特許第5938410号(P5938410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938410
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】皮革部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C14B 7/02 20060101AFI20160609BHJP
   B32B 9/02 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C14B7/02
   B32B9/02
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-532103(P2013-532103)
(86)(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公表番号】特表2013-540185(P2013-540185A)
(43)【公表日】2013年10月31日
(86)【国際出願番号】EP2011066115
(87)【国際公開番号】WO2012045565
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年2月10日
(31)【優先権主張番号】102010042103.0
(32)【優先日】2010年10月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512017039
【氏名又は名称】バーダー ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーケ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】モルダシェル ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】バーダー トーマス クリストフ
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 西独国特許出願公開第01660078(DE,A)
【文献】 実開昭55−128728(JP,U)
【文献】 国際公開第2009/119551(WO,A1)
【文献】 特開2004−209830(JP,A)
【文献】 特開平06−049417(JP,A)
【文献】 特開2006−110960(JP,A)
【文献】 特表平08−503516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68F 1/00− 3/04
C14B 1/00−99/00
C14C 1/00−99/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮革処理技術で加工可能な自動車分野用皮革部品を製造するための方法であって、
生皮の洗浄、除毛、除肉を行なうステップと、
生皮を2.2mmないし2.6mmの厚さに削り取るステップと、
その後、削り取った生皮をなめし、絞って湿気含有量を低下させるステップと、
次に、生皮を背面において1mmないし2mmのオーダーの均等な厚さに削り取って、シェービングチップを形成させ、その後染色、乾燥させてクラスト革を形成させるステップと、
前記クラスト革を仕上げ処理して仕上げ革を形成させ、その際に表面処理を行なうステップと、
を含んでいる前記方法において、
前記表面処理を行った後に以下のステップを含んでいること、すなわち、
スプリット工程(13)で前記仕上げ革(12)をカットして、0.4mm±0.1mmの壁厚を持つ閉じた薄革(14)と、中間スプリット革(15)とを形成させるステップと、
押し抜き工程で前記薄革(14)を裁断して所定の薄革裁断片を形成させるステップと、
前記薄革(14)に比べて軽量な繊維材および/またはプラスチック材から、前記薄革裁断片を補完するものとしてライニング裁断片を形成させるステップと、
前記ライニング裁断片を、補完的な前記薄革裁断片の、表面とは反対側の背面において、ライニングすることで、軽量皮革部品(18)を形成させるステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記中間スプリット革(15)の表面をドレッシングし、次に押し抜き工程で該中間スプリット革を裁断して、所定の中間スプリット革裁断片を形成させること、布、繊維材および/または発泡材から成るライニング裁断片を、前記中間スプリット革裁断片を補完するものとして形成させること、前記ライニング裁断片を前記中間スプリット革裁断片の背面上にライニングすることで中間スプリット皮革部品(19)を形成させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中間スプリット革(15)の表面をドレッシングし、次に押し抜き工程で該中間スプリット革を裁断して、所定の中間スプリット革裁断片を形成させ、所望の壁厚にスプリットすること、布、繊維材および/または発泡材から成るライニング裁断片を、前記中間スプリット革裁断片を補完するものとして形成させること、前記ライニング裁断片を前記中間スプリット革裁断片の背面上にライニングすることで中間スプリット皮革部品(19)を形成させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ライニング裁断片が多層繊維編物として形成されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記ライニング裁断片が、2つの編物層の間にロッド層をサンドイッチ状に封じ込めたスペースニットとして形成されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記2つの編物層が異なる伸張値および/または引張り強度を有していることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ライニング裁断片が、その薄革裁断片側または中間スプリット革裁断片側で、他の側よりも大きな引張り強度を有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記ライニング裁断片が、その薄革裁断片側とは逆の幅広側または中間スプリット革裁断片側とは逆の幅広側に、弾性層を有していることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記スプリット工程を、カッティングウェッジを非対称に研磨した回転バンドカッターを使用して行い、その際前記カッティングウェッジの、研磨の度合いが少ない側が、生成すべき前記薄革側に向いていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車分野用に予め作製した仕上げ革から皮革処理技術で加工可能な皮革部品を製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
革を製造するための出発点は常に動物の生皮である。生皮は洗浄、除毛、除肉、スプリットを行なった後に浸酸、ピックル、脱灰を施され、続いてなめしが行われる。その後、なめし液をプレスを介して押し出し、その結果湿気含有量が約50%ないし60%に減少する。その後の方法ステップでは、なめした動物の皮をシェービングし、すなわちスパイラルカッターロールを用いて背面を1mmないし2mmのオーダーの均等な厚さに削り取る。残った革はまず染色し、続いて乾燥させることができる。なめしと染色と乾燥とを行なった革はクラスト革とも呼ばれる。最後に、クラストソーティングを行なった後に革のドレッシングを行なう。これはまず化学的な表面処理を行なうもので、表面に下塗りと、着色層と、保護塗装とを塗布するものである。オプションで、下塗りの後に革の型押しを行なって特徴のある表面構造を得ることができる。このような表面処理の結果得られるものがいわゆる仕上げ革であり、仕上げ革は規格革と呼ばれる。仕上げ革は通常は押し抜き機で規定の形状および輪郭に裁断される。自動車用の仕上げ革はまだ1mmと2mmの間の材料厚があり、自動車産業では軽量化が図られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、この点から出発して、予め作製した、特にドレッシングした自動車用仕上げ革から皮革処理技術で加工可能な皮革部品の製造方法において、特に軽量で、それにもかかわらず伸張性、引張り強度、容易な加工性に対する高度な要求を満たすように構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、この課題を解決するため、請求項1に記載した構成要件の組み合わせを提案する。本発明の有利な他の構成は従属項から明らかである。
【0005】
本発明は、スプリット工程を適確に行えば、仕上げ革の壁厚をさらにかなり減少させることができるという認識に基づいている。このようにして、たとえば乾燥スプリット機を用いてほぼ0.4mm以下の仕上げ革の壁厚が得られ、すなわち自動車用仕上げ革の通常の壁厚のほぼ15%ないし50%まで薄くすることができる。他方、このような壁厚の減少に伴い、革の引張り強度および破壊強度が使用時の耐摩耗性に対する要求を満足させるには十分でないという恐れがある。この欠点をも解消するため、本発明によれば、スプリット工程で仕上げ革をカットして、0.4mm±0.1mmの壁厚を持つ閉じた薄革と、中間スプリット革とを形成させるステップと、押し抜き工程で薄革を裁断して所定の薄革裁断片を形成させるステップと、革に比べて軽量な繊維材および/またはプラスチック材から、薄革裁断片を補完するものとしてライニング裁断片を形成させるステップと、ライニング裁断片を、補完的な薄革裁断片の、表面とは反対側の背面において、ライニングすることで軽量皮革部品を形成させるステップとを含んでいることが提案される。ライニング裁断片の課題は、とりわけ、重量を著しく増大させることなしに皮革部品の引張り強度および破壊強度を高めることである。同時に、ライニング裁断片の材料組成を適当に選定することにより、軽量皮革部品の触感を所望どおりにコントロールすることができる。ライニング裁断片の材料選定に対する他の判断基準は、薄革およびライニング裁断片の伸張性を、機械的負荷時に薄革がライニング材よりも前に破壊しないように整合させることである。
【0006】
この製造方法の他の特徴は、すでになめしを行なった中間スプリット革が付加的に生じることにある。この中間スプリット革はダイレクトに或いは適当な再処理後に皮革処理技術で加工することができる。このため、有利には、中間スプリット革の表面をドレッシングし、たとえば染色、塗装および/または型押しし、次に押し抜き工程で該中間スプリット革を裁断して、所定の中間スプリット革裁断片を形成させ、場合によってはもう一度所望の壁厚にスプリットする。基本的には、押し抜き革裁断片を補完するものとしてのライニング裁断片を布またはプラスチック材から形成させ、ライニング裁断片を中間スプリット革裁断片の背面上にライニングすることが可能である。
【0007】
有利には、予め作製した仕上げ革は1mmないし2mmの初期壁厚を有している。従って、スプリット工程時には薄革は少なくとも0.2mmないし0.5mmの壁厚を有する。
【0008】
本発明の特に有利な構成によれば、ライニング裁断片は多層繊維編物として形成されている。特に、ライニング裁断片は、2つの編物層の間にロッド層をサンドイッチ状に封じ込めたスペースニットとして形成されていてよい。薄革に対するライニング材の伸張性に対する要求を満たすことができるように、これら2つの編物層が異なる伸張値および/または引張り強度を有しているのか有利である。この場合、ライニング裁断片が、その薄革裁断片側または中間スプリット革裁断片側で、他の側よりも小さな伸張性を有しているのが有利であることが明らかになった。
【0009】
他方、軽量皮革部品の触感は、有利には、ライニング裁断片が、その薄革裁断片側とは逆の幅広側または中間スプリット革裁断片側とは逆の幅広側に、弾性層(好ましくは繊維層として形成されるクッション層)を有していることによって、コントロールすることができる。
【0010】
特に薄壁で、連続した閉じた薄革を仕上げ革から製造するためには、スプリット工程を、カッティングウェッジを非対称に研磨した回転バンドカッターを使用して行うのが合目的である。通常はカッティングウェッジの研磨の程度はまちまちであり、本発明では、カッティングウェッジの、研磨の度合いが少ない側が、生成すべき薄革側に向いている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
次に、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1】自動車用の仕上げ革を製造するために必要で且つ本発明による軽量皮革部品の製造に必要な主要な方法ステップを記したブロック図である。
図2】軽量皮革部品の製造過程で発生する種々の生成物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による軽量皮革部品を製造するため、図1にブロック図で示した方法ステップが実施される。なお、生皮1から完成皮革12までに示した方法ステップは公知の技術水準に含まれるものである。
【0013】
方法ステップ2で洗浄、除毛、除肉を行なった後、方法ステップ3でまずいわゆる肉の削り取り(スプリット)を行ない、すなわち皮をほぼ2.2ないし2.6mmの所望の厚さに削り取る。その後、方法ステップ4で動物の皮を脱灰し、なめし、浸酸する。その際皮が膨潤し、柔らかくなる(Hautaufschluss)。これは次のなめし工程5でなめし剤が皮の中へ浸透するのを改善するので望ましい。なめしの際、なめし剤と皮との不可逆結合によって皮組織が安定化され、保護され、これによって革が製造される。なめし工程5の後、いわゆる絞り6においてなめし液をプレスを介して絞りだし、その結果湿気含有量は50ないし60%へ低下する。絞りに引き続いていわゆるウェットブルーソーティングを、種々のレザークラスにおいて設定された品質特性に従って実施する。次の方法ステップ7では、このようにして準備した動物の皮をシェービングする。すなわちスパイラルカッターローラを用いて1mmないし2mmのオーダーの均等な厚さに背面を削り取る。シェービングチップ(削り取った屑)はスプリットの際の廃棄物20と同じように集めて、後処理部へ供給するか、投棄する。残った皮は方法ステップ8で染色し、乾燥させる。
【0014】
オプションの方法ステップ9は、染色および乾燥に引き続いて行われるいわゆる乾燥スプリットである。ここでは革の厚さを均等にさせて所望の大きさに調整することができる。なめしを行ない、染色し、乾燥させた革はクラスト革とも呼ばれる。クラストソーティング10(同様に所定の品質特性に従って行われる)の後、最後に方法ステップ11で革の仕上げを行なう。これは化学的なコーティングを意味し、表面に下塗り層と塗料層とを被着させ、次に保護塗料を被着させる。オプションで、下塗りに引き続いて型押しを行なうことができる。型押しにより特徴的な表面構造が得られる。表面処理の結果得られるものがいわゆる仕上げ革12であり、規格革とも呼ばれる。主に自動車の分野で使用される仕上げ革の場合、まだ1mmと2mmの間の材料厚がある。他方、自動車産業では軽量化が図られる。
【0015】
従って、本発明の特徴は、仕上げ革12から出発して、伸張性および引張り強度に対する高度な要求を満たし、皮革処理技術的に簡単に処理することのできる軽量皮革の製造を可能にしたことにある。このため、仕上げ革を方法ステップ13で乾燥スプリット機に供給し、スプリット工程において、約0.4mm±0.1mmの壁厚を持った高品質の薄革14と、同様に革処理に供給することのできる中間スプリット革15とに分割する。しかしながら、このようにして製造された薄革は、皮革商品を使用するために規定された伸張性、引張り強度、耐摩耗性に対する要求をまだ満たしていない。これを達成するため、本発明の他の特徴は、押し抜き機で裁断した薄革裁断片14の背面を適当なライニング機を用いてライニングすることにある。このため、薄革裁断片を補完するものとして、革に比べて軽量な布、プラスチック、繊維および/または発泡材から成るライニング裁断片を製造し、薄革裁断片の背面にその全体を覆うようにライニングして軽量皮革部品18を形成する。ここでのライニング裁断片の課題は、重量を著しく大きくさせることなく軽量皮革部品の引張り強度と破壊強度とを向上させることである。同時に、ライニング裁断片の材料組成を適当に選定することにより、軽量皮革部品18の触感をコントロールすることができる。材料を選定するうえでの重要な判断基準は、機械的負荷がかかった場合に、ライニング材よりも前に薄革が破断しないように、薄革とライニング材との伸張性を互いに整合させることである。
【0016】
乾燥スプリットステーション13では、さらに、中間スプリット革15が生じる。中間スプリット革はダイレクトに或いは適当な再処理後に皮革処理技術で加工することができる。特に、中間スプリット革15をまずその表面をドレッシングし、たとえば染色し、塗装し、オプションで型押しを行なう。次に、中間スプリット革をその後の処理のために押し抜き工程で裁断して所定の中間スプリット革裁断片を形成させ、場合によっては所望の壁厚にスプリットする。機械的特性を改善するため、オプションで中間スプリット革裁断片の背面をライニング材でライニングしてよい。このとき中間スプリット革裁断片19が形成される。
【0017】
ライニング裁断片の形成のためには、とりわけ軽量皮革部品の場合、2つの編物層の間にサンドイッチ状に封じ込められたロッド層を有する多層繊維編物、たとえばスペースニット(Abstandsgewirke)を使用する。
【0018】
図1では、材料の厚さを変更するための方法ステップを二重枠で示した。図2は製造工程中の材料の厚さの変化を拡大断面図で示している。図2の参照符号は図1で通し番号を付した方法ステップに対応している。生皮1から出発して、方法ステップ3の肉のスプリットで生じる残り皮20と、方法ステップ7のシェービングで生じるシェービングチップ21とは投擲し、或いは、更なる処理に供給する。本発明の特徴は仕上げ革12でもって開始され、仕上げ革は、乾燥スプリット工程13に引き続いて薄革14と中間スプリット革15とに分離される。更なる皮革処理技術加工に供給可能な軽量皮革部品18と中間スプリット皮革部品19とは、図示した実施形態の場合、それぞれライニング層を担持しており、該ライニング層はライニングステーション16と17で塗布されて壁厚を大きくさせる。
【0019】
以上を総括すると以下のようになる。本発明は、自動車分野用に予め作製した仕上げ革12から皮革処理技術で加工可能な皮革部品18を製造するための方法に関する。スプリット工程13で仕上げ革をカットして、該仕上げ革の厚さに関して15%ないし50%の壁厚を持つ連続した閉じた薄革14と、50%ないし85%の壁厚を持つ中間スプリット革15とを形成させる。次に、押し抜き工程で薄革14を裁断して所定の薄革裁断片を形成させ、革に比べて特別に軽量な繊維材および/またはプラスチック材から、薄革裁断片を補完するものとしてライニング裁断片で薄革の背面全体をライニングする。基本的には、中間スプリット革をドレッシングし、裁断して、皮革処理技術で加工可能な中間スプリット皮革部品19を形成させ、場合によって中間スプリット革を所望の厚さにスプリットし、ライニングすることも可能である。
図1
図2