特許第5938522号(P5938522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5938522改善された阻止帯域を有する表面弾性波フィルタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5938522
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】改善された阻止帯域を有する表面弾性波フィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20160609BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20160609BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   H03H9/64 Z
   H03H9/25 C
   H03H9/145 D
   H03H9/145 Z
   H03H9/145 C
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-515395(P2015-515395)
(86)(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公表番号】特表2015-520586(P2015-520586A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2012060611
(87)【国際公開番号】WO2013182229
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ダミー, ジャック, アントワヌ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーターケイン, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】エムリッヒ, ホルガー
【審査官】 ▲高▼橋 義昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−203996(JP,A)
【文献】 国際公開第01/037426(WO,A1)
【文献】 特開2005−102119(JP,A)
【文献】 特開平07−122965(JP,A)
【文献】 特開2010−103849(JP,A)
【文献】 特開2010−171805(JP,A)
【文献】 EL HAKIKI M,VERY LARGE BANDWIDTH IF SAW FILTERS USING LEAKY WAVES ON LINBO3 AND LITAO3,PROCEEDINGS OF 2011 IEEE INTERNATIONAL ULTRASONICS SYMPOSIUM (IUS),IEEE,2011年10月18日,P1325-1328
【文献】 SAW COMPONENTS,[ONLINE],2007年 4月 4日,P1-10,URL,http://www.epcos.com/inf/40/ds/ae/B3773.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/64
H03H 9/145
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面弾性波を用いて作動するフィルタであって、
表面に弾性波トラックが設けられた圧電基材(SU)と、
前記弾性波トラックに配設されて入力に接続され、前記フィルタの通過帯域の中心周波数に対応した第1平均フィンガ周期(p1)を有する第1トランスデューサ(IDT1)と、
前記弾性波トラックに配設されて出力に接続され、前記第1平均フィンガ周期(p1)を有した第2トランスデューサ(IDT2)と、
前記第1トランスデューサ(IDT1)と前記第2トランスデューサ(IDT2)との間に配設され、前記中心周波数とは異なる阻止帯域周波数に対応した第2平均フィンガ周期(p2)を有するリフレクタと
を備え
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)は、弾性波を所望の方向に伝播させるSPUDTセルを備え、
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)は、異なるメタライズ比(η1、η2)を有し、
前記第1トランスデューサ(IDT1)の第1メタライズ比(η1)は0.15〜0.40の範囲内から選定され、
前記第2トランスデューサ(IDT2)の第2メタライズ比(η2)は0.60〜0.80の範囲内から選定される
ことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
前記圧電基材(SU)は、擬似表面弾性波(PSAW)が前記圧電基材(SU)の表面を伝播するように選択されたカット角で圧電性結晶体からカットして形成されることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)は、扇形トランスデューサであって、
トランスデューサフィンガの幅及び隣接する前記トランスデューサフィンガの各対における前記トランスデューサフィンガフィンガの間隙は、弾性波の伝播方向を横断する方向である横方向に沿って増大していき、
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)は、少なくとも8%の相対帯域幅が得られるように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記リフレクタは、フィルタの全開口長にわたって一定のフィンガ周期(p2)を有して設けられた10〜20の数のフィンガを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)は、波長に対する金属被覆の膜厚比h/λが、0.5〜4%、好ましくは約1%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記SPUDTセルは、Hanma Hunsingerタイプのセル、及びFeudtタイプのセルの群から選択されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記SPUDTセルは、波長λあたり2つのフィンガを有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記第1トランスデューサ(IDT1)と前記第2トランスデューサ(IDT2)との間に設けられ、前記第1トランスデューサ(IDT1)、前記リフレクタ(REF)、及び前記第2トランスデューサ(IDT2)の間の前記圧電基材(SU)の表面の露出面積を最小限の大きさに減少させる遮蔽機構(SH)を備え、
前記遮蔽機構(SH)は、当該遮蔽機構(SH)が設けられる全領域を覆う金属被覆、または無反射フィンガ格子からなる
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記遮蔽機構(SH)は、設けられる領域が台形状をなしており、弾性波の伝播方向を横断する方向である横方向に沿って前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)が幅を増大させていくのとは逆向きの方向に沿って幅を増大させていくことを特徴とする請求項に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記圧電基材(SU)は、LN(41±30°)rotYカット角を有するニオブ酸リチウム、及びLT(36±5°)rotXYカット角を有するタンタル酸リチウムの群から選択されることを特徴とする請求項2〜のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項11】
弾性波の伝播方向に沿う方向である縦方向における前記弾性波トラックの両端部分の前記圧電基材(SU)の表面には、ダンピング機構またはアブソーバ(ABS)が配設されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)のそれぞれは、弾性波の伝播方向に沿う方向である縦方向に延びるn個の互いに平行なチャネルを備え、
擬似表面弾性波(PSAW)は、各チャネルにおいて同じ遅延時間を有し、
前記nは、5<n<50を満たす整数である
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記チャネルのそれぞれは、前記縦方向を横断する方向である横方向に沿って所定の横方向範囲を有し、前記チャネルのそれぞれにおけるフィンガの幅及び隣接するフィンガの間隙は、前記横方向に沿って一定である一方、隣接するチャネルの方が大きくなる
ことを特徴とする請求項12に記載のフィルタ。
【請求項14】
前記第1トランスデューサ(IDT1)及び第2トランスデューサ(IDT2)のそれぞれは、それぞれに設けられた分路を介して接地されており、
前記分路のそれぞれには、コンデンサ(C1、C2)が設けられる
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項15】
前記分路のそれぞれに設けられるコンデンサ(C1、C2)の容量は、1〜20pFの範囲で、それぞれ別個に選定されることを特徴とする請求項14に記載のフィルタ。
【請求項16】
前記リフレクタ(REF)は、前記阻止帯域周波数の波長λあたり2つのリフレクタフィンガを、一定の間隙で備えることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項17】
前記阻止帯域周波数及び前記中心周波数とは異なる阻止帯域周波数に対応した第3平均フィンガ周期を有するリフレクタ(REF)を更に備えることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項18】
前記リフレクタの1つとトランスデューサ(IDT)との間、または2つのリフレクタの間に、遮蔽機構を更に備えることを特徴とする請求項8〜17のいずれか1項に記載のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された阻止帯域減衰特性を有する表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)に関するものであり、特に、携帯電話、ワイヤレス端末、または基地局による移動通信に有用な広帯域SAWフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
阻止帯域減衰特性を改善するには、特に通過帯域におけるフィルタの伝達特性に影響を及ぼすことが多いような対策を取らなければならない。このため、阻止帯域減衰特性と挿入損失との間には相反関係が生じてしまう。
【0003】
また、例えば8%以上といった極めて大きな相対帯域幅を有したフィルタを提供しようとする試みがなされてきた。低損失の広帯域フィルタとして、例えば、セラミックフィルタが用いられるが、このフィルタは非常に高価である上、SAWフィルタとしては、伝送帯域のスカート特性が急峻ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に使用されているSAWフィルタは、レイリー波で作動するが、この形式の表面弾性波は、小さな結合係数しか得られないため、フィルタの相対帯域幅を20%以上に増大させると大きな損失が発生するような広帯域フィルタとなってしまう。これは、レイリー波を使用する全てのSAWフィルタについて当てはまることである。一定の結合係数に対し、帯域幅が大きいほど損失が増大し、一定の帯域幅に対し、結合係数が大きいほど損失が減少する。
【0005】
このため、本発明の第1の目的は、フィルタの通過帯域の特性を劣化させることなく、優れた阻止帯域減衰特性を有するフィルタを提供することにある。また、本発明の第2の目的は、セラミックフィルタより安価であって、例えば通過帯域における挿入損失が小さいなど、低損失の特性を示す広帯域フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の目的は、請求項1に記載のフィルタによって達成される。このフィルタの様々な態様及び改良は、従属請求項によって示される。
【0007】
フィルタは、入力トランスデューサである第1トランスデューサと、出力トランスデューサである第2トランスデューサとを備えて、圧電基材上に設けられる。第1トランスデューサと第2トランスデューサとの間の弾性波トラックにはリフレクタが設けられる。第1トランスデューサの電極フィンガ及び第2トランスデューサの電極フィンガは、通過帯域の中心周波数に対応した第1フィンガ周期を有している。リフレクタは、フィルタの阻止帯域内にある第2周波数に対応する第2フィンガ周期で設けられたリフレクタフィンガを有する。
【0008】
リフレクタは、阻止帯域内の第2周波数を有して入力トランスデューサから伝播した表面弾性波を反射するので、このような表面弾性波は、出力トランスデューサへの到達が阻止される。従って、第2周波数の表面弾性波が抑制され、通過帯域内での損失をなんら生じることなく、阻止帯域の減衰特性が改善する。
【0009】
リフレクタのリフレクタフィンガは、全て固定電位に接続されるか接地されているのが好ましい。
【0010】
また、広帯域フィルタへの適用については、擬似表面弾性波(PSAW)の形式の表面弾性波で作動するトランスデューサが有力候補であることが判っている。レイリー波や剪断波といった通常の表面弾性波に比べ、擬似表面弾性波の方が、基材に対して良好な結合特性を有することがその理由である。
【0011】
擬似表面弾性波は、適切に設定されたカット角を有すると共に、一般的に用いられて擬似表面弾性波を生成することが可能なトランスデューサが形成された圧電性結晶体の基材において生成することができる。
【0012】
擬似表面弾性波により得られる大きな結合係数は、波長λあたり2つのリフレクタフィンガとした場合に容易に10%に達し得るような、高い反射率の要因でもある。従って、本発明によるリフレクタは、10〜20個のリフレクタフィンガを有して比較的短く形成することが可能である。例えば、約1%の金属膜厚比で16個のリフレクタフィンガを用いたリフレクタでは、約80%の反射率が得られる。これにより、阻止帯域における伝送が約8dB減衰する。短く形成されたリフレクタは、長く形成されたリフレクタに比べ、通過帯域への影響が少なく、基材上には小さなスペースしか必要としない。
【0013】
一態様において、擬似表面弾性波の形式の弾性波で作動するSAWフィルタが、擬似表面弾性波を伝播させるべく選択された圧電基材を備える。第1トランスデューサ及び第2トランスデューサは、それぞれ電極フィンガを組み合わせた複数のセルを備える。これらのセルは、擬似表面弾性波の伝播方向である長手方向に配列されており、その少なくとも一部は、単相単一指向性トランスデューサのセル(SPUDTセル)である。このため、入力トランスデューサで生成された擬似表面弾性波は、主たる伝播方向が、出力トランスデューサに向かうものとなる。トランスデューサの比較的大きな相対帯域幅は、扇形トランスデューサ、即ち扇状のトランスデューサを用いることによって実現される。このようなトランスデューサは、特定のパターンの電極フィンガを有しており、それぞれ対をなす電極フィンガの中心点間の距離が、擬似表面弾性波の伝播方向を横切る方向に沿って拡大していくと共に、トランスデューサにおける電極フィンガのピッチも拡大し、それに伴って、ピッチに対応する周波数が低下するようになっている。
【0014】
扇形トランスデューサにおいて、トランスデューサの電極フィンガの幅、及び隣り合う電極フィンガのそれぞれの対における電極フィンガの間隙は、同じ延設方向に沿って、いずれも拡大していく。このため、擬似表面弾性波の伝播方向における電極フィンガの形状は、擬似表面弾性波の伝播方向を横切る方向に沿って寸法が増大していくのが好ましい。
【0015】
但し、これらの変数の一方(間隙または幅)を一定に保持しつつ、他方を拡大するようにすることも可能である。即ち、このような寸法の増大は、電極フィンガの間隙のみの変更、または電極フィンガの幅のみの変更によって行うことが可能である。これら変数の両方を不均一に拡大していくことも可能である。電極フィンガの寸法は、トランスデューサの相対帯域幅が、少なくとも8%から50%までの、またはそれ以上の大きさとなるように選定するのが好ましい。
【0016】
リフレクタにおけるリフレクタフィンガの周期は、特定の阻止帯域周波数に対応しており、扇形トランスデューサにおける電極フィンガの周期の変化に関わらず、SAWフィルタの全開口長にわたって一定となっている。
【0017】
更なる態様として、第1トランスデューサは第1メタライズ比η1を有し、第2トランスデューサは、第1メタライズ比η1とは異なる第2メタライズ比η2を有する。トランスデューサのメタライズ比や、それ以外の金属被覆面のメタライズ比は、実質的に擬似表面弾性波の伝播速度には影響を及ぼすものではないが、レイリー波の伝播速度に対して大きな影響を及ぼす。2つのトランスデューサにおけるメタライズ比を異ならせることにより、出力トランスデューサにおけるレイリー波の応答を、擬似表面弾性波の応答に比べて2%以上変化させることが可能となる。これにより、レイリー波を約6dBほど減衰させることができる。
【0018】
一態様において、第1メタライズ比η1が0.15〜0.40の範囲から選択されると共に、第2メタライズ比η2が0.60〜0.80の範囲から選択される。但し、これら2つの値は任意に選択可能であり、好ましい範囲以外の値とすることも可能であるが、両者は相違している必要がある。
【0019】
より具体的な態様において、第1メタライズ比η1は0.3であり、第2メタライズ比η2は0.7である。
【0020】
適切に選択された基材における擬似表面弾性波の大きな結合係数に対応して、比較的薄い金属膜厚を選択することが可能となる。0.5〜4%の金属膜厚比h/λとすることにより、結合係数、電気抵抗、及び反射係数の兼ね合いを十分且つ良好なものとすることができる。好ましい金属膜厚比は約1%であるが、より大きな金属膜厚比とすることも可能である。
【0021】
擬似表面弾性波を生成させる上で好ましい圧電基材は、大きな結合係数を有した圧電材料から選定される。このような目的に対し、異なる圧電材料の2つのカット角が有効であることが判った。1つは41度回転Yカットのニオブ酸リチウム(LN41rotY)であり、もう1つは36度回転XYカットのタンタル酸リチウム(LT36rotXY)を主成分とする基材である。20%未満の狭い帯域幅を所望する場合には、タンタル酸リチウムを主成分とする基材が好ましい。また、LTカット材を用いて構成したフィルタは、優れた温度特性を有する、即ち温度変化に対する特性の依存性が低いのが一般的である。
【0022】
また、擬似表面弾性波の大きな結合係数と、低い伝播損失とを最大限に活用したこれらのカット材のほかに、カット角を上述のカット角から変更した別の材料を用いることも可能である。LNカット材の場合には±30度まで、またLTカット材の場合には±5度までカット角を変更しても、擬似表面弾性波の大きな結合係数が得られるだけでなく、低い伝播損失が得られるような、妥当な特性上の兼ね合いが得られる。
【0023】
LTカット材に比べ、LNカット材は、擬似表面弾性波の大きな結合係数と、小さな金属膜厚比の場合の低い伝播損失とに関して最適となるカット角の範囲が広い。
【0024】
扇形トランスデューサを有したフィルタは、SPUDTセルを備えるのが好ましい。本発明の広帯域フィルタを構成する上で好ましいSPUDTセルは、Hanma Hunsingerタイプ、及びFeudtタイプの中から選択される。これらのタイプのSPUDTセルは、3重通過信号(triple transit signal)を補償するには反射が過多となり得るような、波長あたり2つの電極フィンガを有したセルに比べ、比較的低い反射率を示すので、好ましいものである。これらの好ましいSPUDTセルのタイプでは、波長あたり少なくとも4つの電極フィンガの構造を有し、電極フィンガごとの反射率が約1〜2%となっている。これらのセルは、擬似表面弾性波の生成に最適化されると共に、レイリー波の生成及び伝播の影響を最小限とする上で最適化される。波長あたり2つの電極フィンガを有するセルは、約1%の金属膜厚比の電極フィンガごとに、10%に達する高い反射率を示す。
【0025】
本発明の一態様によれば、トランスデューサは、以下を実現するような金属膜厚比(波長に対する金属膜厚の比)を有する。
【0026】
・伝播損失を最小限とし、
・4電極フィンガセルで例えば1〜3%の反射率が得られ、且つ
・不要なレイリー波を抑制すること。
【0027】
フィルタの基材にLN41rotYを用いる態様の場合、伝播損失及び反射率の観点で最適となる金属膜厚比は1〜3%である。
【0028】
トランスデューサは、無線周波電気信号と弾性波との間での変換を行う。このようなトランスデューサの相対帯域幅は、高効率、即ち低減衰量で変換が行われる波長範囲によって定まる。擬似表面弾性波の場合に大きな結合係数が得られるようなカット角を有した圧電基材を用い、低反射率のセルタイプ及び金属膜厚比を採用し、伝播損失を抑制するような大きなメタライズ比とすることにより、50%以上となる相対帯域幅を有したトランスデューサを製造可能である。従って、このようなトランスデューサを採用し、中心周波数に対して約50%の通過帯域幅を有したフィルタを製造することが可能である。
【0029】
第1トランスデューサ及び第2トランスデューサは、同一の弾性波トラック内に弾性波トラックの長手方向に並べられている。
【0030】
一態様において、リフレクタは、所望の阻止帯域の周波数に基づき、波長λあたり2つのリフレクタフィンガを備える。波長λあたり2つのリフレクタフィンガとすることにより、波長λあたり4つのリフレクタフィンガを有するリフレクタに比べて、強力な反射が得られることが判っている。このようなリフレクタフィンガのピッチに対応しない周波数においては、波長変化に従って波長λあたりのリフレクタフィンガの数が変化する。自然数ではないリフレクタフィンガの数が生じる可能性があるが、波長λあたりのリフレクタフィンガの数が2とは異なる場合、反射率は低下し、波長λあたり4つのリフレクタフィンガでは0に達し得る。このように、通過帯域の周波数が阻止帯域の周波数に合致しなくなるに従い、波長λあたりのリフレクタフィンガの数は2から外れていき、反射率は低くなっていく。フィルタの両トランスデューサは、SPUDTセルを備え、第2トランスデューサの単一指向性の方向は、第1トランスデューサの単一指向性の方向と向かい合わせになっている。
【0031】
一態様において、第2トランスデューサは、第1トランスデューサと同じ帯域幅を有する。好ましい態様において、第2トランスデューサは、第1トランスデューサを裏返したものに相当する構造を有する。
【0032】
2つのトランスデューサの単一指向性により、弾性波トラックの長手方向において、極めてわずかな弾性波だけが弾性波トラックから外れる。このような不要な弾性波は、有害な信号を生じうるものであり、弾性波トラックの両端部にダンピングマスを配置することにより、吸収することが可能である。ダンピングマスは、弾性波トラックの全開口にわたって弾性波トラックの幅方向に、即ち電極フィンガのオーバラップ部分に対応する範囲の全長にわたって延設することが可能である。このダンピング機構は、樹脂で形成するのが好ましいダンピングマスを備えており、この樹脂は、擬似表面弾性波が容易に進入することが可能で、非弾性撓みまたは振動によって吸収されるような適切な吸音性を有する。
【0033】
第1トランスデューサと第2トランスデューサとの間には遮蔽機構が設けられ、この遮蔽機構は、全体が金属で覆われた領域を備えるか、またはトランスデューサと遮蔽機構との間の自由伝播領域を可能な限り小さくすることにより、自由伝播領域に起因して生じる擬似表面弾性波の伝播損失を最小限度に抑えることが可能な無反射格子を備える。
【0034】
遮蔽機構は台形状の領域に展開されており、その幅は、トランスデューサの電極フィンガの幅が増大していく方向とは逆の方向に沿って増大している。
【0035】
遮蔽機構は、電極フィンガの幅及び間隙の変化に起因して生じる様々な遅延時間を補償する上で有用である。最も好ましい遮蔽機構の構成は、遮蔽機構の内部で比較的大きな遅延時間を設けることにより、2つのトランスデューサのそれぞれにおける比較的小さな遅延時間を補償する。全体が金属膜で覆われるか、もしくは金属膜格子を有するようにすることが可能な金属被覆領域を備えた弾性波伝播経路における遅延時間は、弾性波の伝播速度を支配するメタライズ比に依存する。メタライズ比が増大するにつれて、弾性波の伝播速度は低下する。金属膜格子で遮蔽機構を形成する場合、遮蔽機構の各フィンガは、弾性波の励起、または当該弾性波のアウトカップリングを防止するため、電気的に短絡されている。
【0036】
扇形トランスデューサは、複数の並列チャネルを備えることから、広い帯域幅を有しており、これら並列チャネルは、それぞれがいずれも異なる中央周波数を有している。チャネル内では、全ての電極フィンガにおいて幅及び間隙の少なくとも一方が一定となっていてもよい。このような態様において、扇形トランスデューサはステップ状構造を有する。n個の異なるチャネルを有したステップ状構造の場合、nとして5<n<50の整数を選択することが可能である。
【0037】
但し、別々のチャネルへの断片化を仮想的にしか行わないような連続的な構造を、扇形トランスデューサが有することも可能である。このような仮想的なチャネルは、定められたチャネルの帯域幅によって規定することが可能である。チャネルの所望の帯域幅は、弾性波トラックの幅方向で区画を選定することにより選択され、この区画内の電極フィンガの幅の変化量に応じて規定される。
【0038】
一態様として、入力トランスデューサ及び出力トランスデューサの少なくとも一方は、分路を介して接地されている。この分路にはコンデンサが設けられる。
【0039】
コンデンサのキャパシタンスは、フィルタの入出力間の有効結合を抑制することによって、フィルタのQ値を増大させる。もともとフィルタのキャパシタンスは高く、フィルタのキャパシタンスをインダクタンスで相殺する(整合する)のが一般的であり、フィルタにコンデンサを設けることは、このようなフィルタのキャパシタンスを増大させることになるため、極めて異例のことである。しかしながら、擬似表面弾性波の結合係数が大きいことから、増大したフィルタの全キャパシタンスにより、通過帯域に対して目に見える悪影響を及ぼすことなく、通過帯域外の遮断特性が改善される。キャパシタンスを適切に選定することにより、5dBほど改善された遮断特性が阻止帯域周辺で得られる。コンデンサの適切なキャパシタンスは、1〜20pFとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】第1実施形態の電極パターンの一部を示す図である。
図2】弾性波トラック内の、第1トランスデューサ、リフレクタ、及び2つの遮蔽機構の配置を示すフィルタの概略図である。
図3A】フィンガ格子を有した遮蔽機構を示す図である。
図3B】全域が金属被覆された遮蔽機構を示す図である。
図4】電極パターンの一形態を部分的に示す図である。
図5】更に2つのアブソーバを有した図2のフィルタを示す図である。
図6】整合用能動部品を更に備えると共に、電気端子を有した図5のフィルタを示す図である。
図7A】2つのインダクタンスと並列に接続されたフィルタのアドミタンスを示す図である。
図7B】更に2つのコンデンサと並列に接続されたフィルタのアドミタンスを示す図である。
図8】フィルタの通過帯域周辺領域における、フィルタの伝達特性を示す図である。
図9】互いに異なるメタライズ比を有した第1トランスデューサ及び第2トランスデューサを示す図である。
図10】メタライズ比に応じた弾性波の伝播速度の変化を示す図である。
図11】もう1つの実施形態に係るフィルタの伝達特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の詳細な説明は、添付図面によって例示された実施形態に基づいて行われる。図面は概要のみを示すものであり、正確に縮尺されたものではない。理解をより一層深めるため、特定の部分については詳細を拡大して示することがある。
【0042】
図1は、第1実施形態に係るフィルタの電極パターンの一部を概略的に示す図である。圧電基材SUの表面の弾性波トラック内にあるリフレクタREFのそれぞれの側方には、第1トランスデューサIDT1及び第2トランスデューサIDT2が配置されている。これらのトランスデューサは、全ての電極フィンガが同じ幅を有すると共に同じ間隙を有することにより、トランスデューサの波長及び中心周波数に対応する第1フィンガ周期p1が規定された標準型(通常型)フィンガ構造とすることができる。両トランスデューサが同じフィンガ周期p1を有するようにすることが可能である。リフレクタREFは、第1フィンガ周期p1とは異なる第2フィンガ周期p2のフィンガ格子を備える。第2フィンガ周期p2は、フィルタの阻止帯域内の周波数に対応したものとするのが好ましい。トランスデューサは、標準型フィンガ構造とせずに、所望の方向に弾性波を放出するSPUDTトランスデューサとするのが好ましい。
【0043】
フィルタが作動する際には、本実施形態において入力トランスデューサとなる第1トランスデューサIDT1によって、表面弾性波SAW1が生成される。表面弾性波SAW1は、第2トランスデューサIDT2に向けて伝播する。表面弾性波SAW1がリフレクタREFのフィンガ格子に進入すると、第2フィンガ周期p2に対応する周波数の成分が反射される一方、当該周波数以外の周波数の成分は、反射されることなくリフレクタを通過することができる。反射された弾性波は、符号SAW2で示されており、入力トランスデューサIDT1に向けて戻っていき、最終的には第1トランスデューサIDT1を越えて弾性波トラックから離脱していく。表面弾性波SAW1の反射されなかった成分は、第2トランスデューサIDT2(出力トランスデューサ)に達し、電気信号に再変換することが可能となる。この結果得られるフィルタの伝達特性は、第2フィンガ周期p2に対応する周波数において減衰したものとなる。第1フィンガ周期p1及び第2フィンガ周期p2を適切に選定することにより、阻止帯域内のどの位置においても、フィルタの特定の減衰機能を得ることが可能である。この位置は、通過帯域より低周波数側だけでなく、高周波数側に選定することも可能である。
【0044】
図2は、擬似表面弾性波が伝播可能な圧電基材上の弾性波トラック内に配置された、扇形の第1トランスデューサIDT1及び第2トランスデューサIDT2を有したフィルタの構成を示している。2つのトランスデューサの間には、第1遮蔽機構SH1及び第2遮蔽機構SH2が配置されている。2つの遮蔽機構の間には、リフレクタREFが配置されている。第1トランスデューサIDT1をフィルタの入力トランスデューサとし、第2トランスデューサIDT2をフィルタの出力トランスデューサとすることができる。これらのトランスデューサは、同じフィンガパターンを有するようにすることも可能であるが、フィンガの並びが、互いに鏡像の関係となっている。それぞれのトランスデューサは、y方向に沿って寸法が増大していくようになっており、台形形状をなしている。第1遮蔽機構SH1及び第2遮蔽機構SH2も台形形状をなしているが、寸法はy方向に沿って減少していくようになっている。本実施形態において、これらの遮蔽機構は、隣接する要素の間において、基材表面の大部分を覆っている。これらの遮蔽機構は、適切なメタライズ比とすることによって弾性波の伝播速度を調整すると共に、入力トランスデューサを出力トランスデューサから遮蔽するように機能する。第1トランスデューサIDT1及び第2トランスデューサIDT2は、扇形をなしてSPUDTフィンガを有している。
【0045】
リフレクタREFは、短絡されたリフレクタフィンガを備えた反射格子を有しており、これらリフレクタフィンガの周期は、弾性波の伝播方向に直行する方向である幅方向に沿って一定であって、フィルタの阻止帯域において反射率が最大となるように選定される。
【0046】
LN(41±30°)rotYカット角を有するニオブ酸リチウム、またはLT(36±5°)rotXYカット角を有するタンタル酸リチウムといった、擬似表面弾性波の生成が可能な基材のように、大きな結合係数を有した基材を用いる場合、リフレクタフィンガの数を少なくしたままで、高い反射率を得ることが可能となる。一例として、第2フィンガ周期p2に対応した周波数において、16個程度のリフレクタフィンガにより、約80%の反射率を達成することができる。この周波数の場合に、リフレクタREFは、波長λあたり2つのフィンガを有することになる。フィルタの通過帯域内における、これ以外の周波数については、これとは異なるの数のリフレクタフィンガが対応することになる。第1フィンガ周期p1<第2フィンガ周期p2の場合にはリフレクタフィンガの数が減る一方、第2フィンガ周期p2<第1フィンガ周期p1の場合にはリフレクタフィンガの数が増える。更なる効果として、リフレクタの反射率は、厳密に波長あたり2個のフィンガで最善となる。フィンガの数が波長あたり3個に近くなるような周波数の場合には、ほとんど反射が生じなくなる。従って、第1フィンガ周期p1及び第2フィンガ周期p2を適切に選定することにより、リフレクタに高い周波数選択性が得られる。
【0047】
図3Aは、無反射フィンガ格子を有した遮蔽機構の例を概略的に示す図である。
【0048】
図3Bは、全域が金属被覆された遮蔽機構を概略的に示す図である。
【0049】
所望の最適化された遮蔽機構として、扇形の構成によって生じるフィルタの個々のチャネルにおける異なる遅延時間を補償する上で必要となるメタライズ比が得られるような遮蔽機構が選定される。遮蔽機構SHのフィンガ格子を、図3Aに示すように増大させるようにしてもよい。遅延時間の相違に対して良好な補償を行うため、図3Bに示すように、遮蔽機構を全域が金属被覆された状態とし、遅延時間がチャネル毎の金属被覆領域の長さのみに依存するようにしてもよい。このようにして、遮蔽機構SHの金属被覆領域の形状が、傾斜角をもって変化していくようにしてもよい。
【0050】
更に、遮蔽機構は、当該遮蔽機構がないことで大きな伝播損失が予測されるような金属被覆のない領域の場合の伝播損失を可能な限り低減するために形成される。一実施形態において、遮蔽機構とトランスデューサとの間隙は、当該トランスデューサにおいて互いに隣り合う電極フィンガの間隙とほぼ同じになっている。
【0051】
図4は、第1実施形態のフィルタにおいて第1トランスデューサ及び第2トランスデューサとして使用可能な扇形トランスデューサの電極フィンガのパターンの一区画を示す図である。図4には、バスバーBBの近傍におけるトランスデューサ領域の一区画が示されている。トランスデューサは多くのセルを有しており、セルの数は、所望の伝達特性に応じ、25〜150に選定される。これらのセルは、x軸に沿う弾性波トラックの長手方向において、例えば1波長λ分の長さを有しており、この長さは全てのセルにおいて同じであるのが好ましい。これらのセルは、4つのフィンガを有したスプリットフィンガセル、Hanma Hunsingerタイプの少なくとも4つのフィンガを有したSPUDTセル、Feudtタイプの少なくとも4つのフィンガを有したSPUDTセル、及び弾性波を反射も励起もしないセルの群から選択される。本実施形態においては、4つのSPUDTフィンガUTFを有したHanma HunsingerタイプのSPUDTセルUTCが、セルあたり4つのスプリットフィンガを有した2つのスプリットフィンガセルSFCの間に配置されている。個々のセルの数及び並び順は、通過帯域及び阻止帯域の特性の点で最善の性能が得られるように最適化される。
【0052】
トランスデューサは、フィンガの幅及びフィンガの間隙の少なくとも一方が、y軸に沿う弾性波トラックの幅方向に沿って増大していくような扇形をなしている。点線は、図示された区域から更にトランスデューサが延設されていることを示している。幅方向に沿って寸法を増大させていくことにより、励起される表面弾性波(擬似表面弾性波)の波長も同様に長くなっていく。トランスデューサIDTを幅方向で分割して、特定の帯域及び中間周波数のチャネルとすることにより、トランスデューサIDT全体は、最短波長となる最初のチャネルの中間周波数から、最長波長となる最後のチャネルの中間周波数までの帯域幅を有したものとなる。
【0053】
具体的なフィルタの実施形態として、図1に示すフィンガパターンと同様のセルタイプの構成を有するだけでなく、FeudtタイプのSPUDTセルも有したフィルタが製造される。LT36rotYXのカット角を有するタンタル酸リチウム基材が選択され、主としてAlからなる金属被覆が1%の金属膜厚比h/λで設けられる。このフィルタは、7mm×5mmといった小さな寸法のパッケージ内に装着することが可能である。
【0054】
LT36rotYX基材に対する擬似表面弾性波の中位の結合係数(5%)にも関わらず、このフィルタは、低損失特性を示すと共に、10%の相対帯域幅を有するような通過帯域と、レイリー波の場合に高い結合係数を有するLNYZ基材に形成したフィルタに比べて1/3となる周波数温度係数(TCF;temperature coefficient of frequency)とを有する。
【0055】
これにより、通過帯域と阻止帯域との間での遷移特性を、より柔軟にすることが可能となる。
【0056】
図5は、更に2つのアブソーバABS1及びABS2を、弾性波トラックの両端部分に有した、図2のフィルタを概略的に示す図である。これらアブソーバABS1及びABS2は、トランスデューサにおける最も外側の電極フィンガを越えて弾性波トラックから離脱していく弾性波を吸収し減衰させる。仮に、このような弾性波を吸収しなかった場合には、基材や金属被覆の縁部などで反射され、弾性波トラックに再び入り込んで、必要な信号に対して干渉する不要な信号を生成する可能性がある。
【0057】
上述したLNR41基材のような高い結合係数の基材上に形成された、図4に示すような扇形トランスデューサを備え、図2のように配置することで、扇形トランスデューサの最も外側のチャネルによるフィンガ周期の最大の差異に応じた相対帯域幅として、55%の相対帯域幅のフィルタを得ることが可能である。
【0058】
高い結合係数のLN基材やLT基材などに構成されるフィルタに適用可能ではあるが、上述の実施形態のみならず、後述する実施形態も、明確に相反することを述べない限り、LN基材に構成されるフィルタに着目している。
【0059】
フィルタの更なる改善は、図6に示すような整合回路を設けるものである。図2に示すようなフィルタの入力端子T1及び出力端子T2のそれぞれが、第1分路及び第2分路を介して接地されている。第1分路の一方にはインダクタンスコイルL1が設けられ、また第1分路の他方にはインダクタンスコイルL2が設けられており、表面弾性波のトランスデューサの静電容量を相殺している。第2分岐路の一方にはコンデンサC1が設けられ、また第2分岐路の他方にはコンデンサC2が設けられている。このような構成は極めて異例であるが、フィルタの全体的な改善結果は驚くべきものとなる。即ち、図6のフィルタでは、SAWフィルタの一般的な整合のための並列インダクタンスコイルのみを有したフィルタの例えば2倍の静電容量を有している場合に、擬似表面弾性波に対して高い結合係数を示す基材と広い帯域幅とによって、通過帯域の外側に大きな減衰量が得られる。基材に対し、最大限の結合係数から大きく外れるようなカット角を選定した場合、本実施形態で提案しているような付加的なコンデンサによって通過帯域が目に見えて変形してしまうことはなく、通過帯域の周辺領域において5dBにも及ぶ減衰量の増大が得られる。
【0060】
フィルタを50Ωに整合させるには、インダクタンスコイルL1及びL2をnH単位の大きさ、例えば10nH〜70nHに設定することができる。これに併せ、コンデンサC1及びC2を1〜50pF、例えば15pFに設定する。
【0061】
図7Aは、付加的なコンデンサがない場合の例について、フィルタのアドミタンスの実数部(上の曲線)と虚数部とを示す図である。
【0062】
図7Bは、付加的なコンデンサ(C1=1pF、C2=15pF)を有している場合の同様の例について、フィルタのアドミタンスの実数部(上の曲線)と虚数部とを示す図である。領域アドミタンスの虚数部は、実数部よりも大きくなる通過領域の上縁部分において、容量性が増していることが判る。
【0063】
図8は、図7A及び図7Bの実施形態における、フィルタの全体的な伝達特性を示す図である。点線は、付加的なコンデンサを有していないフィルタのものであり、実線は図7Bに例示するフィルタのものである。これにより、阻止帯域周辺の減衰特性が改善されていることは明らかである。
【0064】
図9は、小さな第1メタライズ比η1と大きな第2メタライズ比η2とを説明するために、トランスデューサの一部を示す図である。電極フィンガの周期が同じである一方で、第1トランスデューサIDT1の方が、第2トランスデューサIDT2よりもフィンガの幅が減少しており、より小さな第1メタライズ比η1を有している。
【0065】
図10は、選定するメタライズ比に応じたレイリー波及び擬似表面弾性波の伝播速度を示す図である。これにより、両者の伝播速度が大幅に異なっており、擬似表面弾性波の伝播速度VPSAWの方が、レイリー波の伝播速度VRaylよりも約20%速いことが判る。また、擬似表面弾性波の伝播速度VPSAWはメタライズ比に応じて変化する一方、レイリー波の伝播速度VRaylはメタライズ比に依存しない。メタライズ比を、第1トランスデューサIDT1の約0.3%から第2トランスデューサIDT2の0.7%まで変化させると、擬似表面弾性波には明確な影響が現れるが、レイリー波には影響が生じない。このような影響は、両トランスデューサにおいて擬似表面弾性波に対する周波数応答が同じになるようにフィンガ周期を変更することによって補償される。従って、擬似表面弾性波に対するトランスデューサの応答を、相互に近付くように約2%変化させることができるので、レイリー波の不要な関与を排除することができる。擬似表面弾性波の伝播速度VPSAWとレイリー波の伝播速度VRaylとの差異に応じ、フィルタの中心周波数の入力信号によって、必要な擬似表面弾性波が多くを占めている中心周波数から大きく外れたレイリー波がわずかに生成され、低周波数側の阻止帯域に信号が生じる。
【0066】
図11は、図2に示すフィルタの伝達特性(下側の曲線)を、リフレクタREFを省略したフィルタの伝達特性(上側の曲線)と比較して示す図である。この例では、リフレクタREFの第2フィンガ周期p2が、高周波数側の阻止帯域の下限近傍の周波数に一致している。従って、図11には、高周波数側の阻止帯域の下限近傍において改善された減衰特性が示されている。
【0067】
適切に選択した擬似表面弾性波用の基材に、適切に選定した金属被覆を設けることにより、擬似表面弾性波に対する結合係数は11%に達する。従って、このフィルタにより、55%の極めて広い相対帯域幅が得られ、これはSAWフィルタにおいてこれまでにない数値である。また、挿入損失は約−13dBである。それにも関わらず、通過帯域のスカート特性は十分に急峻であって、低周波数側の阻止帯域では40dB以上の減衰量が得られ、高周波数側の阻止帯域では減衰量が35dBに達する。
【0068】
更に、LN41rotY基材の温度係数は、レイリー波用のLNYZ基材の場合(−87ppm/℃)よりわずかな−64ppm/℃しかなく、変化に対してより一層の余裕がある。
【0069】
この新規なフィルタは、挿入損失が改善されると共に、リフレクタによって特性が改善された阻止帯域が得られる。
【0070】
LN41RY基材上に形成されたフィルタと、当該フィルタとほぼ同じ相対帯域幅を有してLNYZ基材上に形成されたフィルタとで、S21パラメータの計測結果を比較すると、LN41RY基材上に形成したフィルタの方が、低い挿入損失及び急峻なスカート特性を示す。
【0071】
下表1は、これらのフィルタの計測結果を示している。
【0072】
【表1】
新規なLN41RY基材の周波数温度係数(TCF)の方が、レイリー波を用いるLNYZ基材の周波数温度係数(TCF)よりも小さいことは、最も理にかなうものである。これにより、通過帯域と阻止帯域との間の遷移特性を、より一層容易かつ柔軟に規定することが可能となる。
【0073】
本発明は、特定の実施形態及び当該実施形態に対応する図に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲及びこれまでに行った説明によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0074】
IDT1 第1トランスデューサ(表面弾性波用)
IDT2 第2トランスデューサ(表面弾性波用)
REF リフレクタ
SAW1 生成された表面弾性波
SAW2 反射された表面弾性波
p1 第1フィンガ周期
p2 第2フィンガ周期
SU 基材
SH、SH1、SH2、SH’ 遮蔽機構
BB バスバー
SF スプリットフィンガ
SFC スプリットフィンガセル
UTC Hanma HunsingerタイプのSPUDTセル
UTF Hanma HunsingerタイプのSPUDTセルフィンガ
ABS1、ABS2 アブソーバ
C1、C2 コンデンサ
L1、L2 インダクタンスコイル
T1 入力端子
T2 出力端子
η1 第1メタライズ比
η2 第2メタライズ比
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11