【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1、6及び7の特徴によって達成される。
【0008】
ベース材料としての鉄に加えて、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき最大10重量%、特に最大5重量%のニッケル、及びマンガン含有するオーステナイト鉄ベース合金の形態の本発明による実施形態は、非常に優れた物理的、化学的及びまた機械的な特性によって区別され、したがって、高温又は高い摩擦力にさらされる構成要素を製造するために特に適切である材料を提供する。このような構成要素は、特に、自動車用、例えば排気ガスターボチャージャ用途用の構成要素を含む。これに対し、対照的に、20重量%をはるかに超える高ニッケル含量は、特に、合金材料の必要な耐高温性、したがって、同様に高温におけるその寸法安定性を提供するために、この種類の用途用の従来のオーステナイト鉄ベース合金(例えばEN10295による材料番号1.4848)で共通であり、本発明による鉄ベース合金では、ニッケルは少なくとも部分的にマンガンで置き換えられる。驚くべきことに、本発明によるオーステナイト鉄ベース合金におけるニッケルの代替としてのマンガンの使用が、高温における顕著な熱安定性、したがって寸法安定性、同様に高温強度によって区別され、最大可能な程度に耐酸化性であり、同様に耐高温酸化性及び耐食性であり、同様に優れた摩耗性能を有する材料を同じくもたらすことが確認されている。したがって、本発明による鉄ベース合金は、極度の動作条件にさらされる構成要素のために普遍的に高性能材料のすべての要件を満たす。オーステナイト鉄ベース合金を安定化させるマンガンでニッケルを置き換えることによって、鉄ベース合金の材料コスト、したがって、当該合金から形成された構成要素を製造するためのコストは、高価な変動するニッケルの市場価格とは最大可能な程度に無関係になる。ニッケル含量が約50%低減された場合でさえ、すなわち、鉄ベース合金の総重量に基づき10重量%の最大ニッケル含量を前提として、さらには5重量%のニッケル含量を前提として、材料コストの著しい低減を記録することが可能であり、材料コストは、最大限可能な限り長期間にわたって安定し、ニッケル価格の変動の影響を事実上もはや受けない。これらのプラスの効果がより大きいと、鉄ベース合金内のニッケル含量はより低くなる。本発明による鉄ベース合金内のニッケル含量は、したがって、この結果、鉄ベース合金の総重量に基づき1重量%未満の最大ニッケル含量を示すと推定される不可避の不純物は別として、ニッケルが合金内に存在しないように、0重量%であることが好ましい。
【0009】
本発明によるオーステナイト鉄ベース合金は、従来の工程によって製造することができる。
【0010】
従属請求項は、本発明の有利な発展形態に関する。
【0011】
別に特定しない限り、量の表示は鉄ベース合金の総重量に関する。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、マンガン含量は、鉄ベース合金の総重量に基づき8〜25重量%、特に12〜20重量%である。8重量%のマンガン含量を超えても、非常に優れた熱安定性、すなわち、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき最大10重量%のニッケル、好ましくは最大5重量%のニッケルを含む合金材料の高い高温強度も達成される。マンガン含量が鉄ベース合金の総重量に基づき12〜20重量%、好ましくは15〜17重量%である場合、オーステナイト鉄ベース合金に対してマンガンが有する安定化効果が特に強められる。これらの限度内で、鉄ベース合金は、最大10重量%のニッケル、特に最大5重量%のニッケル、特に1重量%未満のニッケルを含むことができるように高ニッケル含量を置き換えることが可能であり、本発明による鉄ベース合金の化学的、物理的又は機械的な特性に関して不利な影響は記録されない。しかし、マンガン含量は、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき、好ましくは17重量%、特に20重量%、特に25重量%を超えるべきではないが、この理由は、非常に高いマンガン含量、すなわち特に25重量%を超える含量は合金材料の焼入硬化能を低下させるからである。
【0013】
別の実施形態において、本発明によるオーステナイト鉄ベース合金は、鉄及びマンガンに加えて、C、Cr、Si、Nb、Mo、W及びNからなる群から選択された元素の少なくとも1つを含有するという事実によって区別される。これらの元素の少なくとも1つの存在は、まさにこのような元素又はこれらの元素の組み合わせが、本発明による鉄ベース合金を生成するために使用されることを意味すると理解すべきである。鉄ベース合金に加えられた元素は、鉄ベース合金内にあるいは前記鉄ベース合金から形成される構成要素品内に、元素の元の形態で、すなわち元素形態で、例えば含有物又は析出相の形態で、又は元素の派生物の形態で、すなわち、対応する元素の化合物の形態で、例えば鉄ベース合金の製造中に、又は合金から製造される本発明による構成要素を形成するときに形成される金属炭化物又は金属窒化物として存在することができる。それぞれの元素の存在は、この場合、従来の分析工程によって、鉄ベース合金及びそこから容易に製造される構成要素の両方に検出することができる。
【0014】
炭素元素(C)は、ガンマ生成元素であり、黒鉛を結晶化するために、したがって、合金溶融物の流動特性を改善するために主に使用される。炭素元素(C)が鉄ベース合金の総重量に基づき0.05重量%未満の量で存在する場合、球形黒鉛を結晶化することができず、したがって、合金溶融物は低い流動性を有する。このことにより、本発明による鉄ベース合金を製造することが難しくなる。炭素含量が0.5重量%よりも大きい、特に1重量%又はさらに3重量%よりも大きい場合、粗粒黒鉛粒子が形成され、これらの粒子は、加圧ダイキャストによって製造された合金鉄の室温伸度の特性に対して負の効果を有する。さらに、材料の収縮の結果、加圧ダイキャスト中に空洞が形成され、これらの空洞により鉄ベース合金の安定性が低減する。したがって、本発明による鉄ベース合金内の炭素含量は、鉄ベース合金の総重量に基づき好ましくは0.05〜0.7重量%、特に0.2〜0.5重量%、特に0.25〜0.35重量%である。この結果、合金材料の十分な流動性が得られ、本発明による鉄ベース合金のオーステナイト組織が十分に安定化される。
【0015】
窒素(N)は、本発明によるオーステナイト鉄ベース合金に対してマンガンが有する安定化効果を促進する。したがって、マンガンと窒素との組み合わせが特に好ましい。窒素は、ニッケルと同様に、鉄ベース合金の耐温度性に対して有利な影響を有する強力なガンマ生成元素である。オーステナイト組織の安定化に対する顕著な効果は、この場合、鉄ベース合金の総重量に基づき0.05重量%、特に0.1重量%の窒素含量から識別することができる。しかし、鉄ベース合金の総重量に基づき1重量%超、特に2重量%超の窒素濃度が合金材料の収縮の増大によって反映されるように、少量の窒素のみが鉄マトリックス内に溶解可能であり、したがって、本発明によれば、窒素含量は、0.05〜2重量%、特に0.1〜1重量%、特に0.2〜0.4重量%である。
【0016】
本発明による鉄ベース合金内のクロム元素(Cr)は、強力な炭化物形成体であり、その炭化物は鉄ベース合金内の析出相を形成し、その結果、材料の耐温度性、すなわちその高温強度及び高温安定性及び寸法安定性が改良される。さらに、クロムは、Cr
2O
3の表面層、すなわち、酸化物表面層を鉄ベース合金に又はそれから形成された構成要素に形成する能力を有し、合金、したがって構成要素の耐酸化性を効率的に促進する。したがって、クロム元素は、鉄ベース合金が錆びないことを保証するために特に適切である。この効果は、鉄ベース合金の総重量に基づき8重量%、特に12重量%のクロム濃度を前提としても顕著である。しかし、20重量%超、特に25重量%超の高濃度では、クロム元素は、フェライト安定剤として、すなわちアルファ生成元素として作用し、このことは、オーステナイト鉄ベース合金の安定性に不利な効果を有するか、あるいは本発明にとって本質的なオーステナイト組織の形成を妨げる。本発明によれば、したがって、クロム含量は、鉄ベース合金の総重量に基づき8〜25重量%、特に12〜20重量%、特に15〜16.5重量%の範囲にあることが好ましい。
【0017】
ケイ素(Si)は、アルファ生成元素であり、不安定化させるσ相の形成を促進する。σ相は、高硬度の脆性の金属間相である。σ相は、原子半径がごく僅かな差で整合する体心立方金属及び面心立方金属が互いに衝突するときに生じる。このタイプのσ相は、脆化効果をもち、同様に、クロムを引き出す鉄マトリックスの特性のため望ましくない。したがって、本発明による鉄ベース合金は、ここに記載した望ましくない効果が現れることがないように、実質的にσ相を含まないことが好ましい。σ相の形成の低減又は防止は、鉄ベース合金の元素を目標に合わせて選択することによって制御され、特に、合金材料内のケイ素含量が、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき最大4.5重量%、好ましくは最大3重量%であることにより達成される。本発明のさらなる実施形態によれば、本発明による鉄ベース合金は、実質的にσ相を含まない。このことは、最高1050℃の温度でこの鉄ベース合金から製造された構成要素の操作に当てはまる。このことは、材料の脆化を有効に抑制し、その結果、構成要素の耐久性が高められる。他方、ケイ素は、液体金属合金の流動性を高め、さらに、鉄ベース合金の耐酸化性を高める材料の表面の不動態化酸化物層を形成する。本発明によれば、ケイ素含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき0.1〜4.5重量%、特に0.5〜3重量%、特に0.5〜1.2重量%の範囲にあることが好ましい。
【0018】
ニオブ(Nb)は、アルファ生成元素であり、ケイ素と同様に、オーステナイト鉄ベース合金内のσ相の形成を促進する。本発明による鉄ベース合金内のニオブ含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき4.5重量%、好ましくは3重量%を超えるべきでない。他方、ニオブは、本発明による鉄ベース合金のオーステナイト組織の安定化、特にその耐高温性に寄与する炭化物形成体である。本発明によれば、ニオブ含量は、したがって、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき0.1〜4.5重量%、特に0.5〜3重量%、特に0.5〜1.2重量%の範囲にあることが好ましい。
【0019】
モリブデン(Mo)は、アルファ生成元素であり、ケイ素及びニオブと同様に、オーステナイト鉄ベース合金内のσ相の形成を促進する。本発明による鉄ベース合金内のモリブデン含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき5重量%、好ましくは3重量%を超えるべきでない。他方、モリブデンは、高温における合金材料の耐クリープ性を高める。本発明によれば、モリブデン含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき最大5重量%、特に最大3重量%であることが好ましい。
【0020】
タングステン(W)は、同じくアルファ生成元素であり、ケイ素、ニオブ及びモリブデンと同様に、オーステナイト鉄ベース合金内のσ相の形成を促進する。本発明による鉄ベース合金内のタングステン含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき7重量%、好ましくは4重量%を超えるべきでない。他方、タングステンは、本発明による鉄ベース合金のオーステナイト組織の安定化、特にその耐高温性に寄与する炭化物形成体である。本発明によれば、タングステン含量は、したがって、鉄ベース合金の総重量に基づき最大7重量%、特に最大4重量%であることが好ましい。
【0021】
前記元素は、鉄ベース合金に対する要求プロフィールに応じて、必要に応じて互いに組み合わせることができる。さらに、鉄ベース合金はまた、ここに提示していない別の元素を含むことができる。
【0022】
別の実施形態において、本発明によるオーステナイト鉄ベース合金は、実質的に次の元素を含有するという事実によって区別される。
C:0.05〜0.7重量%、特に0.2〜0.5重量%、
Cr:8〜25重量%、特に12〜20重量%、
Mn:8〜25重量%、特に12〜20重量%、
Ni:10重量%以下、特に5重量%以下、
Si:0.1〜4.5重量%、特に0.5〜3重量%、
Nb:0.1〜4.5重量%、特に0.5〜3重量%、
Mo:5重量%以下、特に3重量%以下、
W:7重量%以下、特に4重量%以下、
N:0.05〜2重量%、特に0.1〜1重量%、
Fe:100重量%まで。
【0023】
量の表示は、それぞれ、ここでは本発明による鉄ベース合金の総重量に関する。既述したように、前記元素の存在は、元素が、元素形態でかつ鉄ベース合金内の元素の化合物の1つの形態で、したがって、本発明による鉄ベース合金から形成される構成要素に存在することができることを意味すると理解すべきである。この実施形態では、実質的に、前述の元素は示した量で存在している。このことは、不可避の不純物が存在し得るが、これらの不純物は、鉄ベース合金の総重量に基づき2重量%未満、特に1重量%未満を構成することが好ましいことを意味する。個々の元素の量は、この場合、従来の基本的な分析方法によって鉄ベース合金に、あるいは代わりに、当該合金から形成された構成要素にも検出することができる。
【0024】
驚くべきことに、正確に、記載した組み合わせにより、材料、すなわち、特にバランスした特性プロフィールを有する鉄ベース合金が提供されることが確認されている。本発明によるこの組成により、特に高い高温強度、最高1050℃の耐温度性、したがって、高温における寸法安定性及び破壊強度を有し、かつ例えばターボチャージャの運転中に本発明による鉄ベース合金から形成された構成要素に作用するときに、特に高い動作温度における傑出した耐食性及び耐酸化性によって、及びまた高い流動限度によって区別される合金材料が提供される。したがって、このような鉄ベース合金は、永続的にも高温及びまた高度の摩擦にさらされる特に自動車分野のすべてのタイプの構成要素に理想的に適している。ニッケル含量は従来のオーステナイト鉄ベース合金と比較して著しく低減されるので、鉄ベース合金のコストは、安定レベルに低減され、最大可能な程度に変動を何ら受けず、これにより、鉄ベース合金及び当該合金から製造されるすべての構成要素を製造するためのコストを時間と無関係に評価することが可能になる。
【0025】
別の実施形態によれば、本発明によるオーステナイト鉄ベース合金は、実質的に次の元素を含有するという事実によって区別される。
C:0.25〜0.35重量%、
Cr:15〜16.5重量%、
Mn:15〜17重量%、
Si:0.5〜1.2重量%、
Nb:0.5〜1.2重量%、
W:2〜3重量%、
N:0.2〜0.4重量%及びFe、
ここで、鉄が残部を形成し、鉄ベース合金は実質的にニッケルを含まない。この実施形態では、実質的にニッケルはなく、すなわち、ニッケルは技術的に不可避の不純物は別として存在しない。合金材料は、傑出した化学的、物理的及び機械的特性によって、特に優れた耐温度性、すなわち高い高温強度、高い流動限度及び高温度における破壊強度によって、及びまた非常に優れた耐酸化性及び耐食性によって区別される。ニッケル添加物なしで済ますことによって、合金材料のコストは、永続的に低レベルで安定化され、事実上変化又は変動を受けない。このように、上方に遡及してコストを補正する必要なしに、本発明による合金材料から製造された構成要素の製造をコストに関して長期的に計画することも可能である。したがって、材料は、特に構成要素の動作温度に関して高い要求を受ける任意の構成要素に理想的に適している。
【0026】
本発明による鉄ベース合金は、従来の工程によって、例えば加圧ダイキャスト工程によって製造することができる。同様に、従来技術からの熱処理技術及び熱機械処理技術が、本発明による合金材料を製造するために、あるいは合金材料の強度を確立しかつ強化するか又は高めるために適切である。合金材料及びそれから製造される物品を製造するために適切な例示的な方法は、次の文献、すなわち米国特許第4,608,094A号明細書、米国特許第4,532,974A号明細書及び米国特許第4,191,094A号明細書に示されている。
【0027】
本発明によれば、同様に記載しているのは、ターボチャージャ用途用、特にディーゼル及び火花点火エンジン用の構成要素、特に上述のような鉄ベース合金から形成されるタービンケーシングである。既述したように、ターボチャージャの構成要素の品質に関して高い要求が具体的に課せられるが、この理由は、ターボチャージャが最高1050℃の高温でかつ酸化性雰囲気内で操作されるからである。上述の特性によって、本発明による鉄ベース合金は、したがって、ターボチャージャ用途用の構成要素、特にタービンケーシングを形成するために理想的に適している。
【0028】
したがって記載しているのは、最高1050℃の範囲の最適な耐温度性を有し、同様に高い高温強度を有し、かつ高い耐摩耗性及び耐食性を有し、特に高い動作温度における酸化に対する感受性の低減によってさらに区別されるターボチャージャ用途用の構成要素である。さらに、本発明による構成要素、したがって、本発明による排気ガスターボチャージャは、永続的操作において同様に寸法的に安定しかつ耐破壊性であり、高い流動限度を有する。ニッケル含量は従来の構成要素と比較して著しく低減されるので、構成要素の安定した低レベルのコスト構造がさらに達成され、これにより、前記構成要素の市場にかなり受け入れられるようになる。
【0029】
本発明による鉄ベース合金の有利な実施形態は、ターボチャージャ用途用の本発明による構成要素の実施形態にも適用可能である。
【0030】
独立して取り扱うことができる対象物として、請求項7は、既述したように、少なくとも1つの構成要素を備える排気ガスターボチャージャを規定しており、構成要素は、本質的に、マンガンと、それぞれ鉄ベース合金の総重量に基づき最大10重量%、特に最大5重量%のニッケルとを含有する鉄ベース合金から構成される。このような排気ガスターボチャージャは、最高1050℃の範囲の非常に優れた耐温度性によって区別され、さらに高い高温強度を有し、かつ酸化に対する感受性の低減と共に高い耐摩耗性及び耐食性を有する。この傑出した特性プロフィールにより、極度の周囲条件下の排気ガスターボチャージャに永続的な操作も適格になる。最大10重量%、特に最大5重量%のニッケル含量、したがって、従来の構成要素と比較して著しく低減されるニッケル含量を有する少なくとも1つの構成要素の使用により、さらに、低レベルのターボチャージャの安定したコスト構造が達成され、これにより、前記ターボチャージャの市場にかなり受け入れられるようになる。
【0031】
本発明による構成要素、及びまた本発明による鉄ベース合金の有利な実施形態は、本発明による排気ガスターボチャージャの実施形態にも適用可能である。