特許第5938473号(P5938473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938473
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】多価抗原結合Fv分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20160609BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C07K16/46
   C12N15/00 A
   A61K39/395 N
   A61K31/7088
   A61K48/00
   A61P35/00
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-520541(P2014-520541)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(65)【公表番号】特表2014-527515(P2014-527515A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】EP2011062673
(87)【国際公開番号】WO2013013700
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2014年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504099171
【氏名又は名称】アフィメート テラポイティクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】リトル, メルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ル ガル, ファブリセ
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/056605(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/109924(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/106903(WO,A1)
【文献】 Biochem. Biophys. Res. Commun., 2004, 318(2), pp.507-513
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00−16/46
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖からなる二量体抗原結合分子であって、第一及び第二のポリペプチド鎖のそれぞれが、
− 第一の抗原Aに特異的な軽鎖可変ドメインである第一ドメインVA;
− 第二の抗原Bに特異的な重鎖可変ドメインである第二ドメインVB;
− 第二の抗原Bに特異的な軽鎖可変ドメインである第三ドメインVB;及び
− 第一の抗原Aに特異的な重鎖可変ドメインである第四ドメインV
を含有し、ここで、
− 前記ドメインが、前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、前記ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAの順で配置され、かつ、
− 前記第一のポリペプチド鎖の前記第一ドメインVAが、前記第二のポリペプチド鎖の前記第四ドメインVAと会合して、前記第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成し、
− 前記第一のポリペプチド鎖の前記第二ドメインVBが、前記第二のポリペプチド鎖の前記第三ドメインVBと会合して、前記第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し、
− 前記第一のポリペプチド鎖の前記第三ドメインVBが、前記第二のポリペプチド鎖の前記第二ドメインVBと会合して、前記第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し、
− 前記第一のポリペプチド鎖の前記第四ドメインVAが、前記第二のポリペプチド鎖の前記第一ドメインVAと会合して、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成している、抗原結合分子であって、
前記抗原結合分子がCD3及びCD19に特異的である抗原結合分子
【請求項2】
前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖が、非共有結合によって会合している、請求項1に記載の抗原結合分子。
【請求項3】
前記抗原結合分子が四価である、請求項1又は請求項2に記載の抗原結合分子。
【請求項4】
前記ドメインが、ヒトドメイン又はヒト化ドメインである、請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項5】
前記抗原結合分子が少なくとも1つの追加の機能単位を含む、請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項6】
第一の軽鎖可変ドメイン(VA)及び第一の重鎖可変ドメイン(VA)が、CD3に特異的である、請求項に記載の抗原結合分子。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖をコードする核酸分子。
【請求項8】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の抗原結合分子、又は請求項に記載の核酸分子、及び薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項9】
求項1〜請求項のいずれか一項に記載の抗原結合分子を含有する医療用組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しいタンデムFvダイアボディ及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クアドローマ由来抗体の代替品として、様々な様式の多価の組換え抗体断片が設計されてきた。
【0003】
US7,129,330、Kipriyanovら.J.Mol.Biol.(1999)293:41−56、及びKipriyanov Meth.Mol.Biol.(2009)562:177−193には、特定の様式の多価抗体断片の構築及び生産方法が記載されている。このような多価抗体断片は、その設計が、ダイアボディについて説明されているとおり(Holligerら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444−6448)2種類の異なるポリペプチドのV及びV可変ドメイン間の分子間対形成に基づいていることから「タンデムダイアボディ」(TandAb(登録商標))と呼ばれている。記載された抗体は、CD19及びCD3に対して二重特異性である。二価のscFv−scFv(scFv)タンデムとは対照的に、タンデムダイアボディは、4つの抗原結合部位を有することから四価である。タンデムダイアボディを形成するポリペプチドのN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAの順にドメインが配置されたポリペプチドが記載されている。可変ドメイン及びそれらの間のリンカーペプチドの順序は、各ドメインが別の同一分子中の相補的ドメインと会合することにより二量体化した四価タンデムダイアボディが形成されるように設計されている。タンデムダイアボディは、イムノグロブリンの定常ドメインを持たない。タンデムダイアボディは、高親和性、より高い結合活性、より低いクリアランス率などの利点を有し、さらにin vitro及びin vivoにおいて好ましい効率性を示すことが報告された。
【0004】
例えば抗CD16、抗EpCAM、及び抗CD30などの抗体特異性を含むいくつかの更なるタンデムダイアボディが公知である。しかし、いずれのケースにおいても、タンデムダイアボディのポリペプチド鎖に沿った4種の抗体ドメインの順は、常にN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAである。ここで、V及びVは、抗原A及びBに対して特異性を有する抗体の、それぞれ、重鎖及び軽鎖可変ドメインを示す。
【0005】
このような二重特異性タンデムダイアボディは、腫瘍細胞(例えば、B−CLL細胞)と、ヒト免疫系のエフェクター細胞(NK細胞、T細胞、単球、マクロファージ又は顆粒球)との間に架橋を形成することにより、腫瘍細胞の殺傷を可能とする。腫瘍細胞と細胞傷害性細胞とが強く結合することで、腫瘍細胞の破壊が誘導される。このようなタンデムダイアボディは、治療応用、例えば、腫瘍治療における治療コンセプトに適することが証明されているが、一方で、なお改善された抗原結合分子が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様において、本発明は、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖を含む二量体抗原結合分子であって、各々の前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖は、(a)第一の抗原Aに特異的な軽鎖可変ドメインである第一ドメインVA;(b)第二の抗原Bに特異的な重鎖可変ドメインである第二ドメインVB;(c)第二の抗原Bに特異的な軽鎖可変ドメインである第三ドメインVB;及び(d)第一の抗原Aに特異的な重鎖可変ドメインである第四ドメインVAを含み、ここで、前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、該ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけて前記ドメインがVA−VB−VB−VAの順で配置され、かつ、第一のポリペプチド鎖の第一ドメインVAが、第二のポリペプチド鎖の第四ドメインVAと会合して、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成し;かつ、第一のポリペプチド鎖の第二ドメインVBが、第二のポリペプチド鎖の第三ドメインVBと会合して、第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し;かつ、第一のポリペプチド鎖の第三ドメインVBが、第二のポリペプチド鎖の第二ドメインVBと会合して、第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し;かつ、第一のポリペプチド鎖の第四ドメインVAが、第二のポリペプチド鎖の第一ドメインVAと会合して、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成している、二量体抗原結合分子を提供するものである。
【0007】
ある態様において、本明細書に記載された抗原結合分子は、ホモ二量体であり、その第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、同じアミノ酸配列を有する。ある態様において、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、非共有結合によって会合している。ある態様において、抗原結合分子は四価である。ある態様において、抗原結合分子は二重特異性である。ある態様において、ドメインは、ヒトドメイン又はヒト化ドメインである。ある態様において、抗原結合分子は、少なくとも1つの追加の機能単位を含む。ある態様において、抗原結合分子は、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄細胞又は食細胞に特異的である。ある態様において、抗原結合分子は二重特異性であり、更に、該抗原結合分子は、腫瘍細胞に特異的である。ある態様において、第一の軽鎖可変ドメイン(VA)及び第一の重鎖可変ドメイン(VA)は、腫瘍細胞に特異的である。ある態様において、抗原結合分子は、アルブミン及びCD3に対して二重特異性である。
【0008】
他の態様において、本発明は、(a)第一の抗原Aに特異的な軽鎖可変ドメインである第一ドメインVA;(b)第二の抗原Bに特異的な重鎖可変ドメインである第二ドメインVB;(c)第二の抗原Bに特異的な軽鎖可変ドメインである第三ドメインVB;及び(d)第一の抗原Aに特異的な重鎖可変ドメインである第四ドメインVAを含むポリペプチド鎖であって、ここで、前記ポリペプチド鎖において、該ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけて前記ドメインがVA−VB−VB−VAの順で配置されているポリペプチド鎖を提供するものである。ある態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成するように会合しておらず、かつ、第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成するように会合していない。ある態様において、第一ドメインVAと第二ドメインVB、第二ドメインVBと第三ドメインVB、及び、第三ドメインVBと第四ドメインVAは、約12個以下のアミノ酸残基で隔てられている。ある態様において、前記ポリペプチド鎖は、第一ドメインVAの上流及び/又は第四ドメインVAの下流にアミノ酸残基を含む。ある態様において、前記ポリペプチド鎖は、追加の機能単位と結合している。特定の態様において、前記可変ドメインは、アルブミン及びCD3に特異的である。
【0009】
他の態様において、本発明は、本明細書に記載されたポリペプチド鎖をコードする核酸分子を提供する。他の態様において、本発明は、本明細書に記載された抗原結合分子、ポリペプチド鎖又は核酸分子、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
更に他の態様において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー、癌を治療するための医薬品としての、及び/又は、免疫抑制薬としての抗原結合分子の医療的使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る抗原分子をコードする構築物の遺伝子構成の模式図である。図中、VAは、抗原Aに特異的な軽鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VBは、抗原Bに特異的な重鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VBは、抗原Bに特異的な軽鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VAは、抗原Aに特異的な重鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、L1は、VAとVBとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合であり、L2は、VBとVBとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合であり、L3は、VBとVAとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合である。
図2】機能的ではないモノマーのポリペプチド鎖(A)から、第一のポリペプチド鎖1及び第二のポリペプチド鎖2の可変ドメインが互いに分子間で対を形成することにより(B)、本発明に係るタンデムダイアボディの様式の機能的な抗原結合分子になることによる、本発明の二量体抗原結合分子形成の模式図である。図中「1」は、第一のポリペプチド鎖を示し、「2」は、第二のポリペプチド鎖を示し、VAは、抗原Aに特異的な軽鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VBは、抗原Bに特異的な重鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VBは、抗原Bに特異的な軽鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、VAは、抗原Aに特異的な重鎖可変イムノグロブリンドメインを示し、L1は、VAとVBとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合であり、L2は、VBとVBとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合であり、L3は、VBとVAとを接続するペプチドリンカー又はペプチド結合である。
図3】細胞傷害性アッセイにおけるCD19×CD3タンデムダイアボディの比較を示す。オプション0は、VA−VB−VB−VAのドメイン順を有する抗体A1である。オプション2は、本発明のVA−VB−VB−VAのドメイン順を有する抗体Bである。1×10個のカルセイン標識Raji細胞を、5×10個のPBMCと共に、図に示す濃度に段階的に増加させたCD19×CD3タンデムダイアボディの存在下で培養した。PBMCは、25U/mLのヒトIL−2の存在下で一晩培養し、その後アッセイでエフェクター細胞として用いた。培養4時間後、アポトーシス標的細胞から放出された細胞培養培地中の蛍光性カルセインを520nmで測定し、特異的溶解率%(% specific lysis)を計算した。グラフパッド(GraphPad)ソフトウェアを用いて非線形回帰によりEC50値を解析した。二重試験の平均値及び標準偏差をプロットした。
図4】細胞傷害性アッセイによるCD19×CD3タンデムダイアボディの比較を示す。オプション0は、VA−VB−VB−VAのドメイン順を有する抗体A2である。オプション2は、本発明のVA−VB−VB−VAのドメイン順を有する抗体Cである。1×10個のカルセイン標識Raji細胞を、5×10個の新たに単離したPBMCと共に、図に示す濃度に段階的に増加させたCD19×CD3タンデムダイアボディの存在下で培養した。培養4時間後、アポトーシス標的細胞から放出された細胞培養培地中の蛍光性カルセインを520nmで測定し、特異的溶解率%(% specific lysis)を計算した。グラフパッドソフトウェアを用いて非線形回帰によりEC50値を解析した。二重試験の平均値及び標準偏差をプロットした。
図5】HSA存在下又は非存在下における実施例2のHSA×CD3 TandAb抗体によるTCR調節を示す。CD3Jurkat細胞を、段階的に濃度を増加させたHSA×CD3 TandAbのオプション0(VA−VB−VB−VA;三角)抗体又はオプション2(本発明のVA−VB−VB−VA;四角)抗体の存在下、50mg/mLのHSAを添加(中黒の記号)又は非添加(白抜きの記号)で、2時間培養した。洗浄後、残存したTCR/CD3複合体を、PC5コンジュゲート抗TCRα/β抗体を用いてフローサイトメトリーで測定した。平均蛍光値を、非線形回帰による解析(実験CAB−306)に用いた。
図6】抗体BをコードするpCDNA5FRTのベクターマップを制限酵素切断部位と共に示す。VH及びVLは、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを示す。
図7】抗体CをコードするpSKK3のベクターマップを制限酵素切断部位と共に示す。VH及びVLは、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1つの態様において、本発明は、1つのポリペプチド鎖中で互いに結合した4つのイムノグロブリンドメイン(2つの重鎖可変ドメイン及び2つの軽鎖可変ドメイン)を有し、かつ、該ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAの順に配置された、組換え二量体四価抗原結合分子を提供する。このような本発明の抗原結合分子は、例えば、増強された免疫応答又は増強された免疫抑制などの増強された生物活性を誘発する。
【0013】
一実施形態において、CD3及びCD19に特異的であり、かつ、VA−VB−VB−VAのドメイン順であるポリペプチド鎖を有するタンデムダイアボディの様式の二量体二重特異性抗原結合分子は、同一ドメインを有する類似タンデムダイアボディ分子であって、逆のドメイン順VA−VB−VB−VAである分子よりも、in vitroで60倍超の高い活性、すなわち細胞傷害性を有することが示される。
【0014】
他の実施形態において、アルブミン(HSA)及びCD19に特異的であり、かつ、VA−VB−VB−VAのドメイン順であるポリペプチド鎖を有するタンデムダイアボディの様式の二量体二重特異性抗原結合分子は、同一ドメインを有する類似タンデムダイアボディ分子であって、逆のドメイン順VA−VB−VB−VAである分子よりも、in vitroで有意により有効なT細胞受容体調節活性、すなわちより高い免疫抑制作用を有することが示される。
【0015】
従って、ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAのドメイン順を有するタンデムダイアボディは、免疫療法においてさらに高い能力を有する。増強された生物活性のさらなる利点は、このようなタンデムダイアボディの治療的有効投与量が少量となり得る点である。さらに、投与量がより少量となるため、投与された抗原結合分子によって引き起こされる副作用も低減され得る。理論にとらわれずに言えば、新しいドメイン順は、従来技術のタンデムダイアボディと比較して、二量体抗原結合分子の抗原Aと抗原Bとの間の架橋形成の改変が可能とするものであり、さらに本発明のある態様においては、それにより、従来技術の二量体抗原結合分子よりも効率的に、二量体抗原結合分子が標的抗原、例えば受容体に結合することが可能となる。
【0016】
よって、二量体抗原結合分子を形成する各ポリペプチド鎖の4つの可変ドメインが、各ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAの順で配置される場合、タンデムダイアボディのような二量体抗原結合分子の生物活性を増強することができる。誘発される「生物活性」は抗原結合分子の特異性によって決まり、このような生物活性としては、細胞傷害性、貪食、抗原提示、サイトカイン放出又は免疫抑制、例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)が挙げられる。
【0017】
いくつかの実施形態において、本発明は、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖を含む二量体抗原結合分子であって、前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖のそれぞれは、第一の抗原Aに特異的な軽鎖可変ドメインである第一ドメインVA、第二の抗原Bに特異的な重鎖可変ドメインである第二ドメインVB、第二の抗原Bに特異的な軽鎖可変ドメインである第三ドメインVB、第一の抗原Aに特異的な重鎖可変ドメインである第四ドメインVAを含み、かつ、前記ドメインは、前記第一のポリペプチド鎖及び前記第二のポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、前記ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAの順で配置されている二量体抗原結合分子を提供するものである。
【0018】
いくつかの実施形態において、第一、第二、第三、及び第四の可変ドメインは、同じポリペプチド鎖内での分子内対形成を阻害する向きに配置され、かつ、第一のポリペプチド鎖の第一ドメインVAが、第二のポリペプチド鎖の第四ドメインVAと会合して、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成し、第一のポリペプチド鎖の第二ドメインVBが、第二のポリペプチド鎖の第三ドメインVBと会合して、第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し、第一のポリペプチド鎖の第三ドメインVBが、第二のポリペプチド鎖の第二ドメインVBと会合して、第二の抗原Bに対する抗原結合部位を形成し、第一のポリペプチド鎖の第四ドメインVAが、第二のポリペプチド鎖の第一ドメインVAと会合して、第一の抗原Aに対する抗原結合部位を形成するように、第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖とが会合、すなわち二量体化している。
【0019】
用語「抗原結合分子」は、多価抗原結合特性を有し、好ましくは少なくとも4つの抗原結合部位を有するイムノグロブリン誘導体を意味する。各抗原結合部位は、同じ抗原(すなわちエピトープ)特異性である重鎖可変ドメインV及び軽鎖可変ドメインVによって形成される。好ましくは、本発明に係る抗原結合分子は、イムノグロブリンの定常ドメイン又はイムノグロブリンの定常ドメインの断片を有さないが、以下で記載されるいくつかのケースでは、定常ドメイン又はその一部が、抗原結合分子に結合していてもよい。
【0020】
抗原結合分子は、「二量体」であり、この用語は、2つのポリペプチド単量体の複合体を意味する。これらの2つのポリペプチド単量体は、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖である。好ましくは、抗原結合分子は、「ホモ二量体」であり、この用語は、抗原結合分子が同一ポリペプチド単量体で構成されていることを意味する。本発明の好ましいホモ二量体抗原結合分子において、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、同じアミノ酸配列を有していてもよく、すなわち第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は同一であり、従って、同じ単一のポリヌクレオチドによってコードされ、発現される。2種類の別々のポリヌクレオチドによってコードされているヘテロダイマーである、いわゆる二重特異性ダイアボディはこれとは異なる。先に記載した抗原結合分子においては、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖のそれぞれが、4つの可変ドメインを含み、4つの結合部位が形成され、かつ、抗原結合分子は四価である。このような四価のホモ二量体抗原結合分子は、本技術分野ではタンデムダイアボディとして一定程度認識されているものである。
【0021】
好ましくは、抗原結合分子において、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、非共有結合によって互いに会合しており、特には、第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖との間に共有結合がないことを条件とする。しかし、所望により、2つのポリペプチド鎖は、少なくとも1つの共有結合による結合により、例えば異なるポリペプチド鎖のシステイン残基同士のジスルフィド架橋により、さらに安定化されていてもよい。
【0022】
用語「ポリペプチド鎖」は、アミド結合で結合したアミノ酸残基のポリマーを意味する。第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、好ましくは、分岐していない単鎖の融合タンパク質である。第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、4つのドメインは、第二ドメインVBが第一ドメインVAのC末端側にあり、第三ドメインVBが第二ドメインVBのC末端側にあり、第四ドメインVAが第三ドメインVBのC末端側にあるように配置される。第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、第一ドメインVAのN末端及び/又は第四ドメインVAのC末端に隣接して追加のアミノ酸残基を有していてもよい。例えば、ポリペプチド鎖は、該ポリペプチドの精製に有用となり得るタグ配列を、好ましくはC末端に含有してもよい。タグ配列としては、His−タグを挙げることができ、例えば6個のHis残基からなるHis−タグが挙げられる。
【0023】
いくつかの実施形態において、第一、第二、第三、及び第四ドメインは、同じポリペプチド鎖のドメインが互いに会合しない、すなわち対を形成しないように共有結合によって接続している。これらのドメインは、第一ドメインVAが、第一のリンカーL1により第二ドメインVBと結合し、第二ドメインVBが、第二のリンカーL2により第三ドメインVBと結合し、第三ドメインVBが、第三のリンカーL3により第四ドメインVAと結合するように連結されていてもよく、ここで、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖のそれぞれにおいて、第一のリンカーL1及び第三のリンカーL3は、中央リンカーL2に対して末端に位置する。リンカーL1、リンカーL2、及びリンカーL3はそれぞれ、少なくとも1個のアミノ酸残基を含むペプチドリンカーであってもよいし、又は2つの隣接するドメイン間にアミノ酸残基がまったく介在しないペプチド結合であってもよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、それぞれのリンカーL1、L2、及びL3の長さは、第一のポリペプチド鎖のドメインが第二のポリペプチド鎖のドメインと会合して二量体抗原結合分子を形成することができるような長さである。リンカーの長さは、抗原結合分子の柔軟性に影響を与える。抗原結合分子の望ましい柔軟性は、標的抗原の密度、及び標的抗原、すなわちエピトープの接近しやすさによって決まる。リンカーが長いほど、より機動的な抗原結合部位を有するより柔軟な抗原結合分子となる。二量体抗原結合分子の形成に与えるリンカー長の影響は、例えばTodorovskaら、2001 Journal of Immunological Methods 248:47−66;Perisicら、1994 Structure 2:1217−1226;Le Gallら、2004、Protein Engineering 17:357−366、及びWO94/13804に記載されている。
【0025】
ある好ましい実施形態において、リンカーL1、L2、及び/又はL3は「短い」、すなわち0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は約12個のアミノ酸残基からなる。このような短いリンカーは、異なるポリペプチド鎖の軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメイン間が結合して抗原結合部位を形成することにより、第一のポリペプチド鎖と第二のポリペプチド鎖とが正しい二量体を形成するために好都合となる。特に、2つの隣接するドメインVB及びVBにより、同じポリペプチド鎖内で単鎖Fv(scFv)抗原結合単位が形成されることを防ぐため、中央リンカーL2は短いべきである。中央リンカーL2は、ポリペプチド鎖の柔軟性に影響を与える。中央リンカーL2が長く柔軟である(一般的に約12個以上のアミノ酸残基からなる)場合、一つのポリペプチド鎖の頭部と尾部が会合するように折り畳まれて、当技術分野において単鎖ダイアボディとして知られる単鎖抗原結合分子を形成する可能性がある。中央リンカーL2が短く剛直な場合、ポリペプチド鎖は頭部と尾部が会合するように折り畳まれることができず、他のポリペプチド鎖と二量体化する。頭部と尾部が会合するように折り畳まれることを防ぐためのリンカーのアミノ酸残基の数は、ポリペプチド内に組みこまれる可変ドメインの種類に依存する。一般的に、リンカーを約12個以下のアミノ酸残基と短くすることにより、同じポリペプチド鎖の隣接するドメインが互いに相互作用することは大体防ぐことができる。よって、中央リンカーL2ならびに末端のリンカーL1及びL3は、同じポリペプチド鎖の隣接するドメインが対形成することを防ぐために、好ましくは、約12個以下のアミノ酸残基からなるべきである。本発明の好ましい実施形態において、リンカーL1、L2、及び/又はL3は、約3〜約10個の連続したアミノ酸残基からなる。リンカーは、異なる数のアミノ酸残基からなっていてもよいが、末端のリンカーL1及びL3が、同じ数のアミノ酸残基を有するか、又は長さにおいて1個もしくは2個のアミノ酸残基より大きな違いがないことが好ましい。本発明のある態様において、リンカーL1、L2、及び/又はL3の少なくとも1つが、9個のアミノ酸残基からなる。本発明の特定の実施形態において、3つのリンカーL1、L2、及びL3の全てが、9個のアミノ酸残基からなる。ある実施形態において、リンカーL1、L2、及び/又はL3の少なくとも1つが、3〜10個の間のアミノ酸残基からなる。
【0026】
追加のアミノ酸残基により、さらなる柔軟性がもたらされる。別の態様において、中央リンカーL2は、ポリペプチド鎖の頭部と尾部が会合するように折り畳まれることを防ぐために約12個以下のアミノ酸残基を有していてもよく、かつ、末端のリンカーL1及び/又はL3の少なくとも1つは、さらなる柔軟性を与えるために約12個より多いアミノ酸残基を有していてもよい。他の実施形態において、12個よりも多いアミノ酸残基を有する中央リンカーL2を有する2つのポリペプチド鎖は、正しく互いに二量体化して、四価の二量体抗原結合分子になる(例えばLe Gallら、2004、Protein Engineering 17:357−366を参照)。しかし、それより長いリンカー、例えば約13個以上、特に約15個以上のアミノ酸残基からなるリンカーが利用される場合、二量体抗原結合分子は、このような2つのポリペプチド鎖間の少なくとも1つの共有結合によりさらに安定化させることができる。
【0027】
リンカーのアミノ酸組成に関して、いくつかの実施形態では、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖の二量体化に干渉しないようなペプチドが選択される。例えばグリシン及びセリン残基を含むリンカーは、一般的には柔軟性及びプロテアーゼ耐性を付与する。リンカーのアミノ酸配列は、例えば、分子の抗原結合及び生産収率を改善するためにファージディスプレイ法によって最適化することができる。本発明の特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列GGSGGSGGSを含んでもよい。
【0028】
第一ドメインVA、第二ドメインVB、第三ドメインVB、及び第四ドメインVAは、イムノグロブリンの軽鎖及び重鎖可変ドメインである。可変ドメインは、抗原と接触する残基を含有する超可変ループ又は相補的結合領域(CDR)と、正確な折り畳みとCDRの提示に寄与するセグメントとを含む。各重鎖及び軽鎖可変ドメインのそれぞれが、対応する3つのCDRを含むことが好ましい。これらのドメインは、例えばIgA、IgD、IgE、及びIgM又はそれらのサブクラスなどのあらゆるイムノグロブリンクラスに由来することができる。イムノグロブリンは、動物、特に哺乳動物由来であってもよい。各ドメインは、完全なイムノグロブリンの重鎖もしくは軽鎖可変ドメイン、突然変異体、天然に存在する可変ドメインの断片もしくは誘導体、又は合成ドメイン、例えば遺伝子操作された組換えドメインであってもよい。誘導体とは、天然に存在する可変ドメインのアミノ酸配列と、少なくとも1つのアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されるように異なる可変ドメインである。合成ドメイン、例えば組換えドメインは、ハイブリドーマ由来の抗体、又はファージディスプレイイムノグロブリンライブラリーから、例えば周知の再現可能な方法によって得てもよい。例えばファージディスプレイ法は、ヒトイムノグロブリン配列由来のライブラリーをスクリーニングすることによって、抗原に対するヒト抗体の可変ドメインを得るのに用いることができる。最初に選択された抗体の親和性を、親和性の成熟、例えば鎖シャッフリング又はランダム突然変異誘発によってさらに高めることができる。当業者は、天然又は組換え抗体からドメインを得る方法について熟知している(実験マニュアルとして、例えば、Antibody engineering:methods and protocols/Benny K.C.Lo編;Benny K.C.IIシリーズ:Methods in molecular biology(Totowa、N.J.)を参照)。一般的に、本発明の可変ドメイン源として本技術分野で公知のあらゆる抗体を用いることができる。
【0029】
本発明の所定の態様において、第一ドメインVA、第二ドメインVB、第三ドメインVB、及び第四ドメインVAの少なくとも1つ、好ましくは全てが、完全ヒト、ヒト化又はキメラドメインである。ヒト化可変ドメインは、実質的にヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を有するフレームワーク領域と、非ヒトイムノグロブリンのCDRとを含む。ヒト化抗体は、例えばCDRグラフティングなどの十分に確立された方法によって生産することができる(例えば、Antibody engineering:methods and protocols/Benny K.C.Lo編;Benny K.C.IIシリーズ:Methods in molecular biology(Totowa、N.J.)を参照)。従って、当業者であれば、ヒト免疫系における免疫原性を低減させ、かつ、抗原結合分子の効率を改善するために、当技術分野で公知の標準的な分子生物学的な手法を用いて、非ヒト起源、例えばマウスからヒト化又は完全ヒト型の抗原結合分子及び可変ドメインを容易に作製することができる。本発明の好ましい実施形態において、全てのドメイン(例えば、VA、VB、VB、及びVA)は、ヒト化されているか、又は完全ヒト型であり;最も好ましくは、本発明に係る二量体抗原結合分子は、ヒト化されているか、又は完全ヒト型である。用語「完全ヒト型」は、本明細書で用いられる場合、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖における可変ドメイン及び可変ドメインを連結しているペプチドのアミノ酸配列がヒト由来であるか、又はヒトで見出すことができることを意味する。本発明のある実施形態において、可変ドメインはヒト型又はヒト化であるが、可変ドメインを連結しているペプチドはヒト型又はヒト化ではなくてもよい。
【0030】
一実施形態において、第一ドメインVA、第二ドメインVB、第三ドメインVB、及び第四ドメインVAは、同じ抗原に特異的であり、これらのドメインによって形成された抗原結合部位は、同じエピトープ又は同じ抗原上の異なるエピトープのいずれかに結合する。この場合、「抗原A」及び「抗原B」という表現は、同じ抗原を意味する。このような抗原結合分子は、単一特異性である。
【0031】
他の実施形態において、第一ドメインVA、第二ドメインVB、第三ドメインVB、及び第四ドメインVAは、異なる抗原に特異的であり、VA及びVAが、抗原Aのための第一の特異性を有する抗原結合部位を形成し、VB及びVBが、抗原Bのための第二の特異性を有する抗原結合部位を形成する。異なる抗原は、異なる種類の細胞に関係していてよいし、又は同じ種類の細胞の異なる抗原を示していてもよい。このような本発明の抗原結合分子は、二重特異性である。
【0032】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの抗原結合部位は、細菌物質、ウイルスタンパク質、自己免疫マーカー、又は、例えばB細胞、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、骨髄細胞、貪食細胞、若しくは腫瘍細胞の細胞表面タンパク質などの特定の細胞上に存在する抗原に特異的であってもよい。
【0033】
本発明の1つの態様において、二量体抗原結合分子は、エフェクター細胞に対する第一の特異性と、該エフェクター細胞とは異なる標的細胞に対する第二の特異性とを備える二重特異性である。このような抗原結合分子は、2つの細胞を架橋することができ、エフェクター細胞を特定の標的に向かわせるのに用いることができる。本発明の他の態様において、二量体抗原結合分子は、標的細胞と、次の群より選択される分子とに対して二重特異性であってもよい:薬物、毒素、放射性ヌクレオチド、酵素、アルブミン、及びリポタンパク質、例えばサイトカイン又はケモカインなどの天然に存在するリガンド。標的分子がアルブミンである場合、アルブミン又は血清アルブミンは、ヒト、ウシ、ウサギ、イヌ、及びマウスからなる起源群より選択することができる。
【0034】
「エフェクター細胞」は、典型的には、細胞傷害、貪食、抗原提示、サイトカイン放出を刺激又は誘発することができる免疫系の細胞を意味する。このようなエフェクター細胞としては、これらに限定されるものではないが、例えば、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、顆粒球、単球、マクロファージ、樹状細胞、赤血球、及び抗原提示細胞が挙げられる。エフェクター細胞に対して適切な特異性を有するものの例としては、これらに限定されるものではないが、T細胞の場合、CD2、CD3、CD5、CD28、及びT細胞受容体(TCR)の他の構成要素;NK細胞の場合、CD16、CD38、CD44、CD56、CD69、CD335(NKp46)、CD336(NKp44)、CD337(NKp30)、NKp80、NKG2C、及びNKG2D;顆粒球の場合、CD18、CD64、及びCD89;単球及びマクロファージの場合、CD18、CD64、CD89、及びマンノース受容体;樹状細胞の場合、CD64、及びマンノース受容体;赤血球の場合、CD35が挙げられる。本発明のある態様において、このようなエフェクター細胞への特異性、すなわちエフェクター細胞の細胞表面分子への特異性は、二重特異性抗体がこのような細胞表面分子に結合した際に、それにより細胞溶解又はアポトーシスを誘導して、細胞死をもたらすのに適している。
【0035】
「標的細胞」は、典型的には、それぞれの生物学的応答、例えば免疫応答を誘導し又は誘発するように、エフェクター細胞がそれに対して方向付けられるべき部位を意味する。標的細胞の例は、腫瘍細胞、例えばウイルス性もしくは細菌性病原体等の感染因子、例えばデング熱ウイルス、単純ヘルペス、インフルエンザウイルス、HIV、又はIL−2、自己免疫マーカーもしくは自己免疫抗原などの自己免疫標的を保有する細胞であり得る。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、二量体抗原結合分子は、腫瘍細胞と、エフェクター細胞、特にはT細胞又はNK細胞とに対して二重特異性である。腫瘍細胞に適した特異性は、腫瘍抗原、及びそれぞれの腫瘍細胞上の細胞表面抗原、例えば特異的な腫瘍マーカーであり得る。このような二重特異性二量体抗原結合分子は、腫瘍細胞と免疫エフェクター細胞との両方に結合することにより、T細胞又はNK細胞により誘導される細胞傷害性応答を誘発する。用語「腫瘍抗原」は、本明細書で用いられる場合、腫瘍関連抗原(TAA)及び腫瘍特異的抗原(TSA)を含む。「腫瘍関連抗原」(TAA)は、本明細書で用いられる場合、腫瘍細胞上及び胎児期中の正常細胞上に存在し(癌胎児性抗原)、かつ、生後には選択された臓器において腫瘍細胞よりもかなり低い濃度で存在するタンパク質を意味する。TAAは、腫瘍細胞近傍の間質中に存在することもあるが、体内の他の間質中よりも低い量で発現される。対照的に、用語「腫瘍特異的抗原」(TSA)は、腫瘍細胞によって発現されるタンパク質を意味する。用語「細胞表面抗原」は、細胞表面上の抗体によって認識され得るあらゆる抗原又はそれらの断片を意味する。
【0037】
腫瘍細胞に特異的なものの例としては、これらに限定されるものではないが、本技術分野において記載されているような、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆体タンパク質、EGFR1、EGFR2、EGFR3、Ep−CAM、PLAP、トムゼン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4−Rアルファ、IL13−R、FcεRI、及びIgEが挙げられる。
【0038】
一実施形態において、エフェクター細胞に特異的なものは、CD3又はCD16であってもよく、腫瘍細胞に特異的なものは、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆体、Ep−CAM、EGFR1、EGFR2、EGFR3、PLAP、トムゼン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4−Rアルファ、IL13−R、FcεRI、及びIgEより選択してもよい。特に、抗原結合分子の例としては、CD3及びCD19、又はCD16及びCD30に対して二重特異性であるものがある。
【0039】
本発明のある態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、腫瘍細胞に対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、エフェクター細胞、特にT細胞又はNK細胞に対して特異性を有する。一態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、腫瘍細胞に対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、CD3又はCD16に対して特異性を有する。それらの所定の実施形態において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、CD19、CD20、ラミニン受容体前駆体、Ep−CAM、EGFR1、EGFR2、EGFR3、PLAP、トムゼン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4−Rアルファ、IL13−R、FcεRIに対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、CD3に対して特異性を有する。
【0040】
本発明の他の態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、エフェクター細胞、特にT細胞又はNK細胞に対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、腫瘍細胞に対して特異性を有する。一態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、CD3又はCD16に対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、腫瘍細胞に対して特異性を有する。特定の好ましい態様において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、CD3に対して特異性を有し、その他の2つのドメイン、すなわち第二ドメインVB及び第三ドメインVBは、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆体、Ep−CAM、EGFR1、EGFR2、EGFR3、PLAP、トムゼン−フリーデンライヒ(TF)抗原、MUC−1(ムチン)、IGFR、CD5、IL4−Rアルファ、IL13−R、FcεRI、及びIgEからなる群より選択される腫瘍細胞に対する特異性を有する。
【0041】
CD3抗原は、T細胞上でT細胞受容体複合体と会合する。エフェクター細胞に対する特異性がCD3による場合、本発明に係る二量体抗原結合分子がCD3に結合すると、標的細胞に対するT細胞の細胞傷害活性を誘発することができる。すなわち、二量体抗原結合分子がCD3と標的細胞、例えば腫瘍細胞とに二重特異的に結合することにより、標的細胞の細胞溶解を誘導することができる。CD3及びその産生物に対して特異性を有する二量体抗原結合分子は本技術分野で公知である(例えば、Kipriyanovら、1999、Journal of Molecular Biology 293:41−56、Le Gallら、2004、Protein Engineering,Design&Selection、17/4:357−366に記載)。
【0042】
単一特異性抗CD3抗原結合分子は、T細胞受容体に結合してそれらを調節することにより免疫抑制特性を有することで知られている(例えば、WO2004/024771に記載)。一実施形態において、本発明の抗原結合分子は、移植等における、免疫抑制剤として使用するために、CD3及びアルブミンに対して二重特異性である。
【0043】
CD16(FcγIIIA)抗原は、NK細胞表面に発現する受容体である。NK細胞は、固有の細胞溶解活性を有しており、本発明に係る二量体抗原結合分子がCD16と二重特異的に結合することにより、NK細胞の標的細胞に対する細胞傷害活性を誘発することができる。CD16に対して特異性を有する二重特異性抗原結合分子の例は、例えば、Arndtら、1999、Blood、94:2562−2568に記載されている。本発明の特定の実施形態において、重鎖又は軽鎖可変ドメインの少なくとも一つは、WO2006/125668に記載された抗CD16抗体、特には、CD16Aアイソフォームを認識するがCD16Bアイソフォームは認識しない抗体に由来する。
【0044】
CD19抗原は、リンパ芽球性白血病(ALL)から非ホジキンリンパ腫(NHL)に至るまで事実上全てのB細胞系列の悪性腫瘍で発現していることから、腫瘍特異性がCD19抗原に対するものである本発明の二量体抗原結合分子は、B細胞性悪性腫瘍の免疫療法に用いることができる。特に非ホジキンリンパ腫の治療には、CD19又はCD20に対して特異性を有する二量体抗原結合分子を用いることができる。CD19及びその産生物に対して特異性を有する二量体抗原結合分子は、本技術分野で公知である(例えば、Cochloviusら、2000、Cancer Research 60:4336−4341に記載)。
【0045】
腫瘍特異性がラミニン受容体又はラミニン受容体前駆体に対するものである本発明の二量体抗原結合分子は、例えば、これらに限定されるものではないが、B細胞性慢性リンパ性白血病(B−CLL)、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、肺癌、結腸癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、特には、これらの転移癌又は微小残存癌の状態、の治療に用いることができる。ラミニン受容体前駆体に対して特異性を有する抗原結合分子は、例えば、Zuberら、2008、J.Mol.Biol.、378:530−539に記載されている。
【0046】
腫瘍特異性がEGFR1に対するものである本発明の二量体抗原結合分子は、特に、EGFR1発現が上方制御されているか又は変化している癌、例えば、乳癌、膀胱癌、頭頸部癌、前立腺癌、腎臓癌、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、及び神経膠腫の治療に用いることができる。
【0047】
腫瘍特異性がTF抗原に対するものである本発明の二量体抗原結合分子は、特に、乳癌、結腸癌、及び/又は肝転移の治療に用いることができる。
【0048】
腫瘍特異性がCD30に対するものである二量体抗原結合分子は、特に、ホジキン病の治療に用いることができる。CD30に対して特異性を有する抗原結合分子は、例えばArndtら、1999、Blood、94:2562−2568に記載されている。
【0049】
腫瘍特異性がIL4受容体のアルファ鎖(IL4Rアルファ)に対するものである二量体抗原結合分子は、特に、固形腫瘍、特には、乳房、卵巣、腎臓系、頭頸部の癌腫、悪性黒色腫、及びAIDS関連のカポジ肉腫の治療に用いることができる。少なくとも1つの追加の特異性がEGFR3/HER3及び/又はEGFR2/neuに対するものである二量体抗原結合分子は、特に、乳癌の治療に用いることができる。腫瘍特異性がIGFRに対するものである二量体抗原結合分子は、特に、前立腺癌、結腸直腸癌、卵巣癌又は乳癌の治療に用いることができる。
【0050】
腫瘍特異性がCD5に対するものである二量体抗原結合分子は、特に、慢性リンパ性白血病の治療に用いることができる。
【0051】
腫瘍特異性がMUC−Iに対するものである二量体抗原結合分子は、特に、胃癌及び卵巣癌の治療に用いることができる。
【0052】
腫瘍特異性がEpCAMに対するものである二量体抗原結合分子は、特に、結腸、腎臓、及び乳房の癌腫の治療に用いることができる。
【0053】
腫瘍特異性がPLAPに対するものである二量体抗原結合分子は、卵巣又は精巣癌の治療に用いることができる。
【0054】
腫瘍特異性がOFA−iLRに対するものである二量体抗原結合分子は、転移性腫瘍の治療に用いることができる。
【0055】
本発明のある態様において、本明細書に記載された抗原結合分子は、二量体で、かつ、CD3及びCD19に対して二重特異性を有するか、あるいは、該抗原結合分子は、二量体で、かつ、CD16及びCD19に対して二重特異性を有する。それぞれの前記特定の実施形態において、第一ドメインVA及び第四ドメインVAは、CD3及びCD16に特異的であり、第二ドメインVB及び第三ドメインVBはCD19に特異的である。これらの場合、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖の各々は、ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVCD3−VCD19−VCD19−VCD3か、又は、VCD16−VCD19−VCD19−VCD16のドメイン順を有する。好ましい実施形態において、第一ドメイン、第二ドメイン、第三ドメイン、及び第四ドメインは、ヒト化されているか、又は完全ヒトドメインである。最も好ましい実施形態において、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖は、上記で定義されたように、ヒト化されているか、又は完全ヒトポリペプチド鎖である。本発明の他の態様において、二量体抗原結合分子は、例えば、EpCAMとCD3;HSAなどのアルブミンとCD3;又は、EGFRとCD3に対して二重特異性であってもよい。
【0056】
本発明の更なる態様において、本明細書に記載された抗原結合分子は、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、及びアルブミンとは異なる他の抗原に特異的である。このような抗原結合分子は、血清アルブミンに結合することにより、血清中及びin vivoでの血清中半減期が長くなる。従って、このような抗原結合分子は、医療的使用又は診断的使用、及び医薬組成物として有利であり、ここで、該抗原結合分子のポリペプチドは、治療用又は診断用抗体の軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメイン、ならびに、アルブミンに特異的な軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを含む。公知の及び/又は市販の治療用、診断用又は抗アルブミン抗体を、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの起源として用いることができる。さらに、アルブミン、例えばHSAに特異的な抗体又はFv断片を起こして作製する方法は本技術分野で公知である。このような抗原結合分子において、ポリペプチド鎖のドメインは、VA−VB−VB−VAの順で配置され、ここで、抗原A又は抗原Bはアルブミンである。好ましい実施形態において、アルブミンは、抗原Aである。本発明のある態様において、もう一方の抗原は、CD3である。特定の実施形態において、抗原Aはヒト血清アルブミン(HSA)であり、HSA×CD3抗原結合分子のポリペプチドは、実施例2で示されるようにVHSA−VCD3−VCD3−VHSAのドメイン順を有する。このような抗原結合分子の作製は、例えば、実施例1においてCD3×CD19について記載した方法と同様に、例えば、抗HSA抗体及び抗CD3抗体又はその抗体断片の可変ドメインを作製し、図7に示される発現プラスミドの抗CD3ドメイン及び抗CD19ドメインと置き換えることでそれぞれの順に挿入してもよいし、又は他のあらゆる適切な発現プラスミドもしくは発現構築物にそれぞれの順に挿入してもよい。
【0057】
本発明は、更なる態様において、独立して生物学的機能を発揮し、特に生化学的な事象を引き起こす、追加の機能単位、例えば機能性ドメイン又は機能性物質と結合した、上述の実施形態のいずれか一つの二量体抗原結合分子を提供する。追加の機能単位は、二量体抗原結合分子の2つの個々のポリペプチド鎖の少なくとも一方と複合体を形成していてもよいし、又はそれと共有結合していてもよい。一態様において、追加の機能単位は、個々のポリペプチド鎖の一方のみに共有結合していてもよいし、他の態様において、追加の機能単位は、二量体抗原結合分子の両方のポリペプチド鎖に共有結合することにより、2つのポリペプチド鎖を連結させていてもよい。さらなる態様において、2つのポリペプチド鎖はそれぞれ個々に追加の機能単位と共有結合している。追加の機能単位が2つのポリペプチド鎖の少なくとも一方に共有結合している場合、追加の機能単位は、ペプチド結合又はペプチドリンカーによって2つのポリペプチド鎖の少なくとも一方と融合していてもよい。あるいは、追加の機能単位は、例えば、少なくとも1つのポリペプチド鎖のシステイン残基と追加の機能単位システイン残基との間のジスルフィド架橋等のジスルフィド架橋、及び、エステル結合等の化学的融合、又は化学的架橋形成によって結合していてもよい。本発明のある態様において、追加の機能単位は、例えばジスルフィド結合などの切断可能なリンカーによって抗原結合分子に結合していてもよい。
【0058】
追加の機能単位は、第一のポリペプチド鎖及び/又は第二のポリペプチド鎖のN末端又はC末端に結合していてもよい。1つの追加の機能単位が、第一のポリペプチド鎖及び第二のポリペプチド鎖の両方に結合している場合、追加の機能単位は、一方のポリペプチド鎖のN末端と他方のポリペプチド鎖のC末端とに結合していてもよい。
【0059】
ポリペプチド鎖と、追加のポリペプチド又は追加の作用物質などの追加の機能単位との化学的架橋形成のためのホモ二官能性及びヘテロ二官能性試薬が本技術分野で周知である。例としては、これらに限定されるものではないが、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(o−PDM)、スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、N−スクシンイミジルS−アセチルチオアセテート(SATA)、スクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、又は4−(4−N−マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド(MPBH)が挙げられる。イムノグロブリン鎖を含むポリペプチド鎖と追加のポリペプチド又は化学物質との架橋を形成する方法は、例えば、Grazianoら、Methods in Molecular Biology、2004、283巻、71−85、及び、Hermanson,G.T.「Bioconjugate Techniques」Academic Press、London 1996に記載されている。
【0060】
一態様において、追加の機能単位は、少なくとも1つの追加の可変イムノグロブリンドメインであってもよい。追加の可変イムノグロブリンドメインは、二量体抗原結合分子の結合部位が特異性を有する第一の抗原A又は第二の抗原Bに特異的であってもよく、あるいは、抗原A及び抗原Bとは異なる第三の抗原Cに特異的であってもよい。ある態様において、追加の軽鎖可変ドメインV及び追加の重鎖可変ドメインVは、2つのポリペプチド鎖の各々に、一方の追加ドメイン、特にはV、がN末端に融合し、他方の追加ドメイン、特にはV、がC末端に融合するように結合して、その結果、6つの抗原結合部位を有するポリペプチドであって、同一の他のポリペプチドと会合して6つの可変ドメインを有する二量体抗原結合分子を生じてもよい。他の態様において、1つの追加の可変イムノグロブリンドメインは、抗原結合分子のポリペプチド鎖の一方に融合し、それが追加の第三のポリペプチドの同じ特異性を有する相補的な可変イムノグロブリンドメインと非共有結合によって会合することにより、二量体抗原結合分子と追加の第三のポリペプチドとの間に追加の抗原結合部位が形成されてもよい。他の態様において、scFv又はダイアボディを含む追加の抗原結合単位は、追加の機能単位として二量体抗原結合分子に結合されていてもよい。
【0061】
ある態様において、追加の機能単位は、少なくとも1つの追加の本明細書に記載された二量体抗原結合分子であってもよい。従って、本発明に係る2つ以上の二量体抗原結合分子を互いに結合させることにより、抗原結合分子の価数及び結合活性を高めることもできる。
【0062】
他の態様において、追加の機能単位は、Fcドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ヒンジドメイン又はそれらの断片などを含むエフェクタードメインであってもよい。このような単位は、Fc受容体と結合することにより、抗原結合分子にエフェクター特性を付与することができる。このような機能単位はさらに、抗原結合分子の血清中半減期を長くするために用いることができる。
【0063】
他の態様において、追加の機能単位は、酵素であってもよい。酵素がプロドラッグを活性な薬物に変換することができる場合、抗原結合分子は、抗体依存性酵素によるプロドラッグ療法(ADEPT)に用いることができる。この場合、抗原結合分子は、酵素を対象の組織に向かわせ、抗原結合分子は組織に結合すると、その部位でプロドラッグを活性化する。さらに、癌治療のための酵素を標的化するための二重特異性抗原分子、例えば、これらに限定されるものではないが、CD30とマイトマイシンホスフェートからマイトマイシンアルコールへの変換を触媒するアルカリホスファターゼとに対して特異性を有する二重特異性抗原分子、又は胎盤性アルカリホスファターゼとセファロスポリンベースの抗癌プロドラッグを活性化するβ−ラクタマーゼとに対して特異性を有する二重特異性抗原分子の使用が本技術分野で公知である。また、線維素と組織プラスミノゲン活性化因子とに対して特異性を有する線維素溶解のための二重特異性抗原結合分子、及び、酵素ベースのイムノアッセイのための酵素結合抗原結合分子の使用も適している。
【0064】
他の態様において、機能単位は、薬物、毒素、放射性同位体、リンホカイン、ケモカイン又は標識分子であってもよい。このような抗原結合分子は、機能単位を所望の作用部位に送達する。例えば、腫瘍抗原に特異的な抗原結合分子に結合している化学療法薬は、腫瘍細胞に送達され、毒素は病原体又は腫瘍細胞に送達され得る。毒素と結合した抗原結合分子は、NK細胞又はマクロファージを標的として用いることができ、好ましくはCD16に特異的である。毒素の例としては、これらに限定されるものではないが、リボシルトランスフェラーゼ、セリンプロテアーゼ、グアニルシクラーゼ活性化因子、カルモジュリン依存性アデニルシクラーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAアルキル化剤又は有糸分裂阻害剤、例えば、ドキソルビシンが挙げられる。標識分子は、例えば、蛍光分子、発光分子もしくは放射標識分子、金属キレート又は酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼなど)であってもよく、これらの酵素が本発明の抗原結合分子に結合している場合、後に基質に晒されると、該基質と反応して検出可能な化合物部分が生産され、in vivoでのイメージング又はイムノアッセイに用いることができる。イムノアッセイに用いる場合、二量体抗原結合分子は、不溶性担体、例えばガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、天然及び改質セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、ならびに磁気ビーズに固定化されていてもよい。
【0065】
本発明の抗原結合分子の体内の血清半減期を長くするため、抗原結合分子は、所望により、アルブミンに融合させるか、又はペグ化、シアル化もしくはグリコシル化されていてもよい(例えばStorkら、2008、J.Biol.Chem.、283:7804−7812を参照)。上述の通り、本発明の抗原結合分子に追加のアルブミンを融合させる代わりに、抗原結合分子がアルブミンと他の抗原に特異的であってもよい。
【0066】
上述の実施形態のいずれか1つに係る二量体抗原結合分子は、互いに会合して二量体抗原結合分子を形成する個々のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを発現させることにより生産することができる。よって、本発明のさらなる実施形態は、本明細書において上述したような二量体抗原結合分子のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド、例えばDNA又はRNAである。
【0067】
前記ポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法、例えば、ペプチドリンカーで隔てられているか、又はペプチド結合で直接結合された第一ドメインVA、第二ドメインVB、第三ドメインVB、及び第四ドメインVAをコードする遺伝子を、適切なプロモーターと機能的に結合し、任意で適切な転写ターミネーターと機能的に結合するように単一の遺伝的構築物に組み込み、それを細菌又は他の適当な発現系で発現させることによって構築してもよい。利用するベクター系及び宿主に応じて、適切な転写及び翻訳要素、例えば構成的及び誘導性プロモーターを何個でも用いることができる。プロモーターは、それぞれの宿主細胞でポリヌクレオチドを発現させるように選択される。
【0068】
上記ポリヌクレオチドは、選択された宿主における特定の発現に適合するように変更されたコドンバイアスでコドンが最適化されていてもよい。
【0069】
上記ポリヌクレオチドは、ベクターに、好ましくは発現ベクターに挿入されていてもよく、このようなベクターは、本発明のさらなる態様の1つである。これらの組換えベクターは当業者周知の方法に従って構築することができる;例えば、Sambrook、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1989)N.Y.を参照されたい。
【0070】
本発明のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチドを含み、それらを発現させるために、様々な発現ベクター/宿主系を利用することができる。このようなものとしては、これらに限定されるものではないが、組換えバクテリオファージ、プラスミドもしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌、酵母発現ベクターで形質転換した酵母等の微生物;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で、もしくは細菌発現ベクター(例えば、Ti又はpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系;又は、例えばウイルスベースの発現系を利用できる動物細胞系が挙げられる。
【0071】
大腸菌(E.coli)での発現に特に好ましい発現ベクターは、pSKKであり(LeGallら、J Immunol Methods.(2004)285(1):111−27)、又は、哺乳動物細胞での発現に特に好ましい発現ベクターはpcDNA5(Invitrogen)である。
【0072】
従って、本明細書に記載された二量体抗原結合分子は、上述のポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド又はベクターを宿主細胞に導入して、該宿主細胞を該ポリペプチド鎖が発現されるような条件下で培養することによって生産してもよい。発現されたポリペプチド鎖から得られた二量体抗原結合分子は単離してもよく、任意でさらに精製してもよい。宿主細胞の増殖及び維持、並びにこれらの宿主細胞からの本発明の二量体抗原結合分子の発現、単離、及び精製のための条件は、本技術分野において詳細に述べられている。
【0073】
本発明は、さらなる態様において、本明細書に記載した二量体抗原結合分子又はポリヌクレオチドと、少なくとも1つのさらなる構成要素とを含む組成物を提供する。疾患又は障害の予防又は治療に使用するために、二量体抗原結合分子を含有し、又は抗原結合分子を形成するポリペプチド鎖をコードするポリ核酸分子を含有する組成物は、適切な薬学的に許容される担体と組み合わされることが好ましい。用語「薬学的に許容される担体」は、成分の生物活性の有効性に干渉せず、投与される患者に毒性を示さないあらゆる担体を包含する。適切な製剤用担体の例は本技術分野で周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、エマルジョン、例えば油/水エマルジョン、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液などを含む。このような担体は、従来の方法で配合することができ、さらに適切な用量で被験者に投与することができる。好ましくは、本組成物は滅菌されている。該組成物はまた、保存剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含有してもよい。様々な抗菌剤及び抗真菌剤を包含させることにより、微生物の活動を確実に阻害することができる。適切な組成物は様々な方法で投与することができ、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所又は皮内投与によって投与することができる。投与経路は当然ながら治療法の種類、及び医薬組成物に含有される化合物の種類によって決まる。投薬レジメンは、担当医師、及び他の臨床的な要因によって決定され得る。医療分野において周知の通り、それぞれの患者に対する投与量は、患者の体重、体表面積、年齢、性別、投与される具体的な化合物、投与の時間及び経路、治療法の種類、全身の健康状態、ならびに同時投与される他の薬物などの多くの要因によって決まる。
【0074】
本発明はさらに、上述の二量体抗原結合分子の有効量を対象、例えば患者、に投与することによる、移植における、あるいは、自己免疫疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー、又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫;慢性リンパ性白血病;ホジキンリンパ腫;乳癌、卵巣癌、結腸癌、腎臓癌若しくは胆管癌で発生する固形腫瘍等の固形腫瘍;微小残存病変;肺、骨、肝臓若しくは脳に転移した転移腫瘍等の転移腫瘍)の治療における免疫抑制治療のための医学的使用又は方法を提供する。抗原結合分子は、予防又は治療を目的として、単独で、又は既存の療法と組み合わせて用いることができる。
【0075】
本発明の抗原結合分子を用いて治療することができる癌としては、これらに限定されるものではないが、原発性及び転移性の副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、中枢神経系の腫瘍、末梢中枢神経系の癌、乳癌、キャッスルマン病、子宮頸癌、小児非ホジキンリンパ腫、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング腫瘍ファミリー(例えばユーイング肉腫)、眼癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、ヘアリーセル白血病、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭及び下咽頭癌、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、小児白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性障害、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔及び口腔咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫(成人の軟部組織癌)、黒色腫皮膚癌、非黒色腫皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば子宮肉腫)、膣癌、外陰癌、ならびにワルデンストレームマクログロブリン血症が挙げられる。
【0076】
「有効用量」は、疾患の経過及び重症度に影響を与えてこのような病状を軽減又は緩和するのに十分な活性成分の量を意味する。これらの疾患又は障害を治療及び/又は予防するのに用いられる「有効用量」は、当業者に公知の方法を用いて決定することができる(例えば、Finglら、The Pharmacological Basis of Therapeutics、Goddman及びGilman編.Macmillan Publishing Co.、New York、1−46(1975)参照)。
【0077】
本発明の他の態様において、上述の二量体抗原結合分子は、免疫抑制薬、あるいは自己免疫疾患、炎症性疾患、感染性疾患、アレルギー又は癌(例えば、非ホジキンリンパ腫;慢性リンパ性白血病;ホジキンリンパ腫;乳癌、卵巣癌、結腸癌、腎臓癌若しくは胆管癌で発生する固形腫瘍等の固形腫瘍;微小残存病変;肺、骨、肝臓若しくは脳に転移する転移腫瘍等の転移腫瘍)を治療するための医薬品の製造に用いられる。特定の多重特異性結合分子が、特定の疾患の治療において特に有用であると上述されている場合、これらの結合分子はその特定の疾患のための医薬品の製造に用いることができる。
【0078】
例えば、癌などの疾患の予防及び/又は治療における、医薬組成物、すなわち医薬品の調製方法及び抗原結合分子の臨床用途は、当業者に公知である。
【0079】
本発明の特定の態様において、二量体抗原結合分子は二重特異性であり、細胞傷害性エフェクター細胞を腫瘍細胞に対して再標的化するのに用いることができるため、癌治療に用いられる。このような治療概念は本技術分野で周知である。例えば、臨床研究により、抗CD3×抗腫瘍二重特異性抗体で処置した患者(例えば、Canevari,S.ら、J.Natl.Cancer Inst.、87:1463−1469、1996)、又は抗CD16×抗腫瘍二重特異性抗体で処置した患者(例えばHartmannら;Clin Cancer Res.2001;7(7):1873−81)において腫瘍の縮小が示されている。また、例えば、VA−VB−VB−VAのドメイン順を有する二量体かつ四価のCD3×CD19抗原結合分子(Cochloviusら;Cancer Research、2000、60:4336−4341)等や、又はBiTE(登録商標)様式の単量体単鎖Fv抗体分子(異なる特異性を有する2つの単鎖抗体が共に結合したもの;Micromet AG、Germany;Bargou R.ら、Science、2008、321(5891):974−977;Baeuerle PA及びReinhardt C.、Cancer Res.2009、69(12):4941−4944)を用いた近年の臨床研究において、可変ドメイン(Fv)のみを含む様々な組換え二重特異性抗体分子に関して概念が実証されている。本明細書に記載された二量体抗原結合分子は、同じ組合せの抗体特異性により治療(例えば細胞傷害性)メカニズムに方向付けることができるため、医薬品として使用することができ、かつ、本技術分野の二重特異性抗体と同様に治療に適用することができる。さらに、ムロモナブ(Muromonab)−CD3などのCD3に対して単一の特異性がある免疫抑制抗体は、移植による拒絶反応、並びに腎臓移植(同種移植片)、肝臓及び心臓移植の急性拒絶反応を治療することが知られている。従って、アルブミン及びCD3に対して二重特異性である抗原結合分子は、公知の単一特異性抗CD3抗体と同じ治療方法において用いることができる。さらに、本明細書で記載されたアルブミンと他の抗原、すなわち治療又は診断標的とに特異的な抗原結合分子は、アルブミン以外のそれぞれの抗原特異性の臨床用途に用いることができる。
【0080】
抗原結合分子及びその組成物は、経口、静脈内、腹腔内、又は他の薬学的に許容される投薬形態であってもよい。いくつかの実施形態において、本組成物は経口投与され、投薬形態は、錠剤、カプセル、カプレット、又は他の経口で利用可能な形態である。いくつかの実施形態において、本組成物は、非経口、例えば静脈内、腹腔内、筋肉内、又は皮下用であり、抗原結合分子を含有する溶液によって投与される。
【0081】
当業者であれば、本技術分野で公知の確立された技術及び標準的な方法を利用することにより、過度な作業を行うことなく本明細書において記載される抗原結合分子を構築して入手することが容易にできる。例えば、Sambrook、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1989)N.Y.;The Protein Protocols Handbook、John M.Walker編、Humana Press Inc.(2002);又はAntibody engineering:methods and protocols/Benny K.C.Lo編;Benny K.C.IIシリーズ:Methods in molecular biology(Totowa、N.J.)を参照されたい。加えて、当業者であれば、上述の各ポリペプチド鎖のN末端からC末端にかけてVA−VB−VB−VAのドメイン順を有する2つのポリペプチド鎖を含む二量体抗原結合分子が得られるように、本技術分野で公知の標準的な方法を利用して、かつ、US7,129,330、Kipriyanovら.J.Mol.Biol.(1999)293、41−56、又はLe Gallら、2004、Protein Engineering 17:357−366に記載された方法を改変することにより本明細書に記載された抗原結合分子を作製することができる。
【0082】
さらに以下の実施例によって本発明を説明するが、それにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
A−VB−VB−VA以外のドメイン配置を用いて機能的な二量体タンデムダイアボディ(TandAb(登録商標))を構築するため、ヒト化抗CD19単鎖抗体及びヒト化抗CD3単鎖抗体の2つのドメインをそれぞれ使用して、数種の二量体タンデムダイアボディを本発明のドメイン配置VA−VB−VB−VAと共に構築した。この結果は、ヒト化抗CD19及びヒト化抗CD3抗体の両方について行われた親和性成熟の様々な段階の生成物を代表する各抗原結合分子の2種類の変異体を用いることによって確認した。
【0084】
それぞれCD19及びCD3に対する抗体であるマウスモノクローナル抗体HD37及びUCHTを、比較的高い親和性を有するヒト化抗体を得るための出発材料とした。それぞれのケースにおいて、まずVドメインをscFvファージミドベクター中のヒトVライブラリーと組み合わせて、ファージディスプレイにより適切なヒトV鎖を選択した。次のステップで、選択されたヒトV鎖を、CDR3領域が不変のまま維持されたVHドメインライブラリーと組み合わせた。この手順により、それぞれVHCDR3領域に短いマウス配列のみを有する、ヒト化抗CD19及び抗CD3が得られた。これらのクローンは、その後、抗原結合に関与すると考えられる残基に点突然変異を導入することにより親和性を成熟させた。次に、ファージディスプレイによって最良の結合を示す突然変異体を選択した。TandAbを構築するために選択されたクローンは、CD19と結合したM13及びM39、ならびにCD3と結合したC4及びLcHC21であった。
【0085】
以下の抗体を作製した:
抗体A1:CD19M39×CD3C4(オプション0)VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4
抗体B:CD19M39×CD3C4(オプション2)VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4
抗体A2:CD19M13×CD3LCHC21(オプション0)VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21
抗体C:CD19M13×CD3LCHC21(オプション2)VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21
【0086】
抗体Bのハイブリッド単量体VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4と、抗体Cのハイブリッド単量体VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21とをコードするプラスミドは、DNA操作及び加工を行う業者が作製した。VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4単量体の配列主鎖は、2種のscFv抗体、すなわちscFvCD19M39及びscFvCD3C4のそれぞれのDNA配列を含む。VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21単量体配列は、単鎖Fv CD19M13及び単鎖Fv CD3LCHC21の可変ドメインを組み合わせた。4種全てのscFvは、抗原CD19及びCD3に対する単鎖抗体のファージディスプレイによる選択で得た。両ケースにおいて、配列情報を用いて上記のハイブリッド単量体を構築した。9アミノ酸(GS)リンカーを用いて、ドメインを互いに結合させた。VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4をコードする合成遺伝子を、哺乳動物発現ベクターpCDNA5FRT(Invitrogen)にクローニングした。また、VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21の遺伝子も発現ベクターにクローニングし、NcoI切断部位を導入したフォワードプライマーとNotI切断部位を導入したリバースプライマーとを用いたPCRで増幅した。アガロースゲルによる解析及び単離の後、続いてPCR産物をNcoIとNotIとで二重に消化し、NcoIとNotIとで直線化したpSKK3ベクターにクローニングした。DNA配列解析で正確なクローニングを確認した。
【0087】
図6に抗体BをコードするpCDNA5FRTのベクターマップを示す。図7に抗体CをコードするpSKK3のベクターマップを示す。
【0088】
高レベルの生産のために、遺伝子VCD3C4−VCD19M39−VCD19M39−VCD3C4を含有するベクターを(CaPOを用いて)接着性HEK293細胞に一過性に導入した。タンパク質の発酵は、本技術分野で周知の増殖条件下で行われた。
【0089】
組換えタンパク質は、シグナルペプチドを有するHis−タグ融合タンパク質として発現させた。タンパク質を、既述の固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)(Kipriyanovら、1999、J.Mol.Biol.、293、41−56)によって細胞培養上清から単離した。続いて、精製した物質をSDS−PAGEで解析した。SDS PAGEゲルのクーマシー染色と、リン酸ナトリウム緩衝液(30mMのNaPO、0.75Mアルギニン/HCl、pH6.0)中の較正済みのスーパーデックス(Superdex)200HR10/30カラム(Amersham Pharmacia、Freiburg、Germany)によるサイズ排除クロマトグラフィーにより、組換えタンパク質(抗体B)が純粋であり正確にアセンブルされたことがわかった。
【0090】
高レベルの発現のために、ヒト化VCD3LCHC21−VCD19M13−VCD19M13−VCD3LCHC21単量体とそれに続く6×His−タグをコードする遺伝子を、hok/sok遺伝子細胞自殺システムとSkp/OmpHペリプラズム因子をコードするskp遺伝子とを含有するpSKK3プラスミドにクローニングした(LeGallら、2004、J.Immunol.Methods、285、111−127)。このプラスミドを大腸菌(E.coli)K12株(ATCC 31608(商標))にトランスフェクションした。
【0091】
形質転換細菌を、基本的には記述の通り(Cochloviusら、2000、J.Immunol.、165、888−895)振盪フラスコ中で増殖させ誘導した。既述の方法(Kipriyanovら、1999、J.Mol.Biol.、293、41−56)に従い、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって可溶性ペリプラズム分画と細菌培地の上清との両方から組換えタンパク質を単離した。
【0092】
続いて、精製した材料を、クーマシーブルーで染色したSDS−PAGEと、リン酸ナトリウム緩衝液(30mMのNaPO、0.75Mアルギニン/HCl、pH6.0)中の較正済みのスーパーデックス200HR10/30カラム(Amersham Pharmacia、Freiburg、Germany)でのサイズ排除クロマトグラフィーとで解析した。生成物は、純粋であり正確にアセンブルされたようであった。
【0093】
比較用の抗体A1及びA2を、それぞれ抗体B及びCと同様に作製したが、この場合、抗体A1及びA2それぞれのドメイン順は、抗体B及びCそれぞれのドメイン順とは逆となるようにした。
【0094】
細胞傷害性アッセイを、基本的にはT.Dreierら(2002、Int J Cancer 100、690−697)で記載された方法で行った。健康な志願者の末梢血液からエフェクター細胞として用いるPMBCを密度勾配遠心分離によって単離した。いくつかのケースでは、PBMCを、25U/mLのヒトIL−2の存在下で一晩培養した後、それらを細胞傷害性アッセイにおいてエフェクター細胞として用いた。それぞれのケースにおいて、単離されたPBMCの純度及び抗原発現をフローサイトメトリーによって確認した(データ非図示)。
【0095】
CD19JOK−1又はRaji標的細胞を、10%FCS、2mMのL−グルタミン、及び100IU/mLペニシリンGナトリウム、及び100μg/mL硫酸ストレプトマイシン添加RPMI1640培地(本明細書では、RPMI培地と呼ぶ;全ての構成成分はInvitrogen社)で培養した。細胞傷害性アッセイのために、細胞を、FCSを含まないRPMI培地中で、37℃で30分、10μMカルセインAM(Molecular Probes/Invitrogen)で標識した。穏やかに洗浄した後、標識した細胞を1×10個/mLの密度となるようにRPMI培地中に再懸濁させた。次に1×10個の標的細胞を5×10個のPBMCと一緒に、丸底96ウェルマイクロプレートの個々のウェルに、1ウェルあたりの全体積が200μLとなるように、示された抗体と共に播種した。200gで2分間遠心分離した後、アッセイを、5%CO、加湿雰囲気中、37℃で4時間培養した。培養終了の15分前に、20μLのRPMI培地中の10%トリトンX−100を標的細胞のみを含むウェルに添加した。その他の全てのウェルには20μLのRPMI培地を添加した。500gで5分間、追加の遠心分離を行った後に各ウェルから100μLの細胞培養上清を回収し、放出されたカルセインの520nmにおける蛍光を、蛍光プレートリーダー(Victor 3、Perkin Elmer)を用いて測定した。測定されたカウントに基づき、以下の式に従って特異的な細胞溶解を計算した:[蛍光(サンプル)−蛍光(自然発生)]/[蛍光(最大)−蛍光(自然発生)]×100%。蛍光(自然発生)は、エフェクター細胞及び抗体の非存在下における標的細胞からの蛍光カウントを示し、蛍光(最大)は、トリトンX−100添加により誘導された全細胞溶解を示す。プリズム(Prism)ソフトウェア(GraphPad Software)を用いてS字状の用量応答曲線及びEC50値を計算した。
【0096】
結果:
図3に、N末端から開始するそれぞれ以下のドメイン順、VA−VB−VB−VA(抗体A)及びVA−VB−VB−VA(抗体B)を有するタンデムダイアボディについての、抗CD19変異体M39及び抗CD3変異体C4を用いた細胞傷害性アッセイの結果を示す。
【0097】
驚くべきことに、これら2種のタンデムダイアボディの細胞傷害性活性に極めて大きい差がみられた。所与の条件下でEC50値を比較することにより決定されたように、「抗体B」と名付けられた本発明に係るドメイン配置を有するタンデムダイアボディの活性は、「抗体A」と名付けられたタンデムダイアボディよりも60倍超高かった。
【0098】
抗CD19及び抗CD3抗体の2種類の追加の変異体を用いることによって、本発明で示されたドメイン配置(抗体C)が、より優れた細胞傷害性を有することが確認された(図4参照)。
【0099】
オプション2で示された本発明に係るドメイン順を有するタンデムダイアボディのEC50値は極めて低い(0.1pM)。その活性は、所与の条件下でEC50値を比較すると、オプション0で示されたTandAbよりも27倍高い。
【実施例2】
【0100】
in vitroでのヒト血清アルブミン(HSA)×CD3 TandAb抗体によるT細胞受容体の調節
異なるドメイン順を有するHSA×CD3 TandAb抗体が、in vitroにおけるT細胞上のT細胞受容体(TCR)/CD3調節の誘導における差を決定するため、CD3Jurkat細胞を、段階的に濃度を増加させた二重特異性HSA×CD3 TandAb抗体の存在下で培養し、その後、残存したTCRについて解析した。調節のアッセイは、HSA存在下又は非存在下で行われ、HSAのTandAb活性への影響を測定した。
【0101】
簡単には、1×10個のJurkat細胞を、2mMのL−グルタミン、及び100IU/mLペニシリンGナトリウム、及び100μg/mL硫酸ストレプトマイシン(全ての構成成分はInvitrogen社)添加RPMI1640培地中、丸底96ウェルマイクロプレートの個々のウェルに播種した。別のマイクロプレートに、50mg/mLのHSA(Sigma)を添加したこと以外は上述のとおりにしてRPMI培地中、Jurkat細胞を播種した。指定された抗体を添加した後、細胞を、5%CO存在下、加湿したインキュベーター中、37℃で、1ウェルあたりの全体積を200μLとして培養した。対照として、細胞を抗体の非存在下で培養した。2%の熱不活化FCS(Invitrogen、Karlsruhe、Germany)、及び0.1%アジ化ナトリウム(Roth、Karlsruhe、Germany)添加氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Invitrogen、Karlsruhe、Germany)(FACS緩衝液と称する)で洗浄した後、細胞を、全体積を100μLとしてFACS緩衝液中の10μLのPC5コンジュゲート抗TCRα/β抗体(Beckman−Coulter)により、暗所、氷上で45分間染色した。FACS緩衝液で2回洗浄した後、FC500MPLフローサイトメーター(Beckman−Coulter)を用いて10個の細胞の675nmにおける蛍光を測定した。CXPソフトウェア(Beckman−Coulter)を用いて平均蛍光値を決定し、これをグラフパッドプリズムバージョン3.03(Windows用)、GraphPad Software、San Diego California USAを用いた非線形回帰による解析/4パラメーターのロジスティックフィットに用いた。
【0102】
TCR調節実験CAB−306で得られた結果を図5に示し、また、表1に要約した。VA−VB−VB−VA(=オプション0)及びVA−VB−VB−VA(=オプション2)のドメイン順を有するHSA×CD3 TandAbはいずれも、同等のTCR調節能を有することを示し、これはHSAが抗原Bの場合における調節能を示していた。しかし、生理学的な濃度のHSAの存在下では、オプション0(VA−VB−VB−VA)のTandAbの調節能は顕著に減少するが、オプション2(VA−VB−VB−VA)の向きのTandAbのEC50値は2.6倍増加するだけである。
【0103】
これらのデータから明らかに、オプション2のドメイン方向(VA−VB−VB−VA)を有するHSA×CD3 TandAbが、オプション0(VA−VB−VB−VA)のHSA×CD3 TandAbと比較して優れた特性を有することが示された。
【表1】
【0104】
表1:TCR調節実験の結果の要約:HSA存在下又は非存在下における2種のHSA×CD3 TandAb抗体を用いたTCR調節実験から得られたEC50値(図5;実験CAB−306)を、非線形回帰/4パラメーターのロジスティックフィットによって決定した。
【0105】
本明細書において本発明の好ましい実施形態を示して記載したが、当業者はこのような実施形態は単なる例として提供されるものであることを当然に理解するものである。当業者であれば、本発明から逸脱することなく多数のバリエーション、変更、及び置換が可能である。本発明の実施において、本明細書において記載した本発明の実施形態の様々な代替物を使用することが可能であることが理解されるはずである。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義することを意図するものであり、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造ならびにそれらの等価物が該請求項に包含されるものとする。
図1
図2
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図7