特許第5938497号(P5938497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938497
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】抗真菌医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20160609BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160609BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   A61K31/4178
   A61K47/14
   A61K47/10
   A61K47/12
   A61K47/04
   A61P17/00 101
   A61P31/10
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-123928(P2015-123928)
(22)【出願日】2015年6月19日
(62)【分割の表示】特願2012-552591(P2012-552591)の分割
【原出願日】2011年6月10日
(65)【公開番号】特開2015-163655(P2015-163655A)
(43)【公開日】2015年9月10日
【審査請求日】2015年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-181923(P2010-181923)
(32)【優先日】2010年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-148255(P2010-148255)
(32)【優先日】2010年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507029007
【氏名又は名称】株式会社ポーラファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】000232623
【氏名又は名称】日本農薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】久保田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩一
(72)【発明者】
【氏名】増田 孝明
【審査官】 山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/031642(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/102242(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/028495(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/031643(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/102241(WO,A1)
【文献】 特開2002−114680(JP,A)
【文献】 特表2001−523273(JP,A)
【文献】 特表2012−518009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 47/00−47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)次に示す一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、
2)トリカプリリン、トリオクタン酸グリセリン、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン及び短鎖乃至は長鎖の脂肪酸と(ポリ)エチレングリコールのエステルから選択される多価アルコールのアシル化物又はジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルから選択される多価アルコールのエーテル化物である多価アルコール誘導体と、
3)α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸
とを含有し、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を5〜10質量%含有することを特徴とする、医薬組成物。
【化1】
(但し、式中R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R1、R2の少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【請求項2】
前記一般式(1)に表される化合物は、ルリコナゾール(R1=R2=塩素原子)であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記短鎖乃至は長鎖の脂肪酸と(ポリ)エチレングリコールのエステルは、エチレングリコールモノアセテート、ポリエチレングリコールモノラウレート及びポリエチレングリコールモノオレートから選択されるものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリオキシエチレンセチルエーテルから選択され、
前記ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンセチルエーテルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
更にヒドロキシアルキルベンゼンを含有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシアルキルベンゼンは、ベンジルアルコールであることを特徴とする、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記多価アルコール誘導体を0.1〜50質量%含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸を0.1〜20質量%含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩、
2)トリカプリリン、トリオクタン酸グリセリン、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン及び短鎖乃至は長鎖の脂肪酸と(ポリ)エチレングリコールのエステルから選択される多価アルコールのアシル化物;又はジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルから選択される多価アルコールのエーテル化物である多価アルコール誘導体、
3)ヒドロキシアルキルベンゼン、
4)α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸
とを含有し、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を5〜10質量%含有する医薬組成物の製造方法であって、
α−ヒドロキシ酸及び/又はリン酸並びにヒドロキシアルキルベンゼンを溶解補助剤として一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と混合し;
得られた混合物に多価アルコール誘導体を希釈媒として混合することを含む製造方法。
【化2】
(但し、式中R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R1、R2の少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関し、更に詳細には抗真菌剤として有用な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ルリコナゾールは、一般式(1)に表される構造を有する化合物(R1=R2=塩素原子)であり、優れた抗真菌活性を有しており、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。この様な爪真菌症の治療のための製剤としては、一般式(1)に表される化合物の含有量を更に高めることが望まれているが、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶剤はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶剤の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。加えて、ルリコナゾールの溶液においては、SE体等の立体異性体を生じやすい状況が存し、この様な立体異性体が生じるのを防ぐ溶媒としては、クロタミトン、炭酸プロピレン及びN−メチル−2−ピロリドンが知られるのみであった(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、かかる溶剤においても、元来持っている抗炎症作用などの薬効によって、配合の制限が存する場合が存し、これらに代わる新たなルリコナゾール等の製剤用の溶媒の開発が望まれていた。特に、溶液製剤においては、結晶析出などによりその薬理効果は著しく減じられるため、この様な可溶化技術は重要な製剤化の要素となっていた。加えて、Z体のような立体異性体も考慮しなければならない状況も存する。
【0003】
一般式(1)に表される化合物としては、ラノコナゾール(R1=水素原子、R2=塩素原子)も有用な抗真菌剤として存するが、この化合物においても、低温域の使用での結晶析出と高温域での保存による含有量の低下は大きな製造技術上の問題となっていた。
【0004】
他方、トリアセチンなどの短鎖乃至は中鎖のトリグリセライド、アシル化(ポリ)エチレングリコールなどの成分は、可溶化力の優れた溶剤や界面活性剤として、広く世の中で使用されている(例えば、特許文献3を参照)。しかしながら、1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、2)多価アルコールのアシル化誘導体、エーテル化誘導体又はオキソラン誘導体とを含有する医薬製剤は知られていない。
【0005】
【化1】
【0006】
(但し、式中R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R1、R2の少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/102241号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/102242号パンフレット
【特許文献3】特開平08−245377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、低温、高温域での保存において、一般式(1)に表される化合物に対して可溶化安定性に優れる製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、一般式(1)に表される化合物の低温、高温域での保存において、可溶化安定性を高める作用を有する、N−メチル−2−ピロリドンや炭酸プロピレン等を代替するに可能な製剤成分を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、多価アルコールの誘導体がそのような特性を有していることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
<1>1)次に示す一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と、2)多価アルコール誘導体とを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【0011】
【化2】
【0012】
(但し、式中R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R1、R2の少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【0013】
<2>前記一般式(1)に表される化合物は、ルリコナゾール(R1=R2=塩素原子)であることを特徴とする、<1>に記載の医薬組成物。
<3>前記多価アルコールの誘導体は、次に示す一般式(2)に表されるオキソラン誘導体であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の医薬組成物。
【0014】
【化3】
【0015】
(但し、式中R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、酸素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R3とR4、及び/又は、R5とR6は一緒になって同一の原子を示しても良い。Xは水素原子が結合した炭素原子又は酸素原子を表す。又、破線の結合はあってもなくても良く、破線の結合がある場合R6は存在しない。但し、炭酸プロピレンは除く。)
【0016】
<4>前記一般式(2)に表されるオキソラン誘導体は、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、2−オキソ−1,3−ジオキソラン、5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸、γ−クロトノラクトン及び2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールから選択されるものであることを特徴とする、<3>に記載の医薬組成物。<5>前記多価アルコールの誘導体は、多価アルコールのアシル化物又はエーテル化物であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の医薬組成物。
<6>前記多価アルコールのアシル化物は、短鎖若しくは中鎖脂肪酸のトリグリセリド又は短鎖乃至は長鎖の脂肪酸と(ポリ)エチレングリコールのエステルであることを特徴とする、<5>に記載の医薬組成物。
<7>前記短鎖若しくは中鎖脂肪酸のトリグリセリドは、トリアセチン、トリカプリリン、トリオクタン酸グリセリン及びトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリンから選択されるものであることを特徴とする、<6>に記載の医薬組成物。
<8>前記短鎖乃至は長鎖の脂肪酸と(ポリ)エチレングリコールのエステルは、エチレングリコールモノアセテート、ポリエチレングリコールモノラウレート及びポリエチレングリコールモノオレートから選択されるものであることを特徴とする、<6>に記載の医薬組成物。
<9>多価アルコールのエーテル化物は、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルから選択されるものであることを特徴とする、<5>に記載の医薬組成物。<10>前記ポリエチレングリコールアルキルエーテルは、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルから選択され、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリオキシエチレンセチルエーテルから選択され、
前記ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンセチルエーテルであることを特徴とする、<9>に記載の医薬組成物。
<11>更にヒドロキシアルキルベンゼンを含有することを特徴とする、<1>〜<10>何れかに記載の医薬組成物。
<12>前記ヒドロキシアルキルベンゼンは、ベンジルアルコールであることを特徴とする、<11>に記載の医薬組成物。
<13>更に、α‐ヒドロキシ酸及び/又はリン酸を含有することを特徴とする、<1>〜<12>何れかに記載の医薬組成物。
<14>1)下記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩、
2)多価アルコール誘導体、
3)ヒドロキシアルキルベンゼン、とを含有する医薬組成物の製造方法であって、
ヒドロキシアルキルベンゼンを溶解補助剤として一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩と混合し;
得られた混合物に多価アルコール誘導体を希釈媒として混合することを含む製造方法。
【0017】
【化4】
【0018】
(但し、式中R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子を表し、R1、R2の少なくとも一方はハロゲン原子である。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温、高温域での保存において、一般式(1)に対して可溶化安定性に優れる製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0021】
<1>本発明の医薬組成物の必須成分である一般式(1)に表される化合物
本発明の医薬組成物は、ルリコナゾール等の一般式(1)に表される化合物を通常0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%を含有することを特徴とする。かかる成分の製造方法は既に知られている(例えば、特開平09−100279号公報など)。ルリコナゾールは結晶性に優れ、乳酸などのヒドロキシカルボン酸を添加し、結晶化を抑制した状態においても、用いた溶媒の種類によっては、5℃等、低温下の保存では4質量%以上の含有において結晶を析出する場合が存する。また、本発明においては、後記多価アルコール誘導体を含有させた製剤の組合せにおいてこの様な析出を抑制し、その生体利用性、特に爪中への移行を高め、爪白癬の治療効果を高めている。通常の足の真菌症や体部の真菌症においては、一般式(1)に表される化合物は1〜5質量%程度の濃度の組成物による処理で十分な効果を奏するが、爪白癬などの爪での真菌症においては5質量%乃至はそれ以上の濃度の一般式(1)に表される化合物を含有する医薬組成物で処置する必要を要する。言い換えれば、爪は組織内への移行が困難な器官であり、有効量が移行するためには5質量%以上、より好ましくは6質量%以上の含有量が好ましい。又、低温での結晶析出抑制の上限である10質量%以下であることが好ましい。これらを鑑みれば、爪用の医薬組成物としては、一般式(1)に表される化合物は、6乃至10質量%程度が好ましい。
【0022】
一般式(1)に表される化合物としては、ルリコナゾール以外にはラノコナゾールが特に好適に例示できる。ラノコナゾールの好ましい含有量も、ルリコナゾールの場合に準拠
する。又、塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に限定されず、リン酸塩などの鉱酸塩や、グリコール酸、乳酸などのα−ヒドロキシ酸塩が特に好ましい。
【0023】
<2>本発明の医薬組成物の必須成分である多価アルコールの誘導体
本発明の医薬組成物は、多価アルコールの誘導体を含有することを特徴とする。かかる誘導体としては、オキソラン誘導体(ジオールの脱水化物又は環状アセタール化物)、アシル化多価アルコール及びエーテル化多価アルコールが挙げられ、いずれも使用できる。多価アルコールとしては、グリセリン、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール等が好適に例示できる。
【0024】
前記オキソラン誘導体としては、例えば、一般式(2)に示す化合物が好適に例示できる。一般式(2)において、式中R3、R4、R5、R6はそれぞれ独立に水素原子、酸素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R3とR4、及び/又は、R5とR6は一緒になって同一の原子を示しても良い。この様な同一の原子である場合、原子種は酸素であることが好ましい。Xは水素原子が結合した炭素原子又は酸素原子を表す。酸素であることが特に好ましい。又、破線の結合はあってもなくても良い。破線の結合がある場合R6は存在しない。但し、炭酸プロピレンは除く。
誘導体は、1気圧25℃の条件下、液状を呈することが好ましい。
オキソラン誘導体の具体的な化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−オキソ−1,3−ジオキソラン、5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸、γ−クロトノラクトン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール等が好ましく例示でき、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、5−オキソテトラヒドロフラン−2−カルボン酸及び2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールから選択されるものであることが特に好ましい。
上記誘導体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
又、アシル化多価アルコールとしては、多価アルコール基体として、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオールなどを選択し、アセチル基、カプリル酸残基、カプリン酸残基、オクタン酸残基等の短鎖乃至は中鎖のカルボン酸残基や、長鎖のラウリン酸残基、オレイン酸残基等の脂肪酸残基を導入したものが好ましい。なお、ここで、短鎖脂肪酸とは、例えば炭素数1〜4のもの、中鎖脂肪酸とは、例えば炭素数5〜11のもの、長鎖脂肪酸とは、例えば炭素数12〜30のものを意味する。脂肪酸残基として、好ましくは炭素数3以上のものである。脂肪酸残基において、不飽和結合はあってもなくても良い。アシル化多価アルコールが1気圧、25℃において、流動性を有するものが特に好ましい。
ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの重合度としては、5〜300程度が好ましく、ポリグリセリンの重合度としては、2〜20程度が好ましい。
アシル化多価アルコールとして具体的には、トリアセチン、トリカプリリン、トリオクタン酸グリセリン、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、エチレングリコールモノアセテート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、エチレングリコールジアセテート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジオレート、エチレングリコールジアセテート等が好適に例示でき、トリアセチン、トリカプリリン、トリオクタン酸グリセリン、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、エチレングリコールモノアセテート、ポリエチレングリコールモノラウレート及びポリエチレングリコールモノオレートから選択されるものが特に好ましい。
上記誘導体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
又、エーテル化多価アルコールとしては、多価アルコール基体として、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン重合体、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等を選択し、炭素数1〜20のアルキル基、又は芳香族基で置換されていてもよいアルキル基などとエーテル化したものが好ましい。前記芳香族基としては、フェニル基が好ましい。エーテル化多価アルコールは、1気圧、25℃において、流動性を有するものが特に好ましい。
ポリエチレングリコール(ポリオキシエチレン重合体)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体の重合度としては、2〜20程度が好ましい。
エーテル化多価アルコールとして具体的には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンセチルエーテル等が好適に例示でき、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びポリエチレングリコールラウリルエーテルから選択されるものが特に好ましい。
上記誘導体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
かかる成分は、一般式(1)に示される化合物を可溶化する作用に優れるとともに、溶液状態で立体異性化するのを防ぐ作用を要する。かかる作用を発現させるためには、前記の多価アルコール誘導体から選択される1種乃至は2種以上を、医薬組成物全量に対して0.1〜50質量%含有させることが好ましく、より好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。又、かかる質量は、一般式(1)に表される化合物の1/2質量倍から20質量倍であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量倍である。
【0028】
<3>本発明の医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前記必須成分を含有し、製剤化のための任意成分を含有することを特徴とする。前記製剤化のための任意成分としては、例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;アセトンなどのケトン類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸などの非イオン界面活性剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースなどのイソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコール;プロピレングリコールなどの多価アルコール;セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジエチルなどの二塩基酸のジエステル類;ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フェニルプロパノールなどのヒドロキシアルキルベンゼン;乳酸、グリコール酸、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸、リン酸等の鉱酸等の安定化剤;炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と記載する)、クロタミトン等の溶媒;などが好適に例示できる。これらの中では、ヒドロキシアルキルベンゼン及びα−ヒドロキシ酸、リン酸等の安定化剤が、多価アルコール誘導体とともに働いて、優れた一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の可溶化性と立体異性化抑制作用を発揮することから、かかる組み合わせを含有させることが特に好ましい。
【0029】
前記ヒドロキシアルキルベンゼンにおける、アルキル基としては炭素数1〜4のものが好ましく、具体的には、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フェニルプロパノール等が好適に例示できる。かかる成分は唯一種を含有することもできるし、二種以上を組み合わせて含有することもできる。特に好ましいものは、ベンジルアルコール乃至はフェネチルアルコールであり、より好ましくはベンジルアルコールである。かかる成分は、医薬組成物全量に対して、総量で5〜99質量%含有されることが好ましく、より好ましくは10〜99質量%である。この様な含有量で含有させることにより、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の低温域、例えば、5℃付近での保存において、溶
状を安定させ、結晶析出を防ぐ作用を発揮する。又、40℃以上の高温での安定性では、一般式(1)に表される化合物の立体異性化を抑制する作用を奏する。特に低温域での結晶析出を抑制することから、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の溶解補助剤として使用することが好ましい。即ち、一般式(1)の化合物及び/又はその塩をヒドロキシアルキルベンゼンで浸潤せしめ、攪拌可溶化し、所望により可溶化のために加熱し、しかる後に多価アルコール誘導体を加え、希釈・溶媒和させ、しかる後に残りの溶剤を加え、所望により加熱攪拌し可溶化して、製造することが好ましい。
【0030】
本発明においては、多価アルコール誘導体、及び多価アルコール誘導体とベンジルアルコール等のヒドロキシアルキルベンゼンとを組み合わせることにより、炭酸プロピレン、N−メチル−2−ピロリドン、クロタミトンの代替手段となりうるので、これらを使用しない製剤化も可能であるが、技術補完の意味で、この様な製剤も好ましい。また、これらを使用した製剤も本発明の技術範囲に属する。炭酸プロピレン等の炭酸アルキレン、NMP、又はクロタミトンを含有させる場合は、医薬組成物全量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量含有させることができる。
【0031】
更に、本発明の医薬組成物の安定性と、塗工後の結晶析出の抑制効果を向上させるために、乳酸、グリコール酸、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸や、リン酸などの鉱酸等の安定化剤を、医薬組成物全量に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%含有させることも好ましい。加えて、溶解性・安定性を向上させるために、イソステアリルアルコールのような1気圧25℃で液状を呈する高級アルコールを、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%含有することも好ましい。加えて、溶解性を向上させるために、プロピレングリコールのような多価アルコールを、医薬組成物全量に対して、1〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%含有することも好ましい。
【0032】
これらの必須成分、任意成分を常法に従って処理することにより、本発明の医薬組成物を製造することができる。
【0033】
本発明の医薬組成物としては、医薬組成物で使用されている剤形であれば特段の限定無く適用することが出来、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、フィルムコーティング剤、散剤、シロップ剤等の経口投与製剤;注射剤、坐剤、吸入剤、塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等の非経口投与剤などが挙げられる。中でも塗布剤、貼付剤、エアゾール剤、経皮吸収剤等の皮膚外用剤が好ましく例示でき、皮膚外用剤形としては、例えばローション剤、乳液剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾール剤、ネイルエナメル剤、ハイドゲル貼付剤などが好適に例示できる。特に好ましいものはローション剤である。
【0034】
本発明の医薬組成物は、ルリコナゾール等の特性を利用し、真菌による疾病の治療又は悪化の予防に用いることが好ましい。真菌による疾病としては、水虫のような足部白癬症、カンジダ、デンプウのような体部白癬症、爪白癬のようなハードケラチン部分の白癬症が例示でき、その効果が顕著なことから、爪白癬のようなハードケラチン部分の処置に用いることが特に好ましい。本発明の医薬組成物の効果は爪に特に好適に発現されるが、通常の皮膚真菌症にも及ぶので、本発明の構成を充足する皮膚真菌症に対する医薬組成物も本発明の技術的範囲に属する。この様な皮膚真菌症としては、足白癬症や足白癬症の内、かかとなどに現れる角質増殖型の白癬症などが例示できる。上記皮膚真菌症においては、通常の薬剤が効果を奏しにくい角質増殖型の白癬症への適用が本発明の効果が著しく現れるので好ましい。
【0035】
その使用態様は、患者の体重、年令、性別、症状等を考慮して適宜選択できるが、通常
成人の場合、一般式(1)に表される化合物及び/又は塩を1日当たり0.01〜1g投与するのが好ましい。また、真菌による疾病に通常使用されている一般式(1)に表される化合物及び/又は塩の使用量を参考にすることができる。
例えば外用剤であれば、一日に一回又は数回、疾病の箇所に適量を塗布することが例示でき、かかる処置は連日行われることが好ましい。特に、爪白癬に対しては、通常の製剤では為し得ない量の有効成分であるルリコナゾール等を、爪内に移行せしめることが出来る。これにより、長期間抗真菌剤を飲用することなく、外用のみによって爪白癬を治療することが出来る。又、再発や再感染が爪白癬では大きな問題となっているが、本発明の医薬組成物を、症状鎮静後1〜2週間投与することにより、この様な再発や再感染を防ぐことができる。この様な形態で本発明の医薬組成物は予防効果を奏する。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
以下に示す処方に従って、本発明の医薬組成物を製造した。即ち、乳酸とベンジルアルコールにルリコナゾールを加えて溶解した。ルリコナゾールが溶解しない場合は加温して溶解させた。その後、多価アルコール誘導体で希釈し、順次その他の成分を加え、攪拌し均一にして本発明の医薬組成物1〜10を製造した。同様に処置して、比較例1も作成した。これらを60℃で3週間保存し、下記高速液体クロマトグラフィー条件で、生成したルリコナゾールの立体異性体であるSE体、Z体の量を定量した。
【0038】
なお、ルリコナゾールの立体異性体であるSE体及びZ体の構造を以下に示す。
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
<高速液体クロマトグラフィー条件>
カラム:光学活性カラムCHIRALCEL OD-RH4.6×150mm、
移動相:過塩素酸水素ナトリウム水溶液:メタノール=80:20→60:40(リニアグラージェント)、
流速0.5ml/min.
カラム温度:40℃、
検知波長:275nm
【0042】
結果を表1に示す。これより、多価アルコールのアシル化誘導体は、炭酸プロピレンやN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、クロタミトンと同様の作用を有することが判る。
【0043】
【表1】
【0044】
<実施例2>
以下に示す処方に従って、実施例1と同様に、医薬組成物11〜20を作成した。同様に処置して、比較例2も作成した。
結果を表2に示す。ジオールの脱水化物又は環状アセタール化物に相当する、多価アルコールのオキソラン誘導体によっても、本発明の医薬組成物が優れた溶解性と安定化作用を有することが判る。
【0045】
【表2】
【0046】
<実施例3>
以下に示す処方に従って、実施例1と同様に、医薬組成物21〜33を作成した。同様に処置して、比較例3も作成した。
結果を表3に示す。多価アルコールのエーテル化誘導体によっても、本発明の医薬組成物が優れた溶解性と安定化作用を有することが判る。
【0047】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は医薬組成物へ応用できる。