【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の目的は、請求項1に記載のフィルタによって達成される。このフィルタの様々な態様及び改良は、従属請求項によって示される。
【0007】
フィルタは、入力トランスデューサである第1トランスデューサと、出力トランスデューサである第2トランスデューサとを備えて、圧電基材上に設けられる。第1トランスデューサと第2トランスデューサとの間の弾性波トラックにはリフレクタが設けられる。第1トランスデューサの電極フィンガ及び第2トランスデューサの電極フィンガは、通過帯域の中心周波数に対応した第1フィンガ周期を有している。リフレクタは、フィルタの阻止帯域内にある第2周波数に対応する第2フィンガ周期で設けられたリフレクタフィンガを有する。
【0008】
リフレクタは、阻止帯域内の第2周波数を有して入力トランスデューサから伝播した表面弾性波を反射するので、このような表面弾性波は、出力トランスデューサへの到達が阻止される。従って、第2周波数の表面弾性波が抑制され、通過帯域内での損失をなんら生じることなく、阻止帯域の減衰特性が改善する。
【0009】
リフレクタのリフレクタフィンガは、全て固定電位に接続されるか接地されているのが好ましい。
【0010】
また、広帯域フィルタへの適用については、擬似表面弾性波(PSAW)の形式の表面弾性波で作動するトランスデューサが有力候補であることが判っている。レイリー波や剪断波といった通常の表面弾性波に比べ、擬似表面弾性波の方が、基材に対して良好な結合特性を有することがその理由である。
【0011】
擬似表面弾性波は、適切に設定されたカット角を有すると共に、一般的に用いられて擬似表面弾性波を生成することが可能なトランスデューサが形成された圧電性結晶体の基材において生成することができる。
【0012】
擬似表面弾性波により得られる大きな結合係数は、波長λあたり2つのリフレクタフィンガとした場合に容易に10%に達し得るような、高い反射率の要因でもある。従って、本発明によるリフレクタは、10〜20個のリフレクタフィンガを有して比較的短く形成することが可能である。例えば、約1%の金属膜厚比で16個のリフレクタフィンガを用いたリフレクタでは、約80%の反射率が得られる。これにより、阻止帯域における伝送が約8dB減衰する。短く形成されたリフレクタは、長く形成されたリフレクタに比べ、通過帯域への影響が少なく、基材上には小さなスペースしか必要としない。
【0013】
一態様において、擬似表面弾性波の形式の弾性波で作動するSAWフィルタが、擬似表面弾性波を伝播させるべく選択された圧電基材を備える。第1トランスデューサ及び第2トランスデューサは、それぞれ電極フィンガを組み合わせた複数のセルを備える。これらのセルは、擬似表面弾性波の伝播方向である長手方向に配列されており、その少なくとも一部は、単相単一指向性トランスデューサのセル(SPUDTセル)である。このため、入力トランスデューサで生成された擬似表面弾性波は、主たる伝播方向が、出力トランスデューサに向かうものとなる。トランスデューサの比較的大きな相対帯域幅は、扇形トランスデューサ、即ち扇状のトランスデューサを用いることによって実現される。このようなトランスデューサは、特定のパターンの電極フィンガを有しており、それぞれ対をなす電極フィンガの中心点間の距離が、擬似表面弾性波の伝播方向を横切る方向に沿って拡大していくと共に、トランスデューサにおける電極フィンガのピッチも拡大し、それに伴って、ピッチに対応する周波数が低下するようになっている。
【0014】
扇形トランスデューサにおいて、トランスデューサの電極フィンガの幅、及び隣り合う電極フィンガのそれぞれの対における電極フィンガの間隙は、同じ延設方向に沿って、いずれも拡大していく。このため、擬似表面弾性波の伝播方向における電極フィンガの形状は、擬似表面弾性波の伝播方向を横切る方向に沿って寸法が増大していくのが好ましい。
【0015】
但し、これらの変数の一方(間隙または幅)を一定に保持しつつ、他方を拡大するようにすることも可能である。即ち、このような寸法の増大は、電極フィンガの間隙のみの変更、または電極フィンガの幅のみの変更によって行うことが可能である。これら変数の両方を不均一に拡大していくことも可能である。電極フィンガの寸法は、トランスデューサの相対帯域幅が、少なくとも8%から50%までの、またはそれ以上の大きさとなるように選定するのが好ましい。
【0016】
リフレクタにおけるリフレクタフィンガの周期は、特定の阻止帯域周波数に対応しており、扇形トランスデューサにおける電極フィンガの周期の変化に関わらず、SAWフィルタの全開口長にわたって一定となっている。
【0017】
更なる態様として、第1トランスデューサは第1メタライズ比η1を有し、第2トランスデューサは、第1メタライズ比η1とは異なる第2メタライズ比η2を有する。トランスデューサのメタライズ比や、それ以外の金属被覆面のメタライズ比は、実質的に擬似表面弾性波の伝播速度には影響を及ぼすものではないが、レイリー波の伝播速度に対して大きな影響を及ぼす。2つのトランスデューサにおけるメタライズ比を異ならせることにより、出力トランスデューサにおけるレイリー波の応答を、擬似表面弾性波の応答に比べて2%以上変化させることが可能となる。これにより、レイリー波を約6dBほど減衰させることができる。
【0018】
一態様において、第1メタライズ比η1が0.15〜0.40の範囲から選択されると共に、第2メタライズ比η2が0.60〜0.80の範囲から選択される。但し、これら2つの値は任意に選択可能であり、好ましい範囲以外の値とすることも可能であるが、両者は相違している必要がある。
【0019】
より具体的な態様において、第1メタライズ比η1は0.3であり、第2メタライズ比η2は0.7である。
【0020】
適切に選択された基材における擬似表面弾性波の大きな結合係数に対応して、比較的薄い金属膜厚を選択することが可能となる。0.5〜4%の金属膜厚比h/λとすることにより、結合係数、電気抵抗、及び反射係数の兼ね合いを十分且つ良好なものとすることができる。好ましい金属膜厚比は約1%であるが、より大きな金属膜厚比とすることも可能である。
【0021】
擬似表面弾性波を生成させる上で好ましい圧電基材は、大きな結合係数を有した圧電材料から選定される。このような目的に対し、異なる圧電材料の2つのカット角が有効であることが判った。1つは41度回転Yカットのニオブ酸リチウム(LN41rotY)であり、もう1つは36度回転XYカットのタンタル酸リチウム(LT36rotXY)を主成分とする基材である。20%未満の狭い帯域幅を所望する場合には、タンタル酸リチウムを主成分とする基材が好ましい。また、LTカット材を用いて構成したフィルタは、優れた温度特性を有する、即ち温度変化に対する特性の依存性が低いのが一般的である。
【0022】
また、擬似表面弾性波の大きな結合係数と、低い伝播損失とを最大限に活用したこれらのカット材のほかに、カット角を上述のカット角から変更した別の材料を用いることも可能である。LNカット材の場合には±30度まで、またLTカット材の場合には±5度までカット角を変更しても、擬似表面弾性波の大きな結合係数が得られるだけでなく、低い伝播損失が得られるような、妥当な特性上の兼ね合いが得られる。
【0023】
LTカット材に比べ、LNカット材は、擬似表面弾性波の大きな結合係数と、小さな金属膜厚比の場合の低い伝播損失とに関して最適となるカット角の範囲が広い。
【0024】
扇形トランスデューサを有したフィルタは、SPUDTセルを備えるのが好ましい。本発明の広帯域フィルタを構成する上で好ましいSPUDTセルは、Hanma Hunsingerタイプ、及びFeudtタイプの中から選択される。これらのタイプのSPUDTセルは、3重通過信号(triple transit signal)を補償するには反射が過多となり得るような、波長あたり2つの電極フィンガを有したセルに比べ、比較的低い反射率を示すので、好ましいものである。これらの好ましいSPUDTセルのタイプでは、波長あたり少なくとも4つの電極フィンガの構造を有し、電極フィンガごとの反射率が約1〜2%となっている。これらのセルは、擬似表面弾性波の生成に最適化されると共に、レイリー波の生成及び伝播の影響を最小限とする上で最適化される。波長あたり2つの電極フィンガを有するセルは、約1%の金属膜厚比の電極フィンガごとに、10%に達する高い反射率を示す。
【0025】
本発明の一態様によれば、トランスデューサは、以下を実現するような金属膜厚比(波長に対する金属膜厚の比)を有する。
【0026】
・伝播損失を最小限とし、
・4電極フィンガセルで例えば1〜3%の反射率が得られ、且つ
・不要なレイリー波を抑制すること。
【0027】
フィルタの基材にLN41rotYを用いる態様の場合、伝播損失及び反射率の観点で最適となる金属膜厚比は1〜3%である。
【0028】
トランスデューサは、無線周波電気信号と弾性波との間での変換を行う。このようなトランスデューサの相対帯域幅は、高効率、即ち低減衰量で変換が行われる波長範囲によって定まる。擬似表面弾性波の場合に大きな結合係数が得られるようなカット角を有した圧電基材を用い、低反射率のセルタイプ及び金属膜厚比を採用し、伝播損失を抑制するような大きなメタライズ比とすることにより、50%以上となる相対帯域幅を有したトランスデューサを製造可能である。従って、このようなトランスデューサを採用し、中心周波数に対して約50%の通過帯域幅を有したフィルタを製造することが可能である。
【0029】
第1トランスデューサ及び第2トランスデューサは、同一の弾性波トラック内に弾性波トラックの長手方向に並べられている。
【0030】
一態様において、リフレクタは、所望の阻止帯域の周波数に基づき、波長λあたり2つのリフレクタフィンガを備える。波長λあたり2つのリフレクタフィンガとすることにより、波長λあたり4つのリフレクタフィンガを有するリフレクタに比べて、強力な反射が得られることが判っている。このようなリフレクタフィンガのピッチに対応しない周波数においては、波長変化に従って波長λあたりのリフレクタフィンガの数が変化する。自然数ではないリフレクタフィンガの数が生じる可能性があるが、波長λあたりのリフレクタフィンガの数が2とは異なる場合、反射率は低下し、波長λあたり4つのリフレクタフィンガでは0に達し得る。このように、通過帯域の周波数が阻止帯域の周波数に合致しなくなるに従い、波長λあたりのリフレクタフィンガの数は2から外れていき、反射率は低くなっていく。フィルタの両トランスデューサは、SPUDTセルを備え、第2トランスデューサの単一指向性の方向は、第1トランスデューサの単一指向性の方向と向かい合わせになっている。
【0031】
一態様において、第2トランスデューサは、第1トランスデューサと同じ帯域幅を有する。好ましい態様において、第2トランスデューサは、第1トランスデューサを裏返したものに相当する構造を有する。
【0032】
2つのトランスデューサの単一指向性により、弾性波トラックの長手方向において、極めてわずかな弾性波だけが弾性波トラックから外れる。このような不要な弾性波は、有害な信号を生じうるものであり、弾性波トラックの両端部にダンピングマスを配置することにより、吸収することが可能である。ダンピングマスは、弾性波トラックの全開口にわたって弾性波トラックの幅方向に、即ち電極フィンガのオーバラップ部分に対応する範囲の全長にわたって延設することが可能である。このダンピング機構は、樹脂で形成するのが好ましいダンピングマスを備えており、この樹脂は、擬似表面弾性波が容易に進入することが可能で、非弾性撓みまたは振動によって吸収されるような適切な吸音性を有する。
【0033】
第1トランスデューサと第2トランスデューサとの間には遮蔽機構が設けられ、この遮蔽機構は、全体が金属で覆われた領域を備えるか、またはトランスデューサと遮蔽機構との間の自由伝播領域を可能な限り小さくすることにより、自由伝播領域に起因して生じる擬似表面弾性波の伝播損失を最小限度に抑えることが可能な無反射格子を備える。
【0034】
遮蔽機構は台形状の領域に展開されており、その幅は、トランスデューサの電極フィンガの幅が増大していく方向とは逆の方向に沿って増大している。
【0035】
遮蔽機構は、電極フィンガの幅及び間隙の変化に起因して生じる様々な遅延時間を補償する上で有用である。最も好ましい遮蔽機構の構成は、遮蔽機構の内部で比較的大きな遅延時間を設けることにより、2つのトランスデューサのそれぞれにおける比較的小さな遅延時間を補償する。全体が金属膜で覆われるか、もしくは金属膜格子を有するようにすることが可能な金属被覆領域を備えた弾性波伝播経路における遅延時間は、弾性波の伝播速度を支配するメタライズ比に依存する。メタライズ比が増大するにつれて、弾性波の伝播速度は低下する。金属膜格子で遮蔽機構を形成する場合、遮蔽機構の各フィンガは、弾性波の励起、または当該弾性波のアウトカップリングを防止するため、電気的に短絡されている。
【0036】
扇形トランスデューサは、複数の並列チャネルを備えることから、広い帯域幅を有しており、これら並列チャネルは、それぞれがいずれも異なる中央周波数を有している。チャネル内では、全ての電極フィンガにおいて幅及び間隙の少なくとも一方が一定となっていてもよい。このような態様において、扇形トランスデューサはステップ状構造を有する。n個の異なるチャネルを有したステップ状構造の場合、nとして5<n<50の整数を選択することが可能である。
【0037】
但し、別々のチャネルへの断片化を仮想的にしか行わないような連続的な構造を、扇形トランスデューサが有することも可能である。このような仮想的なチャネルは、定められたチャネルの帯域幅によって規定することが可能である。チャネルの所望の帯域幅は、弾性波トラックの幅方向で区画を選定することにより選択され、この区画内の電極フィンガの幅の変化量に応じて規定される。
【0038】
一態様として、入力トランスデューサ及び出力トランスデューサの少なくとも一方は、分路を介して接地されている。この分路にはコンデンサが設けられる。
【0039】
コンデンサのキャパシタンスは、フィルタの入出力間の有効結合を抑制することによって、フィルタのQ値を増大させる。もともとフィルタのキャパシタンスは高く、フィルタのキャパシタンスをインダクタンスで相殺する(整合する)のが一般的であり、フィルタにコンデンサを設けることは、このようなフィルタのキャパシタンスを増大させることになるため、極めて異例のことである。しかしながら、擬似表面弾性波の結合係数が大きいことから、増大したフィルタの全キャパシタンスにより、通過帯域に対して目に見える悪影響を及ぼすことなく、通過帯域外の遮断特性が改善される。キャパシタンスを適切に選定することにより、5dBほど改善された遮断特性が阻止帯域周辺で得られる。コンデンサの適切なキャパシタンスは、1〜20pFとすることができる。