系に限るものではなく、酸性系の還元処方による還元洗浄を行うようにしてもよい。
(6)上記実施例14及び実施例15においては、極性溶媒として光学異性体の混合したDL‐乳酸を使用したが、これに限るものではなく、D‐乳酸或いはL‐乳酸を使用するようにしてもよい。
(7)上記実施例5、実施例11及び実施例15においては、分散染料の染色にキャリヤ或いは濃染剤を使用していない。本発明においては、前染色或いは後染色は、あくまでも補助的な染色であり、キャリヤなどを使用しなくてもよい。しかし、通常のアラミド染色で使用される各種キャリヤなどを併用して、更に濃色に染色するようにしてもよい。
(8)上記各実施例においては、アラミド織物に対して染色を行ったが、これに限るものではなく、編物、不織布などであってもよく、或いは、糸、ワタなどであってもよい。