特許第5938537号(P5938537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5938537-プロドラッグ 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5938537
(24)【登録日】2016年5月20日
(45)【発行日】2016年6月22日
(54)【発明の名称】プロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/75 20060101AFI20160609BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20160609BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160609BHJP
【FI】
   C07D213/75CSP
   A61K31/44
   A61P11/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-510876(P2016-510876)
(86)(22)【出願日】2015年10月21日
(86)【国際出願番号】JP2015079689
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-217205(P2014-217205)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】園部 睦
(72)【発明者】
【氏名】安河内 崇
(72)【発明者】
【氏名】高田 恭憲
(72)【発明者】
【氏名】新 健治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基浩
(72)【発明者】
【氏名】横田 真一
【審査官】 安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/013715(WO,A2)
【文献】 特表2005-529930(JP,A)
【文献】 特開2011-219364(JP,A)
【文献】 特開平11-139968(JP,A)
【文献】 FIER, P. S. et al,Synthesis and Late-Stage Functionalization of Complex Molecules through C-H Fluorination and Nucleop,J. Am. Chem. Soc.,2014年 6月11日,vol.136,No.28,p.10139-10147
【文献】 SLOAN, K. B. et al,Acyloxyamines as Prodrugs of Anti-inflammatory Carboxylic Acids for Improved Delivery Through Skin,Journal of Pharmaceutical Sciences,1984年,Vol.73, No.12,pp.1734-1737
【文献】 MUKAI, E. et al,Enhanced delivery of mitomycin C prodrugs through the skin,International Journal of Pharmaceutics,1985年,Vol.25,pp.95-103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、Rは、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基である]で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
Rが、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基又はシアノ基である、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
Rが、ヒドロキシメチル基、メトキシ基又はシアノ基である、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
Rが、ヒドロキシメチル基又はシアノ基である、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物。
【化2】
[式中、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基である]
【請求項6】
PDE4阻害剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
PDE4を阻害することが有効な疾患又は症状の治療剤である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記疾患又は症状が慢性閉塞性肺疾患である、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロドラッグに関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤は、炎症性疾患を治療するために有効であることが知られている。特に、PDE4阻害剤は、喘息又は気道閉塞(例えば、COPD=慢性閉塞性肺疾患)等の気道の炎症性疾患の治療に有効である(特許文献1)。なかでも、PDE4阻害剤であるN−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド(ロフルミラスト:roflumilastとも呼ばれる)は、経口剤(商品名:ダクサス、Daxas(登録商標))として欧米で市販されており(特許文献2)、近年では水性医薬製剤や経皮吸収製剤への適用も検討されている(特許文献3〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5712298号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0131123号明細書
【特許文献3】特表2008−513416号公報
【特許文献4】特表2005−529930号公報
【特許文献5】特開2011−219364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロフルミラストは、水に非常に溶けにくい化合物であるため、製剤中にロフルミラストを高濃度に含有させるためには、特別な工夫が必要である。また、ロフルミラストは皮膚透過性も低い化合物であるため、経皮吸収製剤とすることが非常に困難な化合物である。
【0005】
そこで、本発明は、水溶性及び皮膚透過性に優れ、体内で速やかに代謝されてロフルミラストを生じる化合物又はその塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ロフルミラストのベンズアミドを構成する窒素原子に、置換基を導入すると、化合物の物性が著しく変化し、水溶性及び皮膚透過性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(15)を提供する。
(1)式(I)
【化1】
[式中、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基である]で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
(2)Rが、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基又はシアノ基である、(1)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(3)Rが、水素原子、ヒドロキシメチル基、メトキシ基又はシアノ基である、(1)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(4)Rが、水素原子、ヒドロキシメチル基又はシアノ基である、(1)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物。
(6)PDE4阻害剤である、(5)に記載の医薬組成物。
(7)PDE4を阻害することが有効な疾患又は症状の治療剤である、(5)に記載の医薬組成物。
(8)上記疾患又は症状が慢性閉塞性肺疾患である、(7)に記載の医薬組成物。
(9)(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、PDE4を阻害することが有効な疾患又は症状の治療方法。
(10)上記疾患又は症状が慢性閉塞性肺疾患である、(9)に記載の治療方法。
(11)PDE4を阻害することが有効な疾患又は症状の治療のための医薬組成物を製造するための、(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
(12)上記疾患又は症状が慢性閉塞性肺疾患である、(11)に記載の使用。
(13)医薬組成物の有効成分として使用するための、(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(14)上記医薬組成物がPDE4阻害剤である、(13)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(15)上記医薬組成物がPDE4を阻害することが有効な疾患又は症状を治療するための医薬組成物である、(13)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
(16)上記疾患又は症状が慢性閉塞性肺疾患である、(15)に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩によれば、水溶性及び皮膚透過性に優れ、体内で速やかに代謝されてロフルミラストを生じることができる。したがって、本発明に係る化合物又はその薬学的に許容される塩は、水性製剤等の幅広い種類の製剤に有効成分として使用することができ、体内に吸収された後に速やかにロフルミラストを生じるため、ロフルミラストの血中濃度を管理しやすいという利点がある。すなわち、本発明に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩は、ロフルミラストのプロドラッグとして有用である。
【0009】
さらに、本発明に係る式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩は、ロフルミラストから短工程かつ高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1〜3および5、ならびに比較例1の皮膚透過性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態について、説明する。
【0012】
本実施形態は、式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)ともいう。)又はその薬学的に許容される塩である。
【化2】
式中、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基である。
【0013】
1−6アルキル基は、炭素数が1〜6であるアルキル基を意味し、C1−6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基が挙げられる。
【0014】
また、C1−6アルキル基は、任意で水酸基で置換されていてもよい。水酸基で置換されたC1−6アルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2,3−ジヒドロキシプロパン−1−イル基などが挙げられる。
【0015】
1−6アルコキシ基は、炭素数が1〜6であるアルコキシ基を意味し、C1−6アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、3−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−ヘキシルオキシ基、3−ヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0016】
薬学的に許容される塩としては、無機酸又は有機酸の塩であって、医薬品分野において使用可能な酸であれば、特に制限はない。無機酸としては、例えは、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。また、有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、安息香酸、パモ酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等のスルホン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、炭酸、重炭酸などが挙げられる。
【0017】
化合物(I)において、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基であり、好ましくは水素原子、水酸基で置換されたC1−3アルキル基、C1−3アルコキシ基又はシアノ基であり、より好ましくは、水素原子、ヒドロキシメチル基、2,3−ジヒドロキシプロパン−1−イル基、3−ヒドロキシプロパン−1−イル基、メトキシ基又はシアノ基であり、特に好ましくは、水素原子、ヒドロキシメチル基、メトキシ基又はシアノ基である。
【0018】
特に好ましい化合物(I)としては、
N−シアノメチル−N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド、
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(2−ヒドロキシエチル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド、
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−メチル−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド、
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(2,3−ジヒドロキシプロパン−1−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド、
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(3−ヒドロキシプロパン−1−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド、および
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−メトキシメチル−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
が挙げられる。
【0019】
次に、本発明の化合物(I)の製造方法について説明する。
【0020】
化合物(I)は、ロフルミラストに対して、塩基の存在下、化合物(II)を反応させることで製造することができる。
【化3】
【0021】
上記反応に使用する塩基としては、ベンズアミドの窒素原子上のプロトンを、脱プロトン化できれば、特に制限はない。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、カリウムtert−ブトキシド等の金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物;ナトリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムヘキサメチルジシラジド等の金属アミド;ブチルリチウム、イソプロピルマグネシウムブロミド等のアルキル金属化合物が挙げられる。好ましい塩基としては、水素化ナトリウムである。
【0022】
化合物(II)において、Rは化合物(I)で定義したものと同義であり、Xは脱離基である。Xとしては、脱離基として作用するものであれば、特に制限はなく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メタンスルホニルオキシ基等のアルキルスルホニルオキシ基;トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等のフルオロアルキルスルホニルオキシ基;トルエンスルホニルオキシ基等のアリールスルホニルオキシ基が挙げられる。
【0023】
また、化合物(I)において、Rが水酸基で置換されたC1−6アルキル基である場合には、化合物(II)として、Rが水酸基に変換しうる基で置換されたC1−6アルキル基である化合物を用いて反応を行ってもよい。水酸基に変換しうる基としては、例えば、水酸基が保護された誘導体又はエステルが挙げられる。この場合、上記反応の後に、当業者に周知な方法により、適宜、脱保護又は還元を行うことで水酸基に変換することができる。
【0024】
また、上記反応は、溶媒中で行ってもよく、無溶媒で行ってもよい。
【0025】
上記反応に使用する溶媒は、反応に影響を与えないものであれば、特に制限はない。溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン含有炭化水素系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。
【0026】
上記反応は、反応混合物に水を添加することによって停止することができる。添加する水の代わりに、塩化アンモニウム水溶液等を使用してもよい。
【0027】
上記反応で得られた化合物(I)は、当業者に周知な方法により精製することができる。精製方法としては、例えば、カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、晶析等が挙げられる。
【0028】
本発明の他の実施形態は、化合物(I)を含有する医薬組成物である。
【0029】
医薬組成物は、化合物(I)の他に、目的とする剤形に合わせて、医薬品として添加可能な添加剤を含有させることができる。添加剤としては、賦形剤、等張化剤、安定化剤、溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、充填剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、香料が挙げられる。
【0030】
本実施形態の化合物又はその薬学的に許容される塩は、優れた水溶性を有するため、該化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の経口剤、注射剤(静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内に投与するものであってよい)として製剤化した場合に、ロフルミラストを含有する製剤よりも製剤化が容易であり、薬理作用の信頼性も高い。また、本実施形態の化合物又はその薬学的に許容される塩は、優れた皮膚透過性を有するため、該化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物は、貼付剤、パップ剤、テープ剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、クリーム剤、エアゾール剤等の経皮吸収製剤として製剤化した場合に、ロフルミラストを含有する製剤よりも製剤化が容易であり、薬理作用の信頼性も高い。さらに、本実施形態の化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物は、吸入剤、点鼻剤、点眼剤、坐剤などとしてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例、製造例及び試験例により詳細に説明する。なお、実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である。
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMI:N,N−ジメチルイミダゾリジノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
n:ノルマル
ODS:オクタデシルシリカゲル
TBS:tert−ブチルジメチルシリル
tert:ターシャリー
THF:テトラヒドロフラン
プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)の化学シフトは、テトラメチルシラン(内部標準)に対するδ単位(ppm)で記載され、カップリング定数はヘルツ(Hz)で記載されている。分裂パターンは、s:シングレット、d:ダブレット、t:トリプレット、q:カルテット、m:マルチプレット、br:ブロードを意味する。
【0032】
実施例1
N−シアノメチル−N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化4】
窒素気流下、ロフルミラスト0.5g(1.24mmol)の乾燥DMF溶液(5mL)に、水素化ナトリウム56.4mg(60%油中分散,1.41mmol)を加え、室温で約15分間撹拌した。反応混合物にクロロアセトニトリル0.172mL(2.73mmol)及びヨウ化ナトリウム0.4g(0.269mmol)を加え、室温で2時間揖持した。反応終了後、混合物に水5mLを加え、クロロホルム5mLで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n−ヘキサン)で精製し、得られた粗生成物をさらにゲルろ過クロマトグラフィーで精製し、標題化合物213mg(0.481mmol、収率48%)を淡黄色油状物として得た。
融点:196℃
H−NMR(500MHz,CDCl) δ 0.35(m,2H)、0.65(m,2H)、1.21(m,1H)、3.78(d,2H)、4.65(s,2H)、6.61(t,1H)、6.87(dd,1H)、6.96(d,1H)、7.15(d,1H)、8.57(s,2H).
【0033】
製造例1
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−メトキシカルボニルメチル−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化5】
窒素気流下、ロフルミラスト0.5g(1.24mmol)の乾燥DMF溶液(5mL)に水素化ナトリウム56.5mg(60%油中分散,1.41mmol)を加え、室温で約15分間撹拌した後、ブロモ酢酸メチル0.25mL(2.73mmol)を加え、さらに室温で2.5時間撹拌した後、60℃で4.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで放冷し、水3mLを加え、クロロホルム9mLで3回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去して、標題化合物649mg(1.37mmol)を橙色油状物として得た。
【0034】
実施例2
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(2−ヒドロキシエチル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化6】
製造例1で得られた化合物0.257g(0.541mmol)、水素化ホウ素ナトリウム0.111g(2.93mmol)を、窒素気流下、メタノール5mL、THF1.5mLに溶解し、室温で24時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧で留去し、残渣に水5mLを加え、クロロホルム5mLで3回抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、得られた粗生成物をさらにゲルろ過クロマトグラフィーで精製し、標題化合物50.3mg(0.481mmol,収率21%)を油状物として得た。
融点:97℃
H−NMR(400MHz,CDCl) δ 0.32(m,2H)、0.64(m,2H)、1.20(m,1H)、2.91(brs,1H)、3.76(d,2H)、3.95(dd,2H)、4.01(d,2H)、6.59(t,1H)、6.89(dd,1H)、6.93(dd,1H)、7.08(d,1H)、8.49(s,2H).
【0035】
実施例3
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−メチル−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化7】
窒素気流下、ロフルミラスト0.25g(0.60mmol)の乾燥DMF溶液(5ml)に、0℃で水素化ナトリウム72mg(60%油中分散,3.0mmol)とヨウ化メチル0.19mL(3.0mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物に水3mLを加え、酢酸エチルで3回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をODS力ラム(アセトニトリル/水/THF)で精製し、さらに脱塩処理(NHカートリッジ、ジクロロメタン/メタノール)して溶媒を留去して、標題化合物0.16g(0.38mmol)を茶褐色の油状物として得た。
融点:68℃
H−NMR(400MHz,CDCl) δ 0.32(m,2H)、0.63(m,2H)、1.20(m,1H)、3.31(s,3H)、3.76(d,2H)、6.57(t,1H)、6.90(dd,1H)、6.94(d,1H)、7.08(d,1H)、8.48(s,2H).
【0036】
製造例2−1
2,2−ジメチル−4−ヨードメチル−1,3−ジオキソラン
【化8】
2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール0.935mL(7.57mmol)、トリフェニルホスフィン2.39g(9.11mmol)、イミダゾール1.54g(22.7mmol)、ヨウ素2.30g(18.1mmol)を乾燥トルエン20mLに溶解させ、90℃にて2時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止した。得られた反応混合物をジクロロメタンにて抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を減圧下留去して白色固体5.54gを得た。得られた固体をジエチルエーテル、ヘキサンにて順次、分散洗浄した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、標題化合物1.04g(4.28mmol)を無色油状物として得た。
【0037】
製造例2−2
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化9】
窒素気流下、ロフルミラスト0.32g(0.8mmol)、製造例2−1で得られた化合物0.29g(1.21mmol)、水酸化カリウム92mg(1.64mmol)の乾燥DMSO溶液(5mL)を100℃で1日間撹拌した。放冷後、反応混合物にクロロホルムを加え、さらに撹拌し、析出した固体をろ去した。ろ液を減圧下留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n−ヘキサン)で精製し、標題化合物56.5mg(0.11mmol,収率14%)を油状物として得た。
【0038】
実施例4
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(2,3−ジヒドロキシプロパン−1−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化10】
製造例2−2で得られた化合物47mg(0.092mmol)のTHF溶液(1.0mL)に1M塩酸2mLを加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、pH7〜8とした後、クロロホルムで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、標題化合物28.2mg(0.059mmol,収率64%)を得た。
H−NMR(500MHz,CDCl) δ 0.33(m,2H)、0.64(m,2H)、1.20(m,1H)、1.26(m,2H)、2.55(brs,1H)、3.47(brs,1H)、3.75(d,2H)、3.95(m,3H)、6.59(t,1H)、6.89(dd,1H)、6.95(d,1H)、7.06(d,1H)、8.50(s,2H).
【0039】
製造例3−1
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(3−tert−ブチルジメチルシリルオキシプロパン−1−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化11】
窒素気流下、ロフルミラスト0.5g(1.2mmol)のDMI溶液(5mL)に、室温にて水素化ナトリウム139mg(60%油中分散,3.5mmol)と3−tert−ブチルジメチルシリルオキシプロピルブロミド0.25mL(2.9mmol)を加え、70℃に加熱し、12時間撹拌した。反応混合物に水3mLを加え、酢酸エチルで3回抽出した。得られた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。残渣をシリカゲル力ラムクロマトグラフィー(ヘプタン/酢酸エチル)で精製して、標題化合物212mg(0.368mmol,収率31%)を白色固体として得た。
【0040】
実施例5
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−(3−ヒドロキシプロパン−1−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化12】
製造例3−1で得られた化合物180mg(0.31mmol)を、メタノールと濃塩酸(体積比97:3)の混合液3mLに溶解させ、室温で1時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン/酢酸エチル)を用いて精製した。得られた残渣を酢酸エチルに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、標題化合物86mg(0.186mmol,収率60%)を白色固体として得た。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ 0.32(m,2H)、0.63(m,2H)、1.20(m,1H)、1.84(m,2H)、3.75(d,2H)、3.78(t,2H)、3.98(t,2H)、6.58(t,1H)、6.88(dd,1H)、6.94(d,1H)、7.05(d,1H)、8.49(s,2H).
【0041】
実施例6
N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−N−メトキシメチル−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化13】
窒素気流下、ロフルミラスト505mg(1.25mmol)の乾燥DMF溶液(5mL)に、水素化ナトリウム69mg(60%油中分散,1.73mmol)を加えた後、ブロモメチルメチルエーテル0.3mL(3.67mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応混合物に水5mLを加え、クロロホルムで3回抽出し、有機層を得た。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧下留去して、油状の粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、得られた淡黄色固体をジクロロメタン/n−ヘキサンから再結晶して、標題化合物188mg(0.42mmol,収率34%)を白色固体として得た。
H−NMR(500MHz,CDCl) δ 0.32(m,2H)、0.64(m,2H)、1.20(m,1H)、3.60(s,3H)、3.75(d,2H)、5.26(s,2H)、6.57(t,1H)、6.92(dd,1H)、6.95(d,1H)、7.10(d,1H)、8.50(s,2H).
【0042】
参考例1
N−カルバモイルメチル−N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化14】
窒素気流下、ロフルミラスト0.5g(1.24mmol)の乾燥DMF溶液(5mL)に水素化ナトリウム55.3mg(60%油中分散,1.38mmol)を加え、室温で約15分間撹拌した。反応混合物にクロロアセトアミド0.25g(1.63mmol)及びヨウ化ナトリウム0.41g(2.74mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物に水5mLを加え、クロロホルム5mLで3回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/ジクロロメタン)で精製し、さらにゲルろ過クロマトグラフィーで精製して、標題化合物94mg(0.204mmol,収率16%)を淡黄色固体として得た。
融点:90.99℃
H−NMR(500MHz,DMSO−d) δ 0.38(m,2H)、0.56(m,2H)、1.23(m,1H)、3.91(d,2H)、4.75(s,2H)、7.15(t,1H)、7.19(d,1H)、7.48(s,1H)、7.49(dd,1H)、7.59(d,1H)、7.78(s,1H)、8.28(s,2H).
【0043】
参考例2
N−カルボキシメチル−N−(3,5−ジクロロピリド−4−イル)−3−シクロプロピルメトキシ−4−ジフルオロメトキシベンズアミド
【化15】
製造例1で得られた化合物0.65g(1.37mmol)をメタノール14mLに溶解させ、室温にて1N水酸化ナトリウム水溶液14mLを加え、5分間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、水層のpHが1になるまで1N塩酸を加え、クロロホルム10mLで3回抽出した。得られた有機層を合わせて、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去し、淡黄色の残渣を得た。得られた残渣に1N水酸化ナトリウム5mLを加え、クロロホルム5mLで2回洗浄した後、水層のpHが1になるまで1N塩酸を加え、クロロホルム5mLで3回抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)で精製し、標題化合物0.342mg(0.740mmol,収率54%)を淡黄色アモルファスとして得た。
融点:182℃
H−NMR(500MHz,CDCl) δ 0.32(m,2H)、0.64(m,2H)、1.20(m,1H)、3.76(d,2H)、4.45(s,2H)、6.61(t,1H)、6.92(dd,1H)、6.96(d,1H)、7.15(d,1H)、8.50(s,2H).
【0044】
試験例1:In vitro代謝試験
補酵素(NADPH生成系)を含む100mmol/L Tris−HCl緩衝液に、ヒト肝臓酵素画分を0.5mg蛋白/mLの濃度になるように加え、37℃で5分間プレインキュベーションした。この溶液に各化合物を0.1μmol/Lの濃度になるように加え、37℃で1時間インキュベーションした後、水冷したアセトニトリルを添加して反応を停止した。得られた溶液をろ過した後、LC−MS/MSで定量を行いロフルミラストへの代謝率(%)を算出した。なお、表1中、「加熱処理あり」とは、ヒト肝臓酵素画分を添加する前に、予め加熱処理することにより、代謝酵素を不活化させたことを意味する。
【0045】
結果を表1に示す。表1中の数値は、ロフルミラストへの代謝率(%)を意味する。実施例1〜6の化合物は、ヒト肝臓由来の酵素により代謝されて、ロフルミラストを生成した。また、ヒト肝臓酵素画分を使用前に加熱処理することにより、代謝酵素を失活させた場合には、ロフルミラストは生成しなかった。一方、参考例1及び2の化合物は、ヒト肝臓酵素画分で処理してもロフルミラストを生成しなかった。
【表1】
【0046】
試験例2:水溶性評価試験
リン酸緩衝液(pH7)10mLに各化合物を過剰量加え、30分間超音波処理を行なった。得られた懸濁液をろ過し、ろ液0.5mLにアセトニトリル0.5mLを加え、試験溶液とし、試験溶液中の各化合物の濃度を高速液体クロマトグラフ法により測定して、飽和溶解度として算出した。なお、比較例1としてロフルミラストを用いた。
【0047】
結果を表2に示す。実施例1〜3及び参考例1,2の化合物は、ロフルミラストと比較して、4倍以上の高い水溶性を有することが明らかとなった。
【表2】
【0048】
試験例3:皮膚透過性評価試験
ヘアレスマウスの背部皮膚を摘出し、当該皮膚片の表皮側(適用面積:1cm)が被験化合物(実施例、比較例または参考例の化合物)の溶液に接するように、フランツ型拡散セル(ガラスセル)にセットした。また、フロー液としてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を用い、流量を5mL/時間とし、恒温槽温度は32℃と設定した。次に、各被験化合物の濃度が1w/w%となるように、ジメチルスルホキシドを加えた後、よく撹拌して被験化合物の溶液を調製した。得られた被験化合物の溶液100μLを、上記フランツ型拡散セルのドナーチャンバーに導入した。被験化合物の溶液を導入してから、2時間毎に24時間後までフロー液をサンプリングした。2時間毎にサンプリングされたフロー液にアセトニトリルを加えて2倍に希釈し、遠心分離後、その上清をHPLC分析用試料として得た。得られた分析用試料をそれぞれ、高速液体クロマトグラフ法により分析し、Jmax(最大皮膚透過速度)及び24時間の累積透過量を算出した。なお、比較例1としてロフルミラストを用いた。
【0049】
結果を表3に示す。比較例1の化合物(ロフルミラスト)は24時間後であっても、皮膚透過を示さなかったのに対し、実施例および参考例の化合物は十分な皮膚透過性を示した。また、被験化合物の累積透過量(μg/cm)の経時変化を図1に示す。実施例1〜3、5および6の化合物は、比較例1の化合物(ロフルミラスト)に比べて高い皮膚透過性を示した。
【表3】
【要約】
本発明は、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【化1】
[式中、Rは、水素原子、水酸基で置換されていてもよいC1−6アルキル基、C1−6アルコキシ基又はシアノ基である。]
図1