特許第5938486号(P5938486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938486半導体形成用塗布液、半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938486
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】半導体形成用塗布液、半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20160609BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20160609BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20160609BHJP
   C01G 30/00 20060101ALI20160609BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20160609BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   H01L21/368 Z
   H01L31/04 112B
   H01L31/04 422
   C01G30/00
   C01B19/04 B
   C09D1/00
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-555437(P2014-555437)
(86)(22)【出願日】2014年11月4日
(86)【国際出願番号】JP2014079206
(87)【国際公開番号】WO2015068683
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-231397(P2013-231397)
(32)【優先日】2013年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-102142(P2014-102142)
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 明伸
(72)【発明者】
【氏名】小原 峻士
(72)【発明者】
【氏名】堀木 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和志
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/102673(WO,A2)
【文献】 国際公開第2013/168567(WO,A1)
【文献】 特開2013−201179(JP,A)
【文献】 特開2002−100793(JP,A)
【文献】 特開2013−109965(JP,A)
【文献】 特開2004−319705(JP,A)
【文献】 特開2013−058794(JP,A)
【文献】 特許第4120362(JP,B2)
【文献】 特開2013−206988(JP,A)
【文献】 特開2013−065826(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/075259(WO,A1)
【文献】 特開平07−133200(JP,A)
【文献】 特開2012−199228(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169621(WO,A1)
【文献】 NAYAK B B, ACHARYA H N, CHAUDHURI T K, MITRA G B,The dip-dry technique for preparing photosensitive Sb2S3 films,Thin Solid Films,スイス,1982年 6月25日,vol.92 No.4,Page.309-314
【文献】 Shinmoto, Y. ; Ishiwata, J. ; Miyazaki, T. ; Miyazaki, E.,Numerical analysis and experimental study of fluid return pressure for mud-pulse telemetry,2011 IEEE 3rd International Conference on Communication Software and Networks (ICCSN),米国,2011年 5月27日,p.273-277
【文献】 Wang H, Zhu J-M, Zhu J-J, Chen H-Y, Yuan L-M,Novel Microwave-Assisted Solution-Phase Approach to Radial Arrays Composed of Prismatic Antimony Tri,Langmuir,米国,2003年12月23日,vol.19 No.26,P.10993-10996
【文献】 J. Rodriguez-Castro et al.,Deposition of Antimony Sulfide Thin Films from Single-Source Antimony Thiolate Precursors,Chemistry of Materials,American Chemical Society,2007年 6月 5日,Vol.19, No.13,pp 3219-3226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/368
C01B 19/04
C01G 30/00
C09D 1/00
H01L 31/18
H01L 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化アンチモン半導体及び/又はセレン化アンチモン半導体を得るための半導体形成用塗布液であって、
アンチモンと、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体を含有し、
前記アンチモンと、前記硫黄及び/又はセレンと、の含有量のモル比が1:2〜1:10である
ことを特徴とする半導体形成用塗布液。
【請求項2】
少なくとも、アンチモンを含有する金属含有化合物と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、有機溶媒と、を含む成分から得られたことを特徴とする請求項1記載の半導体形成用塗布液。
【請求項3】
請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液を用いて得られたものであることを特徴とする半導体薄膜。
【請求項4】
請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体を光電変換層として用いることを特徴とする薄膜太陽電池。
【請求項5】
光電変換層が、更に、請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体に隣接する有機半導体を含むことを特徴とする請求項4記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液を基板又は他の層上に塗布して、半導体薄膜を形成する工程と、
前記半導体薄膜上に、有機半導体薄膜を積層する工程と、
を有することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項7】
基板又は他の層上に、有機半導体薄膜を積層する工程と、
請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液を前記有機半導体薄膜上に塗布して、半導体薄膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の半導体形成用塗布液と有機半導体との混合液を基板又は他の層上に塗布する工程を有することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等の光電変換素子用の半導体材料として好適な半導体形成用塗布液に関する。また、本発明は、該半導体形成用塗布液を用いて製造した半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化アンチモン(Sb)、硫化ビスマス(Bi)、セレン化アンチモン(SbSe)等の硫化物又はセレン化物半導体は、そのバンドギャップが1.0〜2.5eVであるため、可視光領域において高い光吸収特性を示す。そのため、このような硫化物又はセレン化物半導体は、太陽電池等の光電変換材料や可視光応答型光触媒材料として有望視されている。また、このような硫化物又はセレン化物半導体は、その赤外領域での高い透過性から、赤外線センサーとしても精力的に検討されており、更に、光照射によりその導電率が変化するため、光導電材料としても注目されている。
【0003】
従来、このような硫化物又はセレン化物半導体の薄膜は、真空蒸着法、スパッタ法、気相反応法(CVD)等の方法により製造されている。例えば、非特許文献1には、スパッタ法による硫化アンチモン薄膜の作製方法が報告されている。このような方法では、成膜直後の膜がアモルファス(バンドギャップ2.24eV)であり、400℃で硫黄雰囲気での焼成により、結晶膜(バンドギャップ1.73eV)が得られるとしている。
また、非特許文献2には、電気化学沈積法を用いた硫化物薄膜の作製方法も開示されている。このような方法では、バンドギャップがそれぞれ、1.58eV(Sb)、1.74eV(Bi)である薄膜が得られている。
【0004】
しかしながら、真空蒸着法やスパッタ法等の方法は、装置が高価でコスト面で不利であるだけでなく、大面積の成膜が困難であるという問題点があった。また、電気化学沈積法は、真空設備を必要とせず、常温で成膜できるが、成膜後洗浄工程が必要であり、また任意の膜厚への制御が困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Matthieu Y.Versavel and Joel A.Haber,Thin Solid Films,515(18),7171−7176(2007)
【非特許文献2】N.S.Yesugade,et al.,Thin Solid Films,263(2),145−149(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記現状に鑑み、変換効率が高く変換効率ばらつきが小さい太陽電池の半導体材料として有用な半導体を、大面積で簡易に形成でき、膜厚制御が可能となる半導体形成用塗布液を提供することを目的とする。また、本発明は、該半導体形成用塗布液を用いて製造した半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体を含有し、前記周期律表第15族の金属元素と、前記硫黄及び/又はセレンと、の含有量のモル比が1:2〜1:10である半導体形成用塗布液である。
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0008】
本発明者らは、金属含有化合物と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、を含有する半導体形成用塗布液を用いることで、印刷法等の塗布法を採用でき、金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、からなる半導体を大面積で簡易に形成できると考えた。しかしながら、金属含有化合物、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物、並びに、これらを溶解するための溶媒の組み合わせによっては、半導体の膜表面のザラツキや膜厚の不均一性が生じやすく、その結果、電気的な特性及び半導体特性が低くなることがあった。また、このような方法は、再現性の高い成膜が困難であった。
本発明者らは、鋭意検討の結果、金属含有化合物と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、を含有する半導体形成用塗布液において、有機溶媒中で、金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体が形成されるような金属含有化合物と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、を用いることによって、安定な塗布液が得られ、任意の膜厚への制御ができ、塗布後は簡易な処理により所望の半導体を作製することが可能となることを見出した。更に、本発明者らは、金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、の混合比をある特定の範囲に固定することにより、半導体形成用塗布液を用いて製造した太陽電池の変換効率が著しく向上し、更には変換効率ばらつきを低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の半導体形成用塗布液は、周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、をある特定の混合比で含む錯体を含有するものである。
このような錯体を形成することで、安定な塗布液が得られ、任意の膜厚への制御ができる。その結果、均一な良質の半導体が形成されるだけではなく、その電気的な特性及び半導体特性も向上する。なお、周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体は、赤外吸収スペクトルにて、金属元素−硫黄間の結合に由来する吸収ピーク又は金属元素−セレン間の結合に由来するピークを測定することで確認することができる。また、溶液の色の変化で確認することもできる。
【0010】
上記周期律表第15族の金属元素と、上記硫黄及び/又はセレンと、の含有量のモル比は、1:2〜1:10である。上記モル比は、好ましくは1:2.5〜1:6である。
上記周期律表第15族の金属元素と、上記硫黄及び/又はセレンと、からなる半導体の化学量論式は、上記周期律表第15族の金属元素をX、上記硫黄及び/又はセレンをYで表す場合、Xである。このため、上記周期律表第15族の金属元素と、上記硫黄及び/又はセレンと、の含有量の化学量論比(モル比)は、1:1.5である。
これに対して、本発明の半導体形成用塗布液においては、上記周期律表第15族の金属元素と、上記硫黄及び/又はセレンと、の含有量のモル比を、化学量論比よりも硫黄及び/又はセレンのモル比が多くなるような上記範囲に固定する。これにより、本発明の半導体形成用塗布液を用いて製造した太陽電池の変換効率が著しく向上し、更には変換効率ばらつきを低減することができる。この理由は、はっきりとは判っていないが、半導体形成用塗布液中で周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体は、錯体を形成する前の金属含有化合物並びに硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物との間で平衡状態にあり、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物を過剰に加えることにより平衡が錯体を形成する方向へ傾くため、安定して周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体が形成されるためと考えられる。
【0011】
上記周期律表第15族の金属元素としては、アンチモン、ビスマスが好ましい。なかでも、電気的な特性及び半導体特性のより優れた半導体が形成されることから、アンチモンがより好ましい。
【0012】
上記周期律表第15族の金属元素と、硫黄及び/又はセレンと、を含む錯体は、上記周期律表第15族の金属元素と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、の間に形成されることが好ましい。硫黄含有化合物中の硫黄元素及びセレン含有化合物中のセレン元素は、化学結合に関与していない孤立電子対を有するため、上記周期律表第15族の金属元素の空の電子軌道(d軌道又はf軌道)との間に配位結合を形成しやすい。
このような錯体を形成するためには、本発明の半導体形成用塗布液は、少なくとも、周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物と、硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と、有機溶媒と、を含む成分から得られたものであることが好ましい。
【0013】
上記周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物は、使用する硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物と有機溶媒とを適宜組み合わせて、錯体を形成できれば特に限定されない。上記周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物としては、上記周期律表第15族の金属元素の金属塩、有機金属化合物等が挙げられる。
上記金属塩としては、例えば、上記周期律表第15族の金属元素の塩化物、オキシ塩化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、水酸化物、過酸化物等が挙げられる。また、上記金属塩の水和物も含まれる。
上記有機金属化合物としては、例えば、上記周期律表第15族の金属元素のカルボン酸、ジカルボン酸、オリゴカルボン酸、ポリカルボン酸の塩化合物が挙げられる。より具体的には、上記周期律表第15族の金属元素の酢酸、ギ酸、プロピオン酸、オクチル酸、ステアリン酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸等の塩化合物等が挙げられる。
【0014】
上記周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物としては、具体的には例えば、塩化アンチモン、酢酸アンチモン、臭化アンチモン、フッ化アンチモン、オキシ酸化アンチモン、トリエトキシアンチモン、トリプロポキシアンチモン、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸水酸化ビスマス、トリス(2−メトキシフェニル)ビスマス、炭酸ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、リン酸ビスマス、臭化ビスマス、トリエトキシビスマス、トリイソプロポキシアンチモン、ヨウ化砒素、トリエトキシ砒素等が挙げられる。これらの周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0015】
本発明の半導体形成用塗布液における周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物の添加量は、好ましい下限が3重量%、好ましい上限が30重量%であり、より好ましい下限は5重量%、より好ましい上限は20重量%であり、更に好ましい下限は7重量%、更に好ましい上限は15重量%である。上記添加量が3重量%以上であると、良質な半導体を容易に作製することができる。上記添加量が30重量%以下であると、安定な半導体形成用塗布液を容易に得ることができる。
【0016】
上記硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物は、使用する周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物と有機溶媒とを適宜組み合わせて、錯体を形成できれば特に限定されない。
上記硫黄含有化合物としては、例えば、チオ尿素、チオ尿素の誘導体、ジチオカルバミン酸塩(Dithiocarbamate)、キサントゲン酸塩(Xanthate)、ジチオリン酸塩(Dithiophosphate)、チオ硫酸塩、チオシアン酸塩、チオアセトアミド、ジチオビウレット等が挙げられる。
上記セレン含有化合物としては、例えば、塩化セレン、臭化セレン、ヨウ化セレン、セレノフェノール、セレノ尿素、セレノ尿素の誘導体、亜セレン酸、セレノアセトアミド、セレノアセトアミドの誘導体、ジセレノカルバミン酸塩、セレノ硫酸塩、セレノシアン酸塩、セレン化水素等が挙げられる。
【0017】
上記チオ尿素の誘導体としては、1−アセチル−2−チオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N−メチルチオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素等が挙げられる。上記ジチオカルバミン酸塩としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム等が挙げられる。上記キサントゲン酸塩としては、エチルキサントゲン酸ナトリウム(sodium ethyl xanthate)、エチルキサントゲン酸カリウム、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸カリウム等が挙げられる。上記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等が挙げられる。上記チオシアン酸塩としては、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの硫黄含有化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記セレノ尿素の誘導体としては、1−アセチル−2−セレノ尿素、エチレンセレノ尿素、1,3−ジエチル−2−セレノ尿素、1,3−ジメチルセレノ尿素、テトラメチルセレノ尿素、N−メチルセレノ尿素、1−フェニル−2−セレノ尿素等が挙げられる。上記ジセレノカルバミン酸塩として、例えば、ジメチルジセレノカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジセレノカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジセレノカルバミン酸カリウム、ジエチルジセレノカルバミン酸カリウム等が挙げられる。上記セレノ硫酸塩として、例えば、セレノ硫酸ナトリウム、セレノ硫酸カリウム、セレノ硫酸アンモニウム等が挙げられる。上記セレノシアン酸塩として、例えば、セレノシアン酸カリウム、セレノシアン酸アンモニウム等が挙げられる。これらのセレン含有化合物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0018】
上記有機溶媒は、使用する周期律表第15族の金属元素を含有する金属含有化合物と硫黄含有化合物及び/又はセレン含有化合物とを適宜組み合わせて、錯体を形成できれば特に限定されない。
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、n−プロパノール、クロロホルム、クロロベンゼン、ピリジン等が挙げられ、これらの中でも特にメタノール、エタノール、アセトンが好ましい。これらの有機溶媒は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、電気的な特性及び半導体特性のより優れた半導体が形成されることから、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。
また、本発明の半導体形成用塗布液は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、水等の非有機溶媒成分を更に含有してもよい。
【0019】
上記周期律表第15族の金属元素と、硫黄と、を含む錯体としては、具体的には例えば、ビスマス−チオ尿素錯体、ビスマス−チオ硫酸錯体、ビスマス−チオシアン酸錯体、アンチモン−チオ尿素錯体、アンチモン−チオ硫酸錯体、アンチモン−チオシアン酸錯体、アンチモン−ジチオカルバミン酸錯体、アンチモン−キサントゲン酸錯体等が挙げられる。
上記周期律表第15族の金属元素と、セレンと、を含む錯体としては、具体的には例えば、ビスマス−セレノ尿素錯体、ビスマス−セレノシアン酸錯体、ビスマス−ジメチルセレノ尿素錯体、アンチモン−セレノ尿素錯体、アンチモン−セレノシアン酸錯体、アンチモン−ジメチルセレノ尿素錯体等が挙げられる。
【0020】
本発明の半導体形成用塗布液を基板上に塗布することによって製造された半導体薄膜もまた、本発明の1つである。このように得られた半導体の薄膜は、太陽電池用材料、光触媒材料又は光導電材料として有用である。
本発明の半導体形成用塗布液を塗布する方法は特に限定されないが、例えば、スピンコート法、ロールtoロール等の印刷法が挙げられる。本発明の半導体形成用塗布液を用いることで、印刷法等の塗布法を採用でき、半導体薄膜を均一かつ平滑に形成することができ、また任意の膜厚への制御ができることから、半導体薄膜の電気的な特性及び半導体特性を向上させることができ、形成コストを削減することもできる。
【0021】
また、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体を光電変換層として用いる薄膜太陽電池もまた、本発明の1つである。
上記光電変換層は、更に、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体に隣接する有機半導体を含むことが好ましい。この場合、上記光電変換層における本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体と有機半導体との位置関係は、両者がお互いに隣接していればよく、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体薄膜と有機半導体薄膜とを含む積層体であってもよいし、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体と有機半導体とを混合して複合化した複合膜であってもよい。
【0022】
上記光電変換層が、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体薄膜と有機半導体薄膜とを含む積層体である場合、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体薄膜の厚みは、好ましい下限が5nm、好ましい上限が5000nmである。上記厚みが5nm以上であると、上記光電変換層が充分に光を吸収でき、薄膜太陽電池の変換効率がより向上する。上記厚みが5000nm以下であると、電荷分離できない領域が上記光電変換層に発生することが抑制され、薄膜太陽電池の変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は10nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は20nm、更に好ましい上限は500nmである。
また、上記有機半導体薄膜の厚みは、好ましい下限が5nm、好ましい上限が1000nmである。上記厚みが5nm以上であると、上記光電変換層が充分に光を吸収でき、薄膜太陽電池の変換効率がより向上する。上記厚みが1000nm以下であると、電荷分離できない領域が上記光電変換層に発生することが抑制され、薄膜太陽電池の変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は10nm、より好ましい上限は500nmであり、更に好ましい下限は20nm、更に好ましい上限は200nmである。
【0023】
上記光電変換層が、本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体と有機半導体とを混合して複合化した複合膜である場合、該複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は3000nmである。上記厚みが30nm以上であると、上記光電変換層が充分に光を吸収でき、薄膜太陽電池の変換効率がより向上する。上記厚みが3000nm以下であると、電荷が電極に到達しやすくなり、薄膜太陽電池の変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は40nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は50nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0024】
本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体薄膜と有機半導体薄膜とを含む積層体の製造方法としては、本発明の半導体形成用塗布液を基板又は他の層上に塗布して、半導体薄膜を形成する工程と、上記半導体薄膜上に、有機半導体薄膜を積層する工程と、を有する方法を用いてもよく、逆に基板又は他の層上に、有機半導体薄膜を積層する工程と、本発明の半導体形成用塗布液を上記有機半導体薄膜上に塗布して、半導体薄膜を形成する工程と、を有する方法を用いてもよい。
本発明の半導体形成用塗布液を用いて得られた半導体と有機半導体とを混合して複合化した複合膜の作製方法としては、本発明の半導体形成用塗布液と有機半導体との混合液を基板又は他の層上に塗布する工程を有する方法が挙げられる。
これらの工程を有する薄膜太陽電池の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0025】
上記有機半導体としては特に限定されず、例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)等のチオフェン誘導体等が挙げられる。また、上記有機半導体として、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリトリフェニルアミン等の導電性高分子等も挙げられる。また、上記有機半導体として、例えば、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ペンタセン誘導体、ベンゾポルフィリン誘導体等のポルフィリン誘導体、トリフェニルアミン誘導体等も挙げられる。なかでも、比較的耐久性が高いことから、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ベンゾポルフィリン誘導体、トリフェニルアミン誘導体が好ましい。
【0026】
本発明の薄膜太陽電池は、上記光電変換層に加えて、更に、基板、ホール輸送層、電子輸送層等を有していてもよい。上記基板は特に限定されず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明ガラス基板、セラミック基板、透明プラスチック基板等が挙げられる。
【0027】
上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンのポリスチレンスルホン酸付加物、カルボキシル基含有ポリチオフェン、フタロシアニン、ポルフィリン、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化スズ、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等が挙げられる。
【0028】
上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、変換効率が高く変換効率ばらつきが小さい太陽電池の半導体材料として有用な半導体を、大面積で簡易に形成でき、膜厚制御が可能となる半導体形成用塗布液を提供することができる。また、本発明では、該半導体形成用塗布液を用いて製造した半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(半導体形成用塗布液の作製)
N,N−ジメチルホルムアミド100重量部に、塩化アンチモン(III)20重量部を添加し攪拌することによって、塩化アンチモン(III)溶液を作製した。また、N,N−ジメチルホルムアミド100重量部に、チオ尿素(CS(NH)20重量部を添加し攪拌することによって、チオ尿素(CS(NH)溶液を作製した。次に、得られた塩化アンチモン(III)溶液1mLに、得られたチオ尿素(CS(NH)溶液1mLを攪拌しながら徐々に添加した。その際、溶液は混合前の無色透明から黄色透明に変わった。添加終了後に更に30分間攪拌することによって、半導体形成用塗布液を作製した。このときの半導体形成用塗布液におけるSb:Sのモル比率は1:3であった。
【0032】
半導体形成用塗布液について、赤外吸収スペクトルを測定したところ、−NH伸縮振動(Stretching vibration)に由来する3つの吸収ピークの位置(3370cm−1,3290cm−1,3148cm−1)がチオ尿素単一成分の−NHに由来する吸収ピークの位置と同じだった。一方、C=S結合に由来する吸収ピークはチオ尿素単一成分では一つのピーク(1413cm−1)であったのに対し、半導体形成用塗布液では2つに分かれた。また、C−Nの伸縮振動に由来する吸収ピークは1474cm−1から1511cm−1までシフトした。
これらの結果から、半導体形成用塗布液中において、アンチモンとチオ尿素との間に錯体が形成され、その錯体の形成はアンチモン原子とチオ尿素中の窒素原子との間ではなく、アンチモン原子とチオ尿素中の硫黄原子との間に形成されていることが分かった。
【0033】
(半導体薄膜の形成)
半導体形成用塗布液を回転数1000rpmの条件でITOガラス基板(ITO膜の厚み:240nm)上にスピンコート法によって塗布した。塗布後の膜はほぼ無色透明であった。その後、サンプルを真空炉に入れ、真空に引きながら260℃で10分間焼成することによって硫化アンチモンの薄膜を得た。真空炉から取出した膜は黒色であった。
得られた膜について、まず、膜厚計(KLA−TENCOR、P−16+)で平均膜厚を測定したところ、100nmであった。また、膜の吸収スペクトルを分光光度計(日立ハイテック社製、U−4100)で測定し、その吸収スペクトルからバンドギャップを見積もったところ、バンドギャップは1.70eVであった。更に、薄膜X線回折分析(装置:RINT−Ultima III)を行ったところ、得られた膜は輝安鉱構造(Stibnite)を有する結晶膜であった。加えて、光学顕微鏡及びレーザー顕微鏡で膜表面の形状を確認したところ、平滑で均一な形状となっていた。
【0034】
(薄膜太陽電池の作製)
FTO膜の表面上に、電子輸送性のバッファ層として2%に調製したチタンイソプロポキシドエタノール溶液をスピンコート法により塗布した後、400℃で10分間焼成した。更に、有機バインダとしてポリイソブチルメタクリレートを含有した酸化チタン(平均粒径10nmと30nmとの混合物)ペーストを同じくスピンコート法により積層し、400℃で10分間焼成することにより膜厚400nmの多孔質膜を得た。
次いで、上記で得られた半導体形成用塗布液を、回転数1000rpmの条件でスピンコート法によって塗布した。塗布後の膜はほぼ無色透明であった。その後、サンプルを真空炉に入れ、真空に引きながら260℃で10分間焼成することによって硫化アンチモンの薄膜を得た(膜厚:100nm)。得られた硫化アンチモン薄膜の表面に、P型半導体層としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)をスピンコート法により成膜した(膜厚:30nm)。
その後、ホール輸送層としてポリエチレンジオキサイドチオフェン:ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)をスピンコート法により100nmの厚みに成膜した。次いで、その表面に厚み80nmの金電極を真空蒸着法により成膜することによって薄膜太陽電池を作製した。
【0035】
(実施例2)
塩化アンチモン(III)を酢酸アンチモン(III)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0036】
(実施例3)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:2.1となるように0.7mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0037】
(実施例4)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:2.4となるように0.8mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0038】
(実施例5)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:4.5となるように1.5mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0039】
(実施例6)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:6となるように2.0mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0040】
(実施例7)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:6.3となるように2.1mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0041】
(実施例8)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:9となるように3.0mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0042】
(実施例9)
チオ尿素をチオアセトアミドに変更し、Sb:Sのモル比率が1:3となるようにチオアセトアミドを添加した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。また、アンチモンとチオアセトアミドとの間に錯体が形成されていることが確認された。
【0043】
(実施例10)
チオ尿素をジチオビウレットに変更し、Sb:Sのモル比率が1:3となるようにジチオビウレットを添加した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。また、アンチモンとジチオビウレットとの間に錯体が形成されていることが確認された。
【0044】
(実施例11)
チオ尿素を1,3−ジメチルチオ尿素に変更し、Sb:Sのモル比率が1:3となるように1,3−ジメチルチオ尿素を添加した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。また、アンチモンと1,3−ジメチルチオ尿素との間に錯体が形成されていることが確認された。
【0045】
(実施例12)
N,N−ジメチルホルムアミドをメタノールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0046】
(実施例13)
(半導体形成用塗布液の作製)
N,N−ジメチルホルムアミド100重量部に、塩化アンチモン(III)20重量部を添加し攪拌することによって、塩化アンチモン(III)溶液を作製した。また、N,N−ジメチルホルムアミド100重量部に、セレノ尿素(CSe(NH)32重量部を添加し攪拌することによって、セレノ尿素(CSe(NH)溶液を作製した。次に、得られた塩化アンチモン(III)溶液1mLに、得られたセレノ尿素(CSe(NH)溶液1mLを攪拌しながら徐々に添加した。その際、溶液は混合前の無色透明から黄色透明に変わった。添加終了後に更に30分間攪拌することによって、半導体形成用塗布液を作製した。このときの半導体形成用塗布液におけるSb:Seのモル比率は1:3であった。なお、アンチモンとセレノ尿素との間に錯体が形成されていることを、上記と同様に赤外吸収スペクトルを測定することにより確認した。
【0047】
(半導体薄膜の形成)
半導体形成用塗布液を回転数1000rpmの条件でITOガラス基板(ITO膜の厚み:240nm)上にスピンコート法によって塗布した。塗布後の膜はほぼ無色透明であった。その後、サンプルを真空炉に入れ、真空に引きながら260℃で10分間焼成することによってセレン化アンチモンの薄膜を得た。真空炉から取出した膜は黒色であった。
得られた膜について、まず、膜厚計(KLA−TENCOR、P−16+)で平均膜厚を測定したところ、120nmであった。また、膜の吸収スペクトルを分光光度計(日立ハイテック社製、U−4100)で測定し、その吸収スペクトルからバンドギャップを見積もったところ、バンドギャップは1.30eVであった。更に、薄膜X線回折分析(装置:RINT−Ultima III)を行ったところ、得られた膜はセレン化アンチモンを有する結晶膜であった。加えて、光学顕微鏡及びレーザー顕微鏡で膜表面の形状を確認したところ、平滑で均一な形状となっていた。
【0048】
(薄膜太陽電池の作製)
FTO膜の表面上に、電子輸送性のバッファ層として2%に調製したチタンイソプロポキシドエタノール溶液をスピンコート法により塗布した後、400℃で10分間焼成した。更に、有機バインダとしてポリイソブチルメタクリレートを含有した酸化チタン(平均粒径10nmと30nmとの混合物)ペーストを同じくスピンコート法により積層し、400℃で10分間焼成することにより膜厚400nmの多孔質膜を得た。
次いで、上記で得られた半導体形成用塗布液を、回転数1000rpmの条件でスピンコート法によって塗布した。塗布後の膜はほぼ無色透明であった。その後、サンプルを真空炉に入れ、真空に引きながら260℃で10分間焼成することによってセレン化アンチモンの薄膜を得た(膜厚:120nm)。得られたセレン化アンチモン薄膜の表面に、P型半導体層としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)をスピンコート法により成膜した(膜厚:30nm)。
その後、ホール輸送層としてポリエチレンジオキサイドチオフェン:ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)をスピンコート法により100nmの厚みに成膜した。次いで、その表面に厚み80nmの金電極を真空蒸着法により成膜することによって薄膜太陽電池を作製した。
【0049】
(実施例14)
セレノ尿素溶液の添加量をSb:Seのモル比率が1:2.1となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
【0050】
(実施例15)
セレノ尿素溶液の添加量をSb:Seのモル比率が1:4.5となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
【0051】
(実施例16)
セレノ尿素溶液の添加量をSb:Seのモル比率が1:6となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
【0052】
(実施例17)
セレノ尿素を1,3−ジメチルセレノ尿素に変更し、Sb:Seのモル比率が1:3となるように1,3−ジメチルセレノ尿素を添加した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。また、アンチモンと1,3−ジメチルセレノ尿素との間に錯体が形成されていることが確認された。
【0053】
(比較例1)
チオ尿素を硫化ナトリウムに変更し、Sb:Sのモル比率が1:3となるように硫化ナトリウムを添加し、N,N−ジメチルホルムアミドをメタノールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
なお、得られた半導体形成用塗布液は透明ではなく、沈殿しやすい黄色混濁液であった。この黄色混濁成分について、赤外吸収スペクトルと蛍光X線で測定したところ、硫化アンチモンであることが分かった。従って、硫化ナトリウムを用いた場合は、半導体形成用塗布液中において、錯体が形成されず、塩化アンチモンと硫化ナトリウムとが直接に反応して硫化アンチモンが形成されていることが確認できた。
【0054】
(比較例2)
N,N−ジメチルホルムアミドを水に変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
なお、得られた半導体形成用塗布液は透明ではなく、白色の混濁液であった。この白色混濁液成分について、赤外吸収スペクトルと蛍光X線で測定したところ、酸化アンチモンであることが分かった。これは、原料である塩化アンチモンが水中で加水分解しやすいことに起因するものと考えられる。
【0055】
(比較例3)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:1.5となるように0.6mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0056】
(比較例4)
チオ尿素溶液の添加量をSb:Sのモル比率が1:12となるように4.0mLに変更した以外は、実施例1と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例1と同様の方法で評価した。
【0057】
(比較例5)
セレノ尿素をセレン化ナトリウムに変更し、Sb:Seのモル比率が1:3となるようにセレン化ナトリウムを添加し、N,N−ジメチルホルムアミドをメタノールに変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
なお、得られた半導体形成用塗布液は透明ではなく、沈殿しやすい黒色混濁液であった。この黒色混濁成分について、赤外吸収スペクトルと蛍光X線で測定したところ、セレン化アンチモンであることが分かった。従って、セレン化ナトリウムを用いた場合は、半導体形成用塗布液中において、錯体が形成されず、塩化アンチモンとセレン化ナトリウムとが直接に反応してセレン化アンチモンが形成されていることが確認できた。
【0058】
(比較例6)
N,N−ジメチルホルムアミドを水に変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
なお、得られた半導体形成用塗布液には黒色の析出物が発生した。これは、原料であるセレノ尿素が水中で加水分解しやすいことに起因するものと考えられる。
【0059】
(比較例7)
セレノ尿素溶液の添加量をSb:Seのモル比率が1:1.5となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
【0060】
(比較例8)
セレノ尿素溶液の添加量をSb:Seのモル比率が1:12となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で半導体形成用塗布液、半導体薄膜及び薄膜太陽電池を作製した。また、半導体形成用塗布液における錯体の形成及び半導体薄膜の物性についても実施例13と同様の方法で評価した。
【0061】
(評価)
得られた薄膜太陽電池について、以下の評価を行った。
(太陽電池特性評価)
実施例及び比較例で得られた薄膜太陽電池の電極間に、電源(KEITHLEY社製、236モデル)を接続し、強度100mW/cmのソーラーシミュレーション(山下電装社製)を用いて薄膜太陽電池の変換効率を測定した。なお、実施例1〜12、比較例1〜4で得られた薄膜太陽電池については比較例1で得られた薄膜太陽電池の変換効率を1.00として規格化し、実施例13〜17、比較例5〜8で得られた薄膜太陽電池については比較例5で得られた薄膜太陽電池の変換効率を1.00として規格化した。
更に同じ条件で薄膜太陽電池を4個作製し、その4個の変換効率の最大値/最小値が1以上1.5未満のものを◎、1.5以上2未満のものを○、2以上のものを×として、変換効率のばらつきを評価した。
結果を表1及び2に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、変換効率が高く変換効率ばらつきが小さい太陽電池の半導体材料として有用な半導体を、大面積で簡易に形成でき、膜厚制御が可能となる半導体形成用塗布液を提供することができる。また、本発明によれば、該半導体形成用塗布液を用いて製造した半導体薄膜、薄膜太陽電池及び薄膜太陽電池の製造方法を提供することができる。