特許第5938474号(P5938474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000002
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000003
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000004
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000005
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000006
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000007
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000008
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000009
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000010
  • 特許5938474-航空機用エンジンのファンケース 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938474
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】航空機用エンジンのファンケース
(51)【国際特許分類】
   F02K 3/04 20060101AFI20160609BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20160609BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   F02K3/04
   F02C7/00 C
   F02C7/00 A
   F02C7/00 D
   F02C7/00 E
   F02C7/00 F
   F01D25/24 T
   F01D25/24 D
   F01D25/24 N
   F01D25/24 R
   F01D25/24 S
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-521394(P2014-521394)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2013066295
(87)【国際公開番号】WO2013191070
(87)【国際公開日】20131227
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-139484(P2012-139484)
(32)【優先日】2012年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和弥
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕晶
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】松原 剛
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 猛
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 カナダ国特許出願公開第02713627(CA,A1)
【文献】 特開2004−276355(JP,A)
【文献】 特開2010−196177(JP,A)
【文献】 特開2008−240724(JP,A)
【文献】 特開2012−016926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 3/04
F01D 25/24
F02C 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンブレードを備えるファンの外周を覆う航空機用エンジンのファンケースであって、
繊維と樹脂を含む第1の複合材料を含むケース部と、
繊維と樹脂を含む第2の複合材料を含み、前記ケース部の外周に形成される拘束部と、
を備え、
前記拘束部が繊維層間に気泡からなる樹脂未含浸部を含むことにより、前記拘束部の樹脂含有率が前記ケース部の樹脂含有率よりも低く設定されている航空機用エンジンのファンケース。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記拘束部は、前記ケース部におけるファンブレードに径方向外側から対向する箇所の外周に形成されている航空機用エンジンのファンケース。
【請求項3】
請求項1または2に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記第1と第2の複合材料のそれぞれにおける繊維は同一の繊維で構成され、前記第1と第2の複合材料のそれぞれにおける樹脂は同一の樹脂で構成されている航空機用エンジンのファンケース。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記拘束部の樹脂含有率が12〜15重量%である航空機用エンジンのファンケース。
【請求項5】
請求項4に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記ケース部の樹脂含有率が32〜40重量%である航空機用エンジンのファンケース。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記第1または第2の複合材料を形成する繊維が、カーボン繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群から選ばれた繊維である航空機用エンジンのファンケース。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の航空機用エンジンのファンケースにおいて、前記第1または第2の複合材料を形成する樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂およびポリイミド樹脂よりなる群から選ばれた樹脂である航空機用エンジンのファンケース。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
この出願は、2012年6月21日出願の特願2012−139484の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、航空機用エンジンにおけるファンの外周を覆うファンケースに関するものである。
【背景技術】
【0003】
航空機用エンジンでは、これの重量が航空機の燃費性能に大きな影響を与えることから、軽量化が従来からの重要な課題になっている。中でもターボファンエンジンやターボジェットエンジンにおいては、重量比率の比較的大きな部品であるファンケースを軽量化するための様々な試みがなされた結果、一定の成果が得られている。そのようなファンケースの代表として、従来から素材として一般的に用いられていた金属から他の素材に代えたもの、例えば、CFRP製ファンケースの他、アルミニウム製のケース部にケブラー(Kevlar:登録商標)繊維を多重に巻き付けたファンケース、さらにはケース部の外周が弾性の拘束ベルトで覆われたファンケース(特許文献1参照)などが存在する。
【0004】
一方、ファンケースには、ファンにおけるハブの外周面に放射状の配置で植設された多数のファンブレードの一部が何らかの原因で欠けて遠心力により飛散するFBO(Fan Blade Off)が生じた場合に、その飛散するファンブレード片を柔軟に受容して、ファンケースの外方ヘ飛び出すのを防止するコンテインメント機能が要求される。したがって、ファンケースは、コンテインメント機能を確保しながら軽量化を図る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−516945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記金属製ファンケースは、金属素材からの削り出しにより製造されるシンプルなものであるが、コンテインメント機能を確保しながら十分な軽量化を達成するのは難しい。また、前記CFRP製ファンケースは、金属よりも比強度に優れた複合材料を用いることで軽量化を図ったものであり、さらに、前記アルミニウム/ケブラー繊維製ファンケースは、アルミニウムによりケースとして必要な剛性を与え、かつケブラー繊維によりコンテインメント機能を持たせたものである。これらCFRP製ファンケースおよびアルミニウム/ケブラー繊維製ファンケースは、金属製ファンケースに比べてある程度の軽量化を達成することができるが、コンテインメント機能を十分確保しながら一層の軽量化を実現するのは難しい。
【0007】
さらに、アルミニウム/ケブラー繊維製ファンケースは、FBO発生時にケース変形量が大きいために、外側のカウルなどの周辺部品に干渉するおそれがある。これに対し、ケース変形量を抑制するためにケブラー繊維の巻数の増大を図ると、軽量化が損なわれてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、所要のコンテインメント性能を確保しながらも十分な軽量化を図ることができる航空機用エンジンのファンケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る航空機用エンジンのファンケースは、ファンブレードを備えるファンの外周を覆うものであって、繊維と樹脂を含む第1の複合材料を含むケース部と、繊維と樹脂を含む第2の複合材料を含み、前記ケース部の外周に形成される拘束部とを備え、前記拘束部の樹脂含有率が前記ケース部の樹脂含有率よりも低く設定されている。
【0010】
拘束部は、ケース部よりも樹脂含有率が低いことから、各繊維の繊維間接着強度が弱いのに伴って繊維同士が互いにずれるフレキシブル性を有する。繊維間が接着状態であると、せん断による破壊が起きるが、繊維同士が互いにずれると、引っ張りによる破壊が起きる。したがって、拘束部では、飛散したファンブレード片が衝突した場合に破壊される全ての繊維の中で、引っ張りにより破壊される繊維の割合が増加し、せん断により破壊される繊維の割合が減少する。一般に、引っ張りによる破壊はせん断による破壊よりも所要エネルギーが大きいため、拘束部全体として吸収できるエネルギーが大きくなる。換言すると、拘束部は、ファンブレード片の貫通を阻止できる高いコンテインメント機能を有する。これにより、ケース部は、コンテインメント機能を有する必要がないので、ファンブレードの先端部に対するチップクリアランスの確保、および静翼の保持等を満足するための高い強度および高い剛性を有する範囲内で十分に軽量化を図ることができる。
【0011】
前記拘束部は、前記ケース部におけるファンブレードに径方向外側から対向する箇所の外周に形成されるのが好ましい。これにより、拘束部を形成する領域を小さくして、一層の軽量化を図ることができる。
【0012】
前記第1と第2の複合材料のそれぞれにおける繊維を同一の繊維で構成し、前記第1と第2の複合材料のそれぞれにおける樹脂を同一の樹脂で構成することができる。これにより、使用する繊維および樹脂の種類を少なくして、生産性を向上させることができる。
【0013】
前記拘束部の樹脂含有率は12〜15重量%であるのが好ましい。前記ケースの樹脂含有率は32〜40重量%程度であるのが好ましい。これにより、コンテインメント機能と軽量化とをバランスよく実現できる。
【0014】
例えば、前記第1または第2の複合材料を形成する繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維よりなる群から選ばれた繊維であり、樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂およびポリイミド樹脂よりなる群から選ばれた樹脂である。これらの材料により、軽量で高強度の複合材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るファンケースが装着される航空機用エンジンを模式的に示した構成図である。
図2】同上の航空機用エンジンを示す正面図である。
図3】同上の航空機用エンジンにおけるファンおよびファンケースを示す縦断面図である。
図4A】同上のファンケースにおけるケース部の内部構造を模式的に示した断面図である。
図4B】同上のファンケースにおける拘束部の内部構造を模式的に示した断面図である。
図5】欠けて飛散したファンブレード片が衝突したときのファンケースのケース部の内部構造を示す模式図である。
図6】欠けて飛散したファンブレード片が衝突したときのファンケースの拘束部の内部構造を示す模式図である。
図7A】本発明の実施例に係るファンケースにおけるケース部の内部構造を模式的に示した断面図である。
図7B】本発明の実施例に係るファンケースにおける拘束部の内部構造を模式的に示した断面図である。
図8】同実施例における拘束部の吸収エネルギを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1において、航空機用のジェットエンジンEは、2軸型のターボファンエンジンであり、圧縮機2、燃焼器3、タービン4およびファン10を主要構成要素として備えている。圧縮機2から供給される圧縮空気に燃料を混合して燃焼器3で燃焼させ、その燃焼により発生する高温高圧の燃焼ガスがタービン4に供給される。タービン4は前段側の高圧タービン41と後段側の低圧タービン42とを有し、圧縮機2は、中空の高圧軸7を介して高圧タービン41に連結されており、この高圧タービン41により回転駆動される。
【0017】
ファン10は、高圧軸7の中空部に挿通された低圧軸9を介して低圧タービン42に連結されており、この低圧タービン42により回転駆動される。このファン10は低圧軸9の前端部に装着されて、ファンケースFCにより覆われている。高圧軸7および低圧軸9は共通のエンジン軸心Cを有する同心配置となっている。こうして、低圧タービン42から噴射される燃焼ガスのジェット流と、ファン10により生成される高速空気流とによりエンジン推力が得られる。
【0018】
図2に示すように、ファン10は、低圧軸9(図1)に一体回転するように連結されたハブ11の外周に、多数のファンブレード(動翼)12がエンジンEの径方向に沿った放射状の配置で植設されている。このファン10は、その外周を覆う環状(円筒状)のファンケースFC内に収納されており、一部のファンブレード12が欠けて飛散した場合に、そのファンブレード片がエンジンEから外側に飛び出さないようにファンケースFC内に受容される。このファン10およびファンケースFCを含むエンジンE全体はエンジンナセルNにより覆われている。
【0019】
図3に示すように、ファン10には、ファンブレード12の下流側にファン静翼13が配設されている。ファンケースFCは、円筒体の両端部からそれぞれ外方に延びるフランジ部21a,21bを有するケース部21と、このケース部21の外周面に装着された拘束部22とを有している。拘束部22は、ケース部21におけるファンブレード12に径方向外側から対向する箇所の外周のみに形成されており、その軸方向長さはファンブレード12の先端部12aの軸方向長さよりも大きく設定されている。ケース部21は繊維と樹脂を含む第1の複合材料により形成され、拘束部22は繊維と樹脂を含む第2の複合材料により形成されている。この実施形態では、第1および第2の複合材料は同一の繊維および樹脂により形成されているが、拘束部22の複合材料における樹脂含有率はケース部21の樹脂含有率よりも低く設定されている。
【0020】
ケース部21および拘束部22の素材である、軽量で高強度の複合材料は、繊維として、カーボン繊維、ガラス繊維またはアラミド繊維などを好適に用いることができる。この繊維による複数の層の間に充填されて隣接する二つの繊維層を互いに接着する母材となる樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂またはポリイミド樹脂のような熱硬化性樹脂を好適に用いることができる。製造にあたっては、積層用の型の上にケース部21を形成するための複合材料を積層し、その上から拘束部22を形成する複合材料を積層し、加熱して両複合材料を硬化させる。
【0021】
ファンケースFCのケース部21は、各ファンブレード12の先端部12aに対して所要の小さなチップクリアランスTCで対向する内径に設定されている。ケース部21は、エンジン効率を高くするために、内径面が高い寸法精度で管理されており、小さな所要のチップクリアランスTCを常に確保できる強度および剛性が要求される。そこで、ケース部21は、硬くて変形し難い高い剛性を有する複合材料で形成されている。すなわち、この実施形態では、ケース部21の複合材料として、従来から一般的に用いられているものであって、径方向に重ねられた複数の繊維層の間に樹脂が十分に含有されて高い強度および高い剛性が得られる樹脂含有率に設定されたものが用いられている。
【0022】
このファンケースFCでは、ケース部21に加えて、その外周側に拘束部22を別途備えており、この拘束部22は、後述するように、FBO発生時に欠けて飛散するファンブレード片がファンケースFCから外方へ飛散するのを防止するコンテインメント機能を備えている。したがって、ケース部21は、コンテインメント機能を具備する必要がなく、所要のチップクリアランスTCの確保、静翼13の保持などを実現できる強度と剛性が得られる範囲内で軽量化を図ることができる。実際、ケース部21の剛性は拘束部22の剛性よりも高くなっている。
【0023】
図4Aに模式的に示すように、ファンケースFCにおけるケース部21は、高い強度および剛性が得られる一般的な通常の樹脂含有率に設定されており、繊維23Aによる各層の間に樹脂24Aが十分に充填されて、各層の繊維23A同士が互いに強固に接着されていることにより、繊維23A同士が互いに分離(剥離)し難い状態になっている。
【0024】
一方、図4Bに模式的に示すように、ファンケースFCにおける拘束部22は、図4Bに示すように、ケース部21の通常の樹脂含有率よりも低い樹脂含有率に設定されており、接着材である樹脂24Bが少ないために、繊維23Bによる各層の間に樹脂24Bが十分に行き渡らないのに伴って気泡のような樹脂未含浸部27が多く発生する。その結果、各層の繊維23B間をつなぐ繊維間接着強度が弱く、繊維23B同士が互いに分離(剥離)し、ずれが生じ易い状態になっている。これにより、拘束部22では、ケース部21に比べて、繊維23Bが柔軟に撓むことのできるフレキシブル性を有したものになる。
【0025】
図5および図6に、FBO発生時に欠けたファンブレード片120が衝突した場合のケース部21および拘束部22の内部構造の変形状態が模式的に示されている。図5において、ケース部21では、欠けたファンブレード片120が衝突したときに、繊維23A同士が剥離し難い状態であるため、繊維23Aが主として剪断力により破断する径方向の剪断領域P1が大きく、かつ繊維23Aが主として引っ張りにより破断する径方向の剥離領域P2が小さくなる。
【0026】
一方、図6に示すように、拘束部22では、欠けたファンブレード片120が衝突したときに、繊維23B同士が剥離し易いフレキシブルな状態であるため、剪断領域P1が小さく、剥離領域P2が大きくなる。つまり、拘束部22では、繊維23B間の接着力が弱いことから繊維23Bが柔軟に移動できるため、繊維23Bに加わる剪断力が小さくなるのに伴って引っ張りにより破断する繊維23Bの割合が多くなる結果、剥離領域P2が大きくなる。
【0027】
一般に、繊維23A,23Bの破断においては、引っ張りによる破断が剪断による破断に比べて必要とするエネルギ量が大きい。換言すると、欠けたファンブレード片120により繊維23A,23Bが破断されるのに必要なエネルギ量は、剪断領域P1よりも剥離領域P2の方が大きい。そのため、拘束部22よりも剪断領域P1が大きいケース部21では、図5に図示したように、拘束部22を有するのに伴って、ファンブレード片120の貫通を許容する構造とできるので、所要の強度および剛性を有する範囲内で軽量化を図ることができる。一方、ケース部21よりも剥離領域P2の割合が大きい拘束部22は、衝突するファンブレード片120に対する衝撃吸収エネルギが大きいことから、図6に図示したように、ケース部21を貫通して進入するファンブレード片120が貫通するのを阻止する優れたコンテインメント機能を発揮する。
【0028】
以上説明したように、図3のファンケースFCは、ファン10を覆うケース部21と、コンテインメント機能を得るための拘束部22とを設け、拘束部22を、ケース部21の樹脂含有率よりも低い樹脂含有率に設定するだけで柔軟性の向上を図ってコンテインメント機能を具備させている。これにより、既存のファンケースと同一重量とした場合は、既存のものよりコンテインメント能力の高いものとなる。また、既存のファンケースと同等のコンテインメント能力を有したものとした場合は、既存のものより軽量化を達成することができる。さらに、拘束部22は、ケース部21におけるファンブレード12の径方向外側に対向する箇所のみに配設するので、この点からも一層の軽量化を図ることができる。また、前記実施形態では、ケース部21と拘束部22として、同一種類の組み合わせの複合材料が使用されており、その樹脂含有率を変えるだけであるから、2種類の複合材料を用意する必要がないので、生産性が高い。
【0029】
つぎに、本発明の実施例を説明する。
(ケース部21の実施例)
図7Aに示すように、ケース部21は、下記の繊維23Aを敷き詰めた上に予め一定量の樹脂24Aを含有させたプリプレグ28Aのみを多数重ね合わせて構成されている。プリプレグ28Aの樹脂含有率は一般的なプリプレグと同程度の35重量%(以下、単に「%」と表記する場合がある。)である。
繊維23A=カーボン繊維
樹脂24A=エポキシ樹脂
【0030】
(拘束部22の実施例)
図7Bに示すように、ケース部21に使用したプリプレグ28Aの間に任意の頻度で、一方向に下記の繊維23Bを敷き詰めた上に、これと直交する方向に繊維23Bを敷き詰め、これらをポリエステルの糸で縫い合わせた中間繊維層28Bを挟み込んでいる。中間繊維層28Bは樹脂が含浸していない繊維であるから、これを含む拘束部22は、プリプレグのみで構成されるケース部21と比較して、全体的に樹脂の量が少なくなり、繊維の量が多くなる。すなわち、樹脂含有率が低くなる。なお、プリプレグ28Aが含有している樹脂は加熱硬化時に流動的となり、中間繊維層28Bの内部にも広がることにより、加熱硬化後の樹脂の分布は一様状態に近づく。また、中間繊維層28Bに含まれる前記ポリエステルの糸は、重量比率が微小であり、無視できる。こうして拘束部22の樹脂含有率を12%に設定した。
中間繊維層28Bの繊維23B=カーボン繊維
【0031】
図7Bの拘束部22の面密度を1.2g/cm2としたとき、実験により得られた樹脂含有率(重量%)の変化に対する吸収エネルギの変化を図8に示す。図8からわかるとおり、拘束部22の樹脂含有率は、15%以下において、一般的な複合材料の樹脂含有率35%の場合よりも、10%以上大きな吸収エネルギが得られる。樹脂含有率が12%未満では、樹脂と繊維の結合が弱くなり、複合材料の形状が維持できない。したがって、拘束部22の樹脂含有率は12〜15%が好ましい。
【0032】
ケース部21の樹脂含有率は、高い剛性を維持するために、35%の前後を含む32〜40%程度が好ましい。このような複合材料をケース部21と拘束部22に使用することにより、コンテインメント機能と軽量化とをバランスよく実現できる。
【0033】
なお、前記実施形態では、ケース部21と拘束部22とを同一の繊維と樹脂を組み合わせた複合材料で形成する場合を例示しているが、これに限らず、ケース部21と拘束部22とで、繊維と樹脂の少なくとも一方を異ならせた複合材料を用いてもよい。
【0034】
本発明は上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
10 ファン
12 ファンブレード
21 ケース部
22 拘束部
23A,23B 繊維
24A,24B 樹脂
28A プリプレグ
28B 中間繊維層
120 ファンブレード片
FC ファンケース
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8