【実施例】
【0086】
以下、上記第1実施形態〜第4実施形態に基づいて、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維、及び、メタ系アラミド繊維のそれぞれに対して、次のような各実施例及び比較例の染色を行った。
【0087】
≪実施例1≫
本実施例1は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド繊維からなる織物(以下「アラミド織物」という)を染色した。本実施例1においては、パラ系アラミド繊維100重量%の20番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付244g/m
2の綾織物(以下「パラ系アラミド織物」という)と、パラ系共重合アラミド繊維100重量%の20番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付244g/m
2の綾織物(以下「パラ系共重合アラミド織物」という)と、メタ系アラミド繊維100重量%の40番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付200g/m
2の綾織物(以下「メタ系アラミド織物」という)とを使用した。これらのアラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0088】
A.染料付与工程
染料付与は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、各アラミド織物に建染染料を含有する染色液をパッド・ニップして建染染料を付与した。このときのピックアップ率は、それぞれ、パラ系アラミド織物61重量%、パラ系共重合アラミド織物58重量%、メタ系アラミド織物67重量%であった。
【0089】
染色液には、建染染料50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリSA−25(荒川化学工業株式会社;以下「タマノリ」という)を併用した。使用した染料は、Mikethren Blue BC super−fine(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Blue 6)であった。
【0090】
乾燥は、試験用ベーキングボックス装置を使用し、染色液付与後の各アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を各アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の各アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)に投入した。
【0091】
B.溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)
極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドンを使用し、濃度60重量%の水溶液として処理した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の各アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は20℃であった。処理はアラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、それぞれ、パラ系アラミド織物59重量%、パラ系共重合アラミド織物59重量%、メタ系アラミド織物62重量%であった。
【0092】
C.熱処理工程
熱処理には試験用ベーキングボックス装置を使用し、溶媒処理後の各アラミド織物に105℃で5分間の乾熱処理を行って建染染料を各アラミド織物に付着した。熱処理後の各アラミド織物は、水洗及び湯洗により残留するN−メチル−2−ピロリドンを除去した後、乾燥した。
【0093】
次に、熱処理工程後の染色された各アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、繊維表面に残存する未染着の建染染料を除去して染色堅牢度を向上させるために行った。還元洗浄の条件は、ポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元剤として亜二チオン酸ナトリウム1g/Lに水酸化ナトリウム1g/Lを併用して80℃で1分間の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するネイビーブルーに染色された実施例1の各アラミド織物を得た。
【0094】
≪比較例1≫
上記実施例1に対して、各アラミド織物に染料付与工程のみを行い溶媒処理工程と熱処理工程を行わないものを比較例1とした。具体的には、上記実施例1と同一の条件で染料付与を行い、建染染料付与後の各アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例1の各アラミド織物を得た。
【0095】
以上のようにして染色した実施例1及び比較例1の染色された各アラミド織物を以下のようにして評価した。
【0096】
染色濃度(トータルK/S値):
染色された各アラミド織物の表面染色濃度をトータルK/S値として表わした。トータルK/S値が大きいほど、アラミド織物が濃色に染まっていることを示す。トータルK/Sとは、波長400nm〜700nmの測定範囲で20nm間隔に測定した16波長のK/S値16個を合計した値である。K/S値は、下記のKubelka−Munk式により、各波長における反射率Rから求められる。ここで、Kは吸光係数、Sは光散乱係数を表す。
【0097】
K/S=(1−R)
2/2R
なお、各波長における反射率Rの値は、積分球を搭載した分光光度計UV−3100(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。各アラミド織物に対して、上式により計算して求めたトータルK/S値を表1に示す。
【0098】
明度(L
*値):
染色された各アラミド織物の濃色の度合いを上述のL
*a
*b
*表色系における明度(L
*値)で評価した。L
*値は、100(白)〜0(黒)の範囲で表され、L
*値が小さいほど濃色であると評価する。なお、L
*値は、色彩色差計CR−200(ミノルタカメラ株式会社製)を用いて測定した。求めた各アラミド織物のL
*値を表1に示す。
【0099】
染色堅牢度:
上記染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)以外に染色物の基本的評価項目として染色堅牢度を確認した。特にアラミド繊維の染色堅牢度で問題とされる耐光堅牢度(JIS L0842)を評価した。アラミド繊維の耐光堅牢度は、光照射による染料の変退色に加え、繊維自身の黄褐変が重なり評価しづらいことから、次のようにして評価した。各アラミド織物に対してブルースケールの4級照射を行い、その変化を変退色用グレースケールで級判定した。なお、級判定は、1級(不良)から5級(良好)の5段階に加え、各級の中間の評価も行った。例えば、3級と4級の間の評価は、3−4級とした。その評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1から分かるように、実施例1においては、各アラミド織物のいずれにおいても、実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)を有しており、また、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表1には示していないが、実施例1の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例1においては、実施例1に比べ各アラミド織物のいずれにおいても、染色濃度、明度及び耐光堅牢度が劣り、特に、メタ系アラミド織物の染色濃度、明度及び耐光堅牢度が不十分なものであった。
【0102】
≪実施例2≫
本実施例2は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例2においては、メタ系アラミド繊維95重量%とパラ系共重合アラミド繊維5重量%を混紡した40番手双糸を経糸と緯糸に使用した目付160g/m
2の綾織物(以下「混紡アラミド織物」という)を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0103】
A.染料付与工程
上記実施例1に対して、使用する染料を下記の硫化染料に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。染色液には、硫化染料50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリを併用した。使用した硫化染料は、Asathio Blue RC200(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 7)であった。
【0104】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、硫化染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)に投入した。
【0105】
B.溶媒処理工程(N―メチル―2−ピロリドン処理工程)
本実施例2においては、極性溶媒として、上記実施例1と同じN−メチル−2−ピロリドンを使用したが、濃度を100重量%として処理した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は50℃であった。処理は混紡アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、88重量%であった。
【0106】
C.熱処理工程
熱処理は上記実施例1と同様にして行い、試験用ベーキングボックス装置を使用し、溶媒処理後の混紡アラミド織物に105℃で5分間の乾熱処理を行って硫化染料を混紡アラミド織物に付着した。熱処理後の混紡アラミド織物は、湯洗及び水洗により残留するN−メチル−2−ピロリドンを除去した後乾燥し、実用的な染色濃度を有するネイビーブルーに染色された実施例2の混紡アラミド織物を得た。
【0107】
≪比較例2≫
上記実施例2に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い、溶媒処理工程と熱処理工程を行わないものを比較例2とした。具体的には、上記実施例2と同一の条件で染料付与工程を行い、硫化染料付与後の混紡アラミド織物に対して湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例2の混紡アラミド織物を得た。
【0108】
以上のようにして染色した実施例2及び比較例2の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2から分かるように、実施例2においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例2の混紡アラミド織物は、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表2には示していないが、実施例2の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例2においては、実施例2に比べ染色濃度及び明度がかなり劣り、また、耐光堅牢度も低く実用的な染色物が得られていない。
【0111】
≪実施例3≫
本実施例3は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例3においては、上記実施例1で得られた染色された各アラミド織物に対して、上記実施例1と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例1を染色操作1回として、更に染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0112】
以上のようにして染色した実施例3の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表3に示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表3から分かるように、各アラミド織物において、染色操作1回の実施例1に比べ、実施例3においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L
*値)がほぼ30前後或いはそれ以下と小さくなり、極濃色の各アラミド織物を得ることができた。これら極濃色の各アラミド織物は、表3に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表3には示していないが、実施例3の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0115】
≪実施例4≫
本実施例4は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例4においては、上記実施例1と同様の各アラミド織物に対して、上記実施例3と同様にして建染染料による染色操作を複数回繰り返した。但し、使用した建染染料は、Indanthren Brilliant Pink R(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Red 1)であった。具体的には、上記実施例1と同様の染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程を組み合わせた染色操作を行ったものを染色操作1回として、更に同様の染色操作を繰り返して合計2回及び合計3回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0116】
以上のようにして染色した実施例4の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表4に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
表4から分かるように、各アラミド織物において、染色操作1回に比べ、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、濃色の各アラミド織物を得ることができた。しかし、明度(L
*値)は38より大きいが、これは使用した染料が「Pink R」であることによる。本実施例4は、鮮やかなレッドを染色する処方であり、濃色のネイビーブルー或いはブラックを目的とする処方ではないからである。一方、各アラミド織物は、表4に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表4には示していないが、実施例4の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0119】
≪実施例5≫
本実施例5は、N−メチル−2−ピロリドンを極性溶媒として使用し、上述の第4実施形態(建染染料による染色→分散染料による後染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例5においては、上記実施例1で得られた建染染料で染色された各アラミド織物に対して、次に分散染料による後染色工程を行った。
【0120】
D2.分散染料による後染色工程
染色は分散染料による浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用して上記実施例1で得られた建染染料染色後の各アラミド織物を還元洗浄せずに染色した。染色液には、Dianix Blue FBL−E(ダイスタージャパン株式会社製分散染料、C.I.Disperse Blue 56)5%owfを使用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を併用した。
【0121】
染色は、浴比1:100とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後の各アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、還元剤として亜二チオン酸ナトリウム1g/Lに水酸化ナトリウム1g/Lを併用して80℃で1分間の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、極濃色のネイビーブルーに染色された実施例5の各アラミド織物を得た。
【0122】
≪比較例3≫
上記実施例5に対して、各アラミド織物に分散染料による染色のみを行ったものを比較例3とした。具体的には、本発明に係る染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程の染色操作をいずれも行うことなく、上記実施例5と同様の分散染料染色工程のみを行い、その後、実施例5と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例3の各アラミド織物を得た。
【0123】
≪比較例4≫
また、上記実施例5に対して、各アラミド織物に溶媒処理工程、熱処理工程及び分散染料染色工程のみを行ったものを比較例4とした。具体的には、建染染料を付与する染料付与工程を行わずに溶媒処理工程及び熱処理工程のみ行った後、上記実施例5と同様の分散染料染色工程を行い、その後、実施例5と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例4の各アラミド織物を得た。
【0124】
以上のようにして染色した実施例5、比較例3及び比較例4の染色された各アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表5に示す。
【0125】
【表5】
【0126】
表5から分かるように、建染染料のみで染色された実施例1に比べ、更に分散染料により染色された実施例5においては、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L
*値)が30以下と小さくなり、極濃色の各アラミド織物を得ることができた。この極濃色の各アラミド織物は、表5に示すように、実施例1よりも更に良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例5の各アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表5には示していないが、実施例5の染色された各アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0127】
一方、比較例3においては、実施例5に比べ各アラミド織物のいずれにおいても染色濃度及び明度が劣っている。また、これらの各アラミド織物は、分散染料のみで染色されており、耐光堅牢度は実施例5及び実施例1に比べ不十分なものであった。また、比較例4においては、溶媒処理の効果で分散染料での染色濃度及び明度が比較例3よりも向上している。しかし、比較例4の各アラミド織物は、実施例5に比べいずれも染色濃度及び明度が劣っている。また、これら比較例4の各アラミド織物は、分散染料のみで染色されており、耐光堅牢度は実施例5に比べ不十分なものであった。
【0128】
≪実施例6≫
本実施例6は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例6においては、上記実施例2と同じ混紡アラミド織物を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0129】
A.染料付与工程
本実施例6においては、上記実施例1と同じ建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」、又は、上記実施例4と同じ建染染料「Indanthren Brilliant Pink R」を使用した。染料付与工程における操作は、上記実施例1と同様に行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。
【0130】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0131】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
硫酸処理は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は77重量%であり、処理温度は20℃であった。浸漬後、マングルで搾液してピックアップ率を156重量%とし、速やかに水洗してから炭酸ナトリウム水溶液で中和し水洗した。硫酸水溶液による浸漬時間は、30秒間であった。溶媒処理工程後の混紡アラミド織物は、十分水洗を行った後乾燥した。
【0132】
次に、硫酸処理後の染色された混紡アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有する実施例6の混紡アラミド織物を得た。
【0133】
≪比較例5≫
上記実施例6に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例5とした。具体的には、上記実施例1と同一の条件で染料付与工程を行い、建染染料付与後の混紡アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同一の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例5の混紡アラミド織物を得た。
【0134】
以上のようにして染色した実施例6及び比較例5の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
表6から分かるように、実施例6においては、建染染料「Blue BC」において実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。一方、実施例6の建染染料「Pink R」においては、上記実施例4と同様に鮮やかなレッドを染色する処方であり、明度(L
*値)はそれほど小さな値を示していない。しかし、建染染料「Pink R」においても、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有する混紡アラミド織物が得られている。また、実施例6の混紡アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表6には示していないが、実施例6の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例5においては、実施例6に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0137】
≪実施例7≫
本実施例7は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例7においては、上記実施例6で得られた染色された混紡アラミド織物のうち、建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」で染色された混紡アラミド織物に対して上記実施例6と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例6を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0138】
以上のようにして染色した実施例7の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表7に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
表7から分かるように、染色操作1回の実施例6に比べ、実施例7においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L
*値)が25以下と小さくなり、極濃色の混紡アラミド織物を得ることができた。
これら極濃色の混紡アラミド織物は、表7に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表7には示していないが、実施例7の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0141】
≪実施例8≫
本実施例8は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例8においては、実施例6と同じ混紡アラミド織物に対して硫化染料による染色操作を行った。この混紡アラミド織物は、上記実施例6と同様に通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0142】
A.染料付与工程
本実施例8においては、上記実施例6に対して、使用する染料を下記の硫化染料に変更した以外は、上記実施例6と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。染色液には、硫化染料50g/Lを未還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤としてタマノリを併用した。使用した硫化染料は、Asathiosol Yellow S−RR(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.No.不明)、Asathiosol Bordeaux S−3B(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Red 6)、Asathio Blue RC200(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 7)、Asathiosol Indigo Green S−BG(旭化学工業株式会社製硫化染料、C.I.Sulphur Blue 15)であった。
【0143】
乾燥は、上記実施例6と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、硫化染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0144】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
本実施例8においては、上記実施例6と同様にして染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は77重量%であり、処理温度は20℃で浸漬時間は30秒間であった。このときのピックアップ率は156重量%であり、上記実施例6と同様にして水洗、中和、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有する実施例8の混紡アラミド織物を得た。
【0145】
≪比較例6≫
上記実施例8に対して、混紡アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例6とした。具体的には、上記実施例8と同一の条件で染料付与工程を行い、硫化染料付与後の混紡アラミド織物に対して水洗を行って乾燥し、比較例6の混紡アラミド織物を得た。
【0146】
以上のようにして染色した実施例8及び比較例6の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L
*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表8に示す。
【0147】
【表8】
【0148】
表8から分かるように、実施例8においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有する混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例8の混紡アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表8には示していないが、実施例8の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例6においては、実施例8に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0149】
≪実施例9≫
本実施例9は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例9においては、パラ系アラミド繊維を主体とするアラミド繊維として、パラ系アラミド繊維100重量%の20番手単糸を経糸と緯糸に使用した目付144g/m
2の綾織物(以下「パラ系単糸アラミド織物」という)を使用した。このパラ系単糸アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0150】
本実施例9においては、染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)の操作条件及び使用染料は、上記実施例6と同様にして行った。このとき、染料付与工程でのピックアップ率は61重量%であり、溶媒処理工程でのピックアップ率は126重量%であった。このようにして建染染料による染色操作を行った後、上記実施例1と同様にして還元洗浄を行い、実用的な染色濃度を有する実施例9のパラ系単糸アラミド織物を得た。
【0151】
≪比較例7≫
上記実施例9に対して、パラ系単糸アラミド織物に染料付与工程のみを行い硫酸処理を行わずに比較例7とした。具体的には、上記実施例9と同一の条件で染料付与工程を行い、建染染料付与後のパラ系単糸アラミド織物に対して、実施例1と同一の条件で還元洗浄を行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、比較例7のパラ系単糸アラミド織物を得た。
【0152】
以上のようにして染色した実施例9及び比較例7の染色されたパラ系単糸アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L
*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表9に示す。
【0153】
【表9】
【0154】
表9から分かるように、実施例9においては、実用的な染色濃度(トータルK/S値)を有するパラ系単糸アラミド織物を得ることができた。また、実施例9のパラ系単糸アラミド織物は、いずれも、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表9には示していないが、実施例9の染色されたパラ系単糸アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例7においては、実施例9に比べ染色濃度及び耐光堅牢度が共に劣り、実用的な染色物は得られていない。
【0155】
≪実施例10≫
本実施例10は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例10においては、上記実施例9で得られた染色されたパラ系単糸アラミド織物のうち、建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」で染色されたパラ系単糸アラミド織物に対して上記実施例9と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例9を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程(硫酸処理工程)を組み合わせた染色操作を繰り返して合計3回、合計5回及び合計7回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0156】
以上のようにして染色した実施例10の染色されたパラ系単糸アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L
*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表10に示す。
【0157】
【表10】
【0158】
表10から分かるように、染色操作1回の実施例9に比べ、実施例10においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、極濃色のアラミド織物を得ることができた。これら極濃色のパラ系単糸アラミド織物は、表10に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表10には示していないが、実施例10の染色されたパラ系単糸アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0159】
≪実施例11≫
本実施例11は、硫酸を極性溶媒として使用し、上述の第4実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例11においては、上記実施例6と同じ混紡アラミド織物を使用した。この混紡アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0160】
A.染料付与工程
本実施例11においては、建染染料として、Mikethren Grey M super−fine(ダイスタージャパン株式会社製建染染料、C.I.Vat Black 8)60g/Lを使用した以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は80重量%であった。
【0161】
乾燥は、上記実施例1と同様にして染色液付与後の混紡アラミド織物を105℃で5分間乾燥し、建染染料を混紡アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後の混紡アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(硫酸処理工程)に投入した。
【0162】
B.溶媒処理工程(硫酸処理工程)
硫酸処理は連続法で行い、試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後の混紡アラミド織物に硫酸処理を行った。使用した硫酸水溶液の濃度は80重量%であり、処理温度は20℃であった。浸漬後、マングルで搾液してピックアップ率を80重量%とし、速やかに水洗してから炭酸ナトリウム水溶液で中和し水洗した。硫酸水溶液による浸漬時間は、20秒間であった。本実施例11においては、溶媒処理工程(硫酸処理工程)後の混紡アラミド織物を乾燥することなく、続く分散染料による後染色工程に投入した。
【0163】
D2.分散染料による後染色工程
染色は分散染料による浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用して硫酸処理後の混紡アラミド織物を上述のように乾燥せずに染色した。染色液には、Kayalon Polyester Navy Blue NB−E(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)10%owfを使用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を併用した。
【0164】
染色は、浴比1:100とし、130℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後の混紡アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、上記実施例5の後染色工程と同様の条件で行い、その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、極濃色のブラックに染色された実施例11の混紡アラミド織物を得た。
【0165】
≪比較例8≫
上記実施例11に対して、未染色の混紡アラミド織物に分散染料による染色工程のみを行ったものを比較例8とした。この比較例8において、分散染料による染色工程における条件は、上記実施例11と同様にして行った。
【0166】
≪比較例9≫
上記実施例11に対して、溶媒処理工程(硫酸処理工程)及び分散染料による染色工程のみを行ったものを比較例9とした。すなわち、比較例9は、硫酸処理を行った混紡アラミド織物を分散染料のみで染色したものである。この比較例9において、硫酸処理及び分散染料による染色の条件は、上記実施例11と同様にして行った。
【0167】
以上のようにして染色した実施例11、比較例8及び比較例9の染色された混紡アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。但し、明度(L
*値)については測定していない。染色濃度を評価するトータルK/S値及び耐光堅牢度の評価結果を表11に示す。
【0168】
【表11】
【0169】
表11から分かるように、実施例11においては、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、極濃色の混紡アラミド織物を得ることができた。また、実施例11の混紡アラミド織物は、良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例11の混紡アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表11には示していないが、実施例11の染色された混紡アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。一方、比較例8においては、実施例11に比べ染色濃度が劣り、また、耐光堅牢度が著しく劣っており実用的な染色物を得られていない。また、比較例9においては、十分な染色濃度が得られているが、分散染料のみで染色されているため耐光堅牢度が著しく劣り、実用的な染色物を得られていない。
【0170】
≪実施例12≫
本実施例12は、ベンジルアルコールを極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例12においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物を使用した。このパラ系アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0171】
A.染料付与工程
本実施例12においては、上記実施例1と同様の操作で下記の建染染料を付与した。このときのピックアップ率は58重量%であった。染色液には、上記実施例11と同じ建染染料「Mikethren Grey M super−fine」50g/Lを非還元の状態で分散し、マイグレーション防止剤として、GERMADYE AM−X(RAON CHEMICAL株式会社製)10g/Lを併用した。
【0172】
乾燥は、上記実施例1と同様の工程で染色液付与後のパラ系アラミド織物を110℃で2分間乾燥し、建染染料をパラ系アラミド織物の繊維表面に付着した。乾燥後のパラ系アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く溶媒処理工程(ベンジルアルコール処理工程)に投入した。
【0173】
B.溶媒処理工程(ベンジルアルコール処理工程)
本実施例12においては、極性溶媒として、ベンジルアルコール(99.5%品)を希釈せずに使用した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後のパラ系アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は20℃であった。処理はパラ系アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときのピックアップ率は、61重量%であった。なお、本実施例12においては、溶媒処理後の熱処理を行わず、溶媒処理工程後のパラ系アラミド織物を湯洗及び水洗して残留するベンジルアルコールを除去した後、還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同様にして行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するブラックに染色された実施例12のパラ系アラミド織物を得た。
【0174】
以上のようにして染色した実施例12の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表12に示す。
【0175】
【表12】
【0176】
表12から分かるように、実施例12においては、パラ系アラミド織物は実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)を有しており、また、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表12には示していないが、実施例12の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0177】
≪実施例13≫
本実施例13は、ベンジルアルコールを極性溶媒として使用し、上述の第1実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例13においては、上記実施例12で得られた染色されたパラ系アラミド織物に対して上記実施例12と同様の染色操作を複数回繰り返した。具体的には、上記実施例12を染色操作1回として、更に染料付与工程及び溶媒処理工程を組み合わせた染色操作を繰り返して合計2回、合計3回及び合計4回の染色操作を行った。但し、還元洗浄は、最終の染色操作の後でのみ行った。
【0178】
以上のようにして染色した実施例13の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表13に示す。
【0179】
【表13】
【0180】
表13から分かるように、パラ系アラミド織物において、染色操作1回の実施例12に比べ、実施例13においては、染色操作の回数が増すにつれ染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L
*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。この極濃色のパラ系アラミド織物は、表13に示すように、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表13には示していないが、実施例13の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0181】
≪実施例14≫
本実施例14は、4種類の極性溶媒、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸及びシュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用し、上述の第2実施形態に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例14においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物を使用した。このパラ系アラミド織物は、通常の方法で糊抜き、精練してから使用した。
【0182】
A.染料付与工程
本実施例14においては、上記実施例12と同様に建染染料「Mikethren Grey M super−fine」を使用し、上記実施例12と同様の操作を行った。このときのピックアップ率は58重量%であった。乾燥も、上記実施例12と同様の操作を行った。乾燥後のパラ系アラミド織物は、洗浄或いは還元洗浄を行うことなく、そのまま、続く各溶媒処理工程に投入した。
【0183】
B.溶媒処理工程
本実施例14においては、トリエチレングリコール(95%品)、ギ酸(98%品)及びDL−乳酸(85%品)は、いずれも希釈せずに使用した。一方、シュウ酸(2水和物)は、水で溶解し10重量%水溶液として使用した。処理液の付与には試験用マングル装置を使用し、染料付与工程後のパラ系アラミド織物に連続法で溶媒処理を行った。このときの処理温度は、いずれも20℃であった。処理はパラ系アラミド織物を処理液に1秒間浸漬し直ぐにマングルで搾液した。このときの各極性溶媒のピックアップ率は、それぞれ、トリエチレングリコール75重量%、ギ酸71重量%、DL−乳酸81重量%、シュウ酸水溶液75重量%であった。
【0184】
C.熱処理工程
熱処理には試験用ベーキングボックス装置を使用し、各溶媒処理後のパラ系アラミド織物に110℃で2分間の乾熱処理を行って建染染料をパラ系アラミド織物に付着した。熱処理後のパラ系アラミド織物は、湯洗及び水洗により残留する各極性溶媒を除去した後、乾燥した。
【0185】
次に、熱処理工程後の染色されたパラ系アラミド織物に対して還元洗浄を行った。この還元洗浄は、上記実施例1と同様にして行った。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、実用的な染色濃度を有するブラックに染色された実施例14のパラ系アラミド織物を得た。
【0186】
以上のようにして染色した実施例14の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表14に示す。
【0187】
【表14】
【0188】
表14から分かるように、実施例14においては、パラ系アラミド織物は4種類の極性溶媒のいずれにおいても実用的な染色濃度(トータルK/S値)及び明度(L
*値)を有しており、また、良好な耐光堅牢度を有している。更に、表14には示していないが、実施例14の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0189】
≪実施例15≫
本実施例15は、5種類の極性溶媒、ベンジルアルコール、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸及びシュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用し、上述の第3実施形態(分散染料による先染色→建染染料による染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例15においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物に対して、まず、分散染料により先染色工程を行った。次に、この先染色工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例12及び実施例14と同様の建染染料と各極性溶媒による染色操作を行った。
【0190】
D1.分散染料による先染色工程
未染色のパラ系アラミド織物を通常の方法で糊抜き、精練してから、分散染料による染色を行った。染色は浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用してパラ系アラミド織物を染色した。染色液には、Kayalon Polyester Black ECX−300(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)2.5%owfと、Kayalon Polyester Black TN−200(日本化薬株式会社製分散染料、C.I.No.不明)2.5%owfとを併用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を使用した。
【0191】
染色は、浴比1:20とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後のパラ系アラミド織物は、通常のポリエステル繊維の分散染料による染色と同様にして還元洗浄を行った。還元洗浄は、還元剤として亜二チオン酸ナトリウム5g/Lに水酸化ナトリウム5g/Lを併用して80℃で1分間の条件とし、本実施例15においては、還元洗浄を2回繰り返した。その後、湯洗、水洗を行って乾燥し、分散染料による前染色を行ったパラ系アラミド織物を得た。
【0192】
次に、前染色を行ったパラ系アラミド織物に対して、上記実施例12又は上記実施例14と同様にして、ベンジルアルコール、トリエチレングリコール、ギ酸、DL−乳酸、又は、シュウ酸をそれぞれ極性溶媒として使用する染色操作及び還元洗浄を行って、極濃色のブラックに染色された実施例15のパラ系アラミド織物を得た。
【0193】
以上のようにして染色した実施例15の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表15に示す。
【0194】
【表15】
【0195】
表15から分かるように、建染染料のみで染色された上記実施例12(表12参照)又は上記実施例14(表14参照)に比べ、分散染料による前染色がなされた実施例15においては、いずれも、染色濃度(トータルK/S値)が大きく向上し、また明度(L
*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。この極濃色のパラ系アラミド織物は、表15に示すように、非常に良好な耐光堅牢度を有している。また、本実施例15のパラ系アラミド織物においては、織物表面の毛羽が建染染料及び分散染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表15には示していないが、実施例15の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0196】
≪実施例16≫
本実施例16は、DL−乳酸を極性溶媒として使用し、上述の第3実施形態(カチオン染料による先染色→建染染料による染色)に基づいてアラミド織物を染色した。本実施例16においては、上記実施例1と同様のパラ系アラミド織物に対して、まず、カチオン染料により先染色工程を行った。次に、この先染色工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例14と同様の建染染料とDL−乳酸による染色操作を行った。
【0197】
D1.カチオン染料による先染色工程
未染色のパラ系アラミド織物を通常の方法で糊抜き、精練してから、カチオン染料による染色を行った。染色は浸染法で行い、高温高圧染色試験機ミニカラー(株式会社テクサム技研製)を使用してパラ系アラミド織物を染色した。染色液には、Kayacryl Navy RP−ED(日本化薬株式会社製カチオン染料、C.I.No.不明)5.0%owfを使用し、硝酸ナトリウム25g/Lと市販のキャリアを併用し、pH5の酢酸/酢酸ナトリウム系緩衝液を使用した。
【0198】
染色は、浴比1:20とし、135℃で60分間の条件で高温高圧染色を行った。染色後のパラ系アラミド織物は、湯洗、水洗を行って乾燥し、カチオン染料による前染色を行ったパラ系アラミド織物を得た。
【0199】
次に、前染色を行ったパラ系アラミド織物に対して、上記実施例1と同じ建染染料「Mikethren Blue BC super−fine」50g/Lを使用して上記実施例12と同様の操作で染料付与工程を行った。このときのピックアップ率は58重量%であった。更に、この染料付与工程後のパラ系アラミド織物に対して、上記実施例14と同様にして、DL−乳酸を極性溶媒として使用する溶媒処理工程、熱処理工程及び還元洗浄を行って極濃色のネイビーブルーに染色された実施例16のパラ系アラミド織物を得た。
【0200】
≪比較例10≫
上記実施例16に対して、パラ系アラミド織物にカチオン染料による染色のみを行ったものを比較例10とした。具体的には、本発明に係る染料付与工程、溶媒処理工程及び熱処理工程の染色操作をいずれも行うことなく、上記実施例16と同様のカチオン染料による染色工程のみを行い、その後、実施例16と同様に還元洗浄、湯洗、水洗を行って乾燥し、ネイビーブルーに染色された比較例10のパラ系アラミド織物を得た。
【0201】
以上のようにして染色した実施例16及び比較例10の染色されたパラ系アラミド織物を上記実施例1と同様にして評価した。染色濃度を評価するトータルK/S値、濃色の度合いを評価する明度(L
*値)及び耐光堅牢度の評価結果を表16に示す。
【0202】
【表16】
【0203】
表16から分かるように、カチオン染料と建染染料で染色された実施例16においては、カチオン染料のみで染色された比較例10に比べ、染色濃度(トータルK/S値)が大きく、また明度(L
*値)が30以下と小さくなり、極濃色のパラ系アラミド織物を得ることができた。一方、カチオン染料のみで染色された比較例10の耐光堅牢度が著しく弱いことに対して、カチオン染料に加え建染染料で染色された実施例16においては、耐光堅牢度の大きな向上が認められる。また、本実施例16のパラ系アラミド織物においては、織物表面の毛羽がカチオン染料及び建染染料の両方で極濃色に染色され、織物の表面品位がより向上していた。更に、表16には示していないが、実施例16の染色されたパラ系アラミド織物においては、染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることなく、実用的な高性能繊維の性質を維持していた。
【0204】
上述の実施例1〜実施例16の染色操作で説明したように、本発明によれば、パラ系アラミド繊維、パラ系共重合アラミド繊維及びメタ系アラミド繊維のいずれにも適用でき、これらのアラミド繊維を実用的な染色濃度に染色することができる。また、本発明によれば、染色後のアラミド繊維に染色ムラや寸法変化、或いは、物性低下が大きく生じることがない。更に、染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好な建染染料又は硫化染料を使用するので、染色されたアラミド繊維の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好となる。
【0205】
また、使用する建染染料又は硫化染料の使用濃度と色相を変化させることにより、淡色から濃色まで豊富な色相の染色物を得ることができる。特に、本発明によれば、これまで困難とされたパラ系アラミド繊維或いはパラ系共重合アラミド繊維をブラックやネイビーブルーなどの極濃色(例えば、L
*値が30以下)に染色することができる。
【0206】
また、本発明に係るアラミド繊維の染色方法の前後工程として、建染染料及び硫化染料以外の染料による前染色工程又は後染色工程を行うことにより、アラミド繊維自体の表面の毛羽が十分に染色され、染色品位が良好となり、更に染色濃度が向上する。一方、アラミド繊維が他の化学繊維或いは天然繊維との混合繊維である場合には、これらの染色工程を行うことにより、アラミド繊維と当該他の繊維との色相を統一することができ、染色物の染色品位と染色濃度が更に向上する。
【0207】
よって、本発明によれば、染色された染色物の染色堅牢度、特に耐光堅牢度が良好であり、色相が豊富で実用的な染色濃度を有するアラミド繊維の染色方
法を提供することができる。このことは、アラミド繊維の新たな用途展開に有効である。
【0208】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施例に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施例においては、染料付与工程後に溶媒処理工程を行っているが、これに限ることはなく、溶媒処理工程後に染料付与工程を行うようにしてもよい。
(2)上記各実施例においては、アラミド織物に建染染料又は硫化染料を含有する染色液を付与した後に当該アラミド織物を乾燥するが、これに限ることはなく、染色液を付与した後にアラミド織物を乾燥することなく溶媒処理工程に投入するようにしてもよい。
(3)上記各実施例においては、一部の鮮明な色相を除きネイビーブルー或いはブラックを多く使用しているが、これらの実施例は、あくまで濃色或いは極濃色が染色できることを示している。従って、使用する建染染料又は硫化染料の使用濃度と色相を変化させることにより、淡色から濃色まで、また、鮮やかな色相を含め豊富な色相の染色物を得ることができる。
(4)上記各実施例においては、染料付与工程で建染染料又は硫化染料を付与したアラミド繊維を洗浄することなく続く溶媒処理工程に投入した。しかし、染料付与工程後の建染染料又は硫化染料は、ある程度の親和性をもってアラミド繊維に付着している。従って、染料付与工程後のアラミド繊維を洗浄してから溶媒処理工程に投入するようにしてもよい。
(5)上記各実施例においては、染色操作後に還元洗浄を行うものもあるが、還元洗浄は必要な場合にのみ行うようにすればよく、また、還元洗浄の処方はアルカリ系に限るものではなく、酸性系の還元処方による還元洗浄を行うようにしてもよい。
(6)上記実施例14及び実施例15においては、極性溶媒として光学異性体の混合したDL‐乳酸を使用したが、これに限るものではなく、D‐乳酸或いはL‐乳酸を使用するようにしてもよい。
(7)上記実施例5、実施例11及び実施例15においては、分散染料の染色にキャリヤ或いは濃染剤を使用していない。本発明においては、前染色或いは後染色は、あくまでも補助的な染色であり、キャリヤなどを使用しなくてもよい。しかし、通常のアラミド染色で使用される各種キャリヤなどを併用して、更に濃色に染色するようにしてもよい。
(8)上記各実施例においては、アラミド織物に対して染色を行ったが、これに限るものではなく、編物、不織布などであってもよく、或いは、糸、ワタなどであってもよい。