(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に、[0001]結晶軸に平行なIII族原子面成長モードにて、バッファ層、チャネル層、電子供給層がこの順にそれぞれIII族窒化物半導体を用いて形成してなる半導体層構造を備え、
前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極とドレイン電極と、前記電子供給層上に形成されたゲート電極を有する電界効果トランジスタであって、
前記チャネル層のIII族原子面側にある前記電子供給層のa軸長が、前記チャネル層のV族原子面側にある前記バッファ層のa軸長よりも大きく、且つ、前記電子供給層は、前記チャネル層よりもバンドギャップが大きくし、
前記バッファ層がAlz1Ga1−z1N(0<z1≦1)からなり、
前記チャネル層がGaNからなり、
前記電子供給層が、圧縮歪を有するAlz2Ga1−z2N(0≦z2<1、z2<z1)からなる、電界効果トランジスタを備えた半導体装置。
基板上に、[0001]結晶軸に平行なIII族原子面成長モードにて、バッファ層、チャネル層、電子供給層がこの順にそれぞれIII族窒化物半導体を用いて形成してなる半導体層構造を備え、
前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極とドレイン電極と、前記電子供給層上に形成されたゲート電極を有する電界効果トランジスタであって、
前記チャネル層のIII族原子面側にある前記電子供給層のa軸長が、前記チャネル層のV族原子面側にある前記バッファ層のa軸長よりも大きく、且つ、前記電子供給層は、前記チャネル層よりもバンドギャップが大きくし、
前記バッファ層がGaNからなり、
前記チャネル層がGaNからなり、
前記電子供給層が、a軸長が圧縮歪を有するInxAl1−xN(0.19<x<0.25)からなり、
前記バッファ層のa軸長の格子不整合に起因した面内方向の圧縮歪と逆ピエゾ効果による歪とが打ち消し合い、前記電子供給層の内部歪は、熱平衡では圧縮でドレイン電圧の増加にしたがって圧縮から引張に転じ、歪エネルギーはドレイン電圧の増加と共に一旦減少してから、増加に転じることで劣化開始電圧を増大してなる電界効果トランジスタを備えた半導体装置。
【背景技術】
【0002】
<関連技術1>
図14は、関連技術1のFETの断面構造を模式的に示す図である。
図14のFETに関して、例えば非特許文献1の記載が参照される。
図14に示すように、基板80上に、バッファ層81、チャネル層82、電子供給層83がこの順に形成されている。
図14の例において、バッファ層81はアンドープの窒化ガリウム(GaN)からなる。チャネル層82はアンドープのGaNからなる。電子供給層83はアンドープの窒化アルミニウムガリウムAl
aGa
1−aNからなる。ここで、上記III族窒化物半導体層構造は、[0001]結晶軸に平行なGa面成長により形成されている。
【0003】
電子供給層(Al
aGa
1−aN)83のAl組成比aは、GaNとの格子定数差が十分小さくなる組成(例えば、0.3以下)に設定されている。
【0004】
電子供給層83に接してゲート電極85が形成され、ゲート電極85に対向してソース電極841、ドレイン電極842が形成されている。
【0005】
チャネル層82内の電子供給層83との界面近傍には、電子走行層となる二次元電子ガス(2 dimension electron gas:以下、「2DEG」と略記する)層86が生成されており、電子供給層83上に形成したソース電極841とドレイン電極842には2DEG層86とのオーミック接触がとられている。
【0006】
<関連技術2>
図17は、関連技術2のFETの断面構造を模式的に示す図である。
図17のFETに関して、例えば非特許文献2の記載が参照される。
図17に示すように、基板90上に、アンドープのGaNからなるバッファ層91、アンドープのGaNからなるチャネル層92、アンドープの窒化インジウムアルミニウムIn
bAl
1−bNからなる電子供給層93がこの順に形成されている。ここで、上記III族窒化物半導体層構造は、六方晶[0001]結晶軸に平行なGa面成長により形成されている。
【0007】
電子供給層(In
bAl
1−bN)93のIn組成比bはGaNと格子整合する組成(例えば、0.17〜0.18)に設定されている。
【0008】
電子供給層93に接してゲート電極95が形成され、ゲート電極95に対向してソース電極941、ドレイン電極942が形成されている。
【0009】
チャネル層92内の電子供給層93との界面近傍には2DEG層96が生成されており、電子供給層93上に形成したソース電極941とドレイン電極942には2DEG層96とのオーミック接触がとられている。
【0010】
なお、非特許文献2には、InAlNからなる電子供給層93とGaNチャネル層92の界面に窒化アルミニウム(AlN)からなるスペーサ層(AlN spacer)が設けられているが、
図17には、図示されていない。
【0011】
特許文献1には、ヘテロ接合FETとして、基板上に順次に形成された、In
xGa
1−xN(0≦x≦1)から成るチャネル層、Al
yGa
1−yN(0<y≦1)から成る電子供給層、中間層、及び、GaNから成るn形キャップ層を有し、ゲート絶縁層に接してゲート電極が、n形キャップ層に接してソース電極及びドレイン電極が夫々形成されており、中間層が、少なくとも1層のn形不純物層を含み、これにより、電子供給層とn形キャップ層との間に発生する分極負電荷を、中間層のイオン化正電荷によって相殺できるので、電子に対するバリヤを低減し、ソース抵抗及びドレイン抵抗を低減することができるようにしたFETが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以下に関連技術の分析を与える。
【0015】
図15は、
図14に示した関連技術1のFETの電子供給層(Al
aGa
1−aN)83内の格子歪み量のドレイン電圧依存性の模式的に示す図である。横軸はドレイン電圧、縦軸は歪み量を示す。
図16は、当該格子歪みの歪みエネルギーのドレイン電圧依存性の模式的に示す図である。横軸はドレイン電圧、縦軸は歪みエネルギーである。なお、
図15、
図16は、本明細書において以下の分析の理解を助けるためのものであり、非特許文献1等には開示されていない。
【0016】
図14のFETにおいて、電子供給層(Al
aGa
1−aN)83は、電圧ゼロ(ドレイン電圧=0)の熱平衡状態で引張り方向の内部歪を有しており、ドレイン電圧の増加と共に、内部歪は、引張り方向のままドレイン電圧に対してほぼ比例して増加する。したがって、ドレイン電圧の増加により歪エネルギーは単調増加し、臨界値Ecritを超えると、結晶欠陥(転位)が発生する。
図14の構造においては、この劣化開始電圧が例えば180V程度と比較的低いという問題があった。以下に、このような格子歪、歪エネルギーの振る舞いの原理を説明する。
【0017】
関連技術1のFETでは、電子供給層83を構成するAl
aGa
1−aNの格子定数(a軸長)がバッファ層81を構成するGaNの格子定数よりも小さいことに起因して、熱平衡状態で電子供給層83内には、格子不整合に伴う歪として、面内方向に、引張方向の歪ベクトル(ε
1(a),ε
2(a),0)が存在している(ε
1(a)>0,ε
2(a)>0)。
【0018】
また、ゲート電極85に対してドレインが正電位となるような電圧をドレイン電極842に印加すると、電子供給層83には基板80から表面に向かう方向に、電界ベクトル(0,0,F
3)が発生する(F
3<0)。逆ピエゾ効果の理論によれば、誘電体に垂直方向(Z方向)電界F3を加えると、該電界強度に比例した水平方向(X−Y面内)の歪変化(Δε
1(a),Δε
2(a),0)(逆ピエゾ効果による歪)を生じる。ここで、Δε
i(a)(i=1,2)は次式(1)のように表される。
【0019】
Δε
i(a)=d
i3(a)F
3 ・・・(1)
【0020】
ここで、d
i3(a)(i=1,2)は電子供給層(AlGaN)83の縦方向電界(垂直方向電界)F
3と水平方向の歪Δε
i(a)(i=1,2)を関係付けるピエゾ電気成分である。
【0021】
歪変化の向きは、半導体層構造が[0001]結晶軸に平行なGa面成長で、電界F
3が基板80から表面に向かう方向の場合、引張方向となる。
【0022】
したがって、電子供給層(AlGaN)83に発生する歪ベクトル(ε
T1(a),ε
T2(a),0)は次式(2)のように表される。
【0023】
ε
Ti(a)=ε
i(a)+d
i3(a)F
3 ・・・(2)
【0024】
格子不整合に伴う歪ε
i(a)(i=1、2)が引張方向であり、逆ピエゾ効果による歪Δε
i(a)も引張方向であるため、両者が強め合って、電子供給層(AlGaN)83の内部歪が増加する。
【0025】
歪量は、縦方向(垂直方向)の電界成分F
3に比例して増加する。電界F
3はドレイン電圧に比例するため、
図15に示すような、歪み量と電圧(ドレイン電圧)の関係が得られる。
【0026】
フックの法則によれば、このときの歪エネルギーE
aは次式(3)のように表される。
【0027】
E
a=E
Y(a)h
a(ε
1(a)+d
13(a)F
3)
2 ・・・(3)
【0028】
上式(3)において、E
Y(a)は電子供給層(AlGaN)83のヤング率である。h
aはゲート電極85の下部における電子供給層(AlGaN)83の厚さである。なお、Ga面成長のため、面内方向(i=1,2)は等価であることを仮定した。
【0029】
歪エネルギーE
aは、垂直方向電界成分F
3の二乗に比例して増加するため(F
3の二乗の係数は正値)、
図16に示すような歪エネルギーと電圧の関係が得られる。
【0030】
このように、関連技術1によるFETでは、格子不整合に伴う内部歪ε
1(a)と逆ピエゾ効果による歪Δε
1(a)が強め合うため、歪エネルギーがドレイン電圧の増大と共に急激に増加してしまい、劣化開始電圧が低くなる、という問題があった。
【0031】
図18は、
図17のような関連技術2のFETのInAlNからなる電子供給層93内の格子歪み量のドレイン電圧依存性を模式的に示す図である。横軸はドレイン電圧、縦軸は歪み量である。
図19には、歪みエネルギーのドレイン電圧依存性が模式的に示されている。横軸はドレイン電圧、縦軸は歪みエネルギーである。なお、
図18、
図19は、本明細書において以下の分析の理解を助けるためのものであり、非特許文献2等には開示されていない。
【0032】
図17の電子供給層(InAlN)93は、電圧ゼロ(ドレイン電圧=0)の熱平衡では内部歪を有していない。しかしながら、ドレイン電圧の増加と共に、引張り方向の内部歪が発生して、その絶対値は電圧に対してほぼ比例して増加する。
【0033】
関連技術2のFETでは、熱平衡での内部歪が発生しない。このため、劣化開始電圧は、例えば240Vと、
図14の関連技術1のFETよりも改善されている。しかしながら、いまだ十分ではなかった。
【0034】
以下に、このような格子歪、歪エネルギーの振る舞いの原理を説明する。
【0035】
関連技術2によるFETでは、
図17の電子供給層93を構成するIn
bAl
1−bNの格子定数(a軸長)がバッファ層91を構成するGaNとほぼ等しいことに起因して、熱平衡状態では、電子供給層(InAlN)93内には歪は存在しない。ゲートに対してドレイン電極942が正電位となるような電圧を印加すると、電子供給層(InAlN)93には基板90から表面に向かう方向に電界ベクトル(0,0,F
3)が発生する(F
3<0)。逆ピエゾ効果の理論によれば、誘電体に垂直方向電界F
3を加えると、電界強度に比例した水平方向の歪変化(Δε
1(b),Δε
2(b),0)を生じる。ここで、Δε
i(b)(i=1,2)は、次式(4)のように表される。
【0036】
Δε
i(b)=d
i3(b)F
3 ・・・(4)
【0037】
ここで、d
i3(b)(i=1,2)は、電子供給層(InAlN)93の縦方向電界と水平方向歪を関係付けるピエゾ電気成分である。歪変化の向きは、半導体層構造が[0001]結晶軸に平行なGa面成長で、電界F
3が基板90から表面に向かう方向の場合、引張方向となる。
【0038】
したがって、電子供給層(InAlN)93に発生する歪ベクトル(ε
T1(b),ε
T2(b),0)は、次式(5)のように表される。
【0039】
ε
Ti(b)=d
i3(b)F
3 ・・・(5)
【0040】
歪量は縦方向電界成分F
3に比例して増加するため、
図18のような歪量と電圧の関係が得られる。
【0041】
フックの法則によれば、このときの歪エネルギーE
bは次式(6)のように表される。
【0042】
E
b=E
Y(b)h
b(d
13(b)F
3)
2 ・・・(6)
【0043】
ここで、E
Y(b)はInAlNのヤング率である。h
bはゲート電極95の下部における電子供給層(InAlN)93の厚さである。なお、Ga面成長のため、面内方向(i=1,2)は等価であることを仮定した。
【0044】
歪エネルギーは、縦方向電界成分F
3の二乗に比例して増加するため、
図19に示すような歪エネルギーと電圧の関係が得られる。
【0045】
このように、関連技術2のFETでは、格子不整合に伴う内部歪は存在しないものの、逆ピエゾ効果による歪Δε
1(b)が電界に比例するため、歪エネルギーが、電圧の増加に対して、単調に増加してしまい、劣化開始電圧が低くなる、という問題があった。
【0046】
以上のように、関連技術のFETでは、ゲート−ドレイン間に高電圧を印加すると、転位(ミスフィット転位)発生を伴う格子緩和が容易に発生し、素子特性が劣化し易いという問題があった。
【0047】
したがって、本発明は、III族窒化物半導体を主材料として含む電界効果トランジスタにおける上記問題点に鑑みて創案されたものであって、その主たる目的は、ゲート−ドレイン間に高電圧を印加した場合でも素子の劣化の発生を抑制し、信頼度を高くすることを可能とするFETを備えた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0048】
本発明によれば、基板上に、[0001]又は[000−1]結晶軸に平行な成長モードにて、格子緩和したバッファ層、チャネル層、電子供給層をこの順にそれぞれIII族窒化物半導体を用いて形成され、前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極とドレイン電極を有すると共に、前記電子供給層上に形成されたゲート電極を有する電界効果トランジスタであって、前記バッファ層と前記電子供給層の内、前記チャネル層のIII族原子面側にある層は、前記チャネル層のV族原子面側にある層よりa軸長が大きく、前記電子供給層は、前記チャネル層よりバンドギャップが大きい、電界効果トランジスタを備えた半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、III族窒化物半導体を主材料として含む電界効果トランジスタにおいて、ゲート−ドレイン間に高電圧を印加した場合でも素子の劣化の発生を抑制し、信頼度を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の好ましい形態および実施形態を以下に説明する。
【0052】
いくつかの好ましい形態において、基板上に、[0001]又は[000−1]結晶軸に平行な成長モードにて、格子緩和したバッファ層、チャネル層、電子供給層がこの順にそれぞれIII族窒化物半導体を用いて形成され、前記チャネル層と電気的に接続されたソース電極、ドレイン電極を有し、前記電子供給層上に形成されたゲート電極を有する電界効果トランジスタにおいて、前記バッファ層と前記電子供給層の内、前記チャネル層のIII族原子面側にある層は、前記チャネル層のV族原子面側にある層より、a軸長が大きく、且つ、前記電子供給層は、前記チャネル層よりバンドギャップが大きい構成とする。
【0053】
いくつかの好ましい形態において、前記基板上に、[0001]結晶軸に平行なIII族原子面成長モードにて、前記バッファ層、前記チャネル層、前記電子供給層がこの順に形成され、前記チャネル層のIII族原子面側にある前記電子供給層のa軸長が、前記チャネル層のV族原子面側にある前記バッファ層のa軸長よりも大きい。
【0054】
いくつかの好ましい形態において、前記基板上に、[000−1]結晶軸に平行なV族原子面成長モードにて、前記バッファ層、前記チャネル層、前記電子供給層が、この順に形成され、前記チャネル層のV族原子面側にある前記電子供給層のa軸長が、前記チャネル層のIII族原子面側にある前記バッファ層のa軸長よりも小さい、ことを特徴とする。
【0055】
いくつかの好ましい形態において、前記バッファ層がGaNからなり、前記チャネル層がGaNからなり、前記電子供給層が、圧縮歪を有するIn
xAl
1−xN(0.18<x<0.53)からなる。
【0056】
いくつかの好ましい形態において、前記バッファ層がAl
z1Ga
1−z1N(0<z
1≦1)からなり、前記チャネル層がGaNからなり、前記電子供給層が、圧縮歪を有するAl
z2Ga
1−z2N(0≦z
2<1、z
2<z
1)からなる。
【0057】
いくつかの好ましい形態において、前記バッファ層がGaNからなり、前記チャネル層がGaNからなり、前記電子供給層が、引張歪を有するIn
yAl
1−yN(0<y<0.17)からなる。
【0058】
いくつかの好ましい形態において、前記バッファ層がAl
u1Ga
1−u1N(0≦u
1<1)からなり、前記チャネル層がGaNからなり、前記電子供給層が、引張歪を有するAl
u2Ga
1−u2N(0<u
2≦1、u
1<u
2)からなる。
【0059】
いくつかの好ましい形態において、前記電子供給層上に絶縁膜を備え、前記ゲート電極は、下部側が前記絶縁膜に設けられた開口部に埋め込まれ、上部側の前記ソース電極と前記ドレイン電極にそれぞれ対向する側部が、前記ソース電極と前記ドレイン電極側にそれぞれ突設されて前記絶縁膜を覆う構成(フィールドプレート構造)とされる。
【0060】
このような電界効果トランジスタにおいては、格子不整合に伴う熱平衡での内部歪と逆ピエゾ効果に伴う歪変化とが互いに打ち消し合うため、ドレイン電圧印加時の歪エネルギーが抑制される。このため、本発明によれば、関連技術による電界効果トランジスタと比べて劣化開始電圧を改善することができる。その結果、ゲート−ドレイン間に高電圧を印加した場合でも、素子劣化の発生を抑制し、信頼度を高くすることができる。以下添付図面を参照して例示的な実施形態を説明する。
【0061】
<実施形態1>
図1は、本発明の例示的な第1の実施形態の半導体装置の断面構成を模式的に示す図である。
図1において、10は基板であり、11は格子緩和したバッファ層、12はチャネル層、13は電子供給層である。半導体層構造は、[0001]結晶軸に平行なIII族原子面成長により形成され、電子供給層13のバンドギャップがチャネル層12より大きく、且つ、電子供給層13のa軸長がバッファ層11より大きくなっている。すなわち、電子供給層13には、電圧ゼロの熱平衡にて圧縮歪が生じている。
【0062】
ここで、バッファ層11と電子供給層13の内、チャネル層12のIII族原子面側にある層は、電子供給層13であり、チャネル層12のV族原子面側にある層は、バッファ層11であり、III族原子面側の層(電子供給層13)の方が、V族原子面側にある層(バッファ層11)よりa軸長が長くなっている。
【0063】
チャネル層12内には2DEG層16が形成され、2DEG層16と電気的に接続されたソース電極141、ドレイン電極142が対向して形成されている。ソース電極141とドレイン電極142に挟まれた部位の電子供給層13上にはゲート電極15が形成されている。
【0064】
図2は、
図1のようなFETの電子供給層13内の格子歪み量のドレイン電圧依存性を模式的に示す図である。
図3は、歪みエネルギーのドレイン電圧依存性を模式的に示す図である。
図2、
図3には、関連技術1、2によるFETの特性も併せて示した。電子供給層13は、ドレイン電圧ゼロの熱平衡で、圧縮方向の内部歪を有しており、ドレイン電圧の増加と共に、内部歪は、圧縮から引張に転じる。
【0065】
このため、
図3に示すように、ドレイン電圧のゼロからの電圧増加に伴い、歪エネルギーは一旦減少してから増加に転じる。このため、劣化開始電圧が、例えば360V程度と、関連技術1、2の180V、240Vと比べて大幅に改善される。
【0066】
本実施形態における、このような格子歪、歪エネルギーの振る舞いの原理を以下に説明する。
【0067】
本実施形態では、電子供給層13の格子定数(a軸長)がバッファ層11より大きいことに起因して、熱平衡状態では、電子供給層13内には、面内方向に圧縮方向の歪ベクトル(−ε
1(x),−ε
2(x),0)が存在している(ただし、ε
1(x)>0,ε
2(x)>0)。
【0068】
ゲートに対してドレインが正電位となるようなドレイン電圧を印加すると、電子供給層13には基板10から表面に向かう方向に電界ベクトル(0,0,F
3)が発生する(F
3<0)。逆ピエゾ効果の理論によれば、誘電体に垂直方向電界F
3を加えると、電界強度に比例した水平方向の歪変化(Δε
1(x),Δε
2(x),0)を生じる。Δ
εi(x)(i=1,2)は次式(7)のように表される。
【0069】
Δε
i(x)=d
i3(x)F
3 ・・・(7)
【0070】
ここで、d
i3(x)(i=1,2)は、電子供給層13を構成する材料の垂直方向電界成分F
3と水平方向歪Δε
i(x)を関係付けるピエゾ電気成分である。
【0071】
歪変化の向きは、半導体層構造が[0001]結晶軸に平行なIII族原子面成長で、電界F
3が基板10から表面に向かう方向の場合、引張方向となる。
【0072】
したがって、電子供給層13に発生する歪ベクトル(ε
T1(x),ε
T2(x),0)は次式(8)のように表される。
【0073】
ε
Ti(x)=−ε
i(x)+d
i3(x)F
3 ・・・(8)
【0074】
上式(8)において、格子不整合に伴う歪ε
i(x)(i=1,2)が圧縮方向であり、逆ピエゾ効果による歪Δε
i(x)(=d
i3(x)F
3)(i=1,2)は引張方向のため、両者が打ち消し合って、電子供給層13の内部歪(ε
Ti(x))が減少する。
【0075】
上式(8)から、歪量は、垂直方向電界成分F
3に比例して増加する。縦方向電界成分F
3はドレイン電圧に比例するため、
図2に示すような、歪量(格子歪)と電圧(ドレイン電圧)の関係が得られる。
【0076】
フックの法則によれば、このときの歪エネルギーE
xは次式(9)のように表される。
【0077】
E
x=E
Y(x)h
x(−ε
1(x)+d
13(x)F
3)
2 ・・・(9)
【0078】
上式(9)において、E
Y(x)は電子供給層13を構成する材料のヤング率である。h
xはゲート電極15の下部における電子供給層13の厚さである。なお、III族原子面成長のため、面内方向(i=1,2)は等価であることを用いた。
【0079】
上式(9)から、歪エネルギーE
xは、垂直方向電界成分F
3の二乗に比例して増加する(F
3の二乗の係数は正値)。このため、
図3に示すような、歪エネルギーと電圧(ドレイン電圧)の関係が得られる。
【0080】
このように、本実施形態では、格子不整合に伴う内部歪−ε
1(x)と、逆ピエゾ効果による歪Δε
1(x)が打ち消し合うため、電子供給層13の内部歪は、熱平衡では圧縮で、電圧(ドレイン電圧)の増加にしたがって、圧縮から引張に転じる。
【0081】
このため、歪エネルギーは、電圧増加と共に一旦減少してから、増加に転じ、歪エネルギーが臨界値Ecritに達するときのドレイン電圧である劣化開始電圧は、
図3に示す例では360Vとなり、関連技術1、2の劣化開始電圧180V、240Vと比べて大幅に改善される。
【0082】
また、電子供給層13のバンドギャップがチャネル層12より大きいため、2DEG層16は、チャネル層12内部に蓄積され、電子が高電子移動度のチャネル層12を走行するため、高速動作が可能になる。
【0083】
次に、このような構造を実現するための具体的な結晶構造について説明する。
【0084】
図4は、In
xAl
1−xNのa軸長(縦軸:単位=Angstrom=10
−10m=0.1nanometer)のIn組成比(横軸)依存性(特性2)と、バンドギャップ(縦軸単位eV(electron volt))のIn組成比依存性(特性1)を示している。
図4のIn組成比依存性(特性1、2)より、In組成比xを0.18<x<0.53に設定すれば、In
xAl
1−xNのa軸長はGaNのa軸長(=3.19Angstrom)よりも大きく、且つ、In
xAl
1−xNのバンドギャップは、GaNのバンドギャップ(=3.4eV)よりも大きくできることが分かる。
【0085】
したがって、
図1のような素子構造において、例えば、
バッファ層11をGaN、
チャネル層12をGaN、
電子供給層13をIn
xAl
1−xN(Inの組成比x:0.18<x<0.53)
によって構成すれば、電子供給層13のa軸長がバッファ層11より大きく、且つ、電子供給層13のバンドギャップがチャネル層12より大となる。
【0086】
図5は、
図1に示した本実施形態のFETにおいて、In
xAl
1−xNからなる電子供給層13のIn組成比xを変えたときの歪エネルギー(縦軸:J/m
2)の垂直方向電界強度(横軸:V/cm)の依存性の計算結果を示す図である。
図5において、点線(x=0.175)は、InAlNからなる電子供給層13がGaNからなるバッファ層11と格子整合する場合の歪エネルギーのIn組成比依存性を示しており、関連技術2によるFETに対応している(比較例)。In組成比xが0.20、0.225、0.25の特性は2次関数の特性となっている。
【0087】
解析の結果、In
xAl
1−xNからなる電子供給層13のIn組成比xが、0.18<x<0.53を充たす場合、歪エネルギーの相殺の一応の効果が得られることが分かった。
【0088】
ただし、In組成比x>0.25では、格子不整合が大きくなって、
図5に示すように、電界強度=0での熱平衡での歪エネルギーが増大し過ぎるため好ましくない。このため、In組成比xは、0.19<x<0.25の範囲に設定するのが望ましい。
【0089】
更なる解析の結果、
図5に示すとおり、In組成比xを0.2程度に設定した場合には、FET内部の歪エネルギーを最小にすることが出来ることが分かった。In組成比x=0.20の場合、電界強度1.5×10
7V/cm付近で歪みエネルギーが最小(=0)となる2次関数の特性となっている。
【0090】
実用上は、In組成比xを、例えば0.19<x<0.21の範囲に設定することで、本発明の作用効果を十分に得ることが出来る。
【0091】
次に、上記した実施形態のFETの作製方法について
図1を参照して説明する(ただし、In組成比xを0.2とする)。
【0092】
(111)面珪素(Si)基板10上に、例えば有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVDと略記される)法により、アンドープAlNとアンドープGaNを交互に積層した超格子からなる核生成層(図示せず)を層厚200nm、アンドープGaNからなるバッファ層11(層厚:1μm)、アンドープGaNからなるチャネル層12(層厚:50nm)、アンドープIn
0.2Al
0.8Nからなる電子供給層13(層厚:20nm)をこの順に成長する。ここで、上記半導体層構造は[0001]結晶軸に平行なGa面成長により形成した。電子供給層(InAlN)13の層厚は、バッファ層(GaN)11上において転位が発生する臨界膜厚より薄く設定してある。これにより、転位の発生が抑制された良好な結晶品質が得られる。
【0093】
自発性分極効果とピエゾ分極効果に基づいて、InAlNからなる電子供給層13とGaNからなるチャネル層12の界面には、面密度として3×10
13cm
−2程度の正電荷が発生する。このため、電子供給層13、チャネル層12ともにアンドープであるが、GaNからなるチャネル層12内には2DEG層16が生成される。
【0094】
電子供給層13上に、例えば、チタニウム(Ti)/アルミニウム(Al)/ニッケル(Ni)/金(Au)等の金属を蒸着、アロイ処理することにより、ソース電極141、ドレイン電極142をそれぞれ形成し、2DEG層16とのオーム性接触をとる。
【0095】
次に、窒素(N)などのイオン注入により素子間分離を行なう。
【0096】
ソース電極141とドレイン電極142で挟まれた部位のInAlNからなる電子供給層13上には、Ni/Au等の金属を蒸着し、リフトオフすることにより、ゲート電極15を形成する。このようにして、
図1のようなFETが作製される。
【0097】
<実施形態2>
図6は、本発明の第2の実施形態のFETの断面構造を模式的に示す図である。
図6において、20は基板であり、21は、格子緩和したAl
z1Ga
1−z1Nからなるバッファ層、22はGaNからなるチャネル層、23はAl
z2Ga
1−z2Nからなる電子供給層である。ここで、0≦z
2<z
1≦1である。上記半導体層構造は[0001]結晶軸に平行なGa面成長により形成され、電子供給層23のバンドギャップがチャネル層22より大きく、電子供給層23のa軸長がバッファ層21のa軸長よりも大きくなっている。電子供給層23には、熱平衡にて圧縮歪が生じている。
【0098】
チャネル層22内には、2DEG層26が形成され、2DEG層26と電気的に接続されたソース電極241、ドレイン電極242が対向して形成されている。
【0099】
電子供給層23上に絶縁膜27を形成し、絶縁膜27に形成した開口部28に、ゲート電極25を埋め込むように形成してある。ゲート電極25は、そのソース側端部とドレイン側端部において絶縁膜27を覆うように形成され、庇型の形状を有している。この庇部が、所謂電界集中を緩和するフィールドプレート構造として機能する。
【0100】
本実施形態における半導体層構造は、[0001]結晶軸に平行なGa面成長とし、電子供給層23のバンドギャップがチャネル層22より大きく、且つ、電子供給層23のa軸長がバッファ層21より大きい歪層としている。このため、前記第1の実施形態と同様な原理に基づいて、熱平衡での電子供給層23の内部歪と、逆ピエゾ効果に伴う歪変化とが互いに打ち消し合うため(上式(8)参照)、ドレイン電圧印加時の歪エネルギーが抑制される。
【0101】
さらに、本実施形態では、フィールドプレートの効果により、ゲートのドレイン端で発生する電界集中が緩和される。このため、垂直方向電界F
3が減少し、上式(9)にしたがって、逆ピエゾ効果による歪エネルギー増加が更に抑制される。
【0102】
図7は、
図6のようなFET構造において、電子供給層(Al
z2Ga
1−z2N)23のAl組成比z
2を変えたときの歪エネルギーの垂直方向電界強度依存性の計算結果を示す図である。バッファ層(Al
z1Ga
1−z1N)21のAl組成比z
1は0.2に固定してある。
図7において、点線(z
2=0.2、z
1=0)は、関連技術1によるFETに対応した歪エネルギーの垂直方向電界強度依存特性である。
【0103】
解析の結果、
z
2<z
1
を充たせば、歪エネルギー相殺の一応の効果が得られることが分かった。
【0104】
更なる解析の結果、
図7のz
2=0.1、z
1=0.2の結果が示すとおり、z
1−z
2を0.1程度に設定した場合には、FET内部の歪エネルギーを最小にすることが出来ることが分かった。実用上は、
0.05<z
1−z
2<0.15
の範囲に設定すれば、目的とする作用効果を十分に得ることが出来る。
【0105】
次に、本発明の第2の実施形態のFETの作製方法について説明する(z
2=0.1、z
1=0.2の場合)。
【0106】
(111)面Si基板20上に、例えばMOCVD法により、アンドープAlNとアンドープGaNを交互に積層した超格子からなる核生成層(図示せず)を層厚:200nm、アンドープAl
0.2Ga
0.8Nからなるバッファ層21(層厚:1μm)、アンドープGaNからなるチャネル層22(層厚:50nm)、n型Al
0.1Ga
0.9Nからなる電子供給層23(層厚:20nm)をこの順に成長する。ここで、上記半導体層構造は[0001]結晶軸に平行なGa面成長により形成した。チャネル層(GaN)22、電子供給層(AlGaN)23の層厚は、バッファ層(AlGaN)21上において転位が発生する臨界膜厚より薄く設定してある。これにより、転位の発生が抑制された良好な結晶品質が得られる。
【0107】
電子供給層(AlGaN)23に添加するn型不純物としては、例えばSiを用い、不純物濃度としては、例えば5×10
18cm
−3程度に設定する。
【0108】
自発性分極効果とピエゾ分極効果に基づいてバッファ層(AlGaN)21と、チャネル層(GaN)22の界面には、面密度として1×10
13cm
−2程度の負電荷が発生する。また、電子供給層(AlGaN)23と、チャネル層(GaN)22の界面には、面密度として5×10
12cm
−2程度の正電荷が発生する。
【0109】
しかしながら、電子供給層(AlGaN)23に高濃度のn型不純物が添加されているため、チャネル層(GaN)22内には、2DEG層26が生成される。
【0110】
電子供給層23上に、例えば、Ti/Al/Ni/Au等の金属を蒸着し、アロイ処理することにより、ソース電極241、ドレイン電極242をそれぞれ形成し、2DEG層26とのオーム性接触をとる。
【0111】
次に、N等のイオン注入により素子間分離を行なう。その後、例えばプラズマ励起気相成長(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition:「PECVD」と略記する)法により、窒化珪素(Si
3N
4)からなる絶縁膜27(膜厚:60nm)を成膜する。
【0112】
通常のフォトリソグラフィ法により開口パターンを形成した後、例えば、弗化硫黄(SF
6)等の反応性ガスを用いたドライエッチング法で、絶縁膜27をエッチング除去して電子供給層23を露出することにより、開口部28を形成する。
【0113】
次に、例えばNi/Au等の金属を蒸着、リフトオフすることにより、開口部28に埋め込むようにして、ゲート電極25を形成する。このようにして、
図6に示したFETが作製される。
【0114】
<実施形態3>
図8は、本発明の第3の実施形態の断面構造を模式的に示す図である。
図8において、30は基板であり、31は格子緩和したバッファ層、32はチャネル層、33は電子供給層である。ここで、上記半導体層構造は、[000−1]結晶軸に平行なV族原子面成長により形成され、電子供給層33のバンドギャップがチャネル層32より大きく、電子供給層33のa軸長がバッファ層31のa軸長よりも小さくなっている。すなわち、電子供給層33には熱平衡にて、引張歪が生じている。
【0115】
ここで、バッファ層31と電子供給層33の内、
チャネル層32のIII族原子面側にある層はバッファ層31、
チャネル層32のV族原子面側にある層は電子供給層33
であり、III族原子面側の層(バッファ層31)の方がV族原子面側の層(電子供給層33)よりもa軸長が長くなっている。
【0116】
チャネル層32内には2DEG層36が形成され、2DEG層36と電気的に接続されたソース電極341、ドレイン電極342が対向して形成されている。
【0117】
ソース電極341とドレイン電極342に挟まれた部位の電子供給層33上にはゲート電極35が形成されている。
【0118】
図9は、
図8のような、FETの電子供給層33内の格子歪み量のドレイン電圧依存性を模式的に示す図である。
図10は、歪みエネルギーのドレイン電圧依存性を模式的に示す図である。
図9、
図10には、比較例として、関連技術1、2によるFETの特性も併せて示した。
【0119】
電子供給層33は、電圧ゼロ(ドレイン電圧=0)の熱平衡で圧縮方向の内部歪を有しており、ドレイン電圧の増加と共に、内部歪は圧縮から引張に転じ、電圧増加と共に歪エネルギーが一旦減少してから増加に転じる。このため、劣化開始電圧が例えば360V程度と、関連技術1、2の180V、240Vと比べて大幅に改善される。
【0120】
本実施形態における格子歪、歪エネルギーの振る舞いの原理を以下に説明する。
【0121】
本実施形態では、電子供給層33の格子定数(a軸長)がバッファ層31の格子定数(a軸長)よりも小さいことに起因して、熱平衡状態では、電子供給層33内には面内方向に引張方向の歪ベクトル(ε
1(y),ε
2(y),0)が存在している(ε
1(y)>0,ε
2(y)>0)。
【0122】
ゲートに対してドレインが正電位となるような電圧を印加すると、電子供給層33には基板30から表面に向かう方向に、電界ベクトル(0,0,F
3)が発生する(F
3<0)。逆ピエゾ効果の理論によれば、誘電体に垂直方向電界F
3を加えると、電界強度に比例した水平方向の歪変化(Δε
1(y),Δε
2(y),0)を生じる。ここで、Δε
i(y)(i=1,2)は、次式(10)のように表される。
【0123】
Δε
i(y)=−d
i3(y)F
3 ・・・(10)
【0124】
上式(10)において、d
i3(y)(i=1,2)は電子供給層33を構成する材料の垂直方向電界成分F
3と水平方向歪Δε
i(y)を関係付けるピエゾ電気成分である。
【0125】
歪変化の向きは、半導体層構造が[000−1]結晶軸に平行なV族原子面成長で、電界が基板から表面に向かう方向の場合、圧縮方向となる。
【0126】
したがって、電子供給層33に発生する歪ベクトル(ε
T1(y),ε
T2(y),0)は次式(11)のように表される。
【0127】
ε
Ti(y)=ε
i(y)−d
i3(y)F
3 ・・・(11)
【0128】
格子不整合に伴う歪ε
i(y)が引張方向であり、逆ピエゾ効果による歪Δε
i(y)は圧縮方向であるため、両者が打ち消しあって、電子供給層33の内部歪が減少する。
【0129】
歪量は、垂直方向電界成分F
3に比例して増加するため、
図9に示すような格子歪と電圧の関係が得られる。
【0130】
フックの法則によれば、このときの歪エネルギーE
yは次式(12)で表される。
【0131】
E
y=E
Y(y)h
y(ε
1(y)−d
13(y)F
3)
2 ・・・(12)
【0132】
上式(12)において、E
Y(y)は電子供給層33を構成する材料のヤング率である。h
yはゲート電極35の下部における電子供給層33の厚さである。なお、V族原子面成長のため、面内方向(i=1,2)は等価であることを用いた。
【0133】
歪エネルギーE
yは、垂直方向電界成分F
3の二乗に比例して増加するため(F
3の二乗の係数は正値)、
図10に示すような、歪エネルギーと電圧の関係が得られる。
【0134】
このように、本実施形態では、格子不整合に伴う内部歪ε
1(y)と逆ピエゾ効果による歪Δε
1(y)が打ち消し合うため、内部歪は、熱平衡では、引張で電圧増加にしたがって引張から圧縮に転じる。このため、歪エネルギーE
yは、電圧(ドレイン)の増加に伴い、一旦減少してから、増加に転じ、劣化開始電圧(歪エネルギー=Ecritとなるドレイン電圧:360V)は、関連技術1、2と比べて大幅に改善される。
【0135】
また、電子供給層33のバンドギャップがチャネル層32より大きいため、2DEG層36は、チャネル層32内部に形成され、電子が高電子移動度のチャネル層32を走行するため、高速動作が可能になる。
【0136】
次に、第3の実施形態の構造を実現するための具体的な結晶構造について述べる。
【0137】
図4より、In組成比yを0<y<0.17に設定すれば、In
yAl
1−yNのa軸長はGaNより小さく、且つ、In
yAl
1−yNのバンドギャップはGaNより大きくなる。
【0138】
したがって、
図8のような素子構造において、例えば、
バッファ層31をGaN、
チャネル層32をGaN、
電子供給層33をIn
yAl
1−yN(0<y<0.17)
によって構成すれば、電子供給層33のa軸長がバッファ層31よりも小さく、且つ、電子供給層33のバンドギャップがチャネル層32より大となる。
【0139】
図11は、
図8のようなFET構造においてIn
yAl
1−yNからなる電子供給層33のIn組成比yを変えたときの歪エネルギーの垂直方向電界強度依存性の計算結果を示す図である。
図11において、点線(y=0.175)はInAlN電子供給層33がGaNバッファ層31と格子整合する場合で、関連技術2によるFETに対応している。
【0140】
解析の結果、In
yAl
1−yNからなる電子供給層33のIn組成比yが0<y<0.17を充たせば、歪エネルギー相殺の一応の効果が得られることが分かった。
【0141】
ただし、y<0.1では、格子不整合が大きくなって熱平衡での歪エネルギーが増大し過ぎるため好ましくない。このため、0.1<y<0.16の範囲に設定するのが望ましい。
【0142】
更なる解析の結果、
図11に示すとおり、yを0.15程度に設定した場合には、FET内部の歪エネルギーを最小にすることが出来ることが分かった。実用上は、0.14<y<0.16の範囲に設定すれば、目的とする効果を十分に得ることが出来る。
【0143】
第3の実施形態のFETの作製方法について説明する(y=0.15の場合)。
【0144】
(111)面Si基板30上に、例えばMOCVD法により、アンドープAlNとアンドープGaNを交互に積層した超格子からなる核生成層(図示せず)を層厚:200nm、アンドープGaNからなるバッファ層31(層厚:1μm)、アンドープGaNからなるチャネル層32(層厚:50nm)、n型In
0.15Al
0.85Nからなる電子供給層33(層厚:20nm)をこの順に成長する。ここで、上記半導体層構造は[000−1]結晶軸に平行なN面成長により形成した。
【0145】
In
0.15Al
0.85Nからなる電子供給層33の層厚は、GaNからなるバッファ層31上において転位が発生する臨界膜厚よりも薄く設定してある。これにより、転位の発生が抑制された良好な結晶品質が得られる。
【0146】
In
0.15Al
0.85Nからなる電子供給層33に添加するn型不純物として、例えばSiを用い、不純物濃度は、例えば5×10
19cm
−3程度に設定する。
【0147】
自発性分極効果とピエゾ分極効果に基づいて電子供給層(In
0.15Al
0.85N)33とチャネル層(GaN)32の界面には、面密度として、3×10
13cm
−2程度の負電荷が発生する。しかしながら、電子供給層33に高濃度のn型不純物が添加されているため、チャネル層(GaN)32内に2DEG層36が生成される。
【0148】
電子供給層33上に、例えば、Ti/Al/Ni/Au等の金属を蒸着し、アロイ処理することにより、ソース電極341、ドレイン電極342をそれぞれ形成し、2DEG層36とのオーム性接触をとる。
【0149】
次に、N等のイオン注入により素子間分離を行なう。ソース電極341とドレイン電極342で挟まれた部位の電子供給層33上には、Ni/Auなどの金属を蒸着し、リフトオフすることにより、ゲート電極35を形成する。このようにして、
図8のようなFETが作製される。
【0150】
<実施形態4>
図12は、本発明の第4の実施形態の断面構造を模式的に示す図である。
図12において、40は基板であり、41は格子緩和したAl
u1Ga
1−u1Nからなるバッファ層、42はGaNからなるチャネル層、43はAl
u2Ga
1−u2Nからなる電子供給層である。ここで、0≦u
1<u
2≦1である。上記半導体層構造は[000−1]結晶軸に平行なN面成長により形成され、電子供給層43のバンドギャップがチャネル層42よりも大きく、且つ、電子供給層43のa軸長がバッファ層41よりも小さくなっている。すなわち、電子供給層43には熱平衡にて引張歪が生じている。
【0151】
チャネル層42内には2DEG層46が形成され、2DEG層46と電気的に接続されたソース電極441、ドレイン電極442が対向して形成されている。
【0152】
電子供給層43上に、絶縁膜47を形成し、絶縁膜47に形成した開口部48にゲート電極45を埋め込むように形成してある。ゲート電極45はそのソース側端部とドレイン側端部において絶縁膜47を覆うように形成され、庇型の形状を有している。この庇部が所謂フィールドプレートとして機能する。
【0153】
本実施形態における半導体層構造は、[000−1]結晶軸に平行なN面成長とし、電子供給層43のバンドギャップがチャネル層42より大きく、且つ、電子供給層43のa軸長がバッファ層41より小さい歪層としている。
【0154】
このため、本実施形態は、前記第3の実施形態と同様な原理に基づいて、熱平衡での電子供給層43の内部歪と逆ピエゾ効果に伴う歪変化が打ち消し合うため、電圧印加時の歪エネルギーが抑制される。
【0155】
さらに、本実施形態では、フィールドプレートの効果により、ゲートのドレイン端で発生する電界集中が緩和される。このため、垂直方向電界成分F
3が減少して、上式(12)にしたがって、逆ピエゾ効果による歪エネルギーの増加が更に抑制される。
【0156】
図13は、
図12のようなFET構造において、Al
u2Ga
1−u2Nからなる電子供給層43のAl組成比u
2を変えたときの歪エネルギーの垂直方向電界強度依存性の計算結果を示す図である。Al
u1Ga
1−u1Nからなるバッファ層41のAl組成比u
1は0.1に固定してある。
図13において、点線(u
2=0.2、u
1=0)は、関連技術1によるFET(Ga面成長)の歪エネルギーの垂直方向電界強度依存特性に対応している。
【0157】
解析の結果、バッファ層のAl組成比u1と電子供給層43のAl組成比u2が、
u
1<u
2
を充たせば、歪エネルギー相殺の一応の効果が得られることが分かった。
【0158】
更なる解析の結果、
図13において、u
2=0.2、u
1=0.1の結果が示すとおり、u
2−u
1を0.1程度に設定した場合には、FET内部の歪エネルギーを最小にすることが出来ることが分かった。実用上は、
0.05<u
2−u
1<0.15
の範囲に設定すれば、目的とする作用効果を十分に得ることが出来る。
【0159】
次に、本実施形態のFETの作製方法について説明する(ただし、u
2=0.1、u
1=0.0の場合)。
【0160】
(111)面Si基板40上に、例えばMOCVD法により、アンドープAlNとアンドープGaNを交互に積層した超格子からなる核生成層(図示せず)を200nm、アンドープGaNからなるバッファ層41(層厚1μm)、アンドープGaNからなるチャネル層42(層厚50nm)、n型Al
0.1Ga
0.9Nからなる電子供給層43(層厚20nm)をこの順に成長する。
【0161】
ここで、上記半導体層構造は、[000−1]結晶軸に平行なN面成長により形成した。
【0162】
Al
0.1Ga
0.9Nからなる電子供給層43の層厚は、GaNからなるバッファ層41上において転位が発生する臨界膜厚より薄く設定してある。これにより、転位の発生が抑制された良好な結晶品質が得られる。
【0163】
Al
0.1Ga
0.9Nからなる電子供給層43に添加するn型不純物としては、例えばSiを用い、不純物濃度としては例えば5×10
18cm
−3程度に設定する。
【0164】
自発性分極効果とピエゾ分極効果に基づいて、電子供給層(AlGaN)43とチャネル層(GaN)42の界面には面密度として5×10
12cm
−2程度の負電荷が発生する。しかしながら、電子供給層43には高濃度のn型不純物が添加されているため、GaNチャネル層42内には2DEG層46が生成される。
【0165】
電子供給層43上に、例えば、Ti/Al/Ni/Au等の金属を蒸着、アロイ処理することにより、ソース電極441、ドレイン電極442をそれぞれ形成し、2DEG層46とのオーム性接触をとる。
【0166】
次に、N等のイオン注入により素子間分離を行なう。
【0167】
その後、例えばPECVD法により、Si
3N
4からなる絶縁膜47(60nm)を成膜する。
【0168】
通常のフォトリソグラフィ法により、開口パターンを形成した後、例えばSF
6等の反応性ガスを用いたドライエッチング法で、絶縁膜47をエッチング除去して電子供給層43を露出することにより、開口部48を形成する。
【0169】
次に、例えばNi/Au等の金属を蒸着、リフトオフすることにより、開口部48に埋め込むようにして、ゲート電極45を形成する。このようにして、
図12に示したようなFETが作製される。
【0170】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記態様にのみ限定されず、本発明の原理に準ずる各種態様を含むことは勿論である。
【0171】
例えば、前記実施形態では、基板として、Siを用いたが、炭化珪素(SiC)、サファイア(Al
2O
3)、GaN、ダイヤモンド(C)等、他の基板であっても良い。
【0172】
前記実施形態では、核生成層として、AlNとGaNの超格子を用いたが、AlN、AlGaN、GaN等の単層を用いても良い。
【0173】
前記実施形態では、バッファ層の材料として、GaN又はAlGaNを用いたが、AlN、窒化インジウムガリウム(InGaN)、InAlN、InAlGaN等他のIII窒化物半導体を用いても良い。
【0174】
前記実施形態では、チャネル層の材料として、GaNを用いたが、電子供給層よりバンドギャップの小さい他のIII族窒化物半導体を用いても良い。例えば、AlGaN、InAlN、InAlGaN、InGaN、窒化インジウム(InN)等他のIII族窒化物半導体を用いても良い。
【0175】
前記実施形態では、電子供給層の材料として、InAlN又はAlGaNを用いたが、チャネル層よりバンドギャップの大きい他のIII族窒化物半導体を用いても良い。例えば、AlN、GaN、InAlGaN、InGaN等であっても良い。
【0176】
また前記実施形態では、電子供給層は、アンドープ若しくはn型としたが、アンドープ層とn型層の二層構造や、アンドープ層とn型層とアンドープ層の三層構造等の多層構造で構成しても良い。
【0177】
前記実施形態では、絶縁膜として、Si
3N
4を用いたが、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化珪素(SiO
2)等他の絶縁体を用いても良い。
【0178】
前記実施形態では、ソース電極、ドレイン電極の材料として、Ti/Al/Ni/Auを用いたが、Ti/Al、Ti/Al/モリブデン(Mo)/Au、Ti/Al/ニオビウム(Nb)/Au等他の材料を用いても良い。
【0179】
前記実施形態では、ゲート電極の材料として、Ni/Auを用いたが、Ni/パラディウム(Pd)/Au、Ni/白金(Pt)/Au、Ti/Au、Ti/Pd/Au、Ti/Pt/Au等他の材料を用いても良い。
【0180】
また、前記実施形態では、電子供給層に接してゲート電極を形成したが、電子供給層とゲート電極の間に、例えば、AlN、AlGaN、GaN、InAlN、InAlGaN、InGaN、InN等III族窒化物半導体からなる厚さ数nmのキャップ層を挿入しても良い。
【0181】
前記実施形態では、電子供給層に接してチャネル層を形成したが、電子供給層とチャネル層の間に、例えば、AlN、AlGaN、GaN、InAlN、InAlGaN、InGaN、InN等III族窒化物半導体からなる厚さ数nmのスペーサ層を挿入しても良い。
【0182】
前記実施形態では、電子供給層に接してゲート電極を形成するショットキー型ゲートとしたが、電子供給層とゲート電極の間にAl
2O
3、SiO
2、あるいはSi
3N
4等の絶縁膜を挿入した金属−絶縁膜−半導体(MIS)型ゲートを用いても良い。
【0183】
前記実施形態では、N等のイオン注入により素子間分離を行ったが、イオン注入には硼素(B)等他のイオンを用いても良い。あるいは、素子間分離として、メサエッチングにより素子間分離を行なっても良い。
【0184】
前記実施形態では、デバイス最表面に保護膜が設けられていないが、Si
3N
4、SiO
2、Al
2O
3等の絶縁体からなる保護膜を形成しても良い。
【0185】
本発明によれば、劣化開始電圧の高い窒化物半導体からなるFETが得られ、携帯電話基地局、固定無線伝送装置、ディジタル放送地上局、レーダ装置、モータ制御、高周波発生装置、電源装置、インバータ照明等に用いられる電子機器の高性能化に寄与するところ大である。
【0186】
なお、上記の特許文献、非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。